東京喰種:is   作:瀬本製作所 小説部

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cooperative?

琲世Side

 

それは6月が終わろうとした週のこと。

6月の最終の週は学年別トーナメントが行われる週であり、IS学園は普通の日よりもだいぶ賑わっていた。

 

「...ここ静かだね、一夏くん」

 

「そりゃそうだ。だって俺たち男子しかいねぇもんな」

 

しかし賑わいを反して、僕たちのいる更衣室はかなり静かだった。

例年ならこの部屋は女子でいっぱいなのだが、今年は僕たち男子(シャルルくんは表上男子)がいるため、別の更衣室に移動している。ちなみに隣はかなり窮屈になっているらしい。

そう思うと申し訳なさが胸の中に徐々に湧き上がる。

ちなみに僕は今回も怪我と言う理由で出場はできず、一夏くんはシャルルくんとペアで参加をしている。

 

「三年生にはスカウト、二年生は一年の成果をそれぞれに確認で各国の要人がたくさん来てるよ。一年生はーーー」

 

「...」

 

今回のトーナメント戦で詳しく説明するシャルルくんの言葉に一夏くんは聞くことはなく、ただトーナメント表が表示されるモニターを見ていた。

 

「一夏くん。もしかして、ラウラさんのことが気になる?」

 

「...そうだな」

 

一夏くんはやはりラウラさんとの対戦が気になっていたようで、シャルルくんも同じく肌で感じたらしく『ああ、やっぱりね』とクスッと笑った。

対戦相手の構成は当日発表でしか知れないため、まだわからない。

さすがに一夏くんたちは"初戦から"ラウラさんと闘うことはないと思うけど...

 

「とりあえず...僕は外に出ようかな」

 

「ここから出るのか?」

 

「なんと言うか...緊張してきたから...」

 

「緊張?ハイセが?」

 

僕の言葉を聞いた二人は少し首を傾げた。

そりゃ、そうだ。別に更衣室に出る意味は曖昧だし、僕が試合に出るわけではないのに緊張していると言ったら、僕でも違和感を感じる。

 

「う、うん...長くは離れないけど...」

 

「ああ、わかったけど...トーナメント表が出る前に戻ってこいな」

 

『わかったよ』と言った僕は一夏くんとシャルルくんがいる更衣室から出た。

 

(さてと...どうしようかな...)

 

更衣室から出たのはいいのだが、僕は何をしたいかは決めていない。一応どうして更衣室に出たかと言えば、ただ単純に一人になりたかっただけだ。特に深い意味はないけれど。

一人になったとは言え、他の場所に行こうにもトーナメント表が発表されるまでの時間は決して長くなく、かと言って短いとは言い難い程の時間しかない。

一体何をすればいいのかと考えていたら...

 

「佐々木琲世」

 

すると考えていた僕に、誰かから声をかけられた。

 

「あ、ラウラさん」

 

声がした方向に顔を向けると、僕の前に現れたのはISスーツに着替えたラウラさんだった。

いつも思うのだけど、ISスーツは競技水着のデザインをしており、別に他のデザインを採用してもいいんじゃないか?と毎回見るたびに思ってしまう。

それはさておき、前までの僕はラウラさんに声を掛けられるだけでも緊張感を持ったのだが、今では素直に受け応えることができる。今日のラウラさんは琲世の部分がドイツ語風に言わなかったことに気がついた。

 

「どうしたのですか?」

 

「お前に聞くことがある」

 

「...僕はあなたに助言を言う気なんかありませんよ」

 

ラウラさんの口から出た言葉に、僕はすぐに身構えてしまった。

ラウラさんが僕にどんなことを聞くのか察しがついたのだ。

 

「流石だな、どこかの部隊に所属したかのような鋭さがあるとは」

 

「それはご想像におまかせしますが、僕は協力なんかしませんよ」

 

ラウラさんは僕の察知した姿勢に、馬鹿にするように少々笑った。

僕は一夏くんとシャルルくんの練習をいつも見ており(ラウラさんとの戦闘後はトーナメント戦までISの使用は禁止されたて練習がなくなったけど)、おそらくラウラさんは事前に一夏くんたちの情報を得ようとしたのだろう。

 

「ああ、わかっていてお前に聞いたんだ。私は織斑一夏どもの情報など興味はない。ただ叩きのめせばいい」

 

「なら、なぜ僕の前に現れたのですか?ラウラさんは試合が始まるまで更衣室で待機しないのですか?」

 

「ただの時間潰しだ」

 

「時間潰し?」

 

「私がちょうど更衣室から出たら、お前の姿を見かけたからだ」

 

「そうなんですね...」

 

ラウラさんがいたと思われる更衣室は他の選手が多くいるだろうから、おそらくラウラさんは僕と同じく『一人になろう』と考え、更衣室から出たのだろう。

それで僕は一瞬だけラウラさんに冗談を言おうか考えたのだが、今の状況でラウラさんに冗談を言ってしまえば、少なくともナイフを突き立てられるのが予想がつく。ラウラさんの脚には常に軍用ナイフを常備している。IS学園で常備する必要があるのだろうか...?

 

「織斑一夏は同じ男とであるカエル野郎(シャルル)と組んだのだが、もしお前が公でISを使用できる状態なら、私と組んでいただろうな」

 

「それはラウラさんをサポートする形でのことですよね?」

 

ラウラさんは『ああ、そうだ』と頬を少し上げたのだが、目だけ笑っていなかった。

ああ、やっぱり。ラウラさんは絶対僕を酷使するつもりだ。

 

「それで確かあなたと組む人はどうでーー」

 

「ーーー少なくとも私の邪魔をしなければいい、とあいつには言った」

 

僕がラウラさんとペアになった人を聞こうとしたら、ラウラさんは話を遮るように即座に返事を返した。

どうやらラウラさんはペアになった人にはまったく興味はない模様。ちなみにラウラさんと組む人なんだけど、自分でも驚いてしまうほどの意外な人だ。

 

「まったく...とりあえず今回の試合はラウラさん一人で行動しないでくださいね」

 

「なんだ?さっきまで助言は言わないと言っただろう?」

 

「ええ、確かに僕は言いましたよ。でも、もしラウラさんに助言を言うならば、一夏くんとシャルルくんは前よりも上手くなっていると伝えます」

 

「ふん、そうか」

 

ラウラさんは僕の話を聞こうとはせず、僕の目の前から去ってしまった。情報提供しろと言わんばかりに僕に聞いてきたのに、なぜ素っ気無い態度で去ってしまうのか...

 

(まったく...ラウラさんは変わってないな...)

 

僕はそんなラウラさんの態度に思わずため息をしてしまった。

話が逸れてしまうけど、ラウラさんはトーナメント前の騒動後も、相変わらず僕と千冬さんぐらいしか話すことがない。そのせいかいつも僕がラウラさんと話すたびに、周りの女子生徒から『大丈夫だった?琲世くん?』と心配した目で話しかけられる。いや、そこまで心配しなくてもいいのだけど...と思うような状況がよく起きてしまう。

 

「おやおや、ラウラとは馴れ馴れしいな」

 

「っ!」

 

ラウラさんの行動に再び呆れたため息をしようとした僕に突然、誰かに声をかけられた。

その声は聞き覚えのある声で、かなり久しぶりに聞く声だった。

 

「ダリルさんっ!」

 

振り向くと、ダリルさんが『待っていた』と言わんばかりに仁王立ちで立っていた。いや別にそこまでやらなくてもいいんですが...

 

「なんだよ。まるで数十年ぶりに会うような反応をして?」

 

「だって、ダリルさんとは全然会わないじゃないですか?ダリルさんがいる教室に尋ねてもいませんし」

 

「ああ、確かに会わないよな」

 

実際ダリルさんとこうして会うのは食堂で初めて会った時以来のことのだ。決して僕はダリルさんに会いたくなかったのではなく、わざわざダリルさんがいるであろうクラスに何度も尋ねてはいたが、彼女は必ずと言ってもいいほど姿はない。なぜだろうか?

 

「とりあえずハイセと会えたし、これで問題ないだろう?」

 

「は、はぁ...」

 

確かにダリルさんの言う通り、会えたから問題はないのだけど、ダリルさんはどこかマイペースぽいところがあるような気がする。

 

「それで、おまえは本当にラウラとは縁があるな。この前の食堂の時といい、さっきのヤツも」

 

「ああ、見ていたんですね...」

 

「そりゃそうだ。特に食堂の時は、明確に覚えているぜ。あの時のオレは笑いを抑えるのに必死だったしな」

 

ダリルさんはそういうと、陽気にハハハッと笑った。

今思えば、不穏な空気になった食堂で周りの女子生徒が会話を止めて静かに僕を見ていたのに、一人だけ笑いを抑えていた女子生徒がいたのだが、まさかあの人がダリルさんだったとは。

 

「それで、織斑一夏がシャルルと一緒にいるのに、おまえは対照するようにラウラと一緒にいるよな」

 

「まぁ...確かにそうですね」

 

僕はラウラさんとはいろんな意味で一緒にいる。大部分が悪い意味だけど。

 

「今回の学年別トーナメントでは一夏は参加するが、ハイセはいつも通りに参加しないよな。いつになったらISを装着した姿を見せるんだ?」

 

「まだ怪我が治っていなくて...しばらくかかりそうなんですよね...」

 

僕の返事を聞いたダリルさんは『まぁ、早く治ったらいいけどな』と小馬鹿にするように笑った。

僕は毎回いろんな人から怪我を理由にISを使用できないと言っているのだが、実際は怪我はしてない。

 

「そう言えばダリルさんって今回は本気でいくのです?」

 

「いや、ある程度のやる気があればなんとかるから、本気でやる気はない」

 

「え?本気でやる気ない?」

 

「ああ、いつもオレはそんな感じで挑んでいるさ」

 

一瞬、なぜ本気で挑まないのかと考えた僕だが(マイペースも理由の一つと思うけど)、今回に学年別トーナメントの趣旨も考えていると、他の理由が頭に浮かんだ。

 

「もしかして...シード権があるからですか?」

 

「まぁそうだな。他の三年どもはお偉い方のスカウトするために努力しているらしいけど、オレはすでに決まっているしな」

 

ダリルさんはアメリカ代表候補生であり、既に内定をしているような状態だ。

 

「ダリルさんはアメリカの代表候補生だから...このまま卒業をしたら、アメリカ代表になるんですか?」

 

「ああ、順調に行けばの話だ。だけどイーリス・コーリングがいるから、まだまだ代表候補生止まりかもな」

 

ダリルさんが所属している国はアメリカという世界の覇者とも言える国で、イーリス・コーリングは現在アメリカの代表である。今は代表候補生としているのだが、"必ず"代表になれるとは言えない。

ちなみに副担任の山田先生は元日本代表候補生であり、先生を見れば必ずしも代表になるとは限らないとわかる(なお実力はもちろん高く、セシリアさんと鈴さんの同時攻撃は対処できる)。

 

「まったくよー、ハイセと戦いたかったなー。さっさとその怪我を直せよ」

 

「いやいや、あなたと戦ってもすぐに負けますって...というか今回のトーナメント戦は学年別ですから闘うことないじゃないですか」

 

「ああ、そうだな」とダリルさんは思い出した仕草を見せた。

 

ダリルさんのISはヘル・ハウンドであり、そのISは主に火を扱う能力を持っている。ヘル・バウンドの詳しい情報は知らないが、もし闘うとなれば油断はできないとわかる。

 

「だけど、ハイセがオレにすぐに負けるとは全然見えないけどな?」

 

「...え?」

 

すると僕はダリルさんの言葉にあっけない声で驚いてしまった。先ほどまで安心して話せる空気だったのに、ダリルさんから緊迫した空気を肌で感じたのだ。

 

「織斑一夏はパッと見た感じ、まだ未熟な点が苛立つほどあるが、ハイセはそう見えないな。もしかしたら、オレといい感じの戦いになるんじゃない?」

 

「そ、そうかもしれませんね...」

 

ダリルさんが話す様子は、シャルルくんよりも妙に信憑性が高いようにも感じられる。

いや、まさか彼女は僕がかつていた場所や僕の過去を知っているのか?

そう考えていたら...

 

(ん?)

 

すると僕とダリルさん以外いないはずの廊下で誰かの気配を感じた。気配を感じた方向に振り向いたが、人がいるよう気配はなく誰もいなかった。

 

「どうしたんだ?ハイセ?」

 

「今、誰かに見られているような気がするんですが...」

 

「ああ、あんまり気にすんな。別にハイセとは関係したことじゃねぇから」

 

「気にするな...?」

 

どうやらダリルさんも気配を感じたようだけど、僕には関係のないこととは、どういうことだろうか?

少なくともラウラさんではないことはわかるが、"身長の低い人"が見ていた気がする。

 

「もうそろそろトーナメント表が開示すると思うから、オレの応援よろしくな」

 

ダリルさんは僕の肩をポンっと叩き、僕から離れようとしていた。

 

僕は『がんばってください、ダリルさん』と言うと、ダリルさんは『ああ』と手を上げ、僕の前から姿を消した。

 

(さてと、一夏くんたちの元に戻るか)

 

時間を見るとダリルさんの言う通り、もうそろそろトーナメント表が表示される時間だった。僕は一夏くんたちがいる更衣室に向かった。

 

「おまたせ、二人とも」

 

「「...」」

 

一夏くんたちがいる更衣室に戻った僕は二人に声を掛けたのだが、二人からの返事はなかった。

一体何が起きたのだろうか?と疑問に思った僕は一夏くんたちの元に近づくと、二人が黙った理由がわかった。

 

(ーーーえ?)

 

一夏くんたちが見ていたものを見た僕は二人と同じく静かに驚いてしまった。

それは表示されたトーナメント表に原因があった。

 

なんと初戦から一夏くんとシャルルくんのチームが選ばれ、そして一夏くんたちと闘うチームはラウラさんと"箒さん"のチームだったのだ。

 

 


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