俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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日常回的なもの。


こんにちわ、メドゥ子

 ■

 

 一 ルーマシー・グッバイ

 

 ■

 

 ルーマシーでメドゥ子が原因で壊れた備品を補給してエンゼラを軽く修理した俺達は、シェロさんからの遺跡調査の依頼を受け目的の島へと旅立つ事になった。

 一夜を過ごしルーマシーを発つ。もとより一日の滞在であったので予定通りではあるのだが、別れを惜しむ者が二名。

 

「――――!」

「――!」

「――!――――!」

 

 甲板で話し込む瓜二つの星晶獣。ユグドラシル・マグナとユグドラシル本体である。ただ二人が話しているだけなのに何でこんなに和むのか。ぱっと見そっくりな姉妹が別れを惜しんでるようだ。

 本来ならもっとゆっくりさせてやりたいところだったが、出来ればエンゼラの本格的修理のため早めにガロンゾへと行きたい。申し訳ないが今回はこれでお別れだ。

 

「ありがとうな、こっちのユグドラシル。お前のおかげで助かったよ」

「――!」

「ああ、また来るよ。なんかお土産もって来てやるからな」

「――――!」

 

 ああなんて眩しい太陽の様な笑顔。ユグドラシルが居ると言うだけでルーマシーに永住したい。

 最後にまた来るからとユグドラシル二人が約束を交わし抱き合い、エンゼラがルーマシー群島を発つ。少しすると森の中から通常形態の巨大なユグドラシルが現れ手を振っていたので手を振り返す。きっと島の住人は驚いたろう。

 

「さて目的の島はガロンゾへのルート上だ。まっすぐ進めるな。到着は明後日ってところだろ」

「恐らくそれを知っていてシェロカルテ殿は、団長殿へ依頼を持って来たのだと思います」

「だろうね。報酬もそれなりだ、俺が断る事は考えてなかったなこれは」

「なんと言うべきか、抜け目が無いというのか……」

「だから信頼できるんだけどもな」

 

 ユーリ君も今後シェロさんとの付き合いが長くなるだろう。覚えておくといい、あの人はこっちが必要とする情報と依頼を予め知っている。情報源は知らんが。

 

「さ、遺跡調査の計画を練ろう。今回の様な事になりたくないからな。準備は怠りたくない」

「同感です。じゃあ会議室へ」

「いや食堂でいいよ」

「え、あ? しょ、食堂ですか?」

 

 エンゼラには勿論会議室はある。なんなら第一第二と複数ある。だが会議室使う程の事も普段起きないので物置となりつつあった。もっと言うなら計画立てる前にトラブルが起きるのでそもそも使う機会がなかったのだが……。

 

「使うのに荷物片付けなきゃだし、食堂なら場所も広いし、なんか食いながら話せるから」

「そ、そうですか」

「そうそう。ここは軍じゃないから、あんま肩肘張らないようにね。そいじゃ行こう」

 

 生真面目なユーリ君には徐々にここのやり方に慣れてもらう。そして常識人として俺の胃を護る役割を自然に任していきたい。

 

「そう言えばあの星晶獣の娘、メドゥーサでしたか? あの後姿を消しましたね」

「ああクッキー食べてご機嫌だったな」

 

 シェロさんにクッキー貰ってメドゥシアナと一緒にハムハムしてた姿は中々に癒された。黙ってれば可愛いものだ。その後満足したのか知らん間に居なくなっていたが、まあ心配せずとも元気にやってるだろう。

 そして廊下を移動しつつ手の空いてる人に食堂へ集合する様声をかけようかと考えていたら、突如俺の腋を小さな影が走り抜けた。

 

「うお、なんだっ!?」

「子供?」

 

 小柄な影はあっと言う間に曲がり角を曲がり姿を消した。子供のように見えたが、うちの団にハーヴィン族はいてもあんな子供はいなかったはずだが。

 

「いや待てよ、あの白髪……まさか」

「ウオラァッ! 待ちやがれぁっ!」

「逃がさないぜえ!」

「ヒャッハー! 追い込んでやるぜぇ~!」

「って、おいおい今度は何だ」

 

 そして続けて後ろからB・ビィ(マチョビィ)とフェザー君、ハレゼナがバタバタと通り過ぎていった。

 

「な、何事でしょうか?」

「いや、全然わからん。わからんが、さっきの後姿……まあ追うぞユーリ君」

「了解です!」

 

 どうも面倒な予感がする。あの後姿も激しく見覚えがあった。具体的に昨日であったあいつ。ユーリ君と共に後を追って廊下の突き当りへと向かう。

 

「密航者めおとなしくしろぁっ! 三人に勝てるわけねえだろっ!」

「やめなさいよ、勝つわよアタシは!」

 

 突き当りでは、マチョビィ達がドッタンバッタン大騒ぎして少女を取り押さえていた。そして取り押さえられていた少女と目が会うと、彼女は俺に助けを求めてきた。

 

「あ、あんた!? ちょっと、こいつら何とかしてよっ!!」

「……お前なんでいんの?」

 

 紐でグルグル巻きにされていたのは、誇り高き星晶獣(笑)であるメドゥーサ改めメドゥ子だった。

 

 ■

 

 ニ こいつは、(ヘビー)だぜ

 

 ■

 

 捕縛されたメドゥ子をそのまま食堂へと連行。皆集めてから作戦会議ついでにこいつについて話し合う事になった。

 

「あらま、本当にメドゥ子じゃない」

「メドゥ子ちゃん昨日ぶりー」

「メドゥ子って呼ぶなってば!」

 

 昨日なし崩しに仲間(任期不定)に加わったマリーちゃんとカルバさん。

 

「こいつ何時の間にか食糧庫でオイラのリンゴ食ってやがったんだよ。許せん」

「鼠かお前は……」

「だ、だって中に入ったら迷っちゃって……部屋に入ったら、リンゴとか置いてあったから、美味しそうだったし」

 

 それはお前のために置いてあるんじゃねえ。空の旅じゃ貴重な食糧だぞ、勝手に食うな。

 

「そもそもお前帰ったんじゃないのかよ。昨日いつの間にか居なくなってたじゃん」

「そ、それは……」

「あとメドゥシアナはどうした?」

「団長」

 

 食堂に遅れてゾーイとティアマトが現れた。傍らには小さく縮んだメドゥシアナの姿もあった。

 

「あ、メドゥシアナ!?」

「いつの間にか船底の陰に隠れていたよ。上から見ると普通にはみ出してたけどね。一応隠れてるつもりだったらしい」

「見ツケタラ大人シクナッタガナ」

「グァ……」

 

 省エネモードでも人間ほどもある巨大な蛇であるが、頭を垂れながら這ってくる姿はなんだかカワイイものがあった。

 

「んで、訳を聞こうか密航者?」

「あ、あうあう……」

 

 この感じだと本人は見つかるとは露程も思ってなかったらしいな。じゃなきゃここで言葉に詰まるとは思えん。言い訳一つも考えてなかったのかこいつは。

 

「ガァ……」

「アア? ソウナノカ?」

「あ、こらメドゥシアナ!」

「どした、そいつ何か言ったのか?」

「昨日楽シカッタカラ、コッソリツイテ来タッテサ」

 

 一気に場の空気が和んだ気がした。

 

「お前……」

「違うわよ!? メドゥシアナいい加減な事言わないで!」

「ガァー、グア、グロロ……」

「あーなるほどな。昨日マリー達が仲間になったって後で聞いて、タイミング逃したから自分もついて来たいって言い損ねたんだと」

「ちょっと!?」

 

 どんどん皆の視線が生易しくなっていった。

 

「ようは寂しかったのね、この子」

『まあ星晶獣とは孤独でもある。どこか島に根付こうが大体は眠りにつくから誰かと交流するでもない。そう言う感情を抱くのが居ても不思議ではないだろう』

「ちょ、ちょっと気持ちわかる……私も決まった島に居るわけじゃなかったし……何時も、一人ふらふらしてたから……結構寂しかった」

「……ボクもわかる。だ、団長と会えるまでずっと一人だったし。壊天刃だけが安心だったから」

「ヒトリボッチハ(o´・ω・)サミシイモンネ」

「勝手に話進めないでよ!?」

 

 だんだんと可哀そうな子扱いされだしたメドゥ子が憤慨している。

 

「別に寂しいわけでもないし、独りぼっちでも無いっ! アタシにはメドゥシアナもいるんだからね! ただちょっと……あれよ、アタシがついて行ってあげたらそこの馬鹿人間が嬉しいだろうと思っただけよっ!」

「なんでじゃい」

 

 何で俺が嬉しいなんて話になるのだ。別に嬉しくねえぞ。

 

「嬉しいでしょーが、普通星晶獣が仲間になるって言ったら!? 泣いて喜びなさいよ!」

「あ、うちもう星晶獣8体いてですね」

「何なのよもう、この騎空団っ!!」

 

 何なんだろうね。

 

「さてどうするね団長? 君の判断次第だが」

「なんだかこのまま追い出すのも可哀そうであります」

「可哀そうとか言わないでよ!?」

「ただ言って出てくような感じでもないであれ」

「そうだなあ……」

 

 星晶獣とは言え精神年齢=見た目の少女を仲間にするのもなんだかなあ。扱い難しそう。それに星晶獣がいる時点でおかしいのにこれ以上増えては最早過剰戦力どころの話ではない。俺は何を目指してると言うのだ。いや、イスタルシアだけどもさ。

 

「……しかたない。まあついて来たいなら来いよ」

「別について来たいとは言ってないでしょっ! ただあんたがアタシに来て欲しそうだから来てあげたんであって!」

「わかったわかった。嬉しい、嬉しい」

「はぷっ! あ、頭なでるなー! 髪乱れちゃうでしょー!」

 

 これ以上騒がれてもかなわん。適当に大人しくさせるために髪をワシャワシャしてやる。メドゥ子がウガウガしてるがもう無視しよう。

 ふとメドゥシアナと目が合った。蛇ゆえに表情は変わらないが、不思議と彼(彼女?)は俺に対して「この子を頼みます」と言わんばかりに深く頭を下げた。

 保護者かな?

 

 ■

 

 三 誇り高き星晶獣メドゥーサちゃんの朝

 

 ■

 

 なんやかんやあって【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】へと入団を果たしたメドゥーサ。本人は「頼まれたから入団した」スタンスを崩す気が無いので偉そうにしてるが、なんだか一部団員からの視線が生暖かい、優しいものを含んでいる事には若干の不満があった。

 それはともかく個室も与えられたメドゥーサは、そこのベッドで一夜を過ごしなにか新鮮な気持ちで新たな一日を迎えた。

 

「……ルーマシーの森じゃないわ」

 

 ここ数十年ルーマシー群島で過ごしていたメドゥーサは日々森の木々をベッドにし、またメドゥシアナに包まれての就寝が主だった。それが一転しフカフカのベッドで寝たのだから気持ちもフワつく。

 

「ンガァ~……」

「おはようメドゥシアナ」

 

 個室の真ん中でとぐろを巻いて眠るメドゥシアナ。省エネモードでもこの大きさの蛇が寝ていると威圧感があった。それでもメドゥーサは愛しい家族の頭を抱き寄せた。

 ここでキョロキョロ辺りを見渡す。昨日割り当てられたばかりの個室には、まだ何も私物の無いスッキリとした装いだ。当然遊べるようなものも無い。そして彼女は退屈が大嫌いだ。

 

「……よし、メドゥシアナ」

「グア?」

「探検するわよ!」

 

 なので彼女はまだよく知らないエンゼラ船内を探検する事に決めたのだ。

 まだ寝ぼけ眼のメドゥシアナを引き連れて、エンゼラ探検へと繰り出したメドゥーサ。彼女が今いる場所は個室の並ぶ廊下だ。空き部屋は多いがメドゥーサの周りの部屋はもう団員達の部屋となっている。ラムレッダ、フェザー、フィラソピラと名札が書かれており、仲間になった順に部屋が割り振られたのが良くわかる。

 ここで人間のプライバシーと言う事に疎く、己が星晶獣であるが故に我が道を行くメドゥーサは何か面白いものは無いかとかまわず他人の部屋を覗こうと思いドアノブに手を伸ばした。だが扉には鍵がかかっていたため中に入る事は出来なかった。

 

「なによ、生意気にも鍵付き?」

 

 そう言えば自分の部屋にも鍵が付いていた事を思い出す。これは団長の意向で個室には全て鍵をつけたためであり、女性団員が多くなりやはり男女互いに気にする事もあるだろうとエンゼラで各個人のパーソナルスペースになり得る部屋には鍵をつけてもらったのだ。

 扉だけを見てもつまらない事この上ないのでとっとと移動しようとするメドゥーサであったが、ある扉の前の名札を見て足を止める。

 

「リヴァイアサン……」

 

 しっかりとその名札には【リヴァイアサン】と書かれていた。メドゥーサはなんだか呆れてしまう。星晶獣である自分が仲間になる時、まず個室の希望を聞いてきた団長に対し不思議な男だと思ったが、まさか非人型であるリヴァイアサンにまで個室があるとは思わなかった。

 何となくメドゥシアナと似た体形のリヴァイアサンがどんな部屋にいるのか気になったが鍵がかかっているからと思いそのまま通り過ぎようとした。だがふいにリヴァイアサンの部屋の扉が僅かに開くのが見えた。ほんの数センチだが風か何かで開いたらしい。それを見て鍵がかかっていない事を知ったメドゥーサは、もしかしたら鍵を閉め忘れたのかもと考えた。相手が星晶獣であるならメドゥーサも用心するらしく、軽くノックをして反応が無い事を確認すると扉を開けて中を覗き込んだ。

 

「い、いないわね?」

「ガァー」

 

 中にはリヴァイアサンはいなかった。どうやら鍵を閉めずに部屋を出たらしい。

 扉から顔をのぞかせたままで部屋を見渡す。広さは自分の部屋と同じぐらいだった。だが家具らしい家具は無く、代わりに透明なガラスで出来た水槽が部屋の半分を占めていた。水槽には珊瑚が幾つか並べられており、窓から入る太陽光にキラキラと反射する水が美しく、思わずメドゥーサも「わ、綺麗」と声に出した。

 

『何をしている』

「うわあ……っ!? あいだっ!?」

 

 水槽に見惚れていたら後ろから声をかけられ、驚き仰け反ると反動で扉が閉まり首を扉と壁に挟んでしまった。

 

「あ゛い゛っだぁ゛ーーーーっ!? く、首がぁーーーーっ!!」

「グ、グガア……!」

『本当に何をしてるのだ……まったく』

 

 廊下で首を抑えてのた打ち回るメドゥーサを心配しオロオロするメドゥシアナ。そして彼女に声をかけた部屋の主リヴァイアサンは、一人コントを繰り広げるメドゥーサに呆れていた。

 

「きゅ、急に声かけないでよ!」

『誰かが自分の部屋を覗いていたなら誰だって声をかける』

「うぐ……!」

『それで何の用だこんな朝から』

「えっと……その」

 

 そう聞かれ言葉に詰まった。普通の人間相手なら強い態度でいられるが相手はリヴァイアサンだ。流石にそのまま「特に理由も無いけど部屋を覗き込んでた」とは言いにくい。だがリヴァイアサンはそんなメドゥーサを見て「ふん」と鼻で笑った。

 

『まあ大方部屋の扉が開いてたから何となく覗いたとかその辺だろう』

「わかってんのなら聞かないでよ!?」

 

 リヴァイアサンはお見通しであった。

 

『部屋に見られて困るようなものは無い。見て行きたいなら見て行け』

「え、いいの?」

『水槽が見たいのだろう?』

「あう……」

 

 図星だった。キラキラと光る水槽が実の所メドゥーサは気になっていた。

 

「じゃあ……ちょっとだけ見て行ってあげる」

『そうか』

 

 なんでそっちが上から目線なのか、と言う点には特にリヴァイアサンはツッコミを入れなかった。

 改めてリヴァイアサンに招かれ部屋に入ると入り口から見る以上に水槽が大きいと思えた。そしてさっきは気がつかなかったが、唯一木製チェストがある以外に家具は無い。水槽とチェストのみの部屋だった。

 

「これ特注よね? ふつうこんな水槽騎空艇に置かないでしょ」

『エンゼラが水に強い騎空艇だからな。水槽や生簀の設置が容易で助かった。ここと食堂と談話室に大水槽と生簀がある』

「これ床抜けない? 相当重いと思うけど」

『そこは当然補強させた。ガラスも水圧に耐えれる強化ガラスだ』

「あんたのためだけに?」

『まあそんな所だ。特に部屋の水槽は落ち着くための空間だからな。やはり水中は良く寝れる。ただ元々は談話室の生簀を使っていたが、自分で金を稼いで作らせた』

 

 元々は談話室に生簀があるのみだった。ザンクティンゼルでも使っていた生簀であったが、これが個室に入らなかったのだ。後にリヴァイアサンが個室にも生簀か水槽設置の要望を団長に出したところ、「ザンクティンゼルから使っていた生簀の維持費は出してやるけど、新しい水槽や生簀の設置と維持費は自分で稼げ」と言われリヴァイアサンは素直にそうする事にした。ここが同じ星晶獣(笑)でもティアマトと違うところだろう。現在部屋の水槽と食堂の水槽の維持はリヴァイアサンが行っている。

 

『部屋と談話室の物は完全に寛ぐために置いた。だが食堂の水槽は違ってな』

「そう言えばあそこの普通に水槽だったわね」

 

 メドゥーサは昨日捕らえられた時に食堂内に大きな水槽があるのを見た。慌ただしい中でも印象に残る岩や珊瑚が敷かれ熱帯魚が泳ぐ大水槽だった。

 

「けどあれ確かに大きいけど、あんた今の大きさでも入らないでしょ? 普通に魚泳ぎまくってたし」

『……ガラス水槽を購入する時よろず屋に相談をしたんだがな、話す内に普通のアクアリウムをやってみたくなってしまってな。普通に観賞魚用の水槽を買ってしまった』

 

 なんじゃそりゃ、言葉にしなくともメドゥーサとメドゥシアナの目はそう語っていた。

 

『今では如何にアウギュステの海を再現するかが実に面白くてな……色々試行錯誤している。ここの珊瑚も水槽に入れようと思ったがいざ入れると何か違ってな……結局個室のインテリアにした』

「もうただの趣味じゃないの……」

『いや趣味も馬鹿には出来んぞメドゥーサ。我ら星晶獣、永い年月の中趣味を持つと言うのも大事だと我は知った。アクアリウム、良いものだ……』

 

 リヴァイアサンから余生を満喫しだす初老の男の様な雰囲気を感じ取ったメドゥーサは複雑な顔を浮かべた。

 自然その物が形を得たとも言える星晶獣リヴァイアサン、それが人工的な水槽でアウギュステの自然を再現しようとするのはどうなのだろうか。どこか矛盾の様なものを孕んでいる気がするが言葉にできずモヤモヤとした気持ちがメドゥーサにはあった。

 

『今も朝の水温チェックをしてきたところでな。メドゥーサ、アクアリウムはいいぞ……お前もどうだ? 海水なら我がきっちりと調整してやる。手軽な小型水槽もあるぞ』

「あ、うん……今度話聞くわ」

 

 明らかに面倒な話になりそうな気配を察し、メドゥーサは生返事を返してそそくさと部屋を後にした。それでも後ろから「もう少しいいではないか」「食堂寄ったら水槽見て後で感想聞かせろ」とリヴァイアサンの言葉が聞こえてきた。

 

 ■

 

 四 そうだ、操舵室へ行こう

 

 ■

 

 リヴァイアサンの露骨な趣味布教活動から逃げ出したメドゥーサは居住区画を抜け出して廊下をうろうろとしていた。

 

「えっと……甲板出るのってどっちだっけ?」

 

 入り組んでいるわけではないのだが慣れないエンゼラの内部にメドゥーサは少し混乱していた。それでもなんとか通路に張られている案内板を頼りにしながら左へ右へ、上へ下へと移動していると途中【操舵室】と書かれた扉の前に出た。

 

「ここが操舵室だったのね」

「ガァ?」

「ちょっと気になるかも、行きましょメドゥシアナ」

 

 好奇心から今回も軽くノックをするものの、返事を待つ事なく彼女はズカズカと入っていった。

 

「誰か居るのー?」

「うひ……!? だ、誰……?」

 

 返事する間もなく突然入ってきたメドゥーサに驚き裏返った声を上げたのはセレストだった。椅子に座りながらローテーブルに置かれたティーセットで紅茶を入れている最中だった。

 

「ああ、あんただったの」

「ノ、ノックするなら返事待ってよ……」

「あんた声小さいからどうせ聞こえないわよ」

「ひ、酷いぃ……」

 

 あんまりな言い方にガックリと項垂れるセレストに構わずメドゥーサは操舵室の中を歩き回る。室内中央には舵があり、それを中心に可能な限り後方にまで透明度の高いガラス窓張られており、船内であっても視認性を高め操舵のしやすさを追求しているのがわかる。

 

「星晶獣が騎空艇の操舵ねえ……」

「えへへ……」

「褒めたわけじゃ……まあいいわ。それで操舵ってどうやってんのよ?」

「え? それは……こう、フワッと浮かせてギューンっと飛ばして」

「何一つ伝わらないんだけど」

 

 手を騎空艇に見立ててセレストが説明するが言いたい事は何一つ伝わらなかった。

 

「うぅーん……こ、言葉で伝えるのは……む、難しいよう」

「そこの舵使うんでしょ、それ説明できないの?」

「わ、私普通の操舵士と違って星晶獣的なアレで船動かしてるから……」

「星晶獣的なアレ」

 

 星晶獣的なアレ、とセレストは言う。同じ星晶獣であるメドゥーサだから何となく理解できるが、普通の人間にはピンと来ないだろう。具体的な説明は難しい、とにかく星晶獣的なアレ、なのだから。

 

「う、うん……だからこの舵は微調整とか、緊急時に使うの」

「あそう。それで普段は優雅にお茶飲みながら景色楽しんでるわけ?」

「ち、違うよう……!」

 

 メドゥーサの言い方にプリプリと怒りながら反論するセレスト。生憎全く怖くはない。

 

「こ、これは朝の目覚ましに……毎朝飲むの……。そ、それに航行中って結構気を使うんだよ……魔物とかも居るし、はぐれ小島との接触の危険性とか……」

「あー悪かったわよ。ごめんごめん」

 

 セレストが如何に操舵に気を使っているかを熱弁し始めた事で先程のリヴァイアサンを思い出したメドゥーサは、咄嗟に謝罪して何とか話を区切る事にした。

 

「……あれ? けど夜とかどうするのよ。あんた休み無しなの?」

 

 人間にとっての生活基盤である「衣食住」をそのまま彼女達星晶獣に当てはめる事は出来ない。”眠る“と言っても生命としての睡眠、星晶獣として活動を休止する睡眠とは別だ。そして生命としての睡眠を指す場合、星晶獣は睡眠をせずの活動は不可能ではない。かと言って睡眠をとれば気分的にも良いため、眠るかどうかは星晶獣本人の気分しだいだ。

 だがこの星晶戦隊の星晶獣達、何れも大なり小なりすっかり俗に染まった星晶獣であった。こうなると程度はあれど「飯も食いたい、遊びたい、寝たい」と普通の人間と同様の欲求を持つようになった。ティアマトが特に顕著である。

 

「え、えっとね……出力一定に保てば、私の力と合わせて殆ど自動操縦にできるの……。だ、だから別にここに居る必要はそこまでなくて……朝昼晩それぞれ高度とか航路を目視チェックしたら基本自由だから……ここに居たり、夜は寝たり、この後も朝ごはん食べるよ」

「……地味に凄い事してないあんた?」

「い、今まで騎空艇の姿で放浪するの慣れてたから……わりと簡単、かな……?」

「ふーん?」

「……空から急に星晶獣でも降ってこない限り避けれるよ……」

「わ、悪かったわよう」

「……も、もう止めてよね」

 

 急にマジトーンで呟かれてしまいメドゥーサも冷や汗を流した。ティアマトのクシャミも原因の一つとは言え、着地を失敗して墜落したのは事実。なのでその事を言われると流石のメドゥーサもばつが悪い。ここは退散することを選ぶ。

 

「そ、それじゃあ……邪魔して悪かったわ」

「う、ううん……あんまりここ人来ないから……ま、また来てもいいよ」

「気が向いたらね。ああっとそうだわ、こっから甲板って何処から行けばいいのか教えてくれる?」

「甲板? えっとね、そこ出て直ぐ右の階段下りたら直ぐ出れるよ」

「ありがと。それじゃあね」

 

 軽く手を振って部屋を出るとセレストも同じように手を振ってメドゥーサを見送った。

 

 ■

 

 五 うるせぇい奴

 

 ■

 

 甲板へと移動したメドゥーサが目にしたのは暑苦しい光景だった。

 

「朝一番の運動は目が覚めるぜ!」

「ええ、今日も実に爽やかな朝です」

 

 甲板でフェザーとユーリが二人組手をして汗を流している。少年二人が爽やかに言葉で語り合い、拳でも語り合う。格闘家であるフェザーの拳を受け、普段は剣での戦闘を行うユーリも見事に対応していた。

 

「ユーリは拳での闘いもいけるな!」

「そうですか? 白兵戦での訓練で剣以外の戦いも鍛えましたが、拳での闘いは不慣れでして」

「いいやお前は筋が良いぜ! 俺の拳がもっと語り合いたいと疼いてくる!」

 

 暑苦しいなあ……とメドゥーサは顔をしかめ思った。

 

「朝からうるさい奴等ね」

「む、お前はメドゥーサ」

 

 横から声をかけてきたメドゥーサにユーリが気が付き拳を止める。それに合わせてフェザーも動きを止めた。

 

「メドゥ子おはよう! いい朝だな!」

「メドゥ子じゃない! ちゃんとメドゥーサって呼びなさい!」

「そうか悪かった! ところでお前も拳で語り合わないか!」

「やらないわよ、朝からそんな面倒な事」

「そうか! じゃあ昼ならどうだ!」

「朝以外ならいいって事じゃない!」

 

 まったく声量の落ちないフェザーにうんざりしながらメドゥーサは彼から距離を取った。わざとらしく耳を塞いでみたが、フェザーの方は特に気にした様子は無い。と言うよりもわかっていなかった。

 

「それでどうしたんだ。俺達に何か用か?」

「別に。ただ起きたから船内探検してるだけよ」

「ああなるほどな。昨日迷ってたものな」

「うるさい! 昨日の事ぶり返さないでよ!」

 

 B・ビィ達に取り押さえられた経験は早く忘れてしまいたい過去だった。

 

「確かにエンゼラは広い。軍の戦艦に比べれば小振りだが、それでも騎空団として活動できる騎空艇だからな。俺も船に乗った時はまず部屋の配置を覚えたよ」

 

 仲間になってからユーリは部屋の配置を覚えるだけでなく、エンゼラの基本スペックまでも記憶した。いざと言う時新米団員で若輩者である自分が他の団員の足手纏いにならぬよう、臨機応変に行動できるよう心掛けての事だった。

 

「生真面目ねえ」

「当然の事だ」

 

 自信をもって答えるユーリ。これは軍属生活で染みついたと言うよりも、生まれついての生真面目さであった。

 

「それで甲板に居るのあんた達だけ?」

「そうだが?」

「なんだ、つまんないの」

「失礼な星晶獣だなお前……」

 

 自分達には全く興味が無い様子を隠しもしないメドゥーサにユーリは呆れた。

 

「なら拳で語り合おうぜ! それならつまらなくない!」

「やらないってば」

 

 そしてフェザーは変わらなかった。

 ここに居ても暑苦しい男と、生真面目な男しかいないと思い船内に戻ろうかと思ったメドゥーサであったが、そのまえに船内から一人出てくるのが見えた。

 

「お前等そろそろ朝飯だぞー」

 

 それは寝癖をそのままにしている団長だった。

 

「あ、馬鹿人間」

「んあメドゥ子? なんだここいたのか。部屋に居ないからもう帰ったと思ったよ」

「そんなわけないでしょ!?」

「それと馬鹿人間じゃねえから」

「うっさい、うっさい!」

「お前がうるさいよ……」

 

 団長を見た途端彼に駆け寄るメドゥーサに対して冗談を言う団長。メドゥーサはそれに怒りながら彼を馬鹿人間呼ばわり。小さな拳を振るうが団長はそれを全部手で軽く受け止めた。

 

「……メドゥーサ、あいつ団長殿に懐いてるな」

「そうなのか?」

「絶対本人は認めないでしょうけど、あれは多分懐いてます。それもかなり」

「そうか……仲が良いのは良い事だな!」

 

 仲が良いかと言われるとユーリは疑問であったが、少なくとも懐いているのであれば敵対する事は無いだろうと思った。ポセイドンの件もあってか、未だ星晶戦隊(以下略)に馴染みきっていないユーリは人智の及ばぬ星晶獣にはそれなりに警戒心を抱いていた。

 

「この……! よけるなぁ!」

「ふはは、小賢しいわ」

「くそぅ! この、このぉ!」

 

 だがまるで生意気な子供と男が戯れているだけの様な光景を見ると、そんな警戒心も薄れていくのをユーリ自身も感じた。

 

「ユーリ君達も適当に食堂来いよー」

「了解しました。汗を拭いてから向かいます」

「団長! 食事もいいがその前に朝の拳の語り合いをしないか!」

「お断りします」

 

 こちらも慣れた様子でフェザーの誘いを断り、団長はメドゥーサの相手をしながら船内に戻って行く。一方メドゥーサもすっかり船内探検の事を忘れ団長に付きまとう事にしたようだった。

 

「お前探したんだからな。エンゼラの中慣れてないんだから勝手に動き回るなよ」

「うっさいわねぇ、どうしようがアタシの勝手よ……隙あり!」

「あ、お前また髪を蛇に……いってえ!? てめえ、顔……顔を噛ませるな!? 両頬引っ張るなって、あだだだだっ!?」

「ほほほ! ざまあ見なさい! このまま愉快な面白顔にしてやるわ!」

「こ、この野郎……これでもくらえい!」

「ふがっ!? 鼻、鼻を抓……っ!? やめ、やめにゃしゃいよっ!!」

「そっちが止めろやぁ……!」

「そっちこそぉ!」

 

 二人の喧嘩の声は船内に入っても暫し聞こえた。食堂に着くまで二人は不毛な争いを続けるだろう。

 

「懐いてるなあ……」

 

 そしてしみじみと、ユーリは二人を見送った。

 

 ■

 

 六 みんなで食べよう

 

 ■

 

 なんかフェザー君達と戯れていたメドゥ子を回収して食堂へと到着。もう殆どの団員が揃っていた。

 

「うりゃうりゃ」

「やめいやめい」

 

 そしてメドゥ子は相変わらず俺にちょっかいをかけていた。

 

「食堂では暴れんな」

「あ、こら!」

 

 割れ物注意、ここには皿やコップがあるのだ。暴れるメドゥ子の両脇に手を通してそのまま持ち上げる。

 

「おーろーせー!」

「大人しくするならな」

「ダンチョウ(・ω・)オハヨー」

 

 俺達に気が付いて厨房から愛用エプロンを巻いたコロッサスがのそのそと現れる。すっかりエンゼラの調理担当だなあ。

 

「おうおはよう」

「メデューサモオハヨウ(*´ω`*)ゴハンデキテルヨ」

「……あんたが作ってるの?」

 

 エプロン姿のコロッサスを見て俺に抱えられたままのメドゥ子が不思議そうな顔をしていた。ちょっと気持ちがわからんでもない。

 

「ソダヨ(@・`ω・)v」

「コロッサスの飯は美味いんだぞ。お前も食えばわかる」

「リヴァイアサンと言いセレストと言い、あんた達程の星晶獣がなんて庶民的な……」

「これで驚くなメドゥ子、あれを見てみろ」

 

 メドゥ子を抱えたままで方向転換。その視線の先には食堂の机に突っ伏するドラフと星晶獣がいた。

 

「んにゃぁ~~……あ、頭痛い……」

「頭ガ……グラグラ、スル……」

「お二人とも、お水持ってきたです」

「にゃぁ、ありがと……ブリちゃん……」

「……コレ、【クリアオール】デ治セナイダロウカ……」

「状態異常じゃないから無理じゃないかな。そんな事言ってないで自制心を持つことだねえ」

「ウ゛ォ゛ォ゛……」

 

 それはブリジールさんとフィラソピラさんに看病されているラムレッダとティアマトの二人であった。

 

「……何あれ」

「昨日酒飲み過ぎてダウンしてる二人だ。自制の利かない我が騎空団筆頭ダメ団員と筆頭星晶獣(笑)の情けない姿よ……」

「星晶獣(笑)……(笑)ってそう言う……」

 

 同じ星晶獣としてティアマトの姿には思う所があるのだろう。哀れみか呆れか、何とも言えない感情がメドゥ子から生まれているのがわかる。

 

「メドゥ子、うちの騎空団は基本自由だがあんまふざけるとお前の扱いはあそこの星晶獣(笑)と同等かそれ以下になるからな」

「絶対いや」

「ガァー」

 

 めっちゃ気持ち籠ってる~。たまらずメドゥシアナまで応えてるし。そんな嫌か……嫌だろうなあ。

 

「はい、じゃあもう大人しくしとけよ」

「……わかったわよ」

 

 どうやら余程ティアマトの姿が報えたらしい。素直に返事をしたのでメドゥ子を下す。ティアマトも偶には役に立つようだ。反面教師としてだがな。

 

「それじゃあ飯食うか」

「あれ、料理どこにあんの?」

「それ説明しようと思ってお前探したんだよ」

 

 うちの騎空団は簡単なビッフェ形式である。最初の頃は普通に飯作って配ってたが一人前一々配膳するのが手間なのでもう自由に食い物取ってもらう形にした。人数分調理して長テーブルに並べるだけなのでその方がコロッサスも楽だ。

 

「好きなもん取って食えばいい」

「キョウハネ(*´ω`)ハムエッグトソーセージガアルヨ」

「それにポタージュスープに各種トーストもある」

「おやコーデリアさん」

 

 頭に三角巾を巻いたコーデリアさんが厨房から出てきた。

 

「コロッサスの手伝いですか?」

「普段から調理を任せてしまっているしね。だが彼は手際が良い、殆ど手伝う事は無かったよ」

「ウウン! (。╹ω╹。)スゴクタスカッタヨ!」

「そうかい? そう言ってもらえると嬉しいよ」

 

 まあコーデリアさんの料理普通に美味いからな。コロッサスとコーデリアさん二人に感謝して朝食を食うとしよう。

 

「あとその三角巾カワイイっすね」

「ああ、前アウギュステでね。時間がある時に買ったんだ。少し私には愛らし過ぎたと思ったのだが」

「いえいえ、カワイイし似合ってますよ」

「そうか……ありがとう」

「……何故突然後ろ向きに?」

「気にしないでくれたまえ、少しくしゃみが出そうになっただけさ」

 

 くしゃみか、なら仕方ないな。しかしあの三角巾いいな、今度俺も買おうかな……なんかペンギンっぽいキャラがプリントされてたけど、なにかのキャラクターだろうか。カワイイ物は俺の癒しなのだ。お金に余裕が出たらもっと色々と……いや今は考えないでおこう。

 

「さーて、飯だ飯。自分で装えるよなメドゥ子」

「馬鹿にしないでよ! 出来るに決まってるでしょ!」

「はいはい」

 

 だがメドゥ子はコロコロころがるソーセージに苦戦。どうも道具を使い慣れていないようだ。トングの様な簡単な物も使い方が危なっかしい。結局俺が皿に装う事になる。しっかりメドゥシアナの分もある。

 

「人の道具の使い方慣れような」

「うぬぬ……」

「ガウ」

 

 悔しそうにするメドゥ子をメドゥシアナが慰めていた。

 

「あ、団長おはよー」

「おはー」

「おう?」

 

 適当な席に着こうとしたら既に座っていたマリーちゃんとカルバさんに呼ばれた。丁度いいのでそのまま二人の前の席に座る。

 

「二人ともおはようさん」

「メドゥ子ちゃんもおはよー」

「メドゥ子じゃない!」

 

 メドゥ子と呼ばれカルバさんに吠えるメドゥ子。だが怖くない。しかし二人とも若い女の子のわりにソーセージを結構皿に盛っているなあ。

 

「二人とも結構食うねえ」

「トレジャーハンターは体力必要だからねえ。タンパク質、タンパク質」

「あと想像したより美味しそうだったからね。騎空団の食事って何て言うか……もっと雑なイメージあったんだけど」

「そう言う所もあるんじゃない? うちはコロッサスが料理好きで手抜かないからさ」

 

 ユグドラシルハウス時代からの調理担当を舐めてはいけない。まあ別に誰も舐めちゃいないけどさ。

 

「ほいじゃいただきます」

 

 冷める前に食ってしまおうとトーストにハムエッグを乗せる。俺は別々よりもこの食い方が好きである。

 

「…………」

「んあ?」

 

 口を開けて食おうとしたらメドゥ子がじっと俺を見ていた。なんだなんだ、食い辛いぞコラ。

 

「どしたメドゥ子」

「……これって乗せた方が良いの?」

 

 そう言ってメドゥ子がトーストとハムエッグを指さした。

 なるほど、こいつ知識としては多分トーストの様な一般的食事を知ってるが実際に食った事は無いな。星晶獣だしあり得る話だ。実際ティアマト達もそうであったのだから。

 

「メドゥ子ちゃん、自分の好きなように食べればいいよ」

「これ乗せたのは俺が好きだからな。別々でもソーセージとでも、なんならスープに浸しても……まあトーストではやらんかもだが」

「ふーん……」

 

 メドゥ子は少し考えると俺と同じようにしてハムエッグをトーストに乗せた。どうやら俺と同じスタイルで行くようだ。

 

「そいじゃ改めて、いただきます」

「い、いただきます」

 

 そして同時にパクリと一口。とろりとした黄身が流れ出すとトーストと絡み塩味に濃厚さが加わる。

 

「うむ、黄身が半熟でたまらん!」

「団長って黄身半熟派なのね」

「私はちょい固いの好きかなー」

 

 卵は単品でも良し、どんな料理でも使える優秀な子なのだ。硬かろうが柔らかだろうが美味しい、それが卵。ニワトリさんありがとう。

 

「どうだメドゥ子、美味しいか?」

 

 横に居るメドゥ子に料理の感想を聞くと返事は無い。何故なら彼女は答える事が出来なかったからだ。何故ならば――。

 

「ハム、ハムハム……!」

 

 目を輝かせてもしゃもしゃトーストを食べていたからである。

 夢中だ、夢中である。虜になっていると言ってもいいのではないだろうか。皿にはボロボロ欠片やらをこぼしているが気が付いていない。俺もマリーちゃん達もその様子を見守り食い終わるのを待った。

 そして程なくしてパンの耳まで食べ切ったメドゥ子は一言。

 

「美味しい!」

 

 それは満面の笑みであった。

 

「そうか……良かったな」

「え? ……あ、いやまあまあね!」

 

 それ前もやっただろ。誤魔化すの下手糞か。

 

「美味いなら素直に美味いって言っとけ。コロッサスも喜ぶ」

「んもーメドゥ子あんた食べてる時可愛いんだー」

「なんか癒されちゃったねえ」

「う、うるさい!」

 

 ははは、恥ずかしいのか顔赤くしてらあ。

 

「ほれ、口の周り汚れてるぞ、黄身塗れじゃねーか」

「うぐっ! は、早く言いなさいよ!」

 

 更に顔を赤くしてメドゥ子が布巾で口を拭く。拭くのだがどうも綺麗にならない、どんどん汚れが広がっているような気さえする。

 

「ああもう、貸せ布巾。見てられん」

「んぐ! ちょ、自分で拭けるわよ!?」

「いいから、口閉じてろ」

「や、やめ……! むうぅーーーーっ!!」

 

 ああ昔のジータを思い出す。あいつも自分で拭かせると汚れが広がったよなあ……なんか事あるごとに俺昔を懐かしんでるなあ。やだなあ、まだそんな歳じゃないのに。

 

「あはは、なんか二人とも兄妹みたいだねえ」

「偉大な星晶獣も形無しねえ」

「むーっ! うむーっ!?」

「動くなってーの、もう終わっから!」

 

 まあアイツはここまで暴れんかったけどな。

 しかしこれからメドゥ子を人間の生活に慣らせないといけない。久々の星晶獣新メンバー加入に色々と考えさせられる。それ以外にもシェロさんから受けた依頼もやらねばならない。落ち着いてガロンゾに行く事はどうも出来なさそうだ。

 

「ガアァー」

 

 そしてメドゥ子の隣でポタージュスープを舌でチロチロ舐めていたメドゥシアナが、不意に俺に「ご迷惑をおかけします」と言わんばかりにまた頭を下げた気がした。

 保護者かな?

 




うちはほぼ個人活動の細々とした騎空団(リアル)なので、今回の古戦場目標はペンギーでした。
それと密航者ネタは丁度「るっ!」で密航者ネタが出たから。

レオナお姉さん。フェイト見て、団長の人誑し!ってなる。

不意にポセイドンがンニ漁に参加して海の男になる展開が浮かぶ。

【ハンサム・ゴリラ】楽しみすぎマン


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