ーーー忘レルナ
絶対に、忘れてはならない。
単純な価値観の選択。
鮮烈な修羅道の記憶。
確定された未来の記録。
何より、預けられた思いの欠片。
その全てから私は生まれた。
ーーー忘レルナ
そこに、愛を残して。
翡翠色の腕輪が
そこに、絆を残して。
煤けたマントがその背を大きく見せる。
そこに、誓いを残して。
鉄錆の剣が血を欲して叫び声を上げている。
そこに、涙を残して。
覇道を歩む少女は夢を見る。
己が未熟だった、その日々を。全てが、可能性に満ちたーーーー何より、かけがえのないモノを貰った出会いを。
ーーー忘レルナ
その
凡ゆる願いを葬った先の地獄の具現であるという事を。
ーーー忘レルナ
その姿は願いの証。
受け取った〝大切〟を何よりも表した、誇り高き敗残者の姿である事を。
ーーー忘レルナ
ーーーどうか、忘れないでくれ
それすら忘れてしまったら、そこにはもう、『終わり』しか残っていないのだからーーーー
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「気味の悪い夢を見た………」
夢見は最悪の一言に尽きる。
思わず、顔を片手で覆ってため息をしてしまった。
その夢は嫌に鮮明に記憶に残った。
誰の話なのか分からないし、脈絡も何もない上に唐突に結論だけを残していった不思議な夢。
あれは、一体なんだったのだろう。ただの悪夢として片付けるには実感がありすぎる。
多くの疑問が残るが、ただ一つだけ確かな事がある。
それは、ただ一言のーーー『このままだとダメだ』という直感にも似た危機感を私の頭の中に残していった事。
「ん。今日もいい朝。………アミカを誘って軽く稽古でもするかな?」
ベッドから起き上がり、頭を振って気分を入れ替える。窓から見える日光が気持ちのいい朝を告げていた。
寝床の直ぐそばに置いてある愛剣を掴み、起き上がる。もう、こけたりするようなヘマはしない。
ーーーただ、今は無性にアミカに会いたかった。
その時の私の頭の中には、この星に来たばかりの頃に見た夢が脳裏に浮かんでいた。
私が、初めて死を経験した日。
私が、初めてアミカと出会った日。
登場人物の顔は曖昧で、全貌を掴めずともその夢は脳裏に焼き付いている。
片手の無い少女が、剣を掲げた少女に笑って〝あること〟を願う夢。
ああ、何故だか涙が止まらない。だってーーー
『だから、お願い。私をーーーー』
ーーー殺して、とその夢の少女は言ったのだから。
ーーーー忘レルナ
脳裏によぎったその悪夢を振り払った先で聞こえた、たった一言の言葉。
涙の意味がわからない。
何故、その夢を思い出したのかもわからない。
ただその言葉は、妙に私の頭に残ったのだった。