俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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アウギュステ編 完


オレ達のソラは、何時もお祭り騒ぎ

 ■

 

 一 海の家で働く、海からの使者

 

 ■

 

「それじゃあ、今日からよろしくお願いいたしますね~」

「……」

「返事」

「……よろしく頼む」

 

 シェロさんの挨拶に無言を貫こうとしたポセイドン、横に立つ俺が一言急かすと極めて不本意そうな顔のままだが返事を返した。

 場所は再びシェロさんの海の家、そこで俺達はそこの新人従業員の挨拶に立ち会っている。この新しい従業員は、ドラフよりも屈強な肉体を持ち、健康的に焼けた肌、爽やかな薄い青色を含んだ灰色の髪を持つ男……つまりポセイドンである。

 

「なぜ水神である我がこのような……」

「おめーが怒りに任せて島沈めようとしたからだろうが、大人しく労働に従事せい」

「元を辿ればあの帝国の愚行が原因ではないか……」

「お前それ昨日散々俺達がお前にいったセリフだっつーの。ちゃんとそれで怒り鎮めてればこうもならなかったんだよ……お前も、エンゼラも……くそう」

「おのれ……、貴様ぐらいだ……星晶獣を脅してこんな事させるのは……」

「脅すとか言うな、ちゃんと話し合いだったろ」

「首を縦に振らねば命を奪われるのを話し合いとは言わぬ!」

「……ふ、ふふ……星晶獣は、死なないよ……ただ星晶獣だろうと、アンデッドになるから……わ、私の眷属になるだけ……一生ね……」

「なおの事理不尽ではないかぁ……っ!」

 

 己に降りかかった不幸に身を震わせるポセイドン。だが不幸なら負けてねえぞ……誇る事でもねえがな。

 エンゼラは既にオイゲンさんに紹介してもらったアウギュステの職人さんに修理してもらっている。暫く飛ぶ事が出来るようにしてもらう程度で上手く行けば今日の内には終わるはずとのこと。だが最終的にもっと本格的な設備がある島へ行って改修、強化を行う。逐一修理して騙し騙し使うよりも一気に強化した方が安全で安く済むとシェロさん達と話し合った結果である。安く済むと言っても船の改修作業だ。それなりの値段になる。そこでポセイドンだ。

 あの後俺とセレスト主導による実に穏やかな“話し合い”を経てポセイドンはシェロさんの海の家で従業員として働かせる事に成功した。大丈夫、話し合いです。セレストは何もしてないよ。大丈夫、大丈夫。

 そしてそこで稼いだ給料をシェロさんを通じてエンゼラの修理費用に全て回す事にする。ついでに海の家の修理費も出させる。どうせ星晶獣だから金なんて使わねえだろ。ティアマトじゃあるまいし。

 どの道騎空団の金庫からも金は出さないといけない。今回の修理費もすでに払った。ええ、ええ……結構なお値段でしたよ、ええまったく。この時点でシェロさんに金額の相談と借金をする。エンゼラ改修はほぼ決定事項となったのでその分もう金は借りた。シェロカルテ金融は無利息、しかも返済期限無しである。であるのだが、逃げられない。絶対に。THE・神出鬼没のシェロさん、たとえ同じ島に居たとして此方が先に島を発っても次の島に既にいるような人。勿論踏み倒す気など無いが、怖すぎである。万が一この人の気が変わるかと思うとぞっとする。利息無くとも俺の首輪は強く締まってゆくのである。きっと色んな依頼をまた頼まれるのだろうなぁ、あっはっは! 

 そしてエンゼラ強化案について、ガロンゾ島へ行くべきだとシェロさん、そしてラカムさんにも言われる。ガロンゾと言う島はファータ・グランデ空域で随一の造船の島であると話を聞けた。そこでなら希望通りの船に仕上がるはずだとも教えてくれた。

 

「そう言うわけだ。お前にはバリバリ働いて貰うからなぁ……」

「エ、エンゼラの……強化改修分……少なくとも、その分は出してもらわないと、ね……ふひ」

「ぐぅ……な、情けない……」

 

 ちなみに万が一ポセイドンが暴れる様な事があったらリヴァイアサンからリヴァイアサン(笑)へと連絡が即入る。それがわかった時点でポセイドンを俺は消し飛ばす。たとえ姿を暗まそうが見つけ出して消し飛ばす。絶対に消し飛ばす。

 

「……お前って、何と言うか……ジータと違う意味で無茶苦茶だな」

「俺は俺の胃に優しくない奴は許さないのです」

「そうかい……」

 

 ラカムさんは何とコメントをしていいのかわからない様子だった。

 

「シャツのサイズは大丈夫でしょうか~、一応大き目のサイズを揃えましたが~」

「問題はない。要用であればもう少し我自身のサイズを変える」

 

 上半身裸で腰巻きのみ、このままじゃいくら海の男らしくとも従業員としては公序良俗に反する。なので如何にも南国っぽい服(南国なんてアウギュステ以外に、俺は大して知らないが)を支給され着てるポセイドン。サイズは星晶戦隊の省エネよろしく、縮んでいるがそれでも2メートル近い。更に見た目が良いので妙に似合ってる。アウギュステで見かけたサーファーっぽい。俺もしたかったなぁ、波乗り……。

 

〈似合っているぞ、ポセイドン。立派な従業員だ〉

「黙れ、リヴァイアサン……」

「従業員、水デモ注イデ貰オウカ」

「ふんっ!」

「ブギャンッ!?」

「愚行、調子に乗るな」

「辛ッ!? 塩ッカラッ! ハ、鼻入ッタッ!!」

 

 ティアマトの馬鹿が調子に乗ったら水は水でも海水を顔面に食らっていた。従業員にあるまじき行為、だがティアマトだからな。うむ、許そう。

 

「馬鹿は放っておくとして、今日からしっかりやれ。海の家の修復作業も残っているからまずそれだ。お前が生み出した魔物が壊したんだからな、責任取れ」

「水神たる我が……こんな陋劣な……」

「オラアッ!」

「ぐほおっ!?」

「立派なお仕事陋劣とか言ってんなポセイドン! 世の大工さんに謝れっ! 馬鹿っ!」

「そ、そーだそーだ……! あ、謝れー……!」

「き、貴様……鳩尾に……っ!! その上、ここまで我に……ダメージを……っ!?」

 

 今日中に労働のノウハウ叩きこむからな。俺の借金返済のために働いて貰う。

 

「ある意味空で一番星晶獣に強い男だな……」

「ザンクティンゼルじゃオイラ達全員で星晶獣に対して最初のハードルを馬鹿みたいに上げたからな。ポセイドンもそれなり以上の大星晶獣だが、相棒にとっちゃ所詮(笑)扱いだよ。子供を躾ける感じだな」

「まったく、昨日の死闘が馬鹿みたいだぜ……。ジータと言い魔境か何かなのか、ザンクティンゼルって島は……」

「ジータと兄貴が例外なんだよ、ラカム……」

「わかってるよ、言っただけだ……」

 

 ジータと同列にしないでくれビィ、俺はあんな底も天井も見えない強さじゃない。

 

 ■

 

 二 最終夜のお祭り騒ぎ

 

 ■

 

「そっすそっす、そうやってムラ無く炒めるっす」

「……むう」

「あ、まだキャベツ入れちゃダメっす! それは最後っす!」

「何故だ」

「キャベツは直ぐに火が通るから、早く入れると炒め過ぎになるっす。肉、それで火の通りにくい野菜の順っすよ!」

「ふむ……」

 

 厨房から聞こえるファラちゃんとポセイドンの声。時間は夜、海の家は見事運営可能にまで復旧した。ポセイドンにもガンガン働かせたのでよりハイペースに進んだ。朝から頑張った甲斐があったぜ。

 すべてが終ってからシェロさんが俺達全員にお礼だと言って店で食事を出してくれることになった。昼の様にルリアちゃん達も調理に参加し、ポセイドンも今後厨房に入る事があるので料理上手なファラちゃんの監修で練習中。更に本来の従業員も呼んでの本格的な海の家のメニューが可能な限り机に並んだ。

 そんなわけで、もうどんちゃん騒ぎだ。うちの団だけじゃなく、ジータのとことシャルロッテさん達も全員集合なのだから当然だ。うちの星晶戦隊の中には、ジータんとこの面々面と関わりのあるやつもいる。と言うかセレストを除いたマグナシックスは、ほぼ関りがある。そこらへんもあって話が弾むのだろう。

 おいフェザー君にユーリ君、ルリアちゃんとゾーイと大食いで張り合うな、見えないのかあの積み重なった皿の山。

 そして、重要なのだがシェロさんはこの料理に関して──。

 

「団長さんは今までお忙しかったですからね~。ゆっくり気楽にお食事を楽しむ事も出来なかったと思いますので~」

 

 だってさ。ありがてえ……、これが海の家の料理か……。俺の知らない食い物が沢山あるなあ。やっぱシェロさんは天使だったんだね。

 

「首輪の紐きつぅなってもそれ言えるんか?」

「それはそれ、これはこれ」

「調子のええ奴」

 

 この食事を目の前にしてそれは些細な問題だよカルテイラさん。まあ、実際些細ではないが……この食事は“お礼”なのでお代は無し、その事を思えば……思えば……っ!! 

 

「おう、おぉ……っ!」

「だぁーっ! 突然泣くなやっ! びっくりするやろ、もぉーっ!」

「アウギュステでは、今度こそ……借金は増えないと思ったんすよぉ……っ!」

「ええい、泣くのやめいっ!」

「あうっ!?」

 

 頭をハリセンで叩かれ涙が引っ込んだ。

 

「男が借金増えたぐらいで何時までもメソメソすな! 慣れっこやろ!」

「慣れたくねえ……」

「たくもぉ……あ、それならええ話あるで!」

「いい話い~?」

「あんた、金銭方面に強いアドバイザーの一人でも団に雇わんか?」

「え?」

「んっふふ……ちょぉ~どなあ? 今回の騒ぎの影響でアウギュステの屋台引き上げる事にしたから色々島巡りしたいっちゅう、カワイイ商人がいるんやけどなぁ~?」

「……それって」

「何かと金銭以外でも、うまぁ~くフォロー出来る美少女エルーンの商人やけどなぁ~、シェロはん相手にも足下みられへんでぇ?」

 

 シェロさん、相手にも……だと? 

 

「やぁ~誰かに必要にされたらついて行くかもしれへんなぁ~」

「……カルテイラさん」

「おうっ!?」

 

 がっしりと両手を掴む。離さんぞ、絶対に離さんぞ。

 

「貴方が必要だから、俺の団に来てください」

「ちょ、その誘い方はちょっと、予想外……あんた、あ、あかんて……」

「俺と、一緒に、来てくださいっ!」

「わ、わあーっ!! わかった、わかった! 行くから手え離しいーっ!」

「嘘とか無しですからねっ!?」

「こんなつまらん嘘言わんわっ! だ、だからはよ……手え……っ!」

「常識、ツッコミ、交渉人枠来た……っ!」

 

 天を仰いでガッツポーズッ! アウギュステで別れてもう合流は無いと思っていたので諦めていたが、実の所カルテイラさんがいた間の旅は実に過ごしやすかった。何かとハッキリ、キッパリツッコミを入れてくれる人間は居てくれると助かる。

 

「たく……そんな気無い癖に妙な事しよる。あーもー顔熱……っ!」

「仲間にする気はありますよっ!」

「そう言う意味ちゃう、あほたれっ!」

「あだっ!?」

「部屋は前使わせてもらったとこでええから、明日からまた使わせてもらうでっ!」

 

 なんかカルテイラさんが怒って行ってしまった。

 

「何に怒ったんだ……」

「どうしたんだ団長?」

「ああ、フェザー君……ユーリ君は?」

「途中で顔が青くなってトイレに行ったぜ!」

 

 言わんこっちゃねえ。フェザー君の乗りに毒されるの早すぎるぞユーリ君。

 

「で、どうしたんだ!」

「いや、なんかカルテイラさんが改めて仲間になってくれたんだけど、手握ったら怒って行っちゃって」

「なるほど……多分拳で語り合えば気持ちが通じあって怒った理由がわかるぜ!」

「それは絶対不正解なのはわかる」

 

 まあいいか、仲間になってくれたんだし。

 

「……ふん!」

「あでっ!? な、なに……え、ジータ?」

「ふん、ふん!」

「ちょ、何っ!? 突ぜ、いってぇっ!? ジ、ジータ膝小僧蹴るのやめ、やめっ!」

「ふんふんふん!」

「あだだっ!?」

 

 な、なんなんだコイツ突然!? いきなりそばに現れたと思ったら的確に俺の膝小僧をっ! 

 

「……」

「あ、コ、コーデリアさん、いだだっ!? ちょ、たす、助けて……っ!」

「……あはは!」

「あははっ!?」

 

 え、なんか笑って去って行ったんだけどコーデリアさん!? ちょ、どゆこと!? どう言う反応なのあれ!? 

 

「ふん! ふんふん!」

「いでででっ!? や、やめーっ!?」

 

 膝小僧が、膝小僧がああっ!? 

 

 ■

 

 三 聖騎士団、裏の顔

 

 ■

 

 団長が無意識にカルテイラに対して誑しっぷりを発揮し、彼女を惑わしているのを見て何となく不愉快になったコーデリアは、同じく不機嫌になったジータに膝小僧を執拗に蹴られ続ける団長に助けを求められるも「あはは」と笑ってその場を去ってしまう。

 

(まったく……我ながらなんと大人気ない)

 

 ざわつく心を静めるために夜風に当たりに行く。騒がしい団欒の中から離れ海の家の外へ。外にも観光客が寛ぐ事が出来るスペースはある。その中で彼女はビーチパラソルと共に並ぶビーチベッドを見つける。本来は横になるところであるが、今はただそっとそこに腰かけた。

 

(甲冑を脱いでいるとは言え、本来なら水着でも着て横になりたいものだがね)

 

 宴の席でまで甲冑に身を包む事は無く、それらは船に置いてきた。だがそれでも騎士として必要最低限の武器を携帯しシンプルで凡そ女性らしいとも言えない服のままで、あまり常夏のビーチで過ごす格好ではなかった。だが夜の海から優しく吹いてくる夜風に当たり、昨日と打って変わって静かで穏やかな波の音に耳を傾けるとざわついた心も幾分か落ち着いてきた。

 それでも彼女の心の中では、未だ治まらぬ思いがある。

 

(明日、団長達はここを発つ。私もバウタオーダ殿の船に乗ってリュミエール聖国へ戻りシャルロッテ団長に関しての報告を済ませねばいけない。だがその後は……)

 

 ついに終えた【正義審問】。その結果、つまりいかにシャルロッテ・フェニヤが未だ変わらずリュミエール聖騎士団の団長として相応しいかの報告にコーデリアは戻る必要がある。それで彼女の任務は完全に終わるのだ。

 そしてその後はどうなるか。恐らく新たな任務を任されリュミエール聖騎士団内部で騎士としての志を忘れた者を告発、粛清する日々へと戻る。それこそが、リュミエール聖騎士団遊撃部最後の切り札である彼女の役目。

 だが彼女自身の想いは──。

 

(……願わくは、彼と共にまだ旅をしたい)

 

 あの日悪の姦計によってゴブリンの巣へと取り残され、危うくブリジールと共にゴブリン共に嬲り殺しに遭う寸前、颯爽とは言い難いが頼もしくも普段通りに現れたのは団長だった。我ながら単純だとコーデリアは自傷気味に笑う。だがそれは騎士団に身を置く者として許されぬ思い。

 

(まるで恋物語の少女のようだ。こんな事で私が悩む事になるとは思わなかったが)

 

 止む事のない団欒の声。あの中にもう自分が入れないかと思うと酷く寂しい思いになる。彼だけではない、あの団の仲間全員といる時間はとても楽しかった。遊撃部のエースとして受ける重圧、容姿端麗な男装の麗人である事への期待。騎空団の中ではそんな物は一切なかった。

 だが我が儘が許されるはずもなく、彼女自身もう諦めるべき事だとわかっていた。

 

(そうとも、今生の別れでも無いのだ……それに一時の夢と思えばまだ)

 

 その様に彼女が全てを割り切ろうと思った時であった。

 

「実に良い夜ですなあ」

(なっ!?)

「おっと、そのままそのまま。振り向かずに」

 

 不意に後ろから声を掛けられた。知らぬ声、団員のものでもジータやその仲間達のものでもない。咄嗟に腰にかけた護身用の短剣に手を伸ばしたがそれよりも早くに肩に手を置かれ止められた。

 

(肩に手を置かれただけで……動かぬっ! それだけではない、一切気配を感じさせなかった……っ!)

 

 振り向く事さえできず、相手の顔も見えない。声からして男であるようだが、それ以外の事がわからない。団長達のいる所からは少し距離があった。助けを呼ぶか──コーデリアは緊張した様子であるが、後ろから聞こえる声はとても穏やかで落ち着いたものだった。

 

「ご安心ください、貴方に危害を加える気はありません……リュミエール聖騎士団のコーデリア・ガーネットさんですね?」

「……何の事だい?」

「ああ、隠さなくて結構。念のため確認をしただけ、私もリュミエール聖騎士団の者です……遊撃部、最後の切札のお噂はかねがね」

「ならば名と所属、階級を名乗りたまえ」

「申し訳ございませんが軽々しく言う事は出来ません。それは貴方も同じでしょう?」

 

 男の言う事は当然だった。向こうは既に自分の事を知っているようであるが、遊撃部である彼女も自身の所属を軽々しく口にする事は無い。だがつまり、それは男も遊撃部関係者である事を予想させた。

 

「……何が目的か」

「そう緊張なさらず。ただ指令を伝えに来ただけです」

「指令だと?」

「そうです。貴方とブリジール殿への」

「ブリジールにも?」

「ふっふっふ……見せていただきましたよ。【正義審問】、実に見事でした。私もシャルロッテ団長殿の言葉、心に響きました」

「見ていたのか……しかし、一体どこから」

「ほっほ、それは秘密です……さて実は【正義審問】を終えたならば渡すように頼まれていた指令があります。貴方達は彼の騎空団へと引き続き同行して頂きたい」

(【正義審問】を終えたなら……? 遊撃部のトップは予想していたと言うのか、ここで【正義審問】を終える事を……?)

 

 相手の穏やかな口調と裏腹にコーデリアの緊張は高まった。更に男の謎が深まる。

 

「彼の騎空団……星晶戦隊の事か」

「ええ、今回の事で更にその異常さが際立った騎空団、帝国にも目を付けられあの騎空団は更に騒動の種になる事でしょう。生半可な団員ではあの騎空団に所属するどころか後を追う事もできない。しかし幸いにも貴方とブリジール殿はあの騎空団へ在籍していた。既に勝手は知っているはず」

「確かにその通りだが……」

「そして目的ですが……貴方があの騎空団にいる事で更に炙り出す事が出来るかもしれません」

「炙り出すだと……? もしや」

「ご想像の通りかと。以前貴方とあの少年の手で改めて捕らえられた男から更に情報を得ました」

 

 コーデリアの脳裏に自分を恨みブリジール諸共亡き者にしようとした元リュミエール聖騎士団の裏切者の姿が浮かぶ。

 

「残念ですが……やはり団内で奴と通じていた者は少なくなさそうです。奴が捕らえられたと知って姿を暗ました者が出ております。そして、その中には帝国とも通じている者がいた可能性が出てきました」

「なんと……それでは」

「はい、貴方にはそれらの裏切者を捕らえて頂きたいのです。どうやら、あの少年の下へはそう言った騒動も集まるようですからなあ」

 

 本人が居たら泣いて否定したろう。しかし実際そう言った騒動が集まるので結局否定しきれず泣くだけになる。コーデリアはそんな光景が容易に想像できてしまった。そしてそれと同時に──。

 

(彼と、まだ旅を続けれるのか……)

 

 不謹慎と思いつつもまだ彼らと共にいる事が出来ると思いその事を喜んでしまった

 

「意中なのは、あの少年ですかな?」

「うっ……! な、なにをっ!」

「いやいや、失礼致しました。微笑ましいもので思わず」

「く、くう……っ!」

 

 言葉の通り、微笑ましそうに笑う声が聞こえる。コーデリアは図星であるゆえに赤面し言葉に詰まる。

 

「さて、あまり時間をかける事もできません。こちらを」

 

 後ろから肩越しに二つの封筒を差し出された。それを受け取り表を見ると確かにリュミエール聖騎士団が頻繁に使用する封蝋が押されていた。

 

「指令の詳細はそちらに」

「もう一通の方は?」

「シャルロッテ団長へとお渡しください、あの方にも炙り出しに協力していただくので」

「シャルロッテ団長にも? ではまさか……」

「ふっふっふ……実に愉快な騎空団ですなあ。どうせなら愉快なのが良い、あの騎空団でなら辛き道のりも愉快なものへと変わるでしょう」

「……ああ、確かにその通りだよ」

 

 大変な事ばかりだった。普通の騎空団、それどころかリュミエール聖騎士団でもここまで連続して騒動が起きる事は無い。それも星晶獣もからむ大騒動。なのにどうしてか、それすらも愉快に終わらせる。それがあの団長なのだ。

 

「さて貴方もあの輪の中へ戻られると良い。宴は楽しんでこそ」

「貴殿は?」

「私は消えるとしましょう、何かと忙しい身ですので……今回の【正義審問】については、こちらで処理しておきます。それではまた何時か」

「あ、待ちたまえ……っ!」

 

 後ろから気配が消えて急ぎ振り返った。だがそこには誰もおらず痕跡すらなかった。まるで初めから居なかったかのように。

 

(全てを見透かしたような語り口……そして気配一つ感じさせない技術、遊撃部関係者だとしても、かなりの腕前……何者だったのだろうか)

 

 リュミエール聖騎士団裏の顔とも言われる遊撃部、その全貌は遊撃部に所属する団員でも知る者は少ない。遊撃部、最後の切り札と言われ【正義審問】において絶対的信頼を持つコーデリアでさえも自身へと指示を出す者達の顔を知らぬ。

 

(遊撃部の上の者である可能性もある、か……)

 

 考えても答えは出ない。今は言われたようにあの騒がしくも愉快な輪の中に戻るとしよう、そう思いつつコーデリアの足取りは先程と違い軽やかになり戻って言った。

 そして、そんなコーデリアを見送る視線。

 

(ふむ、どうやら彼の騎空団との邂逅は、彼女……いえ、彼女達に想像以上の影響を与えたようですねえ)

 

 夜の闇にまぎれる鋭い視線、その気配に気付けた者は果たして何人であろうか……。

 

(どうやら、あの少年と少女は私の存在に気がついたようですな……)

 

 戯れる団長とジータ、二人はまるでこの闇に隠れる者に気が付いていない様に見えるが、ハッキリとこの存在に殺気を放っていた。

 

(まるで歴戦の古竜を目の前にしたような威圧感、しかし敵意は無い、が……ふ、ふふ、老骨ながら中々に心揺さ振られるものだ。滾りますなあ……)

 

 額には冷や汗、そして口には笑みを。

 

(しかしザンクティンゼル、やはりあの島ですか……ふふ、まったく恐ろしい弟子を育てましたなあ)

 

 その者は満足したのか、今度こそそこから去って行く。気配も、痕跡も、音も、闇へと溶けた。

 

 ■

 

 四 キミとオレと

 

 ■

 

「……消えたな」

「うん」

 

 何やら遠くから殺気をぶつけられたので少し意識を向けたら、そう経たずに気配は消えた。ジータも気が付いていたようで同様の事をしたようだ。

 

「まあ明らかな敵意は無かったから誰かの関係者かな……まあいいや」

「そだね」

 

 そんな事よかコーデリアさんに見捨てられ俺の膝小僧のダメージが加速した。いい加減膝小僧が粉砕しかねないのでジータを何とか宥めて止めさせた。

 

「つーんっ!」

「で、まだ拗ねてんだな……」

「つんつーんっ!」

「それじゃあ怒ってる理由わからねえんだけどさ……」

「つんつんつーんっ!」

「……あとそれ口で言うのやめろ、馬鹿みたいだから」

「ひどいっ!?」

 

 拗ねてますアピールで自分でつーんっ! とか言うなよ。子供か……ああ、子供だったな。所詮十代の若造だ。俺もだけど。

 

「お兄ちゃんが私に優しくないよう……」

「お前が俺に厳しいんだよ、いい加減機嫌直せ」

 

 海にせり出したテラスでお二人用のベンチソファーに座る。隣のジータは未だに不機嫌気味だがさっきよりはマシになった。横に置かれた机に料理を並べ、それを食わせたりして機嫌をとった。

 

「食べ物なんかで懐柔されないもーん」

「じゃあこのかき氷とやらはいらんな」

「かき氷?」

「氷を砕いて甘~いシロップとフルーツをトッピングした南国らしいスイーツだが、いらないなら俺一人で食うとする」

「わ、わ! 何それ素敵、美味しそう!? いる、欲しいですごめんなさい!」

 

 ちょろいぜ。一匙すくってジータの口に運ぶと文字通り食いついて来たので成功である。ついでに俺も食べる。

 

「冷たあ~い! 甘~い!」

「うむ、美味い」

 

 ただ氷を砕いてシロップをかけただけだと言うのに何と言う美味しさだろうか。これは真似したい……魔法で氷生み出せば出来るな。シロップさえ買えば、いやシロップも作れるからなるべく安くして……いける。

 

「もう一口頂戴!」

「はいはい、ほら」

「あむ!」

 

 出して食う、俺も食う。出して食う、俺も食う。それを繰り返す。シャクリシャクリと互いに食い続けていたのだが……。

 

「はうわっ!?」

「ぉのおっ!?」

 

 突然の頭痛が俺達を襲う! こ、これは……シェロさんにかき氷貰う時に「気を付けないと頭が痛くなりますから~」と言われたやつか!? は、初体験~あだだっ!! 

 俺とジータは暫し揃って頭を押さえて唸った。痛みが引いて落ち着くとお互いに顔を見合わせる。

 

「は、ははは!」

「ふふ、あははは!」

 

 なんでかとてもおかしな気持ちになった。今度は二人揃ってルドさんの様に意味もなく笑ってしまった。

 

「あーおかしいっ! なんかお兄ちゃんとこんな風にするの久しぶり!」

「確かにな」

「ザンクティンゼルは? 変わってない?」

「少なくとも星晶戦隊が揃っちまった以外は普段通りだったよ」

「あのおばあさんは?」

「……普段通りだったよ」

「そっか、私おばあさんとよく遊んでもらったからなあ。今度挨拶行きたいなあ」

 

 そうしてやれ、絶対喜ぶから。

 考えてみれば、こいつが異常に強いのもあのばあさんが原因の一つか。俺と過ごす以外だとばあさんと遊んでたようだからな。主に組み手で。それで自然と強くなったか……。

 

「ばあさんとまともに張り合えるのは、お前ぐらいだよ……俺はもう嫌だ」

「お兄ちゃんおばあさんに鍛えられたの?」

「強制的にな」

「あはは! 強制だって! どうせ滅茶苦茶嫌がったんでしょ?」

 

 嫌に決まってんだろ、なんど死にかけたと思ってんだ。

 

「けど別に大変じゃなかったけどなあ、私一緒に組み手で遊んでもらっても楽しかったし」

 

 ジータ、そこで組み手で“遊んで”とか“楽しい”とか言う言葉が出る時点でおかしいことに気が付いて。

 

「とんだ空の暴れん坊になっちまったなあ……」

「あ、暴れん坊ってなにさ!?」

「暴れん坊だろ実際」

「あ、あばあば……うぐぐっ! そ、そう言うお兄ちゃんだって空じゃ噂のロリコンで年上の巨乳好きの変態さんじゃん!」

「ぐあああっ!?」

 

 身に覚え無死っ!! 

 

「どういう事なの、ロリコンで年上ボイン好きって!? 矛盾の固まりじゃん!?」

「俺がしるかああぁっ! 事実無根! 清廉潔白! 荒唐無稽! 身に覚え一切ありません!」

「火の無い所に煙は立たない!」

「火がねえんだよ! と言うか、非がねえんだよ!」

 

 何だこの会話っ! 

 

「それになあ! ユーリ君仲間にしたからその噂も消えていく定め! 見とれよ、俺がいかにノーマルか教えたるからな!」

「それはそうとして、私も結構ボインですが、どうかっ!?」

「お前ほんと馬鹿なんじゃないか!?」

「どうかっ!?」

 

 うるせえ!! 

 

 ■

 

 五 キミとオレのソラ

 

 ■

 

 ジータとクソみたいな会話を繰り広げ続けたのだが、俺は不思議と辟易するどころか興が乗ってしまい次々口から色んな言葉が溢れてきた。ジータも先程不機嫌であった事など忘れたようで、互いに言葉が止む事が無い。

 

「それで、スタン君って言うエルーンの男の子とお姫様を助けたの!」

「ほーん、お姫様ねえ」

「他にも七曜の騎士って人達とも戦ったんだけど強かったんだあ! おばあさんよりはまあ普通だけど」

「比較対象ぅ~」

「それとジュエルリゾートって所があってね、賭け事の船なんだけどすっごい金ぴかで驚いちゃったの」

「賭けかあ……」

 

 俺より先にザンクティンゼルを旅立ったジータの話は奇想天外なものばかり。巡る島の数も遥かに多く、起きる事件も更に多い。どれもこれもが大事件、俺も負けてないがやはりジータの格は違う。

 

「俺は細々としか移動できてないからなあ……」

「その分仲間増えてるから楽しそう」

「まあ楽しいっちゃ楽しいが……」

 

 それに対して苦労が、苦労がなあ……。

 

「しかしよくそんだけ島を巡ったもんだ」

「お兄ちゃんもどんどん行くといいよ。バルツとか行きなよ面白いから」

「だなあ、コロッサスにも里帰りさせてえし」

 

 まあその前にガロンゾなんですがね! 

 

「あぁー……しかし何ヵ月経ったやら、長いんだか短いんだか」

「あっという間だったからねえ。私も未だに実感あんまり無いや」

「まあ、ほんとにあっと言う間だ。本当に……」

 

 運命の日、帝国の襲撃から始まったジータと俺の旅の始り。

 

「帝国が攻めて来て」

「ルリアとカタリナさんが来て」

「そしてたらお前は旅に出て……」

 

 そして俺も、旅に出た。

 まだまだ話す事が沢山ある。マグナシックスとB・ビィ、それにゾーイを仲間にして、ラムレッダを引き取る羽目になって、フェザー君が押しかけてきて、コーデリアさんにブリジールさんを助けて、カルテイラさんに色々助けてもらって、ルドさんに驚いて、ハレゼナを保護して、ルナール先生はセレストと仲良くなった。

 ジータと会ったら俺は何を話そうと思っていたのか。仲間の事もそう、旅の話もそう、だけど俺は、もっと別の──。

 

「……ああ、そうか」

「どしたのお兄ちゃん?」

「なあ……ジータ」

「俺、お前に言わなきゃいけなかったんだ……」

「え?」

「帝国が来た日、お前が森に落ちたルリアちゃんを見つけて家を飛び出したのを直ぐに追うべきだった。どこか……楽観的だったんだと思う。お前だと、その……大丈夫なんじゃないかって」

 

 そしてその結果があれだ。俺が武器を手にジータを迎えに行くと、森から戻って来たジータは体こそ蘇生したが服はボロボロ、血まみれのまま。仰天したね。ゾンビでも来たかと思ったよ。

 

「けど一遍死んだって言うし、訳わかんないし、生き返ってるし」

「今それ言うの?」

「だってよ……あの時全部が急すぎて、お前直ぐ旅に出ちゃうし……何にも言うべき事言えてないからさ……」

「そかな?」

「そうだよ、俺言いたい事山ほどあったんだよ。いつも言ってたろ、後先考えず行動するなって……森に行く時は俺と一緒にって……注意しても聞かないから、だからお前、あんな……お前」

 

 馬鹿野郎、そうじゃないだろう俺。

 

「違う、違うんだよ……これじゃない、俺が言いたかったのはさ……だからつまり……」

「……」

「ああ……だから、なんだろうな、ようは……そう、本当はあの時言うべき事だったんだ。そう、だからさ……ああ、ああ……」

「……お兄ちゃん」

「……ごめんなぁ。俺、いつも傍に居たのに……! 肝心な時、一緒に居なくて……!」

「お兄ちゃん」

「痛かったよなあ、怖かったよな……! お前、昔っからやんちゃなくせに、よく泣くし……そのくせ、人一倍おせっかいで……だから、俺が何時も……何時も……! なのに……俺……!」

「お兄ちゃん」

「俺……お兄ちゃんなのに……お前を、護ってやれなかった……!」

「お兄ちゃん!」

「うぅっ」

 

 不意に視界が暗くなった。そして体中が暖かくなる。

 

「言いたかったのって、そんな事?」

「うるせえ……そんな事ってなんだ。ずっと心配させるなって言ってたろ。死ぬ奴があるか……謝る事も出来ないと思ったんだ……」

「気にしなくていいのに」

「馬鹿、気にするに、決まってんだろ……ずっと一緒だったんだぞ……」

「そうだね。そう、ずっと一緒だったもんね。私がお兄ちゃんって呼ぶようになって、ずっと一緒だった」

 

 一緒だった。そうだと思ってた。けど今は違う。いつも隣にいた奴は、無限に広がる空を駆けている。そして俺も場所は違っても、同じ空を飛ぶ。

 

「ねえ、お兄ちゃん」

「なんだよ……」

「私、生きてるよ」

 

 わかってる。喧しいほどの心臓の音が聞こえるんだ。

 

「私の声、聞こえるでしょ」

 

 聞こえてる。もう聞き飽きた声だ。

 

「私、またお兄ちゃんとお話してるよ」

 

 そうだな。また話してる。馬鹿みたいな話をまた。

 

「だから泣かないで」

「泣いてねえし……海水だから、これ」

「海入って無いのに」

「うるへえ」

「……暖かいね、お兄ちゃん」

 

 お前の方が暖かい。

 

「……話、聞かせてくれ。お前が見た空の景色、教えてくれ」

「うん、まだ一杯話したい事あるんだ。他にも色んな所に行ったから、お兄ちゃんに聞いて欲しいな」

「ああ……ああ……、聞かせてくれ……まだ、聞き足りないからさ……俺もまだ話したいんだ」

「うん」

 

 もうずっと隣にはいないけど、ただ生きていてくれてれば良い。離れても空は繋がっていると今強く思えた。

 

 ■

 

 六 赤と黒

 

 ■

 

「……なあ、オリジナル」

「だからビィだっての……なんだよ?」

「お兄ちゃんだ幼馴染だとか、そうは言ってもまだまだ子供なんだよな、どっちも」

「……ああ、そうだなあ」

「ビィ、そっちも頑張れよ」

「そっちも、兄貴の事助けてやってくれよ」

 

 ■

 

 七 船出

 

 ■

 

「団長殿! 積み荷の確認A班終了いたしました!」

「ご苦労さん、ユーリ君。あとそんな形式ばって言わなくてもいいよ」

「あ、いや……やはりこちらの方が慣れているので」

「適当に崩しな、ここはもう軍じゃないよ。じゃあB班の手伝い頼む」

「了解であります!」

「おい」

 

 次の日、エンゼラで積み荷のチェックを行いアウギュステを発つ準備中。なんとか予定通り出発できそうだ。

 昨日のエンゼラ破損事件で長い足止めが危ぶまれたのだが、オイゲンさんがアウギュステの知り合いの騎空艇の職人に声をかけた所、島中から腕利きが集まり一夜にして飛べるまで修復された。流石に完全な修復とまではいかないが、それでも次の目的地となったガロンゾにまでは問題無く飛べるとシェロさんにまで太鼓判を押された。

 なんでまたこんな腕利きが集まったのか不思議だったのだが、この人達は以前もジータに島を護られかなり恩があったようで、今回また島を救ったジータとオイゲンさんに頼まれ、島を護るために戦った男の船を直さぬわけにはいかねい、とどんどん集まったらしい。

 しかも、しかもである! 修理費を既に払っていたのだが戻った。戻ったのだ! なんか払った時の物をそのまんま返された。

 こんないい仕事してもらって無料と言うわけにいかない、職人の方達に流石に必要な分は受け取ってくれと言いに行ったら「アウギュステを助けてくれたお礼だ」と言われてしまった。そう言う事言うタイプの人間は、絶対にもう金を受け取らない。困ってしまったのだがここはありがたく返ってきたお金のありがたみを感じる事にした。

 

「団長、カルテイラさん達の部屋開けておいたよ」

「ありがとうございます、フィラソピラさん。多分カルテイラさん達もそろそろ来るんで。あ、それと申し訳無いんですけど、そろそろ出るってジータの所にちょいと連絡頼みます」

「了解だよ~」

 

 フィラソピラさんが、クルクルとクリュプトンを回して飛んで行く。ジータ達はこことは少し離れた場所に騎空艇【グランサイファー】を泊めている。彼女達も今日発つらしいので、向こうも準備中でここに居ない。

 

「今度は一緒に島を発つ、か」

 

 昨日の事はまったく恥ずかしい事をした。言うべき事とっと言えばいいだろうに、ジータに慰められるとは。おかげで他の面々にも見られたみたいだし、まったく俺もまだまだである。別に泣いてねえけどね、泣いては。本当だ。泣いてねえ。

 

「別に恥ずかしい事ねえよ」

「……B・ビィ、心を読むな」

「そりゃ失敬」

 

 こいつは相変わらずだ。読心術なのか、それとも星晶獣的パワーなのか。

 

「ただ相棒、本当に恥ずかしい事なんかねえよ」

「そうかい」

「幼馴染で、妹みたいな奴があんな事になりゃ誰だって動揺する。むしろ相棒は気丈過ぎるぜ」

「気丈なわけあるか、狼狽えまくったわ」

「そうでもねえよ。何とか押し止めてたんだ。相棒は溜め込む節あるからなあ、駄目だぜそう言うのは」

「……何が言いたいんだよ」

「ジータはいねえが相棒には仲間がいる。オイラもティアマト達もいるんだ。頼れよ、皆相棒を信頼してるんだ」

 

 こいつ本当にB・ビィ? 本体のプロバハさん来てないですかねえ。

 

「言われなくても……いつも頼ってるよ。お前もティアマト達も、仲間なんだからさ」

「そか……わかってりゃいいんだよ」

 

 ま、ここは感謝しておく。あと別に泣きそうになってねえから。空を見上げたのは天気を確認してるだけです。泣いてねえから。ほんとほんと。

 

「マァ~ッタク、オ前ハ素直ジャナイナア?」

「うおおっ!? ティ、ティアマト!?」

 

 ヌルっと背中に現れるなビビるから!! 

 

「ホレホレ、私ニモ甘エテ良インダゾォ?」

「やめろ引っ付くなっ!? 甘えるなんて話してねえだろ!?」

「ケケケ、ドウシタドウシタ? 何時モノ威勢ガ無イゾウ?」

 

 こ、このクソ星晶獣(笑)が……っ! 

 

「いい加減にしろ」

「グエッ!?」

 

 シュヴァリエか? どうやら拳骨でティアマトを倒したらしいな。助かった。

 

「まだ仕事があるんだ。主殿の邪魔してるんじゃない」

「グオッ! ヒ、引キズルナ……ッ!」

「助かったシュヴァリエ、ありがとう」

「ああ……それと主殿」

「なんだ?」

「先ほどのB・ビィの言葉、あれは我ら皆の総意だ。頼ってくれていい、我らは仲間なのだからな」

 

 あ、ちょっと天気確認しまーす。

 

「そうかそうか、しかし今日は晴天だー」

「それは良かったよ……後助けた礼にケツを」

「はよ行けや」

 

 台無しだよ、もうお天気確認する必要消滅したわ。

 シュヴァリエは笑いながらティアマトを引きずり去って行った。出発前だと言うのに疲れるなあ。

 

「ジミー殿ー!」

「今きたでー!」

「お、来たみたいだぜ相棒!」

 

 外から俺を呼ぶ声がする。ジミーと呼ぶ人は一人だけだ。

 

「シャルロッテさん、どもです! 今行きます! B・ビィ、コーデリアさん達呼んでくれ」

「あいよ」

 

 エンゼラの外に荷物を持ったシャルロッテさん、カルテイラさん、そしてバウタオーダさんとリュミエール聖騎士団の人達がいた。駆け足で外に出て迎えに行く。

 

「遅れてしまい申し訳ありません、少し準備に手間取りました」

「いえいえ、こっちも丁度終わったんで」

「カルテイラ殿も荷物を持っていただいて申し訳ございません」

「ええて、ええて。仲間になるんや、助け合わな」

「カルテイラさん、部屋開けといたんで」

「おおきに! 前と一緒のとこやろ? 荷物置いて来るわ」

「うーす」

 

 そう言ってカルテイラさんが相変わらず沢山の荷物を背負ってエンゼラへと入って行った。それと入れ替わる様にコーデリアさんとブリジールさんが急ぎ足で現れた。

 

「シャルロッテ団長、お待たせしました。申し訳ありません、積み荷のチェックをしていたもので」

「いえお気になさらず、態々申し訳ない」

「シャ、シャルロッテ団長と一緒の旅……とことん夢のようです!」

 

 なんか昨日宴会の後、コーデリアさんが俺とシャルロッテさん等リュミエール聖騎士団関係者を集め新たな指令が届いたと話があった。小難しい事もあったが、要約すると「裏切者が逃げたっぽいんで、シャルロッテ団長と協力して捕まえてね」って感じ。

 つまりシャルロッテさん、加入であります。

 

「急だわなあ、ユーリ君にカルテイラさん、加入ラッシュかよ」

「なあに、仲間が増えるのは良い事だよ団長」

「はいです! それにシャルロッテ団長が仲間になるならとことん百人力です!」

「ふふ、ブリジール殿大袈裟であります。それにこの騎空団ではそちらが先輩、何かと助けていただくと思いますが、よろしくお願いするであります」

「あわわ、私がシャルロッテ団長に……と、とことん頑張りますです!」

 

 ブリジールさんが色々てんぱっているなあ。全くハーヴィンが並んでいちゃいちゃと、和むじゃねえか! 

 

「俺としてはコーデリアさんとブリジールさんがまだ一緒に居れる事も嬉しいですよ」

「ふっ、こちらこそありがとう団長。貴君と旅を続けれる事に感謝を」

「自分もまだまだこの騎空団で頑張るです!」

 

 ほんとこの二人の脱退は痛いからな。嬉しい限りだ。

 

「団長殿、シャルロッテ団長達の事、よろしくお願いいたします」

 

 バウタオーダさんとその部下の人達が俺に向かい頭を下げた。バウタオーダさん達はこちらへの同行は無く、この後も本来の任務を終えてリュミエール聖国へと帰国する。

 

「貴方なら安心して任せる事が出来ます」

「いえ、恐縮です」

「むぅ、何だか子供の旅立ちを見守られてるような……」

「心情としてはそんなところじゃないっすか?」

「失敬なっ!?」

 

 はっはっは、怒ってポコポコ叩いても痛く……痛く……。

 

「シャルロッテさん、的確に膝小僧を狙わないで!? 昨日のまだ痛いの!」

「ふん、ふん!」

「あでで! シャ、シャルロッテさん、俺に遠慮無くなってないっ!?」

「今更遠慮する仲ですか、ふん! ふん!」

「あ、ああっ!! 膝小僧が、膝小僧がああ!」

 

 ダメージが加速していく!? 

 

「どうやら、大丈夫そうですね。この騎空団でなら、気兼ねなく任務に集中できるでしょう」

「ああその通りだバウタオーダ殿。それだけじゃない、この騎空団は愉快でしょうがないのだよ」

「とことん楽しい事ばかりです!」

「そのようですね。私も縁があれば加わりたいものだ」

 

 ねえ皆さん!? 和んでないでシャルロッテさん止めてくれませんかね!? 

 

「お兄ちゃあ────んっ!」

「ふん、ふ……っ! おや?」

 

 不意に聞こえたジータの声にシャルロッテさんのポカポカパンチが止まった。ナイスだぞジータ! 

 

「こっちも準備できたあーっ!」

 

 ジータはグランサイファーの甲板に居た。グランサイファーからフィラソピラさんがエンゼラに飛び移っている。目が合ったので手を振って置く。お疲れさんです。

 グランサイファーは空では無く、海の上を進んでこちらの方に来てくれたらしい。しかしジータはここから離れていると言うのによく聞こえる声だ。

 さて。どうやら、全ての準備が整ったようだ。

 

「それじゃあバウタオーダさん、俺達はここで。また機会があれば会いましょう」

「バウタオーダ殿、何かと心配をかけて申し訳ございませんでした。しかし今度からはジミー殿の団に居るので大丈夫です」

「ええ、我々も任務で会う事があるかも知れません。その時はよろしく頼みます」

 

 バウタオーダさん達と別れの挨拶を済ませエンゼラに乗り込む。

 

「セレスト、大丈夫そうか?」

「う、うん……大丈夫、ガロンゾまでは……絶対に無傷で行く」

 

 セレストが珍しく燃えている。今回の事で操舵士(厳密には違うのだが)としての意識がより高まったらしい。ラカムさんからも色々アドバイスを貰っていたので、今後の旅はより良い船旅になるだろう。

 そして船が動き出す。水上をグランサイファーと並行して進む。

 

「バウタオーダ殿おぉ────っ!」

 

 シャルロッテさんがこちらを見送り続けるバウタオーダさん達に向かって叫んだ。

 

「我ら、リュミエール聖騎士団!」

「清くっ!」

「正しくっ!」

 

 離れて行くバウタオーダさん達に聞こえる様に、シャルロッテさん、そしてコーデリアさんとブリジールさんが叫んだ。その声は確かに届き、バウタオーダさん達はその場で背を正し叫ぶ。

 

「高潔にっ!」

 

 正義の誓いもまた、空の下繋がっている。彼女達には、正義と言う強い絆がある。

 

「行ってくるでありますーっ!」

 

 ■

 

 八 さあ行こう、空の果て

 

 ■

 

 アウギュステの海から二隻の船が飛び立つ。

 蒼穹を思わせる蒼、竜の様な姿のグランサイファー。

 大海を行く大魚を思わせるエンゼラ。

 それらを見送るのは、正義の騎士団、島の者達、そして島の守り神リヴァイアサン。

 二隻はしばし並び飛ぶ。

 騎空団の仲間達が皆甲板へと並び、互いに手を振り、互いの船旅の無事を祈る。

 中でも一際大きく手を振る二人。

 

「ジータアァ────ッ!」

「お兄ちゃあぁ────んっ!」

 

 船と船、それぞれから二人が叫ぶ。

 

「また会おうなあ────っ!」

「また会おうねえ────っ!」

 

 次は何時会うのだろう。

 次は何を話すのだろう。

 別れはやはり寂しくもあり、されど、きっとまた会えると二人はわかった。この空が繋がっているかぎり、二人を分かつものは無い。

 雄大なる青き空は、見守り続ける。

 彼の者達に、幸多からんことを。

 

 ■

 

 終 らない

 

 ■

 

 なお今回の事で、シェロカルテの海の家で働く事になったポセイドンであるが、その容姿から「イケメンマッチョの店員」として話題を呼び女性客を獲得。さらに水の星晶獣としての力を活かしライフガードとしても活躍。更にまた本人が案外料理にハマり色々作る内、ポセイドン提案によるアウギュステの海鮮丼、通称【ポセイ丼】が大ヒットした。

 そしてユーリを仲間にした事で多少は緩和されると思った「ロリコン、年上巨乳好き」の噂だったが、趣味で男を追加したと言う方向に受け取られてしまい「ロリコン、年上巨乳好きでしかもホモの可能性が微レ存」と言う噂が追加されるだけに終わる。

 

「なんでじゃああぁ────っ!?」

 

 彼の者に、幸? 多からんことを。

 合掌。

 




まるで完結したかのようなオチですが、終わって無いです。もっともこの物語自体は【本編】の四話で終わってるつもりですが。
正直なんでこんな長くしたのか。去年アウギュステ編を考えた時は、5話構想でした。当初から決めていたやりたい事はシャルロッテとユーリ君出す。そしてポセイ丼。
もう迂闊に一週間滞在なんて設定にしないよ……。

今後は投稿ペースが落ちるかもですが、また前のノリで続けます。今回の様にイベントを絡めたりもする事がありますがどうなるかは未定です。何時か後書に書いた様にプラチナスカイでもいいかもしれない。
せっかくシャルロッテやユーリ加入させたし。ただもう一つのシーンで出せる人間が限界っす。これも前後書で書いたけど、一話あたりでの団員登場数減るかもだけど許してください。
ただ今は番外編やIFの短編をやりたい気もします。もしジータと島を出てたらとか島に残ってたらや、別作品とクロスオーバーさせたりとか。やる場合はややこしくなるので、別作品として登録するかもしれません。

感想、評価何時もありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。

あと、ギガントスーツ:ハレゼナのスキン下さい運営。

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