俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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あけましておめでとうございます。


ヤバイ奴等×アウギュステ×全員集合

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 一 ジータ100%

 

 ■

 

 アウギュステへと近づく一隻の騎空艇グランサイファー。【ジータと愉快な仲間たち団】は、正にアウギュステへと向かう中、幾つもの困難に直面していた。

 

「ぐおおぉぉ────っ!? な、なんつー風だっ!?」

 

 アウギュステへ残り僅かとなった時、グランサイファーに突如襲い掛かる突風。それもただの突風ではない。並みの騎空艇ならば、容易く吹き飛ばしてしまうような突風が右から左、前から後ろへと何度も何度も吹き荒れる。

 

「ラカムッ!? 大丈夫なのかっ!?」

「大丈夫も何もやるしかねえ!! あぶねえから、お前らは中入ってろっ!!」

 

 操舵士であるラカムが、必死に舵を握り離すまいとする。心配になって駆け寄ろうとするカタリナだったが突風の中では、まともに動く事もできない。それでも卓越した操舵技術を持つラカムのおかげでこの突風を抜けることが出来た。

 そして、またある時──。

 

「ぬわあぁぁ────っ!? な、なんだぁ!?」

 

 頭上より降り注ぐ弾丸の如き雹の嵐が彼らを襲う。

 

「ひえええっ!? 天井貫通してきやがったぞ!!」

「ビィ君危ない! こっちに来るんだ!!」

 

 拳ほどの大きさの雹は、幾つかがグランサイファーに激突し痛々しい傷跡を残すが何とかこれも抜け出す。

 そして、またある時──。

 

「ぐわわあああああああああっ!!」

「ラカムゥゥゥ!」

 

 突如の落雷により、ラカムが携帯する火器が爆発しラカムだけが吹き飛ぶ。

 こんな出来事が、数時間の間に連続して起きている。

 

「いや、明らかにおかしいだろっ!? なんだこの天候は!!」

 

 ボロボロになりながらも割と元気なラカムが誰に対してか怒りの声を上げた。

 

「なんだってんだ!? またヘンテコな星晶獣でも出たって言うのかよ!!」

「ち、違うぜ……」

 

 一人、この異常事態の原因に思い当たったビィが怯えた様子で声を上げた。

 

「……お兄ちゃん分不足現象だぁ」

「は? お兄ちゃん分不足?」

 

 ビィの呟きにラカムは、わけが分からないと言う表情であったが、一人カタリナの表情が強張った。

 

「ま、まさかビィ君……以前言っていたあの……」

「そうだぜ姉さん、あのお兄ちゃん分不足だ……まさか、もうここまで深刻な事になってたなんて……」

「オイオイ、待ってくれ俺にもわかるよう説明してくれ」

「あ、ああ……お兄ちゃん分不足とはな──」

 

 カタリナは、以前ビィからジータが無自覚に抱える異常な性質【お兄ちゃん分不足による偶発的トラブルの発生と天候悪化現象】の事を聞いていた。ジータが“お兄ちゃん”と慕うあの【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の団長と長い間会わない事で起こる無自覚の能力とも言える。

 効果は、様々でこの状態の彼女が移動すれば必ずトラブルが起き、あるいは今の様に異常な天候悪化をみせる。この事をラカムに説明すると彼は、呆然として天を仰いだ。

 

「オイオイ……あいつ、まだそんな滅茶苦茶な設定持ってたってのか」

「設定とか言うなよ……まあ気持ちは、分かるけどよう」

 

 そのジータだがボロボロになったグランサイファーの修繕を他の仲間と共に進んで行っていた。自分の所為であんな天気になったなど考えてもいない。純粋な分、文句も言いづらい。

 

「しかし実際問題このままでは、我々もグランサイファーも持たないぞ……ラカム、アウギュステまでは、後どれくらいだ?」

「本当ならもう着いても良かったんだけどな……今までのでかなりロスしちまった。到着は、夕方になるだろうな」

「まあ、ジータがいるからグランサイファーが沈むって事は、ねえと思うけどよ……」

 

 吹き荒れる突風、降り注ぐ雹、鳴り響く雷雨。全て最後は、ジータが先頭に立ち奥義で突風を相殺し、雹を全部吹き飛ばし、雷雨を生み出す雲を消し去った。

 

「逆にジータがいるからこんな事態になってるけどな……」

 

 ジータがいる以上は、彼らの命の保障はある。だがそれは、死なないだけでトラブルには遭う事を意味した。ラカムの指摘に一同ため息。果たして無事にアウギュステに辿り着けるのか? 主に精神的に心配になってしまった。

 

 ■

 

 二 何も知らぬ俺達

 

 ■

 

 今日、決めないといけない。

 と、シャルロッテさんとの待ち合わせ場所で気合を入れている。この状況でこんな言い方だと、まるで告白だが勿論違う。今日シャルロッテさんにコーデリアさんから【正義審問】を受けてもらう。

 昨日帝国兵と出会った事でアウギュステでの優雅なバカンス計画は、完璧に消え去った。シャルロッテさんに出会った時点で既に計画は壊れ出してたが、やつらが動いている以上なにかやらかすに違いないと俺の勘が告げる。そうなるともうリュミエール聖騎士団問題ものんびりしてられない。

 コーデリアさん達には、帝国の事は当然伝えている。休暇中で申し訳無いが動けるメンバーは、既に帝国の思惑を探るように指示を出し動いてもらった。マジでなんかアホな事する気なら後手に回る気は無いからな。その間俺は、シャルロッテさんの相手をしておく。そして日が沈む頃、シャルロッテさんを連れてコーデリアさんが待つ宿で落ち合う。そこでリュミエール聖騎士団関係とは、決着をつける。

 

「ジミー殿、お待たせしました」

「おお?」

 

 とか意気込んでいたら、突然腹が喋った。と思ったら、いつの間にかシャルロッテさんが現れていた。位置的に傍でシャルロッテさんが話すと腹が喋ったかと思うな。

 

「……今、お腹から声がしたとか思いませんでしたか?」

「ナンノコトヤラ」

「図星であります!?」

 

 なんと言う事だ、俺の巧妙なポーカーフェイスが見破られてしまったぞ。

 

「まったくもう、自分ジミー殿の考える事何となく分かって来たであります……」

 

 むむむ、そうは言ってもほんの四日程度、全てを見透かされるわけではないはずだ。

 

「ほんの四日程度じゃ分からないだろう、とか考えてるでありますな?」

「Oh……」

「顔に出てるであります」

 

 俺の顔正直すぎだよ!! ポーカーフェイスなんて無かった!! なんか、前もティアマトとかに似た事言われたなあ……そんなに分かりやすいかな俺。

 

「あー……そう言えば、シャルロッテさんは昨日大丈夫でした? その、帝国関係」

「そちらは問題ありません。少なくとも彼らが大きな問題を起さない限り自分が動く事は、無いであります」

 

 彼女が問題ないと言う以上追求は、出来ない。するとしたらそれこそコーデリアさんの仕事だ。

 まあしかし今は、ただ残り僅かでも二人でアウギュステを楽しむとする。シェロさんは、もうアウギュステに俺達がいる間は、依頼を出さないと言っていたので今日は、依頼も戦いも無い時間でアウギュステの街を楽しむ日なのだ。

 切り替え大事、これ本当。

 

「で、今日はどうしますか?」

「前は主に街並みを見て歩きましたが今日は、色んなお店を見て歩きましょう」

 

「それってつまり」

「そう、ウィンドウショッピングであります!」

 

 うーむ、声高らか。妙に嬉しそうだな。

 

「ウィンドウショッピング、ふふふ、なんとも大人な休日の過ごし方ではありませんか?」

 

 

 あ、それで嬉しそうなのね。確かにミザレアは、見てるだけでも楽しいショーウィンドウがある商店が多いから如何にもなウィンドウショッピングできるね。他の島の商店じゃ、露店とかだから別にウィンドウショッピングじゃないし。ただそれを態々“大人の”とか言わなくて良いと思うんだ俺。

 しかしウィンドウショッピングと言うがそう言うのは、大体女物の服屋とかになるだろう。俺見てて楽しいかな? とは、流石に言葉には出せないがちょっと思っちゃう。

 

「商業都市ミザレアは、空中の珍しい品が集まる場所です。職人が手間暇かけて作った逸品に、最新のファッションが見られる……と言うのは、言うまでもないでしょう」

「そりゃま、前の街歩きでもある程度は、店を観ましたしね」

「ならば! 今日は、更にじっくりお店を見て回ろうではありませんか!」

 

 ……これは、きっと自分が楽しみなんだな。シャルロッテさんの熱意が高い。たぶん前もうちょっと店見たかったんだろうなあ。ブラギュステ、あれはあれでお互い楽しかったが。

 

「そんじゃ、まあ……行きますか」

「はい!」

 

 ■

 

 三 何色チェイサー

 

 ■

 

「そんじゃ、まあ……行きますか」

「はい!」

 

 街角で待ち合わせをする二人の男女。その二人を気が付かれないようにひっそりと除き込む人影が一つ。

 

(やはり、シャルロッテ・フェニヤ。最近街中で見かけるという情報は、本当だったか)

 

 黒髪の少年、帝国軍兵士ユーリ。帝国軍の鎧兜を脱ぎ私服へと着替えた彼は、街の人混みへ見事溶け込んでいた。

 

(だがまさか今日直ぐに見つかるとは……)

 

 昨日隊長から指令を受けシャルロッテを探していたユーリだが、ミザレアで「蒼い鎧を着た金髪のハーヴィン女性」だけの情報で直ぐに足取りが掴めるとは、流石に思わなかったらしい。その上得た情報がどれもこれも可笑しなものが多かった。

 

「パツキンのハーヴィン? ああ、いるねえ最近一人」

「あの前お兄さんと歩いてた子でしょ? 微笑ましくって覚えてるわよ」

「お兄さん? 私ロリコンの犯罪者予備軍って聞いたわよ?」

「ああ、あのロリコン兄ちゃん?」

「けどハーヴィンだから、一応年上って聞いたけど?」

「合法ロリ狙った変態って話よね? いやだわぁ」

「お互い合意って聞いたけど?」

「それはそれでなんか、ねえ?」

 

 だんだんシャルロッテの情報でなく、共にいる男の情報になってしまったがともかく彼女の居場所が分かったので一応その点は良しとしたユーリであったが、ロリコン疑惑のある男が見た目幼いシャルロッテと共に歩いている姿を見ているとどうもハラハラしてしまう。

 

(そもそもあの男は、何者だ? 何故シャルロッテ・フェニヤと行動を共にしている……昨日の件といい傭兵か騎空士かのどちらかだろうが……)

 

 歳若く青い帝国兵ユーリは、純粋に悪を許せぬ男だ。その点を見込まれ今の隊長からも若くして信頼を得ている。反面若さゆえの思慮の浅さがある。よく言えば真直ぐな男、悪く言うなら猪突猛進。

 

(うぅむ……推定無罪だが、あの男がシャルロッテ・フェニヤを狙った不埒な男と言う事もありえるのか?)

 

 どこか親しげな二人を見てその関係が分からないユーリ。

 

(帝国とリュミエール聖国は、友好関係……いや、それ以前にもしあの男が彼女を騙す破廉恥な男だとすると……捨て置くわけには行かないっ!)

 

 そんな事は、命令に受けてないぞ、あと飛躍しすぎ。と、誰か冷静なツッコミを入れればいいが、残念ながらここに彼の心情を知りツッコミを入れれる様な者はいなかった。

 

 ■

 

 四 もう大体街でもロリコン認定

 

 ■

 

 ちがぁうっ!! と、唐突に叫びたくなった。何故かは知らないが。思わず周りを見渡す。

 

「どうかしましたか?」

「いや……誰かに噂されたか、見られてる様な」

「またスツルム殿達でありますか」

「そう言う感じでは……」

 

 一度覚えた気配は、基本忘れないようにばあさんに叩き込まれた。特にドランクさんは、独特の雰囲気があるからここまで気配感じたらドランクさんとわかる。あの流れの夫婦漫才師、では無く傭兵のスツルムさんとドランクさん。結局シェロさんに依頼達成報告をする前にそそくさと帰っていった。思えば帝国と出会った辺りから少し様子が変ではあったなあ。それでもドランクさんは、変わらぬ調子で「そんじゃ、また会おうね~」とヘラヘラ笑いながら手を振って、スツルムさんは「帝国には、精々用心する事だな」と忠告を貰った。全くもって謎の二人である。また会おうとは、単なる社交辞令か? どうも本当にまた会いそうな気がしてならないなあ……

 

「……いや、多分気のせいですね」

 

 流石にもう知らん、気にしてたら何も出来なくなる。きっと自意識過剰なんだ今、気にしすぎなんだ。そうに違いない。

 

「そうですか……まあ、そう何度も後をつけられる事はないでしょう」

「そうでそうです。まさかそんなねえ」

 

 あっはっは。と二人で笑う。

 しかしじっくり店を見て回ると前とは、やはり違う楽しさがあるな。俺が楽しめるかどうかなんて憂いだったな。楽しいです。

 まあ、ショーウインドーに並ぶ服なんて大体が女物で男物あっても、値段の方がわっはっはっは。

 

(まるで買う気が起きねえ)

 

 服にあんな値段出す気にならん。これは、ちょっと不満だ。俺には、普段の私服数着にジョブ用装備があればいいのだ。ティアマトのように服を何着も買いまくるような事をしない。

 ……ティアマトの事考えると途端不安になるなあ。やだやだ。

 まあ、なので俺は、並ぶ商品の出来栄えとか素材に注目して楽しむ。どこ産の布を使っただの、どんな有名な職人が手掛けただの、要はそんな所。

 だがシャルロッテさんは、俺とは別の要因でちょっと不満げな時がある。

 

「サイズが無いであります……」

 

 無いよね、サイズ……。ハーヴィン故の根本的過ぎる問題に直面する彼女を見てるといたたまれない。まあ、あるっちゃあるんだけどね、ハーヴィンサイズ。ただ、如何にも普段着って奴があるのと、それ以外だと自ずとね……子供っぽいデザインになる傾向があるようだ。サイズの関係だなあ。そしてそれは、シャルロッテさんの趣味ではない。彼女は、大人のレディな服が欲しいのだ。ただ実際ハーヴィンの体系で大人の雰囲気が出る服って言うのは、中々難しいだろう。

 

「ハーヴィンの衣類専門店とか無いんすかね?」

「中々そう言うのは……服飾関係でハーヴィンの専門店は、あまり聞かないであります……」

 

 需要の関係だろうなあ。ハーヴィン族が多く住む島に行けばあるだろうが、だがそんな事は、元よりハーヴィンであるシャルロッテさんが知らぬはずは無い。今までも色々見た上で気に入った服が中々無いのだろう。

 

「オーダーメイドとかしないですか?」

「そうなると採寸から何まで時間がかかってしまいます。騎士団の任務も忙しい故中々難しいであります」

 

 あんた背を伸ばしたいだけで騎士団ズル休みしとるじゃろうが。服作るより背を伸ばす方が早いとでも思ったか。

 

「ああ、これも中々シックで憧れるでありますぅ」

 

 ショーウインドーの中で輝く蒼が基調の洒落た服に憧れの眼差しを向けるシャルロッテさん。それを見て思わず苦笑する。リュミエール聖騎士団のイメージカラーっぽいのもポイント高いのだろうか。

 そんな感じのウィンドウショッピング。得る物があるようで無いような、ただ憧れを募らせるそんなブラブラ。だがウィンドウショッピングってそんなもんなんだろうなあ。

 思えばブラブラこんな大きな都市を見て回るのだって今回が初めてだ。ザンクティンゼルなんか基本が物々交換、金銭でのやり取りをする店なんて物好きの親父が趣味でやってる申し訳程度の雑貨屋兼宿屋がある程度。しかも宿屋なんて稀に立ち寄る商人が休憩で利用するぐらいで、俺が生まれてから使われた回数なんて両手で足りる。

 最初、ポート・ブリーズを見た時、空ってのはこんなに広いんだと思った。人がこんなに生きているんだと思った。ジータは、もうそれを知っていた。

 あいつは、今どこでどんな騒ぎを起こしているのだろうか。もう少し色んな島を見てまた会えたら、あいつが見て来たものを聞きたい。そして俺が見て来たものを教えてやりたい。島々を巡る度にそんな思いが増す。

 

「ジミー殿? どうかしたでありますか?」

「んあ?」

 

 と、唐突に物思いにふけってしまった。

 

「いや、誰かとこんな風に街を見て回るのって楽しいんだなって……」

「では、今まで誰かとこう言った事は?」

「前話しましたけど、田舎でしたからね。まあ、騎くう……っ」

「きく?」

「ああいや、そのぉ~きく~……、そうそう! 人からそう言う話聞くだけなら何度かあったなあと。あはは」

 

 危ない危ない、思わず「騎空団の仲間ともあまりしない」とか言いそうになった。俺、今はまだ一般人ダヨー。

 

「そうでありますか。自分も故郷でよく出稼ぎ等で出かけ帰って来た大人達から外の話を聞いては、外の世界を見てみたいと憧れました」

「シャルロッテさんもっすか」

 

 そんな人は、きっとごまんと居るのだろう。俺もそうだった。だが彼女は、憧れをそのままにせず本当に外に出た。しかも有名な騎士団の騎士団長になるんだから凄いなこの人も。

 一方で俺は、外に出はしたが団の仲間に頭を悩ませ、財政難に頭を悩ませ、シェロさんへの借金に頭を悩ませ……悩んでばっかりじゃねーか。何と言うか世の中女性って強いんだなって思う。ジータは極端だが団員の女性、まあ殆ど女性だが皆何かと逞しいからなあ。

 

「……じゃ、どっかで飯食ったら他の服屋も見て回りましょうか。なんかいい感じの奴あるかもしれませんよ」

「ええ、ミザレアはまだまだ広いであります!」

 

 何はともあれ、きっとあっという間の今日を、まだ楽しもうと思う。

 

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 五 包囲網形成中

 

 ■

 

「バウタオーダ隊長! 点呼完了致しました!」

「はい、どうもご苦労様です」

 

 アウギュステへと寄港した一隻の中型騎空艇。ある一国の紋章が刻まれ、蒼を基調としたその船は、あのリュミエール聖騎士団の所有する高速艇である。主に少数の部隊が移動する際に使用される。

 その船の上で乗って来た騎士団の部隊が集まり部隊の点呼を行っていた。その部隊を取り仕切る一人の大男、その体躯に加えて頭部から生えた雄々しい角が彼がドラフである事を物語る。

 リュミエール聖騎士団、部隊長バウタオーダ。騎士団の中でも「清く、正しく、高潔に」のモットーを強く体現する男。彼は、騎士団の任務でリュミエール聖国と繋がりのある幾つかの島へ書簡を届ける任務の最中であった。アウギュステへは、一日の休息のために立寄った。

 

「予定通り明日の朝にはここを発ちます。貴方達は、補充すべき積み荷を確認しなさい」

「はっ!!」

「さて……」

「バウタオーダ隊長!」

 

 バウタオーダが一息置いたタイミングを狙い、一人の団員が前に出て声を上げた。

 

「なにか?」

「補充すべき積み荷に関しては、すでにリストアップが完了しております! また数もそう多くなく、揃えるのにも時間はかからないかと!」

「ほう、それは感心ですね」

「それで、あの……」

 

 ハキハキと話していた団員だが、途端声が小さくなり、バウタオーダの様子を伺う。また他の団員もどこか「隊長察して、俺達の言いたい事」と言いたげだった。

 

「どうしました? 続けなさい」

「え! あいやあのっ」

「おや、言えないような事なのですか?」

「そのような! ただ、その……おそらく、かなり空き時間が出来てしまうと思い、その時間は、その……」

「確かにそうですね……」

 

 もう一押し! と団員の誰かが小さく呟いたが前に出た団員は、馬鹿言うな! と言う意志を込めてバウタオーダに見えないように軽く手をパタパタと振って応えた。

 

「ふむ、最近は船の上で体も鈍っているでしょうから、鍛錬をするのも良いですね」

 

 瞬間、団員達が石の様に固まった。だがバウタオーダは、その様子を見て微笑みを返す。

 

「なに、冗談ですよ」

「と、と言うと……」

「任務が終わったわけではありませんが、今日は休息のために来たのです。空いた時間は、各々好きに過ごしなさい」

 

 その言葉を待っていたと言わんばかりに、わっと団員達が声を上げた。せっかくの商業の島アウギュステへ来たのに何も出来ないでは、普段は生真面目な騎士団もたまらないようだ。

 

「ただし、あくまで任務中での休息です。わかっていますね?」

「はっ!! 我ら栄えあるリュミエール聖騎士団ッ!! 常に──」

「清くっ!」

「正しくっ!」

「高潔にっ!」

「よろしい」

 

 団員達が一斉にリュミエール聖騎士団のモットーを声に出した。それを見てバウタオーダは、深く頷いた。

 

「とは言え、まず食事にしましょう。せっかくアウギュステへ来たのですから」

「では、自分が以前友人から聞いた海鮮料理が素晴らしいと評判の店などどうでしょうか!」

「おやおや、リサーチは十分でしたか? 初めから行く気だったようですね」

「あ、これは……いや、あはは」

 

 船の上で騎士達の笑い声が響いた。

 この時点で、まさかいつの間にか居なくなっていた自分達の騎士団長とひょこり出会ってしまうとは、思いもしなかったバウタオーダ達であった。

 

 ■

 

 六 商売! 商売! 

 

 ■

 

 午後、食事を終えた俺達は、ウィンドウショッピングから屋台などの店を見て回る事にした。水路や道路で店を出している屋台は、食べ物なら地元で採れた海鮮焼き。雑貨でもやはりアウギュステで採れた珊瑚や貝などを利用した物を主に観光客向きに販売している。もう服を見てもサイズは無い、あと値段高いとあって俺達は、色々諦めていた。

 だが切り替え大事、これ本当(二回目)。

 

「イカ焼きうめえ」

「あちち、であります……」

 

 二人並んで香ばしく焼かれたイカを食う。飯は食ったが別腹だ。良い匂いで誘うイカ焼きが悪いのだ。食べ歩くから消化も直ぐだ。気にしない。

 

「一気に食うと中熱々だから火傷しますよ」

「ふぇぇ……」

 

 そしてイカ焼き本体とその中に籠った熱い空気をもろに口に受けてしまい涙目になるシャルロッテさん。舌をペロリと出して、あちあち言ってるがそう言う可愛い仕草自然にしないでくれ、俺に効く。

 

「あーもう、ほら俺のジュース飲んで、氷も一個口入れといて」

「あう~面目無いでありますぅ」

 

 一緒に買った冷えたジュースを手渡すと何度かコクリコクリと飲み、氷を一つ口に含んで舌を冷やした。昔ジータが同じ事何度かやって毎度水や氷で冷やす羽目になったもんだ。俺もビィも笑ってたなあ。

 

「ふはぁ……落ち着いたであります。ありがとうございました」

「いえいえ」

 

 きっと騎士団の人達ってこう言う所がツボなんだろうなぁ、シャルロッテさんの仕草と言うか言動と言うか歩く癒しと言うか。そりゃマスコット扱い受けるわ。きっと俺もそうする。

 そんな風に俺は、今までのストレスをシャルロッテさんに癒され、今後受けるであろうストレスもなるべくダメージを軽減しようと癒し成分を溜めていた。

 

「おお、ここでは雑貨などが多くあります!」

「貝殻とかのアクセサリーか……」

 

 飲食系の屋台通りを抜けると毛色が変わって今度は、雑貨系の屋台が多くなった。観光客へ向けての屋台だろう。どの店も色とりどりのアクセサリーを並べている。その多くがアウギュステで採れたであろう貝や珊瑚の加工品である。女性には、特に人気に違いない。

 せっかくだ、日ごろ頭を悩ませる要因でもあるが、何かと助けられている……うん、助けられてるうちの女性陣にでも買ってやるか。無論コーデリアさんとブリジールさんは、純粋に感謝を込めてである。それに値段は、そう高い物ではないし、それに大きい物でも無いから貰っても要らないならどっかしまえるだろ。

 あとフェザー君は、こう言うのよりどうせ「語り合おう!!」の方が嬉しいだろうし、コロッサスは、何でも喜びそうだ。まだ海にいるリヴァイアサンはちょっと良い酒でもあげればいいや。B・ビィは……リンゴでいいや。

 さて、そうなるとどの店で買うか。どこも似たような物だが値段が少し違ったり、セットで売っていたりと工夫している。それに自然の物の加工品だから形は、僅かに違う。気に入ったものを見つけねば。

 

「知り合いのお土産に買いたいんで、見ていいですか?」

「勿論大丈夫であります」

 

 シャルロッテさんの了承を得たのでじっくり見て回る事にする。まあ妥当なのは、ヘアピンかネックレスあたりだろうが……今更だが女性への贈り物で男からアクセサリーって色々重いか? ようわからん。

 

「うーむ……」

「お悩みですか?」

「ええ、どうしようかなって……知り合いの女性で何人かいるんすけど、考えたらアクセサリーって重いですかね」

「ああ~……まあ、勘繰る人はいるかも知れませんが、高価で無いなら気にしないのでは? とは言え、自分もそう言った事には、いささか疎いので何とも言えませんが」

 

 ですよね。うむむ、うちの女性陣が俺からアクセサリー貰った時の反応は、どんな風だろうか……。ティアマトはどうだろう? 

 

『ダサッ。センス悪イ、買イナオセ』

 

 ……言われそうだ。次、ユグドラシルは? 

 

『~~~~♪』

 

 うん、まあ純粋に喜ぶだろう、問題ない。では、シュヴァリエは……。

 

『ネックレス……つまり首輪ッ!! つ、ついにその気になったのか主殿ッ!?』

 

 うむ少なくともネックレスはやめておこう。セレストならどうだ? 

 

『ふ、ふへ……あ、ありがとう……』

 

 よーし、大丈夫だ。いや、しかし彼女の普段着では、どう合わせる? ちょっと明るすぎるなここの品では……。いや、とにかく次にゾーイは……。

 

『綺麗だな団長、ありがとう』

 

 まあ、こんな所か? だが彼女の場合、食い気が強そうだな。

 他のメンバーも結局普段通りの反応をしそうだ。ラムレッダは、渡すタイミングを素面の時にしないと訳が分からなくなる。酔ってるとテンション上がって最悪吐く。アイツ昨日も飲み歩いて朝帰りでヤバかったからな。ティアマトも割とヤバかったが。

 フィラソピラさんは、感謝と一緒に変な問いを投げかけられそうだ。あとあの人は、甘味の方が嬉しいかもしれない。

 コーデリアさんは、眩しい微笑みと共に受け取り、イケメン返しを俺が食らいそうだ。

 ブリジールさんは、きっと真面目に感謝してくるに違いない。

 ルドさんは、ラムレッダと並んでもうわけわからんな、笑いで全部消える。

 ハレゼナは、うん多分「クレ~ジ~」で「ラブリィ」ぐらいがハイテンションで返ってくるだろう。

 ルナールさんは……仲間になりたてで一番反応がわからん。基本クールと言うか、反応薄い感じだし……まあ、普通にありがとうぐらいを言うんだろう。

 だめだ、考えたら余計全然わからんくなった。

 

「お? お客さんお悩みでっかぁ~?」

「ええ、知り合いに土産を買いたいんだけどね」

「うんうん、ほならアドバイスするさかい、ウチの商品見てってや~にしししし~」

「……うん?」

 

 商品覗き込んでて声かけられたが、この声めっちゃ聞き覚えあるんだけど。

 

「あ」

「あ」

 

 パッと顔あげて互いに間抜けな声を出してしまう。やはりカルテイラさんだった。

 

「なんや、あんたやったんか。下向いとってわからんかったわ」

「そっちこそ、店ここだったんですね」

「言うたやろ願いの橋近くで店出すって」

 

 そう言われれば船から降りた時言っていたな。しかし俺は、ここの地理に詳しくはないからあんま考えてなかった。

 

「あと来るの遅いわ」

「いや行くつもりでしたって」

「ジミー殿お知り合いですか?」

「うん? あんた連れがおったんか」

 

 ……しまった。やばいよ、このパターン。

 

「う~ん、誰やあ……って、その鎧リュミエールんとこの」

「はい、自分は栄えあるリュミエール聖騎士団の団長シャルロッテ・フェニヤであります!」

 

 ……思ったけど、シャルロッテさんって結構ホイホイ名乗るよね。それいいの? 

 

「ほぉ~あんたが団長はんやったか……と言うか、あんたジミーって」

 

 訝しみ俺を見るカルテイラさんに対して俺は、シャルロッテさんに見えない角度で顔を強張らせながら「シ────ッ!!」と指で黙っているようジェスチャーを送った。それを見て一瞬ポカンとしてすぐさま何時もの様にニンマリと笑った。わっはっは、商人って本当人の気持ち表情だけで読み取るの巧いね。二日前ぐらいに同じ状況ありましたけどね、ちくしょう!! 

 

「にしししし、あっとそう言えば挨拶まだやったわ、リュミエールの団長はん。ウチ風読みの相場師カルテイラ言います」

「なんと! あの風読み殿でありましたか」

「にしししし、リュミエール聖国では、何度か商売させてもらいましたわ」

「はい、自分は直接お会いできませんでしたがお噂はかねがねお聞きしていました。しかし、まさかジミー殿とお知り合いとは」

「そうそう、ウチとジミーはんめっちゃ仲良いんですわ~、もう良いお客さんでな~」

 

 すんごい笑み。すっごく笑ってるよこの人。

 

「ジミー殿はシェロカルテ殿と言い商人のお知り合いが多いのですね」

「うん、まあ色々入り用な事があったりしたりなんかしちゃったりして」

「どっちでありますか」

 

 まさか一時俺の船に居たなんて言えんから誤魔化すほかない。せめてもう半日後会えてたら良かったんだか、おのれ。

 

「んで、あんた何悩んどったん?」

「今言った通り、”知り合いの女性陣”に土産でも買おうと思ってですね」

「なるほどそれでか……どーせ、アクセサリーじゃ色々重いかなとか思っとったんちゃうんか?」

「すげえ、よくわかりましたね」

「顔に出とるわ」

 

 またかよっ!! 何なんだよ俺の顔はっ!! お気持ち伝言板でもついてるのか!! 

 

「別に気にせんでええと思うけどな、あんたの”知り合い”ウチも知っとるけど、そう気にせえへんやろ」

「そう言われりゃそうなんだけども……」

「よっぽど悩むんやったら適当な銘菓人数分買った方が無難やって。後にも残らず食って腹ん中に消えて終わりや」

 

 むむ、確かにそうだ。食い物か……いや、しかし今俺達同じ場所にいるのにアウギュステの銘菓買って喜ばれるのか? 

 

「それでも悩むんやったら、もう全部買いなはれや」

「うーん……」

 

 俺って優柔不断の時あるなあ……どうしようか。

 

「うごうごと、よう悩むやっちゃ……ああ、せやった」

「どうかしましたか?」

「あっと……団長はん、ちょっとジミーはんと個人的な商売の話したいさかい、ちょっとコイツお借りします」

「え? ああ、別にいいですが」

「ほな!」

「あ、ちょっと!?」

 

 突然カルテイラさんが俺の腕を引っ張り、そのまま強引に店の裏に連れていかれた。

 

「なんすか、なんなんすか?」

「今、ジミーにゃ用無いねん」

「おっと? ……なんかありましたか?」

「あんた、帝国がアウギュステに来とるって知っとるか?」

 

 おっとその話かあ~まさかここでその話出るとは……。シャルロッテさんは、特に聞き耳を立てる様子も無かった。話しても大丈夫だろう。

 

「その事なら、丁度昨日帝国の部隊とかち合いました」

「あっちゃあ~あんたまた」

 

 何が”また”なんですかねえ? 

 

「そう言う反応やめて下さいよ、別に戦ったわけでもないですし」

「甘いっ! そう言う考えが後々面倒な事を余計呼び寄せる事になるんやで!」

「うぐっ!」

 

 言わないでくれ、わかってる。俺にもわかってるし自覚はあるんだ。けど、希望を持ちたいのです。

 

「休暇中この話しするんも悪いかな思ったけど、意味無かったな。リュミエール関係だけでも既にトラブルに巻き込まれたみたいやし。な、苦労人の団長はん?」

 

 うるせいやい。

 

「ともかく、帝国の兵隊さんらなんぞ面倒な事しよるらしいから気を付けた方がええで? 知ってるやろうけど、あいつら前もアウギュステで碌でも無い事やらかしたさかい」

「勿論、なんせ当事者のリヴァイアサンから聞いてますからね……まあ忠告ありがとうございます。一先ず今日中に面倒事は済ませれるはずなんで、そのあと様子見て行動します」

「島は離れんの?」

「そりゃあ、離れられるなら離れますけどね、なんかヤバそうなら適当にお節介でもしますよ」

 

 そう言うとカルテイラさんは、また一段と明るい笑みを浮かべた。

 

「人のええやっちゃ」

「別に、海とか荒らされるとバカンス出来ないからですよ」

「そかそか~にしししし」

 

 私はわかってるよ、って顔して笑うんだから、んもー、調子狂うなー。

 だが帝国が来てる事は、もう街で噂になっていると言う事だ。これは、今頃奔走してもらっている皆も何か情報を掴んでるだろう。確かに一騒動……いや、もっと何か面倒な予感がするな。

 

「ちょっと土産買うの後にします。バタバタしそうだし、別の準備した方がよさそうですから」

「ん、なら買う時はウチんとこで頼むで。アウギュステ銘菓も仕入れたるさかい」

「……買わないと?」

「ちょこ~っとウチの口が軽くなるかもしれへんな~丁度今、にしししし」

 

 この野郎! 

 

 ■

 

 七 降臨

 

 ■

 

 団長がカルテイラと出会う少し前、アウギュステへと一隻の騎空艇が近づいていた。所々がボロボロになっているがそれでも悠然と空を飛ぶその姿は、間違いなくジータ達が乗るグランサイファーであった。

 

「な、なんとかここまで来れたぜ……」

 

 操舵士であるラカムが、舵を握りながらも疲れ果てた様子で呟いた。

 

「ああ、全くだぜ……」

 

 それに答えたのは、傍に立つ眼帯を付けた一人の騎空士。名をオイゲン、歳は50とラカム達と比べると上だが、騎空士としての腕に衰えを見せる事は無い。以前起きたアウギュステでの事件を切欠に、事件を解決してくれた彼女への礼と己の目的のためにジータの騎空団へと加わった。

 ベテラン騎空士の彼には、凄まじい強さを誇るジータも助けられている。彼女も騎空士としては、未だ素人。島を巡る中で必要な多くの事を教えられ日々成長している。

 

「あの、なんだぁ……お兄ちゃん分不足か? まさか、嬢ちゃんの無意識の力ってのがここまでヤバイもんだとはなあ……」

 

 そんな彼も、この日起きたあの【お兄ちゃん分不足による偶発的トラブルの発生と天候悪化現象】には、驚きと恐怖を感じた。

 

「結局あの後も上に何もないのに滝の様な水が降り、砂も無いのに砂嵐、魔物の群れが壁の様に襲来……あとは」

「何処かの島の破片が高速で横切ったよ……」

「あれな……あんな破片、そもそもあの大きさで浮力を失わずあんな高速で動ける破片なんて俺も長い事空にいたが見た事ねえぜ」

「あれは、マジでヤバかった……まともにぶつかりゃグランサイファーの横っ腹に大穴開いちまったよ」

「ああ、だがそこはお前と嬢ちゃんのおかげで乗り切れたな」

 

 何故か現れた高速移動する破片、それを巧みに巨体のグランサイファーを動かしかわすラカム、そして避けきれない破片を吹き飛ばすジータの二人で全ての危機を乗り切る事が出来た。

 

「ビィの話じゃ、とりあえず島で落ち着いて飯でも食えば多少は良くなるらしいとさ」

「多少でしかもらしい、なのか」

「気持ちの問題だそうだから、とにかくリラックスさせる必要があるらしいぜ? ホームシック的な奴らしいからな」

「わかるような、わからないような……」

 

 つまりそれは、今までの災難がジータの心象風景であるようなもの、一見穏やかそうに見えるジータだが今彼女の心は、無意識に荒れていると言う事なのだろうか。そこまで”お兄ちゃん”に会いたいのか、とオイゲンは思った。

 

(……だが、家族の様なものなら、そうなのかもな。あいつも、心ん中じゃあそうだったのかもしれねえ……)

 

 一方で何か思う所があったのか、空のどこかを見つめるオイゲン。

 

「どうしたオイゲン?」

「いやなに、ちょいとお嬢ちゃんの気持ちが分かるようなきがしてな……」

「へー? なら何すりゃあいつを落ち着けられるかわかるか?」

「決まってるだろ、家族……お兄ちゃんに会わせないとな」

「そりゃわかってるんだって……」

 

 ビィから聞いた唯一と言える解決策、お兄ちゃんに会わせる。それがすぐ無理だから頭を悩ませているのだとラカムは訴えるが、オイゲンは妙に神妙であった。

 

「ん? オイゲン」

「ああ、見えて来たな」

 

 暗くなりそうであった雰囲気を消したのは、視界に見え始めた青い島。それを確認するとオイゲンは、ラカムの傍を離れ船内への入り口を開けた。

 

「おーい、お前等!! アウギュステが見えて来たぜえ!!」

 

 そのまま大きく声を上げて船内に居る乗員へ向かい叫んだ。彼の良く通る逞しい声は、グランサイファーの中を巡りそして彼女の耳へと届く。

 

「は────いっ!!」

 

 オイゲンに負けぬ一際大きな返事が船の奥から聞こえて来ると同時にドタバタ騒がしい音と共に誰かが駆けて来る音がした。オイゲンは、その音を聞いて思わず苦笑した。そして、直ぐに自分の横を金髪の少女が素早く横切って行く。

 

「んもーっ!! ジータ待ちなさいってえっ!! まだ部屋の片づけ済んで無いでしょおーっ!!」

「たくよう……さっきの騒動で船内荒れ放題だってのに……」

「はわわ……ま、待ってくださぁーい……」

 

 遅れて聞こえて来る仲間の声。結局どんな事があってもいつも通りなのだと思うと、オイゲンはこの騎空団の仲間、そしてその団長が頼もしく感じられた。

 

「見えたっ!!」

「おいっ!! 前も言ったが航行中は、あぶねえからそこ登んなっ!!」

「あ、ごめーんっ!!」

 

 グランサイファーの船首へ上り遠くに見えるアウギュステを見てはしゃぐ少女を怒鳴るラカム。彼女は、謝りながら船首を降りると今度は、オイゲンの元へ駆け寄った。

 

「ねね! オイゲンさん! 前はあんまりゆっくり出来なかったから、ミザレアの街案内して!」

「おおいいぜ! 知り合いがやってる美味い飯屋紹介してやるよ!」

「やったあ!!」

 

 どんな事でも感情を一杯に表す少女を見てオイゲンは、どんなに強かろうが、どんな風に思われようが彼女は、兄と慕う者と離れれば寂しくなり、どんな事でも一生懸命な年相応の少女なのだと実感した。

 

(こんな風に、あいつと過ごしてやればよかったんだよなあ……)

 

 誰を思ってか、自分が自ら手放してしまった可能性を考える。そんなオイゲンの思いを知る事も無い少女は、今度はいつの間にかラカムの隣にまで来ていた。

 

「早く着かないかなー」

「おいおい、あんな事があってグランサイファーも本調子じゃねえんだ。島が見えたとは言え、焦らせないでくれよ?」

「えへへ、ごめんね」

「はっ! なんだぁ? えらい上機嫌だな?」

 

 ラカムに言われると少女は、はにかみつつ明るく答えた。

 

「なんかね、すっごい良い事ありそうな予感するの! だから、なんだか楽しみなんだ!」

 

【ジータと愉快な仲間たち団】、団長ジータ。

 アウギュステ上陸まで、あとわずか。

 

 






一 投稿後思い付き、急遽追加した2018/01/01/15:53頃の『番外の空』



 謹賀新年。我ら騎空団も、新年を無事迎える事が出来ました。ええ、ええ……

「……なあ」
「何だよ?」

 隣に浮かぶB・ビィ。ちゃっかり着物を来て新年モードかよ。

「なんか、俺ちょっと感覚が狂ったのかな……さっきまでアウギュステに居た気がしたんだけど……」
「何言ってんだよ?」

 いや、俺もおかしいとは思うんだけど、何なんだこの感覚……まるで読みかけの絵物語がいつの間にか2~3巻飛ばされたような……。

「なんかこれからって時のタイミングで、このやり取りをしてる感じがしてたまらないんだよ」
「いや記憶違いだろ? 人間の脳にはよくあることさ」 
「そ、そうかな?」

 ……いや、待て待て?

「お前……今、一瞬姿変わんなかった?」
「おいおい、お前さっきから何言ってんだよ」
「だ、だよな……疲れてんのかな、お前の姿がビィと同じに見えて」
「いや記憶違いだろ? 人間の脳にはよくあることさ」
「ッ!?い、今ッ!!」
「今度は何だよ?」

 た、確かにB・ビィの姿が一瞬変わったような気がしたが……。

「な、なんか俺やっぱ疲れてるみたいだ……」
「ああ、まあ無理ねえぜ。あんだけの団員達を率いてるんだからな」

 その中にお前も入ってるんだよB・ビィ?

「団員が集まってオセチ食べるのももう少し後だし、ちょっと寝てろよ」
「そうだな……」
「午後になればジータ達も来るんだろ?体休ませとかないとな!」

 うん、うんそうだね……。

「まあ、改めて明けましておめでとうB・ビィ。今年は、大人しくしろよ」
「何言ってんだよ俺は、いつだって大人しいもんだぜ!」
「いや、そんな事」
「いや記憶違いだろ? 人間の脳にはよくあることさ」
「ッ!?」

THE END”LESS”



二 後書



結局投稿が年を跨いでしまいました。初詣は秘丹弥虚羅多尊像。今年も今までの通り頑張ります。
キャラが一気に増えてきてますが、例によってここ独自の二次設定もありますので、ご注意ください。

そして以下、例によって後書と言う名の羅列達。

カルテイラ、あれなに……その、やばい。新年あいさつ。実質告白じゃん、もう騎空団辞めて商人に成ろう。イスタルシア?なにそれおいしいの?カルバもSR来たし、ドヤ顔クッソ可愛い。団長君の騎空団来る?トラブルしかないぜ。そして、星晶戦隊追加戦士候補が増えていく一方である。まあ、まだ手に入って無いけど<D・エンジェル。そんでクリスマスと言い年始挨拶にコンスタンツィアが無いのはどういうこったですか運営。あとバルルガンの季節行事挨拶、どんどん可愛く成ってると思うの俺だけ?そして団長きゅんには、生ごみを見るような目で見られるラムレッダ。

クリスマスウェルダーで年始挨拶をすると、矛盾の塊になる。

今更ながら、うちのセレストの話し方、自分としてはモバマス星輝子を参考にしてたのですが、どっちかと言うとグラブル的にアンナだった。もう少し差別化を図るかも知れません。

ジータの無意識化でのトラブル多発現象は、要は田中ロミオ先生著『人類は衰退しました』の妖精さんと同じです。ジータが居ると言う事は、15f相当かそれ以上の「妖精さんだらけ妖精さんまみれ妖精さんだく状態」であるので、仲間達は大丈夫(?)です

機神のオービタルフレームかメタルギアRAY感めっちゃんこ大好き。あっち召喚石にしてほしかった。

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