琲世Side
それで転校生がクラスにやってきた話に戻そう。
今回やってきた転校生は一人だけではなく二人だ。
しかもその二人のうち、一人が僕と同じ男だった。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。皆さんよろしくお願いします」
最初の子はフランスから来たシャルル・デュノア。僕は彼をシャルルくんと呼ぶ。
(え?男…?)
僕はシャルルくんの姿を見て、すぐさま違和感を抱いた。
シャルルくんは男だと口で言ったのだが、話す声や姿がなんとも女子らしいのだ。
見た目は首後ろに丁寧に束ねている濃い金髪で、顔だちは中性的よりも女性と言った方がいいぐらい女性的な顔だった。
「えっ!?織斑くんと佐々木くんと同じ男の子!?」
「3人目の男子じゃん!!!」
しかし周囲のみんなはシャルルくんを男だと疑うどころか、新しい男子がやってきたことにとても歓迎していた。
一夏くんと篠ノ之さんの反応をみるが、男だと疑う様子は見られなかった。
シャルルくんに対して異変を感じるのは自分だけなのか...?
それは置いといて、シャルルくんの次に転校してきた子について話に移ろう。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
シャルルくんと同じく転校した子の名はラウラ・ボーデヴィヒ。僕は彼女をラウラさんと呼ぶ。
(..あれ?これだけ?)
好印象だったシャルルくんに比べ、ラウラさんの自己紹介はこれだけであった。
シャルルくんの時は盛り上がった様子があったのだが、今は声も聞こえず静まり返っていた。
その状態は、気まずさが漂っていると言えばいいだろう。
ラウラさんは白に近い長髪の銀髪で150cmあるかないかの身長だが、きっちりした姿はまさに軍人だと肌に伝わるほどわかる。
(...眼帯)
僕はラウラさんを見て一番印象があったのは眼帯だった。
眼帯自体つけつ人が少ないと言う理由が明確かもしれないが、僕は言葉にならないもやもやが胸の中に生まれていたのだ。
僕はどうしてラウラさんの眼帯でモヤモヤした気持ちになったのか考えていると、バシンと言う音が僕の耳に入った。
一体なんだろうかと僕は音がした方向を目を見ると、ラウラさんが僕の隣に座る一夏くんの前に立ち、突如一夏くんの頬を叩いたのだ。
「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」
ラウラさんの突然のビンタに、先ほどの気まずさが漂っていたクラス内が緊迫した空気へと一変した。
ラウラさんの声はただ恨んだ声ではなく、長年心の底から込められた恨んだ声に聞こえた。
彼女は初対面である一夏くんに対して、どうしてそんな感情を抱くのか僕の心の中に疑問を抱いだ。
「ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グランドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」
凍りついた空気が漂っていたクラスをなんとか千冬さんは手をパンパンと叩き、『ささっと動け』と固まった僕らに声をかけた。
「あと織斑、お前はデュノアの面倒を見てやれ」
「えっ、俺が?琲世は?」
「琲世は次の時間、参加できないだろ」
先ほどのラウラさんの件で僕も忘れかけていたのだが、次の時間はIS模擬戦闘だ。
HRを終え、シャルルくんは僕たちの元に近づき「織斑くんと佐々木くんだよね?僕はーーー」と改めて自己紹介しようとすると...
「とりあえず、教室から出るぞ」
「えっ?」
一夏くんはすぐにシャルルくんの手をひっぱり、僕たちは急いで教室から出た。
「な、なんで急いで行くの?」
「今、クラスの女子が着替え出すからな。流石にあそこにいたらまずい」
「この学園内の男子は僕たち3人しかいないからね。男子専用の所なんてないから、アリーナの更衣室で着替えないといけないよ」
僕と一夏くんは女子しかいないIS学園では決して容易ではないことを知っている。
何せ軽くトイレに行くだけでも息が上がるほど大変だ。
「あれ?そういえばハイセってIS模擬戦闘に出ないんだよね?」
「うん、僕は図書室で自主学習をするんだ」
「琲世は..えっと...あ、あれなんだよ。この前医者からしばらくISを使用するなと言われてな」
「使用できない?体調が悪いの?」
「う、うん、そうなんだよね...だから僕は自主学習と言うことで図書室に行くんだ」
一夏くんがそう言うと、僕と一夏くんはシャルルくんが見えないところでお互いグッとサインをした。
実際僕が行くのは図書室ではなく、今は誰もいないであろう生徒会室だ。
それに僕が体調が悪い話はもちろん嘘だ。
「二人とも、模擬戦闘で怪我しないようにね」
「わかった。いってくる」
「じゃ、じゃあね、ハイセ」
そう言って二人を見送った、僕。
僕が模擬戦闘で行ったところで既にIS専用機を持っているのだから、練習機を触れても何も反応せず使用はできない。
それに僕の専用機は非公開機のため、使用はできない。
みんなが実戦訓練をしている間、僕は一人生徒会室で待機しなければならないため、自分だけが参加できないのは辛い。
僕は少し寂しい思いを抱きながら生徒会室に向かった。
生徒会室までなんとかたどり着いた、僕。
(な、なんとか、ここまで来れた...)
僕は息を切らすほどの事態に出会っていたのだ。
それはHRと一限の間にある休みに学園中の女子に追いかけられたのだ。
その女子たちの目的は転校生のシャルルくんだ。
3人目の男子と言うことで、シャルルくんを見たい女子たちは彼を見つけようと追いかけていたのだ。
それでシャルルくんを連れた一夏くんの方だけ追いかけるのではと思うかもしれないが、残念ながら僕に被害が出ていた。
僕の元に駆けつけた女子たちは『転校生の男の子はどこ!?』とかなどの残党を探し出す兵士のように何度も聞いてきて、僕は朝から疲れる思いを味わった。
(ま、まぁ..生徒会室は誰もいないから、ゆっくり読書でもしてよ...)
僕は気を取り直して深呼吸をして、生徒会室のドアを開いてみると...
「久しぶり、琲世くん〜♪」
「あれ?楯無さんじゃないですか?」
本来なら授業で生徒会室にいないはずなのに、刀奈さんが普通に生徒会長が座る席に座っていたのだ。
楯無さんはあくまで口でいい、ここでは刀奈さんと表示する。
「楯無さん、授業は...?」
「私は出なくていいのよ。これが生徒会長の権限ってやつね」
確かに楯無さんは生徒会長なのだが、そんな権限を乱用しないかと不安になるが、楯無さんを知る人たちから聞く限り、学業はかなり優秀な模様。
それで刀奈さんは『ずっと立ってちゃ疲れるでしょ?ほら、座って?』と言われ、僕は刀奈さんに対面するように椅子に座った。
「それで琲世くん、なんかいいことあった?」
「いいことって...HRでありましたよ。楯無さんは知ってますよね?」
「ええ、知ってるわよ。転校生でしょ」
何せ刀奈さんの座っているテーブルには、ラウラさんとシャルルくんが詳細に書かれた書類があるのだから。
「琲世くんのクラスにやってきたその転校生は二人で、一人がフランスからきた男の子で。もう一人はドイツからきた軍人ちゃんよね?」
「ええ、その通りです。それでクラス内では温度差はありましたよ」
「へぇ、どのぐらい?」
「熱帯地域と、極寒地域ぐらいに」
「ははは、どちらなのかは予想がつくわ」
楯無さんはそう言うと持っていた扇子を開き、開いた扇子には『笑止』と大々的に書かれていた。
「何かあったか、わかるんですか?」
「ええ、だいたい予想はできるわ。それで琲世くん的にはどっちが印象的だった?」
「印象ですか?」
「ええ、今回は二人でしょ?両方とも印象深い子でしょ?」
一夏くんなら、おそらくはシャルルくんを選ぶだろうけど...
「僕は...ラウラさんですね」
「あら?ラウラちゃんなのね。シャルルくんだと思ったのだけど、意外ね」
一夏くんなら、多分シャルルくんを選ぶと思うが(ラウラさんにビンタを食らったけど...)、僕は一夏くんとは反対の答えをしめした。
「なんというか...僕とどこか似ている気がするんですよ」
「琲世くんと似ている?ああ、確かにキャリアは似てるかもね」
「え?本当ですか?」
「ええ、テーブルにある書類を見るといいわ。本当は私以外見るのはダメなんだけど、琲世くんならいいわ」
そんな重要書類を読むのはいいのだろうかと少し疑問を感じた僕は楯無さんの許可を得て、楯無さんが座るテーブルにあったラウラさんの経歴書を手に取った。
「本当にドイツ軍少佐だ...」
「すごいでしょ?私は大尉かそのぐらいかなっと思ってみたんだけど、正真正銘の少佐よ」
ちゃんとラウラさんの階級は少佐と書かれており、それぞれの欄にドイツ語で"Major"、その隣にはNATOでの階級表示"OF-3"と表示されていた。
本来少佐と言う階級はだいたいは30代ぐらいでつける階級なのだが、ラウラさんは15歳という若さで昇進している。
「ラウラさんの経歴を見る限り、どこか僕と似たところがありますね...」
「そうね。琲世くんは有馬さんの元で戦力としていたのだから、似てーーーあっ、そうだ」
すると刀奈さんは何か思いついた仕草をした。
「じゃあ、ラウラちゃんと仲良くしたらいいんじゃない?」
「..えっ?」
僕は思いによらぬ発言に驚いてしまった。
「じょ、冗談じゃないですよね?」
「何よ?これは冗談でもなく、冗談の対義語の本気よ」
「だ、だって誰も近く気はなかったですよ?一夏くんにビンタをしましたし」
「ビンタ?一夏くん早速ラウラちゃんにセクハラをしたの?」
「いや、セクハラじゃなくて、なんか憎んでいたというか...」
「ああ、もしかして織斑先生に関係してるわね。まぁ、それは置いといて、似た者同士で仲良くするのはいいことよ?」
僕はHRでの出来事に出会ったせいか、楯無さんの提案に難色を示すように顔をしかめた。
「ラウラさんと仲良くするのはちょっと...」
「でも琲世くんには危害は加えなかったのでしょ?」
「ま、まぁ、そうですね...」
「だったら、仲良くした方がいいと私は思うわ。今頃、模擬戦闘で一人になってると思うし」
軍人特有の厳しさと、一夏くんにビンタした光景を見た人間ならば、絶対ラウラさんと協力的になる人間はいないはず。
「それは置いといて、二番目に印象があったシャルルくんはどう?」
「シャルルくんは自分では男と言ったのですが...どうも女の子らしいんですよ。皆さん、シャルルくんが女の子らしいと思わなかったのですが...」
「私の勘だったら、絶対シャルルくんは女だわ」
「え?楯無さんはそう思いますか?」
「そりゃ、女の勘を舐めてもらっちゃ困るわよ」
刀奈さんはそう言うと、誇らしげにフフンっと鼻で笑った。
僕は同じくシャルルくんを女の子だと考える人がいて、ほっと安心をした。
何せあの一夏くんも気がついていないのだから。
「もし仮にシャルルくんが女性なら、名前はシャルロットになりますよね?」
「あら?さすがね琲世くん。そんなこともわかるのね」
楯無さんはまるで小さな子供を褒めるような口調をして僕を褒めた。明らかに馬鹿にしてる。
「さ、さすがに僕はわかりますよ...」
「そんなムスッとした顔にならないで、さっきのは冗談でやったのよ」
刀奈さんはそう言うと席から立ち上がり、僕の後ろにつき、僕の肩に優しく手を置いた。
「っ!!な、なんですか?楯無さん!?」
「いやー、なんか席に座り続けたせいか疲れちゃって」
「疲れたって、僕の肩に手を置きますか!?」
「はははっ、琲世くん顔が真っ赤だよ?」
刀奈さんはそう言うと僕の肩に置いてあった手を離した。
「どう?肩こりは効いた?」
「効いたって...そもそも僕は肩こりはありませんよ!」
「ハハハッ、やっぱり琲世くんは面白いね」
刀奈さんがそう言った直後、ちょうど授業の終わりを知らせるチャイムの音がなった。
「おっと、もうこんな時間なのね。琲世くんと話してたら、すぐに終わっちゃね」
「ええ、僕は少し疲れましたよ...」
「疲れたの?だったら、今日の昼食はラウラちゃんと食べたら?」
「えっ?今日の昼食ですか?」
どういう話題の移り方だよ、と言わんばかりにまたもや刀奈さんの口から提案が出た。
「そうそう、ラウラちゃんは間違いなく一人で食べるはずだから、琲世くんが声をかけたらいいじゃない?」
「じゃ、じゃあ、ラウラさんに誘いをしてきます」
「うん、返事はよろしい。じゃあ、また寮内で会いましょうね」
「ええ、また会いましょう」
僕は楯無さんに別れの挨拶をすると生徒会室から出た。
楯無さんの提案をなんとなく了承してしまった、僕。
まさかこれが最悪な出来事が起きるなんて、今の僕は思ってはいなかった。
昼休みの食堂。
僕は授業が終わると一人食堂へと向かった。
教室から出る時に一夏くんたちから誘いがあったのだが、僕は『ちょっと先輩から誘いを受けたから...また』と断った。
もちろんそれは嘘である。
(一夏くんシャルルくんと食べるみたいだけど...なんか篠ノ之さんやセシリアさんたちの顔は不満そうだったなぁ...また一夏くん変な誤解をさせたね...)
一夏くんたちには篠ノ之さんとセシリアさん、あとは鈴さんも同行していたのだが、3人ともの顔は嬉しそうとは言えなかった。
それぞれの顔には『一夏くんと二人っきりで食べたかったのだけど、なぜか大勢で食べることになっている』と言う望みとは違うことに不満を抱いた顔だった。
またしても一夏くんの唐変木ぶりがまたしても発揮してしまったことがわかる。
多分、放課後にはセシリアさんか鈴さん、それか篠ノ之さんが僕の元に訪れ、長い愚痴を聞くことになる。
本当に一夏くんの唐変木、勘弁してほしい...
そう憂鬱に考えながら僕は食堂に入り、山かけうどんと言うものを選んだ。
山かけうどんんは一体なんだろうかと疑問に感じたのだが、出来上がった山かけうどんをもらうと、それはうどんの上にとろろと生卵を入れたとろろうどんであった。
なぜこれを選んだかは自分でもわからないけど、とりあえず僕はうどんをトレイに置き、食堂内にいるであろうラウラさんを探した。
一応、ラウラさんは食堂に入っていった姿を見かけたため、さすがに出ていることはないのだが...
(あ、見つけた!)
食堂内をしばらく見渡していると、予想通り、ラウラさんは一人で食事を取っていた。
学園で眼帯をしている人なんて、おそらくラウラさんだけではないだろうか?
僕はラウラさんが座る席に一直線に向い、『どうも、ラウラさん』と言おうとしたら...
「なんだ?佐々木琲世?」
ラウラさんは僕が口を開く前に先に口を開き、ギラリと僕を見る。
その目つきは一夏くんをビンタした時と同じ殺意のある目だ。
僕はその目に完全に怯えてしまった。
「あ、えっと...い、一緒に食事を取らーーー」
「断る」
まだ話を終えていないのに食い気味で答える、ラウラさん。
「なぜ私と食べなければならないのだ?もしかして織斑一夏に追い出され、私の元に来たのか?」
「い、いや...別に追い出されたわけではなくて...」
ラウラさんの言葉に先ほど一夏くんの誘いを断ったことを思い出し、無意識に罪悪感が湧き出た。
そんなつもりじゃないけど...
「ほ、ほら、初日から一人で食べるのはあれじゃないかなって...」
「いいか、佐々木琲世。よく聞け」
するとラウラさんは左手に持っていたフォークを置き、右手にあったナイフを僕に向けるように見せた。
「今、私の右手にナイフがある。ナイフは食い物を細かく切る道具でもあり、刺す道具でもある。つまり、これ以上私に話しかけるとどうなるかわかるだろ?」
ラウラさんのナイフの持ち方が食べ物を切る持ち方ではなく、敵にへと変わっていた。
このまま引き下がらないと、食堂でいざこざが間違いなく発生する。
それに僕は学園中歩くだけでも目を向けられているため、ただごとじゃ済まない。
「...わかったよ。僕は離れるよ」
僕はそう言うと、ラウラさんの前に立ち去ろうとしたその時だった。
「待て、佐々木琲世」
するとラウラさんは立ち去る僕を呼び止めたのだ。
「...なに?」
「お前は先ほどの時間どこにいた?」
「どこって...僕は図書館にいたよ」
「図書館?ああ、確か教官も同じくおっしゃったな」
「僕はしばらくISを使用できないから、自主学習をしてるんだ」
「理由など聞く気はないが、お前は本当にISを使えるのか?」
「っ!」
ラウラさんの言葉を耳した瞬間、僕は心臓の音が聞こえるんじゃないかほどの衝撃が走った。
それは嘘がバレた感覚に似ている。
そして次に僕の耳に聞こえたのは、ラウラさんの軽蔑の笑いだ。
「織斑一夏は普通に使っていたが、さてはお前本当はISを使えないだろ?」
「...あの、ラウラさん。僕は一夏くんと同様ISを使えるよ?今は使用を止められているから...」
「そうか、ならISを使えないんだな?まったく、哀れだな。織斑一夏のようにISを展開できずに、ただ本を読んでいるんだな?」
「...だから、使えるよ」
「じゃあ、今証明しろ。お前がISを使用できるこーーー」
バンっ!!!
「っ!!」
「.....ごちゃごちゃうるせえんだよ。何度言ったらわかるんだ」
バンっと机を叩きつける音が食堂内に響いた。
その音を起こしたのはラウラさんでもなく、冷静さ無くしてしまった僕だった。
「僕はISを使えるんだ。
その時の食堂の空気は、ラウラさんが一夏くんにビンタした時と同じ緊張した空気へと変化した。
隣の席から聞こえる会話の声がピタリと止まり、かちゃかちゃとなる食器の音、そして食堂内で歩く音までもが一瞬にして消え、そして食堂内にいる皆は僕とラウラさんに視線を向いていた。
「はっ?お前、今なんて言った?」
冷静さを失った僕は千冬さんのことを『教官』と言ったためか、先ほど僕を軽蔑していたラウラさんは怒りの感情を表した。
「聞こえなかったのか?まったく、君の耳は使ってなかったのか?なんためにその耳はついているの?」
「ほお、そうか。私は最初からお前に眼中はなかったんだが、まさかお前如きに無駄な怒りがこみ上げてしまうとはな。お前はバカ者か命知らずだろうな?」
久しぶりの怒りという感情。
こうして怒りを表すのはいつぶりだろうか。
まさか、ここで出るなんて思いはしなかった。
「「.....」」
僕とラウラさんはしばらく何も言わず、まるで国境線手前で睨み合う兵士のようにお互いの顔を見る。
周囲は僕たちの異様な光景に黙視していた。
その沈黙の時間のおかげか、僕の胸の中にあった怒りの感情が段々と収まり始め...
「...これ以上、騒ぎを起こしたくない。君から離れるよ」
僕はそう言うと、僕はすぐにラウラさんの元に離れ、遠くの席に座った。
僕が頼んだ山かけうどんはすっかり伸びきっていて、さっきの状況のように最悪だった。
触れられたことに久しぶりにカッと苛立った、僕。
改めて考えると、やってしまった後悔が滲み出てくる。
今日と言う日は、僕にとっては本当に落ち着かない日だった。