近未来忍者的な世界で生き残るためには? 作:スラム街のオーク
「調子はどうですか、シラヌイさん」
「あら、こんにちわ。 月夜先生」
最近の話だがシラヌイこと、水城不知火さんを矢崎なんとかの別荘で保護できた。
洗脳と調教の影響が残っているらしく、未だに矢なんとかの事を聞いてくる。 面と向かって死んだと伝えたらこの前セーフハウスの果物包丁で首切って自害しようとしたから、鋼鉄の蔦で締め上げて錬金した鎮静剤を蔦から首の血管に注入せざるを得なくなった出来事が記憶に新しい。
彼女は矢なんとかに依存している、しすぎている。 どうにかこの精神状態をもとに矯正しないとなぁ……はぁ。 外道じみてるやり方になるだろうけど仕方ない。
後日、私はある決断をした。 マインドブレイクによる記憶簒奪をシラヌイさんに施すことにしたのだ。 こうでもしないと立ち直れないと思うしね。 とりあえず処置は成功で、記憶の抜けに関しても違和感ないように努めた。
空白の5年間であるが、この
そのためにも、現役対魔忍たちに頑張ってもらうしかないかなーとも言えるかな?
シラヌイさんが強力な対魔忍だった頃から娼婦として過ごした間のブランクがあるし、もしも前線復帰するならばリハビリも必要だ。
ま、治療そのものは終わっているしセーフハウスから私の別荘にでも移住してもらおうと思う。 あそこならどんな魔術師でも魔族でも、人間でも到達できない結界を張ってある。
今の、この日本に安全な場所はないからなぁ……療養ぐらい安全な場所で子育てに励んでもらいましょうかねぇ。
☆
最近、米連の兵士の生き残りを自分の手駒にしようとナナシの少女を拾った。 非正規部隊による作戦故か名前がない孤児出身の兵士が多いのだ。 男の兵士は聞き分けが悪いので賢者の石の材料に有効利用させてもらっている。
「じゃあ確認するけど、キミは私に降ってくれるかな? 別の兵士たちは言うこと聞いてくれないと思ったから……まぁ、末路はキミの精神衛生の都合も考えて話したくはないけど」
「……殺せ」
「まーまー、そう言わずにさ」
「仲間を殺した貴様を信用などできるものか! いっそのことここで殺せ! さもなくば自分で死んでやる!」
縛られて体の自由を奪われた少女は自分の舌を噛もうとしたので、私は布を錬金して彼女の口に巻きつける。
「ムグゥ!? ングググッ!」
「死のうとしないの。 とりあえず、キミを部下にしたいから死ぬな。 それとも、記憶を消してキミを肉人形にしたほうがいい?」
「……ッ!?」
「私が言えた口じゃないのは理解してるけど、命を粗末にするべきじゃないよ。 私は至極個人的都合で、拾った命であるキミを有効に使いたいからね。 だから死なれると困るのさ」
キッと私を睨みつけてくる彼女に嘆息して、口を縛っていた布を解いた。
「おお、怖い怖い。 まぁ、死にたいなら好きにすればいい。 死んだとしても米連の懐にもなんのダメージもないだろうけどね」
「……しかし、貴様に対しては嫌がらせにはなるだろう?」
「舌を噛んでもすぐに死なないし、非効率的だよ? 捨て駒にされたことわかってるの?」
「そ、それは……今は関係ない!」
「祖国に忠誠を誓うのは美徳だ。 けど、同時に滑稽だよ? キミになんの見返りもない美徳なんて。 私は見返りを求められたらキミに返せる」
「そんな甘言など……」
「そうだねぇ、私がキミを信頼する理由を話そうか?」
私は縛り上げていた彼女を解放して無防備な体、隙だらけになる。 まぁ、返り討ちは容易いんだけどね?
「まずキミは仲間を見殺しにしてたまるかと私の悪辣なトラップに抗い続けた。 最後の1人になっても諦めなかったとも言えるかな? そして、次に慎重に物事を考えれる頭。 私の言葉を今も吟味して、どうするか必死に考えてるでしょ? 「んなっ!? ……そんなことはな」 最後に。 私には友達がいない。 「……は?」 ん? おかしなことを言ったかな、私は?」
「いや、その……」
哀れみの視線を私は受け流す。
私に同年代の友達はいない。 親友は私が死んだと思ってるだろうし。
ちなみにユキカゼと凛子は年は近いが、仕事仲間でしかないと言う悲しい現実がある。 まぁ、手駒が欲しいのも確かだけど、信頼できる腹心なら、警戒心の強い者が必要だ。
このナナシの少女を部下にしたい理由はそこである。 兵士としての練度も高い人みたいだしね。
武力はもっと磨けばいい。 対魔忍には無い考えて動くこともできるであろう彼女を部下にできればしばらくは安泰だと思う。
「まぁ、このままキミを放り出しても野垂れ死なれるのも目覚めが悪い。 ちょっとイジワルで、悪辣な言い方は悪かったね。私はキミに生きてもらいたいんだ……もちろん、働き手が欲しいのも事実なんだけど」
「……」
「おろ? もしかして揺れてる?」
「そんなわけないだろうが……だがまぁ、祖国に私は棄てられたのだろうな……救援部隊も来ないと見てもいいか……」
「ウンウン、そうだろうねぇ。 私ならキミの抱える問題を全て解決できる。 働き場所も与えてあげられるし、欲しいものだってなんでもあげちゃう。 キミが欲しいのは、お金かな? 地位かな? それとも名誉名声かな?」
「……貴様を信用したわけではない。 が、私には頼れる者も、仲間もいない。 私に死んでほしくないと言ったな? 仮初めでも間違い無いのか?」
「もちろんさ。 私は味方には甘いと言われているからね」
こうして長かった説得を経て、仲間を1人増やせた。 祖国に裏切られた哀れな彼女の名前はナナシ。
いや、今日からレベッカと呼ぶことにした。 豊かな金髪に私とは別方向の綺麗な顔立ちと青い瞳。
サラリとスリムなアスリート顔負けのしなやかな長身痩躯。 私と彼女は固い握手を交わし、契約が成立した。
彼女には私の参謀として従ってもらうことにした。 私の職権乱用だが、私の補佐官として彼女を登録する事ができた。 さて、仲間を増やせた。 私の
☆
あぁもう、なんだってこんなことになるのだろうか?
東京キングダムのいざこざに、ドンパーティーに巻き込まれて、あっちこっちで花火が地上で爆発する状態な街中を光学迷彩白衣を失った私は現在東京キングダム島内を逃げ回っていた。
いやまぁ、用事というか、ノマド幹部暗殺の依頼で仕方なく東京キングダムに来たらこれだよ。 もはや祟られてんじゃね? 私って。
白衣は不意打ちの爆発を躱すために犠牲になった。 認識阻害の魔術併用で遮蔽物に身を隠しながら、スクロールから取り出した拳銃を手にして辺りを警戒する。
フックショットを使うと目立つ的になりかねないので、地上を歩いて東京キングダムからの脱出経路を探している。
ノマドの本拠地だけに、米連の兵士と魔族のドンパチの流れ弾がどこから飛んでくるかわからないから気を抜けないわけで……なんでこうなるのかなぁ。
ちなみに依頼主が今回の騒ぎで物理的に死んでしまったためにタダ働きである……それどころか骨折り損だな、とほほ。 なお、レベッカに救援要請は出していない。
いざとなれば、強化装甲《新月》(AC擬きのことだ)を召喚できるしね。 しかし、派手に戦っているなぁ……何が起こってんだろうか。
「おい、しゃがめ!」
「ファッ!?」
鋭い男の声に従い、咄嗟にしゃがみこむと。 斬撃波が頭上を通り過ぎて言った。 ビルに傷が刻まれて……倒壊した。 基礎を切り裂かれて、倒壊したようだ。
「あ、ありがとうってぇぇぇ!? ふうまの頭領さん!?」
「ん、貴様は……いや、そんなことを言っている場合ではない。 おい、生きたければ力を貸せ」
「いや、いきなりすぎてなんの事かわからないんだけど!?」
「あの女には、貴様も俺の関係者だと思われているようだからな」
「あの女……?」
私の疑問は置いといて……ってこら!?
「か、勝手に、さ、触るな!?」
「ええい、じっとしていろ! (思ったより柔らかい尻だ……じゃない」
ふうまの頭領は私を米俵を担ぐようにして抱き上げて、その場を離れる。 すると、さっきまでいた場所に漆黒の球状エネルギー体が落ちてきて、盛大に地を削って爆ぜた。
「仕留損なったか……」
「え、その声って……アサギさん……!?」
目の前には少し若返ったような見た目の、最強の対魔忍筆頭、アサギさんがいた。 しかし、あの機械的な四肢は……義肢?
「む、私を知っているのか?」
「いや、うちの頭領の忍術じゃない……ってことは、クローンアサギか……!」
「ほぅ、よくわかったな。 貴様の言う通り、あれは龍門がかつて作り出した最強の対魔忍の劣化品、その生き残りだ」
「違う! 私こそが真のアサギだ!」
アサギクローンの襲来……決戦アリーナのイベントにあったなそう言えば! 重力を操る機関を持つクローンアサギ……イベントの報酬で破格の性能を持っていたのが印象に深い米連のEXレア。
私はライトユーザーだったから手に入れてはいなかったけど、フレンドを借りてみたらえげつない強さだったのを覚えている。
改めてその能力を間近で見ると、戦慄モノだった。 火力と範囲が尋常じゃないぞ、コレは……
「わかりました、わかりました。 今この瞬間に危険度優先をあの女にします。 生き残るためです、共闘の申し出、受けさせてもらいますとも」
私は逃げ切れないことを悟る。 スクロールからアサルトライフルを取り出して、さらに魔合金を鍛えて作り出した忍刀を呼び出して丸腰のふうま頭領に投げ渡す。
「折ったら弁償してもらいますよ! それはアサギさんに渡すはずだった忍刀なんですから!」
「なぜ俺に渡す?」
「そんなボロボロの忍刀でどうにかなる相手じゃないでしょーが! それは魔術や科学によるエネルギー攻撃を斬り裂ける忍刀なんですよ! 希少なミスリル銀を含ませているからネ!」
私はこの場を切り抜けるために持てる手札はすべて切るつもりでいた。 クローンアサギの攻撃方法は重力弾と、対魔ブレードによる斬撃、体術か……?
KENPOU、拳銃術、銃撃、魔法。 鬼札の新月は使いたくないけどね……
「遅れないでくださいよ、ふうまの頭領さん!」
「ハッ、貴様こそ足を引っ張るなよ!」
私は射かけるようにライフルで牽制しながら
加えて錬金術を起動。コンクリートを鋼鉄に変換して鉄の槍を魔力で宙に浮かべて射出。
その度にクローンアサギが重力波で軌道を捻じ曲げてはたき落とすが、その場から動かない事が仇になるとわからないのだろうか?
「ハァッ!」
「ムンッ」
クローンアサギが義肢より展開した対魔ブレードとふうまの頭領が忍刀で激しく斬り合う。
20合ほど斬り合ってふうまの頭領がその場から飛び退いた。 そうですか、私のやりたいことを把握してくれたのですか!
「《荊姫》ッ!」
私の言葉がトリガーとなり、クローンアサギの周りにあった鉄の槍が変形して鋼鉄の蔦に変化して360°から襲いかかった。
四肢を搦め捕ろうと、蔦はクローンを追うが、逃げられる。 というのも、追従性能はそこまで高くない。 だがしかし!
「からの、《鉄檻絞殺法》ッ!」
広い範囲に鉄の槍をばら撒いたのであちこちに鉄の蔦が伸びていた。 それを一気に、大規模錬成で加工。 クローンアサギはこの一手で詰みに持ち込まれた。
それは逃げ回りながら解析を行って、私が構築した《ニュートン力場反転術式》による重力キャンセラーだ。 その重力を操る機能は死んで、さらに対魔ブレードの機能も私に壊された。
そして、作り出された鉄の檻に囚われた訳だ。
「ぐ、こんな事が……!」
「あってなるものか、ですか? まぁいいや。 共闘感謝します。 この方の身柄はあなたに一任しましょうか」
「言われなくともそうさせてもらう。 あと、この忍刀、買わしてもらおう、支払いは後日だ。 なに、約束は守る」
「貴様、下ろせ! 後悔させてやろうか!?」
「その自信、たっぷりと嬲ってへし折ってくれる」
言いながらふうまの頭領は私に名刺を差し出して、能力を奪ったクローンアサギを担いで東京キングダムの路地裏に消えていった。
……疲れた、早く帰って寝たい。
結局この日は、日が昇るまで米連と魔族のドンパチに巻き込まれて、逃げ惑う羽目になった。 飛んだ厄日である。
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