[DEAR]~貴女と居た季節~   作:金宮 来人

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今回はなかなかに非道なシーンが有ります。
まぁ、もともとこういう事を受け持つのは仕事だと思いますが。
それでも、私情をはさんでしまうのは人間だからでしょう。
色々な人間の想いを交差させながらもこの物語は進んでいきます。

では、本編です。どうぞ。


11 開発の裏側

IS学園二年生にして生徒会長、更識楯無。

生徒の中でも最強の称号でもある彼女は、現在人生最大とも言える難しい状態に陥っていた。

「だから教えてほしいの。何故『彼』が、自分の機体よりも他人の機体を優先させたのか?専用機を持つと言う事になるなら、自分の機体を優先させるのが普通だし、そう言う風に言っておかしくない。でも、開発主任でもある篝火所長は《彼が君の機体を優先させる事を許可したから、政府に何と言われようと彼よりも君の機体を完成させるからね。》と言われた。政府関係者のお姉ちゃんが知らないわけはない。だから教えて・・彼に何かあるの?」

「ソレはね・・機密なの。いくら簪ちゃんでも言えない事なのよ。」

「でもおかしい事が多いの。そもそも白式は聞く所によると新規の機体で、完成させるためには私の機体の開発を凍結させてでも行うべきだと、政府から言われたらしいと聞いているんだけど?それが、急遽造りかけの白式を改造して打鉄と組み合わせて、はっきり言うと専用機として不十分な物を慌てて渡す。これっておかしいよね?政府の指示が入ったらしいとしか担当の聞き出せた職員からは言われてないけど、・・何が有ったのか教えてもらっても良いんじゃないのお姉ちゃん?私は当事者なの。もしも何かあるなら知りたいの。」

「言えない事なの。どうしても言えない・・生徒会長や政府の狗という立場じゃなくて、私個人という立場からもこの話は言えない。言ってはいけないの。約束が有るから。」

「・・・もし、これから開発が悪くなって、教えてくれなかったお姉ちゃんと絶交となっても?」

「・・開発が悪くなる事はありえないと断言できるわ。確かに、今までより人手が取られるかもしれない、それによって開発が少しくらい遅れるかもしれない。でも、開発が止まるとかそう言うのはありえない。絶対に。ソレは保証できる。・・もし、絶交になってでも私は秘密を守る事になるわね。立場云々を抜きにして個人的な感情でだけど。」

「・・そこまであるなら背負わずに、私に相談してくれても良いよ?」

「絶対にダメ!コレだけは・・絶対に・・駄目なのよ・・。」

私は下を向いてしまう。俯いてしまった目から歪んだ机の上が見えて、そこにいくつかの雫が落ちる。今まで『対暗部用の暗部』の長としての立場が合って心を殺してきたけれど、コレは耐えきれなかった。人、一人の本気の覚悟を見てここまで心動かされる事はなかった。揺さぶられた心は感じた事が無かった。

あんなにはかない笑顔でいる彼をもう直視できないとさえ思うくらいに、苦しいと思った。そして、ソレを広めない為に彼は黙って皆から隠れて、皆に隠して苦しんでいる。隠す事すらに苦しんでいると言うのだ。だからここで話すわけにはいかない。そう思い口を引き締めて前を見る。

驚いた表情の簪ちゃんが見えるが、それでも目は逸らさない。

「諦めた。分かったよお姉ちゃん。・・打鉄弐式は完成するんだね?」

「もしかしたら・・彼のデータが有効利用されて開発が進むかもしれないわね。」

「それなら礼を言う事になる。その時は連絡するから間に立ってくれる?彼の事知らないし、・・ブラコンのお姉さんが怖いから。」

「あはは・・シスコンの私が居るのだから大丈夫よ?」

「そう・・なら、また連絡する。・・それと、今まで避けててごめん。」

「え!?いや、いいのよ。私が悪いのだから・・。本当に言いたかった言葉を飲み込んで酷い事を言ったのだから。あぁ、・・だから彼に同情して感化されたのかしら?」

「同情・・?」

「ふふ、秘密よ。それより今、本音を言うわ。簪ちゃん、貴方は危ない事に巻き込まれてほしくない。日本代表候補生という肩書だけでも何かあれば命を張る事が有る。それ以上に背負ってほしくないの。姉として、家族として・・。」

「ソレは私も同じ事だよ。ロシア国家代表の肩書に更識の長、生徒会長まで持ってるお姉ちゃんの助けに私はなりたかっただけなんだから。家族で、私は妹なんだから。助けたいのは当たり前だよ?」

「・・すれ違ってたのね、私達。」「そうみたいだね・・。でも・・」

首をかしげて目を細めてこっちを見る簪ちゃん。

「今になってなんでこんなに本音で話してくれるの?今までははぐらかしてきたよね?」

その言葉に一瞬だけ言葉がつまる。でも、理由は理解できた。

「『家族だから。』ソレを大事な事だと教えてくれた人がいるの。大切な事は伝えなければいけない。そうじゃないといざという時に後悔する事になるから。それを知る機会が有ったから。ただそれだけなの。」

「そう・・。」

 

それだけ言って簪ちゃんは生徒会室から出て行った。後ろで一言も話さずに控えていた虚ちゃんが口を開く。

「苦しいですね。ここまで一人の命が重いとは・・。」

「背負うとこうも重くなる。消してしまおうと思うと軽く消せれてしまう。厄介なものよ、命という物は。・・更識として分かっていたつもりだったけど・・所詮つもりだった事を思い知らされたわ。・・正直しんどいわね。」

「・・はい。それでも・・」

「何かしら?」

「それ以上の覚悟を持っている彼はすごいと言うしかありません。この重さに押しつぶされず、更におもりを背負っているのです。姉とその恋人・・更に噂だと昔の告白してきた相手の再度の告白さえも。その想い、過去の分も一緒に背負っているのですよね?」

「信じれないわよね。それで泣言も言わずに押さえつけて、覚悟の中に抑え込んで背負い続ける。自身の足が動かなくなろうと這いずってでも進む覚悟が有るわ。たとえそれを待つ先が・・自分の死でも。」

「彼はISを動かすだけで発作を起こすほど弱っていると聞きました。・・隠し通せるのですか?」

「隠すわよ。それが彼との約束だから。私の全能力さえ使うわ。その覚悟を簪ちゃんにも見せたんだもの。私にはできる。いいえ、やらなくてはならないのよ。」

「そう・・ですね。」

 

「ヒカルノ所長。白式のデータきました。これなら弐式の稼働に流用できますよ。」

作業員の一人がそう声をかけてくる。

「そう?ならコピー取ってIS委員会と日本政府に送って。あと、弐式作業班に渡しといてね。それから・・、戸次(とつぎ)。君はどうしてそこまで白式のデータを取る事にこだわるのかね?」

そのデータを持ってきた作業員とは違う、もう一人の苦虫をかみつぶす様な表情の男、戸次に声をかけた。

「ソレは!!・・男でもISが動かせれる様になれば、今の女尊男卑の世界が変わると思うからですよ!!所長はそうじゃないから良い。でも、冤罪で捕まったんです。知り合いが・・。そんな世の中をすぐにでも変えて、彼を出してやりたくて・・。」

「わかる、その気持ちは分かるよ。私も女だがこの世の中は腐ってると思う。でも・・」

戸次の眼を見て言う。

「彼の命を削ってまで行う事か?人一人の命はそんなに軽いものか?」

「それは・・でも、彼一人で世界中が変わるなら!!」

「簡単に変わるなら私も進めるだろうが・・それは絶対にありえない。そもそも、この機体のデータで男が乗れるようになれる事はないだろう。そもそもコアの中のブラックボックス状態のデータを理解しなければまずは無理なのは分かっているだろう?」

「だけど・・分かってますが・・」

「はぁ・・君の言いたい事はよくわかった。」

「なら!!」

「君はクビだ。出て行きたまえ。」

「・・え?」

「人の命をないがしろにして、更に人を実験材料のように扱うような考えの人材はここには必要ない。君には失望した。白式の担当は加藤《かとう》に変わってもらう。引き継ぎデータは分かっているから、さっさと君は荷物をまとめたまえ。私は今から君のクビにした理由の書類作成をするよ。日本政府も納得してくれるかは、分からんがね。」

「そ、そんな・・所長!?嘘ですよね!?所長!!」

「私は本気だよ。彼の事を見て、まだそんな事を言う様な屑は私の元には要らない。目障りだ、さっさと荷物をまとめろ。」

私は所長室で戸次のカードを出口等のゲートのみしか使えないようにセット。ソレを終えてから書類を作る。そして、出口に向かうと荷物を持って白衣を脱いだ戸次がいた。

「ほ、本気で俺をクビにするんですか?」

「もうクビにした。ちゃんとした理由だ。専用機を持つ彼の命をないがしろにし、あまつさえデータ取りのモルモットにしようとした。ただクビにされるだけありがたいと思え。もし、この話があのブリュンヒルデの耳に入ったら倉持技研ごと惨殺だぞ?本気でだ。冗談じゃなく文字通りに潰されかねん。ソレを防ごうと言うのだ。お前もさっさと去らないともしブリュンヒルデに繋がっている奴がさっきの近くにいたら真っ二つだぞ?」

「ひ・・ひぃぃぃぃ!?」

そう、情けない叫びをあげて走って去って行った。ゲートから消えたその背中を見てため息をつく。奴の言いたい事も理想も分かる。だが、あんな若い背中に重い物を背負っている少年を見て何も思わないのか?自分にそれが出来るのか?そう考えなかったのだろうか・・。私には無理だ。絶対につぶれるし泣言を言う。絶対に。あんな風に笑って許して言う事じゃない。部屋に戻り、戸次のカードデータを完全に消して使えないようにする。悪用されない為にも。

「千冬の怒りももっともだと言うのに・・まったくもって強い。恐ろしいよ私には・・。」

実際に一番織斑千冬と繋がっているのは私だ。昔の同級生で、なお且つ暮桜の開発にも携わったからな。その功績でこの若さでの所長だ。・・千冬がつぶれないか心配だが・・それは支えてくれる相手が出来たから良いだろう。軽く見てもいい男だ。だが、支えてくれる相手を押しのけて避けるようにしている彼はどうだ?

「彼はどうして立っていられるのか、私には分からないよ。」

やりきれない思いと共に携帯を取り出し、青い空を見上げつつ電話をかけた。

「私だ、篝火ヒカルノ。貴女に暗部としての依頼が有るんだが・・」

 

翌日、とあるアパートで自殺している中年男性の遺体が見つかった。

ソレは、本当はある人物が関与している事だが・・。秘密を知る者をそのままにしておけなかった為に・・。

だが、ソレを政府と警察は自殺と断定し、【クビを通告された事からの自暴自棄による物】として書類送検した。

 




更識が暗部としての仕事として、かなり重要な理由からの仕事をさせてみました。政府もこれには協力し、隠し通さなければなりませんからね。
例の更識の上役に当たる政府高官からも、かなりの圧力がかかったと思います。彼の想いを無駄にしない為に。
もしも、この話がばれれば彼は保護という名目で家族から放され、病気だからという理由で隔離されるでしょう。どれだけ否定しても世間からはそう言う風に扱われます。ソレを防ぐには必要な犠牲とも言わざるを得ないかと。
どうやってもできない男性操縦者を増やす事か、彼の死をも恐れぬ覚悟を優先するか、選んだ結果だと思います。

それでは、また次回。

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