俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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キャラ崩壊と二次創作独自の設定や解釈があるのでご注意ください。

登場キャラクターのフェイトエピソード等のネタバレを含みますので、その点もご注意ください。

また、活動報告にて「前後編にする」と以前投稿ましたが、この度一話で済ませました。予告した内容と異なった事をお詫び申し上げます。


その男、猟犬が如く

 ■

 

 一 穏やか一時、トラブル日常

 

 ■

 

 今日も今日とて空路は続くよどこまでも。少し前に出会った東からの旅人ミリンちゃんも新たに仲間として迎え、依頼を受けては解決し、またも依頼を受けては解決し……騎空団としてなんて事の無い日々を過ごしている俺達【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】。

 

「これはアウギュステで手に入れた熱帯魚のガラス細工」

「うわぁ! 綺麗ですねえ~!」

「こっちは、ポート・ブリーズで買った置き物」

「はぁ~……なんと、実に細かく……」

「このお菓子はルーマシーで手に入れた果実を使ってる」

「美味しいですねぇ~っ!」

 

 その日の午後、俺は書類仕事の息抜きにと食堂でミリンちゃんに今までの旅で旅入れた物を見せたり、その時の話をしたりしていた。

 仲間になってから空いた時間を見つけては、彼女は団員達に色んな話を聞いている。

 多くは俺達にとっては些細な事かもしれないが、遠い国から来た彼女にとって俺達の話はどれも面白いらしく楽しそうにしていた。

 

「俺はあんま島で個人的な物買わないからね。食いもん以外で俺が見せれるのは、私物と言うかエンゼラの賑やかし用の置き物ばっかだな」

「いえいえ、拙者がまだ行っていない島の物などもありましたしとても面白いです!」

「そう思ってくれるなら嬉しいね」

 

 素直な人の相手は心が落ち着いて良い。激流の様な事ばかりの日常では、このように穏やかな時間が必要なのだ。

 

「それで、この置き物は──」

「ミミーン!」

「うわぁ、喋った!?」

「こらミスラ、当たり前の様に混ざるなよ」

「ミンミミーン♪」

 

 悪戯のつもりなのか、机に並べた置き物なんかに混ざっていたミスラを注意する。見た目無機物なので置き物に混ざられるとマジでわからん。一方でミスラは楽しそうに鼻歌? を歌いながらフヨフヨと俺達の周りを回っていた。

 

「あはは。してやられました」

「悪いね。人に構わってもらうの好きみたいなんだ」

「なんだか子犬の様な……けど星晶獣なんですよね?」

「ま、一応ね」

 

 小さな歯車な見た目のミスラだが、これでも歴とした星晶獣である。尤もB・ビィやゾーイの話では、ガロンゾで俺の要望を受けて本体より分かたれた省エネ形態の個体であるので最早本体とは別個体となりつつあるらしい。詳しい事は分からんが、まあそう言う事なんだろう。

 そんなミスラの背景はともかく、今では確かに子犬のような存在だ。尻尾はないが、ご機嫌ならクルクル回る。

 

「楽しそうだからって、ガロンゾ出る時にちゃっかり付いて来てからに……」

「ミンミーン♪」

 

 何を言っても楽しそうなミスラ。それを見てると怒る気は失せる。まあ元々怒る気は無いが。

 

「さてと、それじゃそろそろ仕事に戻ろうかね」

「あ、ごめんなさいお時間とらせて」

「いいよいいよ。俺も休憩したかったからね」

 

 そこそこミリンちゃんと話をしたので世間話は切り上げる。書類整理に次の島での依頼の準備とやる事は多いのだ。

 

「……ところで団長さん」

「うん?」

「あちらのお二人は大丈夫なんでしょうか?」

 

 ミリンちゃんが心配そうに別のテーブルの方を見る。そこには具合が悪そうにつっぷし呻く二名のろくでなしがいた。

 

「ぇぷ……の、飲みすぎたにゃぁ……」

「ウ、ウゥ……ア、頭イタイ……ッ」

「艇の揺れすら……っぷ! じ、地獄……の、ようにゃ……ぅおっぷ!?」

「頭痛ガスル、ハ……吐キ気モダ……」

 

 昨日の夜二人で酒盛りをしてそのまま泥酔し、今日になって痛い目を見ている何時もの二人。水を飲みにここに来たは良いが、もう動く事は出来ないらしくあのままのようだ。

 

「……俺達には救えぬものだ。気にしないで良いよ、ただの二日酔いだから」

「はぁ……そ、そうですか」

 

 二日酔いはクリアオールでも治せない。無理に移動させるとそれだけで“決壊”して大惨事になりそうだ。強いて救いがあるとすれば、二人の足元に深めの桶を置いておく事だろう。

 こんな光景をこれから何度も見る事になる。ミリンちゃんには大変だろうが慣れてほしいものだ。

 そんなどうしようもない二人を放って置いて仕事に戻ろうとしたところ、足元に紫色の瘴気が漂い出した。

 

「やや、これは!?」

「ああミリンちゃん初めてか。大丈夫、セレストだよ」

「え? セ、セレスト殿」

「は、はい……そうです……」

「うひゃっ!?」

 

 足元で渦巻いていた瘴気が徐々に人の形をとっていく。するとそれはセレストの姿へと変わった。

 控えめな挨拶と共に現れたセレストにちょっと驚くミリンちゃん。瘴気となってエンゼラの船内を自由に移動できるセレスト、申し訳ないがこれもよくある事なので慣れてほしい。

 しかしこの方法で俺の前にセレストが現れるのは、緊急事態かちょっと変な事があった時だ。慌てた様子もないので多分後者だろう。

 

「どうした、なんか問題あったか?」

「ん、んっとね……今日補充した荷物あるでしょ?」

「んあ? ああ、あるな」

「さっき気がついたんだけど……荷物しまった倉庫から、その……へ、変な気配があるの……」

「変な気配?」

「うん……魔力をね、感じるの……」

「ふむ……」

 

 今までエンゼラには空から降ってくるような奴は数名いたが、侵入者と言うのは多くない。空から降ってきたメドゥ子が密航を図った事もあるが、こちらは即B・ビィ達に捕らえられている。

 そして今回新たな侵入者らしき気配があるとセレストは言う。

 

「直ぐ気が付かなかったのか?」

「し、島を出る頃には気配が弱くなったから……気のせいと思って……ご、ごめんね? 直ぐ報告すればよかったんだけど」

「いや気にしないでいい……しかし確認はせんとな」

 

 倉庫には旅に必要な物が蓄えてある。万が一何かあっては一大事だ。

 

「倉庫には?」

「こ、ここより近くに居たから……先にコーデリアとフェリちゃんに行ってもらった……」

「わかった。なら直ぐ俺も行くわ」

「万が一密航者であるなら何があるかわかりません、拙者もおともします」

「うむ。ミスラは?」

「ミミンッ!」

 

 ミスラは直ぐに俺の頭の上に行くとそこでクルクルと回っていた。着いて来るようだ。

 

「お前ほんとそこ好きね……まあいいや、行こうか」

 

 俺達は直ぐに食堂を出て倉庫へと移動した。なお酔っ払い二人は放置。

 早々に倉庫にまで行くと、入り口前にコーデリアさんとフェリちゃんにベッポ達が待機していた。

 

「やあ、来たね団長」

「どもっす。様子は?」

「まだ中には入って無いからなんともね……だがセレストの話では“何か”が居る事は間違いない」

「ベッポ達も何か感じてるようだ。人か魔物か分からないが何かはいる」

 

 扉の前でベッポ達は、鼻を倉庫内へと向けて何か匂いを嗅ぐ仕草をしていた。俺も気になって倉庫の内側に意識を向けてみたが確かに何かの気配を感じた。

 

「ベッポ達には位置が分かりそうだな」

「先行させようか?」

「……うむ、そうしてもらおうかな。頼める?」

 

 フェリちゃんの提案を受けベッポ達に直接聞いてみると、彼らは「任せろ!」と胸を張っていた。

 

「ならベッポ達を先頭にして探ろう。セレストはミリンちゃんと念のためここで待機、万が一ここに居る“何か”が逃げるようなら……まあ無理に足止めはしなくていいから追跡をお願い。艇に居る以上逃げ道は無いけど妙な事されても困る」

「う、うん……」

「お任せください!」

 

 二人を出入り口に残し俺達は倉庫へと入っていく。

 エンゼラには倉庫が幾つかあり、ここは家具や雑貨をしまっている倉庫だ。棚には細々としたものを小分けに入れた木箱を並べて置き、床には大きい荷物が箱につめた状態か埃よけに布を被せた状態で置かれている。

 ある程度室内は棚で区切られてもいるが、大きい荷物の移動が邪魔にならないよう開けた場所もある広めの倉庫だ。窓は無いが魔力を補充すれば長く灯り続ける魔導ランタンを幾つか配置しており、多少薄暗いが歩く分には問題は無い。

 その明かりの中用心しつつ俺とコーデリアさん達は倉庫内を少しずつ進んでいく。

 

「パッと見じゃあ不振な物も人も居ないけどもね」

「みんなどうだ? 何か分かるか?」

 

 フェリちゃんが先頭を行くベッポ達に尋ねると、彼らは俺達をチラリと見ながら鼻をスンスンと鳴らし匂いを嗅いでいた。俺達に感じ取れない何かを既に見つけている様子だ。

 

「ここは任せてみるか」

「そうだな」

 

 ベッポ達は匂いを嗅いで進んで行く。途中までベッポやジジ達は別方向を向いたりもしたが、徐々に皆同じ方向に向いて歩いて行く。そして倉庫の奥の方にまで来ると皆は一つの大きな木箱の前で立ち止まった。

 

「……これ?」

「────!」

 

 木箱を指差すとベッポ達は「そうだ!」と頷いていた。今日補充した荷物の内の一つには間違いない。

 

「これ何の箱だっけ……」

「ここにラベルが……ふむ、ペット用品のようだ」

「ペット用品? そんなの買……ったなそう言えば」

 

 仲間になった団員の中にメドゥ子のメドゥシアナ、フェリちゃんのベッポ達のように人型ではない存在が多くなったので、それらのもの達の衣食住を充実させるために今回まとめて買い込んだのだった。

 なお何かと例外が多い存在のB・ビィは、人型にもなれるので微妙な所だが普段ビィもどきの姿なので基本俺の部屋に設置した小型ベッドで寝ている。

 

「これは寝具類だな。ベッポ達のもあるし、ミスラ用に新しく小型ベッドも買ったんだぜ?」

「ミミーンッ!」

 

 実はこっそり買ったミスラのベッド。B・ビィとは違い、ソーサー程度の大きさのミスラに合わせた更に小さな物だ。今までタオルを畳んで寝床にしてたので悪いとは思ってたんだよね。

 

「しかし団長、この箱の中に恐らく何か居るというわけだが……どうするね?」

「まあ釘打って封してるわけでもないんで……蓋開けりゃ人も余裕で入れる大きさではあるけどなぁ……」

 

 俺達がこうやって話してても特に反応は無い。とっとと開けてしまってもいいのだが──と、色々考えているとフージーとニコラがゴソゴソと木箱を弄りだしたではないか。

 

「あ、コラお前達!? 勝手に……!」

「──!」

 

 フェリちゃんが注意するがニコラ達は中身が気になるようだ。自分達の物が入ってると分かりそれを守るために慌ててもいる。

 

「待て待て、今開けるから……!」

「──!」

「あっ!?」

 

 木箱を開封しようとしたらその前にフージーとニコラはパッと姿を消した。どうやら箱の中に移動したらしい。

 

「しまった!」

「おいコラ、お前達ッ! 戻って──」

「ふひゃああああぁぁぁぁ~~~~っ!?」

 

 フェリちゃんが再度叱ろうとした。だが彼女が言葉を言い終えるよりも先になんと木箱の中から悲鳴が聞こえた。

 

「ふぇ~っ!?」

「おおっ!? な、なんじゃあ!?」

「むう、これは……」

 

 急にドタンバタンと木箱が揺れだし、一同驚き思わず驚き後退る。

 

「え、ええ!? な、なんですかぁ……!? だ、誰ですかぁ……!」

「────!」

「──!」

「ひゃああぁぁん!? そ、そこ……ツンツンしないでぇ……! いたっ! はう、ひえぇ~~!」

「──!」

「や、やめてくださぁい~……! そっちも駄目です、引っ張ったら駄目ですぅ~~ッ! ひぃ~ん! お助け、お助けですぅ~~……ッ!」

 

 木箱の中からはニコラ達の騒ぎ声、そして彼等に襲われてる女性の悲鳴が聞こえる。

 

「案の定“何か”は……居たようだね」

「ふえぇ……こ、これ、どうしよう団長……」

「さてな、こいつは……」

 

 あの箱の中で果たして何が起きてるのか。まあ予想がつかんでもないが、中々手の出しづらい悲鳴が聞こえて来るので困ってしまう。

 

「ひゃあぁんっ!?」

 

 どうするか悩むうちについに木箱は傾き俺達の方へと倒れる。そしてそのまま蓋が開き中から“スッテンコロリ”とそんな擬音が目に見えるようにして、フージーとニコラ、そして一人の女性が中の荷物と共に絡み合いながら転がり出て来た。

 

「あらら、荷物が……」

「──!」

 

 ベッポやミスラ達のために買った毛布や枕が雪崩を起こし床に散らばる。ベッポ達もこぼれたその寝具の匂いを嗅いで鼻を押し付けたり布に包まったりとやりたい放題だ。

 

「それどころじゃないんだがなぁ」

「す、すまない団長……みんな興奮してしまって」

「うーむ、まあいいや。それより俺達は……」

 

 改めて散らばる寝具の中央で目を回している女性を見る。倉庫の明かりでもはっきり見えるヒューマンとは違う耳、それを見れば直ぐに彼女がエルーンであるとわかる。

 

「何かと思えばとんだ珍客のようだね」

「いやはや全く……そのようです」

 

 なんだって俺の艇には珍客ばかり来るのか。せめて星晶獣ではなかっただけ助かったと思う事とする。

 

 ■

 

 二 トラブルの種がタンポポの綿毛みたいにフワフワしてるのになんか全部こっちに来る

 

 ■

 

 目を回していた女性を倉庫から連れ出した俺達。彼女自身に特に危険を感じなかった俺は、団員を集めてこんな時に何時も使われる食堂へと移動して一先ず彼女の事情を聞くことにした。

 

「すみません、すみません……」

「あの……」

「悪気は無かったんですぅ……」

「いやその……」

「丁度良い大きさと狭さの木箱につられただけなんですぅ~……」

 

 しかし食堂で椅子に座りながら頭と耳をたれる女性、口を開けば謝罪の言葉が出てくるばかり。

 

「まためんどーなの連れて来たなお前」

「お、俺が連れて来たんじゃねいやい!」

 

 向かい合っても勝手に落ち込んでいく女性を前に中々話が進めれない。そんな様子を見ておっさんが俺を呆れた様子で見るが別に俺が連れきたわけではない。と言うか俺が面倒を態々連れて来た例は無いはずだ。

 

「しかし密航者だろ? ふん縛って次の島で突き出すか?」

「ひえぇ……!」

「おい脅かすな。まず話聞いてからだ」

 

 B・ビィの言い方がちと物騒なせいで彼女は縮み上がってしまった。なんか小動物みたいな人だな。

 

「まあまあ。ほら君、このココアでも飲んで落ち着くといい」

「はう……お気遣い感謝します……」

 

 一方で普段通りの落ち着いたペースのゾーイが厨房から一杯ホットココアを持ってきた。女性はココアを受け取るとクピクピ少しずつ飲んで落ち着きを取り戻していった。

 

「はぁ~……美味しいです……」

「それは良かった。最近私はココアが好きなんだ。それに甘い物は、心が落ち着くからな」

「頭の回転もよくなるしねぇ~。良い事しかないよ、あは」

 

 ゾーイの言葉に頷くフィラソピラさんであるが、貴方は甘い物が好きなだけと思います。

 

「話できます? 悪気が無かった云々はそちらの事聞いてから考えるから、まずは話を聞かせて欲しいですね」

「は、はい……すみません……」

「まずお名前は?」

「えっと……コンスタンツィア、と言います……」

 

 エルーンの女性、コンスタンツィアさんは少しずつだが自分の事を語り出した。

 とある島から“逃亡中”の身であると語る彼女、今も島から島へと移動して“追っ手”から逃げ続けているらしい。

 

「……うん、まあ色々と面倒と言う事が分かりました。が、なんだって木箱に?」

「そのぉ……私を追いかけてる人が近くまで来て……慌ててどこかに隠れないとって思ってたら、良い場所に荷物が積まれてるのを見て……」

「俺達の積荷か……」

「それで、その……最初は身を隠すだけのつもりだったんですけど……運良く箱の蓋が開いてたらなぁ~って思ってたら……」

「あの木箱があったわけか……それで入るかね普通」

「ごめんなさい、ごめんなさい! わ、私暗くて狭いのが好きで……落ち着くんです。中にはフカフカの毛布もあったので、そのぉ……つい……」

「──!」

「ひゃぁ~!」

「ほらお前達、落ち着け」

 

 自分達が使うはずだった毛布を先に使われ憤慨するベッポ達が抗議の声を上げている。フェリちゃんが彼らを落ち着かせるが、コンスタンツィアさんは悲鳴を上げて怯えていた。

 なんとも情けないと言うか呆れた話だが更に話を聞くと、その後木箱に隠れて追っ手をやり過ごしつつ毛布に包まってる内に眠ってしまったコンスタンツィアさん。そして何時の間にか箱ごと積み込まれエンゼラは出港、そして今に至るわけだ。

 

「積み込まれるタイミングで眠ったから少し気配が無くなったのか」

「しゅ、出港のタイミングだったから……私も操舵の方に気をつかってたし……」

 

 セレストがコンスタンツィアさんに気がつくのが遅れた理由がこれでわかった。

 

「ちなみに、“とある島”って何処の島です?」

「そ、それはぁ……皆さんにご迷惑かけてしまうのでちょっと……言えないです……」

「……じゃあ“追っ手”って言うのはどんな奴等ですか?」

「えっと……火炎放射器で脅したり、拳骨で脅したりする二人組みですぅ……」

「おっと、俺が思ったより超危険人物だぞ~」

「俺は拳骨の方に興味があるな!」

「フェザー殿、ちょっと今はそう言う話じゃないと思います」

 

 拳骨に反応したフェザー君の方はユーリ君に任せ、俺はチラリとコーデリアさんとおっさんと視線を合わせる。すると二人は軽く頷いた。

 

「……カルテイラさん、ちょっとこの場任せていいですか?」

「ん、任せとき」

 

 カルテイラさんに一時この場を任せ席を立つ。後からコーデリアさんとおっさんの二人も着いて来て、そのまま三人で廊下の方に出た。

 

「……で、どう思います?」

「嘘はついてるね」

「ああ」

 

 俺が意見を求めると二人はきっぱりと告げた。

 

「そう思います?」

「まあね。緊張してるにしても常に視線は定まらないし酷く挙動不審、何か重要な事を誤魔化そうとしてるのがはっきりわかる」

「とは言え事実も混ぜてるな。まあ意図してんじゃなくて嘘が下手なだけ、自然と本当の事を言っちまってるタイプだな」

「根が正直なのかなぁ」

「だろうな」

 

 ではどこが本当の事だろうか? まあ何となくだが追って云々は本当そうだ。

 

「追われてるって言うのは……微妙だけど、俺は本当だと思いますがね。怯えた感じからして」

「別に否定はしねえよ。あの女の素性は知らねえが、何かに追われてても不思議じゃない」

「やっぱ“魔力”?」

「当然」

 

 コンスタンツィアさんと話して分かったが、彼女は中々強い魔力を持っている。並の魔術師とは比べ物にならないだろう。仮にもしあの魔力を魔法として使える才があるならば、相当な実力を持っている事になる。そう言った人間が狙われると言うのも理由としてはありえる。

 

「まあオレ様のような天才ではねえが、何かは特別だろうな」

「身の上を深く語りたがらないあたりも気になるね。それにどこか浮世離れした印象を受けた。身形も悪く無い、もしかすれば身分が高い者の可能性もある」

「うへぇ……貴族とかだと面倒でやだなぁ」

「確証は無いよ。面倒には違いないがね」

 

 そこは違って欲しかった。コーデリアさんの予想は当たるからなぁ。

 

「でどうする? B・ビィの言うように次の島で密航者として突き出すか?」

「それも良いけど……なんかほっとけない感じありません?」

「お前そう言うとこだぞ」

 

 耳が痛い。

 

「どの道次の島まで時間がある。今は下手に出歩かない様にして艇で大人しくして貰おう」

「ですね。部屋空いてるし、最低限の家具置いて適当に鍵閉めりゃ牢屋代わりにはなる。それで大丈夫でしょう」

 

 結局追われている事も確証は無い。彼女がただの密航者であるオチも十分あるのだ。

 

「それじゃあ一先ず部屋を用意し──」

「団長ッ!?」

「うお!?」

 

 食堂に戻ろうとしたらそれよりも先に中からマリーちゃんが血相を変えて飛び出してきた。

 

「な、なにどうしたの?」

「どうしたじゃないわよ! ラムレッダとティアマトがヤバイの!」

「……ああ!?」

 

 そう言えばあの二人が食堂でダウンしてるのを忘れていた。

 

「け、“決壊”したの!?」

「まだだけどなんかブルブル震えだしてんのよ! 出すのは良いけど、ここでだけは止めさせて!!」

「そりゃそうだ……!」

 

 一応足元に桶は置いてあるはずだが、いざそうなれば果たして一人一個で足りるかわからん。しかも今はコンスタンツィアさんまでいる。ちょっと状況が悪すぎる。

 

「ちくしょう! 無理しても早い内に移動させとくべきだった!」

 

 慌てて食堂に飛び込みながら、俺はまたこれから色々と有耶無耶になりそうな気がした。

 

 ■

 

 三  馴染んでるぅ~

 

 ■

 

 コンスタンツィアさんを捕まえ(保護とも言う)数日後。俺達は次の目標の島に近づいていた。

 一方で問題のコンスタンツィアさんは、臨時であてがった部屋で大人しくしてもらっていた……のだが。

 

「コ、コンスタンツィアさん……これ、お茶はいったよ……」

「あ……ど、どうもありがとうございます……」

 

 なんか知らんがセレストと仲良くなっていた。おどおどした二人がおどおどして仲良くしてる。

 

「何をしてるのかねお二方……」

「ひゃっ!」

「あ、団長……」

 

 食堂でなんか和んでる二人を見かけて声をかけたが、コンスタンツィアさんに驚かれ悲鳴まで上げられた。

 

「ひゃって……そう驚かんでも」

「す、すみませんすみません……急に声をかけられると駄目なんです。ビックリしちゃって」

「ビックリしちゃいますか」

「はい……ビックリしちゃいますぅ」

 

 繊細なのかな。けど声かけただけであそこまで怯えられると傷付くのだ。

 

「まあ驚かせたのは悪かったですが……で、二人揃ってなに? 一応コンスタンツィアさんは部屋での待機が原則なんだけど」

「け、けど団員の誰かが付き添えば船内の移動は良いって事にしたよね……?」

「まあね」

 

 コンスタンツィアさんは、持ち物検査も身体検査もしたが特に危険な物は持っていなかった。なので一人で出歩きさえしなければ部屋から出る事は許可している。

 

「別に俺も疑うわけじゃないけどさ……まあいいや。それで二人で何してんのさ」

「えへへ……ちょ、ちょっとお茶会を……」

「お茶会てあーた……」

「な、なんか気が会っちゃって……」

 

 誰とでも簡単に仲良くなるなぁうちの星晶獣達ってば……。

 

「それも良いけどね。じゃあ何で気が合ったわけ?」

「趣味、とか……?」

「お前まさか」

「ち、違うよ! ルナール先生の方とは関係ないから!」

 

 セレストの口から趣味と出てくると、最近今まで以上にルナール先生と一緒に部屋で作業してる時間の多い耽美物の方が浮かんでしまう。二人が手と顔をインクで汚して部屋から出て来た時はゾンビかと思ったぞ俺は。

 あと最近二人のフェザー君とユーリ君を見る目が怖い時がある。フェザー君は多分説明しても理解しないだろうが、ユーリ君は多感で未来ある青少年なんだ。やめてさしあげなさい。

 

「あ、あの……私がその、狭くて暗い場所が好きだから……セレストさんとそれで話が合って」

「なんじゃそりゃ」

「わ、私闇系の星晶獣だから暗い場所好きでしょ? だからそこ等へんで気が合っちゃった……」

「歴代居心地の良かった狭い場所ランキングは盛り上がりました」

「うーん、一生縁が無さそうなランキングを知ってしまった。……因みに一位は?」

「クローゼットです」

「クローゼットだねぇ……」

 

 やっぱり縁は無いな。

 

「だ、団長もどう? お茶淹れるけど」

「あー……うん、じゃあ貰う」

「わ、わかった……ちょっと待っててね?」

 

 セレストは俺の分のカップを取りに厨房に向かって歩いて行った。そして俺は席に付いてコンスタンツィアさんを見る。

 

「……あ、あの? なにか……」

「何ってわけじゃないですけどね……」

 

 椅子に座って茶を飲んでいる姿を見ると、何となく上品に見えてくる。やはりコーデリアさんの言うようにある程度身分の高い人物、それなりの教育を受けている人に思えた。

 一方本人の性格もあって本当に貴族かと聞かれると疑問であるが、それでもただの村人みたいな事は無いだろう。

 

「……そろそろ島に着くんですけど、コンスタンツィアさんをどうしようか考えてました」

「はう……や、やっぱりご迷惑でしたよね……」

「そらご迷惑でしたがね」

「あわわ……! すみませんすみません……!」

 

 勝手に人の騎空団の荷物に紛れ込んで密航されりゃ誰だって迷惑だわ。

 

「普通に考えれば秩序の騎空団なりに後任せちゃうんですがね」

「そ、それは……そのぉ……」

「嫌だと?」

「うぅ……」

 

 この感じはやっぱり何かから逃げてるか、単純に後ろめたいなにかがあるのか。悪いこと出来る人では無いと思うがどうなんだか。

 

「どう言う事情か知りませんがね。俺も身元不明で目的不明の人を乗せたままってわけにいかんのですよ」

「うぅ……そうですよね。その通りですよね」

「いやそこまで落ち込まんでも」

「良いんです。全部私が悪いんです……私がしっかりしてれば良かったの……私なんて壁の染みとお話してれば良かったんだわ……」

「卑屈だなぁーんもー!」

 

 別に責めるつもりも無かったんだが、コンスタンツィアさんはみるみるしょぼくれてしまう。繊細と言うかこれは打たれ弱すぎるぞこの人。

 

「お? なんじゃ団長が密航娘をいじめておるぞ」

「おやおや、本当かいガルーダ?」

「酷い奴がいたものね」

「ちがぁう!」

 

 コンスタンツィアさんがメソメソし始めたら食堂にメドゥのじゃコンビとフィラソピラさんまで入ってきた。入って来るなり目撃した俺達二人の姿を見て適当な事を言うのじゃ子。そう言う適当な発言の所為で俺の変な噂が増えるんだ畜生。

 

「違うんです……全部私が悪いんです……」

「あは、台詞だけなら完全に君が悪者だね」

「違います」

「こう言う台詞最近買った本で読んだぞ。痴情の縺れと言う奴じゃな!」

「ちがうっ!」

「女は何時だって泣くしかないのね」

「俺が悪くないって分かってんだろテメー!?」

 

 涙目のコンスタンツィアさんの言葉は益々俺を悪者に仕立て上げてしまう。そしてそれを分かってからかう三人。

 

「シャ~……」

「メドゥシアナ……うう、お前だけだ慰めてくれるのは」

 

 一方メドゥ子に着いて来たメドゥシアナ(省エネ)は実に優しいものだ。「元気出しなさい」なんて言いながら、ポンと俺の肩にまるで手のように尻尾を乗せる。

 

「シャーッ」

「あ、どうもこれはご丁寧に……」

 

 そしてちゃんとコンスタンツィアさんにも挨拶をするメドゥシアナ。この子主人より礼儀正しいな。

 

「……そう言えばコンスタンツィアさん、メドゥシアナとか特に驚いてなかったですね」

「え? そ、そうですか?」

 

 もっと言うならティアマト達星晶獣を見ても初めこそ驚いていたが、直ぐに慣れた様子でもあった。

 

「そう言えばそうじゃな。妾の事もそこまで驚いてはいなかったのう」

「ど、どうでしょうか……ちゃんと驚きました……よ?」

「ちゃんと驚くってなんですか、ちゃんとって」

「あわわ……そ、それはその……」

「あ、あれ……人数増えた……」

 

 コンスタンツィアさんが俺達の疑問に答えが詰まっていたところ、厨房からセレストが戻って来た。

 

「今来たのよ。なんか食べたくなったの」

「甘いものが欲しくなるのは、人も星晶獣も変わらないよ。あは」

「うむうむその通り」

「おやつ目的かよ。まったく……」

 

 そう言う事ならしかたあるまい。どうせお茶請けに何かあるか俺も考えてたところだ。俺もなんか食おう。

 

「セレスト、悪いけど飲み物追加で人数分頼む」

「あ、うん……それは良いけど、団長は……?」

「小腹空いたしパンケーキでも焼くわ」

「パンケーキ!?」

「それは魅力的な提案だねえ」

「トッピング! アタシの分のトッピングは大盛りにしなさいよ!」

「ええい、群がるな!? アリかおのれらは!!」

 

 パンケーキと言った途端に俺に群がる甘味大好き三人組。見た目未成年なので行動も相まって完全に子供である。

 

「トッピングは凝ったもんは無し! ジャムかバターだけだ!」

「ケチっ!」

「うるせい」

「地味っ!」

「関係ねえだろ!? 髪三つ編みにすんぞ!」

「こわ……っ!? どう言う脅しよ!?」

 

 三方向から群がられて動きにくい。メドゥ子達を体で押し退けながら厨房へと移動する。

 しかし中途半端に話が途切れたが、結局コンスタンツィアさんの事は分からなかったな。星晶獣を見ても直ぐに慣れた理由、果たして何だろうか? 気が小さいようだから魔物のようなのが怖くないと言う風じゃないだろう。むしろ苦手と考えるのが妥当だが、もしや異型の存在に慣れているのか? 

 追求すれば分かるだろうが、だが俺がそんな事を態々する事も無い。なんなら島に到着したらお別れするわけだし、あんま気にする必要も無いだろう。へーきへーき。

 今は難しい事よりパンケーキなのだ。

 

 ■

 

 四 予定通りにはならないのが常

 

 ■

 

 数時間後、俺達は目的の島に到着した。森と平原があり、幾つかの村と町がある比較的小さな島だ。

 島に到着してから依頼されていた積荷を下ろし納品する。シェロさん経由で手に入れた香辛料や医療品など、小さな島では手に入れるのが難しい品々である。こう言うのを運送の艇とは別で運ぶのも騎空団の立派な仕事であり人助けってわけだ。

 そしてその品の納品自体は無事終了。依頼も完了して一安心……と行きたいがちと困る事になる。

 

「団長さん、やっぱりこの島には秩序の騎空団の施設は無いそうです」

「あらら……そうでしたか」

「はいです……」

 

 停泊所での納品作業の最中、別行動で町の方に情報を集めに行って貰ったブリジールさんが残念そうに話す。

 

「そ、そうですか……ほっ」

「相棒、この姉ちゃんあからさまにホッとしたぞ」

「い、いえいえしてないです……! これっぽっちも……!」

「隠すのへタだなぁ……」

「ミンミ」

 

 たどり着いた島が小さい島なので、秩序の騎空団関係者が駐在するような施設が無かった。その事を知ったコンスタンツィアさんはと言うとあからさまに安心していた。

 思わず俺もミスラも呆れてしまった。

 

「別に呼べば来ますがね。ここだって秩序の騎空団活動範囲だし」

「ひえ……っ!」

「一々リアクション大きいな姉ちゃん」

「まあ呼ぶぐらいならこっちから駐屯施設ある島に移動した方が早いんで呼びませんが」

 

 だとしても暫く時間はかかる。まだこの奇妙な密航者との旅が続くだろう。

 

「そ、それじゃあこの島では特になにも?」

「まあ依頼は今んとこ終わってますからね。本来補給するべきもんも無いんですが……」

「……ふえ?」

 

 コンスタンツィアさんを見ると彼女は何も分かってない顔だった。

 

「……基本部屋に待機で数日、何か必要なもんも出てきた頃でしょう」

「あ、私のこと……えっと、それは……」

「必要最低限の生活用品はこっちであげますけど、それとは別で要るもん買いますよ。着替えとかいるでしょうし、それに暇潰す奴とか……まだ暫く艇に乗ってもらうことになりそうですからね」

「そ、そんな悪いです……」

「悪いと思うなら密航せんで欲しかったなぁ」

「はぅあ……っ!!」

 

 そもそも今まで良くもまあ、こんな性格してんのに着の身着のまま逃げてきたもんだ。たいした荷物も見当たらず、路銀だって自分で稼げるようにも見えない。ある意味度胸があると言えよう。

 

「とりあえず今日は、コンスタンツィアさんは俺にB・ビィ、そしてブリジールさんとで買い物です」

「え、他の皆さんは?」

「今日は自由行動なので各々好きにしてますよ」

「自分は買い物のお手伝いです!」

 

 こういう裏方と言うか買出しとかお手伝い関係の時輝くのがブリジールさんだ。日頃家事手伝いもよくしてくれて、こんな時も大変助かっている。

 

「う、うう……すみません私のようなのに気を使ってもらって……」

「別に気を使ってるわけじゃないのだけどもね……」

 

 特に量も多くなく、大きな買い物もするつもりは無い。とっとと済ませてしまおう。

 

「そいじゃ早いとこ終わらせて……む?」

 

 二人を連れて移動しようと思った時、ふと何か視線を感じる。

 停泊所にいる人の数は少なくない。人の気配は勿論そこかしこにあるが、しかしこれはこちらを見ている視線だ。殺気は無いが何か気になる。

 

「団長さん? どうしたです?」

「……ふむ」

 

 視線は後ろの方から感じる。振り向いてもいいがそれで俺が視線に気がついた事を知られるのも面倒だ。

 

「ちょっと移動しますよ」

「え? 買い物は……」

「しますが、取り合えず付いてきて下さい」

 

 一先ずコンスタンツィアさん達を連れ移動する。町の方へ向かいつつ人通りのある場所へと移動した。

 

「団長さんこれ何処にむかってるです?」

「さて何処と言うわけでもないですがね」

「へ?」

「B・ビィ、ミスラ……気付いてるか?」

「ああ、ついてきてる」

「ミン!」

「へ? え?」

 

 コンスタンツィアさんとブリジールさんは気が付いていないようだが、B・ビィとミスラは俺の感じた視線に気が付いていた。そしてその視線はまだ感じる。

 

「二人とも歩くの止めないで下さいね。それと声は抑えて」

「え、はい……」

「……さっきから俺達をつけてる人がいます」

「え……っ!?」

「コンスタンツィアさん、振り向かないで」

「あわわ……!」

 

 慌てて振り向こうとしたコンスタンツィアさんの肩を押さえる。彼女は汗をたらりと流し怯えた様子になった。

 

「じ、自分気が付きませんでした……間違いないです?」

「まぁ多分。移動しても付いて来てるんで」

「問題はオイラ達の中の“誰”を狙ってるかだな」

「覚えがないでもないけどさぁ……さて」

「ううぅ……」

 

 俺自身というか俺達騎空団が誰かに終われる覚えはないでもない、色々やらかしてるし。ただ現在俺の横にいるコンスタンツィアさんと言う存在がまたややこしい。

 

「コンスタンツィアさんを追ってるとか言う二人組とは別かね」

「ど、どうでしょうか……顔を見ないとちょっと……」

「ですよね……お?」

 

 少し辺りを見渡せば幾つかの店が並んでいる。その中に一店服屋を見つけた。

 

「よし、あそこの店の前に行きましょう。ショーウィンドウの前に」

「あ、はいです!」

「あわわ……! ま、まってくださぁ~い……!」

 

 店のショーウィンドウ、そこの前に並び買い物客を装う。そうしてそのまま俺はガラスに映る景色を見る。通行人が歩く中で数人が足を止めている。そしてその数人の中で一人俺達の方を見ている男がいた。

 

「……ああ~この服なんかイイ感じっすねぇ~」

「え?」

「ほら、この服っすよこの服ぅ」

 

 そして丁度ガラスにその男が映る場所に飾られている服を指さし“トントン“とガラスを叩く。コンスタンツィアさんは、最初キョトンとしていたが、ガラスに映った男の姿を見てハッとした表情になる。

 

「そ、そうですね。けど私には似合わない……ですね~」

「おっとそうでしたか……ふぅん?」

 

 言葉は軽い調子で、しかしフルフルと首を横に振りながら俺をジッとみた。知らない男、と言う事だろう。

 

(意図をくんでくれたのは助かった。が、コンスタンツィアさんの知らない男か……追手とは別なら俺達が狙いか? けどまあコンスタンツィアさん狙いの可能性が消えたわけでも無い、か……)

 

 ガラスに映る感じではハッキリと顔は見えないが、ちょいとばかり怪しい男と言う風貌だった。ガラスの表面でぼやける姿でもわかる男の手に巻き付いている鎖、ファッションにしては大袈裟だ。

 

「……B・ビィ、ブリジールさん。俺達先に行くから“後から来て”下さい」

「お、そうか……じゃあ“後から追い付く”とするかな」

「あ……は、はいです!」

「じゃあ先に……ほら、こっちです」

「え? あ、あの団長さん……あわわ! まってぇ~~!」

 

 コンスタンツィアさんの手を取って店から離れる。そしてB・ビィ達と別れ、俺とミスラ、そしてコンスタンツィアさんはそのまま町の路地へと入って行く。

 

「あの、ここって行き止まりになるんじゃ……」

「なりますね」

「ええ!?」

「ミスラ、あの男来てる?」

「ミー……ミンッ!」

 

 ミスラに後方の確認をさせると付いて来ていると言う。どっちが正面か初見じゃわからんミスラなら、後ろを向いても相手にはわからん。そもそもどう言う存在かわからんだろう。

 

「B・ビィ達の方に残らなかったか、ミスラ狙いなわけは無いしこれで俺かコンスタンツィアさん狙いの何者かが確定っすね。だろうとは思ったけど」

「ひ、ひえぇ~……」

「そして行き止まり、と」

「ひええ~~……!!」

 

 路地の行き止まり。そこで立ち止まり後ろを振り向く。

 

「え~……先程から俺達の後ろから付いて来てるようですが何か?」

「……コソコソし始めたとは思ったが、やはり気が付いていたか」

 

 薄い肌の色。灰色の髪。だがその眼光は鋭く、猟犬を思わせる。

 そしてジャラジャラと男の腕には長い鎖が巻き付き連れていた。やはりいかにも怪しい。

 

「そいで用事は何でしょうかね? 後ろからつけられるのって案外気分悪いもんですよ」

「当然用があって来た。だがそちらが急に移動し出したから追っただけだ」

「あらま? そりゃ申し訳ない……ただ俺も普段から結構面倒な事多くてですね。用心しちゃうわけですねこれが。にしたってちょい後の付け方が怖かったんですがね」

「俺も色々と事情がある。人に会うにも見極めと言うのも必要だ」

「さいですか」

「聞くが……貴様が【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の団長だな」

「ええ、その通りですが」

「……ふざけた名だ」

「略していいですよ?」

「言われなくてもそうする」

 

 男は面倒そうにしていた。俺も呆れてるよ、自分の騎空団の名前なのにね。

 

「しかしそれを聞くって事は、俺に用事があるんですね」

「そう言う事だ。要件は一つ、単刀直入に聞く。貴様……“紫水晶”を知っているか」

「紫水晶……?」

 

 はてそのような水晶は覚えがない……とも言えないな。

 

「紫か……アレの事かな?」

 

 俺は何かとトラブルの元になるエルステ帝国の作った“魔晶”の事を思い出した。あれは確かに紫色だし名前の通り水晶の形ではある。

 

「貴様……っ! やはりなにか知っているのか……っ!?」

「ひええ!?」

 

 だが俺が紫の水晶に覚えがあるような言葉を口にした途端、男は表情を険しいものへと変える。そのためコンスタンツィアさんが怯えてしまった。

 

「ちょちょ!? ちょっと落ち着いて、彼女驚いちゃうから。とっても繊細なのよこの人」

「関係無いな。それよりも知っている事を答え……む!?」

 

 男は俺に詰め寄ろうとした。だがそれと同時に男の腕に巻かれた鎖が独りでに動き出した。鎖の先についている紫の水晶、それがまるで蛇の頭の様にうごめきジャラジャラと伸びて行くと俺を指し示す。

 

「そ、それは武器か何ですか? お、俺何かしましたかね……っ!?」

「この反応は、前と同じこの小僧に……いや違う、これは……」

 

 そして鎖は俺を指し示すと、続いて隣のコンスタンツィアさんを指し示す。

 

「その女も……何か知っているのか?」

「わ、私ですか!?」

「ええ……コンスタンツィアさんなんか知ってんすか?」

「し、知らないですよう……! 紫の水晶なんて私しりませぇ~~ん……っ!」

「ですよね……だそうですが」

「同時にこのような反応とはな……答えてもらうぞ、知っている事を」

「うわぁーい、聞いてない!? ちょっと待って下さいよ、冷静になりましょうっ!?」

「ひぃ~ん!?」

「ミミミーン!?」

 

 獲物を見つけた猟犬の様に迫る男に思わず叫ぶ。なお俺達を指し示す鎖が更に男を恐ろしく見せた。

 

「おっと兄ちゃん、そこまでだ」

「乱暴は許しませんです!」

「ぐっ!?」

 

 だが俺達に迫る男の肩を掴み動きを止めたのは、後ろから現れたマチョビィとブリジールさんだった。

 

「なんだこの化物は……!?」

「おいおい、ひでえな化物とはよう。オイラはキュートなマスコットだぜ」

「残念だがそのポジションはミスラだぞ」

「ミンッ!」

 

 まったく当たり前の感想言われ不本意そうなB・ビィだが、マチョビィ形態はどこからどう見ても化物である。更に図々しい事言ってるので否定しておく。

 

「ひえぇ~~……!?」

「こっちも怯えてるし」

 

 そしてマチョビィ初見のコンスタンツィアさんも怯えてた。

 

「いやけど助かった。無駄に一戦交えるなんてごめんだからな」

「貴様計ったか……」

「ただの挟み撃ちですよ。計るって程じゃないでしょう」

 

 B・ビィ達と別れてあえて路地に入って挟み撃ちにするのは上手くいった。B・ビィに肩を掴まれてしまえば例えドラフの男でも動けんだろう。剣に伸ばしかけていた手を戻し男へと近づく。

 

「あのですね、まず初めに言っとくと俺の知ってる“紫の水晶”ってのは“魔晶”ってもんです」

「魔晶、だと……?」

「そうそう、魔晶。で、そっちの言う“紫の水晶”ってのは、多分その鎖に繋がってる奴ですよね? だとすれば俺は知らないです。雰囲気も違うし……勿論こっちの彼女も知らんですよ」

「……」

 

 男はB・ビィに押さえられながらも俺とコンスタンツィアさんの二人を疑う様に睨んでいた。だがふと鎖の水晶を見ると表情が冷静なものに変わっていく。

 

「……そのようだ」

「はぁ……わかってくれたならなにより」

「元より俺も戦うつもりなど無い。ただ話を聞こうとしただけだ……しかしその女を不安にさせた事は謝罪しよう。だが既に話した通りこちらにも事情がある。でなければ態々後を追いもしない」

「あー……つまりここで「さようなら」する気は無いと?」

「そう言う事だ」

「やれやれ……」

 

 これはコンスタンツィアさん始まりのトラブルって事で良いのかね。俺はどうもそんな気がしてならない。

 

「場所を変えましょう。俺達の艇で話聞きますよ」

 

 ただこのトラブルはちょっと長くなりそうだ。俺はそんな予感もしていたのだった。

 

 ■

 

 五 フェイトエピソード 悲劇が生んだ猟犬

 

 ■

 

 彼──エゼクレインと言う男は、とある島のある村で育った。

 その島は平和な島であり、村もまた平和な村だった。どこにでもある、当たり前の平和な村。だがその村には、ただ一つ他にはないとある“至宝”があった。

 “始原の大水晶”。それは覇空戦争時代の遺物と言われている。それ以外は何もわからない。ただ古くからそこにある、それだけだった。それ以上の事は誰も知らず、知る事すら禁じていた。

 この世界での遺物とは、すなわち多くが覇空戦争時代のオーバーテクノロジーである。それの利用法を知ってしまえば、例え平和利用のための研究であっても争いを招く。

 それは、人の身に余る力──そうであろうことを大水晶を見て来た者達は直感的に感じ取ったのだろう。故に大水晶の研究の一切を禁じた。

 しかし村の人間は、それの欠片を利用した“占い”に長けていた。それが大水晶、その欠片である“紫の水晶”を利用する唯一許された事だった。

 今までも、これからも、大水晶と人の関係はそれで終わり、そしてそのままである。そうであるはずだった。

 だがある日、悲劇は起きる。

 村を見守り続けたその“始原の大水晶”は、正体の見えぬ闇の組織に奪われた。更にその時村は争いに呑まれた。人が争い、村は焼け、多くの者が傷ついた。

 エゼクレインが村の惨劇を知ったのは、彼が島に居ない時だった。彼は紫の水晶による占いに特に長けており、それを生業ともしていた。そのため島を出る事も少なくなかった。或いは、そうでなければ“悲劇”は防げたのか……。

 その惨劇を知ったエゼクレインは、静かに怒りに燃えた。彼は誰よりも故郷を愛していた。村の仲間を愛していた。だからこそ、その平和を壊し至宝さえも奪った者を憎んだ。

 

「どこにいようと、必ず見つけだす。そして報いを受けてもらう……俺と紫水晶から逃げれると思うな……」

 

 彼の腕に巻かれた鎖は、蛇の如く獲物を探し出す。そしてエゼクレインのその瞳は、獲物を狙う猟犬そのものである。

 そしてその瞳は、今一人の騎空団団長を捉えていたのだった──。

 

 ■

 

 六 団長「シリアスな話に巻き込まれてしまった……」

 

 ■

 

 俺達の前に現れた男、エゼクレインさんと言うその人は、俺達──いや、俺を追いかけた理由をエンゼラで短く語った。

 奪われた至宝、平和の崩れた故郷。簡潔に村で起きた出来事を語るエゼクレインさん。彼自身も村を離れていたため事の全ては知らないと言う。だがその時起きてしまった悲劇でどれ程の事が起こり、どれ程の犠牲が出たのか……それは想像に難くない。

 

「許せぬ話であります」

 

 誰よりも正義を重んじるシャルロッテさんが腕を組みつつ険しい顔で呟く。同じように思っているのは、きっとシャルロッテさんだけじゃないだろう。俺もまたその話を聞き村を襲った人間を許せぬと思う。

 

「しかし、何と言いますか……お辛い事が……」

「別に同情の言葉が聞きたいわけでもない。今の事に関しては気にしなくていい」

「なんじゃ、気難しそうなやつじゃのう」

 

 エゼクレインさんの物言いに呆れるのはガルーダだった。俺がまた妙な男を連れて来たとあって、自由行動中であったメンバーも集まり皆でエゼクレインさんの話を聞いているのだ。

 

「のじゃ子、あんまそう言う事言わないの」

「ん、すまぬ」

「……噂では聞いたが、本当に星晶獣の団員がこれ程いるとはな」

 

 エゼクレインさんはエンゼラにいるのじゃ子だけではない星晶獣の数に驚いている。と言うか呆れていた。

 

「だからこそ紫水晶がアレ程の反応したと言う事か……」

「何か勝手に納得してますが……まあ事情は分かりました。ただそれと俺を追いかけた事の関係は?」

「とことん鬼気迫った様子でした……自分、少し怖かったです……」

 

 俺とコンスタンツィアさんの前に現れた時、特に俺が魔晶について話した時のエゼクレインさんの顔は、ブリジールさんが言う様に正に鬼気迫るものだった。

 

「今話したが俺の村から至宝である“始原の大水晶”が奪われた。俺はそれと奪った奴等を追っている」

「……復讐ですか」

「ああ」

「……成程。だとしたら尚更何故俺を? まさか俺の事を仇と思っているわけじゃないでしょう」

「それは──」

 

 理由を話そうとしたエゼクレインさんだったが、それよりも先に出会った時と同じように彼の腕の鎖が独りでに動き出し蛇のように俺とその隣に座るコンスタンツィアさんを指し示した。

 

「ひゃ、ひゃあ……!」

 

 コンスタンツィアさんは思わず短い悲鳴を上げた。僅かに場に緊張が走り、数名の団員は武器に手を伸ばす。

 だがその鎖はそれ以上動かず、俺達二人を指し示すのみだ。

 

「さっきもそうでしたけど……これって」

「これが理由だ」

「へ?」

「俺の占いはこの紫水晶を利用する。これはそう言ったものだ。だが時に紫水晶が自ら道を示す事がある。俺を“導く”ようにな」

 

 自ら動き何かを示すそれは、確かに行くべき道を指し示す導きのようだった。そしてその導きは、俺とコンスタンツィアさんを示す。

 

「以前ある島で紫水晶がお前に強く反応した。今までにない反応だった……ご覧の通り、今も変わらずな」

「それで俺が何か知ってるかもと?」

「その通りだ。だがまさか更にもう一つ反応があるとは思わなかったがな」

「ひぇぇ~……」

 

 エゼクレインさんがコンスタンツィアさんを見る。別に睨んでるつもりは無いんだろうが、鋭い視線が怖いのかコンスタンツィアさんは相変わらず震えていた。

 

「わ、私なんにも知りませんよぉ~~……」

「と言うか俺に関しては、騎空団としての活動もまだ始めたばっかと言うか、わりと最近に旅立ってるんでエゼクレインさんの故郷に行くの無理ですよ」

 

 話を聞く限りその事件があったのは、俺が旅立つ前だろう。事件に関わると言うのが無理だ。

 

「それはわかっている。よろず屋も似た事は言っていた」

「ええ……シェロさんの名前が出たよ」

「何かと俺も奴から情報を貰う事はあるんでな」

「じゃあ俺にはもう用事無いんじゃ……」

「いやある」

 

 あるのか……。

 

「依然として紫水晶は貴様とその女を強く指している。お前達が何かを知っていようといまいと関係はない。お前達には利用価値があると言う事だ」

「利用価値ってあんた……」

「わ、私そんな価値なんてないですよう……」

 

 コンスタンツィアさんはコンスタンツィアさんで卑屈だ。なんなんだこの会話。

 

「それは俺と紫水晶が決める事だ」

「そんな断言されましても……いや待て、利用価値があるとしてどうするつもりですか?」

 

 ここで無性に嫌な予感。俺このパターン知ってるぞう。

 

「知れた事、俺の目的を果たすために利用させてもらう」

「そ、それは……その、つまり?」

「俺をこの艇に乗せろ」

「……お、俺そんな価値ないですよぅ……!?」

「相棒、密航姉ちゃんの真似してもおせえよ」

 

 畜生わかってるよ、こんちきしょうめ。

 

「あのあの……急に言われてもちょっと困ると言うか、それ以前にコンスタンツィアさんもそのですね……色々事情と言うか経緯がややこしくって適当に艇降りてもらうつもりで……」

「駄目だ。その女も”(しるべ)”の一つだからな。少なくとも紫水晶が反応しなくなるまで艇に乗せたままにしろ。反応がある内は利用価値があると言う事だ」

「うわぁん! 勝手に決めるっ!!」

「ひぃいん! 巻き込まれましたぁ~~……!」

 

 この人強引だようっ! と言うか巻き込まれたの俺だよう!! 

 

「別にタダで乗せろとはいわん。俺はお前達を利用するが、お前達も俺を利用すればいい」

「り、利用すればって……つまり依頼とかの手伝いですか?」

「そう言う事だ。今までも情報を得るために依頼を受けて荒事は慣れている。タダ飯食らいの足手まといになる気も無い」

 

 色々と事情がややこしいが、これってつまりはエゼクレインさんを仲間にすると言う事だ。それとそれなりに戦えると言う事でもある。

 しかしだ。その提案を受ける事は、コンスタンツィアさんを考えていたより長くエンゼラに乗せる事にもなる。それに復讐の手伝い、あんま気が乗らない事だ。

 だが断った場合──それも可能ではあるだろう。だが紫水晶の反応とそれによる占いで俺の居場所を突き止めた事を考えると、ここでエゼクレインさんと別れても居場所が突き止められる可能性がある。

 結局何時もの事、つまり合流するのが早いか遅いかだ。断っても多分そのうちまた出会ってしまうだろう。そしてこの分だとコンスタンツィアさんもそんな感じする。艇降ろしても次の日別の島で再開しちゃうとかそんな光景が浮かぶ。

 

「そっすね……事情もあるようですし良いですよ。部屋も空いてますし」

「……案外素直に受け入れるな。あれほど嫌そうにしたと言うのに」

「まああれですかね。最初っからウェルカムじゃないよと言う意思表示みたいな……は、ははは」

「にゃあ~団長きゅんの力無い笑いが……」

 

 哀れむような視線を向けてるがラムレッダよ、こんな展開で最初に団員になったのは君だよ忘れるな。

 

「……よし、決まったもんは仕方ない。切り替えだっ!!」

「流石主殿、切り替えの早さがより早くなったな」

 

 シュヴァリエがうんうん頷いている。そして他の面々も頷いてた。なんも嬉しかない。

 

「改めて買い出しだ。コンスタンツィアさんの買い物も途中だったし……長い事一緒となると、もうちょい買い物の内容考えないとな」

「す、すみません……私のために……ほっ」

「……面倒に巻き込まれたと思いつつ、秩序の騎空団に突き出されずに済むとか思ってほっとしてないですよね?」

「そうで、す……いえ!? いえいえ、そんなまさかっ!?」

「相棒並みに表情出るな」

「俺こんな風なの?」

「イヤ、コレ以上ニワカリヤスイ」

 

 嘘だぁ。

 

『そういう所だぞお前』

「ふふふ、嘘だぁって思ってるな団長?」

「ウッソだぁ……」

「本当だぁ」

 

 リヴァイアサンとゾーイに指摘されてしまい俺の表情筋の緩さがまたも露呈する。今更とか思ってたまるか。

 

「……騒がしい騎空団だ」

「生憎そう言う騎空団なのですよ……どうします? ついて来るの止めます?」

「まさか」

 

 如何にも騒がしいのが苦手そうなエゼクレインさん。だが彼は腕の紫水晶を見て強い意思を込め呟く。

 

「……すべては、紫水晶の導きのままに」

 

 その水晶の光はエゼクレインさんの言う様に導きの光なのだろうか。その答えを俺達が知るのは、まだ先の事だろう。

 

 ■

 

 七 追う者、また別に……

 

 ■

 

 団長達がエゼクレインを仲間に加え、そしてコンスタンツィアを暫く艇に乗せる事を決めた数日後の事──。

 

「やはり、この島に来たのは間違いないようですね」

「それらしい人を見かけたって事だったのにね」

「今一歩遅かったですか……」

 

 団長達が立ち寄り行動したとある島。そこで二人の女性が何やら話している。それだけならば大して目立つような事は無いが、しかしこの二人の服装が町の中では少しばかり目立つものだった。

 

「今度こそ追いつけそうだったのですが……」

「次にどこに行ったかもわからないみたいだし」

「複数の男女と行動をしていたと言う事ですから……もしかすれば、どこぞの騎空団に潜り込んで移動してるかもしれませんね」

「んもうっ! 逃げる時だけは思い切り良いんだから」

 

 どうやら誰か人を探している様子の二人。その人物が見つからず頭を痛める様子の一人、そしてプリプリ怒るもう一人。二人の女性は、黒の服に白のエプロン姿。つまりメイド服に身を包んでいた。そんな二人がメイドを雇うような人間が居ない町で何やら話しているので道行く人達は「おや?」と足を止めたりもする。

 だが二人はそんな事を気にする事も無く話を続けていた。

 

「なんにしても振り出しですね。行方も情報も途切れました」

「けどこれはこれで良かったかも」

「何が良かったんですか?」

「だって! これでもうちょっと“ご主人様”と旅が出来るもんっ☆」

「……確かに、それもそうですね。……ふひっ」

 

 何か困っている様子かと思えば一転、一人は明るく笑い一人は奇妙な笑みを浮かべた。

 

「ドロシーさーんっ! クラウディアさーんっ!」

「こっちこっち──っ!」

 

 すると遠くから手を振りながら駆け寄ってくる二人の少女。それに僅かに遅れて数人の男女も後を付いて来ていた。

 その声に気が付いて二人の女性──ドロシー、クラウディアと呼ばれた彼女達は振り返り顔を明るくする。

 

「あ、ご主人様ぁ☆」

「ルリアお嬢様」

 

 元気一杯の二人の少女、それはジータとルリアの二人。そしてビィやラカム達だった。

 

「こっちの用事終わったから来ちゃった」

「ごめんなさいご主人様。ちょっとこっちは時間がかかってしまいました」

「そうなんですか? それじゃあ、探してた人は?」

「それが──」

 

 ドロシー達は自分達が探している人間が既に島を発ち、そしてその次の行方が分からない事を告げた。

 

「そうだったんですか……残念です」

「悲しまないでくださいルリアお嬢様。これが初めての事でもありませんから」

「そうねクラウディア。前もこんな感じで空振りだった事もあったもんね」

「ええ……まあ、今回は特に逃亡日数が長いですが。既に記録を更新してますし」

 

「はぁ……」とクラウディアは深くため息を吐いた。

 

「……け、けどこれでもう少しクラウディアさん達と一緒に旅が続けられるんですね」

「はいっ☆ まだもう少しご主人様達と一緒ですよ!」

「あ、確かにそうなるね! いえーいっ!」

「いぇーいっ☆」

 

 ルリアの言葉に反応したドロシー、そしてその事を聞いてドロシーとハイタッチで喜ぶジータ。

 

「えへへ……ごめんなさい、クラウディアさん達は早くその人と会いたいのに。だけど私ちょっと嬉しいです」

「ル、ルリアお嬢様…………ふひっ!!」

 

 そして少し困り顔ではにかむルリア。それをみてクラウディアは、胸を押さえてふら付いていた。

 

「なあなあ、何時も通りのやり取りは良いけどよう、新しい情報とかねえのかよ?」

 

 好き放題なメイド二名に呆れた様子のビィ。話を進めようとするとドロシーが「そう言えば」と言葉を続けた。

 

「よくわかっては無いですけど、一緒に行動している人達がいるようなんですよね。複数の男女だとか」

「男女ねえ……で、その男女の情報は無かったのか?」

「それが何故か妙に情報が途切れてるのです。特に一番傍にいた男に関しては、一緒にいた所を見たと言う話しか無く、目撃者皆が顔をあまり覚えていないと言う始末……」

「影が薄かったのかもしれませんね」

「実に面倒な……きっと陽炎の様な男なんでしょう。忌々しい」

「そ、そうなんですか……」

「けど誰かと行動してる事が分かったなら直ぐに次の情報も見つかるよ! 私も手伝うから安心して!」

「わ、私も手伝います!」

「ご主人様……!」

「ルリアお嬢様……っ!」

 

 ラカムの疑問に対してドロシーとクラウディアの答えはあまりに中身の無い情報だった。目当ての人物が、顔のおぼろげな男と一緒にいた──たったそれだけの情報。ジータもルリアも残念そうにしつつも二人を励ましなにやら盛上る。

 その一方で後ろではビィとラカムが多量の汗を流していた。そしてソロリソロリ……とジータ達から少し距離を置いた。

 

「……なあ、ビィよう」

「なんだよ、ラカム……」

「今、クラウディア達“顔を覚えてない”だとか“影が薄い”とか言ってたな……」

「おう……」

「……影の薄い誰も顔の覚えてない男、なんだよな」

「やめてくれ、止めてやってくれぇラカムゥ……」

 

 ビィは両手で顔を覆い悲しみに暮れた。

 

「けどよ、こう言うトラブル関係で影が薄い男って……お前それって」

「わかってる、わかってるよ。多分そうだとオイラだってわかってるんだ……」

 

 二人の頭にはこんな事態を知る由もなく、呑気な顔をした一人の男が浮かんだ。残念な事にその表情がおぼろげで流れる雲の様なのがまた悲しい。

 

「しかし、どうするんだよ……絶対そうだぞ。あの二人の目当ての奴がいるの」

「い、今この場で言うのはマズイと思うぜオイラ」

「それは……確かに」

 

 二人はチラリとまだ盛上るジータ達を見た。

 

「ジータとルリアは、雰囲気で流されて気が付いてねえようだな」

「ジータの奴前の記事の事まだ覚えてるもんな……」

 

 ビィの言う記事とは、少し前に一部地域で発行されたゴシップ記事であり、そこにはガロンゾで起きた喜劇(当事者にとっては悲劇)についての事が書かれており、見出しはズバリ『噂の騎空団団長、七曜の騎士と乱痴気騒動!?』と言う物だった。なまじ嘘でも無いのが余計に性質が悪いだろう。

 それを見たジータの機嫌は非常に悪くなり、今でもこの記事の事を思い出すと何時かの様な異常現象を小規模ながら無自覚に起こしていた。ついでに何故か仲間のオイゲンも悩んだ様子だったが、それは今特に関係はない話である。

 

「今迂闊に兄貴の事話すと絶対居場所突き止めて何しでかすかわからねえ。さ、最悪兄貴が……兄貴、逃げっ!?」

 

 ビィの脳内でアウギュステで起こった“ラブホ事件”の結末がフラッシュバックした。

 

「いや流石にあそこまで酷い事にはならねえだろ……多分」

「多分……」

「そう、多分」

 

 ビィを励ましたいのは山々であるがラカムとて自信はない。

 

「だが今話さない方が良いのは賛成だ。タイミングが悪い……もう少しジータが落ち着いてから話した方が良い。坊主を前にしても冷静でいられるタイミングでな」

「だよな」

「しかしなあ……そろそろ、そのなんだぁ。会った方が良いだろう?」

「うん……ボチボチお兄ちゃん分が切れる頃だからな」

「何度聞いても無茶苦茶だな」

「けど兄貴に会えるならオイラも嬉しいぜ」

「よし、じゃあそう言う事で……グランサイファーに戻ったらカタリナ達とも情報を共有するぞ。迂闊にジータに気が付かれないようにしねえとな」

「ああ……」

 

 しかしなんだって自分達がこんなに苦労をするのだろうか──ふとそんな事をビィもラカムも思わないでも無かった。

 しかしこの場に居ないのに既に事件に巻き込まれている事がほぼ確定しており、今後もまだ何か別の事に巻き込まれる可能性(或いはもう巻き込まれてる)があり、しかも星晶獣関係の揉め事もありそうで、最後には最悪ジータに何をされるかわからないと言うトラブル数え役満ぶらり旅を続けている男の事を思うと涙も引っ込んだ。

 思わず彼の無事を祈り合掌するビィとラカムであった。

 




感想、誤字報告等ありがとうございます。大変励みになっております。

メイドさん達はあっちの騎空団にいます。合流は気長にお待ち下さい。
(団長君の胃が)チェック・メイド!!

ぴにゃぴっぴ!!
楽しいぞシンデレラファンタジー。ぴにゃぴにゃ大行進! 吹き荒れろダジャレ旋風!!

「よかったぁ……! 異世界でまで行って炎上するぼくはいなかったんだね!!」
「#油断大敵#行かない異世界#今いる世界。現実で炎上しちゃ意味ないデスよ」
「ひどいっ!? ……あれ? ところであかりちゃんは?」
「今異世界で赤いリンゴっぽい生物と緑色の生物と共闘してお空のリンゴ農園を守ってますね」
「いや、何が起こってんのっ!?」


今の団員が比較的前からのキャラが多いので、新規キャラクターとか一人ぐらい出したいですねえ……。
うーん、こんな都合の良いタイミングで都合よくキャラの濃い面子に交じっても負けない濃いキャラクターしてて、出会った主人公を強引にトラブルに巻き込んだりして、移動手段探してて半ば強引に艇に同乗したりする火属性新キャラが追加されないかなぁ!!



こんなご時勢ですが、この物語がちょっとでも誰かの楽しみになってくれれば幸いです。

最後に本編と関係はない、何時か書きたい思い付きの小ネタを一つ。
【グランブルーファンタジー × SONIC THE HEDGEHOD ~蒼穹を駆ける青きハリネズミ~】

 世界征服を企む悪の天才科学者Dr.エッグマン。だが彼の悪の野望は、音速の青いハリネズミ“ソニック・ザ・ヘッジホッグ”によって何度も潰され続けた。

「今回はけっこう惜しかったなエッグマン! けど次はもっと退屈しないので頼むぜ!」
「お、おのれ……! この忌々しいハリネズミが……っ!!」

 颯爽と駆けつける音速の青いハリネズミは正しくヒーローであった。
そんなソニックに煮え湯を飲まされ続けたエッグマンは、次なる計画を立てる中でとある“異世界”の存在に気が付いた。

「星晶獣……! 空の世界……! こ、これじゃ!! この力を我が物とすれば、もうソニックごときに負けることなど……ホ~ッホッホッホ!!」

 新たな計画、だがそれを見過ごすソニックではない。彼は何時ものようにエッグマンの野望を打ち破るため仲間とともにエッグマンの基地である秘密基地に乗り込んだ。

「ええい、もうここまでたどり着いたか!?」
「ようエッグマン! 性懲りもなく悪巧みご苦労だな。それで今回はどんな玩具を用意したんだ?」
「ふん! 好きに言うがいい、もう既に転移装置は作動しておる。あの世界の力を手に入れれば貴様らなんぞ……む!? な、なんじゃ!?」

 異なる世界に移動するための転移装置。それを作ったエッグマンは、その装置を使い異なる世界へ逃げようとした。だがソニック達の到達に焦り実は未完成の状態のまま装置を作動させたため、転移装置はエッグマンだけでなくソニック達も巻き込んでしまった。

「し、しまった! 組み込んだカオスエメラルドのパワーに耐えられなかったか!?」
「た、大変だよソニックこのままじゃ、僕達もどこかの世界に飛ばされちゃう!!」
「はは、なるほど異世界ね。なあ、こう言うのって何度目だ?」
「暢気なこと言ってる場合じゃねえだろ!?」
「落ち着けってナックルズ。何時もの事だろ? 俺に任せとけって、なるようになるさ!」
「落ち着けるかぁ――――っ!?」

 慌てる仲間のテイルスやナックルズ。それでもソニックは何時もの調子。
 周りが真っ白い光に包まれると、彼らは異世界へ――空の世界へと転移してしまっていた。
 目を覚ましたソニックは、ただ一人草原で横たわっていた。ここは異なる世界、島々が空に浮かぶ世界。そこでソニックは青い髪の少女達と出会う。

「Hey Guys! なんかと戦ってるが手を貸そうか?」
「な、なんだぁ!?」
「あ、青い……ハリネズミさん?」
「That's Right! そういう君は青い女の子……それに、赤いトカゲか?」
「オイラはトカゲじゃねえ!」

 空の世界で出会った仲間。
 始まる空の世界での“音速”の大冒険。

「Hey ミュオンッ!! この走艇ってのもイカすじゃないか!」
「え、ええぇぇ~~っ!? ソ、ソニックさん後ろ向きに走ってブルーオービットに追いついてます――っ!?」
「は、はは……成程“音速のハリネズミ”かっ!! 面白いじゃねえか!! 飛ばすぜ、ブルーオービット!!」

 “音速の青いハリネズミ”と“蒼い流星”の対決。
 ソニックは空の住民達と交流し、離れ離れになっていた仲間とも再会できた。

「やはり生きておったか、忌々しいハリネズミめ」
「それはこっちの台詞だぜエッグマン!」
「じゃがもう遅い! このワシのメカと……そしてこの星晶獣の力があれば!!」

 そして異世界でも暗躍するDr.エッグマン。
 ソニックは、ルリア達はその野望を止める事ができるのか。

 空の世界で”SONIC BOOM”が巻き起こる

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