目を覚ますとそこは知らない空間だった。
爛々と輝く星々と暗い宇宙。
少し視線を傾ければ、そこには何処か見慣れた感じがする荒廃した大地を宿し、星の表面の6割が大峡谷となって砕け散っている星。
近くには凡そ3倍の大きさの太陽が大地を焼くレベルで近い場所に置かれているその星の姿はどこの終末世界だと言いたい。
感覚的に分かるが、どうやら私は自分の育った星から外に出ているらしい。
流石魔神さんだ。巣立ちの規模が他と全く違う。
不思議な事だが、自分は教養も無い上に故郷に宇宙に関する理論とか全く発表されて無かった筈なのだが周りの広大な宇宙空間をちゃんと実感を持って捉えきれているようだ。
『やほ〜!ハロハロ、魔神さんだよ。巣立ちの前にちょっとだけ、会いに来ちゃいましたー!』
あっ、体が動くな。じゃ、早速。
ほい、ざしゅっとな。
『首がー!?君、躊躇い無いな!!中々居ないよ!?そこまで躊躇無く自分の首掻き切れる人!』
「…………試しただけ」
『いやいや、それでも凄いよ?ま、結局無意味なのはわかってくれた様だけど』
いや、体が動くなら死ねるかな、と。
斬首で自殺を図った訳だけど、やっぱり私は死ねない体になった様だ。
「………再生のオマケ付きとは思わなかった」
『いや、再生は私の力だけど。態々星脈に干渉してまで数分だけの会話タイムを都合したのに、死亡して別の星に再生とかしたら話せないじゃん』
「………一空間で、一度だけ?」
『一つの世界で回数限定の再生って訳じゃ無いよー?ぶっちゃけるとそんな高度な回復機能は無い。どちらかと言うと転生に近いシステムはあるけど、死んだら別の世界で蘇るんだよね』
「……厄介な」
本当に、厄介だ。
死ぬ事が許されないのでは無くて、生きる事を強要されてる感じか。
慣れなかったら精神がやばそうだな。慣れたくも無いけど。
何が悲しくて、これから何回も死ぬ事を想定しなきゃならんのか。
『ところで、エネミアちゃん!初めて見た私の姿に何か物申すことは?』
「…………可愛いよ?」
『ありがとーぅ!私も君可愛いと思うよー!!』
うるさいな。
でもまぁ、言ったことは事実だ。魔神さんは自分の姿に意見を要求して来た訳だけど、結構可愛らしい。
ピンク色のロングヘアに黒い上質な神官服を着た身長160㎝位の体格の細身の少女の外見で何処と無く幼い感じのする声もあって綺麗というより可愛らしい印象のする少女だ。
これが2000年も前に故郷の星の地表約6割を抉り取った魔神さんとはとても思えない。
「………結構若い?」
『あ、わかります?私の溢れ出るピチピチオーラがわかっちゃいます?』
「……………ピチピチ」
意味は分からんけど何となく死語な気がする。
最初は若いとか思ったりしたけど、さっきのでわかった。
この人結構歳だ。
『……何気に酷いこと思ってません?2000年って超越者の中では案外若いと思いませんか?まぁ、他の超越者の歳とか知りませんけど』
「……いつまで本題に行かないつもりなの?」
『そうなんですけどねぇ!?今逸らされると私は凄く不安になると言いますか!!』
「………いいから、本題」
『あれ?キレてます?わかりましたよ。本題ちゃんと言いますから。
最後に一つ、キレてますよね?』
キレてない。
「………とも、言い切れない」
『言い切って欲しかった!!
…………まぁ、いいんですけどね?じゃあ、本題ですけど貴女はこれからこの宇宙を永遠に彷徨う事になりました!拒否権も途中辞退も無し!ついでに言うとかなり悲惨な未来が確約されたデットコースです!……以上!!』
ーーーいや、以上!!じゃないから。
拒否権も無いし死ねないのは分かっていたが、永遠に彷徨うとか悲惨な未来確定とか聞いてないよ。
「………詳しく」
『ぶっちゃけあんまり知らないです』
…………お前何のために来たんや。
『だって私、フェバル嫌いなんですもん!散々人の土地荒らし回って修復もせずに勝手に消えていった上に、完全駆除不可能の武闘派害虫集団とか面倒臭くてしょうがないんだもん!!』
「取り敢えずフェバルっていうんだね……」
『そうだよー。人によっては簡単に星を消しとばす力を持ってる癖に完全に殺す事が出来ないからぶっちゃけ超めんどい害虫さん。
うちの星が太陽の位置がおかしいのも、6割砕けてるのも、フェバルの訳わからん行動の結果だったり』
………マジかよヒデェ奴だなフェバル。
あれ魔神さんのせいじゃ無かったのか。
『まぁ、そんな事実無くても、私不老不死とか苦手なんで嫌ってたと思いますけど』
………マジかよヒデェ奴だな魔神さん。
別に共感する必要とか無かったかもしれん。
自分が問答無用で嫌ってる様な存在に本人の意向無視で強制的にならせた癖に、最低限の説明義務も果たさず愚痴を吐いたのか。
………マジで、お前何のために来たのさ?
『……心なしか冷たい視線を感じる。でもいいよ!私、子供には寛容だから!私の星で生まれた人は私の我が子も同然だからね!遠慮なくビシバシ意見してくれていいからね!!』
「…………正直、魔神さん最低だと思いました」
『容赦ない!!!』
私がズバリと言い放つと、何故か荒い息を吐いて左手で胸を押さえて悶える魔神さん。
でも、疲れてるという感じじゃない。というか何処となく気持ち悪い感じがする。
何だっけこの感じ?
あ、そうそう。
確か8年前に自称〝ろりこん〟さんとかいう黒髪の変な人が私を見て荒い息をしてた時と同じ感じの…………。
私の中で過去のとある記憶が蘇る。
ーーー僕はね?12歳以下の幼児しか愛せない体質なんだ………。
あっ、こいつ唯のきもい奴だ。
何で覚えてるの、私。
僕は〝ろりこん〟だけど、人には色んなのが居るんだ。例えば弄られる事に快感を覚える〝まぞさん〟とかーーーー
「……ダメだ、これ以上思い出すな、私!!」
『…おおぅ、今日一番の大声。いきなりどうしたの?』
「…………誰のせいだと」
『もしかして、あの黒髪のフェバルの事思い出してた?8年前の』
「あの人も……フェバルなんだ」
『……地球から来たとか何とか言ってたよ?私はあまり知らない所だけど』
………マジかよ。私、これ程現実に絶望した事は無いよ。
『そう言えば8年前の地球産フェバルとは何だかんだで意気投合したなぁ。
あの人のお陰でフェバルの苦手意識もある程度薄れたし、知らない知識も多くくれたし』
「…………どーりで」
こいつの節々から感じ取れるおふざけの精神と、チラリと顔を覗かせる変態性は、あの黒髪のフェバル譲りのモノだったか。
…………絶望感が半端無い。
既にフェバルとしてやっていく自身が無い。
何より目の前の未来の変態が怖い。
『そろそろ時間だねー。言うことも言ったし、それなりに楽しかったし。ここら辺でお別れかな?
さぁ、今度こそ巣立ちの時間だよ!エネミアちゃん!!』
「…………既に帰りたい」
いや、目の前の人から早く離れないと何処と無く危ない気はするのだが、まだ顔を覗かせた程度の変態性で倒れる程、8年前の〝ろりこん〟の所業はぬるくは無かった。だからこそ覚えてる訳なんだけど。
それよりもフェバルへの悪印象がやばすぎて、絶望感が凄い。
やっていける自信が無い。
『最期におねーさんから特別なプレゼントだよ!
私こと魔神ちゃんの名前は『プリシラ・マテリム』!エネミアちゃんには私の名前である『マテリム』の姓をプレゼントするよ!
この姓は私の星生まれの『超越者』特有の名前だから、これからもしかしたら出会うかもしれない故郷の人への証明になるね!』
「……………凄く微妙なプレゼント。お金とか食べ物の方がいい」
『そんなっ!世界が違えば常識も違うんだよ!?セカンドネーム持ってて当たり前の世界も有るんだから、貰っときなよ!
それに『マテリム』を名乗っておけば、私の知り合いである証にもなるから色々融通も利くところがあるから!!』
………まぁ、その言はわかるけど。
セカンドネームがあるのが当たり前の世界もあれば無いのが当たり前の世界もあるだろうけど、それならそれで名乗らなければいいだけの話だしね。
「…………そこまで言うなら貰っとこうかな?」
『うんうんっ!しつこい位に言うよ!!私は名実共にエネミアちゃんの家族になりたい!!』
「………やっぱりやめる」
『えぇ!?何で!!?』
…………逆に、何故驚くのか。
取り敢えず、その後の魔神ちゃんの必死過ぎるお願いに軽く引きながら、渋々……本っ当に渋々『マテリム』の名を受け取り、私のフェバルとしての旅が始まった。
………あれ?
結局、魔神ちゃんあまりフェバルの事について話してないような………。
元から魔神ちゃんは『身内贔屓な性格』という設定が薄っすらとあったのですが、いざ形にして書いてみるといつの間にか8年前に変態さんと意気投合してました(笑)。
という訳で、軽度ではあるものの将来有望な変態の卵となっていた魔神ちゃん、もといプリシラちゃんの名前発覚。
主人公のエネミアにも姓ができて、案外他のフェバルからすれば平和な幸先のいいスタートを切った訳ですが、主人公の他のフェバルの人への印象は最悪に近くなりました。
魔神ちゃんのバカぁ!!何で書いてると勝手に動くのぉ!?