俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

8 / 78
なんだか、長くなったんで前後編。
フェイトエピですが更に、オリジナルの展開があるので、そう言った要素が気になる方はご注意ください。


クロスフェイト 正義を叫べ (前編)

 ■

 

 一 フェイトエピソード 最後の切り札

 

 ■

 

 騎士団の掲げる正義を誇りに、騎士の正義を使命として、彼女は蒼き剣を携え正義を問う。

 

 ”正義とは、何ぞや”

 

 正義を問われ戸惑う者よ、この蒼き剣を恐れる者よ。使命にはむき、正義を忘れるならば、この者が相手になる。

 リュミエール聖騎士団遊撃部、最後の切り札、コーデリア・ガーネット。彼女は、騎士団の使命を今日も使命を帯び、正義を問う。だが、正義を問われる者、それは、愚か者だけではない。

 

(リュミエール聖騎士団団長……シャルロッテ・フェニヤ。小柄なハーヴィン族でありながら、種族の差を覆す剣技とカリスマを持つ彼女……歴代最強とも謳われる彼女への正義審問、最も辛いものとなるだろう……)

 

 騎士団遊撃部として、彼女は騎士団を抜け姿をくらました者を追い詰める。騎士団としての使命を、正義を忘れ悪しき道に進む者あればそれを討ち、騎士団の名を貶める者あればそれも討つ。

 遊撃部としての任とは、かくも辛く厳しいものであった。それがまして、現騎士団団長を相手とするのであれば、いつも以上に厳しいものとなるのは、明白であった。だがそれを遊撃部の任務と割り切り、正義を問うべき相手を探し出す。

 

(それに、まだ他に最近団に姿を見せぬ者……退団したわけでは無いらしいが、それでも問わねばなるまいな……)

 

 聖騎士団の名は、軽くはない。たとえ見習いや新人であろうと、片手間に出来るようなものではない。その者が、リュミエール聖騎士団に仇なすか否か、小さな芽のうちに摘むのも彼女の使命だ。

 騎士団長シャルロッテ・フェニヤは、騎士団長としてよりふさわしくなると言う名目で職務を休みがちとなり、結果その姿をくらましている。使命を完遂するためには、まずシャルロッテを探し出さねばならない。

 人探しは、この任務を多くこなして来た彼女にとって常である。見つかるかはともかく、有効な手段は既に承知であるために今回も今まで通りに彼女は、シャルロッテとそれ以外の騎士団員を探し出す。

 この空の世界における人探しの常とう手段は、騎空団の人間に情報を求める事だろう。島々をめぐる騎空団は、それだけ様々な人間に出会っている。そして今は知らなくとも、今後島をめぐる上で出会う可能性もある。それでも今回探し出す人物は、騎士団長とあって特別だ。迂闊に口の軽い騎空団に話を聞くのは得策とは言えないだろう。無論百戦錬磨の遊撃部最後の切り札、下手な真似はしないがそれでも万が一を考え慎重に行う。騎士団でも名の知れた信用あるよろず屋に、情報が集まりそうでかつ、信頼のおける騎空団の紹介を頼むとある騎空団を紹介された。

 ハッキリ言って名前を考えた者はどうかしてると思うような団名であったが、よろず屋が自信をもって「必ず尋ね人につながる」と言うのでそれを信用しある島のよろず屋が経営する居酒屋で落ち合う事が決まった。

 そして、その待ち合わせ場所へと向かう途中の事。

 

「……やれやれ、私はこれから用事があるのだがね」

「へへ……悪いけどそうはいかねえよ兄ちゃん」

 

 街の路地裏の袋小路。そこでコーデリアは、悪漢達に囲まれていた。ヒューマンとドラフの混ざる悪漢達は、品のない笑みを浮かべ手にナイフにこん棒と得物を持つ。既に日は沈み時間は、夜となっている。人を呼ぶにも人通りは無い。

 

「ある人から頼まれてな、なんでもあんたに恨みがあるそうだ」

「恨み、か……確かに恨みを買う事をして来たと自覚しているがね。しかし私一人を大勢でこんな場所に追い込むとは……卑怯とは思わないのかな?」

「ひゃひゃっ!違うね、これは知略って言うんだぜ!」

「兄ちゃん一人やるだけで、大金がもらえるんだからよ。何だってするぜえ」

「ふっ……なんでも、か。だがそれがこんな浅知恵ではな」

「なにいっ!!」

 

 コーデリアの冷やかな微笑、そして挑発に悪漢達が声を上げた。

 

「相手一人を大勢で追い込むなど、子供の手段だ」

「うむぅっ!?」

「それに、君達は私を何者か知らぬようだが……相手の力量もわからずそうしたのであれば、救いようもないな」

「こ、この野郎!!」

 

 自身の事を「兄ちゃん」と男として認識しているのを見て、男達は依頼主からろくな情報を貰っていないと確信があった。指摘され動揺する様子からも間違いなかった。

 

「はっはっはっ!この程度の挑発で顔を赤くして、図星を突かれたのかな?」

「う、うるせえ!!やるぞお前ら!!」

 

 芝居がかった言葉としぐさが様になるコーデリア、もしここにいるのが悪漢でなくうら若き乙女であれば心奪われたろう。しかしここにいるのは、正義も知らぬ悪漢。もう我慢ならぬ、悪漢達がそれぞれ得物を振り上げ襲い掛かろうとする。コーデリアは、正義の証であるリュミエール聖騎士団から賜った蒼き剣を抜き構えた。多勢に無勢、相手は10人。だが恐怖は無い。引き抜かれた剣が描く蒼き光跡、一切のブレの無いそれが彼女の研ぎ澄まされた心、鍛え抜かれた剣技を現している。

 リュミエール聖騎士団、遊撃部最後の切り札。その強さが披露されるかと思われたその時であった。

 

「ほがっ!?」

「でがぁっ!?」

「たっぱすっ!?」

「むっ!!」

 

 彼女へ襲い掛かろうとした悪漢の内三人が情けなく短い悲鳴を上げ倒れた。悪漢達だけでなくコーデリアも驚き倒れた三人の傍に立つ者達を見た。

 

「おうぇ……にゃぁ~んだか物騒なかんじだにゃ……うえっぷっ!?」

「喋んなラムレッダ」

「こう言うのは好きじゃないな……その根性、鍛えなおしてやる!さあ、語り合おう!!」

「あーうん、存分にそうしてやんな」

 

 酒瓶を持つドラフのシスター、拳を構える暑苦しい金髪の少年。そして、それに挟まれた一人。

 

「……”トラブルが起きて、強い者達の中にいる地味な少年”、もしや」

「おう、姉さん。それ誰に聞いたの?」

 

 さして特徴のない少年は、何時もと変わりなく憤慨した。

 

 ■

 

 二 イケメン(きた)りて、地味霞む

 

 ■

 

「団長殿、改めて礼を言わせてくれ。ありがとう」

「ああ、はいはい」

 

 俺に頭を下げる麗人に、適当な返事をする。

 数日前、シェロさんから依頼が来て「ぜひ会って力になって欲しい人がいる」と言われる。とにかく会ってみてから、あとは俺達のほうで自由に対応してよしとの事であったので、とにかくシェロさん側でセッティングされた待ち合わせ場所で依頼人を待った。だが待ち合わせの場所に一向に来ない依頼人が心配になり、B・ビィを店で待機させ今回の依頼メンバーであったフェザー君、ラムレッダと共に待ち合わせ場所である店の周辺を探索。そしてラムレッダの「にゃんかきこえる」という言葉をうけ路地裏の方へ行ってみれば案の定ややこしそうな事が起こっていた。

 如何にも三下奴な奴らの集団が一人女を囲っている。その人が例の依頼人であるかは、すぐはわからなかったが、違ったとしても見捨てるわけにもいかない。まあ結局依頼人であったが。

 依頼人の姉さんの実力も高く、時間もかかる事も無く雑魚はボコボコにする。依頼人が現れるまで酒を飲んでいたラムレッダの酒瓶で殴打され案の定吐いたラムレッダのゲロにまみれたヤツ。フェザー君の拳を受け唐突に心入れ替えたヤツなどなんとも混沌とした場となった。街の衛兵が駆けつけ男達を連行する時、ボコボコにされゲロまみれとなった奴に、瞳が綺麗になった男達を見て何とも言えない表情であった。

 やっと場が落ち着いたので、俺達は大幅に予定が遅れたものの、もう一度約束の店に行き依頼人、コーデリア・ガーネットから話を聞いていた。

 

「人探しねえ」

「ああ、貴君はリュミエール聖騎士団を知っているかな?」

 

 そう言えば、シェロさんの言ってた騎士団の名前がそんなんだったな。やっと思い出せた。

 

「あいにく今までど田舎に住んでたもんで、そういうの知らないんですよね」

「なあに、そのように己の出身を卑下する事は無いよ。知らない事は、誰にでもある事さ」

 

 ヒューッ!イ、イケメ~ン。

 

「てことは、探してるのは騎士団関係者ですか」

「まあそんなところだね。だが、あまり深く追求しないでくれると助かるよ」

「そら勿論。態々藪を突く真似は、したくないので」

 

 俺の場合、藪を突くと蛇や鬼どころでは無い結果になりそうで怖い。

 

「助かるよ」

「まあ、とりあえず依頼の方は、その失せ人探しに情報提供ってところですかね」

「そうなるな。この島で目撃情報が幾つか上がっている。貴君達には、私と共にその調査を願いたい」

「あいあい……久々にまともな依頼だな」

 

 いつも異常なまでに増えた魔物の討伐や、盗賊団のアジトにカチコミかけての掃討作戦など、駆け出し騎空団に頼む内容ではない。まあ、うちの戦力も異常なのは承知してるが、俺一人当たりの負担が多い。魔物の巣に行った時も、洞窟が崩落して俺とそれ以外のメンバーが分断。結果、俺一人で100匹以上の魔物と戦う羽目になり、洞窟からの脱出も三日かかった。盗賊団共のアジトへのカチコミも、その日に限って「盗賊団のトップが誕生日だから」と言う理由で他の島で活動している盗賊メンバーが急きょ勢ぞろいとなり、想定の3倍の数を相手にしなければならなかった。しかも深夜の奇襲計画であったため、目立つマグナ達を置いて俺とB・ビィにフェザー君のみと言う編成のせいでかなり疲れた。

 しかもなんだ、よくよく調べると魔物の異常発生は、帝国主導による実験の結果でその後始末もせず帝国は、実験機材だけ持って撤退し増えた魔物はそのまんま放置したせい。盗賊団も構成メンバーのほとんどが帝国の脱走兵やらで構成されていた。

 また、帝国か。

 あいつらマジ許さんからな。その内本気で帝国乗り込んでやろうかこの野郎。星晶戦隊全力投入だこの野郎。

 

「どうかされたか?」

「あ、いや……ちょっと普段の疲れが出たみたいで」

 

 嫌な事を思い出したらコーデリアさんに心配された。

 帰ったらゾーイかフィラソピラと戯れよう、そして癒しを補充するんだ。

 

 ■

 

 三 イケメンと引き立て役(なお主人公)

 

 ■

 

 後日、俺は団のメンバーで街でも目立たぬ面子を揃えて情報をあつめる。単独行動に向かないコロッサス、リヴァイアサンは勿論、意思疎通が出来ても目立つユグドラシル、日光が嫌いで体力が無く聞き込みに向かないセレストもお留守番。またティアマトは人型であるが彼女をはじめ(笑)の奴らは、街に入れると何をしでかすかわかったものでは無いので、今日は船で待機させる。ようは星晶戦隊は、みんな待機。癒し達には、後でお土産をあげる。

 捜索対象の情報は、限られている。その者がハーヴィン族である事と、コーデリアさんは明言してはいないがリュミエール聖騎士団関係者である事のみ。ハーヴィン族は、シェロさんのように商人を生業にしてる者が多いがそれ以外のハーヴィンを街で見かけるのは、他の種族に比べると少ない。別に多種族との交流が少ないわけじゃないのだろうが、失礼を承知で言うと多分ドラフやエルーンの様な高身長の面子に交じり目立たなくなるのではないか。ドラフの男となると、2m越えは珍しくない、街によってはそれが集団でいるのだから、そんな中に居たらヒューマン男性だって目立たない。ううむやはり、そんな気がしてしまう。

 だからこそだろうか、一際目立つ行動をするハーヴィンとなればおのずと情報が集まる。

 

「騎士らしきハーヴィン女性の目撃情報は、結構あるようだね~」

「にゃぁ~けど情報が二通りあるにゃ」

 

 フィラソピラとラムレッダの言う通り、どうも目撃情報のハーヴィンの特徴が分かれている。どちらも騎士らしきハーヴィンなのは共通しているが、話を聞くとどうも別人のようだ。

 片方は、特に何をすると言うわけでもなく色々と話を住民から聞いて周り情報を集めていたらしい。片方は、街で困る者を見つけては、手伝いをしまくっていたと言う。

 

「とりあえず、片方はもう島を発ったらしいのは確かだな」

 

 フェザー君は、聞き込みとか地味で地道なのは苦手らしいが、暑苦しくも爽やかで人当たりが良いおかげか、案外しっかりと情報を集めてくれるので助かる。

 

「私達のほうも、似た情報ばかりだな」

「一応片方のハーヴィンのいる場所は、ある程度わかるから、行ってみるのもいいかもしれねえぜ?」

 

 B・ビィは、ゾーイと共に行動させた。俺といると、かなり相手に不信感を与える。かといって待機するのを拒否られたので、せめて見た目が良いゾーイと行動させてみたがどうやら正解だったようだ。

 さて、とにかく有力かはまだ分からないが、一人それらしいハーヴィンを見つけそれがまだこの街にいるのは、間違いないようだ。俺はすぐに別の場所で聞き込みをしているコーデリアさんと合流しその事を話した。

 

「ふむ、手あたり次第に人助けをするハーヴィンか……」

「心当たりあるんですか?」

「……実は探している人物は、何人かいてね。今回の本命は、別だったので特に話さなかったが……いや、とにかく確認した方がいいだろうな」

「ある程度場所はわかるようなんで、行きますか」

「ああ、お願いするよ」

 

 もう片方の目撃情報については、コーデリアさんも意外であったようだ。ともかく俺達は、そのハーヴィンがいると言う場所へ向かう事にした。

 

「……しかし」

「うん?どうかしたかい?」

 

 コーデリアさんが表を歩くと、蜜に集まる虫の様に、と言うとかなり言い方が酷いが、思わずそう思ってしまうほどの勢いで女性が集まる。

 

「あらぁ~いい男ねぇ!」

「ほんと、うちの旦那とはえらい違いだわぁ!」

「旅のお方かしら?ねえねえ、ちょっとうちの店、寄ってきなさいよぉ~」

「ありがとう、ご婦人方。だがすまない、今は所用があってね。またの機会に」

 

 集まる女性達を慣れた様子でかわして行き、進む姿が実に様になっている。

 

「いやいや、手慣れたもんだと感心しまして」

「ふふ……まあ、仕事柄と言うやつだ」

「羨ましい話ですねえ」

「いやはや……しかし、今日はいつもよりか声をかけられるが……どうした事だろうか」

「ああ、そりゃイケメンの姉さん、横に相棒がいるからだぜ」

「彼が?」

「地味モブ顔の相棒が、超絶イケメンの隣にいりゃ、そりゃ姉さんが目立つってもんさ」

 

 B・ビィ、ぶっ飛ばすぞお前。

 

「こらこら、B・ビィ殿。そのような事を言う者じゃない。愛嬌があって、かわいらしい顔じゃないか」

 

 おっと、一瞬ときめいたぞ俺。ヤバイヤバイ。

 しかし、モテたいとは思わないが、ちょっとぐらい街で声をかけられるぐらいの事を経験してみたいとは思う。モテたいとは、別に思わないけどさ、まあ地味だ平凡だと言われる身としては、あらいい男、なんて台詞をマジで言われてる場面を見せられては、そうも思う。いや、別にモテたいとかは思わないけど。

 

「相棒、考えてる事顔に出てるぞ」

「うそやん」

「団長、”モテたいとは思わないが、ちょっとぐらい街で声をかけられるぐらいの事を経験してみたいとは思う”みたいな事考えてたろう?」

 

 前も似た事あったけど、俺の表情筋正直すぎない?

 

「ふっ……これはこれで、面倒なものだよ」

 

 コーデリアさん、それ逆に惨めになるんで言わないでくだせえ。

 

「情報を集めるうえで、私の端麗な容姿は、なにかと便利ではあるがね……女性としては、複雑なものさ」

「まあ、そりゃそうでしょうけど」

「貴君も、シェロカルテ殿に聞いていなければ私が女性とは、わからなかったろう?」

 

 などと、突然言われて首をかしげる。

 

「は?何がっすか」

「うん……?貴君は、昨日悪漢達を蹴散らす際に、私を”姉さん”と呼んだろう?その後も自然と女性として接するので、シェロカルテ殿から依頼人が女性である事を聞いていたと思ったが……違うのかい?」

 

 あーあーなるほどね、はいはい。一瞬何の事かわからんかったが、そう言われて納得。

 

「俺ある人に無理やり鍛えられたんすよ」

「うん?」

「その過程で、襲ってくる相手が男に見えても女だったり、女と思ったら男だった……みたいなヤツが稀にいるから、相手の体格と声の出し方やクセから一発で男女見分けろって叩き込まれたんで……まあ、そう言うわけで直ぐわかりました」

「そのような事が……」

 

 ようは主にハニートラップ対策である。他にも足音で体に仕込んでる武器を見分けろとか、体重移動だけでそいつの得意な武器を予測しろとか、無茶な事ばかり叩き込まれた。勿論あのばあさんにである。しかも、慣れるとわかるもんなのだなぁ、これが……。もっとも、ハニトラにかかった事なんぞ一回も無いが。厳密には、ハニトラが一回も無かったが。

 

「ただそれ抜きでもわかりそうなもんですけどね」

「おや、そうかな?」

「だって……コーデリアさん、まんま“男装の麗人”過ぎて俺は、男と思えんですね。男性像として理想的過ぎますよ」

 

 こんな芝居がかった台詞が素で似合う男と言うのは、中々いない。そしてそんな理想的男性を演じれる男もこれまたいるもんじゃない。女性のツボをおさえた台詞や仕草と言うのも、女性ならではの技にも思える。

「なるほど……そう言う意見は、初めてだな」

「あーいや、失礼でしたね」

「ふふ、そんな事は無いよ。貴重な意見だ。……しかし、如何なる理由とは言え、最初から女性として接してもらうと言うのは、嬉しいものだよ」

「そんなもんすかね」

 

 街で女性に声をかけられもせず、ハニトラにもあわん俺にはわからん感覚である。

 

「そんなものなのだよ。男性としての振舞いが板につきすぎたのか、騎士団内でも私を女性と知っていながら先程の婦人達の様な扱いを受けてね。色々と複雑なものさ」

 

 ふむ、イケメンには、イケメンの悩みがあるらしい。俺は一生わからん悩みだろう。

 

「そういえば、信じられます?前フェザー君にハニトラがあったんですよ……」

「あぁ~あったにゃ~そう言えば」

「私が団に入る前のことかな?」

「そうそう、フィラソピラが来るちょい前かな」

「ん?そんな事あったか?」

 

 お前が忘れるなよフェザー君。

 

「噂の騎空団の一人だって聞いて、彼から俺達の情報を引き出して財産盗もうとしたらしいんですけどね」

 

 宿泊先の個室でハニトラ仕掛けに来た女が「坊や、私と良い事しない?」と迫ったら「良い事?……なるほど!それじゃあ早速語り合おうぜ!!」と良い事を自己流に解釈したフェザー君によって、”良い事”は”拳の語り合い”になり、女は一発ノックアウト。そこから女が所属する盗賊組織が捕えられた。愚かな奴だ。仮にエンゼラに侵入しても、それぞれの属性を司る星晶戦隊が、侵入者の息づかいや、体温など何かしらの形で感知して侵入者を撃退してしまう。そもそもうちの騎空団に財産など無いのに……。

 ちなみに団長である俺を何故ハニトラしなかったのか?については、「地味とは聞いたが、まさかあんな地味な男が本当にあの団の団長と思わなかった」との事。コメントは、差し控えさせていただきます。

 ところで、コーデリアさん笑ってません?ねえ?肩震えてますけど、ちょっと。

 

「……す、すまない……内容が、予想外だったので、その……くっ」

 

 まあ、笑い話ではあるけどね、何処で笑ったの?怒るよ?笑った場所によっては、依頼人で年上でも怒りますよ?ねえちょいと。

 

「ふっく……ああ、本当にすまない……」

 

 しかたない、顔を背けて笑う姿にギャップがあって可愛かったから今回は見逃そう。俺のカワイイものへのちょろさは、全空一ぞ。

 

「ふふ……さて、そろそろ例のハーヴィンがいる場所だ」

「おっと?」

 

 世間話をしていたら、いつの間にか目的の場所にたどり着いた。集めた情報では、ここでゲリラ的に人助けをするハーヴィンがいるらしいのだか……。

 

「ご老人!お荷物、とことんお持ちするです!」

「あらあら、ありがとうねぇ」

 

 いたわ。間違いないわ、一発で発見だわ。

 

「……やはりか」

 

 コーデリアさんは、彼女に見覚えあるらしく、どうやら情報は間違いないようだった。

 

「まさか、貴君を最初に見つけるとは、予想していなかったよ。ブリジール」

「え?あ、コーデリアちゃん!」

 

 小さいながらに甲冑を着込んだハーヴィン、ブリジールが驚きの声をあげた。

 

 ―――――

 

 ■

 

 一 クロスフェイト 小さな勇気はデカくなる

 

 ■

 

 リュミエール聖騎士団団長、シャルロッテ・フェニヤ。その名は、歴代最強として名を馳せ、騎士団の中で知らぬ者はいない。そして多くのハーヴィンにとっては、種族としての体格差をものともしない剣技とカリスマを併せ持つハーヴィン界の憧れとしても知られていた。

 憧れを憧れのままにするか、それとも自分自身もその高みへと昇るのか。前者を選んだとしても、だれも責めはしない。だが、己自身が後悔するだろう。だからこそ、彼女ブリジールは、ハーヴィン族でありながらもリュミエール聖騎士団の門をたたいた。

 彼女が騎士団に入る事を笑う者はいない。だがその道が困難である事を告げる者は多かった。シャルロッテ・フェニヤと言う例外、あれは正にずば抜けた努力と才あっての事、全てのハーヴィンがあの域に達する事が出来ると軽々と言える者はいない。

 そして、彼女は弱かった。ハーヴィンと言う種族差以前に全てが足りない。剣技、スタミナ、才能、あらゆる面で弱い。だが、誰もが彼女に一目置いたのは、ひたむきな努力と言う才能かも知れない。

 どれ程無理だと言われても、それを自身で理解していた。そして、あきらめはしなかった。厳しい訓練について行けない事は、常の事。それでも憧れをただの憧れ、夢物語にする気など一切なかった。

 そして、彼女は友に恵まれた。ヒューマンの女性と親友となり、彼女と共に切磋琢磨しあった。辛い時があろうと、友がいれば乗り越えられた。

 結果、彼女は友と共に見事リュミエール聖騎士団へと入団が叶い、なおもハーヴィンとしての不利や偏見に悩みつつも自身が掲げたモットー「一日十善」を行う。自分の身の丈に合わぬ善行、余計なお世話と言われても、困る者いれば手を指し伸ばす。それこそが、自身の正義だと胸張っていえる。

 

「貴君を最初に見つける事になるとは、予想していなかったよ……ブリジール」

「コ、コーデリアちゃんっ!?」

 

 一人の老婆を手助けしている時、現れた騎士団の友。そして地味目な少年。その出会いが、ブリジールとその友コーデリアにとって大きな転機となる。

 

 

 ■

 

 二 何ニモマケズ

 

 ■

 

 俺達の情報収集によって見事見つけ出したハーヴィンの女。だが、どうもコーデリアさんの探す本命とは、また別の探し人であったようだ。

 

「ブリジール……こんな所で何をしているんだい?」

 

 相手の事をコーデリアさんは、よく知っているようで呆れた調子でブリジールと呼ぶ彼女へと問いかけた。

 

「わあ、コーデリアちゃん!ご無沙汰でありますです!見習い時代以来ですか?」

「ブリジール……」

 

 さて、俺はコーデリアさんから詳しい目的は聞いていない。だが彼女の強い意志を秘めた目を見れば、ただならぬ目的であるのは理解できた。まあよからぬ感じはしなかったので、特に追及をする気は無いが。

 ともかくシリアスな雰囲気が漂ったのだが、ブリジールと言う彼女の何とも間の抜けた言葉で一気に場の空気が和んでしまった。

 

「ブリジール、その……ちゃん付けはよしてくれないか」

「え?なぜです?」

「いや……まあいい。それよりもブリジール、場所を移したい。どこか人のいない所へ」

「ああ、そうだ!コーデリアちゃん!!ちょっと手伝ってくださいです!!」

 

 やおらブリジールは、コーデリアさんの手を掴むと彼女を無理やりに連れて行ってしまう。

 

「ちょ、ちょっと待ちたまえブリジールッ!?わ、私は今から君に」

 

 コーデリアさんは、狼狽えながらもそのまま連れていかれる。

 

「……いや、これ俺達もいかんと駄目だぞ!」

 

 あまりに急な展開にポケッとしてしまったが、依頼人が連れていかれるのを黙っているわけにいかない。俺達も急いで彼女達の後を追いかけた。

 

「とことんお助けするです!」

 

 ブリジールさん、やはりハーヴィン族と言う事で年の頃はわからないが、コーデリアさんと馴染みと言うのなら年上だろう。彼女は、コーデリアさんを連れまわし行く先々で困っている人々を見つけその手伝いをしまくる。とにかく手伝う手伝う、その勢いたるや休む暇ない手伝いマラソンだ。

 東に重い荷物に困る人あれば、行って荷物をもってやり。西に犬に怯える子があれば、あっち行けと追い払い。南に粗暴な客に怯える者があれば、やめよやめよと場をおさめ。北に伸びすぎた街路樹に困る声あれば、私が切ろうと声をあげる。

 そんな人に俺は今なってる。

 

「ゼェ……ハァ……あ、あんたぁ、無茶すんなよ」

「め、面目ないです……」

 

 重い荷物を持とうとして、そこまでは良いが荷物のせいで足元が見えずこけそうになりフェザー君と俺で咄嗟に荷物と彼女を受け止める。

 犬に怯える子供のために、犬を追い払おうとしたら吠えられて逆に怯え俺とゾーイで犬をなだめてどっかに行かせた。

 乱暴な客に怯える八百屋の女将がいたので、助けに入ったらやはり怯えてしまったのでマチョビィ状態のB・ビィを客にけしかけ退散させる。女将や他の客も怯えていたが、気にしない。

 街路樹の剪定をすると言って梯子を借りてきたは良いが、登ったら高くて怯えてしまい剪定どころで無いので、仕方なしに俺が代わりに剪定した。

 

「聞き込みより疲れたぜ……」

「すまないな団長殿……付き合わせてしまって」

 

 別にコーデリアさんが謝る事は無いのだが、なんともブリジールさんとやらは、空回りが多い。それでフォローする方は大変だ。

 

「彼女、いつもこんなん何ですか……」

「ああ……彼女は、人助けをモットーとしているからね」

「そりゃ立派ですが……」

「まあ、見ての通り身の丈に合わぬ事までしようとするのだよ……」

 

 コーデリアさんもあきれた様子であるが、ブリジールさんに付き合っていると面白い事に気が付く。

 

「まあ、結果的にみんな喜んでるんで良しとしますけどね」

「そう言ってくれると助かるよ」

 

 とにかく一生懸命なブリジールさんの手助けは、空回りはしているが助けられた人は、皆笑顔であった。そうであるなら、文句は言えまい。過程も大事だが結果も重要だ。

 

「兄ちゃん、上手く切るもんだねえ?どっかの職人かい?」

「良ければうちの庭の木もやってくんねえかい?伸びちまって仕方ねえのよ」

 

 ……ふっ。どうやら、今は懐かしきユグドラシルハウスでの剪定技術が唸っちまったな。あの巨大なログハウスは、家であると同時に生きた大樹。ほっとくと枝が伸びる伸びる。だから剪定は俺の仕事だった。

 しかも面白がったユグドラシルが、ちょくちょく樹木を生やし俺に色々な形で切らせた。リクエストに応えてウィンドラビット、ビィ(B・ビィじゃない)はお手の物。リヴァイアサンにプロトバハムートだって軽いぜ。そのおかげか、技術ばかり向上して、村の老人達に植木なんかの剪定を任されまくっててしまったからな。多分これだけでも食っていけるんじゃないだろうか。

 

「わ、わ……たくさんです!」

 

 明らかにブリジールさん一人では、捌ききれない人数がワラワラ集まってきた。そして申し訳なさそうにしながらも、どこか期待した目で俺を見るブリジールさん。カワイイ。

 

「……しかたねえ、俺の鋏裁きを見せてやるぜオラア!」

 

 ――この時の、火の様に激しくも、水の様に流れる剪定技術は、瞬く間に評判となり、その日一日を費やし街の殆どの街路樹や庭木を剪定、【一夜大剪定】と呼ばれた出来事は、【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の新たな伝説を生み出し【ザンクティンゼル剪定術】と言う新たな剪定術の流派を確立したとかなんとか。

 その噂を聞きつけたある庭師のエルーン女性がいたと言うが、街の誰もが剪定技術だけ印象に残り、肝心の少年の姿がおぼろげのままであったため、【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】以外の情報は、集まらなかった。そのため「もしかしたらこの活躍で、俺個人の印象アップ?」と期待した少年の思惑は、見事にハズれたのだった。

 

 ■

 

 三 ますです!

 

 ■

 

「本当に助かりましたです!ありがとうございますです!!」

 

 俺と団の仲間と、コーデリアさん全員を巻き込んだゲリラ的人助けは、結果的に一日中行われ、本来の目的を果たせていないコーデリアさんは、後日コーデリアさんと待ち合わせたあの店でブリジールさんを交えて集まった。

 

「是非お礼を言いたかったのです!」

 

 俺は一応の目的を果たし、依頼も終わりとなりコーデリアさんからは、あとは自分達の問題だと言われたのだが、ブリジールさんがどうしてもお礼を言いたいと言う熱意に負けたコーデリアさんの許可がでたので、俺達も店に現れた。依頼も終わってるので団の皆は、自由行動と言う事にした。なので今ここには、俺とB・ビィだけ。

 

「改めて、自分リュミエール聖騎士団の新入り、ブリジールと申しますです。昨日はあわただしく、ろくに挨拶も出来ず申し訳ありませんです」

「あ、いやこれはご丁寧に……」

「団長さんの騎空団の噂は、私もかねがね聞いておりますです。団員だけでなく、団長さんもかなりお強いと聞いておりますです!」

「あ、はあ……」

「しかし、強いだけでなく素晴らしい剪定技術もお持ちとは、驚きましたです!」

「うむ、確かにあの技術……リュミエール聖国の王室庭師としても申し分ない……いや、それ以上か」

「ええ……」

 

 俺そんなにすごい事してたのか?調子乗って「これで食っていける」なんて思ってたけど、冗談のつもりだったのだが。

 

「いや、もし騎空団以外の選択肢があったなら、選んでみるのもいいかもしれないよ。君は、自分で思っている以上に多芸に秀でているかもしれない」

 

 コーデリアさんの、冗談とも本気とも取れる言葉は、一応胸にとどめておこう。

 

「しかしよお、ぱっつん髪の姉ちゃん。人助けも結構だけど、自分でやれる事ぐらい見極めないと危ないぜ?」

 

 B・ビィは割と言いにくい事をばっさり言うなあ。

 

「あう……も、申し訳ないです」

「そうだぞ、ブリジール。貴君の行いが立派なのは、私も認めるがそれで貴君に被害が出ては周りが困ると言うものだ」

「お、おっしゃる通りです……」

 

 きっとこの人は、今までも同じ事を言われたのだろうなあ、とぼんやり考えながらも、同時に昨日街の人達が喜んでいた事も思い出す。

 

「まあ、昨日も言ってましたがみんなブリジールさんに感謝してたし、今回はそれで良しッて感じですかね」

「やれやれ……良かったなブリジール」

「はいです!ありがとうございますです!」

 

 ああ~なんだろうか、今日はB・ビィがいるがそれ以外は他で自由行動。それもあって目の前で微笑み談笑するコーデリアさんにブリジールさんの組み合わせが素晴らしく和む。本人達には、あまり言えないが年頃では美女の組み合わせのはずが、見た目にウェイトがかかり美男子と美少女と言う組み合わせに見え、なんというか絵になるなあ……しかも騎士甲冑のせいもあって余計に絵になってる。場面を変えてもいいなあ、草原や花畑、二人がたたずむだけでどこでも絵になりそうだ。

 

「団長さん?どうかしたです?」

「いえいえ、なにも」

 

 いかんいかん、ちょっと考えが膨らみ過ぎた。

 

「……ところで、ブリジールさんは何でこの島に?お聞きした感じでは、騎士団の本拠地の方に居る事が殆どらしいですけど」

「あ、えっとその……自分、未だ新人なので大きな任務は、あまり来ません……けど、それでも誰かの力になりたいと思って、困っている人を助けていましたです。それで―――」

 

 彼女が話すのは、ハーヴィン族ゆえの苦悩と逆境。憧れのリュミエール聖騎士団の団長のようになるには、未だ未熟で力を付けるにも基礎体力がそもそも無い。だけれど彼女は、困る人がいれば助け続けた。一歩一歩は小さくとも、それが成長につながると信じて。「清く、正しく、高潔に」、これがリュミエール聖騎士団のモットーと言う。彼女は、それをまさに実行しているのだ。

 まあ、それを実行しまくっていたら、だんだんとそっちに集中し出し、ついに騎士団の仕事以上にのめり込み「あれ?最近ブリジールいなくない?」と言われ出した。そんなことある?と思ったが、どうも彼女は、普段から手伝いの幼子と間違われてろくに剣術指南も受けれず、騎士団の任務もあまり来ないと嘆いているようだ。そのため姿を見せなかったとしても、なんとなーく「そういえばいねえな」程度だった。そしてその頃彼女は、島を渡り善行を行い続けていたのであった。

 

「リュミエール聖騎士団って、そんなゆるい職場なんすか?」

「断じて違う……」

 

 しかしコーデリアさんの言葉も、力無いものだった。色々思う所があるらしい。まあ、本当にそんなゆるい職場なわけは無いだろう。あくまで色々な事が重なっての事だと思いたい。

 

「さて……ブリジール?彼への礼は、もう終えた。気はすんだだろう?」

「はいです!お手数おかけしましたです!!」

 

 ペコリと頭を下げるブリジールさん。くそう、カワイイ。

 

「ブリジールも満足しようだ。貴君には、色々と世話になった」

「かまいませんよ、仕事ですし」

「それじゃあ、我々は」

「あの、騎士様……」

「うん?」

 

 

 コーデリアさんが席を立ちさいならしようとしたら、突然見知らぬ男に声をかけられる。

 

「突然の無礼お許しください。そちら、昨日街で多く人助けをして下さった方々とお見受けしますが」

「はい!昨日はとことんお助けしましたです!」

「おお!これは、何と言う幸運!」

 

 男は実に嬉しそうにブリジールを見て歓声を上げる。

 

「実はお願いがあってまいりました。貴女様方に、魔物の討伐をお願いしたいのです」

「魔物討伐だと?」

「はい、実は街外れの洞窟に少し前からゴブリンが巣食ってしまい……初めは気をつけさえすれば大丈夫でしたが最近更に数を増やし、ほとほと困ってしまいまして。特に我々は、仕事でその近くの道を通って荷物を運んでいるのですが、一度襲われると何せ数が多く逃げるので精一杯……」

「むう、それは許せないです!」

 

 話を聞くとブリジールさんは、目に闘志を燃やして立ち上がった。

 

「待ちたまえブリジール。まさか貴君、行く気ではあるまいな」

「勿論行きますです!人々の暮らしを脅かす魔物、許してはおけないです!」

「やれやれ……だが、貴君ゴブリン複数相手に戦えるのか?」

「あ、それは……」

 

 ああ、この人はゴブリン相手もきついのか。もっとも、ゴブリンも知能のある魔物であり迂闊に「ゴブリン程度」と舐めてかかれば痛い目を見る。ゴブリン狩りを専門とする者もいると聞くほどだ。特に今回の様な集団となると、指揮を取るボスもいるだろう。

 単体での強さと集団の強さを知らなければ、魔物とは戦えない。ばあさんによく言われたものだ。

 

「手伝いましょうか?」

「いや、貴君にこれ以上迷惑はかけられない」

「やーしかし」

「安心したまえ、私がついていくからね」

「コーデリアちゃん?」

 

 爽やかな笑みをブリジールさんに向けるコーデリアさん。爽やかさで目が焼けそう。

 

「どうせ止めても貴君は行ってしまうだろう?止めて聞くなら、私がここに現れる事も無かったのだから。だがその後は、わかっているね?」

「コーデリアちゃん……勿論です!ありがとうです!!」

「ふっ……ところで、そろそろ、ちゃん付けは辞めて欲しいのだが……」

「お兄さん、その場所へ案内してくださいです!」

 

 コーデリアさんの最後の言葉を聞かずブリジールさんは、いかにもやる気満々という様子である。

 

「やれやれ……それでは、団長殿。我々は、これで失礼するよ」

「本当にお手伝いしなくていいんですか?」

「ああ、ゴブリンの群れとは、騎士団の任務で何度か戦っているからね。対処の仕方は、心得ている……それと」

「はいはい、わかってます。今後もう片方の情報があれば、シェロカルテさんを通してお伝えしますので」

「助かるよ。では、また会う事があれば、共に食事でもしよう、若き団長殿」

「本当にありがとうございましたです!!」

 

 まあ、コーデリアさんの強さは、最初に会った時ある程度把握している。確かにあれほどの強さなら、小さなゴブリンの群れであれば大丈夫か。深追いをするような人でもないし、手に負えないとわかれば撤退して他の騎空団に協力を仰ぐなりするだろう。あとのリュミエール聖騎士団の問題にまで関わる事は無いので、互いに社交辞令を述べて分かれる。後は俺も自由時間。久々に羽を伸ばして街を散策するのもいいだろうな。

 

「相棒、どっかでりんご食おうぜりんご」

 

 B・ビィがついてるが、この際気にしない方がいいだろう。割り切ろう、それが肝心だ。

 

 ■

 

 四 巣窟

 

 ■

 

 依頼人の男から案内されたゴブリンが巣食っていると言う洞窟。確かに魔物の発する薄気味悪い気配をその入り口奥から感じ取る事が出来る。

 

「うっ」

「怖いかい、ブリジール?」

「こ、怖いです……」

 

 まだゴブリンの姿を見てもいないが、ブリジールは既に腰が引けていた。それを見てコーデリアは、やさしく微笑みかけた。

 

「安心したまえ、私がついている。いざとなれば直ぐ撤退するつもりだ」

「け、けどそれじゃあ……困ってる皆さんが」

「ブリジール、民を助けるとは、己もまた助けねばならない。民のため戦う牙となるならば、我々は倒れる事は、許されない」

 

 リュミエール聖騎士団の騎士達にとって、命がけの任務は珍しくない。罪無き民を護り、牙無き民を護る。如何なる場で命を落とすかわからない。だが、その時その瞬間、最後まで彼らは立ち続けねばならない。彼らに死に場所は無い、あるのは無事己の命と共に、仲間と共に帰る場所のみ。命を捨てる覚悟を持って倒れた時、その後に誰が民を護るのか。

 人を守護する事は、己もまた守護せねばならない。

 

「それに貴君に何かあれば、私はとても悲しいからね……頼むから無茶はしないでおくれ」

「コーデリアちゃん……わかったです!あたし、自分の出来る事をしますです!」

「ああ、その意気だ」

 

 ブリジールらしい言葉を聞き、コーデリアは安心したようで再度洞窟の入り口を見る。

 

「前見た時は、10体程度でした」

 

 ついて来た複数の男達。依頼してきた男の仕事仲間で今までは、自分達で何とかゴブリンを追い払ってきたらしい。今も猟銃や小さな剣に手斧をもって申し訳程度の武装をしている。

 

「それ以上には増えていないのだね?」

「おそらくは……ただ、ゴブリンの繁殖力は強いですから」

「確かにね……」

 

 ゴブリンの繁殖力の高さは、広く知られている。だからこそ多くの人恐れられているのだ。

 

「ともかく様子を見よう、君達はここまででいい」

「いえ、この洞窟は見かけ以上に入り組んでいます。それに見ての通り暗いので、ゴブリン達がいるはずの居住エリアにまでは案内させてください。ある程度進みさえすれば、ゴブリン共が設置した松明もあります」

「ふむ……」

 

 詳しく男達に話を聞くとこの洞窟は、蟻の巣のように道が分かれているところがある。一度慣れてしまえば迷う事は無いが、初めて来たコーデリア達では、間違いなく迷ってしまうだろう。

 

「わかった。ではゴブリンが見つかるまで案内を頼む。その後は、直ぐに引き返してくれたまえ」

「ええ、わかりました」

 

 男達は松明を用意し火をつけた。洞窟は、松明無しではとても先が見えない暗さだ。

 

「さあ、行くよブリジール。準備はいいかい?」

「勿論です!とことんがんばるです!」

 

 頼もしい友の声を受けてコーデリアも強く頷いた。

 

 






 オマケ



「ねー団長きゅん?そういえば、同じ年上なのにあたしの事ラムレッダって呼び捨てで、コーデリアちゃんの事さん付けにゃのは、にゃんでかにゃ?」
「威厳の差」
「にゃぱあっ!?ひ、ひどいにゃあっ!」

 なお、呼び捨て自体は、嫌じゃないらしい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。