琲世Side
つい先ほどまでラウラさんと戦っていたはずの僕が入ったのはラウラさんの部屋であった。
「ら、ラウラさん...怪我の方は大丈ーー」
「問題ない」
窓から映る月明かりしか明るさがないラウラさんの部屋に訪れた僕は恐る恐るラウラさんの顔を伺うように声を震わながら言った。
しかしラウラさんは僕が必死に心配な言葉を出した労力を打ち消すように「問題ない」と温かみのない返事をした。
「まさかお前が来るとはな、
僕が部屋に現れ、どこかうっとうしさが滲み出す、ラウラさん。
相変わらずドイツ語の発音で僕の名前を言う点は明らかに何か意味あるのではないかと感じさせてしまう。
「や、やっぱりそう考えちゃうんだね...」
「ああ、私の元に尋ねるのは教官かお前しかいないからな」
「あ...そ、そうなんだ...」
僕はラウラさんのその言葉に察しがついた。
今思い返すとラウラさんの部屋に行ったことのある生徒など聞いたことがない。
一夏くんはもちろん、箒さんやセシリアさんなど今後ラウラさん自身が改善しなければ、千冬さんしかラウラさんの部屋に来ないだろう。
「先ほどまで敵だった人間の前に再び現れるとは、さてはもう一度戦いを挑むのーーー」
「いやいや!流石にここで戦うなんてないよ!」
ラウラさんの発言を聞いた僕は先ほどまでぎこちなかった自分の口調が、いつもの自分の口調にすぐに戻り、ラウラさんの発言を遮った。
寮内で戦闘が起きてしまえば間違いなく面倒ごとが起きかねない。
「違うのか?じゃあなんだ?無様にやられた私に対して冷やかしに来たのか?」
「冷やかしじゃなくて....その...怪我の方は大丈夫かなと...」
「怪我?」
僕がラウラさんの部屋に訪れた最大の理由はラウラさんの怪我であった。
「医務室の先生に聞いたんだけど...ラウラさんはあの戦闘以降、医務室に訪れていないから...僕は心配してここにーーー」
「お前如きに心配などしなくてもいい」
切り捨てるように冷たく発言をした、ラウラさん。
どうして僕は先ほどまで戦っていたラウラさんに心配するのか、それは僕が彼女を攻撃した方法に理由があった。
僕がラウラさんにどのように攻撃したと言うと、ワイヤーの引っ張られる力とISの
普通の女子が受けたなら、しばらく立ち上がれないはずの攻撃なのだが(例えるならジェット機並の速度で衝突するぐらい危ないこと)、ラウラさんは最初はアドレナリンのおかげか痛がる様子はなかったのだが、ある程度時間が経つと歯を食いしばる様子が何度も目に映った。
「い、いや...僕は心配するよ。だってあの攻撃を受けたらなら、絶対防御があっても怪我は間違いなくあるはずだ」
「いいや、お前に受けた攻撃など今は大したことはない。私の体は他の人間とは違うな」
「他の人間とは違う?」
「....」
すると今まで冷たく言葉を発していたはずのラウラさんは突然無言になった。
どうしてなんだろうかと僕は考えようとしたら、ラウラさんのベットにあるものを見つけてしまった。
(あれは...包帯?)
ラウラさんのベットにあったのは軍から至急されたであろう救急キットだった。
「なんだ、物珍しそうに見て?」
「や、やっぱり、怪我をしていたんだね...明日すぐに医務室にーーー」
「だから今の私は問題はない。それよりもお前はどうなんだ?」
ラウラさんは冷たくに僕の言葉を遮り、突然何かを聞き出した。
「僕?」
「お前の怪我だ。急激な
言われてみれば攻撃した時に片足にとてつもない重力がくることを思い出した、僕。
確かにいくらISを装備したとはいえ
しかし僕は通常の操縦者だと骨折が確定な場面でも、体に異常をきたすことはなかった。
それは他の人には知られてはならない僕の体に理由があった。
「ああ、あれはISがある程度抑えてくれたから、僕は怪我はないーー」
「なんだか理由にしては裏がある気がしたのだが、違うか?」
「....」
本当の理由を言わなかった僕はラウラさんの鋭い指摘に思わず黙ってしまった。
やはり彼女は他の女子生徒よりも目が鋭く、とても怖い。
「そ、それだったら、ラウラさんはどうなんですか..?」
「私か?」
「はい。先ほど”他の人間とは違う”をうっかり言ってしまったような感じがありました。それはどうしてなんですか?」
「....」
ラウラさんは僕の言葉を聞くと、先ほどうっかり言ってしまった時のように沈黙をしてしまった。
数分沈黙が漂うと痺れを切らしたのかラウラさんは大きなため息をした。
「...変に黙ってても、お前は帰りそうにないな。わかった。どうしてあんなこと言ったのか答えを言おう」
めんどくさそうにラウラさんはそう言うと、着ていたブレザーをすぐに脱ぎ、シャツの下にある腹を見せた。
「っ!!」
僕は突然ラウラさんが素肌を出したことに、思わず後ろに振り向いてしまった。
「なんだ?急に顔を赤くして?」
「だ、だって、急に服を脱ぐから..」
「お前が先ほどの私の理由を知りたかったから見せたのだろ? 何を言っている?」
しかしラウラさんは何も恥ずかしがる様子はなく、逆に恥ずかしがる僕に疑問を抱いていた。
一応ラウラさんは自分のお腹だけ見せており、一瞬だけだったが下着の方は見えてない。(これは確信に言える)
僕は彼女の突然の行動に恥ずかしがる中、あることを浮かんだ。
もしかして、ラウラさんは...?
「いつまで後ろに向いている。ほら、よく見ろ」
ラウラさんの声が耳に入ると、考え始めようとしていた僕はハッと我に帰ったかのような感覚を味わった。
僕はラウラさんの方向に振り向くと、ラウラさんはシャツを上げ、僕が攻撃した彼女の腹を見た。
「...あれ?」
ラウラさんの腹を見た僕は思わず意外さに驚いた声を出してしまった。
ラウラさんの腹にあったのはわずかなあざだけであった。
いくら絶対防御があっても大怪我が確定の僕の攻撃が、まるで自転車に乗って怪我をしたぐらいの怪我であった。
しばらくラウラさんの腹の怪我具合を見ていた僕の「どうだ?満足か?」とラウラさんは相変わらずの冷たい返事をした。
「少しあざが残っているが、あと二日ほどしたら完全になくなる」
「二日って...じゃあ、つまりラウラさんは普通の人間ではーー」
「ああ、だからどうしたんだ?」
ラウラさんはまた僕の言葉を遮った。
「私はお前と違ってただの人間ではない。戦いのために生まれた人間だ。そこらの人間とは違い、お前程度なら数日で治る」
「..つまり、ラウラさんは人工的に作られた人間と言うこと?」
「ああ、ただし体の作りは他の人間と同じで、決してアンドロイドではない。だが違うところと言えば先ほど言った戦闘能力と再生能力が大きく違う。どうだ?これで納得して部屋から出られるか?」
「.....」
僕はラウラさんが話した事実に思わず黙ってしまった。
ラウラさんが人工人間だと言う事実を知ったことに驚いたと言えばいいだろうけれど、それよりも驚いたことがあった。
それは戦うために生まれたと言う事実だ。
その事実に驚いた理由は、自分とは似ているからだ。
ラウラさんの事実を知り、沈黙を続けていた僕を見たラウラさんは「何もしゃべらないなら、次は私が質問する番だ」と声を出した。
「お前は本当は怪我をしているのではないか?あの攻撃で骨折並の怪我をしているはずだ。どうだ?違うか?」
「....今はしていないよ」
「今は?」
僕の静かに『今は』を強調するように返した返事にラウラさんは不審感を抱いたかのか眉を潜めた。
「"今は"とはどういうことだ?」
「...ええ、ラウラさんに攻撃した時に怪我はしたのは本当です。しかし、"今は"怪我はしてないです」
「そんなバカな。あの衝突だと骨折は確定ものだろ」
「もし他の人が僕と同じ攻撃をしたならそうなるでしょう。しかし、僕は違います」
「他の人と違う...?もしかしてお前は...?」
「ええ、そうですよ。あなたと同様、ただの人間じゃ無いんですよ」
僕はただの人間では無いことをきっぱりと言った。
「ラウラさんとはどう言った形でこの世界に生まれたかはわかりませんですが、確かに他の人とは違うのだとわかっています」
「...やはりか」
「...?」
するとラウラさんは何かわかったかのように少し笑った。
「...何がですか?」
「だからそうだったんだな。お前がただの人間ではないから、左目が変化することができたんだな」
「っ!!」
ラウラさんはそう言うと自分がつけている眼帯の方、つまり自分の左目の方に指をさした。
「お前が私に攻撃した時、左目が変色をしたな。確かあの色は赤と黒の色だったな」
「わかっていたんですね...」
「ああ、このことは今日お前と戦っていた時にわかったことでもあり、それ以前にあった食堂の件でわかったことだ」
「...え?あの時の僕、目が変わってたんですか?」
「ああ、あれは一瞬だったがな。おそらく他の人間は見てはいない」
食堂の時の僕はあまりにも怒りの感情が高まり、しっかりと状況がはあくできなかったため、自分の左目が赤く染まっていたことなんて覚えていなかった。
「...なら、ラウラさんのその左目はどうなんているんですか?」
ラウラさんは「私か?」と言うと、嫌そうな様子を見せることなくスラリと眼帯を外した。
右目は赤色に対して、左目は人工的な金色だった。
「これは
「....そうかもしれませんね」
ラウラさんの言われるままそう答えた僕だが、
「となると、お前の反応を見る限り、お前の左目は
「...ええ、
「なら、それはどんな効果があるのだ?」
「....おそらく自分のISに関係するのではないかと思うんですよ」
「お前のISか?」
「はい、そうな....あっ」
すると僕はハッとあることを思い出し、うっかり自分のISについて話そうとしていたことに気がつき、口を止めて焦り始めた。
「そ、そういえば、僕のISのことは他の人にはーーー」
「教官から詳しく聞いた。お前のISは極秘機なんだろ?だからお前は他の人間には隠していたんだな」
自分の秘密を話してしまったことに焦っていた、僕。
あとから千冬さんがラウラさんとセシリアさんを呼び出していたことを僕は少し忘れてしまっていた。
「お前が他人の前にISを展開しない理由はなんとなくわかった。機体形状を見たところ、どこの企業にはない形状だな。しかも実装されている他の機体と比べ小型化している...お前のISは一体なんなんだ?」
ラウラさんの洞察力に驚かされた僕だが...
「なんと言うか...実は僕でもよくわかっていなんだ」
「よくわかっていない?」
「僕が使用しているISは生まれた時から持っていたかのようにいつの間にか所持していた...てな感じなんだ」
僕が使用しているISはいつどこで入手をし、体に埋め込んだかは僕でもわからない。
一つ言えることといえば、今僕が使用しているISはISの開発者である篠ノ之束が作ったのではないかと言うことだ。
なぜなら、僕が使用しているISの形状は今存在しているISの中では異質なのだから。
「なら、待機形態はどうなっている?ISを所持しているなら、何か身に着ける形になっているだろ?」
「.....」
僕はラウラさんの質問に対して、沈黙をしてしまった。
「なんだ?急に黙り込んで?」
「もし...ラウラさんが誰かに僕の秘密を漏らさなければ...伝えますが...?」
「秘密を漏らさなければ、か...?」
ラウラさんは僕の言葉に『それほど重要なことか?』と変に眉を潜め、しばらく黙った。
「...わかった。お前が言う秘密は漏らさないように守ろう」
「ええ、ありがとうございます。僕のISの待機形態はーーー」
僕はそう言うと、スッと自分の腹部に指をさした。
「腹...?」
「はい。僕のISの待機形態は、
「た、体内...?」
ラウラさんは僕の言葉を聞くと、しずかに目を剥いた。
「体内だと...?それはどういうことだ?」
「場所はよくわからないのですが、僕の腹部にあるんじゃないかなって言われているんですよ」
僕が体内と伝えたのは理由がある。まず具体的にどこにあるのかわからないのだ。それはレントゲンをしてでも場所が把握することができず、どういった待機形態なのかは不明である。
「そのせいか体の再生能力や自分の左目が変色することができると思うんです」
「つまり、お前はISと同化していると捉えればいいのか?」
「...ええ、そうかもしれません」
少し間を空けそう答えた、僕。
僕はある意味今使用しているISとは体の一部として使用しているのだ。
「だからお前は実践練習に出なかったんだな。体内に待機形態があると他のISには反応が出ないから疑われるからか」
「そうですね...実際に他の機体を触れても、僕は所持している状態だから触れても意味ないんです」
「そうなると、お前はあの男とは違い、"ある意味"ISを使える男だな」
「ええ...そうなりますね...」
もしこの事実を知られては、おおごとになるのは確定だ。
一夏くんとは違った、重大なことだと。
「それで体の方は大丈夫か?」
「体調の方は問題ないですよ。僕のISを取り出さない限り」
「そうだろうな。体のどこかにあるISを取り出すとなると、どこかに異常が起きるだろう」
一応手術以外に僕のISを取り出す方法として
「...なので、ラウラさんは僕のことを秘密にして欲しいです。それはもちろん教師の皆さんや、他の生徒の皆さんにも」
「...ああ、わかった。お前の秘密は誰にも言わん。それにお前のことを知れたからな」
「僕のことですか?」
「ああ、少なくともあの男よりも少しだけ興味が出たからな」
別にラウラさんだから『興味を抱いた』という意味はあまりよくない意味と思えるのだが(ラウラさんの表情を見る限り戦闘欲が沸く意味?)、その時の僕はなぜかある感情が芽生えていた。
「そうなんだね...だ、だったら、もしよかったら...友達にーーー」
「答えはNeinだ」
ラウラさんは変な出来心を抱いた僕の言葉を遮り、即答で拒否した。
「お前ばアホか?馬鹿げたことを言う余裕があるなら、さっさと私の部屋から去れ」
「...ええ、わかりました」
出来心から目を覚ました僕は少しトーンを下げた返事を返し部屋から出ようとすると、ラウラさんは明らかにわざとらしい大きなため息をし、退出する僕とは逆の方向に振り向いた。
「...あ、あの...お、おやすみなさい...ラウラさん」
「....」
返事ぐらい返すだろうと考えた僕だが、ラウラさんは返事はすることなく、先ほど彼女の拒否した顔を思い出した僕はそのまま彼女の部屋に出た。
「....っ」
ラウラさんの部屋のドアを閉め、誰もいないであろう廊下に立った、僕。
僕は先ほどの失敗でため息をしようとしたのだが、ある感覚が察知した。
「...全部聞いてたんですね、楯無さん」
僕が独り言のようにそう言うと、廊下の曲がり角から刀奈さんがひょこっと顔を出した。
「ええ、正解〜♡最後のあの会話、かなりツボったわ。私が再現しよっか?」
「やめてください」
僕は恥ずかしさを押さえながら刀奈さんに連れられ、自分の部屋に戻った。
せっかくいい感じになってきたのに、なぜそんな失敗をしてしまったのだろう、僕。