別に現実に起こるわけではないのに、なぜか起きてしまうのではないかと考えてしまう。
起きる根拠はないけれど、起きない根拠は存在しない。
これが非常に厄介だ。
旅館に到着後のこと。
旅館の女将さんに挨拶を終え、その後女子たちは自分たちが寝泊まりする部屋に向かったのだが...
「なぁ、琲世」
「ん?」
「俺たちの部屋はどこかわかるか?」
「いや、全く。織斑先生の元に来いとしか聞いていないよ」
「千冬姉の元か?」
僕と一夏くんだけはどこの部屋で寝るのか知らされておらず、何をしていいのかわからない状態だった
「まさか俺たちは部屋じゃなくて廊下で寝ろとか言わないだろうな?」
「廊下って...この旅館は結構広いから、そんなことないと思うんだけど...」
僕たちが泊まるこの旅館は団体客に対応した旅館であり、僕たちがこの旅館に泊まっている間は他のお客さんを入れないらしい(この情報は刀奈さんから頂いた)。
とりあえず山田先生から「織斑先生の元へ」と聞いておらず、僕たちは先生が指定した場所に向かった。
指定した場所は本館と別館の連絡路で、僕たちがその向かうと「来たな、お前ら」と千冬さんの姿があった。
「えっと...織斑先生。俺たちの部屋はーーー」
「今からお前らの部屋に向かうから、黙ってついてこい」
千冬さんの言葉に「は、はい...」と言及することなく黙ってしまった、一夏くん。
これ以上変に聞いてしまえば、何が起きるかは想像がついてしまうと察したと思う(例えば腹部に拳が来たり...)。
それから僕と一夏くんは千冬さんに付いていくと、本館と別館の連絡路の間に『教員用』と書かれた張り紙が貼ってある看板が立っていた。
看板に気づいた僕は「あれ?織斑先生。この看板に教員用と書いていますけど?」と千冬さんに聞くと。
「ああ、お前らはこれに従うな。この先にはお前らが泊まる部屋がある」
「この先にですか...?」
「ちょうど本館から独立した部屋がある。廊下は一つしかない場所だ」
「通路が一つって...もしかして、僕たちを監禁ーーー」
「きっとお前らの元に女子どもがやってくるだろうから、離れた場所に用意したのだ。なのに、監禁と言う表現を使うとは、良い度胸だな、佐々木琲世。織斑と同じことをされたいか?」
「...はい。すみませんでした」
少し冗談を言ったつもりが空気は和むことなく、張り詰めた空気になってしまった。
やはり千冬さんに冗談を言ってはいけない。
そして僕だけ刃が向けられているのに隣の一夏くんは僕と同じく刃を向けられたかのように緊張した様子をしていた(やはり昔から千冬さんと一緒にいたから、体が無意識に覚えているかも)。
「女子どもが来ないよう私はお前らがいる部屋の隣にいるからな」
僕たちが泊まるであろう部屋のちょうど横の部屋に指をさした、千冬さん。
つまり変に騒ぐようなことがあれば、即座に千冬さんからの制裁が来るということだ。
そして千冬さんは「ほら、お前らが泊まる部屋だぞ」と僕たちが泊まるであろう部屋の襖を開けた。
一体どんな部屋に入るのだろうかと不安と緊張が混じった感情で襖を覗くと、部屋の中を見た瞬間、感情が一変した。
「なんだよこの部屋は!?」
僕たちが利用するのは人権を剥奪された者が入るような部屋ではなく、男子高校生が利用するのに十分贅沢な部屋だった。
どう言った部屋かというと、絶好の景色のために作られた部屋と考えさせられるほど海の良い眺めが見れ、浴室やトイレ、手洗い場が各部屋に別れており、しかも浴室は贅沢にヒノキを使った風呂であった。
「この部屋はこの旅館では最上級の部屋だ。例年だとこの部屋は使わんが、今回は特別に用意してくれた」
「えっ!?そうなんですか!?」
千冬さんの言葉を聞いた僕はなんだか申し訳ない気持ちになってしまう。
いくらISを使える男二人とはいえ、そこまで特別に扱わなくてもいいのにと。
「だが、いくら最上級の部屋だかたといって何か騒ぐような真似をしたら、タダじゃ済まさないからな」
千冬さんは忠告をするようにギラリと僕たちを見て、僕と一夏くんは緩んでいた気持ちが引き締められるように「は、はい」と緊張で震えた口で返事をした。
「ではお前らは今すぐ海で遊んでこい。明日は遊ぶ暇などないからな」
「わ、わかりました...」
千冬さんは「私は先生たちとの話し合いがある」と言い、部屋から出て行った。
千冬さんの足音が遠くなり、やっと聞こえなくなったとわかった瞬間、僕たちは緊張から解かれため息をした。
「琲世が千冬姉に冗談を言うなんて、めずらしいなぁ。マジで殴られると思ったよ」
「珍しい?たまにやるけど、返ってくる返事は背中が....」
千冬さんの話をした僕だが、襖の先に千冬さんがこっそりと聞いているのではという恐れがふと頭に浮かんでしまい「...背筋が冷たくなるような事ばかりだよ」と声を小さくしてしてつぶやいた(実際はいないと信じたい)。
なお一夏くんには僕と千冬さんはIS学園に入学する前に知り合っているとは言ってはない。
とりあえず気を取り直して荷物を整理しようとした時「なぁ、琲世」と一夏くんが何かひかかったような顔をしていた。
「ん?どうしたの?」
「さっき千冬姉が明日は遊ぶ暇はないと言ったんだが、明日は何をするんだ?」
「一夏くん...聞いてなかったの?」
どこかのお笑い番組の一面のようにガクッと体が地面に転がり落ちそうになった、僕。
もし千冬さんが前にいたら、間違いなく拳が来るよ?
「まぁ、仕方ない」と僕はため息をし、明日の予定を説明することにした。
「明日は装備試験運用とデータ取りだよ。予定だと明日の午前中から夜までやるよ」
「夜までか?て言うことは丸一日かよ...結構長いなぁ」
「うん。特に専用機持ちはさらに長引くみたい」
「まじかよ...」
一夏くんはそう言うと大きくため息をした。
とは言っても一夏くんの場合は他の専用機持ちと比べて装備が少なくデータを取るべきことは少ないようだけど、あくまですんなりと終わらせればと言う話。
何か変なことがなければいいのだけど...
「て言うことは、琲世は出るのか?」
「僕?」
「琲世も専用機持っているよな?」
「まぁ...出ることになってるよ。なるべく外部に知られない程度にね」
表上は専用機を持っていない僕。
かと言って専用機持っていない子と一緒に校外実習をしても仕方ないため、"表面上"専用機は持っていない僕は一夏くんと同じ男子であるため、専用機持ちと参加することになっている。
一応、一年生の専用機持ちの人は僕がISを所持していることは知っているため(大体はトラブルが起きた時に見ている)、僕が専用機を持っていることに驚くような人はいないはず。
「琲世の場合、どんな感じでデータを取るんだ?」
「どうやってデータを取るのか聞いていないよ。一夏くんも同じだよね?」
「俺か?まぁ...何も聞かれてないからわからんなぁ」
「そうだよね...」と少し肩を落としてしまった、僕。
明日の校外実習でやることがわからず、妙に不安にかられてしまう。
僕はその不安をどうにか和らごうと明日は何をするのか考えていると、「そのための今日じゃないか?」と肩に手を置くように一夏くんは話した。
「そのための今日?」
「別に変に明日のことを考えても仕方ないだろ?いくら考えたとしても、予定が変わるかもしれないし、あと今日は十分に遊ぶ時間だってあるから、その時間を悩みで消すのは勿体無いだろ」
「...そんな感じに考えればいいかな」
一夏くんの言う通り、変に先のことを考えても仕方がないことだ。
明日の予定をいくら考えたとしても、予想したことが必ずしも的中するわけがない。
それに僕は変に一人で考えていたが故に、無駄に悩んでしまっていた(例えば急に故障や事故などのトラブルが起きたりなど)。
どこかで聞いた話だけど、悩んでいる時は他の人に話した方がいいと聞いたことがある。
その理由は一人で考えていると問題を客観的に見ることができず、ありもしない出来事を含んで考えてしまい、無駄に悩んでしまう。
しかし自分が抱いた考え事を他の人に話してみると、意外と深く悩むような考え事ではないと気付かされる。
やはり僕だけで考えていたら、おそらく海水浴に行けず悩み続けていたのだろう。
「というか琲世と部屋に入って思ったんだけど...」
「ん?」
「俺たちが一緒の部屋になるの、これが初めてじゃない?」
「あ、確かに」
言われてみれば、IS学園に入学して一夏くんと同部屋になるのは初めてだった。
その気づきのせいか、一夏くんと一緒の部屋に入ってから違和感というものを感じていたことに気づいた(異性と過ごしたせいか?)。
「別に俺たちだけでも部屋を一緒にしてもいいはずなんだが..なんで一緒にならないんだ?」
「さあ...なんでだろうね...」どこかとぼけた様子でつぶやいてしまった、僕。
この状態にさせているのは約9割が刀奈さんが絡んでいると言えばいいだろう。
あの人は何かと特権濫用しているからな...
「と、とりあえず...海に行こうよ。みんなが待っているかもしれないし」
「ああ、そうだな。さっさと海に行こうぜ」
「うん、そうだね...」
僕たちは部屋から出る準備をし始めた。
それから一夏くんより先に部屋から出た、僕。
僕は一夏くんよりも先に水着を着替え(流石に海までそこそこ距離があるため、水着の上にはシャツを着ている)、一夏くんが「先に行ってくれ」と言われ、部屋から出た。
決して一緒にいるのが耐えきれずに部屋から出たのではない、
(そういえば...ラウラさんは結局どんな水着を選んだのだろう...?)
ふと思い出したのだが海に行くということは、ラウラさんの水着を見えることになる。
流石にラウラさんはスクール水着を選んだわけないと思うが、彼女を思い出したせいか彼女の選んだ水着が気になってしまった。
体格的には大人っぽい水着は選びそうにないが...果たしてどんな水着を見せるだろうか?
ラウラさんの水着をことを考えながら移動し、ちょうど廊下の突き当たりに足を踏み入れた時、人影を察知した。
「っ!」
僕が察知した瞬間、足をぴたりと止めると、ちょうど廊下の岐路に人が立っていた。
立っていたのはIS学園の制服を着た女子生徒であり、黒長髪でポニーテールをした人物。
篠ノ之箒さんだった。
「「...」」
廊下の岐路に会った僕と箒さんだが、お互いの間に数秒間沈黙が流れた。
まるで友達の友達にばったりと出会ってしまい、何を話せばいいのかわからない状況に近いものだった。
お互い返事をすることなく、箒さんから返事をする気配を感じられない。
そう察した僕は自分から「あ...どうも、箒さん」とぎこちなく挨拶をしたのだが...
「.....」
箒さんは返事をすることなく、どこか拒絶しているかのように僕を見ている。
気まずさを察してしまい、「あ...えっと...」と次の言葉を考えていたら、「あれ?箒か?」と僕の後ろから一夏くんがちょうどよくやってきた。
一夏くんが姿を表すと箒さんは僕から一夏くんに視線を向けると「...ああ、一夏か」と沈黙していた口が開き、一夏くんだけに目を向けていた。
「なんだ、まだ海に行っていないのか?」
「...今から更衣室に向かっていたところだ」
まるで僕の存在がなかったかのように会話をする箒さん。
一夏くんと話している箒さんの姿は先ほど僕と会った時より、どこか明るさがあり、目つきは優しかった。
今思えば、最近僕と箒さんとの間に溝が生まれている気がする。
原因はわからないが少なくとも言えることは、彼女から溝を作っているような状況であると言える。
「一夏は今から海に向かうのか?」
「ああ、そうだ。今から
「そうか...」
琲世という言葉が出た瞬間、優しかった箒さんの目が後ろめたさがある目へと変わった。
「よかったら一緒に行かなーーー」
「結構だ」
箒さんは一夏くんの言葉を遮り、キッパリと断わった。
そして箒さんは苛立ちを抱きながら僕たちの前から去り始めた。
「おい、箒」と一夏くんが返事をした時、箒さんはあっという間に僕たちの前から去ってしまった。
「たく...なんだよ...今日はなんか不機嫌だな...」
「え...?今日は?」と僕は一夏くんの言葉に違和感を覚えた。
「ああ、いつもの箒はあんな態度をしないが...どうした?」
「いや、最近箒さんから避けられているような感じがあって...」
「避けられている?琲世に?」
僕の言葉に意外さが混じった驚きをした、一夏くん。
どうやら先程の箒さんの態度は一夏くんには見せないらしく、先程の様子は僕にしか見せないらしい。
「僕は彼女に何か悪いことをした記憶はないのだけど...」
「そうか?それだった俺もあるぞ。この前なんかは、なぜか強く蹴られたんだが?」
「そ、そうなんだ...」
どこか引いてしまった様子で答えてしまった、僕。
内容は知らないが、それは一夏くんが唐変木だから攻撃をされていると思うんだけど...?
「まぁ...でも、そこまで気にしなくてもいいよ。多分箒さんは箒さん自身の問題あるかも」
「箒自身の問題...」
一夏くんは何か心あたりがあるような様子で考え始めた。
彼のその姿を見た僕は何か触れてはいけない話題に触れてしまったと察し、これ以上問題を触れさせないよう僕は「ところで...一夏くんは箒さんとは幼なじみだったんだよね?」と話題をそらした。
一夏くんは「ん?あ、ああ、そうだな」と最初は話題の振り方に違和感を覚えたような様子だったが、「あいつとは小学校からの仲で、小4年の時に離れたんだ」と違和感に指摘することなく話題に移ってくれた。
「小学校から付き合いがあるんだ...」と一夏くんに変に思われないよう相槌を打った、僕。
一夏くんが言ってくれた話は千冬さんから既に聞いた話であるが、僕が聞きたい話はその先にあった。
「それでなんだけど...一夏くんは箒さんのお姉さんである束さんと会ったことある?」
「ああ、会ったことある。あの人は箒とは性格が大きく違って子供っぽい性格だったよ。でも最後に会ったのは小学校の時だから、今はどうしているかわからんな」
「そうなんだね...」と少しトーンを下げた返事をした、僕。
なぜ僕が一夏くんに篠ノ之束のことを聞いたのか?
それは彼女とは直接会ったことはないけれど、ここ最近どうも嫌な予感がするのだからだ。
彼女のことは僕がこの世界に降り立った時に有馬さんや千冬さんから知ったのだが、最近彼女の名を聞くたびに胸騒ぎがしてしかたがない。
そして彼女の名を聞くたびに『もしかしたら、僕は篠ノ之束と関係があるのではないか?』と根拠のない思い込みを考えてしまう。
彼女とは関係があるなんて証拠はないけれど、逆に彼女とは関係がないという証拠はない。
もし彼女と出会ってしまったら、彼女はどんな様子で僕を見るのだろうか?
しばらく考え込む僕に一夏くんが「なんだ?束さんに何か用なのか?」と疑問を持った顔で聞いてきた。
「いや...なんでもないよ。というか、早く海に行こうよ。みんなも待っていると思うし」
またしても話を逸らした僕だが「ああ、そうだな」と一夏くんは篠ノ之束さんの話を言及することなく、海に向かった。
海に向かっていた僕は頭に現れたよからぬ予感をどうにか打ち消そうと一夏くんと会話することなく、黙ったまま海に向かった。
せっかくの臨海学校の初日を、根拠のない不安で潰されないように、と。
今週かなり投稿が遅れて申し訳ございません。
今回は執筆のモチベーションがわかなかったため、投稿が遅れました。
次回は早めに投稿ができるよう努力をします。
なお大変申し訳ございせんが、今週投稿予定の東京喰種:re cinderellaは投稿が遅れる見込みですので、この場を借りて謝罪をします。
最後になりますが、前回の投稿で急激にアクセス数が上がったことに驚きました。
コメント、感想をお書き頂いたら、ありがたいです。
お時間があればお願いします。