東京喰種:is   作:瀬本製作所 小説部

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火種

一夏Side

 

それは夕日が照らす放課後のアリーナでのことだ。

本当ならば今ごと俺とシャルルはここで練習をしていたのだが、今やっていることは練習ではなく実戦だった。

俺はラウラに一方的に攻撃されたセシリアと鈴を吸湿していたところ、ラウラのISに搭載されているレールカノンにロックオンされ、危うく二人のように打ちのめされるところであった。

 

「ーーー前に言いましたよね?ラウラさん」

 

しかし俺はある人物が現れたことにより、ラウラに攻撃されずに済んだ。その現れた人物は琲世だった。しかも、機密であるはずのISを展開した状態で。

 

「あれは...は、ハイセなの?」

 

「ああ、そうだ。あいつは琲世だ」

 

俺の隣にいたシャルルはISに展開している琲世を見て驚いていた。そりゃ。そうだ。琲世がISを展開している姿なんていろいろな事情で普通は見れない。

 

「しかもハイセが展開しているISは...専用機?練習機にしては小さく、他の専用機には見られないパーツ。あれはいったい何?」

 

「あれは俺にもわからない。だけど一つだけ分かることといえば...絶対に手をだすな、シャルル」

 

セシリアと鈴が同時に戦っていても苦戦した様子を見せなかった、ラウラ。

シャルルはきっと無謀だと考えているだろう。だが俺は琲世のISを見るのは二度目の人間だから言えることがある。

 

それは絶対に琲世を一人で戦わせることだ。

 

「あなたは普通の人よりも記憶がいいはずなのに、なぜ"行動"を起こしたのですか?」

 

声の口調から分かる、琲世の怒り。

特徴のある柄がある黒(よくレースカーで使われているカーボン模様に似ている)に、中世ヨーロッパの騎士が着ていた鎧を連想させる白銀の装甲をした琲世のIS。しかし、いかにも重厚そうな見た目とは裏腹に重さを感じさせないISの外観に、人間の体に合わせた小型さ。今最新のISはどれも大型化しているのだが、その理に反した設計であるとわかる。

それにしても琲世がアリーナに現れるきっかけになった"霧"は琲世のISの能力なのだろうか?

つい先ほどまでの空が夕焼け色に綺麗に染まっていたにもかかわらず、突然霧が現れるなんて明らかに異常と言える。

だがあの霧のおかげで観客席にいた女子生徒たちは消え(観客席から誰かが誘導する声が聞こえたのだが、もしかしたら上級生が誘導していたのだろう?)、琲世のISを見られずに済んだ。

 

「ラウラさん、今すぐISを解除してください。あなたがやっているのはただの遊びなんかじゃない。殺人に等しい行為です」

 

普段俺たちに見せない冷静な怒りを見せる琲世は右手に持っている日本刀の形をした剣(名前は機密のため知らない)をラウラに向け、いつでも攻撃ができるよう構えた。

まっすぐとラウラを見る琲世の目は明らかに俺と同じ年の人間の目ではない。

琲世がいったいどんな道を歩んできたのかわからないが琲世の目からわかることと言えば、千冬姉に似た厳しい目つきだ。

 

「それがお前のISか、ハイセ」

 

しかしラウラは琲世の言うことには従わず、かえってさらに好戦的な態度になっていく。 なぜ戦いたくなるのか俺にはわからないが、今のラウラの様子は妙に興奮している。俺やセシリアたちと戦っていた時は軽蔑がまじった冷たさがあったのだが、今俺の目から見えるラウラは待ちに待ったと言わんばかりに感情が高まっていた。

 

「ええ、そうです。ですが今すぐISを解除してください。解除しなければーーー」

 

「解除しなければ私に攻撃を加える、と受け止めればいいだろ?悪いが私からの返事はーーーNein(断る)だ」

 

ラウラがそう言った瞬間、瞬時にワイヤブレード一本を放ち、1秒も経たないうちに琲世の腕に巻きついた。

 

「は、早い...!明らかに僕たちが受けた時よりも早いよ...!!」

 

シャルルの言う通り、今ラウラが放ったワイヤーブレードの速さは明らかに俺たちが受けてきた時よりも違う。

つまり、今のラウラは"本気"と言うことだ。

 

「ワイヤーブレードですか...」

 

「ああ、これでお前は自由に動けられまい」

 

ラウラは琲世に巻きついたワイヤーを引っ張り、どんどんと近づけさせる。

琲世はある程度抵抗はしているが、アリーナの地面に引きずった跡が見えるほど引きずられていく。

ラウラのあのワイヤーブレードは俺よりもISの操縦経験のあるシャルルでさえ、かなり苦戦を敷いた。

もし俺が琲世の立場ならばそのままラウラに引きずられ、攻撃を受けてしまうだろう。

 

しかし琲世は違った。

 

「...なら、これはどうでしょう?」

 

琲世はそう言うとラウラの引っ張る力を耐えていた足を地面から離し、ワイヤーの引っ張られる力と同時に瞬時加速を発動しラウラの元に近づいたのだ。

 

「っ!」

 

突然の琲世の行動にラウラはっきりと目を剥いた。なぜなら琲世のISの加速は他のISと違い比べ物にならないほどの速い加速を生み出せるのだ。どのぐらいなのかと言えば、約300mあった距離を一瞬にして距離を縮めることができるほどだ。

そしてとてつもない速度に乗った琲世はラウラの腹に蹴りを入れ、攻撃を受けたラウラはアリーナの端へと吹き飛ばされ、壁に衝突した。

 

「い、いま、ハイセはとんでもない速度でラウラに攻撃をしたよね...?あれを受けたら、ただの怪我じゃ済まされないじゃ...」

 

シャルルの言う通り、先ほどの琲世の攻撃はジェット機並みの速さで蹴りを入れることであり、それは攻撃を食らった相手だけではばく、本人も体にダメージを食らう攻撃である。

 

「....」

 

しかしラウラに攻撃を加えた琲世は痛がるような様子を見せることなく、攻撃を加えた足は普通に地面につけていた。

もしかしたら、普通の人間よりも速い再生力のおかげかもしれない。

 

「....ハハハっ!!」

 

すると琲世の攻撃を食い、壁に倒れていたラウラが急に高笑いをした。

 

「お前のISは他のISよりも小さい私は侮っていたが、まさかあんな速度を出せるとは、ますます興味が増した!」

 

ラウラはそう言うと先ほどの攻撃を食らったにもかかわらず、堂々と立ち上がった。

 

「これ以上戦闘をするのをやめてください。これは皆さんだけではなく、ラウラさんのためでもあります」

 

「私のためか?笑わせるな」

 

ラウラは琲世の言葉に軽蔑した様子で鼻で笑うが、琲世はイラッとした様子を見せることなく『冗談ではありません』と冷静に言葉を返した。

 

「僕は正直なところ、あなたと戦いたくありません。戦っても無駄に過ぎないからです。だからこれ以上ーーー」

 

「なら、私のためならば、もっと戦え!!」

 

ラウラは琲世の言うことに耳を傾けず、即座にワイヤブレードを放った。しかも一本だけではなく四本も同時に放ったのだ。

 

「全く...戦うのが本当に好きですね!」

 

琲世はそう呟くとすぐさま動き出し、自分に追ってくるワイヤブレードを数センチ間隔で避け続ける。一本ですら大変苦戦するものだが、四本となると全て交わすのは至難の技だ。

 

「ねぇ、一夏。これ以上ハイセ一人で戦わせうのは..」

 

「いや、琲世だけでいい。あいつは俺たちより戦いに慣れている。見たら分かる」

 

シャルルにそう言った、俺。

俺は琲世を信じて言った言葉のようにシャルルはそう聞こえたかもしれない。

だが実際は逃げているような言動しかなかった。

俺は琲世のISを再び見た時、前のアリーナにやってきた正体不明機時を思い出した。

 

『みんな、待機』

 

あの時、琲世の通信から聞こえた、あの声。

普段琲世の口から聞くような声ではなく、別人に変わったかのように違和感のあった冷たい声。

普通の俺なら一人戦う琲世を見捨てることなく共に戦うのに、琲世のあの声を聞いて俺は琲世に攻撃を加担しなかった。

 

それを考えた俺は、なんで見ているだけなんだ?とじっと動かない自分に苛立ちを覚えた。

セシリアと鈴がラウラと戦っていた時は俺は即座にISを展開し、すぐにラウラに攻撃を加えたのに

琲世が戦っている時、俺はただその姿を見ているなんて、 全然俺らしくない。

 

「ラウラさん!いい加減にしてくだーーー」

 

琲世は追いかけ回るワイヤーブレードを潜り抜け、ラウラに刀で攻撃しようとしたその時だった。

 

 

「やめろ、佐々木」

 

 

すると聞き覚えのある声がアリーナで聞こえた。

その声に気づいた琲世はラウラの頭部からあと数センチというところで刀を止めた。

 

(ち、千冬姉!?)

 

ちょうど琲世の真後ろにスーツ姿をした一人の女性が立っていた。その人物は千冬姉であった。

 

「なぜお前はISを展開したのだ?」

 

「アリーナににて緊急事態が起きたため、やむなくISを展開させました」

 

「何度も言っているはずだ。お前はISを展開はするな、と」

 

「...すみませんでした」

 

千冬姉のいつも通りの冷たい口調に、琲世は不服の様子を見せることなく、そのままISを解除をした。体に装着していたアーマーは光の粒子に変わり、跡形もなく消え去った。

 

「...全く、これで目撃者は2人も増えてしまったな...ボーデビッヒ、シャルロット」

 

「「はい!」」

 

「お前らが見た佐々木の専用機は本来なら機密IS機として扱われているものだ。絶対に他の人間や組織などには漏洩してはならない」

 

千冬姉はそう言うとシャルルとラウラは『はい』と答え、そして展開したISを解除をした。

結局、学年別トーナメンとまで戦闘は禁止され、そして授業以外にISを使用することも禁止された。

今回の剣で他のみんなはそれぞれ考えさせられたことが生まれたと思うが、俺は他の誰よりも考えさせられた地震があった。

 

 

確かに琲世は俺よりもISの操縦経験は上だとわかるのだが、

 

だからと言ってあいつばかり活躍するなんて、どこか悔しさが生まれる。

 

 

 

俺はもっと強くならないと

 

今の自分よりも、そして俺よりも強い琲世よりも

 

 


 

 

 

琲世Side

 

 

(セシリアさんと鈴さんが無事でよかった...)

 

夕日が沈んだ直後の夜。

僕は保健室にいたセシリアさんと鈴さんに見舞いに訪れ、その後自分が寝泊りする寮へと戻っていた。

ラウラさんの攻撃で負傷した二人は命に別状はなく、僕はその報告を聞いた時ほっとした。

だがその安心した心を二人に見せた瞬間、学年別トーナメントには出場することはできないと嘆き始めたのだ。

聞くところによるとセシリアさんと鈴さんのISの損傷は酷いものだったらしく(ダメージレベルがC以上)、どんなに修理を急いでもトーナメントに出場できないのは確定らしい。

それで二人は僕に愚痴話をいつもより長く聞くことになり、寮に戻る時はすっかり夜空が綺麗に見える夜に変わっていった。

 

(えっと、確かここかな?)

 

それはさておき寮に戻った僕はそのまま自分の部屋に行くことなく、ある人物の元へと向かっていた。それは僕が寝る部屋から少し遠い部屋で、クラスの誰もが近づかない部屋だ。誰もが近づかな理由についてはいじめの意味ではなく、逆の意味と言えばいいだろう(正式には違うが)。僕はその部屋のドアの前に立つと少し深呼吸をし、息を履いた後、ドアに軽くノックをした。

 

「.....」

 

しかし部屋からは全く返事はなかった。

 

(彼女はもしかして...いないのかな?)

 

初めはそう考えた僕だが、少し考えてみると彼女はこの部屋にいるはずだ。今の時間帯は彼女はカフェテリアや他の人の部屋に行くことなくこの部屋にいる。しかも今日はあの出来事でさらに部屋から出にくくなっているはず。僕はとりあえずもう一度ドアをノックし、『佐々木ですけど』と自分の名を言ったのだが、反応はなかった。僕は仕方なくその部屋から離れ、諦めて帰ろうとしたその時だった。

 

(...ん?)

 

僕がその部屋のドアから背を向け歩いて4歩の時、ドアのロックが開いた音が聞こえた。一瞬気のせいかと思ったのだが、ドアのロックが開いた音がしたのは、明らかに僕が尋ねようとした部屋しか考えられない。僕はしばらく尋ねようとした部屋のドアをじっと待ったのだが、ドアが開く気配はなかった。僕はもしやこちらから訪ねろと言っているのか?とふと心の中で感じ、恐る恐るドアノブを引くと、ちゃんとドアが開いた。

 

「し、失礼します...」

 

僕は職員室に尋ねるように慎重に中に入っていった。部屋の中は電気はついておらず、光らしき物はまったくなかった。流石にこのままでは何も見えないため、僕は部屋の電気をつけようとしたら...

 

「電気をつけるな、heißen(ハイセ)

 

「っ!!

 

突然暗闇の中に冷静な女子の声が聞こえた。

 

「あ...ど、どうも..."ラウラさん"」

 

「...なんの用だ、佐々木のheißen(ハイセ)

 

気配を感じ取れなかった真っ暗な部屋から現れたのは、今日僕と戦ったラウラさんだ。

 

 

僕が訪れた部屋はラウラさんの部屋なのだ。

 

 

 




次回:8月20日 12:00

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