俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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アウギュステ後


スーパーザンクティンゼル人の軌跡Ⅱ
噂の騎空団


 ■

 

 一 とある島の小さな騒動

 

 ■

 

 ファータ・グランデ空域にあるとある小さな島。主にヒューマン、エルーン、ドラフが共存する村が一つあり、山には木々深く茂る。凶暴な魔物は少なく騎空艇を泊めやすい開けた平原もあり、そのため騎空艇で立ち寄りやすく住民達も明るく穏やかであるため騎空士の間では骨休め等で丁度良いと評判であった。

 人だけではなく、それこそ長旅で疲労する船を休ませるために――。

 

「はあ……」

 

 そんな平和な島のある村、そこにある飯屋。

 店主であるヒューマンの男性が店の椅子に座ってため息を吐いていた。明るく穏やかであると言う評判に反して浮かない表情。そして客一人いないがらんとした寂しい店内が彼の心の中を表しているようだった。

 時間は昼時、本来ならば肉体労働者達が腹を空かせ暖簾をくぐり、店内は客の声で賑やかになっているはずだった。

 何故こんなにも客が居ないのか。店の味が落ちたのか? それとも定休日? そのどれでもなく、店主は自分一人ではどうしようもない辛い現実に直面しただ落ち込む事しか出来ずにいたのだ。

 

「こんちわー」

 

 店主が一人落ち込んでいると、店の暖簾をくぐって入って来る者達がいた。店に客が来るのは当たり前であるが、店主がその来店に驚き顔を上げた。

 

「ここ飯食えます?」

「あ、ああ……」

 

 見ない顔が並んでいた。ゾロゾロと入ってきた者達。何の集団であろうか、店主はわからずにいた。妙にそれぞれのキャラクターが濃い。鎧姿の騎士団とも思ったが、シスター服のドラフにやたらと大荷物のエルーン、独楽に乗って移動するハーヴィン。そして謎の黒いナマモノ? だがその先頭にいるのは妙に印象が薄いと言うべきか、地味と言うべきか、なんとも説明に困る少年であった。

 

「旅の方達かな?」

「ええ、ガロンゾ行く途中なんですよ。休憩で立ち寄ったんですけど」

「そうか……いや、すまない。たしかにここは食堂だが、今まともな料理が出せないんだ」

 

 申し訳なさそうな店主の言葉に少年は首を傾げた。

 

「今日定休日ですか?」

「いや、そう言うわけではないんだ。だが今の私には君達を歓迎するための料理が出せないんだよ」

「うん?」

 

 ここで少年は自分達他に客が居ない事に気が付く。それだけではない、料理の香りも無いのだ。昼休みとしても食堂で食材の香り一つしない事に少年は疑問を持った。そしてもう一つ。

 

「……村に活気が無い事と何か関係が?」

「ああその通りだよ」

 

 少年は自分達が訪れた村に子供の遊ぶ声も、働く大人達の姿も見なかった事に気付いた。

 

「悪い事は言わない、直ぐに村を出た方がいい」

「何故かね店主?」

 

 店主の忠告ともとれる言葉を聞き、少年の仲間である騎士の一人が問いかけた。

 

「訳は言えないんだ……とにかくここの村の事は忘れてくれ」

「そう言われてもなあ、明らかに困った様子ですけども……あの、俺達これでも騎空団でして、何か困り事であれば解決しますよ」

「騎空団……?」

 

 一瞬店主は騎空団と言う言葉を聞いて何かを思案したが直ぐに首を横に振った。

 

「いや、よそう……迷惑をかける事になる」

「なんでい、なんでい。何か知らねえけどよう、話すだけ話してくれてもいいんじゃねえかおっちゃん」

「……今喋ったのはこのトカゲかね?」

 

 宙に浮く黒いナマモノ、存在自体が異質だったのだがそれが人語を話すのを見て店主も目を丸くした。

 

「オイラはトカゲじゃねえぜ」

「そ、それはすまなかった」

「それで? 何があったんだよ」

「何かは知りませんが、力になるであります」

「ははは、ありがとうねお嬢ちゃん。けど君のように小さな子ではとても……」

「小さな子……っ!? いや、ここはぐっと堪えて」

 

 何やらハーヴィンの騎士がワナワナと震えているが店主がそれに気が付くことは無い。

 

「ともかく村を出なさい、きっと直ぐに――」

 

 店主が何かを言おうとした時、外から絹を裂く女性の悲鳴が木霊した。

 

「なんだぁっ!?」

「しまった、もう来たのか! 君達、店から出てはいけない! 奴らが来たんだ!」

 

 店主が慌てて店の扉に鍵をかけた。そして怯えた様子で店の奥へと引っ込んでゆく。

 

「君達もこっちへ!」

「……団長殿、これは」

「うーん……」

「早く!」

 

 店主が店の奥の部屋に飛び込むと少年達にも来るように呼び掛けた。すると少年は何かに辟易した様子でため息を吐いた。

 

「とりあえず様子見で。はい、皆こっち」

 

 そして直ぐに少年は店主の言葉に従い他の仲間と共に店の奥へと入って行った。さて何事であろうか、少年が部屋の扉の隙間から外を覗いた。

 

「けっ! しけてやがるぜ、もうこれぐらいしかねえ」

「まあいいじゃねえか、野郎ども引き上げだぁっ!」

「また来るからなあ! 次はもっと金と食い物を貯めておけよっ!」

 

 店の前を通り過ぎていく集団。ヒューマン、ドラフ混成の荒くれ達。店の奥でも聞こえる下品な叫び声。それは明らかに善良な市民に害をなす存在だった。荒くれ達の叫び声に震える店主を見て少年は顔をしかめた。

 

「なるほどねえ」

 

 説明を受けるまでもなく、少年は全てを察した。それはこの場にいる仲間達もそうであった。

 

 ■

 

 二 陋劣なる者共

 

 ■

 

 その村に奴らが現れたのは一月程前の事であった。

 騎空士達の評判通り穏やかなその島に、その日一隻の船が降り立った。村の反対側に降りた船に村の者達が気が付く事はなく、ましてその船に乗っている者達がどれ程下劣な者達であるかなど知る由も無かった。

 そして船が来てから平和な村に悲鳴が響くのにそうかからなかった。

 船に乗っていた数十人の荒くれ達、奴らは近頃ファータ・グランデ空域で活動する盗賊団であった。島から島を移動しては略奪を繰り返す。どこで手に入れたのか盗賊団にしては出来の良い、素早く小回りの利く騎空艇で空の番人である秩序の騎空団からも逃れ、自分達より弱い物だけを狙う。正に絵に描いたような悪党であった。

 この盗賊団が来てからと言うもの平和な島の暮らしは一変した。盗賊団は村の反対側にある山に泊めた船をアジトにして定期的に村へと略奪をしに現れる。金、食料、酒を奪い山へと去る。それも一度に奪うのではなく何度かに分けて奪う。そして奪う量を徐々に増やして行き最後には村にある物全てを奪う、それがこの盗賊団の常套手段だった。

  真綿で首を絞めるように、じわじわと弱者から奪う。略奪以上にこの盗賊達は奪われるだけの弱者が更に弱ってゆき、もうやめてくれと自分達に許しを請う姿を見る事こそが目的なのだ。

  そして運悪く、新たな標的となったのがこの村だったのだ。

 

 ■

 

 三 だが島にはやつらが来た

 

 ■

 

「はあ、やっぱりそうでしたか」

 

 あの後少年達は店主の案内で村の村長の家へと訪れた。そこでは店主と同じく酷く落ち込んだ様子の村長から話を聞いていた少年達。一月前から現れた盗賊団に苦しめられ、食堂で料理もまともに出せない村の現状を聞き少年は特に顔色を変えていないが他の面々、特に騎士の姿をした者達は怒りを露わにしていた。そして同時に疑問を感じてもいた。

 

「助けを呼ばなかったのは何故ですか? この島からなら他の島に連絡をするのはそう難しくないはずですが」

 

 鎧を着た少年が疑問を口にすると、やはり村長は落ち込んだまま首を横に振った。

 

「疑問は尤もです。ですがあいつらは、ただの盗賊団ではないのです」

「と言うと?」

「奴らは恐ろしい魔物を一匹飼っています。それもただの魔物ではない。あれが暴れてしまえば村一つ簡単に無くなってしまうでしょう」

「なるほどねえ、つまり報復が怖いって事か」

「情けない話ですが正にその通りです……。助けの報せが届いたところで村が無くなっては意味がない。助けを呼んだと分かれば奴らは自棄になって魔物を使い村を焼き払うでしょう」

「だが村だけならまだいい……村には老人や女子供が多いから、その者達まで犠牲になると思うと……」

 

 村長と店主の言葉に少年達も納得した。見た所この村に戦えるものはいない。店主の言う通り老人や女子供が多く、数少ない若い男達で組織されたちょっとした自警団がいる程度。盗賊数人でさえ相手にできず、まして魔物が出てくるとなるとどうしようもなかった。

 

「あなた達もどうかここの事は忘れて下さい。大人しくしていれば何時かは奴等も去っていくでしょう」

 

 大人しくしていれば去っていく、果たしてそうであろうか? 少年は村長の言葉通りにはならないだろうと感じた。何故なら相手は弱者を嬲る事を楽しむだけの盗賊なのだから。

 

「おいこらあっ!!」

「ひい!?」

 

 不意に外でまたあの品の無い大声が聞こえてきた。村長が悲鳴を上げる。

 

「そ、そんな……どうしてまた!? 今日はもう来ないはずなのに!」

 

 店主と少年達も外の様子を慌てて見ると、帰ったと思ったあの荒くれ達が全員揃って村の住人を捕まえていた。

 

「外に一隻船が泊まってるがありゃあなんだ!? まさか助けを呼んだんじゃあねえだろうなあ!?」

「し、知らないっ! 俺達は何もっ!」

「惚けるんじゃねえっ!」

「ぐえっ!?」

 

 もう今日は盗賊達が来ないと思い外に出ていたために捕らえられた男性が暴力を振るわれていた。

 

「船……やべ、俺達の」

「見つかってしまったのか……皆さん、私の部屋に隠れて! 奴らに見つかったら貴方達にも迷惑が」

「あ、いやそれはいいです」

 

 自分の部屋へ少年達を匿おうとする村長。だが少年がそれを遮った。

 

「ひーふーみーよー……っと、結構おるな。で、どうすんの?」

「如何するもなにも、俺達の船の所為だし」

「では団長殿」

「まあそう人数要らないよ」

 

 少年が軽く頷くとすぐさま甲冑の騎士達を先頭にして少年の仲間達が数人を残し外へと飛び出して行った。突然の事に村長が驚く。

 

「何をっ! 外には奴等がっ!?」

「まあまあ、村長さん達外出ないでね。B・ビィ達は二人守ってて」

「おうよ、任せとけよ!」

 

 そして最後に少年も外へと飛び出した。店主がそれを引き留めようとするが残った少年の仲間に止められる。

 

「何をするんだ、このままでは彼等が!」

「安心しいおっちゃん、言うたやろ? ウチら騎空団やって」

「ただの盗賊程度じゃあの面子に勝てないわよ」

 

 焦った様子も無く慣れた様子で話す彼等の言葉を店主も村長も俄に信じられずにいた。しかし自分達では何も出来ない事を何よりも二人自身が知っていた。二人はただ狼狽え外へ出て行った少年達を見守るしかできなかった。

 

 ■

 

 四 ヒャッハーッ!!

 

 ■

 

「知らねえ知らねえとお惚け決め込みやがって、それならあの船の奴等はどこだ!? ここから見える船でこの村に来ねえわけねえだろ!」

「知らないんだ! あ、あの船も今日来てまだそう経ってないんだよ!」

「まさか匿ってるんじゃあねえだろうなっ!?」

「ひいっ!?」

 

 鋭利なナイフを捕まえた男性の首元へと近づける。喉に僅かに触れたナイフの冷たさを感じ男性は悲鳴を上げるしかできない。しかし誰も彼を助けない。助ける事が出来ずにいる。恐ろしさで動けずにいたのだ。

 最早神頼みで助かる事を願うしかない男性は恐怖で目を閉じた。

 

「お兄さん達、船の持ち主をお探し?」

「あぁん?」

「俺達がそうだぜ!!」

「ぶぎゃあっ!?」

 

 出し抜けに後ろから声をかけられ荒くれが振り向いた。すると自分に声をかけた者とは別の声がして、同時に顔面に凄まじい勢いで拳が叩き込まれ男性を捕らえていた荒くれは遠くへと吹き飛ばされる。

 

「な、なななっ!?」

「俺の拳でお前等の根性叩き直してやるぜ! さあ、語り合おう!!」

「な、なんだあ!? こいつはあ!?」

 

 拳を構えて叫ぶ少年の登場に荒くれ達が慌てる。

 

「今の内に、さあ早く建物の中に」

「あ、ああすまないっ!」

 

 もう一人現れた少年が解放された男性を急ぎ建物に入るよう促すと、男性は感謝しつつ近くの建物の中へと駆け込んでいった。

 

「やれやれ、盗賊なんてやめりゃあ良いのに……流行ってんのかね?」

「どうせなら拳で語り合おうぜ!」

「いや、それもどうなんだろうか……」

「な、なんだってんだこいつ等?」

 

 何やら疲れた感じの地味な少年、そしてやたら暑苦しい少年。何者かは知らないが自分達に楯突く馬鹿な奴等だと荒くれ達は思った。

 

「だが船の持ち主って言うなら都合がいいぜ。船には戻らせねえ、助けを呼ばれると厄介だからよお」

「あ、そっすか」

「それじゃあ語り合うか!?」

「話聞いてんのか!?」

 

 怯えるでもない薄い反応、そして拳を構えたままの少年達。荒くれ達は「もしかしたら俺達の方こそ、ヤバいのに絡まれたんじゃないのか?」と思い始めた。

 

「何だってんだ……まあいい、お前等痛めつけるぞ! 多少はやるようだが数じゃこっちが上だ!」

 

 この中でもリーダー格と思われる男が叫ぶと、他の荒くれ達はそれぞれが剣や銃を手に取り戦闘態勢に入った。

 

「まあそうなるよね」

「さ、さっきからなんだその薄い反応はよお……っ! ぶ、ぶっ殺してやるっ!」

「うぅ~~~~んにゃああっ!」

「だぼおっ!?」

 

 荒くれの悲鳴、今度は何だと荒くれリーダーが声の方を向くと、頭を巨大な酒瓶で殴打され倒れる仲間の一人が居た。

 

「うぃ~せっかくお店でお酒が飲めると思ったのに、まったく許せないにゃあっ!」

 

 少しひびの入った酒瓶を持ちながら目の据わったシフター服のドラフ。

 

「お、おい大じょうほっげええっ!?」

「おっとと……クリュプトンの回転が速すぎたね」

 

 また悲鳴。次は別の一人が空から降ってきた巨大な独楽にぶつかり吹き飛ばされていた。

 

「こ、独楽あぁ!? 何で独楽が空から、あひんっ!?」

「よそ見する暇があるのかね?」

 

 続けて一人が一撃で昏睡させられた。倒れた荒くれの背後には、眉目秀麗な騎士がいた。

 

「こ、これはもしかして、不味い展開なのか?」

「その通りだ外道っ!」

「ぐほえっ!?」

 

 今度は甲冑姿の少年が鞘に入ったままの剣で思い切り荒くれの一人を叩きのめす。

 

「あ、あわわ……次から次へと、まさか今度は俺っ!?」

「そうであります!」

「ひえ……っ!? って、あら?」

 

 目の前でどんどん倒されて行く仲間を見て慌てふためく荒くれの一人。行き成り呼ばれて悲鳴を上げるが、声の方を向いても姿が無い。いや、ふと視線を落とせば確かに居た。

 

「な、なんだ子供じゃねえか……」

「むむっ!?」

「ガキが舐めやがって、痛い目見させてやるぜ!」

「ガ、ガキ……うぐぐっ!! てやああっ!」

「あいったぁ!?」

 

 小さな騎士の逆鱗に触れたのであろう、一際強烈な一撃をくらって荒くれの一人がまた地面へと倒れた。

 

「まったく失礼極まりないでありますっ!」

「まあまあ、落ち着いて」

「プンプンでありますっ!」

 

 怒れる騎士を少年がなだめる。さて全滅とまではまだなっていないが、すっかり出鼻を挫かれ腰の引けた盗賊達。暫し「どうしよう……」と情けなく顔を見合わせ、結局倒れた仲間を回収して逃げて行った。

 

「お、覚えてろよっ!!」

「はいはい」

 

 ありきたりな捨て台詞を吐いて逃げて行く盗賊に呆れた様子で、シッシッ、と手を払う少年。

 

「なんて安い台詞。あれだね、何で悪党っていうのは揃いも揃っておんなじ台詞なんだか」

「あ、あんた達」

 

 すっかり盗賊の姿も見えなくなってからまだまだ怯えた様子で先程捕まっていた男性が現れた。他にもおどおどとして村長やら店主やら村の人間があつまる。

 

「あ、こりゃ申し訳ない。俺達が来たせいでご迷惑を」

「い、いやそれはいいんだ。助けてもらったのだから、だが君達早く逃げなさい」

「へえ?」

「やつらはまだまだ仲間がいる。それに魔物も……きっと全員で報復に来るぞ」

「そうだ。急げば助かる。貴方達はお強いようだが、あの人数にしかも魔物相手では無事ではすまないよ」

 

 この村の人間は良い人しかいないのだなあ、と少年は暢気に思った。

 

「いや、そうもいかないですよ」

「そうもいかないって君……一体どうするつもりかね?」

「悪党懲らしめるのは初めてじゃないんで、まあここは一つ俺達騎空団に任せてくれませんかね」

 

 なんとも見た目は頼りない少年に言われどうしたものかと悩む村長であったが、しかし先程少年の仲間達の活躍を見て「もしかして……」と希望も抱いていた。少年達を逃がしても村は無事ではすまないかもしれない。

  ならば彼らに賭けてみるか、ついに村長は盗賊が来てから初めて誰かに助けを求めたのだ。

 

 ■

 

 五 防衛戦という名の盗賊殲滅戦

 

 ■

 

 盗賊を撃退して少し経った頃、村の山側に面した所に一人の少年を中心として仲間達が集まっていた。

 

「ふ、ふひひっ! そ、そろそろ……うふふっ! 来るんじゃ、無いかなひひひっ!」

「ケヒヒ、来やがれぇ~有象無象どもぉ~ひゃははっ!」

 

 笑いながら銃と物騒な武器を持つ二人。ここだけ見ると盗賊には無い別の空恐ろしさがある。

 

「……あ、来た」

 

 どこか疲れた様子の少年がぼーっと山を見ていたと思うと、何かに気がついて呟いた。それを聞いて自由にしていた他の面々も武器を手にとって山の方を見た。

 程なくして山側からあの品の無い叫び声がより大人数のものとなって聞こえてくる。荒くれ達の乱暴な足音もドスドス鳴り響きその姿が見えた。

 

「うるせえー……」

「あの手の輩は声を張り上げるのだけは一人前だな」

「そうやって住民を怯えさせるとは……許せねえっ!」

 

 思わず耳を塞ぐ少年にハッキリと見下した様子で意見を言う騎士、そしてただ只管に内の正義の心を燃やす若者。

 少年達の目の前にズラリと並んだ盗賊団。恐らく全員で来たのだろう。ヒューマン、ドラフで構成された盗賊達はニヤニヤと今から甚振るつもりの少年達を見た。

 

「団長殿、例の魔物が居ないようです」

「あー……こりゃあ控えてるな」

 

 

  村長達から聞いた盗賊団が戦力としていると言う魔物、それらしい存在がいない事から恐らく最後の切り札として控えていると予想した。そして集団の中から一人取り分け屈強なドラフの男が前に出て来た。

 

「お前らかあ? うちのが世話になったって言うのはよぉ?」

「そう言うあんたは?」

「オレァここの頭やってるもんだ。どんな奴かと思えば、情けねえ……とんだうらなり野郎じゃねえか」

 

 頭を名乗る男は少年を見てニヤついた顔を更にニヤつかせて少年の事を嘲笑した。

 

「いや頭、周りの奴らがやばいんです」

「じゃああの坊主は何だよ?」

「いやよくわかりやせん」

 

 好き勝手な事を言う盗賊達に少年は別に怒るでもなく「やれやれ」とため息を吐いていた。

 

「はあ……まあ俺の事はいいよ。あんたら何楽しくて盗賊してるか知らないけど、止めときなよこんな事」

「あぁん!?」

「悪い事なんて続かないよ?」

「このガキ、状況わかってんのか?」

 

 こめかみをピクピクとさせ苛立ちを隠さない盗賊の頭。後ろに控える4、50人以上は居るであろう手下達を指して脅しをかける。

 

「お前らがどれ程つええか知らねえけどなあ! 勝てると思ってんのかこの人数に!? ああんっ!?」

「まあ負けるつもりも無いけど」

「こ、こいつ……頭どうかしてんのか?」

 

 大勢の盗賊達を見て怯えるどころか「早く帰りたい」感を隠す気も無い少年についに頭もキレた。

 

「誠意でもみせりゃ許してやったものを……かまうこたあねえ、全員ぶっ殺せ!!」

 

 頭が叫ぶと一斉に盗賊達が少年達に向かい襲い掛かった。全員が雄叫びと共に突進し、剣、ナイフ、銃、棍棒、それら凶器を使い数に物を言わせて少年達の息の根を止めようとする。

 しかし――。

 

「ふんっ!」

 

 瞬間、まるで埃が軽い風で舞い上げられるようにして盗賊達が吹き飛んだ。集団前方の数十人が吹き飛ばされたと思えば、呻き声を上げて盗賊頭の後方へとボタボタ落ちていった。

 

「……え?」

 

 ものの数秒で馬鹿な奴らと思った少年達を倒せると思っていた。そのはずだった。だが頭が後ろを振り向くと「あいった~」意識朦朧のまま情けない声を出して倒れる手下達がいた。

 

「何の信念も無い拳で俺達を倒せると思ったのかっ!」

「あんた達を倒して、奪った村のお酒を返してもらうにゃっ!」

「匪賊にかける容赦など無い、覚悟したまえ」

「あは、あはははっ!! 私も元山賊だが……いひっ! や、やり方ってものがあるだろうに、ひひっ! ははははっ!」

「怖いこわぁ~い盗賊さん達いぃ~? 今からサヨナラバイバイの時間だぜえーっ!」

「悪を討ち罪無き民を護る、これこそ騎士の本懐であります!」

「外道を許すわけにはいかない! 俺はお前達を倒す!」

 

 舞い上がった土埃が晴れると、そこには武器を構える少年達がいる。

 

「何だ、何しやがった!?」

「いや普通に皆でふっ飛ばしただけだけどね。まあ団員皆強いから……こんな酔払いでも」

「にゃひっ!? ひ、酷いにゃ団長きゅんっ!?」

 

 何がなにやらわからない。頭は酷く混乱していた。偶然だろうか? いやそうに違いない、きっとまぐれだ。根拠の無い事を自分に言い聞かせる。

 

「しょ、正面からは駄目だ、お前ら囲んで袋にしろ!」

「へ、へいっ!」

 

 一先ず正面から向かってはまた吹き飛ばされて終わりかもしれない。頭は多少考えて相手を取り囲んでから攻撃するように指示を出した。

 

「おやおや、向こうはまだやる気のようだよ団長?」

「面倒な人達……来る奴適当に相手してやって」

「了解だ! 存分に語り合おうぜっ!」

 

 二つの集団がぶつかり合い、状況が一気に乱戦へと移り変わる。一人に対して二人以上で襲い掛かる盗賊達。しかし所詮盗賊は盗賊でしかない、長く盗賊として活動していたかもしれないが統率された動きとは程遠い。我武者羅に向かってくる荒くれに対して少年達は微塵も恐怖を感じてはいない。

 剣で、拳で、銃で、酒瓶で――近寄り襲い掛かればあっという間に返り討ち。投げ飛ばされ、放り投げられ、吹き飛ばされる。盗賊頭の後ろには倒れた盗賊達の山が出来つつあった。

 これは如何にも不味い。このままでは全滅してしまう。ついに盗賊頭の脳裏に最悪の結末が浮かんだ。

 

(だ、だがまて俺達には“アレ”がある)

 

 しかしここで心を落ち着けた。腐っても長く荒くれ共を束ねてきた盗賊頭、よくも悪くも諦めが悪い。

 

「人質だ! 人質をとれ!」

「わ、わかりやした!」

 

 何人か腰の引けた手下に村に入り住民を捕らえる様に指示を出す。確かにそうすれば奴らも手出しできないと手下も素直に思ったのか、集団から離れて村へと侵入した。

 

「団長、何人か村に入ったぜ!」

「やると思った。護衛頼んで正解だったな」

 

 侵入に気付いた少年達だったが慌てるでもなく、追うでもない。問題無し、完全に脅威を感じていなかったのだ。

 

 ■

 

 六 前門の均衡少女、後門のマグナシックス&B・ビィ+α

 

 ■

 

 村への侵入に気が付いていながらあえて無視をした少年達。その事を知らず侵入した手下達は追っ手が無い事に気をよくした。

 

「へ、へへっ! あいつらあれで手一杯らしいぜ! 追ってこねえ!」

「今のうちに女かガキを捕まえるんだ!」

 

 始め適当に家に押し入って人質を捕まえてやろうと考えていた手下達。勢い良く一軒の民家の扉を開けたが不思議な事に誰もいない。気配すらなかった。

 

「い、いねえぞ!?」

「こっちもだ!」

 

 神隠しにでもあったのではないかと思うほど誰一人居ない。幾らなんでもこれはおかしい、手下達はオロオロするばかりである。

 だが一人「あ!」と声を上げて指差した。他の者もその方向を見ると、一人の人影が建物の影へと駆ける姿が見えた。「やはりまだ村人がいたのだ」と安心したと同時にムクムクと加虐心が湧き上がった。つまり村人は自分達の目を盗み隠れ潜んでいたと言うことだ。これでコケにされたような気持ちになり苛立っていた手下達は「待て待て!」と怒号を上げて影を追った。逃げた人影が細身で女に見えた事がより荒くれ達を興奮させた。

 建物の影に逃げた人物を追うと、そこは袋小路であった。奥には一人佇む少女と思われる人物が居た。

 

「やっぱり居やがった。袋の鼠だな、ぎゃは! 手間かけさせやがってよ、人質にする前に甚振ってやろうか?」

「馬鹿、頭が待ってるんだよ! 急ぐぞ!」

「わ、わかってるよ……おら、小娘来てもらうぞ! 他のやつ等も何処に逃げたか教えてもらうぜ!」

 

 ドラフの荒くれが少女に近づき華奢な二の腕を掴み引き寄せようとする。

 

「うっ!?」

 

 だがどうした事か動かない、自分の手が掴んでいるのは間違いなく小さな少女のはず。そのはずなのにまるで巨木でも掴んでいるかのように微動だにしない。

 

「おい何してるんだ!?」

「ちが、何だこいつ……っ!」

 

 仲間達からふざけているのかと思われ思わず否定する。だがその瞬間――。

 

「お前達はこの島の均衡を崩す」

「おふっ!?」

 

 視界が反転し少女を掴んでいたドラフは、一瞬で地面へと叩きつけられた。

 

「んなっ!?」

「お前達は巨悪ではない。だが悪であるお前達はこの島の人達を困らせる。私はそれが許せない。だから、戦う」

 

 手下達へと振り向きながら何処からともなく剣を取り出し二匹のワイバーンを生み出した褐色の少女。異質、あまりの異常さに咄嗟に男達は逃げ出そうとした。

 

「馬鹿メガ」

「うげえっぶう!?」

 

 振り向き駆け出した一人が突風で吹き飛ばされた。今度は何だ!? そう思う前に視界に飛び込んだ光景に皆愕然とした。

 

「いらっしゃぁ~い」

 

 にこっと笑うハリセンを持ったエルーン。だが荒くれ達は彼女に驚いたのではない。彼女の後ろに控える圧倒的な存在に足が動かなくなったのだ。

 

「ワルイコトシチャ(`・ω・´)ダメデショッ!」

〈どうする、大した人数じゃないぞ〉

「――――!」

「セレストがいれば【安楽】で一発だが、いま奴はエンゼラだからな」

「いいから片付けるわよ。村に入ったのこれで全部なんだから」

「はいです! こんな方達を許してはリュミエール聖騎士団の名折れです!」

「そうだねえ、手早くやって団長と合流しようか」

「さあてお前等? 覚悟はいいかよ、死にたい奴からそこに並びなあ!」

 

 魔物ではない。あれは普通人では到底かなわぬ存在。荒くれ達は悟った。袋の鼠なのは俺達の方だったのだと。

 

 ■

 

 七 最近噂の騎空団

 

 ■

 

 村に入った手下達が戻らぬ事に再度苛立ち始める盗賊頭。もう自分達の戦力は残り僅かである。せめてあの地味な少年一人でも殺せればいいものの、傷一つ付ける事が出来ず積み重なるのはやられて気絶した盗賊達の山のみ。

 

「何だってんだ……こいつらは、どうして勝てねえ!? 人数だってこっちが勝ってた、いやまだ勝ってる! 数で潰して終わるはずなんだよ!」

「数だけに頼った戦いの勝ちなんて続かないってば」

「せめて戦略と言うものを学ぶべきだったな盗賊!」

「うるせえ! お前等みたいなのはなあ、人質さえいりゃあ何もできねえんだ! 人質さえ居ればよお!」

「ふーん?」

 

 しかしその肝心の人質が居ない。村に入った手下はまだかと焦りを隠せなくなった盗賊頭。手下頼みで人質待ち、未だ自分自ら戦っていないところから盗賊団を纏める事が出来ても所詮その程度の男である事が既に伺える。

 最悪自分一人でも逃げ出そうかと考え出した時、村の方から現れる複数の人影が見えた。焦った盗賊頭はそれが村に入った手下だとすっかり信じ込む。

 

「ほ、ほら見ろ逆転だ! 人質、人質だぞ! さあお前等武器を捨てろ! じゃねえと……じゃねえと……」

 

 碌に人質の存在を確かめもせず強気になった盗賊頭だったが、現れた人影が近づき明らかに人の物ではないシルエットが幾つも見え、そしてその存在にゴミの様に運ばれる気絶した手下達に気が付くと言葉がどんどん尻すぼみになっていった。

 

「オウ、コッチハ終ワッタ」

「あいご苦労さん」

「まるで手応えの無い連中だったぜ」

「マチョビィ形態のお前で手応えある奴なんて存在するんですかねえ?」

「それじゃあ主殿、褒美にケツを」

「蹴らん」

 

 3頭の竜を従えるように現れた女性。黒鉄鎧の巨人。海蛇を思わせる水神。大地と緑を愛する少女。あらゆる武器をその四つの手で操る聖騎士。筋肉ムキムキマッチョマンの黒いナマモノ。

 

「なん、なんで……人質は……」

「悪いね……って言うのもおかしいか。まああんたらが卑怯な事すると思ったんで村の人皆避難してもらったよ」

「避難って、どこに……そんな場所」

「あそこ」

 

 少年が何でもないようにある場所を指さした。呆然としたままの盗賊頭がそちらを向くと、自分達が居る場所から離れた空に一隻の船が浮いている事に気が付いた。

 

「お前等の、船に……っ!!」

 

 盗賊頭の心に若干のヒビが入り折れそうになる。だが同時にもう訳が分からない状況が彼を自棄にさせた。

 

「ちくしょう、ちくしょう!! もうやってられるか! 村の奴等全員殺してやるっ!!」

 

 そういうや否や盗賊頭は一つの笛を取り出した。そしてそれを思いっきり、吹き鳴らす。美しくもなければ風情も何もないただの雑音の様な笛の根が島全体へと広がっていく。

 

「おいおいおいおいぃ~~~~! なんだあれえ! 結構ラブリィな奴じゃねえかあ!?」

「……なるほど、魔物ねえ」

 

 笛の根に応えるように、山の方から激しい咆哮が響いた。少年達が山の方を見ると唸り声を上げて一体の巨体が木々を吹き飛ばしながら山から飛び発った。

 

「ありゃドラゴンかっ! まだ語り合った事ないんだよな!」

「フェザー一応オイラドラゴンなんだけどよ? 前組手したよな?」

「それどころじゃないだろう……あのドラゴン、エンゼラへと向かっている」

 

 騎士の一人が言う通り山から飛び立った巨大なドラゴンは、真っすぐに空に浮かぶ少年達の騎空艇へと飛んで行った。

 

「どうだあ!? あれが俺の切り札だっ! 空に避難させたのは失敗だったな小僧! あそこじゃ助けにも行けねえだろ!!」

「笛で指示を出したようでありますが」

「くふふっ! ド、ドラゴンなんて魔物、普通ははははっ!! 捕獲どころか、ちょ、調教も出来ないはずなのだが……あははっ!!」

「ただの盗賊の戦力じゃないな。まあ考えるのは後だ」

 

 このままではドラゴンは船に取り付き避難させた村人諸共船を沈めてしまうだろう。

 

「団長殿が行かなくても、セレスト殿が何とかするのでは?」

「いや今操舵中だからそっちに集中させたい、俺やるわ。B・ビィ頼む」

「あいよ」

 

 少年ムキムキマッチョの黒い謎生物に声をかけると、それに応えたマッチョマンが少年を持ち上げた。

 

「な、何する気だよお前ら……!? ば、馬鹿か? 追いついた所で空なんだぞ!!」

「馬鹿はあんたにゃぁ、盗賊の親分さん」

「はあ!?」

「知らないようだけど、あたし達の団長きゅんは~……とおぉ~~~~っても、強いんだにゃぁ」

 

 千鳥足のドラフが言っても酔払いの戯言に聞こえるだろう。だがそれは事実なのである。

 

「いくぜ、舌噛むなよっ!」

「おうさ」

「だおらぁ……ッ!!

 

 マッチョマンが叫ぶと少年をまるで砲丸投げのように放り投げた。すると少年は正しく砲丸のようにドラゴンの元へと凄まじい勢いで跳んでいく。そして空中で体勢を変え跳躍の勢いをころし、丁度ドラゴンの目の前にくるタイミングで剣を構え現れる。ドラゴンも突如現れた人間に対し僅かに動揺を見せた。

 

「ただでさえ無理できないエンゼラだってのに……近づくんじゃねえっての」

 

 少年が何か言うが人の言葉などドラゴンが解するわけもない。「餌が自ら来た」程度に考えその大口を開け少年を飲み込もうとする。

 船の甲板には避難していた村人の何人かが居た。今にも食われそうな少年を見て皆が悲鳴を上げる。

 

「盗賊の駒なんて柄じゃねえだろ? 野生にお帰りっ!!」

 

 落下するよりも素早く、ドラゴンの口が迫る中でも冷静に少年は構えた剣を振りぬいた。

 その瞬間、ドラゴンのものよりも激しい咆哮に似た轟音を鳴らしながら、凄まじい衝撃波がドラゴンを飲み込んだ。そして錐揉み回転しながらドラゴンは抵抗する事も出来ず、「ギャオンッ!?」とどこか気の毒な叫びを上げつつそのまま島から何処かへと吹き飛んで行った。

 

「……ん、うまくいった」

 

 少年は衝撃波の反動を利用して後方で飛んでいた騎空艇へと飛び乗った。村人達はドラゴンに食われてしまうと思った少年が危なげなく船に降り立ったのを見て唖然とし、同じ光景を地上から見ていた盗賊頭と残った手下達は呆然と口を開けていた。

 

「気の毒なドラゴンね」

「死んではいないだろう、どこかの島で人と関わりなく生きてくれればいいのだがね」

「……何なんだよ」

 

 ドラゴンが吹き飛んで行った方向を見て雑談をする面々。そんな中で呆然としたままの盗賊頭はすっかり覇気は無くなり、戦う意思はもう微塵も感じられなくなっていた。

 

「何なんだよお前等はよお……。全員強すぎるにも程があるじゃねえか……明らかに寄せ集めみたいな面子でまとまりのある騎士団でも、軍人でもねえのに……なんでだ。ドラゴンもどっか吹き飛ばされて、わけわかんねえ……」

「知らないのでありますか?」

「は?」

 

 小さな騎士が自慢げに。

 

「聞いたことは無いかな? 強い集団に、地味な……ああいや、控えめな印象の少年」

 

 麗しい騎士が誇らしげに。

 

「オイラ達星晶獣を引き連れた騎空団」

 

 黒い子竜? が楽し気に。

 

「……おまえら、まさかあっ!?」

 

 最近噂の騎空団。それは二つ存在する。

 一つは異常なほどの強さを誇る一人の少女が団長の【ジータと愉快な仲間たち団】。そしてもう一つの噂の団。【ジータと愉快な仲間たち団】の団長同様に異常な強さを誇る地味な少年が団長であり、複数の星晶獣を従えると言われる騎空団。

 

「まさかの【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】かああっ!?」

「その通りだぜえ!!」

 

 【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】。その活躍もさることながら、頭の可笑しい団名でも有名な騎空団。

 

「……団名のせいで、全然オチがしまらんやんけっ!!」

 

 基本的にシリアスは似合わない騎空団である。

 

 ■

 

 八 目指せガロンゾへの道

 

 ■

 

 偶然立ち寄った島でまた騒動に巻き込まれてしまった。巻き込まれたのか首を突っ込んだのか少し判断に困るが、まあどちらでもいいか。

 俺達星晶戦隊(以下略)は、少し前に起きたアウギュステでの帝国とポセイドンによる大騒動を解決した後仲間も増やし船作りの盛んな島ガロンゾを目指す。アウギュステでポセイドンが生み出した魔物のせいでボロボロにされた俺達の騎空艇エンゼラを本格的に修理するにはガロンゾへ行くしかないからだ。

 アウギュステの職人さんにガロンゾまでは問題無い程度の修理をしてもらったが、それでも長旅でエンゼラの船体も疲労していく。用心して途中船を泊められる島があれば船を泊め、休み休み船をチェックしながら移動していた。

 そんな中でこの盗賊団騒ぎだ。平和で過ごしやすい島と聞いたのだがなあ。まあ村の人達を助けられたから良しとしよう。

 

「さあ出来たぞお!」

「うおおっ? いいんすかこんなに?」

「当たり前だ! あんたら村の救世主だよ! 奪われた食料も全部取り戻せたんだ。これでやっと俺も料理人として腕を振るえるってもんよ!」

 

 俺達の目の前にズラリと肉と山菜を主に使用した料理が並んだ。最初に出会った時とはテンションがまったく違う飯屋の親父さんがガンガン料理を作っては並べていく。

 

「俺の、いいや村の皆の気持ちだ! 金は気にしないでじゃんじゃん食ってくれ! ああ、それにこれもな」

「おほ~! これってもしかして……」

「村で作った酒だ! 他の島の酒に比べるとちとクセがあるがどうだい?」

「勿論いただくにゃぁ!」

 

 ああ酔払いが案の定。

 

「まったく……まあ御厚意に感謝して。お前等あんま羽目外し過ぎるなよ」

「よし食うぞ団長!」

「マズ乾杯ダゾ! 私ニモ酒ヲ!」

「はむ、はむはむ、はむっ!」

「うおおおっ!? ゾーイ、お前手加減しろ! オイラ達の分が消えるっ!!」

 

 ねえ聞いてる君達?

 

「ふひぃ……お、終わったよ」

 

 あ、セレストが来た。

 

「どうだった?」

「う、うん……大丈夫だった。何かされる前にドラゴンは居なくなったし……き、傷一つ無いよ」

 

 今日特に見せ場も無くそれでいて地味に活躍したセレスト。盗賊団全員と戦う事になるのはわかり切っていたので村人をエンゼラにのせて空中に避難させる案も彼女の提案である。

 アウギュステでの一見以来エンゼラに対して思い入れが増したらしいセレストは、島で船を休ませる度に念入りに船のチェックをしている。アウギュステの職人さんに簡単ながら船の修理方法のイロハを教えてもらい、それを忘れないように彼女はいつも気にしているのだ。

 

「ガロンゾまではこのペースだと2週間ってところかな」

「問題が無ければ、だがね」

「おや?」

 

 机にコトリと料理が置かれ置いた人物を見るとコーデリアさんだった。

 

「ふっ! ふぬぬっ!」

 

 それと両手を掲げて料理を乗せた皿を頑張って乗せようとするシャルロッテさんもいた。

 

「どうも」

「あわ……うぐぐ、面目ない」

 

 危なっかしいのでひょいと皿を机に乗せると、シャルロッテさんは若干悔しそうだったがそのままコーデリアさんと共に椅子に腰かけた。

 

「料理を確保しておいたよ」

「どもっす。相変わらずゾーイめっちゃ食ってんなあ」

「すごい食欲でありますなあ」

 

 ペースが速いわけじゃないが食う量がとにかく多いゾーイ。見てるだけで腹が膨れる。

 

「さて今後の事だが団長、明日島を発つとして次の停泊予定はどうしようか?」

「そっすねえ……とりあえずただガロンゾ目指すんじゃ金が無くなるんで、適当に依頼受けるためにシェロさんと会おうと思います」

「どこかで落ち合う予定があるのでありますか?」

「いやあの人なら連絡しなくてもひょっこり現れますよ。呼んでなくても現れるんだもの」

 

 ……いないよね? 思わず辺りを見渡してしまった。

 

「ポセイドンの収入が入る予定でも何あるかわかりませんからね。金はあっても困らんです」

「い、今は無くて困ってるしね……」

 

 はいそれは言わないでねセレスト。

 

「それと今日の盗賊団だがね」

「ああ、はいはい」

 

 切り札でもあったドラゴンを俺に吹っ飛ばされた盗賊団は、すっかり戦う気を無くし投降した。逃げるにしてもこっちには星晶獣が居て奴等の船に戻ったところで撃ち落とされて終わりである。マグナシックスに包囲されたら誰だってそうするわ。

 今はユグドラシルに頼み、何時かの元リュミエール聖騎士団の犯罪者スタイルで全員村の外で首だけ出して埋めてある。その上セレストの安楽で死んではいないがほぼ覚めない眠りについているのでまず逃げる心配は無い。

 ただ人数が人数なので村に置いておく事も出来ない。村の人も人の生首を見ていたくはないだろう。しょうがないので明日エンゼラの空き倉庫にでも詰め込んで別の島の警備隊か犯罪者の取り締まりをしていると言う秩序の騎空団にでも引き渡す。盗賊団が使ってた船は更に後日回収してもらえばいいだろう。

 

「んで、あの笛だけど」

「魔晶でしたか? 帝国の技術とは恐ろしいものであります」

 

 盗賊の親分がドラゴンを操った際に使用した笛。一見して普通の笛だったが、よくよく調べると装飾の様にして禍々しい力が封じられた魔晶が取り付けられていた。アウギュステであのヒゲの大尉ポンメルンが使用し異常な力を発揮した物と同じ、帝国によって生み出された魔の宝石。ポンメルンが魔晶でポセイドンを操ったように、その力であの親分はドラゴンを従えていたらしい。

 

「偶然手に入れたって言ってましたね」

「嘘か真かまだ何とも言えないがね。少なくとも魔晶技術の産物が出回っている可能性があるわけだ」

「あのような物が空に広がれば戦の原因ともなりましょう。そうすれば罪なき民が涙を流す事になる。やはり今の帝国は危険であります」

 

 魔晶の笛はゾーイの手で厳重に封印され魔物を操る力は無くなった。今はただの笛である。均衡を護る彼女としても魔晶技術は忌むべき物であるようだ。

 

「アウギュステでの件と言い帝国の動きが各地で更に活発化している。ガロンゾへ行くまでもだが、着いてからも油断は出来ないね」

「俺も向こうからすりゃお尋ね者だしなあ……」

 

 ばっちり真正面から戦ってポンメルン率いる部隊の作戦を失敗に追い込んだ俺達。ユーリ君も仲間になっているので恐らく【ジータと愉快な仲間たち団】と共に反逆者を連れた帝国に反抗する者として手配されているだろう。

 

「ガロンゾ行くにも苦労するわぁ……イスタルシアは遠いねえ」

「ふふ、遥か遠き幻でもある星の島。そう簡単にはいけないさ」

 

 確かにその通りか。なにも物見遊山でイスタルシア目指しているわけでもない。急げ急げと言ってたどり着ける場所でもない。せめて道中楽しまないとな。

 

「にゃはあぁ~~~~っ! こ、これは!? 確かにクセのある味でありながら、甘い木の実の風味が山の緑を彷彿とさせ目を閉じればまるで大自然の中に居るかのように思わせる!! 同時に夏から秋、季節の移り変わりの情景すら浮かぶっ! す、素晴らしいお酒にゃあ!」

「親父モウ一杯ダッ!」

〈我も頼む〉

「あいよ! いやしかし飲むねえ姉さん達!」

 

 ……あいつらは人生そのものが常に楽しそうだなあ。

 

「どこ行っても騒がしい奴等……」

「ふふ、賑やかでいいじゃないか」

「元気なのは良い事でありますよ」

「まあ否定はしないけども……ガロンゾ着くまでにまた仲間とか増えんのかねえ」

「ふ、増えるんじゃないかな? ……団長の事だから、た、多分また濃い人が加わるよ……きっと」

 

 濃い人かあ……。

 

「エンゼラの部屋とかも増やした方が良いのかなあ、出来れば修理だけで終わらせたいんだけど……」

「わ、私はしておいた方が……いいと思う」

「よろず屋殿やラカム殿達も仰っていたように、妥協せずそれなりの改修を行った方がいいと思うであります」

「私達みたいに……せ、星晶獣が仲間になる可能性も、あるかも、だし……」

 

 これ以上うぅ~? 無い無い、それは無い。ティアマト達じゃないんだから、星晶獣がこの空にどれだけ居るか知らんが出会ったからってそんなホイホイ仲間になる星晶獣がいてたまるかい。

 それとも空から偶然降ってくるってか? あっはっは、まっさかぁ~。

 

「そう言う事言うと……ホイホイ出てくるよ?」

「そんなまさか」

 

 マジトーンで言わないでセレスト。否定しきれなくなるから。

 

「コーデリア殿、この団でこのパターンはどう言う感じでありますか?」

「大抵こう時は、団長の希望する展開と逆の事が起きます」

「なるほど」

 

 なるほど、じゃないよシャルロッテさん?

 

「無いから! いいし! もうガロンゾ行くまでに仲間増えない方に賭けるよ俺!」

「ああ……だ、団長そんな事言うと……っ!」

 

 大丈夫だし! 

 絶対、大丈夫だしいーーーーっ!!

 

 ■

 

 九 待ち受ける者達

 

 ■

 

 空で噂の騎空団。彼らの行く先にはまだ見ぬ出会いが溢れている。

 

「ねえメドゥシアナ、次はどんな奴等を驚かしてやろうかしら?」

「グウゥ」

「そうね、私達星晶獣を見ればどんな奴だって腰を抜かして驚くわっ!」

 

 少年にとってそれは不運か幸運か。

 

「ねえねえ、マリー? 次はこの遺跡なんてどうかなあ? 殆ど調査されてないって場所で、すっごいスリリングだと思うんだけどさあ」

「……ねえカルバ? 遺跡に行くのは良いんだけど、肝心の目的は宝よね?」

「あはは、何言ってるのさマリー! 勿論スリルにきまってるじゃん!」

「パスッ! 私はパスッ!」

「いいからいいからぁ~。一緒にスリル味わおうぜえ~?」

「いーやーっ! あたしはお宝が欲しいんであって罠は避けたいのよっ!」

 

 尤も少年にとって幸か不幸かに関わらず胃痛とトラブルの種は増えるだろう。

 

「それで? ちなみに遺跡には何があるって言うの?」

「うーん、なんか昔の錬金術に関して何かがあるとかないとか」

「はっきりしないわねえ……」

「まあまあ、スリルがあれば良いじゃない!」

「よかないわよっ!」

 

 そして空の旅はそれも楽しんでこそである。 

 




少年漫画でたまにある、主人公たちがふらりと立ち寄った町で騒動があって、何者かわからない主人公とその仲間があっさり事件解決するあの流れをやりたくなったマン。
覇王大系リューナイトの一話とか好き。
次からはちゃんと主人公達の出番御多い?です。

騎空艇に乗り込んで人々を驚かす星晶獣……一体何デューサちゃんなんだ……。

コナンコラボ楽しいです。次はぜひ服部を出してほしいですね。平次は剣道やってるからな(剣道万能説)。そして称号に「もろたで工藤!」が付く。

キック力増強シューズが割と落ちるのですが、空の世界に阿笠博士の発明品が量産されていると思うとちょっと笑う。


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