俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

38 / 78
逆境とは!?


安心してから来る苦労

 ■

 

 一 彼女は何処へ消えた

 

 ■

 

 ガロンゾはナウタ地区、人工物の多いガロンゾでも緑の並木道が残る地区である。そこをスツルムとドランクの二人が早足で進む。武装したスツルムに魔法の道具を纏うドランクの二人だが、あらゆる騎空艇が寄航するガロンゾでその事を気にする者は例え市街区であっても多くは無かった。

 

「駄目だね~それらしい目撃情報何もないか~」

「ルート的には来ている筈なんだが……」

「もう移動したかもしれないね」

 

 二人がナウタ地区まで来たのは、傭兵である二人を雇ったクライアントである黒騎士から依頼である。姿を消した“人形”を探すように言われ、彼女達は二人島は小さくも人の多いガロンゾへと足を踏み入れた。

 

「黒い洋服と猫のぬいぐるみを持った少女……一度見ればわかりそうだがな」

「まあ言われないと案外気がつかないもんじゃないかな~。色んな種族や騎空団が来るから珍しい事もないだろうし」

 

 あらゆる騎空団が立ち寄るガロンゾ。如何に小さな島と言えど多種多様な騎空士とその関係者が集まるためか、二人が目的とする人物の特徴を道行く人に話しても見た者は居ないと言う。

 

「そうなるとドック方面に戻ったか、ファベル市街区か」

「あの子の足だと移動できてそれが限界かな~。お腹すいてるみたいだしね~」

「そう言えば……あいつ金は持っていたか?」

「いんや~確か持ってないよ。黒騎士殿が“人形に金など必要ない”って言ってたし」

 

 表情を業とらしく険しいものにして、ドランクが声色を黒騎士のものに寄せて話す。特徴はつかんでいるが、本人からしたら不愉快なのは間違いないだろう。

 

「……その真似、絶対本人の前でやるなよ」

「やらないよ、僕も命が惜しいんだから~」

「しかし金も無いのに、どう飯を食うつもりだったんだか」

「行き当たりばったりなのもジータちゃんの影響かな~」

「本当にろくな影響がないなあいつ」

 

 原因の一端を作った蒼空の問題児の事を怨むスツルム。

 

「どうする、あと数刻で夜だ。二手に分かれるか?」

「そうだね~……それじゃあ一端分かれようか。僕ファバルの方行くから、スツルム殿ドック周辺お願い」

「わかった。もしかしたら自分で船に戻る場合もある。何も成果が無ければ一度船に戻れ」

「りょうかい、りょうか~い」

 

 効率を考え二人は反対方向へと走り出す。捜索対象が変な事に巻き込まれては、彼らだけでなく最悪帝国にまで影響が及ぶ。それ程に黒騎士の言う“人形”は重要な存在だった。

 目的の“人形”――あるいは“少女”とも呼ばれる存在。それは果てして今何処にいるのか。

 黒い服を着て、猫のぬいぐるみを持った少女――。

 

「おなか……すいた……」

「ねえ、君それ以外言えないの?」

 

 実は既にややこしさ極まる騎空団に保護されていたとは、この時二人も黒騎士も思いもしなかった。

 

 ■

 

 ニ 謎のハラペコ少女

 

 ■

 

 宿の食堂で料理を注文していたら突然俺の横に立っていた少女。先程から小さな体は空腹のためにグゥグゥ音が鳴っている。

 

「えっと……君は誰かな? 親御さんは?」

「いない……一人で来た」

「一人って、ガロンゾの子かい?」

「……違う」

『……貴様、やはりっ!?』

 

 ここで突如リヴァイアサンが驚愕の声を上げた。奴はあまり声を荒げないので珍しい。

 

「何だよ知り合い?」

『こやつはアウギュステで本体が……いや、あの時はまだ意識もリンクしていたな。とにかくジータが我の暴走を止めた時、その小娘に我が力の一端を吸われたのだ!』

「――! ――――!!」

 

 今度はユグドラシルまでが騒ぎだした。どうも他のマグナシックスの面々も様子がおかしい。

 

「オモイダシタ! (´゚ω゚`)バルツデモイタヨ!」

「ソウ言ワレルト、ポート・ブリーズデモ気配ヲ感ジタヨウナ……ナカッタヨウナ」

「我等との接点はないが……そうかこの娘が」

「た、確かに……ルリアちゃんと、雰囲気似てる……ね」

「あれ……リヴァイアサン?」

『今気付いたのか小娘が……』

「……ユグドラシル達もいる?」

 

 驚き騒ぐマグナシックスを見て少女はキョトンとしていた。可愛いな。

 いやしかし、この混沌としたマグナシックスと知り合いと言う事は極めて嫌な予感がする。彼らと知り合い、それ即ちジータとの関係が疑われる。

 

「にゃ~……これは既に始まってるにゃ」

「みたいやな。団長負の連鎖開始の合図や」

「あはっ! わ、私達も腹を括って置いたほうがよさそ、うははっ!!」

「ガロンゾでものんびり出来そうもないわね……ネーム書き溜めたかったんだけど」

 

 やめろぉい! まだトラブルと決まったわけじゃねえ! ただの迷子の可能性だってあるだろ!

 

『いやハッキリ言っとくがこいつとジータの関係はバッチリある。人違いでも無い、もう逃げられんぞ』

「ぐああぁぁ……っ!」

「ああ、団長殿しっかり!?」

 

 胃痛が、胃痛がぁ……っ!

 

「――! ――――!」

『ユグドラシルの言う通り、こいつがここに居るという事はあの帝国の船には奴が……黒騎士がいる』

「黒騎士だとっ!?」

 

 リヴァイアサンが言う七曜の騎士と言う単語にユーリ君がかなり驚いた様子で、思わず席から立ち上がった。

 

「まさかエルステ帝国の最高顧問がっ!?」

「さ、最高顧問……?」

「はい、エルステ帝国は帝政でありますが、実質的な支配者は七曜の騎士の一人、黒を司る黒騎士が治めていると……末端だった自分は直接見たこともありませんが」

 

 はいはい、なるほど? そんな帝国の超トップがこの子の保護者だと……。

 だが暫し待て。

 

「まず……七曜の騎士ってなに?」

「知らないのかい団長? 彼らは世界で最も力を持つ個人の集団だよ」

 

 フィラソピラさんが教えてくれるがどうもピンと来ない。ザンクティンゼルじゃあそんな話全然聞かなかったからなあ。

 

「およそ個人が持つとは思えぬ力を持つ者達であります。全てが規格外であるが故に“化け物”とまで言われる存在であります」

「シャルロッテさんも知ってんだ」

「リュミエール聖騎士団団長として当然であります。まあ自分も直接会った事はありませんが」

「……そういや、アウギュステでジータが緋色の何とかって騎士と戦ったとか言ってたな。割と普通とか言ってたけど」

 

 そう言うとジータを知っている面々は不意に顔を背けた。マリーちゃんやメドゥ子達新参メンバーはその理由がわからない様子だが。

 

「なんにしても、これは不味い……その黒騎士とか言う奴が保護者だと、最悪このままかち合っちまう」

「どうする相棒、早めに船に帰すか?」

「それしかねえよ……えっとだね、お嬢ちゃん」

「……違う」

 

 お嬢ちゃん、と呼ぶと表情は変わっていないが気持ちムッとした感情を込めて彼女は俺を見つめた。

 

「私は、オルキス……こっちは、ねこのねこ」

 

 両手でねこのぬいぐるみを抱き上げそれを見せながら自己紹介。わー偉いねー、自分で挨拶できるんだー可愛い。

 

「ねこのねこ……」

「まんまやな」

 

 うるさいぞ君達、オルキスちゃんがそう言うのだからそうなんだよ。

 

「うんうん、オルキスちゃんかー。えっと、それでだね……オルキスちゃん、君はエルステ帝国の船に乗ってたのかな?」

「そう……」

「そうか、そうか~、んー……なら申し訳ないけど船に戻らないと、その~ね? 俺達がちょっと困っちゃうと言うか」

「お待たせしましたっ! 揚げチキンの盛り合わせプレートとビーフシチューです!」

 

 船にお帰り、と言おうとしたらウェイトレスが登場。しかもよりにもよってオルキスちゃんが注文してしまった料理が先に届いた。

 なんでだよ、明らかに時間かかるだろ揚げチキンとかビーフシチューって!

 

「あ、えっとこれなんですけど」

「あれ? お子様の席がありませんね。直ぐ椅子お持ちしますね!」

「え、あちょっと待っ」

「よっと! お嬢ちゃん、この椅子でいいかな?」

「大丈夫……」

「はい! それじゃあ残りの注文も出来上がり次第おもちしまーす!」

 

 流れるようにするべき作業をして去っていきやがった。活舌もよく笑顔も素敵、なんと素晴らしいウェイトレス、何と言うウェイトレスの鑑。だがそのバイタリティ今いらない。

 

「あのねオルキスちゃん、席にまでついてほんと悪いんだけど船に戻ってほしいんだが……」

「……」

「あの……」

「……食べちゃ、駄目?」

 

 ん゛ん゛っう゛ーーーーっ!!

 

「お兄さん幾らでもたべさせちゃうぞーっ! おかわりも可!」

「やった……」

「オイ、意志弱スギルゾ」

 

 うるさい、料理来ちゃったんだからもうしょうがないでしょ! お腹すいてるんだから食べさせないと可哀そうじゃん!

 

「飯食ってから帰そうが、今すぐ帰そうがもうかわんないからいいんだ」

「相棒ちょろすぎるぜ」

「成る程、団長が可愛いのに甘いってこういう事」

「確かにカリオストロの時とは明らかに反応ちがうねー」

 

 やかましいトレジャーハンターコンビ。お前達このつぶらな瞳が裏切れると言うのか? 飯を食わせず帰れと言えるのか? いや、言えない。

 

「どうしてオレ様の時がそう言う反応じゃねーんだ……っ!」

「……なんか面白くない!」

 

 そしてなんちゃって美少女とメドゥ子が荒れてる。

 

「どう考えてもオレ様の方が可愛いだろ!」

「カ、カリオストロさん、そんな子供相手に張り合わなくても……それにオルキスちゃんとことん可愛いらしいです」

「別に可愛くないとは言わねーよ。けどな……あいつの反応が気に入らねえ! あれはオレ様との初対面であるべき反応だろうがっ!!」

「養殖と天然物の違いじゃねーのか?」

「んだとこのトカゲ!?」

「オイラはトカゲじゃねーぜ」

「カリオストロさん、やめっ!? とことん落ち着いてぇ~!」

「B・ビィも余計な事を言うのを辞めたまえ」

「へへ、わりい」

 

 なんかカリオストロとB・ビィが言い合ってるし、ブリジールさんが必死にカリオストロ抑えてる。B・ビィはコーデリアさんに怒られてら。

 

「お前も飯食っていいなんて言われたからって残るなっ! 子供なんだからちった警戒心ってもんを持ちやがれ!」

「駄目だった……?」

「駄目じゃないよー。ちょっとおっさーん、オルキスちゃんイジメないで下さいよー」

「こ、こんの野郎……実験台にしてやろうか……! 第一帝国もなんだってこんな小娘戦艦に乗せて…………あん?」

 

 今にも噛みついて来そうなおっさんだったが、不意に動きを止めて何を思ってかオルキスちゃんをじっと見続ける。絵面だけなら美少女二人が見つめ合っているのだが……。

 

「こいつ……」

「どしたんすか?」

「……いや、なんでもねえ」

 

 するとおっさんは先程までの剣幕が嘘の様に大人しくなり席に着いた。それでも依然としてオルキスちゃんの気にしてる様子。

 

「ちょっと馬鹿人間! なんだってそんな人間の子供に甘いのよ! アタシには厳しいくせに!」

 

 おっさんが大人しくなったと思ったら、今度はこっちのおチビが突っかかってきやがった。

 

「これ、メドゥ子。騒がないの」

「うるさい! あんたアタシと最初会った時も生意気だしなんかズルいじゃない! アタシとその能面女と何が違うのよ!」

「ズルいってなんだ、ズルいって……能面とか人に向かって失礼だぞお前。それに初対面の頃は大して変わらんかったろ」

「全然違うわよ!」

 

 吠えるな吠えるな、幾ら賑やかな食堂でも限度があるんだから。

 

「……はむ、はむ……この子も、星晶獣?」

 

 オルキスちゃんが揚げチキンをモグモグしながらメドゥ子を見て聞いて来た。お行儀悪いから食べながら喋っちゃだめだよ。……しかしまあ動じないなこの子。

 

「へー馬鹿人間と違ってアタシの凄さに気が付いたのかしら? そう! アタシは誇り高き星しょ」

「お待たせしましたー! お料理お持ち致しましたー!」

「ちょっとっ!?」

 

 メドゥ子が名乗り口上を言い終える前に、料理を乗せたワゴンカーを引いてウェイトレスが現れた。このウェイトレス元気が良いと思ったが、もしかして単純に空気読まないだけなんじゃないだろうか。

 

「席付けメドゥ子、料理冷めちゃうし後で話聞いてやるから」

「うぬぬ~……お、覚えときなさい、この愚かな人間!」

「はむはむ、はむはむ……」

「聞きなさいよっ!?」

 

 オルキスちゃんはご飯に夢中だった。

 メドゥ子はプリプリしてるが無視、俺は立ち上がりコーデリアさんのそばに移動する。

 

「コーデリアさん」

「うむ、この後の事だろう?」

「ええ。ああ言いましたが帝国の子です。飯食って満足して自分で戻ってくれるなら良いですが……妙な事にならなければいいけど」

「まったくだよ。それに団長、あの子リヴァイアサンの力を吸い取ったと言ったが」

「ええ、まあ普通の子供って事は無いでしょう」

 

 カリオストロも何か気にしていた様子だった。落ち着いた頃にでも聞くとして、今は余り関わらない方が得策だろう。

 

「……お兄さん」

「うん、なんだいオルキスちゃん?」

「おかわり……」

「あ、おかわりね……ああ、おかわりおかわり……えっ!? もう食ったの!?」

 

 確か揚げチキンとビーフシチューだけでも子供には多いと思っていたのだが。驚いて皿を見ると、食べ残し一つなくまるで何も入っていなかったような皿がそこにあった。

 

「さっき……おかわり可、って」

「あ、うん……言ったよ。言ったけど、君食べるね~……」

「食べ盛り……じゅるり……」

「そう、それは……いい事だね」

 

 確かに一度お代わり可と宣言した以上食べさせねばなるまい。だが彼女にメニューを手渡しつつ、俺は猛烈に嫌な予感がしていたのであった。

 

 ■

 

 三 蒼空を渡るため

 

 ■

 

 中央船渠、エンゼラにて――。

 

「親方っ! 船体の固定完了しましたーっ!」

「よーしっ! 明日積み荷を降ろしたら直ぐにバラす! 準備だけはしておけよっ!」

「了解しましたっ!」

 

 中央船渠内に固定された騎空艇エンゼラ。【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の船。ザンクティンゼルから始まる旅を経て、今暫しその体を休めるためガロンゾへとたどり着く。

 

「しかし良い船ですね親方。中古とは思えないですよ」

「ああ、そうだな」

「よろず屋さんよほど入念にレストアさせてたんですね」

「馬鹿、それだけじゃねえよ」

 

 親方は固定されたエンゼラの船体をその手で撫でる。

 

「あの団長さん達はな、決して丁寧な使い方とは言えねえがそれでも船を仲間と思ってるんだよ。それに船が応えてるんだ」

 

 エンゼラは飛べる。その役割を終えるにはまだ早すぎる。

 

「コイツの意志が伝わるようだ。まだ自分は飛べるとな」

「親方は船と喋れるんですね」

「お前もそれぐらい分かる様になりな。でなけりゃ一生半人前だ」

「きっついなぁ……何時になるんだか」

「お前が船が好きならそう遠くねえだろうよ。さあ今日はあがれ、夜のやつ等も来る頃だ」

 

 ガロンゾの工場やドックから明かりが消える事はない。彼らは一日中船を造り直し続ける。朝から働いた者は帰路につき、それに変わり夜別の職人達が仕事につく。

 

「なにせ星晶獣が乗る船だ。生半可な改修じゃいけねえ、明日から忙しいぞ」

「親方は?」

「俺はやる事残ってんだ。あともう少し船を見とく」

「そう言ってまた工場に泊まる気でしょ? ほんと親方は船が好きなんだものな。家に帰らないって奥さんが愚痴るわけだよ」

「いいから帰れっての!」

「ひゃっ!? お、おさきでーす!」

 

 金槌を振り上げると若い船大工は荷物を掴み取って飛び出していった。それを見送ってから親方はエンゼラの外装を見て周り甲板へと上がる。船内にはまだ団長達の私物が残るため入る事はない。

 

(ここいらの床かなり磨耗してるな。だが古くない、あの団長達が使い出してから出来たもんだ)

 

 床、手すり、あらゆる場所には人が生活した後が残る。それを彼はじっくりと観察する。中には人がつけれない様な不思議な傷や痕跡がある。

 

(這った様な跡……星晶獣か、なんかデカイのが居るとか言っていたな。こっちのでけえ足跡は鎧か何かか? 床材が重量に負けて凹んでやがる)

 

 この船の乗員が如何に特殊であるか、それを彼は直接見る事無く生活の後だけで感じ取っていた。

 

(なるほど、これは益々手が抜けねえ。使い始めて一年も経ってねえのにこの状態だ……確かに星晶獣が何体も居るんじゃ通常より劣化も早くなる。船体を広くと言ったが、どのみち星晶獣に合わせて拡張する必要があったな)

 

 団長達が仲間と話して提案されていたコロッサス等の星晶獣に合わせてのエンゼラ拡張計画。長年船に関わってきた男は、それを船を見ただけで同様の答えを導き出す。

 

(可能なら床材やなんかも取り替えてえが、値段の事も相談しねえといけねえし、まず床材をどうするか……思ったより大きな作業になるかも知れねえなこりゃ)

 

 不可能な作業ではない、だがその作業をどう進めるべきか。彼は悩んだ。職人として下手な仕事は出来ない、この船をどう再び空へと飛ばしてやるかが重要だった。

 

「本当に良い船だね」

 

 不意に船を繋ぐ連絡通路から歳若い少年の声が聞こえた。声から自身の弟子では無いと直ぐに気付き部外者と思った彼は身を乗り出して叫ぶ。

 

「おい誰だ! ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ!」

「ああ、申し訳ない。余りに良い船だったから」

「いいから船から離れ……なんだよ、お前だったのか坊主」

 

 眼下の通路に居たのは三つ編みに編んだ白髪を揺らし、装飾を施されたオールを持つ一人の少年。

 親方はこの少年の姿を知っていた。彼は以前このガロンゾに立ち寄った一隻の船、蒼の飛竜を模したその船を直すのに協力した事がある。その時にこの少年とその船を直し知り合ったのだ。

 知り合いとわかり親方は甲板から少年の下へと降りて行く。

 

「最近見ないと思ったが、何処に行ってたんだ?」

「僕は島と契約しているわけじゃないからね、色々と巡ってたのさ。ところで親方さん、お願いがあるのだけれど」

「なんだ、お前さんの頼みなら聞いてやるよ」

「ありがとう。それでこれを見て欲しいんだけど」

「うん? ……おい、おいすげえなこりゃ」

 

 そう言うと少年は親方に一本の小さな木材を差し出した。それを親方が受け取りマジマジと見て驚く。

 

「とんでもなく硬い、だが極めてしなやかだ。加工しやすい上に丈夫、こんな良い木材どうした」

「これは“純粋”な物じゃないんだけどね……ただそれに近しい物さ。この船の修理に使えるんじゃないかな」

「ああこりゃあ申し分ねえ。だが量が要る。騎空艇一隻造るぐらいは必要かも知れねえ、そんな当てがあるのか」

「まあね、本人達はよくわかってないけど手に入る手段を既に持ってるのさ」

「そりゃどういう意味だ?」

「なに、明日にはわかるよ」

 

 少年の言っている意味がわからず親方は首をかしげ、少年は静かに微笑んだ。

 

 ■

 

 四 一人漫談ドランク

 

 ■

 

 もう日が傾き少しすれば夜が訪れる。そんな時間ドランクは疲れた様子で市街区を歩いていた。

 

(なんかそれっぽい子を見たって情報があったけど……それっきり。何処行ったのさも~)

 

 数時間前、外で遊びたいと駄々をこねたドランク。念願の外であるが遊ぶ事も食事をする事も許されない緊急任務である。せっかく尻を刺してくる相棒も別行動だと言うのに、自由に行動する事が出来ずつかれきっていた。

 

(もう戻ろうかな~。スツルム殿も船に戻ってる頃だろうし、僕一人彷徨っても意味ないよねこれ~)

 

 任務を放棄するわけではないが、これ以上市街を歩き回っても成果らしい成果は得られないと考え出したドランク。一先ずスツルム、また黒騎士とも合流し大人しく少女――オルキスの帰還を待つか、再度捜索に出るべきと考えその足を停留所へと向けた。

 

(あっといい匂い。すきっ腹にこれはきついね~)

 

 市街の中は賑わい活気で溢れる。酒屋に食堂が立ち並び仕事を終えた職人達に騎空士達の飲んで騒ぐ声に混じり、出来立ての料理の臭いがドランクの鼻をくすぐり、空っぽの胃袋を撫でた。

 

(こっそり食べようかな~、けどバレるとまずいよね~。お尻5回は刺されるよきっと~)

 

 恨めしそうに店員の掛け声と共に運ばれる出来立ての料理を見ては歩くドランク。だんだん足取りも重くなる。せめて直ぐ食べれるパンの一つでも買って食べようかと思いある食堂へと視線をむける。

 

(うっはぁ! すっごいなあれ~)

 

 窓から見えたのは、山のように積み重なった皿。優に10人前は超えているだろうか。いや、皿その物もでかい。最早どれ程の量をその腹に収めた想像も付かない。興味がわいたドランクはその大食漢を一目見てやろうと宿に併設されていたその食堂へと入り覗き込んだ。

 

(さてどんな人かな~。ドラフかそれともヒューマンか……ハーヴィンだったらもう見た目ボールみたいになってんじゃないかな~)

 

 ニマニマと笑みを浮かべ目当ての人物を探す。ドランクだけでなく食堂の客もその圧倒的食欲に歓声すら上げていた。客達が取り囲んでいるのがあの皿の山を築いた主であろう。人を掻き分けドランクがその主を覗き込んだ。

 

(はてさて、どーなーたー……)

「おかわり……」

「まだ食うのっ!? オルキスちゃん、もう手持ち厳しいんだけどっ!?」

「まだ……いける。……ぐっ」

「静かな中にある確かな自信!? だけど俺の財布に自信がないんだよ!? これ以上は……ぐあっ!?」

「ジミー殿!?」

「ま、まただっ! な、何でだ、体が……うごかなぎぎぎ!?」

「お姉さん、これ……追加……」

「はーい!」

「ま、待てウェイトレスさん、キャンセ、キャンセ……ふぎぃっ!」

「オイ、オ前ラ財布ノ中今イクラダ……」

「まあ払え無い事はないが……これは……」

『なぜか我らも追加注文を止めれんしな……』

「あの体の何処に入ってんのよ、可笑しいでしょこれ……」

 

 全く状況が飲み込めない展開、そして凄まじく知った顔が揃っていた。

 

「おい、兄ちゃん平気か? いきなりこけたけど」

「だ、大丈夫です~。すみませんね、ちょっと驚いて~」

 

 想像もしなかった光景を目の当たりにしたドランクはその場でズッコケ、果たしてどうしたものか非常に悩むのだった。

 

 ■

 

 五 皿の枚数一枚が二枚、二枚が四枚、四枚が八枚……

 

 ■

 

 積み重なる皿の枚数が20枚を越えた時、不味いとは思ったのだ。これはきっと不味いパターンだと。

 しかし極めて奇妙な事に俺が彼女を制止しようとすると、何故か俺の体が動かなくなった。他の団員に止めてもらおうとしたが、何故かそれも不可能だった。そんな俺達の身に起きた異変お構いなしに、そして無慈悲にオルキスちゃんは追加を注文し続けた。

 その我が道を行く姿に思わず大空の暴れん坊、幼馴染みTHEジータを思い出してしまった。

 

「ジミー殿しっかり!?」

「やっぱりだ……体がまったく動かない……っ!」

「お姉さん、これも……追加」

「かしこまー!」

「てめえウェイトレス!? 状況わかってオーダー受けてんのかっ!?」

 

 オルキスちゃんの注文を阻止しようとして体が硬直、シャルロッテさんが心配してくれるが未だ体は動かずオルキスちゃんは注文してウェイトレスはオーダーをとる。

 

「……ケプッ」

「あっ! 今ゲップ、ゲップしたねオルキスちゃん!? いい加減お腹膨れたでしょ!?」

「……もうちょい、いけそう」

「行かなくていいよっ!? やめよう、お腹破裂しちゃうから!」

「……破裂はいやだ」

「ね、よし! やめ、終了! ウェイトレスさん、今のキャンセル……や、やった言えた、止めれるぞっ!? 聞いてるウェイトレスさん、中止ストップ閉廷解散終わりっ!! 」

「えー?」

「えーじゃねえよっ!? あんたほんとなんなのっ!?」

 

 このウェイトレスが悪魔に見えてきた。

 

「会計いくらぁっ!?」

「かしこまりました。ではお会計12万8670ルピになります!」

「ズガボガンッ!?」

「ああ、団長が意味不明な叫びをあげて倒れたにゃっ!?」

「そりゃぶっ倒れるわよ……」

 

 じゅ、じゅじゅじゅじゅうにま……はっせんろっぴゃぴゃほげほげ……。

 お、俺達団員だけで3万と少し。人数もいるからそれはしょうがない。だがオルキスちゃんはたった一人で9万ルピ近く食ったってのか……。

 

「この子との会計分けて払います! そっちの方領収書は【エルステ帝国黒騎士】でお願いします!」

「かしこまりました!」

「こいつエルステ最高顧問当てに領収書書かせよった」

「払わせる気なんだね団長」

「払わせる気なんだ……」

 

 うるさい、払わせるんだよ何が何でも!

 

「あ、ところでお客様って【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の方達ですよね?」

「そうだけどなにさ……」

 

 俺が星晶戦隊(以下略)である事を肯定すると、周りに集まっていたギャラリーの人間達までもざわついた。

 

「マジか、あれが噂の」

「どおりで……」

「【ジータと愉快な仲間たち団】とも協力関係とかいう……」

「あの地味な少年が例の……」

「ああ、例の」

「ああ、あの例の」

「例のやつ」

「例の団長」

「例の地味」

 

 あんたらその“例の”ってなんだコラ、何となく予想着くのが腹立つぞコラ。

 

「やっぱり! オーナー、えっとシェロカルテさんから聞いております。こちらのお値段借金の方に追加する事もできますのでご安心ください!」

「出来ないよ!? 何を安心しろってんだ! 今払うわ畜生この野郎馬鹿野郎っ!」

 

 借金に入るんじゃ今払おうが後払おうが同じじゃい。

 

「ねえお嬢ちゃん、これだけの量食べたお客様が初めてだから名前聞いて良い? 記念で店に残すから」

「……オルキス、ケップ……」

「オルキスですね、じゃあ後で簡単だけど表彰もあげるから!」

「やった……」

 

 勝手にウェイトレスが話を続けてる。なんなんだよこのウェイトレスは、グイグイ来すぎだろ何者だよ一体。シェロさんの店人ってこんなんなの? シェロさんの影響なのこれ?

 

「それとこちら食後のドリンクサービスです。好きなお飲み物一点ご注文下さい!」

「サービスね……はは」

 

 9万近くの出費が無ければ素直に喜べたよ……。

 

「あーもーあーもー……とんだ出費だよ。絶対払わせるけど」

「お兄さん……ごちそうさまでした」

 

 相変わらずの無表情、だけど気持ちが強く伝わる。そして可愛いんだよなぁ……可愛い無罪。

 その後俺達はサービスドリンクを飲みながらなんとか落ち着きを取り戻す。

 

「で、この痛い出費はどうする気や団長? 本気で帝国に払わせるんか?」

 

 そこだよカルテイラさん。流石に奢るほどの値段じゃないんだよ。

 

「普通なら保護者に払ってもらうのが筋ってもんだ」

「ただ相手帝国のお偉いさんやろ」

「あの戦艦に乗り込んで黒騎士に会う事は不可能でしょう。我々はアウギュステの一件で間違いなく手配されていますから船に近づくのすら困難です」

「ユーリの言う事は尤もだが、それ以前にこの子の食べた食事代を払わせるために会えるとは到底思えないよ」

 

 ユーリ君とコーデリアさんの言う通りだ。正論過ぎてこれ以上何も言えん。

 

「どーすっかなあ……最悪乗り込んでもいいんだけど」

「この団長金払わすために帝国戦艦に乗り込む事を考えてる……」

「団長って見た目地味で大人しそうなくせに、割と発想クレイジーだね」

 

 うるさいよトレジャーハンターズ。金の問題なきゃ誰が好きでかかわるかよ。

 そして金をどうするか話し合っていると袖をクイクイとオルキスちゃんに引かれる。

 

「お金、払えない……?」

「いやいや、そこは大丈夫だよ。オルキスちゃんは気にしなくていいから」

「……ごめんなさい」

 

 今更ながら好き放題食った事に罪悪感を覚えたのだろうか。オルキスちゃんは俯いてしまった。うん、謝れるのは良い事だぞ。

 

「八分目で止めれなかった……」

「仮にあの量だと八分目でも相当な量な件」

「お金、無いけど……私宝物ならある……」

 

 お宝、とオルキスちゃんが言うとマリーちゃんが「お宝っ!?」と食い気味に反応していた。お宝大好きか。

 

「宝物?」

「……えっとね、綺麗な石とか枝とか、あとドングリとかそれと」

「うん、オルキスちゃん。それは大事にしておこうか」

 

 まあ確かにお宝だわ。この子ぐらいの歳の子供はそう言うの集めるからな。コラそこ、マリーちゃん、露骨にがっかりしないの。

 

「あとオルキスちゃん、ドングリは放っておくと虫沸くから気をつけなさい」

「うん……同じ事言われた」

「同じ事? 誰にだい」

「……ジータ」

 

 おっふぅ。極力話題に出さなかったやつぅ~。

 

「ジータに言われたの?」

「ルーマシー群島で一緒に遊んで、ドングリとか枝とか集めた……楽しかった」

「――――」

 

 ユグドラシルがオルキスちゃんの話は間違いないと言う。二人は以前ルーマシー群島で偶然出会い、そのまま意気投合。ルリアちゃんも交えてルーマシーの大自然を満喫してたとかなんとか。

 

「昔ジータがドングリ集めて虫沸かせて怒った時あったけど……人に助言できる程度に経験が活かされたと思うべきか」

「しかしあらゆる場面で登場しますねジータ殿は」

「あたし会った事ないけど、なんか面倒そうなのは伝わるわ」

 

 ユーリ君の言う通りあいつってあらゆる所で何か活躍しては、俺にトラブルが巡ってきている気がする。そしてマリーちゃん、よくわかってますね。その通りだぞー。

 

「ジータやルリアにね、色々教えてもらった……楽しい遊びとか、美味しい料理とか…」

「あいつも色々知ってはいるからな。特に遊びとかに関しては」

「それに……大切な仲間と、大好きなお兄ちゃんの話」

「んっぐぅ……っ!!」

 

 あの小娘、そんな紹介を。

 

「……ジータの言ってたお兄ちゃん……お兄さんの事だったんだね」

「ジミー殿は本当にジータ殿に好かれてるでありますな」

「彼女懐きすぎて天変地異起こすけどね」

「また腕相撲のリベンジをしたいぜ!」

 

 やめて、なんか恥ずかしいからやめてみんな……。

 

「聞キマシタ奥様、大好キナ、デスッテヨ」

「相棒隅に置けねえなあ」

「黙れい!」

 

 こいつらが言うと特に腹立つなこの(笑)共。今はオルキスちゃんの話聞いてんだよ。

 

「あー……うん、まあそうだったか」

「うん、初めて友達出来た……楽しかった」

「だろうね。居れば楽しいし助かるし頼もしいからな友人ってのは」

「ジータ達と……初めて自分以外の誰かと遊んだ……一人より凄く楽しかった」

「アイツ一人いれば友達百人分やかましいしな」

「……今日も、初めてだった」

「今日?」

「こんなに沢山……誰かとご飯食べるの、初めてだった」

「……そっか、初めてか」

 

 本気でこの子の環境が気になってきた。帝国の船に居る時点で普通じゃないがちゃんと年頃の子供らしく過ごせてるのか? 虐待とか受けてないよね、体も痩せてるしちゃんと食べて……たな目の前で。

 まあ食事に関してはともかく特殊な環境下に居る事は確かだろう。リヴァイアサンの言う通り黒騎士とか言う帝国のお偉いさんの保護下と言うなら酷い環境ではないと思いたいのだが。

 

「……オルキスちゃん、このあと如何するんだい?」

「……この後?」

「そう。君の船……帝国の戦艦に戻るのかい?」

 

 質問すると彼女は黙ってしまった。ただ視線は俺の目を逸らすことはなく、何か深く考えている様子だった。

 

「もし帝国にいて辛いなら」

「ううん……大丈夫」

「……本当かい?」

「うん……」

 

 平気そうではなかった。だが酷く辛そうとかそんな風でも無い。彼女なりに帝国に戻る理由があるように思えた。

 

「ジータにも言われた……一緒に行こうかって。けど……私はアポロの傍にいたいから……」

「アポロ?」

「アポロは、黒騎士の……あ」

 

 あ、って君まさか……。

 

「それ黒騎士の本名?」

「……違う、けど秘密」

 

 そうか秘密じゃしょうがないな。

 

「うっかりちゃんやな」

「うっかりオルキスだにゃ」

 

 やめろ、スルーしてあげなさい。

 

「君がそう言うなら止めないよ」

「……ありがとう」

「いいよ別に」

「……お兄さん」

 

 オルキスちゃんは不意に俺の手を握る。小さな手からは確かな温もりを感じた。

 

「オルキスちゃん?」

「……ジータとルリアに教えてもらった。……“よろしく”ってすると友達だって……」

 

 なるほど。あの二人の事だ、俺の知らないようなオルキスちゃんの事情も知っててかつグイグイと友達になったんだろう。

 そして彼女と友情を育むのはやぶさかでない。

 

「そうか……それじゃあよろしく、オルキスちゃん」

「……よろしく、お兄さん」

 

 これで友達。彼女は帝国の人間、俺は騎空士。それでもよろしくしたので、俺達はもう友達。

 

「馬鹿人間がデレデレしてる」

「ドストライクゾーンは10代前後ってところか……」

「やかましい!」

 

 デレデレなんかしとらんわメドゥ子! それとおっさんは何分析してんだ! いい感じの流れだったんだから、いい感じに終わらせてくれよちくしょうめっ!!

 

 ■

 

 六 ここで終われば綺麗なオチ?

 

 ■

 

 飲み物も飲み終えて、オルキスは船に戻ると言った。彼らもジータの事などで話し込んでいたので、何時の間にかもう日が沈み夜の時間となっていた。

 なお黒騎士宛の領収書だがオルキスに託しても自分達の存在を知らしてしまうのと同時に、そもそも有耶無耶にされる可能性があったため「何時か直に会って直接請求してやる」と団長は静かに決意した。

 

「道は覚えてるんだね?」

「大丈夫……あっちの……違った。そっちの方……」

「団長さん、自分とことん心配です……」

「俺もっすブリジールさん。近くまで送らなくていいの?」

「平気……ばっちり、ぐっ……」

 

 自信ばかりは満々にオルキスは答えてみせた。

 

「わからなかったら誰か人に道を……いや、知らない人間は怖いしな……えっと、お店の人とかに道聞くんだよ? 表歩いてる人の中には外から来たチンピラもいるから、なるべく職人さんとかガロンゾの人に聞く事。お菓子とかに釣られて付いてっちゃだめだよ? それと」

「おとんかおのれはっ!?」

「あだっ!」

 

 過剰に心配する団長に対しカルテイラが、小粋に音を鳴らしハリセンで頭を叩き突っ込む。

 

「オルキスはあんたの娘ちゃうで」

「だ、だって心配になるんですよ」

「……団長のこう言う所がジータをあそこまで懐かせたんじゃないかしらね」

「め、面倒見良すぎちゃうよね……」

「む、むむぅ……」

 

 ルナールとセレストに言われ言葉を詰まらせる団長。何か思い出の中で思い当たる事があったのだろう。

 

「さてオルキス、我々と出会った事だが暫くは黒騎士に言わないでくれると助かるのだがね」

「……うん、言わない」

「そうか、助かるよ」

 

 団長に変わりコーデリアがオルキスに自分達の事を帝国軍に話さないように頼んでいる。何時かは明るみになる事かもしれないが、せめてガロンゾに居る間だけは帝国との面倒を避けたいためだ。所詮子供の口約束、しかし団長もコーデリアもオルキスは嘘をつかないだろうと信じていた。

 

「それじゃあ……帰る」

「ああ、また会おうね」

「……また、会える?」

「会えるともさ、俺達はもう友達だ。友達なら会って当然だろう? 立場上難しいかも知れなくても、絶対に会えるよ。ジータ達だってそう思ってる」

 

 団長に言われオルキスは胸が暖かくなるのを感じた。それが何故かわからなかったが、しかし決して悪い気持ちでは無かった。

 そして同時に懐かしさすら覚えた。まるで遥か昔にも感じたような、孤独ではない暖かさを。

 

「それに今修理中だけどそれが終ったら俺達の船にも乗せてあげるよ、楽しみは多い方が良い」

「お兄さん達の船……?」

「そう、戦艦程デカくは無いが自慢の船さ」

「……いいの?」

「ああ、“約束”だ。」

「“約束”……楽しみ、増えた……」

 

 オルキスは歩き出す。自分が戻るべき場所へと。共にいるべき人の元へと。

 それを宿の玄関で見送る団長達。団長はオルキスが人とぶつかってコケやしないかと未だハラハラしている。そんな時不意にオルキスがふりかえり皆を見て軽く手を振った。

 

「……またね」

 

 小さな声だったがその声は皆が聞こえた。そしてオルキスは人込みの中へと消えて行った。

 

「なによあの子、笑えるじゃない」

 

 メデューサが意外そうに言う。彼女だけでなく皆も意外だったろう。ずっと無表情であったオルキスが、確か今微笑みを浮かべ手を振ったのだ。

 

『我の力を吸った時はもっと無感情だったが……ジータ達との出会いが何かを変えたか』

「かなりラブリ~な子だったなぁ~! もっと話したかったぜぇ~」

「しかし黒騎士って奴もあれだな、星晶獣の力を制御するなんてルリアと同じ力持つ奴を保護下に置くなんて、一体どう言う関係だろうなあ。なあ相棒」

「……」 

「……相棒どした?」

 

 返事が無い団長。B・ビィが不思議に思い回り込んで見る。すると団長は静かに感涙の涙を流していた。

 

「めっちゃ可愛かった……」

「相棒、おめえ……」

 

 割とマジ泣きでオルキスの「またね」に感動していた団長。

 日頃のストレスが原因としても、少女の「またね」一つで膨大な癒しを得て涙を流す団長の姿に流石のB・ビィも引いた。だが彼のストレスの原因の一つがB・ビィである点を完全に棚に上げている。

 その後この反応を不服に思ったカリオストロとメデューサらにからまれる団長の姿があった。

 一方で団長達と別れたオルキス。トコトコと歩いていたが突如目の前に一人の男が現れた。だがオルキスは慌てる事無くその人物の名を呼んだ。

 

「ドランク……?」

「どうも、お姫様。なんちゃってね」

 

 おどけた様子で現れたのはドランクだった。

 

「やっと見つけたよ~駄目じゃないの、勝手にいなくなってさぁ~」

「書置き、置いて来た……」

「あんなんじゃダメに決まってるでしょ~。君の立場って言うのもあるんだからぁ~」

「……ごめんなさい」

「僕よりも黒騎士殿にどう謝るか考えておいた方が良いと思うな~」

「……怒ってた?」

 

 ドランクは顔をわざとらしく怒りの表情へと変えてみせる。

 

「かな~りおかんむり」

「おう……こまった」

「困ったのはこっち。時間もこんな遅くなって、スツルム殿にも怒られるなこりゃ~」

「……うう」

「そんな顔してもだ~め。僕も一緒に謝ってあげるから、さって帰ろうか~」

 

 船に戻ってから怒られる事を想像したのか、オルキスは手に持ったねこで顔を隠して怯えた声を出した。見た目相応の仕草に和みつつドランクは彼女をつれて戦艦へと戻ってゆく。

 

「それで脱走した一日、どうだったのかな?」

「……楽しかった」

「そうか、まあそれはそれで良かったね。誰かお友達でも出来たのかな~」

「……別に」

「ふ~ん……? まあ取り合えず帰ろうね」

 

 ドランクは団長達が泊まる宿を見た。

 

(悪いけど……彼らがこの島にいることばかりは流石に言わないと不味いんだよね~これはさ。まあ君と出会った事は誤魔化せるから言わないで上げるよ)

 

 一部始終を見ていたドランクにオルキスの嘘は通じない。星晶戦隊(以下略)がこの島に居る事は黒騎士に報告せざるを得ないだろう。だがオルキスが彼らと出会っていたかどうかは誤魔化しようがある。オルキス捜索中に星晶戦隊(以下略)が居る事に気が付き、その後街で彼女を保護したと言う流れであれば不自然でもないだろう。

 なんであれ黒騎士の激しい雷がオルキスに落ちるのは避けられないだろう。そしてドランクもまたスツルムにこんな時間まで報告も無く帰らなかった事に対して嫌味を言われるに違いない。

 ドランクとオルキスの両者の足取りは重かった。

 

 ■

 

 七 サヨナラと思うじゃん?

 

 ■

 

 オルキスちゃんと出会い別れた次の日の事。俺は再度エンゼラ改修に関しての打ち合わせをしに中央船渠へと向こう事になっていた。皆と話し合った改修案は全て書面にまとめあるので、打ち合わせもスムーズに進むはずだ。

 宿の部屋で待ち合わせは必要な書類と荷物をまとめ着替えていたら、扉をノックする音が聞こえる。

 

「どなたー?」

「宿の者です、お休みの所申し訳ございません。お客様に御用があると言う方がお見えです」

「俺にですか?」

「はい、急用との事ですが」

 

 誰であろうか? この島で約束事があるのはシェロさんと造船の親方さんぐらいなのだが……しかも急用とは。

 

「この後用事で直ぐ出ないとなんですが……」

「そうですか、ですがその……」

「おい、変れ」

「え、あっ! こ、困りますお客様!? 待合室でお待ちいただくように言ったではありませんか!」

「いいからどけ、急務なのだ」

「ちょっと強引だね~」

「しょうがないだろ、状況が状況だ」

 

 ……なんか記憶にある声が二つあるな。人数は三人、一人は知らない声だ。

 

「帝国の者だ。出て来ないなら相応の手段で入る事になる」

 

 うっそだろ。

 

「……宿の人に迷惑かけんなよ」

「それなら早く扉を開けろ。こちらも用があるのは貴様だけだ」

「待ってろ……いま開ける」

 

 急な訪問者の正体がわからないが、帝国を名乗る以上逃げれんし捨て置けんな。ごねてしまえば宿にも迷惑がかかる。

 嫌な予感がしつつも鍵を開け恐る恐る扉をあけた。そこには狼狽える宿の従業員、そして三人の男女に一人の少女。

 多分今俺は凄い嫌そうな顔してる。

 

「……そう言う組み合わせだったわけ?」

「いや~実はそう言う組み合わせだったんだな~これがさぁ~」

「別に騙す気は無かったがな」

 

 にやけた表情のエルーンはアウギュステで出会ったドランクさん、そして隣には赤毛のドラフのスツルムさんの二人。

 

「……ごめんなさい」

 

 ねこのぬいぐるみで顔を隠し謝罪するのはもう暫く会う事も無いと思った少女オルキスちゃん。そして俺の目の前にいるのは漆黒の鎧を着こんだ人物。

 

「つまり……あんたが黒騎士って人?」

「そう言う貴様は星晶戦隊(以下略)の団長だな?」

 

 ガロンゾで一番会いたくない人に会わなくて済むかもと思った次の日、何があったか知らないが、俺は一番会いたくない人と出会った。

 ちくせう。

 




団長、一人逆境ナイン

この話でジータ達は一度原作通りガロンゾに来てますが、黒騎士が逮捕前等の差異があります。またオルキスも性格に変化があります。ご了承ください。

プリキュアコラボですってよ、奥様。うっほほーい。
何時かスマプリ二次を書いてみたいものです。

コンスタンツィア様プレイアブルしてくんねえかなぁとか考えてます。せめて季節イベントのセリフとか欲しいです運営様。






▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。