俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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キャラ崩壊と二次創作独自の設定や解釈があるのでご注意ください。

また特にイベント【リペイント・ザ・メモリー】のネタバレ、登場人物のキャラ崩壊等があるため、ご注意ください。


Repaint the Nightmare (前編)

 

 ■

 

 一 夢みるだけじゃいられない

 

 ■

 

 この時オネイロスは、自分に挑む目の前の人間達がわからないでいた──。

 

「もう人形に足止めなんかされんぞーっ!!」

「蹴散らせウロボロスッ!!」

「ほあたぁーっ!!」

「腱鞘炎上等ぬあぁーっ!!」

 

 自分が生み出したモルペウスを次々と蹴散らし向かってくる人間達──星晶戦隊(以下略)。

 オネイロスは、気に入らなかった。この人間達が。

 仲間だとか、友達だとか、“絆”と言う聞こえは良い言葉でつながろうとする者達。そんなもので縛ろうとする、利用しようとする者達。星晶戦隊(以下略)がそうだ。そしてその団長がそうだ──オネイロスは、信じて疑わない。

 忌むべきもの、忌避すべきもの、オネイロスにとって団長達はおぞましく見える。

 人間だけではない、団長達に混ざり自分に戦いを挑むB・ビィ、そしてモルフェ。

 

「だぉらあァ────ッ!! あだだだだぬぉらァ──っ!!」

「わあぁーっ!? ビ、B・ビィさん光弾撃ちすぎわああぁ~っ!?」

「わははっ!! 巻き込まれんなよモルフェェ!!」

 

 筋肉モリモリマッチョマンのマチョビィになったB・ビィが両手から無数の光弾を撃ちまくりモルペウスを吹き飛ばしていく。モルフェはその傍で他のモルペウスを、ガラガラを使い倒していた。

 なぜ星晶獣である彼らが“向こう側”なのか? “こっち側”であるはずだ。彼らとて同じ星晶獣、ましてモルフェは──オネイロスの思考は、苛立ちと共に混乱していた。

 

「私は、間違ってない……っ!! あなた達みんな嫌いよっ!!」

 

 苛立ちながらガラガラを振り回し音の波紋を広げるオネイロス。

 

「なんのファランクスッ!! せいっ!!」

 

 だが団長が障壁を生み出しそれを防ぐ。いつの間にかオネイロスの攻撃は、殆ど団長達に対して通じなくなっていた。モルペウスによる数の差もまるで効果がない。むしろモルペウスを生み出すほどオネイロス自身が消耗するだけになっている。

 

「どうした終わりか? どんどん来いっ!!」

 

 障壁(ファランクス)で攻撃を受けたとしても、100%のダメージカットは不可能、どうしてもわずかなダメージは、受けることになる。だが団長は、そんな様子をまるで感じさせない。雰囲気だけならまるでノーダメージのようだった。

 

「ばあさんやジータの攻撃は、余裕で全属性ダメカ無効(つきぬけた)ぞっ!! そんなもんか星晶獣!!」

「なんなの、なんなのあなた達は……っ!?」

「知ってるはずだろ!! 俺達は騎空団、星晶戦隊……以下省りゃあぁぁ────っくっ!!」

 

 悪夢はもう、彼らを縛らなかった。

 

 ■

 

 二 往時渺茫としてすべて夢に似たり

 

 ■

 

 オネイロス、またモルペウスに対して戦い難いと暫し攻めあぐねたが、モルフェ君の奮起によりその流れが明らかに変わるのを俺達自身が感じていた。

 戦ってわかったがそもそもオネイロスの脅威とは、その特殊な夢を操る能力である。現実の人間を悪夢へと誘い閉じ込めることが最大の攻撃なのだ。一方でオネイロス自身の強さは、ガラガラ波紋攻撃にさえ気を付ければさほど脅威と言えなかった。

 また次に脅威であったモルペウスによる数の差を埋める戦法であるが──。

 

「B・ビィ、モルペウスは頼む!! 蹴散らせといてくれっ!!」

「任せろぁああっ!!」

 

 これは最早B・ビィだけで十分対処できてしまう。

 油断し再び悪夢に囚われたりするならば話は別であるが、今の俺達にそんなものは通用しない。

 

「この、この……っ!! こいつっ!?」

 

 棍棒のように手に持ったガラガラを俺に何度も振り下ろすオネイロス。ヴェトルちゃんとしての姿と違いオネイロスの姿は、明らかに巨大であったが彼女以上の巨体の星晶獣と戦った身としては、まだまだ剣で受け止めれる範囲の攻撃だった。

 

「……とは言え、重いもんは重いなっ!?」

「お前、ふざけてるのっ!?」

 

 うちのコロッサス(本気)程巨大で無いにしても埋めれぬサイズ差、流石にあまりに攻撃を受けては手がしびれる。

 

「ところでオネイロス、人形の数が減ってんじゃないのかいっ!!」

「ちぃ……っ!!」

「これ以上モルペウス出すのも限界か……? 出せたところで、全部B・ビィが吹っ飛ばすがねっ!! もうそろそろ、終わらせてもいいと思うなあ俺」

「戦いの終わりは、お前達の悪夢よっ!! 大人しくまた悪夢に沈んでっ!!」

「そいつは──」

「お断りだなぁ!!」

 

 俺がお断りする前にカリオストロの攻撃がオネイロスに向かった。錬金術で生み出された槍が地面から伸びてゆく。

 

「ほら続けよ二人ともっ!!」

「任せてっ!!」

「日々のスケッチの成果ぁ!! サラサラおりゃぁーっ!!」

 

 カリオストロの生み出した槍の間を縫うように駆けるのは、素面で絶好調のラムレッダ。そしてルナールさんのスケッチより飛び出す魔物達。

 

「ほあっちゃあぁ──っ!!」

「GAUGAU!!」

 

 槍を避け仰け反ったオネイロスへラムレッダの拳と魔物の爪が向かう。

 

「この……来なさいモルペウスッ!!」

 

 しかしオネイロスは、ラムレッダ達の攻撃が当たる前に数体モルペウスを生み出しそれを盾にし攻撃を防いだ。モルペウスは、簡単に砕け散ったがオネイロスが身を守るには、充分であったようだ。

 

「なんてうっとうしい……っ!!」

「こっちのセリフだオネイロス!! もうオレ様達に悪夢は通用しねえっ!! 頼みの人形(モルペウス)も意味ねえんじゃお前の負けだっ!!」

「ふざけるなっ!! 誰がお前達みたいな……っ!!」

 

 オネイロスがガラガラを振るい波紋を生み出す。もう一度ファランクスを出そうとしたが、俺が行動するよりも先にモルフェ君が動いた。

 

「同質の攻撃なら……えぇーいっ!!」

「ぅあ……っ!?」

 

 モルフェ君がガラガラの杖を強く振りほとんど同じ規模の波紋を生み出した。するとオネイロスの波紋とそれは衝突し弾けて相殺された。

 相殺による衝撃でよろついたモルフェ君を支えると、彼自身自分のやった事に驚いた様子だった。

 

「やるねぇモルフェ君」

「え、ええ……本当に出来るか不安でしたけど、うまくいきました!」

「頼もしいねえまったく」

 

 この場面でモルフェ君は、本当に頼もしい存在になった。心が折れてしまうような突然の逆境を乗り越え、自ら逆境へと立ち向かう勇気を得たのだ。

 しかしどうやら、オネイロスはそんな彼の事が気に入らないらしい。同じく相殺の衝撃でよろめきながら、彼女は憎悪と嫉妬を含ませた視線を俺とモルフェ君に向けていた。

 

「……どうしてっ!!」

「うん……?」

「どうしてモルフェ(あなた)には、周りに誰か居てくれるの……っ!?」

 

 オネイロスが怒りの声を──いや、これはもう怒りだけのものではない。ただの叫びであればもう散々彼女は叫んでいる。この叫びには、ただの怒り以外の感情を感じた。

 

「オネイロス、お前……悲しいのか?」

「うぅ……っ!! うああぁぁ……っ!!」

「だとしたらもう止せっ!! 戦いを止めろ!!」

「うるさい……っ!! うるさい……っ!!」

 

 彼女の叫びは慟哭だ。怒りと苛立ちの根底に、隠し切れない悲しみがあった。

 

「悲しくて悪いの!? この怒りが悪いとでも言う気なのっ!?」

「そうじゃない!! その感情を戦う理由にしちゃいけないんだっ!! それを続けたら、君が見せた悪夢と変わらなくなるっ!! 君が囚われるぞ!?」

「何も知らないくせに……っ!! 何が違うの、モルフェと私……何が違うのよっ!? 私も捨てられた、私も辛かった……っ!! なのに、誰も……私には……っ!!」

「まさか……や、やめて姉さんっ!? それ以上悪夢をふりまいちゃ駄目だ……っ!?」

 

 様子が変わったオネイロスを見て、モルフェ君が何か嫌なもの感じ取ったのか焦りオネイロスを落ち着かせようとした。だがやはりその声は届かない。

 

「いなかったくせにっ!!」

「え……っ!?」

「私が一人の時に、いなかったくせに……っ!!」

「何を言って……おおっ!?」

「ずっと、ずっと……私は一人……っ!! 

 

 俺達もまたオネイロスの周りに異様な力が集まるのを感じた。今までの波紋攻撃とは、明らかに違った。

 

「私だけ……私だけこんな悪夢に一人はイヤアアアアァァァ────ッ!!」

 

 ヴェトルちゃんの顔で慟哭していたオネイロスの顔が絶叫と共に“裏返り”空洞へと変わった。その瞬間、その空洞からおぞましい黒い靄が大量に噴出し始めた。

 

「い、いけない……!?」

 

 オネイロスから噴き出る黒い靄を見たモルフェ君は、その正体を知っているようだった。

 

「聞くのが怖いが聞こう、何がやばいのっ!?」

「姉さんの、オネイロスとしての力……夢を操る力が暴走してますっ!! あの靄は、僕達どころか、この一帯を丸ごと悪夢で飲み込もうとしてるんですっ!!」

「つまりどうなるっ!?」

 

 カリオストロが答えを急かした。辺りには、オネイロスから発せられる異様な黒いオーラが渦巻きとんでもない事が起きようとしてるのは明らかであった。

 

「ここは“夢の回廊”です。夢ではなく、あくまでも夢へ行くための道……けどここ自体を“悪夢”に変えてしまっては、回廊内の夢の扉が悪夢を通じて全部“繋がって”しまいますっ!!」

「それは……かなり不味いんじゃないのっ!?」

 

 悪夢で繋がる──それを想像したラムレッダが顔を歪めゾッとしている。俺も皆もそうだ。果てしてそれがどんな結果を招くか。

 

「まともな夢も全部悪夢に代わる……」

「それどころか、最悪他人同士の夢が繋がって個人の境界が崩れて……っ!! そうなったら悪夢と言う集合体になって二度と“自分”に戻れなくなりますっ!!」

「史上最悪の癇癪だ……」

「今日何度思ったか数えてねえが、あえて言うぞ……まさに悪夢だ」

 

 カリオストロの言葉、まさに悪夢……ほんと“まさに”である。俺も何度今日思ったかわからん。

 事態は最悪だった。この夢の回廊には、どこの誰かは知らない人達の夢の扉もある。その全てが被害に遭ってしまうのだ。俺達は何が何でもオネイロスを止めねばならない。

 

「ひ、一先ず靄から距離を取らないと……」

「……いや、違う」

「えっ?」

 

 モルフェ君は、この黒い靄から逃げるように言う。だが俺はそう思わなかった。確かに靄は恐ろしい、だが今俺達がするべきなのは後退ではないはずだ。

 

「靄は突っ切る……っ!!」

「ええっ!?」

 

 前進、この俺の判断にやはりモルフェ君は驚いていた。

 

「む、無茶ですっ!? いくら何でも無茶だ、直ぐに悪夢に呑まれちゃいますよっ!?」

「靄の密度を減らす。靄自体に悪夢の力があるなら、少しでも晴れれば効果は薄まるんじゃないのかい?」

「それは、確かにそうですが……」

「B・ビィッ!! モルペウスはもう出てこないよな!!」

「ああ、全部ぶっ飛ばした!」

 

 オネイロスが暴走してから新しく生み出されるモルペウスの気配がなくなった。おそらく靄を生み出すのに全ての力を込めているのだろう。これでB・ビィの手が空いた。

 

「力溜めとけ、でっかいの一発頼むから」

「いいぜ、派手にやってやる」

 

 B・ビィの掌にバリバリと音をたてエネルギーが溜められていく。毎度思うがコイツ一人だけ世界観おかしい技を使うな。

 

「皆の衆、B・ビィの一撃で靄ふっとんだら一気に攻めるよ」

「任せな。こんな無茶な手をうったんだ、向こうだっていい加減限界のはずだ」

「いよいよここが正念場ね……!!」

「邪眼開放の時が来たわねっ!!」

「……邪眼?」

「あ、ごめん勢い!! 追及しないでぇ!!」

 

 誰一人退こうとしないのを見てモルフェ君も俺が、俺達が本気だとわかったらしい。相変わらず驚いているが、彼もまた退こうとしなかった。

 

「ほ、本気でやる気なんですね……っ!?」

「うん、本気。だってほっとけんでしょ」

「ほっとく……?」

「そ、あんな辛そうにしてる子」

 

 俺にはこの靄がオネイロスの涙に思えた。空っぽの顔からあふれる、空っぽの涙。ヴェトルちゃんとしての顔を失い涙を流す顔を持たないオネイロスにとっては、人を悪夢に誘うこの靄しか嘆きの感情を表せないでいる。

 

「いくつも悪夢を見てる内に考えたよ。なんで悪夢なのかって」

「えっ?」

「人を夢の世界に捕えるなら、別に悪夢じゃなくてもいい。幸せで居心地の良い夢でもいいはずだ。だってその方が目覚めたがらない……なのに、なんで悪夢なのか。そこんとこが、きっとあの子が人を、そして自分を苦しめてる理由なんだろうな」

「……」

「あれは、助けてあげなくちゃいけない子だ」

 

 モルフェ君は、俺の言葉を聞いて沈黙した。彼には、もう十分に分かっているのかもしれない。オネイロスの、ヴェトルちゃんの気持ちというものが。

 

「ま、手段が乱暴になって悪い気もするがね」

「おい、もう準備できたぜぇ……っ!!」

「ああ、わかったぁ……っ!?」

 

 B・ビィに呼ばれ奴を見れば、その掌には、バリバリと閃光を放ち今にも爆発しそうな漆黒のエネルギー体が浮いていた。

 

「お前それ俺達まで吹き飛ばねえだろうなっ!?」

「安心しなぁ……キチっと調整してやったからよぉっ!! 強そうで強くない、少し強いエネルギー弾よぉ!!」

「こえーよっ!? ハッキリしてくれそこはっ!?」

 

 果たして大丈夫かと思ってしまうが、今さら引っ込めろとも言えん。あとこれ以上ふざけてもいられん。

 

「ええい、とにかく頼むぞ!! やれB・ビィッ!!」

「っしゃああっ!! くらえ、これがオイラの……ビィッグ・バン・アタックだっ!!」

 

 B・ビィがようわからん技名を叫びエネルギー弾を靄に向かい撃ちだした。それは靄自体には向かわずオネイロスの近く、特に靄の広がる地面に衝突し炸裂する。

 

「アァ……ッ!?」

「オネイロスの動きがっ!!」

 

 激しい閃光と衝撃と共に靄を吹き飛ばしたB・ビィの攻撃は、靄を噴出するオネイロスの動きも止めるのに成功した。

 靄が晴れて一直線、オネイロスへ向かう道が生まれた。

 

「団長さん……っ!!」

 

 モルフェ君が俺に向かい叫ぶ。

 

「姉さんを……“助けて”くださいっ!!」

 

 彼への答えは決まっていた。

 

「星晶戦隊に任せなさいっ!!」

 

 ■

 

 三 POWER TO THE DREAM

 

 ■

 

 ──彼女(オネイロス)にとって“夢”とは、手段であり武器であった。

 人間のように希望だとか、明るい未来だとか、幸せでロマンティックな何かを夢想するようなモノでも、夜眠るのを楽しむものでも、センチメンタルになる“場所”でもない。

 自分を生み出した主である星の民に命じられれば空の民を眠らせ夢に捕らえる。そうする為のもの。

 そして彼女が手段として生み出し武器として利用した夢は、その全てが悪夢だった──。

 

「──夢は、全てが悪夢……っ!! 幸せなんてありえなイィィ──……ッ!!!!」

「それは違うっ!!」

 

 悪夢を経てなお立ち向かう事を止めない団長達。いくら夢と幸せを否定しようと、彼らはオネイロスに向かっていく。

 

「君は悪夢だけを生み出しそれを見続けてしまったっ!! 悪夢に飲まれたのは、君自身だっ!! その悪夢を、俺達は止めるっ!! ツインサーキュラーッ!!」

「くっ!?」

 

 団長がオネイロスに向かい剣を一瞬で二度振るい重なる二つの斬撃を繰り出した。本来二刀流で行う(アビリティ)であるが、あらゆるジョブの極意を得た者──団長やジータのような人物であれば、それを剣一本で行う事ができる。

 だがその斬撃をオネイロスは、ガラガラで受け切った。ガラガラには、ひびが入ったがそれでも二つの斬撃は、ギリギリでオネイロスからそれた。

 

「この程度で……!!」

「いやまだだっ!! ルナールさんっ!!」

「ええ、今の良い構図……もう描き上げてるわっ!!」

 

 ルナールがオネイロスに向かいスケッチブックを向けた。そのスケッチブックには、斬撃を放つ団長の姿がそっくりそのまま描かれていた。僅かな時間で描かれたと思えないその絵は、ワッと紙より浮かび上がり文字通りに“飛び出した”。

 

「そんな落書き程度で……っ!?」

 

 ルナールのスケッチから飛び出した“団長”は、団長とまったく同じ動きでオネイロスへと向い二つの斬撃を放つ。

 立て続けに“全く同じ攻撃”が来ると思わなかったオネイロスだが、とっさにこれも同じようにガラガラで攻撃を受けようとした。だがすぐ自分のガラガラが、先の攻撃でひびを入れられていたのを思い出す。

 

「しま……っ!?」

「──“ツインサーキュラーッ!! ”」

「きゃあぁっ!?」

 

 一度目のツインサーキュラーでひびの入ったガラガラは、二度目の攻撃に耐える事ができず攻撃を受けた瞬間にガラスのように砕け散った。

 オネイロスが砕けるガラガラを見て視線を落とす。両手も空き無防備な姿が曝される。

 

「このまま畳みかけるっ!!」

 

 団長だけでなく、全員がその隙を見逃さなかった。瞬時にラムレッダは駆け、ルナールはペンを走らせ、カリオストロは錬金術の術式を展開する。

 

「先行けラムレッダッ!!」

「任せてっ!!」

 

 団長の声に応え、高く跳躍したラムレッダ。彼女はそのままオネイロスへ飛び蹴りを放ち、そのまま何発も蹴りを入れた。

 

「んにゃにゃにゃにゃにゃにゃああぁぁ────ッ!!!!」

「こ、この……うぅっ!?」

 

 両手で虫を払うようにラムレッダを弾き飛ばそうとするオネイロスだったが、強烈なラムレッダの連続蹴りは、逆にオネイロスの手を寄せ付けず弾き返す。そのまま地面に下りたラムレッダだが、更にも拳も加わり彼女の連撃は続いた。

 

「私はまだまだお酒が飲みたいっ!! みんなで楽しく世界中のお酒をねっ!! それが、私の夢っ!!」

「だから、なんだと言うのよ……っ!!」

「大した意味なんてないわ。夢は楽しいものってだけ……にゃああぁぁ────っ!!」

「うあぁっ!?」

 

 連撃の最後ラムレッダは、渾身の一撃を叩き込んだ。普段の彼女からは、想像も出来ないキレのある動き。その連撃の冴えと一撃威力は、あのフェザーの拳にも劣っていなかった。

 

「次、ルナールッ!! いけるっ!?」

「大丈夫、今描き上げたわっ!!」

 

 ふら付いたオネイロスへ向け続けてルナールが再びスケッチブックを向けた。今度そこに描かれていたのは、二人の騎士の姿があった。

 

「自分の夢をもう迷ったりしないっ!! いくら悩んだっていい、後悔だってするに決まってる……けど、どれも描かなきゃ始まらないっ!! カラミティ・コミックスッ!!」

 

 スケッチブックから飛び出す二人の騎士──ポポルとマキリ、ルナールにとって完成の見えぬ憧れの二人。その二人が剣を構えオネイロスを鋭く攻撃した。

 

「くあっ!?」

「まだこれが精一杯……けど私の夢は、あんな挫折で終わらないっ!! 本当の見本市に出るのっ!! 私の絵への、耽美物への情熱は、悪夢になんて負けないんだからぁっ!!」

 

 まだまだ魔物絵師としての絵柄の抜けない二人の青年の姿。だがそれでもルナールは、彼等を描いた。描きたいからこそ描いたのだ。その熱意は、確かに本物であり“ポポル”達の剣の冴えこそがその表れだった。

 

「ぐぅっ!? まだ、まだ……こ、こんな程度でェ!?」

「──終わるわけねえよなぁ……!!」

 

 ラムレッダ、ルナールと続けて直ぐ間髪入れず既に錬金術を展開していたカリオストロが攻撃を放とうとしていた。

 

「こちとらやっと封印解けて自由なんだ。今更眠らされた上に悪夢なんざ冗談じゃねえっ!! オレ様はまだまだ可愛くなれんだからよっ!!」

「そんな勝手なっ!!」

「勝手で結構……それがカリオストロの夢だもんっ! ☆ 文句あっかっ!? くらいな、アルス・マグナアァッ!!」

「きゃあぁッ!?」

 

 赤と青、二体のウロボロスが姿を見せオネイロスを挟み込む。そしてそのまま互いに円に高速回転してゆくと二体の身体が激しい閃光を放ちながら炸裂した。

 鮮烈にして強烈、始祖カリオストロの真理の一撃は、オネイロスに大きなダメージを与えた。

 

「あ、が……うぅっ!?」

 

 閃光が収まった時オネイロスは、倒れこそしないがもうあの靄さえ出せないでいる。彼女には膝が存在しないが、通常の人型星晶獣であれば膝をついていただろう。

 

「……よせオネイロス、もう立つな」

「はぁ……はぁ……っ!! うるさい……まだ、私は……お前みたいなのに……っ!!」

 

 剣を構えながらも団長は、オネイロスに降伏を促した。事実オネイロスにはもう抵抗する力は、ほとんど残っていない。誰が見ても明らかだった。

 しかしオネイロスは、まだ空っぽの顔から呪詛めいた言葉を団長に向けて発する。

 

「なんで、なんで……お前達みんな、悪夢に囚われたくせに……っ!! 一度助かったからって、悪夢が終わるわけじゃない……っ!!」

「かもな」

「現実で、もっと酷い事が起こるかもしれないっ!!」

「そんな日もある」

「……なら何故っ!? 何故そんなに……希望を抱いて“夢”を肯定できるの……っ!?」

「夢が悪夢ばかりじゃないからさ」

「そんなの……嘘よ……っ!! 薄っぺらな優しさで塗り固めた偽善で都合の良いように言う……!! 優しい言葉は、みんな嘘っ!!」

 

 オネイロスは、武器も失いながらなお団長に掴みかかろうとした。それを見た団長は、一息呼吸をして剣をオネイロスに向ける。

 

「……地烈斬ッ!!」

「ぐぅ……っ!?」

 

 下から振り上げるような剣の軌道。放たれた斬撃のパワーが地面へと伝わり地面を割って噴出した。

 その力はラムレッダ達の奥義に比べればなんて事のない普通の奥義、だがラムレッダから始まる奥義の連鎖により溜まった力(チェインバースト)を解き放つためのものとしては十分であった。

 

「悪夢ごと吹き飛べ……ディアストロフィズムッ!!」

「あぁ……ッ!? きゃああああぁぁぁぁ────……!?」

 

 地烈斬よりも大きく広がる地面の裂け目。そこから溢れる四人による奥義に込められた力。炸裂する破壊エネルギーによる衝撃凄まじく、離れた場所にいるモルフェさえ吹き飛びそうになった。

 

「うわあぁ──ッ!?」

「っと、ぶねえ!!」

 

 衝撃で浮いたモルフェの身体をB・ビィが掴んだ。

 

「あ、ありがとうございます……」

「おう。それより……これは決まったな」

 

 徐々に収まっていく地面の破裂により生じた噴煙のような土埃。ラムレッダ、ルナール、カリオストロと姿が見えてゆき団長の姿が見える頃には、舞い上がった土埃は殆ど消え──。

 

「う、ぁ……」

 

 最後にはオネイロスではなく、地面に倒れるヴェトルの姿が見えた──。

 

 




後半へ続く

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