まぁ、あっても無くてもいいような変化なので別に読まなくてもイイです。
「気力ゼロ、魔力ゼロです」
What?
何言っているんだ、このヒトは。
「これは……」
「流石に予想外だな……」
ほら、オーメス夫妻も言ってるじゃないか。ありえんて。
あぁ、いきなり読者置いてきぼりな展開ですみません。
読者?
まぁ、私が謎の電波を受信したとかは置いといて、今私は自分の持つ気力と魔力を測定しているところだ。……因みに今のが測定結果。
つまり、私はアミカとの戦いであんなにバリバリ気力強化を使って戦っていながら、魔力どころか気力すら皆無という診断結果を突き付けられた訳だ。
これには流石の私も唖然とするしかない。
「ちょ、ちょっと!おかしいでしょ!?」
しかし、これに抗議を出したのがまさかのアミカである。態々、机を叩いて身を乗り出すという、窓口係を威圧するのにかなり効果的な体勢で。
「この子、ちゃんと気力強化ができるのよ?!朝だって身体強化してるとこ確認したし、魔力はともかく、気力が無いなんてコト………」
「ですが、診断結果は正常なんです……」
アミカの証言には証拠など無いが、こんなところで偽る様な話でも無い。
それに、診断結果を報告した人もこの結果が半信半疑なのか、苦い顔をして対応している。
「その結果は本当なのかい?気力も魔力も無いということは、生命力が無いということ。
それが冗談で無いなら、この娘が生物でないと言っているのと同じだよ?」
「そうですが……。私どもとしても、この結果は予想外でして………」
何故だ?何故私に魔力は兎も角、気力が無いんだ?
今だって使おうと思えば気力は使えるのに。というか、今、使ってるのに。
私はフェバルになってから、かなり弱体化していて、日常的に身体強化を施さなければまともに生活すらできない。
元々の能力が、アミカと喧嘩する時以外に戻る事が無いから必然的に私は常に微量の気力を纏ってる状態だ。なのに何故、計機は気力ゼロなんて結果を叩き出したのか。
少なくとも故郷では、魔力なんて無かったが、気力を測定する技術はあった。この測定機の様に数値で測定できる程優秀では無かったが、少なくともいくつかのランクに分けて測定する事はできた。
その故郷の測定では、私の気力はCランク。
かなり微妙なランクではあるが、間違ってもゼローー皆無という訳では無かった。
まぁ、色々考えるのは後にして今は……ーーー
「そんな話があり得るか!!再測定を希望する!」
「ひっ!は、はい!今すぐ準備しまーーー」
「大丈夫」
ーーー激昂したパパさんを宥めなくては。
私は、生来の無表情に喝をいれて精一杯の笑顔を見せて大丈夫と告げた。………どこかおかしくないだろうか?
「っ………しかしだね」
「……シムリさん。ここは抑えて」
「む、確かに、穏やかでは無かったが………」
「だけど、エネミア!……これは!」
「………知ってる」
アミカの父親のシムリさんが、やるせなさそうに口を噤んだ。
しかし、アミカが思わずといった感じで叫ぶ。
ーーー知っている。
魔力ゼロ、気力ゼロという事実の異常さも、その意味も。………そしてそれが生み出すだろう未来も。
有能者ならまだ救いもある。だが、無能者の未来など、想像なんかじゃなく、知識でもなくーーー経験として私は知っているのだ。
だからこそ抑えてほしい。私は大丈夫だから。私だけならいい。だが、だからこそ三人がそれだけ私の為に怒ってくれると、私すら我慢できなくなる。
先の未来に不安になってしまう。だからお願いだ。と、拙い言葉でなんとか伝える。
「………っ!」
「アミカ?」
「追いかけてこないでね。…………それと、後でいつものところに来なさい」
最後は小声だったが、確かに私に言った言葉だった。いつもの所とはよく二人で使うあの場所だろうか?
アミカは、怒りを隠しきれない顔で一人で外に出て行った。何か怒らせただろうか?
「アミカは、頭を冷やしたら直ぐに帰ってくるだろう。今は一人にしてやってくれ」
「私たちも、帰りましょうか……」
「ん……」
言われなくても、追いかける事など出来なかった。
彼女は私のライバルだから、何よりその姿を知っている。何に怒っているかは知らずとも怒っている事はわかる。
私たちは暗い気分になりながらも、帰路についた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
帰路の途中、探しても出て行ったアミカは見つからず、仕方なくクルシュさんとシムリさんと一緒に歩いて帰っている途中。
私は少し考え事をしていた。自分の気力と魔力の測定結果についてだ。
だって、いくらなんでもゼロというのはないだろう。実際、今でも気力強化は使用できているのだし。というか、してるし。
なら、あの測定結果はどういう意味なのか。
測定機の故障ーーーでは無いだろう。
私の故郷では測定結果を真実以上の能力があると騙して金を巻き上げた挙句、増長したバカを袋叩きにする一種の詐欺がよく流行っていたが、この世界の様に一つの事業として確立しているのならそれは、あり得ない。
測定機がそこまで普及してない故郷なら個人の商売だったが、この世界では真っ当な会社が営む集団の商売だ。
色んな意味で顧客を騙す事は難しい環境だろう。特にオーメスパパの突っかかりに異様にビビっていた所を見ると、オーメス親子はそれなりに相手をどうにかできる存在、もしくは常連などの客商売として蔑ろにできない存在なのだろう。
だとするならば、計機の故障でも結果を騙した訳でも無く、確かな事実という事だ。
だが、それだと今私が使っている力はなんだ?
魔力でも、気力でもない力?ーーーあり得ないだろう。
魔力と気力は世界の法則にすら組み込まれる力の絶対基準にして大原則だ。他のエネルギーがあるとは思えない。
だとすれば、私自身の力が測定機では測れない程弱いのか?ーーーこれは、あるかもしれない。
測定機の数値が何を基準にしているか判らない以上、測定基準の穴を抜けて、或いは測定する基準に満たなかった場合、という可能性がある。
評価規格外というヤツだ。規格外とはそもそも、指定した規格では測れないという意味の為、〝弱すぎる〟という意味でも使えるだろう。
だが、こうして気力を使用できる以上、皆無などという診断を下されるとは思えない。
やはりこれもボツか。
しかし、弱すぎて評価できないとは、今の私の身体能力を評価できるなら、そんな数値も納得できるのだが…………ーーーー
ーーーん?待てよ。
そういえば、私はなんで弱体化したんだ?
考えるのは苦手だから、今まであまり考えて来なかったが、身体能力とは違い、気力は明確に〝使える〟ものだ。
使える筈のものが使えないと評価されたなら話は別だろう。
そもそも、なんで弱体化したか。弱体化したのは、明らかにフェバルになってからだ。
しかし、フェバルになってから弱体化するというのは理由としては、あり得ないだろう。だって、魔神ちゃんーーープリシラはフェバルの事をなんと言った?
武闘派害虫集団ーーーそう、武闘派だ。その言葉から読み取るに、害虫はともかく、少なくともフェバルとは強者の事なのだろう。私はこの言葉をフェバルはフェバルになったから強いのではなく、不老不死として旅する長年の修行が実を結ぶからこそフェバルは強いのだと思っていた。
だが、そんな事はあり得るだろうか?
ーーー当然、あり得ない。例え、不老不死で持て余す程の時間があり、法則も文明も生物も常識も全く違う世界に何度も行くとは言え、努力では辿り着けない境地というのはある。
それに、今まで考えてなかったから指摘してなかったが、故郷のマテリムジアイヤの太陽の異様な近さと無数の大地の亀裂はフェバルの所為だと、プリシラは語っていた。
その異常な破壊痕からわかる通りフェバルは努力では辿り着けない境地にいる。
それに、コツコツと修行して強くなるならフェバルは星そのものである魔神プリシラから強者として扱われないだろうし、あんな嫌悪感も抱かれないだろう。
あまり話した訳ではないが、プリシラが努力で勝ち取った力を嗤う程外道では無いのは知っている。もし、全てのフェバルが努力によって強者の地位を築いたのなら、プリシラは寧ろフェバルを賞賛していた筈だ。
プリシラ自体があまりフェバルの事を知らないとは言え、彼女はわからない事を無条件に嫌悪するような人では無いように思える。
だとすれば、プリシラはフェバルの力の起源を知っているからこそ、嫌悪しているのだろう。プリシラが嫌悪する力の取得方法………ーーー誰かから与えられた力?
確かにフェバルに自由意思が無いとは言え、与えられた力を誇示する存在には嫌悪するだろう。
あのポンコツ魔女ーーエーナさんと言ったかーーとの会話にちょくちょく『星脈』という単語が出てきていた。
そして、会話から察するに星脈とは膨大な力の流れであり、フェバルに関係が深いものだと推測できる。
つまり、全て憶測でしか無いが、フェバルは覚醒した後、必ず何か超常的な力に目覚めるという事と、それに『星脈』が関わっている事。
そして、それが私の弱体化と何か関係があるのではないかと推測してみた。
ーーーそして、私のフェバルとしてのそれは、気力や魔力に代わる生命エネルギーとしても使えるのではないかと。
そこまで考えたところで私は足を止めた。
「………ごめん。クルシュさん、シムリさん、ちょっと行ってくるっ!」
「エネミアちゃん!?」
「エネミアくん!?」
二人の驚いた声を背に私は駆け抜ける。
迷いなどない。真っ直ぐに、頭の中に思い描いたルートを走った。
そして、辿り着く。いつもの場所。
この世界に来た時から、三日後にアミカとぶつかった場所であり、初めて私が家族の温もりを知った場所であり、初めて私がライバルを得た場所。
視界一面に広大な凪の湖が広がる綺麗な砂浜。
恐らく、上から見ればその広大な湖が実は滝である事がわかるだろう。滝の下は雲海になっていて、もしかしたら今立ってる地面は空に浮かんでるのかもしれない。………そんな景色のいい場所だ。
あの時の私はとにかく苛立っていたので、そんな状態で暗い場所やジメジメした場所にいては気分が悪くなる一方だった。
しょうがなく、お世話になってるアミカの家から近い所で、景色のいい場所を探していると見つけたのがここだ。ここはアミカのお気に入りの場所で、あの日の話を簡単に言うとそのお気に入りの場所にいた私に声をかけたアミカと盛大に喧嘩してライバルになったという訳だ。うん、わけわからんな。
そんな感じで、もう、一ヶ月以上前になる思い出に浸りながら進んでいると、目の前に探し続けた気配を感じ取った。
「…………来たね」
「……うん。約束通り」
目の前にいるのはアミカだ。約束した以上、ここにいるのがアミカ以外なんてあり得ないだろう。
私の気配を感じ取ると、背中を向けていた体勢を解き、こちらに顔を向けるアミカ。
「私、思ったんだよ。エネミアに魔力も気力も無いなら、それに代わる何かがあるんだって。パパとママは見てないし知らないけど、私は何度もエネミアが気力を使ってるところを見てるし知ってるからね」
「………うん」
穏やかな顔でそう切り出すアミカ。でも、次の瞬間、その顔は好戦的な顔に変わる。
「つまりさ、私が言いたいのはね?
ーーーーエネミア、
アミカは、どこからともなくその手に大剣を出す。白く発光する光の剣は、私の故郷では無かったが、『気剣』と呼ばれる一種の気力運用技術らしい。気力を剣の形に固定化し武器とする力だ。
刀鍛冶も真っ青の武器要らずだが、剣などのイメージが必要な為、まだまだ鍛治師が廃業するのは先かもしれない。
まぁ、それは置いといて、アミカの問いに答える。
「全力だったよ。ーーーあくまで
「そう……」
そう、確かに全力だった。だが、それはフェバルになる前の話。私は一度もフェバルの力を使っていない。
ーーーいや、こうして自分の内面に深く沈んで集中してみれば直ぐに気づく。私は確かにフェバルの力は使っていた。だが、それは無意識の発露であり、副産物に過ぎない。戦闘に使った事など
「なら、全力でぶつかって来なよ!私も、そうすれば、全力を出せるからーーーッ!!」
「いわれなくてもッ!!」
そうして、二人は地を蹴った。
こうして、いつもの姉妹喧嘩と言うには激しすぎる殺し合いが始まった。