俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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キャラ崩壊と二次創作独自の設定や解釈があるのでご注意ください。

また特にイベント【リペイント・ザ・メモリー】のネタバレ、登場人物のキャラ崩壊等があるため、ご注意ください。


見知らぬ悪夢

 ■

 

 一 目覚めルナール

 

 ■

 

 セレストより授かった秘策(耽美)により、無事(?)ルナールさんを救出した俺達一行。ルナールさんが一時のテンションに任せて描いた本を本人の目の前で読み上げれば、大なり小なり反応するだろうと言う作戦であったが、大なりどころかそれ以上の反応であった。

 今までの悪夢の中で一番深刻な状況だったのに、方法自体があまりにも簡単のため「なんだかなぁ……」と思わないでもないが、助かったのでOKとする。

 んで、早々にルナールさんの悪夢から脱出したは良いが、扉から出てからもルナールさんは、地面で悶絶していた──。

 

「あぁあぁ~……!!」

 

 冷静になったはいいが、冷静になって自分の描いた本が読まれた事実を再度突き付けられ羞恥で悶えているのだ。

 

「読まれたぁ……!! 目の前で朗読されたぁ……!! 悪夢より悪夢だわぁ……っ!?」

「いい加減立ち直れよ……」

「ムリィ……助けてくれた以上に羞恥で死ぬぅ! 恥ずかしっ!! 恥ずか死ぃ~……っ!!」

 

 カリオストロが声をかけてもこの調子。余程ショッキングだったのだろう。

 

「お前こっちだって相当恥ずかしい思いしたんだぞ……助けるためとは言え」

「それはありがとすみませんでしたぁ──っ!!」

 

 ルナールさんは、カリオストロに向かい深く頭を下げた。

 悪夢に捕らわれていたルナールさんを助けるため、大きな声でそれはもうしっかり演技した俺達。この作戦最大の難点は、助ける側もそれなりの羞恥心に襲われる事だろう。だからやりたくなかった。

 

「けど結構楽しかったわね。カリオストロもいざ始まると演技巧かったし」

「う、うるせえナレーション役!」

 

 朗読の配役は、俺マキリ、カリオストロポポル、ラムレッダナレーション。ナレーション以外は、何れもルナールさんが大好きなポポルサーガの主要人物である。

 ぶっちゃけ配役は、時間も無いのでじゃんけんで決めた。あまったB・ビィは、教育上よろしく無いと作戦不参加としたモルフェ君の耳を塞ぐ役。

 んでまあそれはそれは、とてもとても恥ずかしい──もとい、熱意溢れる台詞のオンパレードなので本当はまだ普通なナレーションを俺もやりたかった。

 

「セレストも……もうちょっとダメージ少ない本選んだっていいじゃない……!」

「ダメージ少ない本あるんですか」

「無いですけど何かぁっ!? どれも妄想全開ですけどぉ!? 全部致命傷なんだけどぉ!?」

「ひでぇキレ方……まあ最悪のパターンでの最後の手段的に考えてたろうから責めてやらんでください」

「わかってるけどぉ……!! 団長だってあんな場面から読まなくても……!! お子様には聞かせられないでしょっ!?」

「いや全年齢向けでしょうがコレ」

「そだけどぉーっ!? そだけどちがぁうっ!! 私の中では、その後一歩も二歩も進んじゃうイメージなのぉ!! 描いてないけどそう言う展開なのよぉー……っ!!」

「知らんがな……それにちゃんと耳塞いでもらったよモルフェ君達は」

 

 ルナールさん作の耽美モノ。全年齢向けとは言えやはりそこはルナールさん作。モルフェ君達には、まだちょっと早い。モルフェ君達もよくわからない内に耳を塞がれ要領を得ていないがそれでよいのだ。うん、まだ早い。

 

「え、えーと……よく分からなかったけど大丈夫です……よ?」

「そだけどぉ……!」

「ねえ……タンビって、なに?」

「ダメッ! 忘れてっ!? まだ早いわアナタ達には!! だって私責任持てないもん! アナタは私みたいに目覚めちゃダメェ!!」

「せ、責任?」

「目覚める……?」

「ルナールさん落ち着いて、どんどん口滑ってる」

「う゛うぇ゛ぇあ゛ぁ──っ!!」

 

 再び床を悶え転がるルナールさん。創作するって大変なんだな、色々と。

 まあなんであれルナールさんが無事でよかった。最悪のケースに比べれば若干、うん若干心に傷を負ったが、時が癒してくれよう。

 

「時間も無いんでスマンですがそろそろ立ってどうぞ」

「あう」

 

 いつまでもルナールさんをゴロゴロさせるわけにもいかないので、もう強引に立ち上がらせる。彼女とていつまでもこうしてるわけにいかないのはわかってるだろう。

 

「今はとにかく助かった事を喜びましょう」

「うぅ……」

「セレストだってルナールさんに怒られるのを承知であの本を俺に託したんですよ。何言われたってルナールさんが無事に戻ってくれれば良い、それでまた絵を描いてくれるなら構わないって思ったからです」

「……うん、わかってる」

「どんなに恥ずかしくても、大好きだから絵を描いてるんじゃないですか。あのままじゃ二度とペンも握れなかったんですよ」

「……そうよね。好きだから……そんな、当たり前な理由だった」

 

 叫ぶだけ叫び、悶えるだけ悶え、やっと平静を取り戻したらしいルナールさん。するとそれを感じ取ったかのように、彼女の悪夢の扉は光の粒子となって消えていく。

 

「悪夢がただの夢に戻ってます。もうルナールさんを縛る悪夢はない、失敗だろうと乗り越えれる現実に戻ったんです」

「そっか……そうか。なんだか、むしろスッキリしたかも。うん……うん、なんか靄が晴れた感じ」

 

 ルナールさんは、悪夢に捕らわれていた時とはまるで違う表情だった。変わったのではない、元に戻ったのだ。

 

「描きたいものに悩んで挙句に見失う……変よね、今に始まったことじゃないのに。絵柄だとか話の展開とか、全部悩んで迷っての繰り返し。納得できた作品なんて数える程度……けど、それでも私は──」

 

 扉が完全に消えていく。悪夢など無かったかのように。

 

「──絵を描くの。それが私の、好きだから」

 

 ■

 

 二 悪夢のヌシ

 

 ■

 

 ルナールさんの悪夢は消え去り、そして悪夢に囚われていた三人も救出完了。思わずこのまま「帰ろうか」と言いたくなるが、そうは問屋が卸さない。

 今回の事件の原因であり、最後で最大の問題。星晶獣オネイロスの存在だ。

 

「じゃあ俺ちょっとオネイロスを何とかしてから現実に戻ろうと思うけど、カリオストロ達はどうする? 疲れてるだろうし先戻ってても良いけど」

「ちょっと飯食ってく感覚で言うな」

「団長君そんなんだから団長君なのよ」

「星晶獣の波に揉まれた者の末路ね」

 

 そんなつもりは無かったが、そんな風に聞こえたらしくカリオストロ達に呆れられた。みんなしてあんまりな言い方である。

 

「残るに決まってんだろ。やられっぱなしは、我慢ならねえ」

「私も何で狙われたのかハッキリさせたいわ」

「それにこのまま帰ってもね。オネイロスって言うのが無事じゃまた同じ事になるみたいだし」

 

 カリオストロ達は、ここに残る事を決めていた。戦力があるに越したことはないので助かると言えば助かる。実際頼れる面々だ。

 ともかくオネイロスを探す事にした俺達は、引き続きモルフェ君達の案内で用心しながら夢の回廊を進んだ。

 道中悪夢の欠片がまた襲ってきたりするものの、肝心のオネイロスの姿は無い。

 

「おいおい? オネイロス野郎は、どうしたんだよう」

「ルナールさんを助けたなら姿を見せるかもと思ったんですが……」

 

 辺りをB・ビィが見渡すがオネイロスらしい姿は、どこにも見えない。モルフェ君も解せないようである。

 この夢の回廊、わかっていたが夢に潜み夢を操るオネイロスにとっては、勝手知ったる場所だろう。それに加えて先程から周りの様子も徐々に変わってきていた。

 夢の回廊では、カリオストロ達以外の夢に通ずる扉がそこかしこにあった。三人を助けた今その扉事態に問題はないのだが、夢の回廊を進むとその扉の数が減り始めたのだ。更には、悪夢の欠片の襲撃も減ってゆき回廊内では、俺達以外の声がしなくなる。静けさがかえって不気味であった。

 

「雰囲気がだいぶ変わったな」

「回廊の深層に近づいてきたんです」

「深層?」

「夢の深層……眠りは、深ければ深いほど……逆に夢を見ない」

 

 モルフェ君達の説明によればこのエリアは、特に眠りが深い者達の深層心理の漂う場所。夢を見ないため夢に続く扉は、あまり現れないと言う。

 

「実際ルナールさんは、助けるのがもう少し遅ければ悪夢に沈みすぎて扉が消えたかもしれません」

「そうなりゃ手出しできねえからお終いか……」

「こわぁっ!? 想像だけでゾッとするわ……ほんと助かってよかった」

 

 回廊の深層は、ルナールさんがいかに間一髪であったかわかる場所だった。あんな助け方であったが、本当にギリギリだったのだ。

 しかしオネイロス、もしや居ないのか? 逃げたか? ──とも思わなくもないが、俺の経験と夢の回廊に漂う嫌な雰囲気からそれは無いだろうと確信できる。むしろずっと俺達、と言うか俺が見られてるような気がしてならない。

 

「……なあモルフェ君、そもそもオネイロスは、なんで人を悪夢で縛ろうとするんだ?」

「え?」

 

 ここで少しオネイロスについて考えてみる。なにゆえにオネイロスは、人を悪夢へ縛り苦しめるのか。

 

「星晶獣の性質か? 覇空戦争時代、“そういう風”に生み出されたからか? 未だその使命に従ってるのか? 淡々と機械的に? それともオネイロスにとってこれは、ただの戯れなのか?」

「どれも考えられる事だぜ」

 

 思いつく疑問を並べていくと、カリオストロが頷いた。

 

「星晶獣が星の民に生み出された時に与えられた使命、それに従って今なお行動するなんて別に不思議な話じゃない。星の民が居なくなって解放されたんで好き勝手してるのもあり得る。それに今回被害にあったのもオレ様達。標的にされただろう夢占いの場には、B・ビィもミスラもいたのにだ。無意識に“空の民”を狙った可能性さえある」

「俺もいたんだけど?」

「知らねえよ。影薄いから気づかれなかったんじゃねえか?」

「ひでぇ!?」

 

 真剣に考えてたら最後に酷い事を言われた。ともかくオネイロスは、今回の事で何か目的があるのかが気になるのだ。目的があって人を襲うのか、天災のように人々を襲うのか。

 

「今回の件どうも俺は、オネイロスが俺達を偶然襲ったように思えないんだ」

「それって……まさか、初めから団長さん達を狙っていたと?」

「確証はないよ。ただ何故俺達だったのかが気になる。やっぱり夢占いが切っ掛けなのか……」

 

 ここで俺は、夢の回廊に入る前にモルフェ君から聞いた彼等自身の話を思い出した。

 

「モルフェ君、確か君達の村の人間も同じ被害にあったんだよね」

「ええ、僕と姉さん以外全員眠ったままで……」

「その時何か前触れのようなものはなかった? 夢見の悪い人が居たとか君達が夢占いをしていたとか、そう……何か今回との共通点とか」

「共通点……えっと──」

「特に無かった」

 

 モルフェ君が質問に答えようとしたが、割って入るようにヴェトルちゃんが答える。あまり強引な事をしないと思っていたので少し驚いた。それはモルフェ君もそうであったようで驚いた様子でヴェトルちゃんを見る。

 

「姉さん?」

「無かった……別に、何も……でしょ、モルフェ」

「あ、うん……うん、確かに……そうだけど」

「……そうか。何かオネイロスについてわかればと思ったけど仕方ない」

「だがお前ら村の人間助けるためって言うが、何時からそうなんだ。その村の方も今どうなってる?」

「それは……」

「確かにそんな奇妙な事件あれば耳に入りそうよね」

「騎空団なら猶更情報集まるだろうし」

「えっと、そうですね……えっと……えっと…………?」

 

 続けてカリオストロが質問をした。さらにラムレッダとルナールさんも……だが奇妙な事にモルフェ君は、直ぐに答えない……と言うよりも、自分でも“わからない”ために答えられないような様子だった。

 どうもおかしいと思い俺もカリオストロも顔を見合わせる。

 

「……じゃあ村と島の名前は? 聞いた事あるかもしれない」

「えっと、僕達の故郷の村は──」

 

 だが、モルフェ君が質問に答えようとしたその時だった。

 

「キャァ……ッ!?」

 

 突如ヴェトルちゃんの悲鳴が響く。俺も皆も一斉に声のほうを向くと何時の間にかヴェトルちゃんが巨大な影につかまっていたのだ。

 

「姉さんっ!? あれは、まさかオネイロス……ッ!?」

「あいつがか!?」

「い、いつの間に現れたのよ!?」

 

 なんの前触れもなく表れたオネイロスらしき影。だがその正確な正体を確かめるよりも、ヴェトルちゃんを助けねばならない。俺達は急ぎオネイロスを追ったが、それを遮るように大量の悪夢の欠片が現れ俺たちの行く手を阻んだ。

 

「うおおっ!? こいつらなんだって急にっ!?」

「オネイロスが呼び出したのかもしれません!!」

 

 こうしてる間に悪夢の欠片は、俺達を取り囲むように更に増えていく。その動きからオネイロスが操っているのは、まず間違いなかった。

 

「ま、待てオネイロス!!」

「君が待てモルフェ君!! 一人じゃいかんってば!!」

 

 ヴェトルちゃんを連れ去られ動揺したモルフェ君が一人オネイロスを追いかけようとした。だがその肩をつかみ引き留める。

 

「団長さん姉さんが……!!」

「大丈夫俺が助ける。君はB・ビィ達といなさい」

「けどっ!?」

「まず落ち着きなさい。ヴェトルちゃんが連れてかれたらこの面々で夢の回廊に詳しいのは君しかいない。万が一の時は、君がB・ビィ達を連れてまず現実に戻れ」

「そんなっ!? そんな事出来ませんよっ!?」

「だから万が一だよ。それに相手は星晶獣、慌ててみんなで追わんほうがいい。B・ビィ、モルフェ君頼む。カリオストロ達と欠片共から守ってやってくれ」

「あいよ!! コイツラ片づけたら直ぐ追いつく!!」

「団長さん……」

「大丈夫だから、ヴェトルちゃんは絶対取り戻す」

 

 悪夢の欠片の数は多いが、こちらにはB・ビィとカリオストロ達がいる。未だ能力の詳細不明の星晶獣相手にモルフェ君を無理に連れて行くより、こちらに残ってもらった方がむしろ安心できた。B・ビィ達ならばモルフェ君を守りつつもそう時間もたたず俺に追いついてもくれるだろう。

 

「じゃあ先行くわ! みんな気を付けろよ」

「そっちも気を付けてね!」

「油断すんなよ!! なに仕掛けてくるか予想つかねえぞ!!」

 

 無数の悪夢の欠片を一旦B・ビィ達に任せた俺は、急ぎオネイロスを追いかけた。回廊を漂うように逃走するオネイロスは、あまり足が速いとは言えず直ぐにでも追いつけそうではあった。だがむしろそれは俺を誘い込むような動きにも思える。

 違和感を覚え果たして「直ぐに追いついてしまって良いのか?」とさえ思えたが、オネイロスに捕らえられたヴェトルちゃんの姿を見ては悩む暇はない。必死に駆けた俺は、やはり直ぐにオネイロスに追いついた。

 

「待てコラ、止まれ止まれオネイロス!! せめてヴェトルちゃん置いてけ!!」

 

 静止を呼びかけるがそんな俺の声を聴くわけがない。案の定まだ逃げようとするので仕方なく剣を抜く。

 だが俺が剣を抜いたのを見てオネイロスは、ヴェトルちゃんを盾のように突き出した。「うっ!」と唸る。彼女に攻撃を当てないで助けれるかと言われると出来なくも無い。だがこう言う手段をやられると俺は弱い、マジで苦手だ。まして相手は星晶獣、しかたなく剣は鞘に戻す。

 

「ぬう~子供を盾にするかぁ~!?」

「…………」

 

 俺の言葉にオネイロスは答えない。ヴェトルちゃんも気絶しているのかグッタリとしている。

 

「剣でなくとも戦えるんだぞ俺は。ヴェトルちゃんを傷つけないで助けるのも出来んくは無い」

「……」

 

 オネイロスは無言だった。俺の言葉は、聞こえてはいるだろうが……これはつまり「やれるものならやってみろ」と言う事であろうか。だがそうでなくてもやるしかない。モルフェ君にヴェトルちゃん助けると言ったし。

 

「いくぞこの野郎! 待ってろヴェトルちゃんっ!!」

 

 まずはヴェトルちゃんを助けるため、幾分か強引になるが素手で戦う事にする。あくまでヴェトルちゃんを助ける事を優先した戦いだ。彼女を無事取り戻せれば、B・ビィ達とも合流してオネイロスと心置きなく戦える。

 ヴェトルちゃんを盾にしたままのオネイロスに向かって走り、ヴェトルちゃんへと手を伸ばした。

 すると俺の伸ばした手を突然つかむ者がいた。だがオネイロスではない。

 

「……やっと」

「……つかまえた……」

「──っ!? “君”は!?」

「ふふ……」

「あはは……っ!」

 

 オネイロスに近づいた事で回廊深層の薄暗さでもオネイロスの顔が見えた。そして俺を見つめるのは、同じ二つの顔。それに驚愕した俺の隙をつきオネイロスは、その細い腕を伸ばしもう一方の俺の手をつかんだ。

 左右つかまれた腕、だがそれをつかむ手は、何もかも同じ少女の手をしている。

 

「オネイロス、やっぱり……“君”は……っ!?」

「ここなら……引き込める……」

「あなたも、悪夢に……溺れなさい……っ!」

「おおっ!? なにを──」

 

 状況を理解する間もなく、そのままオネイロスの抱擁を受けた俺の意識は、ここで途切れた──。

 

 ■

 

 三 悪夢の深淵

 

 ■

 

「おい……どういうこった」

 

 悪夢の欠片の殆どが主にB・ビィとカリオストロにより吹き飛ばされ、直ぐに彼等は団長の後を追った。団長の予想通りルナールも揃ったB・ビィ達に悪夢の欠片では、多少の足止め程度にしかならない。

 だが“多少”であっても足止めには違いない。B・ビィ達が団長に追いついたと思った瞬間団長は、突如オネイロスの抱擁を受けヴェトル諸共回廊の暗闇へと解けるように消えていったのだ。

 

「団長は……あいつはどこに連れてかれた!?」

 

 カリオストロが叫び辺りを見渡す。だがもうこの場には、オネイロスもヴェトルも、そして団長の姿はない。

 

「まさか、悪夢……? 夢の回廊内で直接悪夢に引き込んだ!?」

 

 モルフェは目の前で起きた事から団長がどこに連れてかれたか予想が付いた。だがまさかオネイロスがここで直接団長を悪夢に引き込もうとするとは、思っていなかった様子だった。

 

「最初から狙ってた……団長さんの言ってた通り狙いは、この騎空団……いや、団長さん一人だった?」

「誰が狙いだったかなんざ今はいい!! それより……アイツは悪夢に連れ込まれたって事で良いんだな!?」

「は、はい……」

「……良し、わかった。すまねえな、取り乱した」

 

 団長が悪夢に連れて行かれたと言うモルフェの言葉を聞き、取り乱していたカリオストロは大きく深呼吸をして落ち着きを取り戻す。

 

「悪夢って事なら、助ける手段があるって事だ」

「そうか、私達みたいに団長の扉がどこかに出てくる筈よね」

 

 ルナールが自分達と同じように団長を助ければいいと気付く。だがモルフェの方は、不安の色を隠せていなかった。

 

「それも、そうですが……その扉を見つけようにも」

 

 カリオストロ達が辺りを見渡す。だが夢へと続く扉らしきものは、特に見当たらなかった。先程モルフェ達が話していた通り、この場所は深い眠りについた者の場所。眠りが深くなるほどに夢は見ず扉は現れない。つまり団長もまた──。

 

「だが直ぐに悪夢に呑まれるとは限らねえ筈だ。アイツの意識が消えるより先に、とにかくそれらしい扉を片っ端から探すぞ!!」

「そうしてぇが……オネイロスは、好きにさせてくれないようだぜ」

 

 B・ビィが何かに気付く。彼の視線の先には、蹴散らしたばかりの悪夢の欠片の新たな群れがB・ビィ達へと迫っていた。

 

「どうやら相棒が狙いだったてぇのは、ほぼ間違いないらしい。目的は知らねえがよう」

 

 モルフェは先ほどの団長の言葉を思い出した。“万が一は、先に現実に逃げろ”。今まさにこの状況こそが“万が一”ではないのか? そう思いひとまずB・ビィ達の脱出を優先しようとした。

 

「まだだモルフェ、まだ“万が一”じゃあねえなあ」

 

 だがモルフェが脱出を提案するよりも先にB・ビィがその考えを読んだのかモルフェの考えを否定した。

 

「相棒が攫われるのは、これで三度目だ。万が一じゃねえ」

「既に二度もっ!?」

「敵が大勢……これも毎度のこと、万が一じゃねえ。全部普段通りだ。傍から見て不利、毎度の事よ。こっからがオイラ達星晶戦隊(以下略)の戦いよう」

 

 B・ビィに焦りはなかった。まったく普段と変わらぬ様子で悪夢の欠片を迎え撃つつもりでいる。

 

「おいモルフェ、お前はラムレッダ達と団長の扉探せ。ザコはオレ様とB・ビィで引き付ける!!」

 

 B・ビィは拳を構え、カリオストロはウロボロスを呼び出した。無数の欠片を迎え撃つつもりなのだ。

 

「けどさっきより数が多いんですよ!?」

「あんなんオレ様だけでも物の数じゃねえんだよ。だがちょっとだろうと扉探す邪魔をさせるわけにいかねえんだ」

「それは……だけど直ぐ扉が見つかるか、有るかすらわからない……」

「扉がなけりゃ団長自身を探せ! 地味で幸薄い気配辿ればそこにいる」

「地味で幸薄い気配ってほぼ気配無いのではっ!?」

「とにかく探せっ! 地味で幸薄くて団長に見えなくてもアイツは団長なんだよ!!」

「そう言う事だぜモルフェ。それにお前の姉貴も攫われてるんだからな。ラムレッダ、ルナール。すまねえが相棒の方を探してくれ。あいつ置いて帰るわけにいかねえ」

「わかってる。私達だけで帰れるわけないわ」

「モルフェ君、扉……と言うか夢の気配は、あなたの方がわかるわ。お願い、団長さんの夢が探せる内に……!」

「み、みなさん……」

 

 決して諦めない様子のB・ビィ達。そんな彼らを見て弱気になっていたモルフェは、自分を情けなく思った。姉であるヴェトルを置いて逃げるわけにいかない。その姉を追って捕まった団長も放ってはおけない。そして姉がいないからこそモルフェは、自分もまた諦める訳にいかないのだと強く思った。

 

「……わかりました。団長さんとオネイロスの気配も同時に辿ればきっと……やってみます!!」

「よっしゃ、扉見つけたら呼んでくれ。オイラ達も直ぐに駆けつける」

「無茶承知で言うが早めに頼むぜ。アイツの事だから、直ぐにどうにかならねえとは思うがな」

「はいっ!」

 

 気持ちを切り替えたモルフェは、ラムレッダとルナールと共に団長の悪夢へと続く扉を探しへと向かう。

 

「おい、B・ビィ」

「おうなんだ?」

 

 モルフェ達が扉の捜索に向かうのを見てカリオストロは、B・ビィへと声をかけた。

 

「団長の悪夢……なんだと思う」

「さあな。知っての通り苦労が多い奴だからな」

「気の毒な奴だぜ」

「ま、相棒は……大丈夫さ。なんとかなる」

「根拠は?」

「そりゃ“相棒”は、オイラ達の“団長”だからな」

「はっ! 違いねえ!!」

 

 カリオストロとB・ビィは、迫る悪夢の欠片の群れを迎え撃つ。自分達の団長を助ける時間を稼ぐために。

 

 ■

 

 四 アノヒノキミニ

 

 ■

 

 ──ザンクティンゼル。ファータ・グランデ空域にある何の変哲もない、平和でのどかな小さい島。

 ……ある時、俺の住む島ザンクティンゼルへ少女が“墜ちた”。それが全ての始まりだった。俺はその場にはいなかったが、村に住む幼馴染のジータが彼女の元へと向かった。そして直ぐエルステ帝国の船が現れそこから兵隊達が少女を狙う。その中でジータはルリアを守り──。

 

「……森?」

 

 ──ふと、自分のいる場所が何処か分からなくなった。不思議な話だ。ここが何処かなんて考えるまでもないのに、ここは“ザンクティンゼルの森”だ。

 はて、だとして俺はここに何をしに来たのだろう? ザンクティンゼルの森には、獣を狩るか野草やキノコを採りに来るが……俺は、そんな準備をしていない。

 それに直前まで何か懐かしい事を思い出していたような気がしたが……

 

「……ジータ、そうだあいつ」

 

 ふと幼馴染であり妹分であるジータの事を思い出す。あいつはどこにいったのだ? どこに──ああ、そうか。俺はあいつを追いかけて森に来たのだった。

 突然島に巨大な戦艦が現れそこから小さな少女らしき者が墜ちて来て……それで、それでジータはそれをおいかけて……。

 どこの国の艇か知らないが、巨大な戦艦が来てる中で一人勝手に動いて何かあったらどうするつもりなのか。

 

「ジータ……あいつ、どこに……ビィもいる筈」

 

 フラフラと何故か思う様に身体が動かない。そのまま俺は、森をさ迷う様に進む。

 

「ジータ……おい、どこいったんだ! ビィ、返事しろ!!」

 

 いつもいつも、俺に心配させる妹分。俺の幼馴染……。森に獣どころか魔物を狩りにいくような娘。そんな彼女へと呼びかける。彼女と共にある子竜のビィへも。

 だが返事がない。それがひどく不安にさせる。何故ジータの声が聞こえないのだろう。早く彼女の声を聞きたい。ジータ、ジータ……。

 

「おい、ジータ、おーい!! ジータ……ッ!! おーいっ!?」

 

 どこにいる? 狭い小さなザンクティンゼルの森、だが今その森が広く感じる。庭の様にさえ思っているこの森が……。

 一時間か、二時間か、それ以上か……時間の感覚を失い俺は、森を移動していく。そしてやっと森の開けたところへと出る。

 

「ジータ……! おい、ジータ……ッ!」

「ビィ……?」

 

 森の広場に出たらとビィの声が聞こえて来た。ビィが居るならジータもいる。この声が聞こえてホッとする。

 

「どこ行ってたんだ……おい、二人共早く戻って……」

「ジータ……なあ、お願いだ……! 起きてくれよぉ……!!」

「……ジータ?」

 

 確かにビィは、ジータといた。地面に横たわり動かない彼女の傍に。

 

「なんで……ジータ……なんでっ!?」

 

 駆けた。全身が凍り付くような感覚だった。“夢”であってくれ、嘘であってくれと願った。だが、俺がジータとビィの傍に来ても彼女は、何一つ喋らない。

 何時だって俺の姿を見れば「お兄ちゃん」とはしゃぐはずなのに。

 

「あ、兄貴……兄貴ッ!? ジータが、ジータが……!!」

 

 ビィが俺になにか言っている。だがその言葉が入ってこない。それよりも目の前のジータの事しか考えられない。

 大きく切り裂かれた身体からは、まだ少し暖かい血が出ている。その瞳からは、既に生気が感じられない。彼女の命が消えようとしている。

 

「……おに……ちゃ」

 

 小さくかすれる彼女の声がする。

 

「ジータ、喋るな……ジータ……」

「いたい……痛いよ……寒い……」

「大丈夫、大丈夫だから……」

「身体が……冷たいの、寒いよ……お兄ちゃん」

 

 何もしてやれない。こんな酷い怪我を負った彼女に対して俺は、何もできないでいる。治療の術も何もかも“この時”俺は、何一つ知らない。

 

「なんで……もっと早くキテく、れ……なか……」

 

 ……そうだ。俺が、俺がもっと早くここに来れていれば彼女は、ジータはこんな思いをせずに済んだ。

 

「兄貴……どうして、ジータと……一緒にイテくれなかったンダ……」

 

 そうだ。俺が目を離さなければ、あの時──そう、“あの時”……。

 

「……どうシテ、ドウシテ一緒にイテくれなかったの……」

「…………」

「おニィちゃン……の、せいで……」

「アニキが……ジータを見失わナキャ……」

 

 俺が、ジータから目を離した……。俺のせいで……。

 

「ヒトリは……いや」

「ジータ……」

「一緒……ずっと……イッショに」

 

 淀んだ瞳が俺を見つめる。冷たい彼女の手が俺に伸びる。その手を俺は──

 

 ■

 

 五 探し物はなんですか

 

 ■

 

 悪夢に囚われた団長、その扉を探すモルフェとラムレッダ達。扉の少ない夢の回廊深層を必死に探し回った。

 

「ないない、無いっ!!」

「ほんとに影も形も無い!!」

 

 ラムレッダがルナールがもどかしそうに叫ぶ。薄暗い回廊深層、物陰と言う物はなくひたすらに扉らしきものを見渡し探す事しか出来ない。

 

「深層じゃないって事とかありえないのっ?」

「い、いえ……多分無いと思います」

 

 いくら探せど見つからない団長の扉。ルナールは、この深層エリアにはないのではないかと考えたが、モルフェはその可能性が低いと考えていた。

 

「と言うよりもここ以外で悪夢に閉じ込める必要がありません。仮に扉を見つけられたとしても団長さんを悪夢に閉じ込めたいなら深層部が確実ですから……」

「じゃあやっぱり現れるかわからない扉を探し続けるしかないわけね……」

「だとしても、こんな場所です。現れてさえくれれば目立つはず。見落とさないようにするしかありません」

「もちろんわかってるけど……危ないっ!!」

「わあっ!?」

 

 ラムレッダが咄嗟に拳をモルフェの背後に向かい突き出す。それに当然驚くモルフェであったが、すぐに彼の後ろから「カララァンッ!!」と音が鳴った。

 

「あ、悪夢の欠片……」

 

 モルフェの背後には、玩具のガラガラ型の悪夢の欠片が目を回し倒れており程なく消滅した。

 

「す、すみません、助かりました」

「気にしないで。けど、やっぱりこっちにも出るわね」

 

 悪夢の欠片の大群は、B・ビィとカリオストロに任せて来たモルフェ達。だが少数であっても妨害のためか悪夢の欠片は、モルフェ達のところにも現れた。

 

「こいつらのせいで扉を見逃したら大変ね……」

「やっぱりなるべく私とルナールで欠片の相手するわ。モルフェ君は、探すのに集中してちょうだい」

「わかりました。負担かけて申し訳ないです」

「いいのいいの、慣れっこだもの」

「この騎空団じゃこんなの日常茶飯事よ」

 

 この時モルフェは、ラムレッダとルナールを見縊っていたつもりはない。だが戦う姿としてB・ビィのような星晶獣、そしてカリオストロのような飛びぬけた天才錬金術師を先に見てしまうとその強さの印象は、どうしても弱くなった。

 だがいざ彼女達に守られていると「やはり星晶戦隊(以下略)なのだ」とわかる。

 ラムレッダは、未だほぼ素面を保ち今しがたモルフェを助けたようにその拳で戦える。ルナールもまた悪夢から助けられて直ぐにも拘らず冴えわたる魔物絵の妙技を具現化し悪夢の欠片を撃退している。

 彼女たちとてあの星晶戦隊(以下略)の団員、ただの酔っ払いと絵師(腐)ではない。

 

(僕も諦めるわけにいかない。まだ探せる……もっと探るんだ。気配はあるはずだ。オネイロスと団長さんの気配の残り)

 

 ラムレッダ達を信用し悪夢の欠片の事を完全に意識から外したモルフェ。彼は必死に周辺に残るオネイロスや団長の痕跡や気配の残りを探った。

 夢が生まれさえすれば現れる回廊の揺らぎ、それによる扉の出現。

 

(オネイロスの気配……これは、まだ残ってる)

 

 オネイロスの気配、これ自体は早い段階で辿る事が出来た。だが夢の回廊にオネイロスの気配があるのは、ある意味で当然と言える。オネイロスは、この世界ではどこからでも現れどこへでも移動できるのだ。オネイロスの大まかな位置を辿れてもそこで行き詰まる。肝心なのは、団長の方なのだ。

 

(どう探す……オネイロスの濃い気配だけ追っても……“濃い”?)

 

 ここでモルフェは、初め気にも留めなかったオネイロスの気配に混ざる“薄い気配”に気付く。悪夢の欠片か何かのものと思っていたモルフェだが、カリオストロの言葉を思い出した。

 

『──地味で幸薄い気配辿ればそこにいる』

(……これの事!)

 

 探るべく気配を見つけた彼は、まるで一本の生糸のように細いその気配を辿った。果たしてそれが悪夢に囚われたから薄い気配なのか、カリオストロの言うような生まれ持ってのものかはわからない。だが「きっと本人には言わない方が良いだろう……」とこんな状況ながらモルフェは思った。

 

 そして細く薄い気配を見失わないよう集中して扉捜索から十分程経とうとした時である。

 

「ねえ、ちょっと……あれ!!」

 

 ルナールが深層部でも特に暗がりである場所を指差し叫ぶ。モルフェ達がその指先につられ先を見ればついにそこには、夢へと続く扉があった。

 

「あった、あった……っ!! 扉だ!!」

「団長君ので間違いないかしら!」

「すぐに確認を……そうだB・ビィさん達も」

「おう、呼んだか?」

「わあ!?」

 

 扉を見つけ悪夢の欠片の大群を任せたB・ビィ達を呼びに行こうと振り向いたモルフェ。だが振り向いてすぐ目の前には、その目当てのB・ビィとカリオストロがいた。

 

「な、なんでこっちに……」

「全部片づけて来たからな」

「全部!? あの数をですか!?」

「言っただろ、あんなん物の数じゃねえって」

 

 B・ビィとカリオストロには、目立った傷が無いどころか正に無傷だった。それでいて大群であった悪夢の欠片を片付け息切れ一つしていない。カリオストロの言葉は、決して自惚れでもモルフェへの発破でもなく、紛れもない事実からのものなのだ。

 

「それよりこの扉があいつのか?」

「ええ、間違いないと思います」

「そうか……扉があるならまだアイツの意識は、心は悪夢に負けてねえ」

 

 目の前の扉を見てカリオストロは、ホッと胸をなでおろした。

 

「一番最悪なのは、扉が無い場合だったからな」

「全くだぜ。出入り口があんなら相棒の事だし自分で出てくる可能性すらあんぜ」

「あーそれあり得る」

「めっちゃわかる」

「いや、流石にそれは……」

 

 扉が見つかってB・ビィ達もホッとしたのか、雰囲気がだんだん緩くなっていく。元から若干緩めであったが、これもまた星晶戦隊(以下略)の力(?)の様なものなのかとモルフェは思った。

 

「とにかく中に入って団長さんを──」

 

 団長を助けるため、モルフェが団長のものと思われる扉へ入ろうとする。だがそれとほぼ同時の事である。“ジャララ……ッ!!”と鉄の擦れる音を鳴らし、突如扉の周りから鋼鉄の鎖が伸びてきて扉を雁字搦めにしてしまい、最後には強固な錠前が扉を閉じてしまったのだ。

 

「扉がっ!?」

 

 モルフェが慌てて扉を開こうと試す。だがやはり扉が開くどころか鎖を外す事も出来ない。その過剰なまでの扉の封印は、イケロスが護っていたカリオストロ達の扉の比ではなかった。

 

「誰が……なんて聞くまでもねえよな」

 

 明らかにモルフェ達を扉に入れないよう妨害するように現れた鎖。このタイミングでこのような事が出来るのは、もう一つの存在に絞られる。

 

「見てるんだろオネイロス!! いい加減コソコソしないで出てきな!!」

 

 カリオストロが叫ぶ。すると彼女達と扉を遮るように景色を歪めきりのようにそれは現れた。

 

「──本当に邪魔な子たち。……諦めて帰ればいいのに……」

 

 青と紫の混ざるドレスを怪しく揺らし、苛立った声を出し空間の揺らめきと共にオネイロスは現れた。

 

 ■

 

 六 扉を超えて

 

 ■

 

「ほう、思いの外アッサリ出て来たじゃねえか? 逃げるのは諦めたかよ」

「……うふふ」

 

 カリオストロは、現れたオネイロスに対して挑発的に話しかける。それに対しオネイロスは、嘲笑で答える。

 この時回廊深層の暗がりで見えていなかったオネイロスの“顔”がついに見える。それを見たラムレッダ達は、ギョッと驚き目を見開いた。

 オネイロスの顔面、そこにはあるべき目や鼻や口が無い、その代りくり抜いたようにポッカリと空洞が開いていたのだ。

 

「別に逃げてなんてないわ……本当は、あなた達は見逃しても良かったけど……いい加減、邪魔になった。だから、出て来てあげたのよ……」

 

 空洞の顔で怪しく話し出すオネイロス。だが相手は星晶獣、一見人と姿が似ててもその実大いに違うと言う事は不思議ではない。特にそんな事に慣れているラムレッダ達は、直ぐに堂々とした態度へと変わる。

 

「邪魔邪魔って言うけど、“俺君になんかしたかい?”……って、団長君なら言うでしょうね」

「まずこちらの鍵を外してくれると助かるんだけど、オネイロス?」

 

 ラムレッダが少し団長の口調を真似て彼が言うであろう言葉を代弁する。そして続けてルナールは、厳重に閉じられた扉を指さしオネイロスに鍵を開けるよう話す。

 

「ははは……! 開けてなんてあげない……あいつはもう直ぐ悪夢で心を壊される。とびきり残酷な悪夢を現実と思って……!!」

 

 オネイロスには、団長が今見ている悪夢がどんなものか知っているようだった。そして団長が悪夢に苦しむ様子を想像したのか空洞から“ケラケラ……!”と声を出し笑う。

 

「オネイロス、そんな事させないぞ!! 団長さんと姉さんを返せ!!」

 

 モルフェは、オネイロスに向かい叫ぶ。だがオネイロスの方は、モルフェを一倪するとまたも“ケラケラ……!”と笑った。

 

「姉さんを返せ? “姉さん”? うふ、ははは……あはははは……っ!」

「な、なにが可笑しいんだ!?」

「なにが? 全部よ、全部可笑しい……!! あなたまだ分からないの?」

「だから何が……!」

「いるでしょう目の前に……あなたの“姉さん”は、ちゃんといるでしょう」

 

 オネイロスは、空洞の顔でモルフェをじっと見つめた。何処までも続く深淵のような空洞。だがモルフェは、その空洞を見ているとある人物が頭に浮かぶ。

 

「……姉さん?」

 

 いぶかしみながらモルフェは、そう呟いた。それは自然と出たオネイロスに向けた言葉だった。

 

「ぼ、僕今……な、なんで……っ」

「ふふ、あは……っ!!」

 

 モルフェは自分が言った言葉が信じられなかった。なぜ今自分は、オネイロスを“姉”と呼んだのかわからず狼狽える。そんなモルフェの様子を見たオネイロスは、愉快そうに笑った。

 

「違う、どうして僕今……オネイロスを」

「違わないわ……こっちを見なさいモルフェ、私の弟……」

「う、うあ……ああ……っ!?」

「──私の“お人形”」

 

 モルフェを見つめる空洞には、いつの間にか怪しく微笑む少女の顔が浮かんでいた。オネイロスの顔を見たモルフェは、ゾクゾクと不安と恐怖で体が震えた。それは確かに姉であるヴェトルと瓜二つの顔だった。

 

「……ヴェトル、やっぱお前だったか」

 

 モルフェは勿論ラムレッダやルナール達は、オネイロスの顔に驚き唖然とした。だが一人カリオストロは、納得したようににオネイロスへと話しかける。

 

「あなた……気づいてたの……?」

「そうだろうと思ってたさ」

「ふぅん?」

 

 カリオストロの言葉にオネイロスは、別に困った様子もなく気にした様子もない。

 

「何時から気づいてたのかしら?」

「違和感自体ならお前らが夢占いなんぞやってた時点であったさ。妙にタイミング良かったからな。その上更に都合よく“助け”に騎空艇に来たんだから奇妙に思いもする。団長の奴だって薄々気付いてたろうぜ」

「そう……なのに捕まるなんて、調べた通り馬鹿みたいにお人好しで間抜けな団長さん……ふふふ……」

「団長がお人好しで間抜けなのは否定しねえが、団員でもねえ奴に言われる筋合いはねえな」

「否定してあげようよ……」

「本人聞いたら泣くわよ」

 

 相変わらずこんな状況で本人居なくても酷い言われ様の団長を気の毒に思うラムレッダ達。ただ彼女達も強く否定しようとはしなかった。

 

「モルフェは、お前の仲間……弟じゃないのか」

「仲間? 弟? ふふふ……言ったでしょ、そいつはお人形。私の生み出した姉弟ごっこのためのお人形……」

「姉弟……ごっこ……」

 

 オネイロスの言葉は、モルフェにとって絶望でしかなった。これこそ彼にとって悪夢以外の何物でもない。

 

団長(あいつ)を引き寄せる“餌”が欲しかった……だから作ったの。私の都合のいいお人形を」

「う、嘘だ……だって、島のみんなは……」

「“島のみんな”って誰の事……? 誰一人名前は言えないでしょ……両親も、友達も……。あなたに“思い出”なんて何もない」

「嘘だ……そんな……」

「嘘じゃない……だってあなたは、“人形”だから……」

「おめぇ趣味悪いぜ」

 

 オネイロスの非道とさえ言える行い。それに対してのB・ビィの言葉は、この場に居る誰もが思う事だった。

 

「それは……それはいくら何でもあんまりよオネイロス……私達への仕打ちより酷い」

「あら……お人形を庇うの?」

 

 オネイロスの言葉で傷つくモルフェを見てラムレッダは、悲痛な面持ちでオネイロスを咎めた。

 

「そいつがあなた達を見つけて夢占いに誘った。そのせいで悪夢に囚われたのに」

「そう仕向けたのはあなたよ。彼はただ何も知らず……大事なお姉ちゃんのために働いただけ」

「ええ、その子はよく働いた……だけどつまらない姉弟ごっこもいい加減鬱陶しくなったわ。……消しても良かったけど、私がいなきゃ役に立たないお人形だから放っておいたの……なのに」

 

 ただモルフェを嘲笑うだけだったオネイロス。だがモルフェへ向ける表情が怒りへと変わる。

 

「団長の扉を探し出して、見つけてしまった……。わかってるの……? あなたは、余計な事をしたのよっ!!」

 

 オネイロスがモルフェに向かい怒りの形相で叫んだ。

 

「やっぱり消しておけばよかった!! もう役立たずの人形のはずなのに!! 私がいなくなって狼狽えるだけの“弟”であれば良かった!! どうして私の邪魔をするのっ!?」

「あ、うぁ……」

「下がれモルフェ」

 

 激しくモルフェを責め立てるオネイロス。それに対しショックで狼狽えるモルフェを庇いカリオストロが前に出る。

 

「仮にも姉が弟に自分勝手な理由で癇癪か? 大事にしないといけないぜ、家族ってのはよ」

「家族じゃない……っ!! ただの人形よっ!!」

「じゃあ何故“弟”なんて役割で生み出した。ただの知り合い、仕事の助手……何でもよかった筈だ」

「……お前ッ!」

 

 カリオストロの指摘にオネイロスの憎悪が増していった。

 

「何が分かる、何が分かるっ!! お前に私の……!!」

「分からねえな。意味の分からねえ逆恨みでうちの団長狙うような奴の気持ちなんざ」

 

 ウロボロスを呼び出し、錬金術の本を広げるカリオストロ。彼女もまた怒りの感情を溢れさせていた。

 

「扉を開いて団長を出しな。痛い目に遭いたく無けりゃな」

「ふん……脅しても無駄よ。団長さんを助けたいなら止めた方が良いわよ……?」

 

 オネイロスとカリオストロの間に火花が散る。間違いなくどちらも本気だった。オネイロスが怪しい素振りを見せた時カリオストロは、オネイロスを錬金素材にするつもりでいる。オネイロスもカリオストロが変に動けば、団長の悪夢へ悪夢の欠片等の魔物を送り込むつもりでいる。

 正に一触即発、戦いの火蓋は何時どのように切られるのか……? そんな時であった──。

 

「──おい、おーい!?」

「……は?」

 

 緊迫した空気の中突如として聞こえて来たのは、随分と間の抜けた男の声。それを聞いてオネイロスは、ギョッとして傍の扉を見た。声は扉の“中”から聞こえて来たのだ。

 

「ちょっと……誰かいねえか!? なんかさ、コレ鍵かかってんだけどっ!?」

 

 今度は扉が“ガタガタ!!”と音を立て出す。中から扉を開けようとしているのだ。声の主、すなわち──。

 

「は、はは……!! あいつは、ホント“らしい”なおいっ!!」

「まったくね……本当に!」

「けど流石って言いたくもなるわ」

「だな。ほれ見ろモルフェ、オイラ達の冗談が本当になったぜ」

「え?」

 

 「案の定」「知ってた」「やっぱりか」「だろうと思った」。色んな言葉がカリオストロ達の頭に浮かぶ。なんとなくこんな感じで、こんな展開になるのはわかっていた。

 今更“彼”が、現実ではない世界に負けるわけがないのだ。悪夢は所詮、夢であるのだから。

 

「ちょっとコレって開けていいの!? 開けれるぞ!? 強引でいいならやるぞ!? 返事無くても出るぞ俺!?」

 

 扉の揺れが激しくなり、更に“ガンガンッ!!”と音をたてた。すると扉を縛っていた鎖が信じられない事に徐々に割れて落ちて行く。

 

「嘘、嘘でしょ……なんで!?」

 

 この事態に一番驚いたのはオネイロスだった。完全自力で悪夢から脱出出来る人間が居るはずがない。絶対にありえないのだ。

 だがどうだろうか? 今まさに目の前でそのありえない事が起きようとしている。

 

「モルフェよう、さっきオイラ言ったな。まだまだ万が一じゃねえって」

「は、はい……」

「そもそも相棒はな、どちらかと言えば相手にとっての──」

「ん、待て何で……開かな……!! ……ん? あ、これ違う」

 

 揺れる扉が一瞬止まる。既に鎖はボロボロになり、錠前も砕けそうだった。そして次の瞬間──。

 

「──万が一を起こす側なんだよ」

「これ外開きいぃ────っ!!」

 

 鎖と錠前を砕きながら悪夢に続く扉は、勢い良く開かれ中より現れる。

 

「……あれ、みんな居んじゃん」

 

 悪夢からの帰還者が──。

 




遅れましたが、新年あけましておめでとうございます。

年明け最初は、前回の続きからとなりました。本当は正月系のアナザーストーリーなんかをやりたいですが、まずリペイント・ザ・メモリー編の切りを付けて投稿したいなと思っております。なんで大分正月とか年中行事系の話がずれて投稿されるかもしれません。

団長君悪夢脱出の詳細は次回やります。

ドラえもんコラボ楽しかったですね。続きがほしいぐらいですわ。色んな組織の仲間が、ひみつ道具で色々するのがもっと見たくて仕方ない。

六竜のみんなぁー! あつまれぇ!
全員まとめて「あ、君そんな感じなんだね」と言うイベントでした。最高。ビィにバブみを感じる日が来るとはね。ビィは主人公のママだった……?
六竜、きっとみんな仲間になるんやろなぁ……頼もしい奴等だぜ団長君ッ!! フェェ……ディエルかわいいね!!

「料理は火力が命と聞いたっ!!」
「あんたの場合火力が命取りだよ。消し炭じゃねえか」

少女ゆぐゆぐ……? ゆぐゆぐが少女? ああ、団長君昇天しちまう。

「――――!!」
「お、おあ……? ちっこ、ちっこいユグドラシル……? ほあぁ……? ふぁぁ……」
「やばい、相棒がカワイイの過剰摂取でなんかヤバい!!」
「団長の精神の均衡がとれていない、これはいけないぞ」
「なんか残念なもん見せてバランス取るぞ! おい、ラムレッダ吐けっ!!」
「幾らにゃんでも酷くにゃい!?」

では、年明け最初の妄想小ネタは、最近まさかの第二シリーズが決まったアレでまた次回。



 強大な魔物と戦うルリア達。手ごわい相手に苦戦を強いられる彼女達は、助っ人として星晶獣を呼び出そうとした。

「頼んだぜルリア! いっちょ派手な奴呼んでくれぇ!」
「はい、ビィさん! ……お願い、力を貸して!!」

 この場に相応しい星晶獣を呼び出そうとしたルリア。彼女の前に星晶の力が集まり、形作る。
 ティアマトか? コロッサスか? それともそれ以外か?
 魔物も本能的に身構え攻撃に備えた中、その姿を現したのは――。

「――おん? なんやここ」
「――こんどは、背景もキャラも全部できとるやんけ」

 二人の人間(?)の少女(?)だった。

「え?」
「ル、ルリアこの二人は……」
「いえ……え? いや、知らな……え? 知らないです、ええ……?」

 自分が呼び出したというのにまったく予想外で覚えのないのが出てきてルリアも戸惑いが隠せない。
 そんな彼女達に気が付いた少女二人。

「なんやルリピッピやないけ」
「んじゃここグラブル世界やんか、コラボきたわこれ」
「向こうはルリア知ってるみたいだぞおい」
「いや知らないです私……ほんと知らないです」

 背の低いほうの少女と背の高いほうの少女。それぞれが好き勝手にルリア達に絡み始めた。

「ルリピには声帯で世話んなったのう」
「リゼットおらんのけ? ゆるいキャンプしようや」
「ま、待ってくださいっ!? 本当に何の話ですか!?」

 背の低いのと背の高いの。それぞれは強引にルリア達に絡んでいき、なし崩しに騎空団に加わってしまう。
 それから彼女達――ポプ子とピピ美を仲間にした騎空団の旅は、無茶苦茶の連続であった。

「ハロー応ッ!!!」
「サン(ピー)オコラボの実力派キャラの力みせたろかぁいッ!!!!」

 どこにでもいる14歳の中学二年生(?)のはずの二人。だがいざ戦えば理不尽な強さと暴力を発揮。

「ッゾオラ――――ン!! ア゛ォ゛ア゛ー!!」
「赤報隊で培った鉄砲火器の知識を元に造った炸裂弾だ」
「うわぁーっ!? 落ち着け二人ともぉ!?」
「わ、私達も巻き込まれますぅ!?」

 ポプ子パンチは破壊力。
 ピピ美ボムも破壊力。

「おうビィ、ワシにもリンゴくれや」
「声渋っ!? 誰っ!? ……って、ポプ子かよ驚かせ……いや、声違くねえか!?」
「再放送じゃけえ」
「再放送っ!?」

 なぜかちょいちょい変わる二人の声。

「一向にSSRどころかSRVerさえ出ない? さぞサイゲが憎かろうナァ……」
「ぶっ潰しちまおうぜ……」
「おい団員に変な事吹き込むなおめえらっ!?」

 特定の相手数人に対し不穏な事を吹き込む姿が目撃される二人……。
 そんな彼女達に振り回されるルリア達だが、事態は思わぬ方向へと進んでいく。

「最近タケショヴォーと言う組織が怪しい動きをしてるらしいと情報が入りまして」
「どうも油断ならぬ連中でな。そこで君達にも協力を頼みたいのだ」

 秩序の騎空団のリーシャとモニカ。彼女達から協力を要請された内容に反応したのは、ポプ子達だった。

「ほぉ?」
「ビル移転どころか異世界転移で助かると思うなよ……タケショヴォ゛ァ゛ア゛ンッ!?」
「なんでやたらやる気なんだよおめえら……」

 秩序の騎空団と協力しタケショヴォー施設に乗り込むルリアとポプ子達。

「もしもし秩序メン?」

 彼女達は、果たして元の世界に戻る気があるのか!?
 そして空の世界で渦巻くタケェ・ショヴォーの陰謀とその裏に潜む影の正体は!!

「貴様、キング……ッ!!」
「アニメで倒したはずでは……!?」

 次回【☆色ガールドロップ】!!
 空の世界でも、恋にドロップドロップ!!


SSR【どうあがいてもクソ】ポプ子とピピ美 闇属性 得意武器 格闘/剣

奥義【可愛さ旋風まきおこしたりますかァ】闇属性ダメージ(特大)/奥義ゲージ20UP
  【アブソリュートバリザー】スーパーピピ美BARIモード時使用可能。闇属性ダメージ(特大)/追加で光属性ダメージ

アビリティ
【ロードオブカラミティ】本物のマジックアイテム(敵単体に6倍闇属性ダメージ)
【おこった?】おこってないよ❤(自身にカウンター効果(回避/2回))
【エイサイハラマスコイおどり】流行るかな?(敵全体にスロウ効果)
【スーパーピピ美BARIモード】お前の親友バリってる~っ!!(奥義ゲージを100消費してスーパーピピ美BARIモードへ移る)

サポート
【ネメプですわ!】毎ターン敵対心UP(累積)/防御UP(累積)/攻撃を受けた時相手に炎上効果を与える場合がある
【スーパーピピ美BARIモード】スーパーピピ美BARIモード時、ステータス大幅UP/アビリティが変化/6ターンでスーパーピピ美BARIモードは解除される
【再放送】2ターン毎で声が変わる

スキン【ボブネミミッミ】声と姿が変わる。
スキン【BD版】声と姿が変わる
スキン【すしポプ子&スーパーピピ美BARIモード】声と姿が常にすしポプ子とスーパーピピ美BARIモードになる

召喚石SSR【時を超える蒼き使者】
「どうしたんだぁ~いっ!!」
召喚効果 味方全体のHP回復/弱体効果回復
加護 光属性キャラの攻撃力とHPが20%UP

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