俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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キャラ崩壊と二次創作独自の設定や解釈があるのでご注意ください。
またゲーム本編のイベント【リペイント・ザ・メモリー】のネタバレ、登場人物のキャラ崩壊等があります。ご注意ください。


夢に呑まれて

 

 ■

 

 一 美少女脱出

 

 ■

 

「……あのうB・ビィさん、やっぱりもう僕達も入ったほうが」

「いやまだ大丈夫だ。やばそうならマジでやばいから」

「それどう言う意味ですか……」

「相棒でヤバいならこんな静かなわけないってこと。まあ待ってな」

 

 団長が約束通りカリオストロ救出に一人で向かって十数分経った頃。中々戻らぬ団長の身を案じ待つ事に耐えかねたモルフェがB・ビィ達に対し、もうそろそろ自分達も悪夢に入った方が良いのではないかと何度も言い出していた。

 気もそぞろなモルフェに対して一方のB・ビィはと言うと、通常形態にまで戻ってリラックスした様子。姉のヴェトルも相変わらず眠そうでウトウトしており、一人生真面目なモルフェは、本当に大丈夫なのかと不安で仕方なかった。

 だがモルフェがもう一度B・ビィに扉への突入を進言しようとした時、団長がカリオストロを連れ悪夢の扉からやっと脱出してきた。

 

「おまたへ……」

「あっ! 団長さん、良かったご無事でしうおわああああぁぁぁぁ──っ!?」

 

 しかし振り向いたモルフェの見た団長の姿は、全身ボロボロな上に上半身はウロボロスに巻き付かれ顔が殆ど見えない状態の団長であった。

 

「い、いったい何がっ!? まさかオネイロスに襲われて!?」

「いや、おっさ──」

「あ゛ぁ゛ん゛ッ!?」

「……天才美少女錬金術師のカリオストロに襲われた」

「本当に何があったんですかっ!?」

 

 何か言おうとした団長だったが、すぐにカリオストロがドスの利いた声と鋭い視線で団長を一睨み。すると団長は直ぐに言おうとした言葉を訂正したようだったが、事情をしらぬ困惑するモルフェは、困惑するばかりであった。

 

「こいつは気にしないで。ウロボロスって言うカリオストロの使い魔的なのだから」

「そ、そうですか。なら良か……いや、普通に気になりますけど!?」

「グルグル巻きね……うふふ」

「笑い事じゃないよ姉さん!?」

 

 ヴェトルは顔も見えないウロボロス巻き状態の団長を見て愉快そうに笑う。

 

「まあカリオストロは無事に救出できたよ。待たせて悪かったね」

「い、いえ……僕達は大丈夫ですけど。それよりあの……団長さん? そのまま話し続けるんですか?」

「カリオストロの機嫌が良くなるまで」

「は、はあ……」

 

 本人は特に苦しくも無さそうなので、モルフェはこれ以上指摘するのを止めた。

 きっと僕では、もうどうしようもない事なんだろうなぁ──と、心中にて騎空団団長と言う立場の人間の苦労を哀れんだ。もっとも、普通の騎空団団長は、こんな苦労をしないが。

 

「しかし、これが悪夢への扉か。なるほど奇妙なもんだぜ」

 

 カリオストロも初めて見る夢の回廊と目の前にある自分の悪夢へと通じていた扉をまじまじと観察した。

 すると突然彼女達の目の前で、カリオストロの悪夢の扉が淡く輝きそのまま消失していった。

 

「モルフェ君、これは……」

「きっとカリオストロさんが悪夢から解放されて、悪夢の主を失ったから完全に消えたんです」

「……」

 

 カリオストロは、光の粒子となって消えていくその扉を静かに見送った。その扉の中で起きた出来事、現れた人物、それら全てを己が見たほんの一時の夢として。

 

 ■

 

 二 突撃! 隣の悪夢さん

 

 ■

 

「さて……これでオレ様の悪夢は完全に消滅ってわけだ。改めて礼を言っとくぜ……ありがとよ」

「いえ、気にしないで下さい! カリオストロさんが助かってなによりです!」

「ただし……!」

 

 カリオストロは突然その場で腰に手を当て人に注意をするような決めポーズをとった。

 

「カリオストロの夢は聞かないこと! 乙女の大事なヒ・ミ・ツ、だぞっ☆」

「はい、じゃあ次行こうか」

「おいサラっと流すんじゃねえ!?」

 

 カリオストロの美少女ムーブを自然にスルーした団長。何はともあれ、カリオストロを救出した事で夢の回廊での目標を一つクリアした団長達。次の目標は、残った二つの扉の何れかであった。

 

「で、次どっち行くんだ相棒?」

「今度はどっちの扉としてもついて来ますからね!!」

「あ、うん。なんかごめんね?」

 

 モルフェは単純に団長が心配であったが、また一人で行かせたら帰って来た時どんな姿で現れるかわからない。これ以上驚き疲れないためにもついて行く硬い意思を見せていた。

 

「さて、ラムレッダかルナールさんか……って事だがここはラムレッダの扉で行こう」

「理由は?」

「……体力ある内に済ませたくて」

 

 団長はカリオストロの悪夢を見ていよいよ夢の世界は、“何でもあり”だとわかった。そんな中でラムレッダの悪夢を後回しにするのは、なんだか気が重たく感じたのだ。

 

「ルナールさんを後回しにしたいわけじゃないが、最後にラムレッダの悪夢が待ち構えてる状況が怖い」

「まあ確かに」

「ラムレッダだしな」

 

 B・ビィもカリオストロも、ついつい揃って頷く。もうラムレッダへの不安なのか、悪夢への不安なのか団長もわからないでいた。

 

「つーわけで、思い切って即突入だ」

「いや、ちょい待て団長」

「ん?」

 

 団長がラムレッダの扉に手を伸ばすとカリオストロがそれを制止した。

 

「ウロボロス、もういいぞ」

 

 カリオストロが団長の頭部に巻き付くウロボロスに声をかける。するとウロボロスは、短く「シャー」と鳴いて団長の体から降りて姿を消した。

 

「おお、頭が軽い」

「流石にあのままってわけにはいかねえだろ」

「そりゃそうだ」

「だが……もしまたカリオストロに酷いこと言ったら、めっ☆ だぞっ!」

「はいはい」

(慣れてるなぁ、団長さん……)

 

 ウロボロスがいなくなりやっと顔が見えた団長。本人以上にモルフェの方が安心してるのは、やはり慣れの問題であろうか。

 

「じゃあ視界も広くなったので行くぞ皆の衆」

 

 今度こそドアノブに手を伸ばした団長。覚悟を決め勢い良く扉を開いた先に広がる光景は──。

 

「酒にゃああぁぁ~~~~っ!!」

「知ってた」

 

 どんちゃん騒ぎの居酒屋であった。しかも目的のラムレッダが店の中央のテーブルに乗って大いに騒ぎ酒をあおっている。

 救出目標がさっそく見つかったのは良いが、悪夢と思えぬ光景に団長は呆れるばかりだ。

 

「扉からして予想はついたけどさ、案の定にも程がある。悪夢とは何だったのか」

「これってあそこのラムレッダを連れ帰ればいいのか?」

「……いいえ、そうもいかなそうです」

 

 B・ビィが大騒ぎするラムレッダを指さすが、モルフェは首を横に振った。

 

「ラムレッダさんは、悪夢に囚われ“今”を現実と思っています。その認識を正さない限りは、外に連れ出してもまた悪夢に引き戻されます」

「確かに……カリオストロも暫く夢と現実がわからなかったもんな」

「夢の世界で言うのも変だが、きっちり目を覚まさせねえとって事か」

 

 団長は少し前のカリオストロの悪夢を思い出した。あの時も団長は、始め一見普通の民家の姿に「悪夢らしくない」とも思ったが、今回はそれ以上だ。

 

「賑やかね……けど、うぅ~ん……」

「あ、姉さん!?」

「お酒の匂い……ふわぁ~……」

「あらら、大丈夫かいヴェトルちゃん」

 

 店内の雰囲気と充満する酒の香り、それにあてられたのか、ヴェトルがふらつき咄嗟に団長が体を支えた。

 

「ううむ、教育上よくないよこの雰囲気。賑やかと言うか騒がしい。早いとこ解決して出ちまおう」

「なあ、詳しい内容は言わなくていいけどよう、攻略法として知りたいんだけどカリオストロの時はどう言う状況だったんだ?」

「あ? あぁ~……」

 

 B・ビィの問いにカリオストロは一瞬如何しようか悩んだ様子だったが、すぐに「しかたねえな」と言い辛そうにしつつも口を開いた。

 

「ちょいと昔の記憶を悪夢として見てな。先日にあったルナールの時以上に自分の状況がわからねえ……と、言うより完全に夢の方を現実と思っちまってた。むしろ今までの現実を夢と思ってたぐらいだ」

「それがオネイロスの悪夢の恐ろしいところです。完全に人を悪夢へと引き込む……」

「情けねえがありゃ自分じゃどうしようもねえ、こいつが来て騒いだんで目を覚ましたってところだな」

「それじゃ俺が騒いだだけみたいなんだが……」

「そんな感じだったろ?」

「そりゃそだけどさ」

 

 若干すねた様子の団長をケラケラと笑ったカリオストロ。そして改めてラムレッダの方を見た。

 

「……しかしあのラムレッダは、どんな夢を現実と思ってるんだ? 見たところ何時も通りのあいつみてえだがな」

 

 居酒屋の客に囲まれ騒ぐラムレッダは、確かに普段通りの彼女に思える。過去に囚われてるようでも、何かに悲観してるようでもない。

 

(とは言え、なんか違う……とも、感じるんだよな)

 

 ただ団長は、騒ぎまくるラムレッダの様子に違和感を感じていた。果たしてその違和感は何であろうか──と、考えていたところ。

 

「──ねえ、貴方。団長君、よね?」

「へ?」

 

 突然何者かに声をかけられた。まさか誰かに声をかけられると思わなかった団長は、驚きながら声の方へと向き直った。あるいは“妹”のような悪夢の住人かとも思い手も剣へと伸びている。

 だがしかし、目の前にいた人物に団長のみならずB・ビィ達も目を見開き驚いた。

 

「ラ、ララ……ッ!?」

 

「ラムレッダァッ!?」──団長達の驚きの声が重なる。だがその驚き様は当然と言えるだろう。彼らの前に居たのは、間違いなくラムレッダその人であったのだ。

 

「だ、だって……ええっ?」

 

 団長は最初に見つけた酔っ払いのラムレッダを見た。するとラムレッダは、相変わらず酒瓶を持って騒いでいる。そしてもう一度目の前に現れたラムレッダを見る。

 

「……いや、だって!? なんで!?」

「まさか、お前も悪夢の欠片!?」

 

 モルフェは目の前のラムレッダが、悪夢の欠片や住人ではないか疑い警戒した。だがラムレッダの姿をした女性は、慌てて首を振ってそれを否定する。

 

「わあ、待って待って!? 確かに驚くのも無理ないわ!! けど安心して、私は悪夢の欠片じゃないのよ!?」

「じゃ、じゃあ貴方は何者なんです!? いくら夢の世界でも、同じ人間がいるなんて聞いたことありません!」

「私は……何て言えばいいのかな。とりあえず、名前はレダ美っていうわ」

「レダ美?」

「ええ、私は……いえ、“私達”は」

「達っ?」

「あーレダ美ー。団長くんみつけたのー?」

「ぎゃあ!? またラムレッダッ!? ラムレッダなんで!?」

 

 レダ美を名乗るラムレッダ、彼女の言葉に困惑する団長の前には、なんと新たにラムレッダが現れた。

 

「あーどうもー。ぼくラム子―。よろしくねー」

「ラム子……さん?」

 

 また雰囲気の違うラム子を名乗るラムレッダ。更に……。

 

「ヴぇ……ヴぉえっ!? ま、まって……ラム、子……うぇっ!?」

「ま、また増えましたけど……」

「おいおい、どんだけ居んだよ」

「ど、どう……も。あ、あたし……レム代っていい……まぶぅっ!?」

「ああ、レム代無理しないでっ!!」

 

 そのラム子の後をふら付きながら追ってきたのは、手で口をふさいで顔色が悪いラムレッダ。モルフェもB・ビィも驚く以上に呆れと困惑で目をパチクリさせていた。

 そして勝手にラムレッダ達は集まり何やら話し合っている。

 

「えーと、一応はメインそろったし……」

「やっとこーかー?」

「わ、わかった……にゃ……」

「おほん……私達!」

 

 ──「ラムちゃんズでーすっ!!」

 

「……を゛ぇっ!?」

「ああ、レム代!?」

「あーやっぱ揃って言うのはきつかったねー」

「ごめ、ほんと……やば……。で、出るにゃ……うぶっ!?」

「待ってレム代、せっかく団長君来たんだから待って!? 空気読んで! 我慢してぇ!?」

 

 突如現れた三人のラムレッダ。その彼女達による謎の名乗り、そして直後酷く嘔吐くラム代に慌てふためくラム美達を見て呆然とする団長達。

 

「……これは夢だ」

 

 思わず団長は、そう呟いた。

 

 ■

 

 三 ドキッ! 全員酔っ払い ラムレッダだらけの居酒屋

 

 ■

 

 俺達の前に現れたラムレッダ三人衆、通称“ラムちゃんズ”。夢とは言えそのあまりにも唐突なラムレッダ分裂の光景に俺は眩暈を感じ、夢の世界だと言うのに「これは夢だ」など当たり前の事を呟く始末。

 しかし何とか冷静になり、この悪夢の世界において悪夢の欠片でも悪夢の住人でもなく、俺達に友好的な彼女達の話を聞くことにした。

 

「私達は、そうね……ラムレッダの“内の部分”って言えば良いのかしら」

「内の部分?」

「そーそー。ラムレッダのー? 色んな面って感じー?」

「つまり、内面の性格って事ですか?」

「そうね。私は言ってしまえば“ほろ酔いのレダ美”」

「あたしはー、“酩酊のラム子”ぉー」

「あ、あた……しは、“泥酔のレム……”……ヴェッ!?」

「……レム代さんは、安静にしてどうぞ」

「ごめ、だんちょ……きゅん……」

 

 絶賛嘔吐き中のレム代さんには、安静にしてもらいつつ俺は「なるほど」と頷いた。

 言われてみるとその通り、ラム子さんとレム代さんは、多少違いはあるだろうが俺にとって“普段のラムレッダ”である。

 一方でレダ美さんに関しては、なんとも言えん。俺はほろ酔い状態のラムレッダすら碌に見る機会がないのだ。素面なんて見たこともない。

 だがこの頬を酔いで赤らめながらも落ち着き、普通に呂律の回るレダ美さんが素面のラムレッダに近いのかと思うと、最近どころか出会った当初より仮装に見えた修道女の姿に説得力が生まれた。

 

「こーゆーのってあり得るもんなのかね」

「……一概に無いとも言えねえかもな」

「と、言うと?」

「つまり一種の……俗に言う“多重人格”みたいなもんだ」

 

 ラムレッダと言う“個”の中に現れた複数のラムレッダ。しかも特殊な悪夢世界とは言え夢で自立して行動する確固たる自我もある。

 そんな奇妙な存在にカリオストロは、冷静な分析を行った。

 

「カリオストロさんの言う通りよ。本来私達は、ラムレッダの夢や意識内だけに現れる人格であの子だけが認知できる存在。けど知っての通り、今あの子……ラムレッダは、悪夢に囚われちゃってるのよ」

「そのせいでさー、ラムレッダもぼく達の事わからないみたいなんだよねー」

「団長君が来るまで結構呼びかけたんだけど……あの有様」

 

 レダ美さんは、悲しそうな様子で騒ぐラムレッダを見た。

 

「結局私達は、あの子自身でもある。認知の歪んだ状態の自分に、自分自身が呼びかけても気づく筈がないのよ」

「──故に、うぬ達を待っていた」

「わあっ!? またレッダッ!?」

 

 急にヌッと俺の傍に現れたのは、もう出ないと思った新たなるラムレッダだった。思わず変な言葉を叫んでしまう。

 

「この程度で驚くか、修行の足りぬ小僧よ」

「驚くわ普通にっ!? もう出ねーと思ったんだからよ!? どんだけ分裂すりゃ気が済むレッダ!? そしてお前は何レッダ!?」

「落ち着け相棒、語尾がおかしい。下手糞なラップみたいになってる」

「う、うるせいやい!?」

 

 混乱したんだ、見逃せい。

 

「フフ、何レッダか……。まあよかろう……我が名は羅無!! “欲望の羅無”っ!! ラムレッダの欲望を司りし者也ッ!!」

 

 背中に“酔”の文字を背負いそうな勢いで名乗る新たなるラムレッダ改め羅無さん。やたら古風な喋り方な上、なんか変なオーラまでまとっている。

 

「まーた随分濃いの来たなあ、おい」

「ラムラムだらけね……うふふふ……」

「だから笑い事じゃないよ姉さん……ほんと何なんでしょう、この夢……」

「おい逃避するなモルフェ、夢だ諦めろ」

 

 俺と同様もう別レッダが来ないと思ってたであろうモルフェ君が、もう驚きも呆れも通り越したよくわからない表情をしていた。

 

「三人でもややこしいのに増えるなよ……ええと、レム美ラム代レダ子に羅無と……」

「違う違う、私はレダ美でラム子にレム代」

「ラレ代とムム子……」

「混ざってる混ざってる」

「ううむ、いい加減混乱してきた……」

 

 頭の中でラ行が溢れ混乱してきた。全員ラムレッダの名前をもじり過ぎである。

 

「……で、その欲望の羅無さんや? 俺達を待っていたってのはどう言うこってす?」

「うむ……まず聞くが、ぬし等あのラムレッダの姿を見て何を思う?」

 

 羅無さんはもう何杯目か──いや、何本目かわからぬ酒に手を伸ばすラムレッダを指さす。俺達は改めその様子をジッと見る。

 

「……お酒を、飲んでるようにしか」

「だな」

 

 モルフェ君は首をひねりながら見た通りの事を言った。B・ビィも相槌を打っている。それに対し羅無さんとレダ美さんは、何も答えない。

 

「酒にゃ酒にゃ!! お酒を飲むにゃぁ~~っ!!」

「……ああ、なるほど」

 

 だがここでラムレッダを見て俺はやっとある事に気づく。それはこの空間に来てラムレッダを見た時から感じていた違和感の正体だった。

 

「あいつ、全然楽しんでないんだ」

「ど、どう言う意味ですか団長さん?」

「んっとな、モルフェ君。わからんかもだが……ラムレッダの奴、あんだけ酒美味そうに飲んで見えるけど、実際はガバガバ口に流し込んでるだけなんだよ」

「えっと……?」

「つまりは“自棄酒”だな。最も……ありゃそれより酷いがね」

 

 未成年である以上当然俺は酒の味など知らん。だが酒を美味そうに飲む大人達の姿は、それなりに見てきた。当然ラムレッダもその内の一人だ。

 確かに彼女は、なにか思う所あれば自棄酒を飲む事がある。そんな時仲の良いティアマトやシュヴァリエなんかが付き添って夜通し飲むなんて珍しくない。運悪く捕まり、俺までジュース飲みながら酔っ払いの相手をされるなんて事すらあった。

 だが、そんな時でもラムレッダは楽しそうだった。鬱憤を晴らす目的だとしても、少なくとも俺はそう思えた。

 俺の知るラムレッダは、あんな酒の味を楽しまず只管 アルコールと言う名の液体を飲み込むような無粋な飲み方をしない。

 

「自棄に自棄を重ねて、色々ダメになった悪夢……ってとこか」

 

 その“自棄”がなんであるかは、具体的にはわからない。夢らしく漠然としたなにかだろうとは思う。

 

「そもそも酔えてんのあれ? なんか下戸が無理に酔ったふりしてるように見えるけど」

「……気付いてくれたか」

 

 何故か俺の指摘に羅無さん達は、どこか嬉しそうに頷いた。

 

「お主の言う通りよ……ラムレッダの奴は、実際酔ってはおらぬ。元より悪夢の酒は、飲むに値しない駄酒も駄酒。どれ程飲もうと真に酔う事など出来ぬ」

「じゃあ、あのラムレッダは……」

「この悪夢が“己は酔っている”と奴に思わせておるのだ。あの駄酒は、そう思わせる道具なのだ。そしてラムレッダの奴は、それでは足りぬと更に酔おうと必死に駄酒を飲み続けておる……酔う事もできぬ不味い酒を、自分でも気付く事無くな」

「……その“自分”には羅無さん達も入ってると?」

「然様。レダ美も話したが、今のラムレッダに我等の言葉は届かぬ。だがお主達、いや……団長であるお主ならば届くだろう。だからこそ待ったのだ」

「お願い団長君、あの子のあんな姿もう見てられないわ」

「ラムレッダはさーやっぱ楽しそうに飲んでなきゃねー」

「それが……ラムちゃんズの総意……ぉえ……ぇぶぅっ!?」

 

 嘔吐くレム代さんはともかく、彼女達の気持ちはわかる。俺も同じ気持ちだ。それに元々それが目的でここに来ているのだ。断る理由はない。

 

「ハナからそのつもりさ」

 

 俺が頷いて見せると、レダ美さん達も俺達と並び立ち目標であるラムレッダを見据えた。

 

「手伝ってくれるんすか?」

「まぁ、やっぱねー? 団長達に任せっぱなしってわけにもいかないよー」

「お主は真直ぐ彼奴を目指し目を覚まさしてやるがよい」

「それに団長君の呼びかけが通れば、私達の声も届くかもしれない。近くに行ってあげたいの」

「そら勿論助かりますが……レム代さんは、安静にしたほうが良いのでは」

「へ、へいき……ぜんぜ……だいじょ、ぶ……」

「んじゃ、オイラ達は邪魔入らねえようにラムちゃんズと有象無象の相手してやんよ」

「“こいつら”が悪夢の住民とすれば、お前がラムレッダに接触してから反応する可能性があるからな」

 

 カリオストロの言うようにラムレッダを取り囲む酔っ払いの集団。これは幻影でもなく、おそらくは悪夢の住民。カリオストロの“妹”のようなものだろう。今は俺達を不自然なまでに無視しているが、それはラムレッダが俺達に気が付いていないからだ。彼女が俺に気が付いた場合、そして正気に戻りそうになった時、どのような反応を見せるかは分からない。

 

「団長さん、僕と姉さんもお手伝いします!」

「それは危ないよ。隅に避難してても……」

「いえ、僕達も何か力になりたいんです!」

 

 カリオストロの時待機していたのをやはり気にしてるのだろうか、モルフェ君の熱意をかなり感じた。

 

「……じゃあ、俺と一緒に来て。ラムレッダ説得する時あいつ酒絶対飲もうとするからそれ阻止するのお願い」

「任せてください! 頑張ろう姉さん!」

「んぅ~……わかったぁ……」

 

 大量の酔っ払いの相手は不安だが、それでも俺はラムレッダの目を覚まさせなければならない。カリオストロの時同様気合を入れて彼女のもとに向かう。

 

「それじゃ、いっちょ始めますか」

 

 ■

 

 四 悪夢の酒

 

 ■

 

 修道院での過ち。それこそが最初で最大の罪だ──ラムレッダは、そう認識している。

 飲み干した酒の多さを見て芽生えた罪の意識。それを抱えての逃亡生活。流浪の旅は、終わる事もなく、今自分が果たしてどの島にいるのかさえ分からない。

 

「酒にゃ!! お酒にゃ!! まだまだ飲めるにゃあぁ~っ!!」

 

 そんなどこかもわからない島の居酒屋で、大いに叫び騒ぐラムレッダ。その周りに転がる酒瓶は、全て彼女が飲み干したものだ。それも一本や二本どころでなく、もう数十本は超えているだろう。

 だがそれでも──足りない、足りない。ああ、まだ足りない。

 ラムレッダは、酔えないでいた。

 顔は赤く火照っているのに──酔えない。

 アルコールが体をめぐるのに──酔えない。

 あらゆる酒を飲み続けても──酔えない。

 酔えない。酔えない酔えない酔えない酔えない酔えない酔えない──酔えない。

 

「お酒、お酒にゃ……!! にゃは、はは……!」

 

 彼女は口に出さない。だが今にも叫びたいのだ。「なぜ酔えないのか!? 酔いたい、酔いたいのにっ!!」と。

 酔う瞬間だけが幸せでいられる。酔った時間は、全てを忘れていられる。酔ったその時だけは、全てが許される気がした。

 結局のところ、“今の彼女”が酒を飲む理由は即ちそれ──逃避なのだ。

 修道院での失敗に始まる酒のトラブル。それは修道院を逃亡してからも続き、どこへ行っても繰り返し繰り返し……。

 何をしても失敗する。そして酒を飲む。そして失敗する。だが止めれない、酒を断てない。

 

「お酒……飲んで、飲んで……! 飲めば、忘れられ……」

 

 そして酔おうとする時、逃げようとする時、忘れたい時。そんな時に限って頭の中には、思い出したくない光景が浮かんでくる──。

 

『もう来なくていいから』

『クビだ。金? 払うと思ってんのか?』

『二度と店に来るな。客としてもだ』

 

 クビになった店の店長に言われた最後の言葉は、どれも明らかな拒絶のもの。

 

『いやね、あんな昼間っから酔っぱらって……』

『悪いが、酒癖の悪い……いや、品の無い女性は嫌いでね』

『修道院を飛び出して正解だったんじゃないかね?』

 

 知り合った人達も、最後には蔑みの視線と非難の声を向ける。

 だが……それは自業自得だ。結局自分が酒に溺れ失敗を繰り替えたせいでしかない。誰も責めれない。自分は責められて当然の人間なのだから──ラムレッダは、どんな言葉を投げかけられようとそう思ってきた。

 きっと修道院の仲間達もそう言うに決まっている。厳格な父、優しい母もそう言うに違いない。ああ、そうだ。きっとそうなのだと。

 

「お酒……酔わせて……。もっと、酔わせてよぉ……」

 

 この時、最早ラムレッダの声は、嗚咽の如きものへと変わっていた。

 ──これは悪夢。全てが最悪にして、見る者を破滅へ導く希望なき夢。

 ここにいる限り、彼女は世界の銘酒美酒を呑み尽くそうと、甘美なる酒を味わえず、心地よき酔いには至れず、ただただ酒で酔う事を求める生きた屍の如き存在となる。強烈な悪夢のアルコールは、口に入れた瞬間こそ酔ったように感じるが、それはほんの一瞬でしかなく直ぐにその感覚は無くなる。この悪夢の酒で酔うには、そんな酒を飲み続けるしかないのだ。だがそうなれば、彼女は完全に悪夢へと沈み永遠に戻る事は無い。

 

「──止めなよ、そんな飲み方」

 

 だがそんな彼女を止めたのは、一人の少年の声だった──。

 

 ■

 

 五 酒と仲間と彼女と団長

 

 ■

 

 団長達がラムレッダに近付く事は、思いのほか簡単だった。無数の酔っ払い達は、団長達を無視して妨害もなかったのである。ただ数ばかりは多いのでB・ビィ達と共に酔っ払い共をかき分けテーブルの上で騒ぐラムレッダに近づいた団長は、パッと彼女から酒瓶を奪い取った。

 

「あぁ~……!? 誰にゃ!! なにするにゃ……返して欲しいにゃよ……!!」

「ダメ」

「い、意地悪しないでほしいにゃ!! あたしは……お酒のみたいんらよぉ~!」

「ダメダメ」

「うぅ~……っ!!」

 

 団長に酒を取り上げられたラムレッダは、愚図る子供のように団長が持つ酒瓶に手を伸ばし奪い取ろうとした。当然団長は、酒瓶を渡そうとはしない。

 すると直ぐに団長から酒を取り返せないと無駄に早く判断した彼女は、すぐ別の酒瓶に視線を移してスッと手を伸ばした。

 

「あ、ダメですよラムレッダさん!!」

「んにゃぁ~っ!? またお酒とられたぁ……!」

「飲みすぎ……注意、ね……?」

 

 だがすぐさまモルフェがラムレッダが手を伸ばした先にあった酒瓶を取り上げた。ヴェトルもまたさり気無く他の酒瓶を隅に移動している。

 

「にゃぁ……酷いにゃひどいぃ~! 誰か知らないけど、なんでそんな意地悪するにゃ……!! ここは居酒屋にゃお酒の店にゃ! ここで飲んで何が悪いってんだにゃぁ~!!」

 

 案の定団長の事はわかっておらず、「カリオストロの時と同じだ」と団長は思った。レダ美達の話も合わせるなら、この悪夢は──今のラムレッダにとっての現実は──団長達と出会わなかった世界という事になる。

 そして更には──。

 

「おい、こいつら動きが止まったぜ……」

 

 酔っ払い共を団長とラムレッダに寄せ付けないようにしていたB・ビィ達。だが団長とラムレッダが接触した途端酔っ払い共は、バカ騒ぎをやめ人形のように動かなくなった。

 団長達を取り囲み動かない人間達と言うのはあまりにも不気味な光景であった。

 

「ラムレッダさんが団長さんに気付いたから、こいつらも僕達を認識し始めたんだ……!!」

「まだ様子見か……各々抜かるな。何時襲い掛かるかわからぬぞ」

 

 羅無の言う通りまだ戦闘は起きていない。だがラムレッダの精神次第では直ぐにでもこの酔っ払い共は、再び動きだし団長達を襲いだすだろう。自分達の住むこの悪夢を覚まさせないために。

 

「あれぇ……? 急に静かになったにゃ……?」

 

 一方で悪夢の主であるラムレッダ本人は、この状況をよくわかっていない。彼女にしてみれば、ただ店で飲んでいただけなのだ。

 

「……今周りは気にせんでいいよ。それより今日はもうお開き。酒も終わり」

「えぇ~っ!? なんでにゃ、まだ飲み足りないにゃあ!!」

「もう十分だよ。第一こんな場所で飲んでたって美味くも楽しくもないだろうに」

「た、楽しいにゃ!! お酒も美味しいし……!!」

「ほーん? じゃあ聞くけど、このお酒の味どうだった?」

「うっ!?」

 

 団長が彼女から奪い取った酒瓶を眼前にまで差し出す。酒を知らぬ団長には、とんと分からぬ物であったが、それは現実に存在する果実酒であり、ラムレッダの記憶に存在したものが再現された物だった。

 なればこそ、ラムレッダはこの酒の味の感想をすぐに答えなければならない。だが実際の彼女は、冷や汗をたらし言葉に詰まった。

 

「そこの酒も、あの酒も、味がわかって飲んだのか?」

「も、もちろん……美味しかったにゃ」

「どんな風に?」

「それは……そのぅ……」

「わからんだろうね」

 

 団長は次々そこらに転がる酒瓶や、モルフェの持つ酒瓶、それらを指さし味を聞くがやはりラムレッダは、気まずそうにするだけで答えない。本来の彼女なら考えられない事だった。

 

「らしく無い飲み方するからだよラムレッダ。お前酒を頼る事はあっても、酒に逃げる事は無かったはずだ」

 

 団長の言葉を聞きラムレッダは、困惑と同時にキョトンと不思議そうに団長を見た。

 

「さ、さっきから何で……? きみ、あたしとどっかで会ったかにゃ……?」

「会った会った、バッチリ会ってる」

「ん~……そ、そう言われると……にゃんかどこかで会ったような……」

「思い出してみなさいよ。まだ居酒屋の店員だった酔ったあんたに酒瓶ぶつけられてシチューに顔ぶち込まれた時の事」

「ええっ!? そう言えばそんなミス、どっかの店や色んな店で一度二度三度四度……うえぇっ!? じゃ、じゃあ報復!? 復讐!? お、お許しをぉ~っ!?」

 

 悲鳴を上げて団長に許しを請うラムレッダ。余程この悪夢の世界では、色んな者に恨まれたりしてる──事になってるのだろう。

 

「おバカ、思い出しなさいよ。そこで会ってからのことを」

「へ? 会ってから……?」

「そうそう。色々とあったじゃないの、お前さん仲間になってからそりゃもう」

「仲間になって……? けど、あたし……君と一緒に騎空団になんて……“騎空団”?」

「ほら思い出してきた」

「え? え……あれ?」

 

 団長の言葉を聞いてラムレッダは、混乱しつつも徐々に何かを思い出そうとした。歪んだ現実となっていた悪夢が、再びただの夢に戻ろうとする。

 しかし、その変化は彼女にだけ表れたものではなかった。

 

「──Ahh!?」

「Ahhhh……!!」

 

 ラムレッダが騎空団の事を少し思い出した瞬間。これ以上は無視出来ぬとばかりに動きを止めていた酔っ払い達が、ラムレッダの記憶を戻させないため団長やモルフェ達に向かい獣のような叫びをあげて襲い掛かってきた。姿こそ人のままであったがその形相は、怪物の如きものであった。

 

「そら来たやるぞ!!」

「みんな、団長君達に近寄らせないで!!」

「おうよ、オイラに任せろぁ!!」

「有象無象如きが、この羅無に敵うと思うか……!!」

 

 だが直ぐB・ビィ達がそれを防ぐ。マチョビィとなったB・ビィもカリオストロも、そしてラムちゃんズも奮戦し本性を現した悪夢の住民である酔っ払い達を次々と撃退し団長達に近寄らせようとしない。

 

「みんな足止め頼むぞ!! こっちぁ動けねえから、派手な技は抑えてくれよ!!」

「ま、まかせ……ぅヴぉ!? ぉう……ぅおええぇぇ~~っ!?」

「そっちの派手なのも抑えとけよっ!? マジ頼むぞ!?」

「な、なんにゃ!? 何事にゃぁっ!?」

 

 静かになったと思えば突然の大乱闘。ラムレッダの混乱は、最早ピークに達していた。

 

「お前に目を覚まされたくないんだとさ」

「へ?」

「これはお前さんの見てる“悪夢”なんだ。お前が悪夢から抜け出せばこいつらは消える。だからなんとしても阻止したいわけ」

「悪夢……? にゃに言って……」

「ここは現実じゃないってこと! さあ思い出せラムレッダ、お前は俺とみんなでずっと旅してきただろう。騎空団で一緒に!!」

「みんな……」

「そうよ、ラムレッダ!!」

 

 団長の呼びかけに加えレダ美達もラムレッダへと呼びかけ始める。

 

「団長君達も来てくれて、いい加減私達の声も届くんじゃないの!?」

「その声は……あたしっ? あ、いや……違う……」

 

 すると今までは届かなかったはずのレダ美の声、それがラムレッダへと届き始めた。

 

「こんな悪夢に負けちゃダメ! あなたの居場所は、ここじゃないでしょ!」

「ちゃーんと思い出しなよー。君と居る事を受け入れてくれた人達をさー」

「ど、どんなに……うぶっ!? め、迷惑かけても……一緒に居てくれてる、みんな……うぉえぇ……っ!?」

「久方ぶりだったろう、帰れる場所が出来たのは……っ!!」

「ラ、ラム……ちゃんズ……?」

 

 レダ美達の声を聞いたラムレッダは、自分の一部でもある彼女達の声が届いた事で更に記憶がはっきりと蘇りだす。

 脳裏では今まで現実と思ってきた悪夢での出来事が次々と水泡のように弾け消えていく。それに変わり浮かび上がるのは、本当の記憶の数々。

 

「ティアマト、リヴァイアサン、シュヴァリエ。暇さえあればこいつらと昼間っからだって酒飲んでるよな」

「ティアマト……そ、そうにゃ……ティアマト達と、いつも」

「オイラに美味いリンゴ酒の話してくれた事もあったっけな!!」

「トカゲちゃ……違う、B・ビィ? そう、リンゴの話で……」

「オレ様の研究室に酔って入り込んだりもしたろ!! ベロベロに酔ってなあ!!」

「カ、カ……カリオストロの研究室……依頼が終わって……依頼の打ち上げで飲みすぎて……」

 

 B・ビィ達の言葉もラムレッダの記憶を鮮明にさせていった。蘇りだした記憶は、次々溢れる。それは新しい記憶からどんどん過去へと遡り数々の仲間との出会いを思い出す。

 

「思い出沢山、まだまだ挙げればキリがない。まったく濃いキャラしてるよ」

「あ、あたしは……あたしは」

「仲間だろ? 俺がB・ビィ達と旅に出て、最初に出来た仲間だ」

 

 そして彼女の記憶は、運命とも言える居酒屋での出会いへと辿り着いた──。

 

 ■

 

 六 帰って来いヨッパライ

 

 ■

 

『──んにゃぁ~おもしろそうなお客さん達……ごあんにゃい~しておきましたにゃ~』

 

 思い出す出会いは、居酒屋の店員とそのお客だった。

 

『んにゃあぁ~~~~っ?』

『ぁじゃあっ!?』

『ああ……団長が、熱々シチューに顔を……っ!』

『はにゃあ~~~っごめんにゃさ~い』

 

 その客だった“地味な少年”に酔った自分は、あろう事か酒瓶をぶつけてシチューに顔を叩き込み。

 

『んにゃあぁ~~~っはっはっはぁっ!! きょうはぁ~あたしの入団歓迎ありがとにゃぁ~~んっ!!』

 

 騒ぎを起こし、店をクビになって追い出され。

 

『よろしくにゃぁ~だんちょうくん~』

『はいはい……』

 

 居酒屋を去ってそのまま新しい職場、呆れ顔の少年団長の騎空団へと転がり込む。

 何時もながら情けない、まったく何時も通りでお決まりの展開──だが。

 

(あたしは……あたしは、修道院を飛び出してから何処かに留まるなんてしにゃかった……違う、出来かったにゃ……。お酒を飲んで、何時も失敗して……。だから、心のどこかで“どうせまた失敗する”“クビになる”って思ってた。けど、けど君は……君の騎空団は……)

 

 予想に反して続くのは、“奇妙奇天烈騎空団”での愉快な日々。

 並大抵の騎空団では味わえない、体験できないような出来事の連続。日頃から星晶獣と酒を酌み交わすと言う経験は、この騎空団だからこそ出来た。

 そして、その騎空団で過ごす内に自分が感じたのは、久方ぶりの安堵だった。

 

(あたしがお酒で失敗した時、君はどれ程怒っても一言だって“出てけ”って言わなかった。あたしのダメな所さえも受け入れてくれていた……ダメダメなあたしなのに)

 

 団長ばかりか団員の仲間達さえも自分を受け入れてくれていた。

 仲間と酒を飲み、仲間と語らい、唄を歌い酒を飲む。心の底から楽しいと思える騎空団。

 

「そう言や、最初になし崩しの歓迎会したら言ってたな。俺が酒飲める歳になれば、飲み方教えてくれるって」

 

 団長への言葉──ああ、そうだ。覚えている。

 

『──にゃはは……団長君は、まだ子供だったねぇ……おしゃけ、飲めるようになったら、飲み方おしえてあげるにゃ~』

『はいはい、ありがと、ありがと』

 

 酔った戯言であったかも知れない言葉。それさえ、彼は覚えていてくれたのか。

 

「さあ、もういいだろラムレッダ。酔いも悪夢も覚めて良い頃だ。こんなつまらん悪夢が、俺達との旅より楽しいなんて絶対に言わせねえからな」

 

 ──“楽しい”、その通りだ。彼の騎空団は、彼との旅は本当に楽しい。今までも、これからも。

 

「Ahhhh……!!」

「あ、しまった……っ!?」

「気をつけろ、何人か抜けおったぞ!!」

 

 この時突如ラムレッダの視界に、レダ美達の合間を抜けてテーブルへと飛び乗った酔っ払い達の姿が入る。彼らは次々最大の脅威と判断した団長に向かい手を伸ばす。

 ──咄嗟に、体が動いた。

 今まで深く先の見えない霧に覆われたようだった意識が晴れる。ラムレッダ自身が驚くほど、この時彼女の意識は冴え渡った。そして全てを完全に思い出し、何をすべきか、どうするべきか直ぐに分かった。

 自然にとった動きは、見様見真似の動き。修道院に入る前に厳格な父が時折見せた“動き”を覚えていたものだ。

 酔ったような足取り、だが同時に滑らかな動き。更に独自の拳の構えをとると、そのまま拳を団長に迫る酔っ払いに向けて放った。

 

「Ah……!?」

 

 ラムレッダの拳を受けた酔っ払いは、短く悲鳴を上げテーブルから殴り飛ばされた。するとそのまま床に落ちて霧のように消えてしまう。

 

「──団長君達に、手出しはさせないっ!!」

 

 自分の事を仲間と言ってくれる人達が居る。そんな素晴らしい仲間と場所が、今の自分にある事を彼女は思い出した。

 そして自分もまたその“仲間”であるために戦う。仲間を守るために──。

 

 ■

 

 七 羅無打の拳 ~世紀末救清酒伝説~

 

 ■

 

 俺に襲い掛かってきた酔っ払いは、俺が倒すよりも先に床に殴り飛ばされそのまま消滅した。それをラムレッダがやったのだとわかり、ハッとして彼女を見た。

 

「ラ、ラムレッダ……!! 目が覚めたのか!?」

「うん、バッチリ……ごめんね団長君、恥ずかしい所見せちゃった」

「ん? あ……いや、気にしなくていい」

 

 目の前のラムレッダは、悪夢で最初に見た時に比べ──と言うよりも、普段から比べても凛々しさがあった。色々疑問は感じたが今それを気にしてる場合じゃないだろう。

 

「ラムちゃんズも、みんなもありがと!!」

「礼は後よ、ラムレッダ!!」

「まだまだ悪夢から抜けちゃいねえぜぇ!!」

「B・ビィの言う通り。モルフェ君、ラムレッダの目が覚めたなら脱出でかまわんね!」

「は、はいっ!! ラムレッダさんが目覚めて悪夢自体も弱まってます。今悪夢の住人が消えたのもそのせいです!!」

「なら早いとこ外に出ちまおう……しかし、まだ大分残ってるなこいつ等」

 

 相変わらず酔っ払い共の数は多い。全員を相手にする必要はないが、ぶっ飛ばして進むにしても面倒だ。

 そう思った俺であったが、一方悪夢より目覚めたラムレッダの考えは違ったようだ。

 

「団長君、ここは私に任せて」

「ラムレッダ?」

「今こそ私も活躍の時……とぉうっ!!」

「ちょっ!?」

 

 驚く俺をよそに何を思ったかテーブルから酔っ払いの群れに飛び込んだラムレッダ。悪夢の主であった彼女を酔っ払い共が見逃すはずはない。

 

「おい、逃げろラムレッダ!? 捕まると面倒だぞ!?」

「心配ないよ団長君。今の私は──」

「Ahhhh!?」

「──“素面”だからっ!!」

 

 バキィ……ッ!! ──強い打撃音と共に、またも一人酔っ払いが吹き飛んで消えていった。やったのは、やはりラムレッダだった。

 

「さあ、どんどん来なさい!! 今の私は、いくら動いても吐かないわよ!!」

「おお……っ!?」

 

 突如何かが覚醒したラムレッダは、四方八方から襲い掛かる酔っ払いの攻撃を“するり……”と躱してそのまま次々と強烈なカウンターがさく裂。間をおかず、果たしてそれ程柔軟に動けたのかと思う程脚を上げて酔っ払いを蹴り飛ばす。ラムレッダは、その流れるような動きで次々酔っ払い共を蹴散らし消滅させていった。

 

「す、すごい……!? ラムレッダさんって、あんなに強かったんですね」

「い、いや……あれは俺も知らん戦い方だ」

「え?」

 

 モルフェ君は「流石ラムレッダさんも星晶戦隊(以下略)の団員だ!!」とでも思ってくれたのかもだが、本当にあんなラムレッダの戦い方を俺は知らん。知らんたら知らん。

 

「長い放浪生活、幾度もクビになった居酒屋従業員!! そこで酔っ払い達の荒事が無かったなんて思わないでね!! 毎度誰よりも酔ってた私は……慣れてるわよ!! ハイィ──ッ!!」

「Ah……!?」

 

 そして俺達にとっても慣れ親しんだ酒瓶攻撃まで繰り出し始めるラムレッダ。床には幾らでも空になった酒瓶があり、それを器用に足でボールを蹴り上げるようにしてキャッチ。こん棒のようにしたり、投擲武器にしたりと凄い技を連発した。

 だがその酒瓶を武器にしようと思ったのは、敵もまた同じだったらしい。

 

「Ahhhh!!」

「なにを──キャッ!?」

 

 酔っ払いの一人が中身の残る酒瓶を持ち不意にラムレッダに中身をぶっかけたのだ。それは、目くらましのような苦し紛れの行動に思えるが、羅無さんの言葉を俺は思い出す。

 ──この悪夢が“己は酔っている”と奴に思わせておるのだ。あの駄酒は、あの駄酒は、そう思わせる道具なのだ──。

 この言葉通りであれば、もしや酔っ払いはラムレッダを再び悪夢に引き込もうと狙ったのかもしれない。酔えない駄酒であっても、その臭いは強烈なアルコール臭だ。このままではまた再びラムレッダが悪夢に呑まれる──かと思われた。

 

「──ッペ!? ペッペ……!! 急に何するのよ!?」

「Ah……!?」

「さっきまでならいざ知らず、今の私をそんな不味い酒で酔わそうなんて十年早いわっ!!」

「Ahhhh……!?」

 

 顔にかかった酒を拭い正気のままラムレッダは、酒をかけた酔っ払いから酒瓶を奪いそれで相手を殴り倒した。

 この思わぬラムレッダの活躍に俺も思わず唖然とするが、直ぐこれが好機だとわかる。ラムレッダは出口となる扉をわかって酔っ払いを蹴散らし進んでくれている。この獅子奮迅の活躍による勢いを利用しない手はない。

 

「全員ラムレッダに続けぇ──いっ!!」

 

 依然敵の数は多かった。だが悪夢の主であったラムレッダが完全に正気に戻り、そして予想外の活躍に今度は俺達が勢いづく番だった。

 

「邪魔だぁ!! 退きやがれ有象無象共がよぉ──っ!!」

「やれ、ウロボロス!! まとめて蹴散らせっ!!」

「私達も……ラムちゃんズ、アタァ──ック!!」

「いくよーラム子ー! ダブルどんケツゥ~~!!」

「あ、あた~……くぅおえぇ~~っ!?」

「うっわっはっは……っ!! 我らも調子が出てきたわ……っ!!」

 

 ラムレッダを取り戻し遠慮無用の戦闘となったならば、B・ビィ達に敵う者はこの場にいない。俺が参加しなくてもどんどん道が開けていく。おかげでモルフェ君とヴェトルちゃんを守りながら進む事が出来て助かった。

 

「撤収撤収!! 酒臭い悪夢とはおさらばじゃい!!」

「ほら、姉さんも早くっ!!」

「うぅ~っ! みんな、早い~……!」

 

 ここまで勢いづけばもうこちらのもの。伊達に何時も勢いで依頼を解決していない。……いや、別に誇れる事じゃあないが。

 

「さ、みんな早く!!」

 

 誰よりも先に扉に辿り着いたラムレッダが、扉を開き皆を急がせる。扉の外には、夢委の回廊が見えた。バタバタと急ぎ俺達はその扉をくぐった。

 

「ほら、ラムレッダも!! お前の脱出が肝心なんだから!!」

「わかってるっ!!」

 

 そして最後、ラムレッダの手をつかんで回廊側へと引き寄せる。悪夢の居酒屋からは、扉の外にまで手を伸ばし尚もラムレッダを連れ戻そうとするしつこい酔っ払いの姿があったが──。

 

「絡み酒か? しつこい酔っ払いは嫌われるぜ!!」

「そー言うこと!! 悪いけど、そっちのお酒は美味しくないの!!」

 

 俺とラムレッダ、二人そろって蹴りを入れ酔っ払いを押し戻した。そしてその直後、ラムレッダは夢の扉に手を伸ばし勢いよく扉を閉めた。

 

「さよなら悪夢!! 私の夢なら、もっと美味しいお酒を用意しときなさい!!」

 

 バアァァンッ!! ──激しく音を立て、夢の扉は完全に閉じられた。

 かくして、俺達はラムレッダの悪夢を抜け出したのであった──。

 

 





何時も感想、誤字報告ありがとうございます。大変励みになっております。

ある日、突如星晶獣リッチのプレイアブル実装の報が入った。急ぎ情報を集めるとなんとリッチが”女性”であると言う続報が入る!! 今までの骸骨の姿は幻だったのか……? 未だ半信半疑の中その謎を解明するため、ご理解分の資金を握りしめた我々調査隊はアマゾンの奥地へと向かった。

と、言うわけでね。以前リッチをトラモント編で出しちまったわけですが、なんか普通に喋らせちゃったわけですが、リッチーマウスとか書いちゃってたわけですが……。

”ご理解”(まわ)したぜェ!! この”ガチャ”(リミテッド)をよォ!!

マジメに強い。ル・オー戦での安定感しゅごい……。
結局二次創作なんでハチャメチャしてますが、これは予想GUYデース……。けどバザラガの因縁ある星晶獣の説明が出来やすいね!! じゃあ、あのトラモントのリッチどうしようって話。結局リッチ(骨)は、複数体存在すんの?

「えぇ……あのボンビー、めっちゃ自我持ってる……えぇ……」(ドン引き)

次出番あれば(できれば出したい)色々強引につじつま合わせてやる!! 「団長君にあったから、ああなった」でもいい気がするけど追々考えます。

コーデリアのドレス姿やったね!!
ルナール最終上限解放やったぜ!!
公式ぃ! ルドミリアのSSRとかも待ってるぜぇ!!

次回からルナールの悪夢ですが、今日(10/29)開催のイベントや最終済ませると展開変更する点出てきそう。……まあ、何時ぞやの闇六竜ちゃんやリッチほど衝撃な事ないやろ。多分、きっと、メイビー。
ポポル・サーガの話使いたいし、話の掘り下げとかあると助かる。

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