俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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ガロンゾ編。アウギュステよりは短くなるはずです。


出会いのガロンゾ編
ガロンゾで出会おうぞ


 ■

 

 一 衣類の洗濯を

 

 ■

 

 晴天である。空に船を遮る雲は無く、燦々と輝く太陽が俺達を照らし、穏やかな風が俺達の旅を後押しする。

 なんと気分がいい天気であろうか。文句なしに快晴、思わずスキップしたくなるほどだ。そしてこんな天気の中エンゼラの甲板には、俺達の服がズラリと干されていた。

 

「うむ、こんな日は洗濯に限る」

 

 まだ騎空団を立ち上げてから一年も経っていないのだが、あれよあれよと団の人数も増えに増え、それに比例し洗濯物の量はかなり増えた。まあ元が調査騎空艇であったエンゼラには割りとしっかりした洗濯設備があるので助かっている。

 

「フィラソピラ、これお願いね」

「任せてー」

 

 ルナール先生から手渡される洗濯物を受け取り、クリュプトンを飛ばしマストの柱に張られた洗濯紐に吊して行く。紐は何本も張られており、一番上の紐は飛ばないとかけれないのだ。

 

「明日にはガロンゾやからな、船も修理出すし洗濯すませんと溜まったままになってまうわ」

 

 カルテイラさんの言う通り明日には目的地のガロンゾへと到着するだろう。そうすれば念願の船の修理を……。

 

「金、金が飛ぶ……」

「急に落ち込むなや」

 

 現在の借金は300万ルピを超えている。船の修理状況によっては更に上乗せされる可能性もある。

 

「言うても金も溜まりつつあるさかい、返済もそうとうないで」

「……そうかなあ」

「せやせや」

 

 エンゼラ内に幾つかある金庫の中には【返済用手出し厳禁】の最もセキュリティーを厳しくした金庫がある。それに入れてあるお金は文字通り借金返済のためのお金なので、溜まっているように見えて無い様な物。無茶振りとも言える依頼をこなすおかげで、生活費とかに当てるお金は困らない程度はあるがもし油断して、何時ぞやのティアマトの起こした【宴会音楽団員】事件の様な事がある場合……。

 

「ヒエエッ!?」

「急に叫ぶなやっ!?」

 

 い、いかん……ナイーブになりすぎた。

 

「俺はガロンゾで何も起きないよう祈るほか無いのか……」

「神頼みならほれ……そこに」

「あん、なんだよ?」

 

 カルテイラさんが丁度通りかかったB・ビィを指差した。神頼み……まあ星晶獣は神様とか言われちゃいるがね。

 

「まるで御利益無さそうだな」

「言っといてなんやけど、うちもそう思うわ」

「呼び止めといて突然失礼だな」

 

 うちで御利益有りそうな星晶獣はゾーイとコロッサスにユグドラシルぐらいだ。セレストはまあ、あいつ死の星晶獣だから御利益って言うのも変だし、他はむしろ厄介事持ってきそうで祈る気にならない。

 

「ねえねえ、団長さん☆」

 

 神は死んだ、とか考えてたら露骨なぶりっ子が来た。

 

「どしたの、カリおっさん」

「おっさんじゃねえ!」

 

 だがその仮面は簡単にはげる。

 

「いいか、団長? 命が惜しかったら“おっさん”だけはやめろ? OK?」

「OKおっさん」

「う゛う゛ぅ゛~~ん゛っ! もうカリオストロ怒ったぞ~☆」

 

 青筋立てながら笑顔でウロボロス召喚するんじゃねえ。

 

「甘いわっ!」

「ギシェエッ!?

「あ、てめえ!?」

 

 錬金術師の開祖が生み出した怪物だろうが、ちょっとでかい蛇みたいなもんなんだよ。グルグル巻きにしてくれるわ。

 

「ギ、ギシャェ……」

「うわぁっ!? こ、こいつ蝶結びにっ!?」

 

 こちとらでかい蛇の様な奴の相手は何度もやっとるのだ。今更このぐらいの相手屁じゃないっての。

 

「それで何か用っすか?」

「こいつ何事も無かったように……」

「慣れっすよ。それで?」

「慣れってお前……まあいい、昨日貰った本と新聞だが読みきったんでな。追加よこせ」

「えっ? あれ読みきったんすか?」

 

 おっさんが我が団ではよくあるなし崩し入団をしてから直ぐに要望として「現在の空の情勢がわかる資料をよこせ」と言われた。気の遠くなるような時間を封印されていたので、彼……いや彼女? は現在の情勢には全くの無知であった。

 それに関しては「なるほど」と思ったので素直に船にあった世界史の本やら、たまに買っておいた新聞やらを集めて渡したのだが、10冊どころじゃなかったのでまさか読みきるとは思わなかった。

 

「オレ様を誰だと思ってんだ。あの程度の量なんざ直ぐに読める」

「追加ってもなあ……もうあれ以外うちの船には無いよ。新聞だって古いのは捨てるし、あれでも基本的な情報は載ってたし十分じゃないの?」

「知識ってのはあって困るもんじゃねえんだよ」

「そうだけどさあ」

「だが無いならしかたねえ。次に行くって言う島で適当に本とか買うとするよ」

「……金はどうするのさ」

「買って☆」

 

 ふざけろ。

 

「冗談だよ。そんなこえー顔すんな」

「言っとくけど、俺に金銭の話で冗談は通じんぞ」

「うちの団長は既に300万以上借金こさえとるでな」

「何してんだよお前……」

 

 何もしてないんだよ俺は……。

 

「本買う金ぐらい自分で用意できる。適当なもん売れば幾つか買えるだろ」

「あんた売れる様な物なんてあったか?」

「あんだよ、こう言うのとかな」

 

 そう言うとおっさんは、腰のホルスターから妙な液体が入ったフラスコを取り出した。妙にタップンタップン言ってて気持ちが悪い。

 

「……何それ?」

「滋養強壮、眠気も吹き飛ぶカリオストロ特性ポーションだ」

「いつの間に……」

「昨日ちょちょいと部屋でな。名付けて【紅い牡牛】」

 

 商品名まで考えてやがる。心底どうでもいいが、しかしやる事が早い。流石開祖と言ったところか。

 

「効果はオレ様が保証する。欲しい奴は絶対買うぜ」

「……副作用とか無いだろうね」

「あるわけねえだろ、オレ様が作ったんだ。なんなら試すか、一本でビンビンバリバリだぞ?」

「謹んでお断り」

 

 何さその効果音、俺は実験体か? 冗談じゃないぜ。

 

「売るのは良いけど売る前に素材教えてくれよ。昔と違って今だと違法になってる物もあるかもしれないんだから」

「あー……まあ大丈夫だろ」

「不安な返事やめて」

 

 錬金術師開祖のポーション、それをわかっていれば喉から手が出るほど欲しい奴は幾らでもいるんだろうな。態々そのネームバリューを利用させる気もする気も無いけども。例の学会連中関係で絶対面倒になるから。

 

「なんにしても程々にしてくれよ」

「わかってるよ」

 

 新たな仲間の唯我独尊系錬金術師。彼女の扱い方法をこれから知っていかねばならない。メドゥ子一人の追加でも面倒だと言うのに、連続して入団したちびっ子二人はなんだってこう面倒な性格なのだか……。

 どうせなら大人しくて素直で純粋に可愛いちびっ子が良かった……。

 

「そう言う事考えるからロリコン言われるんだよ相棒」

「心を読むんじゃねえ!」

「顔に出てんだよ」

 

 ほんといい加減にしろ俺の表情筋!

 

 ■

 

 ニ 来たぜ、ガロンゾ! 居るじゃん、帝国!

 

 ■

 

 船造りの島ガロンゾ。世間の騎空艇の殆どが、空を旅する以上何時かこの小さな島に世話になると言う。そして遠目にでも見える数多のクレーン群は、この島が如何に造船に力を入れているかがわかる。

 

「あんな小さな島でえらい数の船が入渠してるぜ」

「ガロンゾも立派になったもんだな」

「おっさんの頃はどうだったのさ?」

「おっさんじゃ……はあ、もういい。オレ様の頃も造船技術はそれなりにあったさ。あそこまでじゃなかったけどな」

「意外っすか?」

「別にそうは思わねえよ。封印も長かったし技術の発展ぐらい想定の範囲だ。むしろ小国のエルステが軍事国家になって勢力伸ばしてる方が意外だぜ。王国も帝国になってるし」

「エルステは驚異的な軍事改革が国を変えたのです。カリオストロ殿が慣れ親しんだ時代の面影は無いでしょう」

 

 エルステ軍人であったユーリ君が少し自慢気に補足する。既に帝国のやり方に反発し袂を分かった彼だが、エルステ帝国の真の良さと言うのも知っているのだろう。だからこそ彼は軍へと入ったのだから。

 

「軍事改革ねえ」

「それだけじゃねえぜぇ? エルステの科学力はサイッコ~にクレ~ジ~だよなぁ!」

 

 独特な何時もの口調で現れたのはハレゼナ。殆ど気にするような事も無かったが、仲間になる時生まれはエルステだと話は聞いていた。

 

「そう言えばハレゼナ殿もエルステの出身でしたね」

「ケヒヒ……で、でも僕が居たのはスラム街だったから、怖くて出てったけどね……」

「……確かにエルステでも未だ貧富の差はあります。軍への入隊希望者の中にもスラム出身者は少なくありませんでした。軍事国家となったエルステで軍に入れば、一定の生活は保障されますから」

「急速な発展の闇ってやつだな。あんな田舎の小国が十年も経たず大帝国になったんだから当然だろうぜ」

「そこは色々あったんじゃない? あとそれ外で絶対言わないでよ。万が一帝国兵に聞かれると絶対喧嘩売られたと思われるから」

「そんな輩はぁ~……返り討ちだぞ☆」

 

 このおっさんの生き方は平和主義の俺と相容れぬとわかる。

 

「俺ら前帝国と一悶着あったんで、暫く帝国との面倒は勘弁です。やめてくださいよ」

「星の島行こうと本気で考えてる男が情けない事言ってんじゃねえよ。帝国の一つや二つ蹴散らしてやる気概持ちやがれ」

「無茶言うなよ……俺の旅に困難はあっても、面倒はお呼びじゃないので」

「情けねえ」

 

 うるさいよ。俺の人生の生き方は俺が決めるのだ。

 

「そんな主殿に悪い知らせだ」

 

 突然後ろからシュヴァリエが嫌な事言いながら現れた。聞きたくない、心底聞きたくない。

 

「……けど聞かないと駄目だよな」

「無論」

「……何?」

「島のドックに帝国の戦艦が見える」

「Oh……」

 

 シュヴァリエが指差す方向を見る。確かに島のドックの一つに一隻巨大な戦艦が見えた。船体に見える特徴から帝国の戦艦である事が確かにわかる。

 

「嘘やん……」

「まあ造船の島ですので……当然帝国も利用する事はありますが」

 

 ユーリ君の言う通り帝国だって自国だけで船の製造、修理を行っているわけじゃないだろう。航行途中の補給や修理に立ち寄る事があっても不思議ではない。不思議ではないがしかし、だがしかしこのタイミングである。

 

「緊急会議を行うっ! ユーリ君、全員食堂集めて!」

「了解しましたっ!」

 

 そんなわけでガロンゾ到着なのだが、船から下りる前に団員全員集めて緊急会議を開く事とした。こんなん打ち合わせとかないと、絶対なんかトラブル事が目に見えている。なお今の時点でトラブルとか言う気はない、言いたくも無い。きっとまだ大丈夫。

 

「帝国の船……一隻だけなのかい?」

「見た所。ただ結構デカイです」

「戦艦と言うならば偶然補給に訪れたと言うところか……」

 

 コーデリアさんの言うとおりこれは偶然だと俺も思う。だが帝国軍がガロンゾに居る事には変わりない。

 

「間違いなくアウギュステの騒動で俺達は帝国に目をつけられてるよなぁ」

「アウギュステに居たのはあのポンメルンです。あの男なら情報は既に広く帝国で共有されているでしょう。悔しいですが、帝国の軍人として優秀であったのは確かでしたから……」

 

 苦々しい表情を浮かべるユーリ君。ある意味であのヒゲのポンメが原因で彼は帝国を離れた。俺にとってもジータを殺した憎い奴であるものの、あれでも多くの部下を率いるエルステ軍の将校だ。少なくともただの愚物とは言えないだろう。敵とは言え認めるべき点は彼も認めているようだ。

 

「かと言って船修理しないわけにいかないからな。なんとかやり過ごすぞ」

「エンゼラの修理中は目立つ行動は控えるべきでありますな」

「加入したばかりのマリーちゃん達、それにメドゥ子とおっさんの存在は知られてないだろうけど、他は面が割れてる可能性があるから特に注意してくれ」

『我等は面が割れる以前の問題だがな』

 

 露骨に星晶獣なやつ等、実際困る。どうすりゃいいんだっつーの。

 

「……リヴァイアサン達は落ち着くまで滞在中泊まる宿から出ない事」

『致し方なしか……』

「ウチ団長に付き添って船大工と待ち合わせてるシェロはんに会うさかい、そん時に話聞いとくわ。あんだけのごつい船や、どっちかに聞けば帝国兵の動向もちっとは探れるやろ」

「出来れば船のドックも離れてるといいけどなあ」

「なんにしてもあんま向こうと行動範囲被らん様に気いつけてや」

 

 現状これが精一杯か。一先ず船下りて宿に入ろう。団員は暫くは宿で待機しててもらう他無いな。

 

「面倒になりませんように……」

「ならないと思うか相棒?」

 

 うるせい。

 

 ■

 

 三 夫婦漫才スツルム&ドランク ガロンゾ公演

 

 ■

 

 団長達が帝国の戦艦に対して危機感を持っているほぼ同時刻。正しくその戦艦内で二人の男女が話しこんでいた。

 

「だからさぁ~ちょっと、ほんのちょっとの間でいいの!」

「駄目だ」

「少しだけだってばあ!」

「駄目なのは駄目だ」

 

 子供のように騒いでいるのは、青髪のエルーンドランク。そして彼を冷たくあしらっているのは、赤毛のドラフスツルム。何時か団長がアウギュステで出会ったあの傭兵コンビであった。

 艦内の通路で騒ぐドランク。何人かの帝国兵がその様子を見ては「またか」と言った反応を見せて通り過ぎていく。ドランクはその事を知ってか知らずか気にした様子は無く、それに対してスツルムは非常に不本意そうであった。

 

「いいじゃんいいじゃーん、少しぐらい外で遊ぼうよお~!」

 

 そしてきっと、スツルムが一番不本意で腹立たしいのは、このドランクが駄駄をこねている理由だろう。

 

「補給が終了するまで艦内で待機するよう言われているんだ。そんな理由で外出出来るか」

「それは帝国兵の人達への待機命令であって、僕らは傭兵であって帝国兵じゃないんだからさあ」

「帝国に雇われてる以上そっちにあわせろ」

「やだね、真面目ぇ~。駄目駄目、僕もう何日も船の中で飽きたよ……遊ぶとまでは言わないから、外食ぐらいしたいよ僕は」

「我慢しろ馬鹿」

 

 実際に彼女達は数日間戦艦内で待機し続けている。特にその間やる事は無く、ハッキリ言って暇であった。しかしそこは傭兵を生業にする者、スツルムはその時間を耐える事を苦と思う事は無い。なんであればもっと過酷な状況で耐え凌いだ事だってあるのだ。

 一方ドランク、彼はそこまで我慢強くなかった。当然彼とて傭兵として生き抜いて来た確かな実力があり、だからこそスツルムもコンビを組んでいるのだが今回の様なフリーの時間をどう使うかに関して二人は過ごし方で衝突する事がある。

 

「そもそも僕達やる事ある? 艦の補給も整備も帝国兵にガロンゾの男衆がやっちゃうじゃない?」

「だとしても私達が遊んでいい理由になるか」

「許可貰おうよぉ~。大丈夫だって、一日ぐらい平気だってばあ……」

「くどい」

 

 けんもほろろ、スツルムの態度も意志も変わる事無くドランクはガックリと項垂れるばかりであった。

 

(んもう、いやだなあ……スツルム殿ってほんと真面目だもん。少しはガス抜きしないと僕まいっちゃうよ)

 

 内心勝手な事を言うドランクであるが、それでもスツルムが良しとしない以上それに従う程度には弁えているようだ。しかしこれ以上駄駄をこねてはまた尻を刺されるのは確実だろうと諦めようと思ったのであるが――。

 

「ここに居たか」

 

 不意に聞きなれた声に呼びかけられた。声の主を見てふざけた様子を崩していなかったドランクも僅かに背を正した。にやけた表情がそのままなのは流石と言うべきであろうか。

 

「どうかしましたか」

 

 スツルムが真剣な様子で話す。相手は彼女達のクライアント、漆黒の鎧に身を包んだ黒騎士であった。

 

「……場所を変える」

「了解です」

 

 辺りに帝国兵が行き来している事を見て黒騎士は軽く首を振って使われていない倉庫を示した。何かを察したスツルムは今は何も聞かずただ黒騎士の後を追った。

 倉庫の中に誰も居ない事を確認してから入る様子も見られる事は無く、三人は中へと入り込む。

 

「それで、何か?」

「すまんが急用だ」

「何々、もしかしてやばめな感じですか?」

 

 騎士の僅かに焦りを含んだ言い方にドランクが反応した。

 

「……“人形”が船から消えた」

「ワオ」

 

 そして返ってきた答えを聞いてドランクはかなり驚いた様子で一言のみ発した。スツルムもまた表情を強張らせた。

 

「消えた、と言うのは……まさか侵入者が?」

「いや、正確には街に出て行った、らしい」

「らしいと言うと?」

「これを見ろ」

 

 騎士は一枚紙を取り出し二人へと差し出した。そこには拙い文字で「お腹すいた、いい匂いしたから食べに行きます」とだけ書かれていた。その内容に二人は少し肩の力が抜けた。しかし黒騎士の方はと言うと、今にもその紙を引き裂かんばかりの怒気を発していた。

 

「人形の奴、前の事で味を占めたようだ……」

「前のって言うと……ああ、ルーマシーでしたっけ~?」

「ジータのやつ等か……」

 

 この場にいない星晶戦隊(以下略)の団長であるが、ここでまたあのジータが関係する事柄が起きる。きっと今頃悪寒に襲われているだろう。

 

「きつく躾けたつもりだがあの人形め……! ルーマシーでの一件以来勝手な行動が目立つっ!」

「ジータから変な影響を受けたようですね……」

「まったくだ……」

「前部屋から勝手に逃げだしたんでしたっけ~?」

「ご丁寧に鍵を開けてな……外側からしか解錠できないはずの鍵を! いつの間にあんな技術身に着けたんだあいつは!」

「ジータが教えたんじゃないですかね~」

「あの小娘がぁ……っ!」

 

 黒騎士にとってジータとその”人形”との出会いは、非常に悪い影響が残ったらしい。兜の中から歯ぎしりが聞こえてくるほどに怒っている。

 

「第一兵も何をしていたのか、案山子か何かかアイツらはっ!! 小さな子供とは言え船から居なくなったのを誰一人気付いてないと言うのはどう言う事だっ!」

「まあまあ黒騎士殿、声抑えて抑えて」

 

 怒りのあまり声が大きくなりだした黒騎士を諫めるドランク。同時に「気が付かなかったのはあなたも……」と内心思いつつ流石にそれは口に出さない。

 

「ようは~……僕らにあの子の捜索をお願いしたいってわけですか?」

「そう言う事だ。文面から満足したら帰っては来るだろうが、あれを一人放っておくわけにもいかん。本来なら私が行くべきなのだが、少し艦長と今後について決めておきたい事がある。立場上あまり後回しに出来ん」

「そりゃそうか、何ならこの船どころか帝国本国でも偉いんだからやる事盛り沢山、立場って良し悪しですね~」

「うるさい、ドランク」

「いってえっ!?」

 

 調子が戻りだしたドランクを鬱陶しく思ったのか、スツルムはやおら剣を引き抜き自然な動作でドランクの尻を突き刺した。尻を押さえて飛び跳ねるドランクを無視しスツルムは黒騎士と話を続けた。

 

「兵達を捜索には出さないのですか? 子供とは言え彼女は……」

「ここはルーマシーの様に人気のない島でも無ければ、アウギュステの様に広い島の中人で溢れ返る島じゃない。小さくかつ人口が密集するガロンゾだ。更に船大工の職人衆は仕事上中立だが我々帝国を敵視する者も少ないとも言えん。帝国軍の兵が大人数動いては要らぬ衝突を起こす可能性がある」

 

 それもそうかとスツルムは納得した。島に立ち寄った軍人がガロンゾの商業地区を出歩く事自体は珍しい事も無いが、スツルム達を雇ったのは黒騎士――エルステ帝国である。

 傷ついた船を直し、旅を見送るこのガロンゾと言う島の特性から、例えエルステ帝国の船でもガロンゾの職人達は黙々と仕事をこなす。それでも侵略行為を堂々と行うエルステと言う国に対して不快感を持つ者は多いだろう。そんなエルステの兵達が大勢ガロンゾ島内で捜索活動を行えば、大なり小なりの衝突が予想された。帝国としても繋がりを持っていたい造船の島との衝突は避けたいのが本音である。

 

「そう言う事でしたら直ぐに」

「ああ、私も手が空き次第探しに向かう」

「しかしお忙しいのでは?」

「立場があるとは言え私がずっと動かんわけにはいかんだろう。さっきはああ言ったが、この船も無能ばかりではない。後の仕事を任せるぐらいの人員はいる」

 

 本人がそう言うならこれ以上雇われの身である自分が口を出すことは無い。スツルムはただ頷き黒騎士から受けた依頼を実行するのみである。

 

「狭い島とは言え入り組んだ島だ。人形の身体で隠れられると見つけにくい」

「確かに……ひとまず”子供”の捜索と言う形で探っておきます」

「くれぐれも頼んだ。……まったく、あいつはどれ程言い付ければ……あんな女の影響など……碌な事にならん……」

 

 倉庫から出ると黒騎士は何かブツブツと呟きながら去って行った。その疲れた後ろ姿をスツルムは気の毒そうに見送る。

 

「あれがジータと関わった者の背中か……」

「何時かの団長君と同じ空気出てるよね~」

「あいつか……」

 

 THE・全空一ジータに振り回される男。アウギュステで出会ったあの少年の姿を思い出す二人。宿の窓辺でため息を吐き悩んでいた苦労性の権化の様な少年を思い浮かべると、確かに今の黒騎士と同じ――。

 

「いや、あいつの方がなんか辛そうだったな」

「確かに」

 

 抱えたストレス量も全空一かも知れない少年を思い、哀れに思った二人であった。

 

 ■

 

 四 船を直すなら、なるべく安く、お手軽に済ませたいと思うのであります

 

 ■

 

 帝国の存在に胃痛を感じ、更に謎の悪寒も感じた俺であるが、ともかくガロンゾまで来た目的であるエンゼラの修理を終わらせなければならない。団員の殆どは宿に行かせて、俺とカルテイラさん、それと操舵担当のセレストの三人でシェロさんと合流する。

 

「お待ちしておりました~」

 

 集合場所に居たシェロさんは笑顔で俺達を出迎えた。

 以前カリオストロの居た遺跡調査を終えた後、シェロさんには依頼達成の報告ついでにガロンゾでの事を話し合ったのだが、その時船大工や修理中の宿の手配は任せて欲しいと改めて言われた。ガロンゾが初めての俺は、正直どの大工が良い大工かは俺もわからないのでその辺は任すことにしていたのだ。

 

「どうも、早速なんですが大工の手配ってどうなってます?」

「そちらに関しては既に終えております~。腕の良い方を紹介いたしますね~」

「そりゃ頼もしいや」

「エンゼラの状況は既に話しておりますので~、細かい調整は直接会ってからにしましょう~」

 

 シェロさんが大工に合わせてくれると言う事で、その船大工が待つ工房へと付いて行く。道中島のドックからは騎空艇が出入りしている。他の島では見られないその様子から、この島全体が騎空艇の造船から修理までを請け負っている事がよくわかる。

 そんなドックの中で一際存在感を放つのは島中央にある巨大なドックであった。単純に「でかいな~」と思っていたのだがシェロさんの向かう方向がそのドックである事に気付き少し驚く。

 

「カルテイラさん、あのでかいドックって」

「あれか? あれはガロンゾの中央船渠やで。クレーン群に並んでガロンゾの象徴の一つやな」

「流石知ってますね」

「うちは何度も商談で来た事あるでな」

「す、すごい……でかいね、団長……」

 

 今船は入って無いが、エンゼラよりもはるかに大きな騎空艇でもすっぽり入る大きさ、セレストもその規模に驚いている。だがまさかあそこで世話になるのだろうか。その事に関して聞く間もなくシェロさんはスタスタとその中央船渠の傍にある工房でと入って行った。こうなると取り合えず付いて行くしかない。

 

「いらっしゃ……ああ、よろず屋さん!」

「どうも~お約束していたお客様を連れてきました~」

「あ、なるほど。それじゃあ少しお待ちください、直ぐ親方呼んできますんで!」

 

 工房で忙しく働くヒューマンの青年がシェロさんに気付くと急ぎ奥へと走って行った。二人の会話を聞く限りどうやら俺達の事もある程度話してあるようだ。程なくして奥から年配のドラフの男が一人のっそりと現れた。

 

「待ってたよよろず屋。そっちが今回の?」

「ええそうです~。団長さん、こちらが今回エンゼラの修理等を全て請け負ってくれる親方さんですよ~」

「どうも、今回は宜しくお願い致します」

 

 手を差し出すとドラフの親方さんもその大きな手で握り返してくれる。船大工らしいゴツゴツと固くそれでいて繊細さを感じる手だった。

 

「こちらこそよろしく。大変だったそうだな、よろず屋から事情はあらかた聞いている。竜骨までやられたとは災難だったな」

「いやまったく……」

「だがガロンゾに来たならもう心配いらねえ。バッチリ直してやるからな」

 

 親方は俺の肩を両手でガッツリ掴み、その燃えるような瞳を向けながら話す。自らの仕事への自信と信念が言葉でなく、その瞳で感じられた。

 

「はーシェロはんの紹介って言うからもしかしてって思うたけど、やっぱあんさんやったんか」

「おっと本当にカルテイラもいたのか? カルテシスターズが揃うなんて久しぶりじゃねえのか?」

「やめーやその言い方! いつの話しとねん!」

 

 何やら親方さんとカルテイラさんが言いあっている。喧嘩では無く久しぶりに会った知り合いの他愛無い言いあいと言う感じだ。

 

「なになに、カルテイラさん知り合い?」

「さっき商談に来た事あるゆうたやろ? そん時の商売相手の一人がこの親方や」

「よろず屋とこいつが駆け出しの頃からの付き合いよ。今でも船のパーツやらで頼ることあるぜ」

「カルテシスターズって?」

「二人駆け出しの時のコンビ名よ、こいつら二人は何時も一緒でなあ」

「それはええから! 自分の若い時の話他人から聞きとうないわ!」

 

 カルテイラさんが赤面しながら親方の話を止めさせようと巨体を押し返す。もっともカルテイラさんの細腕ではまるで動く気配はない。

 

「二人の知り合いって言うなら尚更安心だ」

「おうよ、大船に乗ったつもりでいな!」

「わ、私からも……お、お願いします……エンゼラはもう、私達の家だから……」

「こっちの嬢ちゃんは?」

「うちの操舵担当です」

「ほう? いや成る程な、その事も聞いている。あんた星晶獣の操舵士なんだってな」

「せ、正確には……星晶獣の力で動かしてるから操舵士とは違うけど……」

「方法はどうあれ船動かしてんだ。あんたもう立派な操舵士だよ」

「そ、そうかな……えへ、えへへ……」

 

 親方に褒められセレストが赤面している。カワイイなこの野郎。

 

「さあ早速仕事だ! まずは破損具合を確認してどうするか決めよう。お前等ついてこい!」

 

 親方の声に工房に居た若い衆全員が「応!」と大きな声で答えた。

 その後すぐにエンゼラへと戻り親方達は船の隅々までを見て回った。俺が考えていたよりかなり大げさな規模で彼らはエンゼラの検査を行った。問題の竜骨だけでなく、船の内部まで調べ機関室の調子やらマストの歪みやら、ど素人の俺では口も手も出しようがないレベルだった。

 調査自体はすぐに終わる。かなりの人数が動いたのであっという間だった。そんな短い時間であっても、修理するにあたってまとめられた書類は何十枚にもなった。その書類を見せられながら俺達は親方から修理の方針の説明を受ける。

 

「アウギュステで応急処置はしたって話だが、あっちの職人もいい腕してるぜ。よくガロンゾまで持たせてくれたもんだ」

 

 出だしはそのように始まり何処をどのようにして直すかと言う話へと移る。

 とにかく竜骨に関しては無理な補強をこれ以上すると、そこから更にヒビが入りかねないのでそっくりそのまま交換と言う事になる。新品同様の状態にされていたとは言え、エンゼラ自体が中古船と言う事もある。或いは俺達が乗るようになってから出来た目に見えないヒビや劣化もあったろう。それらが積み重なり、そしてポセイドンの生み出した魔物の襲撃がトドメとなったわけだ。

 

「それで補強でなしに竜骨の交換となると、どうしても船をバラす必要がある。そうなると設備フル稼働で若い奴等総動員したとして……早くて一月かかるな」

「一月ですか……まあしかたないか」

 

 一回船バラして戻すんだからそのぐらいはかかるだろう。むしろもっと時間かかると思っていたぐらいだ。

 

「それで……船は修理だけって事でいいのかい?」

「あー……それなんすよねえ」

 

 アウギュステでラカムさん達とも相談をしたが、ただ修理するだけで終えるよりも今後の目的に合わせて改修するのも有りだと言うアドバイスを貰っている。それに関しては自分でも惹かれるものがある。

 

「どの道バラしちまうわけだからな。やるなら派手にやっちまうのもいいと思うぜ」

「どうすっかねえ……おススメの改修プランってあります?」

「おススメってわけじゃねえが……この船は他の騎空艇よりもプロペラで大きな推進力を得てる。俺なら船尾のプロペラを一基追加、それに合わせてマストもとっかえて帆をデカく、それで最大速度に機動力も上がるし燃費も良くなる」

「なるほど……」

「それ以外となると内部ぐらいだな。広くしたいならついでに船体大きくしてやるぜ」

「あー……どうしよ」

 

 おススメプランは非常に魅力的だ。確かにその改修内容は十分にありである。むしろしたいぐらいだ。だがしかし。

 

「それってお値段どのぐらいに……」

「値段なあ。まあただ竜骨変えるなら……このぐらいだな」

「ふむ」

 

 パパっと親方は見積もりを紙に書き、それを見せる。これはまだ予想通り、まだ大丈夫。

 

「んで、改修するって言うなら……このぐらいか」

「んがっ!?」

 

 ここでバーンとお値段が上がる。事前にシェロさんから借りた値段を軽く上回った。

 

「こーれーはー……」

「プロペラとマストに(セイル)の手配と装着だからな。まあこのぐらいにはなる」

「っすよねえ~……」

「幸い機材の当てはあるからな。どっちにしても工期は対して変わらねえよ」

「変わるのは値段ぐらいか……カルテイラさんどう思います?」

「値段も妥当、特にこの見積もりに関しては意見無いわ。あとは団長はんがどうしたいかや」

「わ、私も判断は任せる……エンゼラが良くなるなら、嬉しいし」

 

 俺の判断かあ。困っちゃうよなあ、こう言う判断……。

 

「そりゃ改修するならした方が良いだろうけどさあ」

「あ、あとね……絶対仲間は増えるから……こ、個室とか増やして置くといいと思う」

「……ふえるかなあ?」

「増えるよ、絶対」

「まあ増えるやろなぁ」

 

 二人とも同意見なのね……。いやさ、増えるのは良いのよ増えるのは。ただその増える仲間がね。最近もメドゥ子と言いカリオストロと言いさあ、我が道を行く子達ばかりだしなあ……あんな面子がこれ以上増えるとか……そんなの……。

 

「……船広くないといかんわ」

 

 万が一ティアマトやらカリオストロの様な奴が増えた場合、個室どころかそいつらを集める居間の様な空間が必要だ。要は娯楽室。あまり想像したくないが俺は船の改修を決めた。

 

「決めました。今話したプラン通りでお願いします」

「いいのかい?」

「ええ、大丈夫です」

 

 値段に関しては払えない事は無い。前々から溜めていた返済用の金と今回修理用に前借してたものを合わせれば大丈夫だろう。普段俺に足りない思い切りは今発揮すべきだ。

 

「あいわかった! なら今日からその方向で動く。船の方はこっちでドックに運んでいいな?」

「出来るならお願いしていいですか?」

「ああかわまんぜ。それと内部の改修は後日また打ち合わせたい。団員の意見もまとめておいてくれ」

「了解しました。団員の荷物とかも降ろさないとですからね」

「頼むで~親方はん、仕事次第じゃキッチリ値切らせてもらうで~?」

「はははっ! 昔はともかく今のお前相手じゃ負けちまうよ! そうならないようにしかりやらせてもらうぜ!」

「にししし~、期待してるで~」

 

 最後にもう一度力強い握手を交わし今日は解散する。この人達なら任せても何も心配はないだろう。お値段以外の事は。

 

「シェロさんも今回はありがとうございました」

「いえいえ、他ならぬ団長さんの頼みですから~」

「ただ借金返すのはまた先になりそうです……ポセイドンの方はどうですか?」

「前様子を見に行った時はしっかり働いていましたよ~。お客さんにも受けてる様子なので大丈夫かと~」

 

 客に受けとんのかいアイツ。アウギュステ沈めようとした褐色マッチョの星晶獣なのに、世の中わからんな。

 

「最近はアルバイトの方達とも打ち解けているので私も安心してます~」

「あいつそんな打ち解けれる程社交性ありました?」

「と言うよりも、アルバイトで雇ったエルーンの三人組なんですが~、その方達の方からポセイドンさんとコミュニケーションをとってくれたので~。あれはよい切欠でしたねえ~」

 

 そりゃまた物好きな奴らもいたもんだ。まあポセイドンが働いてくれているならそれでいい。奴の稼ぎがこちらにくるなら助かるからな。

 

「そう言えばシェロさん、島に来る時帝国の船が見えたんですが」

「やはり気付きましたか~」

「あんだけ派手な戦艦誰でも気が付くわ。そんでシェロはんの事や、ある程度事情はしっとるんやろ?」

「えっとですね~、あの帝国の戦艦ですがまた事情が複雑でして~」

 

 シェロさんにしてはめずらしく言いよどむ。聞くのが怖くなってきたなあ……。

 

「乗っているのは帝国でもかなりのポジションの方でして~、私も一応知り合いなんですよ~」

「そうなんすか……」

「団長さんとしては関わりたくないでしょうけど~……団長さんですからねえ~」

 

 ねえシェロさん、それどう言う意味ですかね?

 

「もっと言うならジータさんともお知り合いでして~」

「う……っ!? い、胃痛が唐突にっ!?」

「ああ……だ、団長が……っ!」

「気の毒なやっちゃ……」

 

 ま、またジータ……ガロンゾでも奴の影響が来るか。

 

「一応補給目的だそうなので~船の傍に行かなければ帝国兵と会う事はないかと~」

「そうします……」

 

 宿戻って他の奴等にも言い聞かせとかないといけないな。帝国の船が居なくなるまでは大人しくしておかないと。

 

「まあ団長さんは印象が地味ですので~案外気付かれないかもしれませんね~」

「あーそれあるな、ただの一般人と思って素通りされそうや、めっちゃ想像できる」

「た、確かに……んふふ」

 

 あはは、好き勝手言ってる。俺泣いちゃうぞー。

 

 ■

 

 五 エンゼラ改修計画、そして!

 

 ■

 

「えーてなわけで、エンゼラは大々的に改修。新たな設備の追加や部屋の拡張を行うので希望を募りたいと思うのだが……」

 

 俺がそう言ったその瞬間、宿の食堂に集まった団員全員が一斉に手を上げた。

 

「こう言う時だけ反応が良いのが気になるが……まず手前のティアマトから」

「ワインセラー設置ヲ」

「却下」

「オイッ!?」

 

 それは設備の拡張に含まれません。個人的な趣味の設備です。

 

「イイダロ別ニ! ワインセラー欲シインダーッ!」

「酒の保存場所は食堂にあるだろ!」

「モット広イノガイイーッ!」

「駄目っ!」

「ケチッ! 地味ッ! 変態、ロリコ……ッ!?」

 

 言い切る前に拳骨。頭部からタンコブを生やしてティアマトはそのまま机へと突っ伏した。

 

「他!」

「んにゃ!」

「……はい、ラムレッダ」

 

 あんま聞きたくない。

 

「団長きゅん、ワインセラーは小さな個人用もあるにゃ!」

「自分で買いなさいっ!!」

「にゃひっ!? は、はひごめんにゃさいっ!」

 

 この酒キチ共めが……、小遣い減らしてやろうか。

 

「主、プレイ用の部屋を作れば気兼ねなく主もこっち側に」

「行かねーよ馬鹿野郎!」

 

 ドM星晶獣めが。部屋で勝手にやってろ馬鹿野郎。

 

「訂正、訂正する。希望は団の活動に必要なものを優先。個人的な趣味の設備等は後で聞くから。では改めて……希望があるものー」

 

 再度問いかけると明らかに挙手数が減っていた。お前等と言う奴は……。

 

「……じゃあ今度も手前から。ユーリ君」

「はっ! 僭越ながらトレーニングルームの設置を進言いたします」

「トレーニングルームか……」

「はい! 普段甲板でフェザー殿やB・ビィ殿と組手等を行っておりますが、やはり専用の設備があると良いかと思いまして」

「俺もそれに賛成だぜ! 組手だけじゃなく、トレーニング器具の置けるような部屋があれば助かるからな!」

「自分も賛成であります。剣の素振りや模擬戦は室内での方が安全ですゆえ」

 

 この提案は肉体派達からの賛同を得ていた。いいねいいね、そう言うの待ってたよ。確かに騎空団の船にある設備としておかしい設備ではない。

 

「ん、なら候補に入れるわ」

「ありがとうございます!」

「ほんと元気ね君。他ある?」

「はーい☆」

 

 次に手を上げたのはまさかのカリオストロだった。最近仲間になったのに堂々と手上げるなこのおっさんは。

 

「何ですかおっさん?」

「カリオストロね、実験室作って欲しいなぁ~って☆」

「実験室ぅ?」

 

 なんだなんだ、錬金術師っぽいもの要求してきたなこいつ。

 

「それ団に何かメリットがあんの?」

「この流れでメリットなきゃ言わねえよ。今日話したポーションの事覚えてるな?」

「ああアレ? なにさ、もう売りに行ったの?」

「お前が出てる間に済ませたよ」

「行動早いね。んで、どうなったの」

「んふふ……こ~れ☆」

 

 不敵に笑ったかと思うとカリオストロは徐に机の上にドッシリとした袋を取り出した。中からはジャラジャラと魅力的な音がする。

 

「ま、まさかあんたこれ」

「これなら欲しい本買ってもお釣り来るよね☆」

 

 マ、マジか? こいつポーション売ってこんなに稼ぎやがったのか。

 

「こ、これって一本の売値?」

「そうだよ。カリオストロが”おねだり”したら喜んで買い取ってくれたよ☆」

 

 それ非合法な手段じゃないよね? ちゃんとした取り引きだったんだよね?

 

「まあこれでちゃんとした設備ありゃ更に元手も抑えて量産化できる。オレ様も欲しいもんがあるからな。出来たもんはまた売るつもりだが、売上金は当然団にも寄付してやる」

「ほ、ほーん? あそー? なんか悪いっすねえ」

「うふ、お世話になるんだから当然だよ☆」

「あはーははは……そうね、まあうん……じゃあ、はい候補にしとくわ」

「やったあ☆ ありがとね、団長さん!」

「……団長、あんた」

 

 言わないでくれカルテイラさん。ただでさえ金使う事になったんだから。団長としての判断です。言わないで、わかって。

 

「えー……それじゃあ次は」

 

 二つ案が出た所で次の案を聞くがここで挙手する者が居なくなる。本当に殆ど趣味のために手を上げてたのかお前達……。

 

「一ついいかしら」

「はいルナール先生?」

「個室はともかく、そもそもエンゼラって部屋余りがちだったじゃない。船の規模に対して団員少ないし」

「そう言われると、そうだったな」

「なら優先するのは今ある調理場とか浴室だとか団員全員が使う設備を良くするとかにした方が良いわよ。この船使ってた前の騎空団だか調査団かに合わせての設計なんだから、これを機にこの団に合わせた間取りにした方が良いわ。特にうち星晶獣何体もいるんだから。いくら省エネでもせまいでしょ」

「た、確かに」

「コロッサスとか主な調理担当だけど厨房せまいんじゃない?」

「ウ、ウン(´・ω・`)ナレチャッテタケド」

「ならアタシも! メドゥシアナも小さくなってるけど、実際あの個室せまいから息苦しいわよ」

『まあそういう話なら我もそうなる』

 

 省エネでもある程度の巨体になってしまうメンバーからの意見がでる。なんかお互い慣れていたせいか、特に気にしていなかったがこれは問題だ。

 

「トレーニングや実験目的の設備は部屋の配置とか間取り決めないとだけど、それ以外設備の追加って話なら多目的の大部屋とかを幾つか追加して、あとから使いたい人に合わせて設備だけ導入すればいいんじゃないの?」

 

  はえーこの絵師めっちゃ有能や無いですか。凄い真っ当な意見出してくれた。

 

「何ルナール先生、めっちゃ考えてるじゃん」

「まあ私模様替えとか好きだから……無駄に間取りとか考えちゃうのよね」

 

 そんな趣味あったんかい。だがその意見は大いに助かる。

 

「だったら全体的に通路や扉に間取りの拡張ってところか。他の皆もそう言う感じでどう思う」

「いいんじゃないかしら? まああたし達は新参だから特に意見言う気も無いけど」

「実際それで問題は無いんじゃないかな。星晶獣に合わせるというのはいい考えだと思う」

 

 マリーちゃんにコーデリアさんも良いだろうと言う。気絶してるティアマトは無視し、他の面々からの反対も特に問題なく賛同を得た。今この場でこれ以上の意見はもう出ないだろう。

 

「ではエンゼラ改修計画会議は終了」

「と、言う事は団長きゅん」

「飯食おう。腹減ったわ」

 

 ここは宿の食堂、シェロさんに手配してもらって泊まる事になったシェロさんの経営するよろず屋系列の宿である。談話室が無いんでここで会議させてもらったが、飯も食わず部屋に戻るなんてできん。しかし広い食堂なうえに、他の客もいて賑やかなので俺達が騒いでも問題なかったのは助かった。

 さて会議は比較的早く終わったが、朝から面倒な事が続いて俺も皆も腹が減った。通りがかったウェイトレスに声をかけ注文をお願いする。

 

「すんません、この日替わり定食一つお願いします。お前等も食いたいもの頼んでけ、高いの以外な」

「ケチ臭イ奴ダ」

「うお、なんでいティアマト復活してたのかよ」

「星晶獣舐メルナ、私ハコノプレート・ランチ」

「オイラはリンゴな」

『なら我は――』

 

 この調子で各々が好きな物を注文していく。エルーンのウェイトレスは一切聞き逃すことなくそれを伝票に書いて行く。かつてウェイトレスとして働いていたラムレッダとはえらい違いだ。こいつは伝票取る前に酒飲んで吐いてたからな。

 

「カリオストロはぁ~、このホイップ・パンケーキお願いしま~す☆」

「飯じゃねえのかよ」

「こう言うのがウケ良いんだよ。美少女とパンケーキだぞ」

「何時の間にそんな知識仕入れてんだが……他はいいか? 欲しい物あれば言えよ」

「私……この、揚げチキンの盛り合わせプレート、食べてみたい」

「いい、いい。取り合えず頼め」

「……いいの?」

「いいから、注文待たせちゃう」

「じゃあ……これと、ビーフシチューも……」

「はい、ホイップ・パンケーキ、それと揚げチキンの盛り合わせプレートとビーフシチュー、以上ですね! それでは出来上がり次第お持ちいたしますのでお待ちください!」

 

 ウェイトレスはハキハキと答えて注文を厨房へと届けに行った。よしよし、あとは飯が来るのを待つばかり……。

 

「……ちょい待て、今なんか知らない声聞こえた」

「ソウカ?」

「いや記憶違いだろ? 人間の脳にはよくあることさ」

「そのネタはもういいB・ビィ。いやマジでなんか一人人数が多い気も……そうだ最後揚げチキン頼んだやつ誰だ?」

 

 拭えない疑問を解決するため急ぎ確認を取る。皆が顔を見合わせ手を上げないと思っていると、俺のすぐ隣で手を上げる者が一人。

 

「……私が頼んだ」

「ああ、なんだお前が……おま、おまえ…………君誰ぇっ!?」

 

 何時の間にか俺の隣に席にも座らず立っている一人の少女がいた。滅茶苦茶驚いたわ、ほんといつの間に現れたこの子。

 

「いやほんと誰だよ。君どうしたの?」

「私……?」

 

 ねこのぬいぐるみを持った無表情の少女は首をかしげながら俺を見る。しまった、可愛いぞ。

 

「そう君。迷子かな? 親御さんは」

「迷子、じゃない……」

「そうなのかい?」

「うん……私、私は……」

「どうしたのかな」

「……ぐぅ」

 

 彼女が何か言う前に彼女のお腹が返事をした。それに対して特に恥じらう様子は無く、彼女はお腹を摩りながらじっと俺を見つめそして口を開く。

 

「おなか、すいた……」

 

 謎の少女は腹ペコキャラだった。   

 




ガロンゾ編ですが、目的としては最後に登場した謎の少女との邂逅を目的にしてます。腹ペコ無表情の少女……一体何キスなんだ……。
また以前の後書でも書きましたが、本来この時点で黒騎士は秩序の人達に捕まってますが、この中では時間とイベントにズレがあります。

コラボ『P5B』。ジョーカーは強いし、感想でも反応をいただけましたが、チビプロバハ的なのも登場してめっちゃ楽しかったです。プロバハのディフォルメはアレが正解だと思います。B・ビィは見た目黒いだけのオイラァッ! なので。
公式、お許しください!

るっ!では版権キャラが出せないからなのか不明ですが、イベント時期にジョーカーと同CVのカトルが愉快に登場してましたね。彼はるっ!で瞑想ポーズがガンダムWのカトルと同じだったりと、地味にパロディネタがあって好きです。

星晶戦隊(以下略)には致命的に風キャラが居ない。追加……そう、追加が必要……

ドヤフィーン
なんだよ、可愛すぎかあの二人。


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