俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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短編でふと描きたくなったグラブルギャグ。ザンクティンゼル旅立つまでぐらいは続けるつもりです。




本編
幼馴染が旅立ち、ババアが来た日


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 一  いい日、旅立て

 

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 ある時、俺の住む島ザンクティンゼルへ少女が“堕ちた”。それが全ての始まりだった。俺はその場にはいなかったが、村に住む幼馴染のジータが彼女(ルリアと言う名だと後に知る)の元へと向かった。そして直ぐエルステ帝国の船が現れそこから兵隊達がルリアを狙う。その中でジータはルリアを守り一度命を落とす。

 だが奇跡を体現した様な少女であったルリアの力によりジータはルリアと命を共有しその魂を蘇らせた。元より非凡な才能を持つ彼女は己を殺した魔物を打ち倒し兵達は逃げ帰った。

 そして、ジータと少女達は旅立つ。自身の親の残した言葉を胸に。少女を救う使命を受けて。遥かなる空の先、星の島イスタルシアを目指して――

 

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 二  ワイ、幼馴染が強すぎて引く

 

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 だが、だがあえて言おう。そんな事は、どうでもいいのだ。

 いや、どうでもいいと言う事は無い、無いのだが――しかしこの事は殆ど数日の内に起きた事で実に事態急変、急転直下の連続である。俺はもうわけがわからない。

 ジータは年下の友人であり妹のような幼馴染の少女だ。そのジータがいつの間にか死んで生き返って、しかも星晶獣と言う化け物を操る術をルリアと命を共有する事で間接的に得て元より非凡の才能を更に開花させ俺より一つ下の少女と思えぬ歴戦の勇士の様な風格さえ漂わせていた。「私今なら何でも出来そうッ!!」と溢れる力を抑えきれず、森に出て魔物を狩りまくった彼女を見てどう反応せよというのだ? 「スーパーザンクティンゼル人かな?」と思わず言えば、「やだもー」と照れ隠しの手刀をくらい俺の意識は刈り取られた。よしんば照れ隠しでビンタはわかるが手刀とは、実に殺意が高い。恐ろしく早い手刀、俺でなきゃ見逃しちゃうね。尤も見えるだけで避けれないが。ぐえー。

 そして帝国兵襲来の次の日。

 

「私、お父さんに会いに行くっ!」

 

 と、決意した目でいきなり宣言された俺は、尚更どう反応せよと? 間をおいて「はあ、そうか」としか言えず、ルリアの保護者らしいカタリナと言う女性に取りあえずジータと相棒の子供ドラゴンのビィを共々宜しくと言うぐらいしか出来なかった。

 そして更に次の日にはジータ一行は、小さな騎空艇に乗りこみザンクティンゼルを去った。操縦するカタリナさんの操縦が下手だったのか無茶苦茶な飛行をしながら雲海へと消えた騎空艇に一抹の不安を覚えながら、初めて俺はジータが旅立った事を実感した。

 この間二日と半日である。ジータ、君は確かに御淑やかなようで嵐の様な性格だが、一変死んで生き返り、一日ちょっとで星の島を目指すとは、落ち着きが無さ過ぎないだろうか。しかもルリアと言うなにやら帝国がらみの問題まで抱えている。心配だ。実に心配である。

 だがどうしてであろうか、不思議と彼女の死ぬ姿はまるで想像できない。いや、一度死んだらしいが多分もう死ぬ事は無いような気がする。それどころか行け行けドンドンと帝国を蹴散らし化け物共も跨いで通るような姿の方がしっくり来るしまつ。いつかきっと、ドラゴンすら跨いで通るかもしれない。噂でそんな奴がいると聞いた事もある。きっとジータと気が合うだろう。

 そしてそれで終われば幼馴染が旅立っただけで終わるが、どっこいそうはならず、この時から俺の災難と試練と苦難の日々が始まるのだ。

 

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 三   婆襲来

 

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「あの子が旅に出たから次はあんただねぇ」

 

 ジータが旅立った次の日、俺の元に村に住むばあさんが現れた。ばあさんはよくわからない事を言いながら突然俺の首根っこを掴み、そのままズルズルと俺を引きずり連れて行った。

 恐ろしきはその力であり、普段腰を曲げて歩くばあさんと思えぬ足取りと力に俺の抵抗はまるで意味が無かった。

 その日から唐突な地獄の特訓が始まった。

 連れて行かれた訓練場で、俺はわけがわからぬままに刀剣類や弓に銃に鎚に槍に格闘技に、果ては楽器までも使い特訓を強制的に受けさせられた。これら武器(楽器も?)の扱いをマスターするまで続けるというのでたまったものではない。そもそも何故俺がこんな目に遭わねばならぬ。と非難の声を上げるとばあさんは、突然語りだす。

 

「ジータはあの人の娘……かねてよりその力が非凡である事は、無論わかっていたよ……1を教えればあの子はそれで10を知り、そこから100を覚える。あれは正に天賦の才」

 

 んなこたぁ知っている。あの娘の凄まじさは今回の事で更に思い知らされたのだから。

 

「そしてあんたはその逆……剣を振るった事も無ければ弓もまともに扱えない」

 

 それも言われんでも知っている。わざわざ言わないでほしいものである。

 

「だが、故に面白い。あんたにはあの子と違う才がある」

 

 ばあさんが、目を光らせる。

 

「言うなればあの子はどのような事も幾らでも受け止め蓄えられる巨大な器、最早大海とも言えるその器は一度蓄えれば尽きず、あらゆる戦う術を己のものにする。ならばあんたはなんだ? あの子とは違うあんたはあらゆるものを吸い取る布さ。今はまだカラカラのただの布切れ。だけどね、あんたという布はこれから技と言う水を吸う。しかもその布は、幾ら吸おうが限界は無い。だが溢れぬ無限の器と違い、吸い続けねばいつかは乾く布なのさ」

 

 なるほど、ばあさんの言いたい事はわかる。要はジータは一度身に付けたらそれを完全に自分の物にしてしまう。一方俺はジータと違い、得た経験を直ぐに己のものとするがほっとけばそれも忘れちまうと。

 

「だから鍛える。一日も絶えず、怠らず、只管にやるよ」

 

 いや待て、やはりわからん。答えになっていない。ジータと俺の才能はこの際どうでもいい。何故俺がこんな目に遭ってるのかの答えが出てない。

 

「そんなの決まってる。あんたが旅立つあの子を追いかけたそうにしてたからねえ」

 

 そのような事実はございません。

 マジな話、確かにジータは心配だ。どちらかと言うとジータの周り、彼女に振り回されるビィなどの面々のほうだが。ジータに振り回されて何度ビィが死にかけたかわからん。稀に文字通り振り回された時があるのだから悲惨だ。挙句精神を崩壊させ「オイオイオイ、死んだわオイラ」「オイ、オイ、オ、オイオイラオイララ……オイラァッ!!」となんかヤバイ感じになった時期もあった。ビィ、今頃どうしてるだろうか? また精神を崩壊させてないといいが。

 だがそう言ってもばあさんは「あたしはわかってるよ、坊主」的な視線を向けるばかり。ねえ聞いて、聞いてクレメンス。

 無常にも修行は続行された。

 

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 四   デケェ!!

 

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 さらに暫く経った時、島に異変が起きた。

 ザンクティンゼルには〔碧空の門〕と呼ばれる場所がある。閉鎖的な島の中で、外に通じる場所のひとつ。そもそも山に囲まれた所為で騎空艇での飛行技術が向上するまで正に閉ざされた島だった。そんな門へと行くまでに島の中の森を歩く。その森には、古くから星晶の祀られる祠がある。ありがたい場所であり、森には魔物も出るため遊ぶような場所ではなく、子供はおろか大人でさえも近づかない。また、そこには選ばれた巫女などしか近づいてはいけないと言う理由もあった。

 唯一、例外としてあのジータを除いて。

 彼女は、とにかく奔放でヤンチャだった。だから大人に近づくなと言われた祠だろうと魔物の巣窟であろうと、ガンガン突き進む。それに付き合わされたビィは勿論だが俺も悲惨であった。何度死にかけたかわからない。

 話を戻すと、その碧空の門へと向かう祠で異変があった。だがこの異変に気がついたのは俺とばあさんだけであった。ほかの皆は天気が変わったかな程度にしか感じ取っていないが、俺達は大気を振るわせるような力と重圧を感じた。

 

「どうやら星晶の力が溢れたらしいねぇ……」

 

 ばあさんの言う事はよくわからないが、何かえらい事が起きたのは確からしい。果たしてどうするのかばあさんに聞くと「お前がやるんだよ」と言われた。

 

「星晶獣でも特に力の強いのが、真の力を解放したんだよ。きっとお嬢ちゃんあたりが楔を壊したんだね。ただそれだけなら力が漏れる程度だろうけどね。これも多分だけど、お嬢ちゃんが旅に出る前にここで遊んで偶然祠をいじったんだろうねぇ」

 

 待ってほしい。ジータが何かしたのはまあしょうがないとして、今の事態と俺が解決する事が結びつかない。俺に彼女の尻拭いをしろと言うのか。

 

「ほっとくと、溢れた力の制御が利かなくなる。危険だから止めるよ」

 

 サラッと言うけど、俺がだよね?

 

「当たり前さ、修行の成果をみせてみな。あんたなら一人(ソロ)でもあの状態(レベル50)もいけるさ」

「無理っす」

 

 俺は即行で逃げ出した。

 

「逃げ切れると思うのかい?」

 

 だが後ろを向いた瞬間にばあさんが目の前に現れた。即座に俺の鳩尾に拳が抉り込まれ、俺の意識は一時途絶えた。だが手加減をしたのだろうか、俺の意識は少し後で目覚める。そして目の前に現れたのは、今度はばあさんではなく巨大な女だった。そう、女だった。3頭の首の長い竜を従える巨大な女だった。

 

「人ノ子ガ、風ノ力ニ敵ウト思ウノカ」

 

 思いませんから帰っていいですか?

 

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 五   勝ってしまった。

 

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 あの日、突風旋風大嵐で大騒動であった碧空の門付近での戦いは俺の勝利で終わる。実に激しい戦いだった。巨大な女ティアマト、彼女は風を司る星晶獣。ティアマトは、まずその巨体が既に圧倒的な武器であるが、それ以上に常時突風が吹き俺を吹き飛ばそうとして、そうかと思えば上下左右360度全方向から紫の光線が飛び、圧縮した風の力で土地ごと吹き飛ばそうとしたりと最早人間のやる戦いじゃないと思った。それで勝ってしまったのだから我ながら自分も化け物じみたと思う。ばあさん経由で以前手に入れた火の属性付与の剣が無ければやられていた。

  戦い終わってコテンパンにしたティアマトに話を聞いてみる事にする。少ししょんぼりしながら巨体のまま正座して他の三頭の竜達も頭をたれていてちょっとかわいい。

  彼女ティアマトは、普段は別の島であるポート・ブリーズ群島で祀られる土地神である。そんな彼女が少し前になにやら帝国の罠にはまり、同時に「最近人間ガ私ヲ信ジナイ」とかナイーブだった所為で案外あっけなく洗脳されたとか何とか。んでポート・ブリーズ崩壊の危機の中それをジータが物理で止めたらしい。やるな、流石ザンクティンゼルのリーサル・ウェポン。

 以降ジータと共に居る蒼の娘ルリアの呼びかけに応える形で力を貸していたが、旅立ちより以前にここで遊んでいたジータがいじった祠に綻びが生まれここにも顕現した。

 ちょっとまってよ、君普段ポート・ブリーズにいんじゃないの? と聞くと、あの姿は〔マグナ〕と呼ばれるものでありどっちが本体とかあまり区別は無いとか。マグナの力が強すぎるためにポート・ブリーズ一箇所で力を留めておくとヤバイから、封印に適したこの地に他の星晶獣と寝てたと言う。

 ほーん? 他の星晶獣、と。

 この時点で言っておこう。嫌な予感しかない。

 暢気に茶を飲んでたばあさんに視線を送ると「ひっひっひ」と急に魔女みたいに笑いながら「今更祠を直したって、溢れた力は収まらないよ」「なぁに今日明日ってわけじゃない、しばらく体を休めておきな。そしたら直ぐに修行だよ。次何が出るかはわからないからねぇ」だと。

 更にばあさんは「お嬢ちゃんならもう少し上手くやれたかもね」「婆の私でももう少し早く出来る」とダメだし。ならばあさんがやれよと非難の目を向けるが「これも修行だよ」と言われる。

 冗談ではない、逃げるぞ俺は。

 

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 六   【魔境】ティアマト、我が家に居つく【ザンクティンゼル】

 

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 なんかティアマトが縮んだ。曰くマグナ本体を祠の所で休ませた状態での分身かつ省エネモードらしい。マグナ形態のボインちゃんからちょい控えめボディになり身長も俺よりちょい下程になる。三頭の竜(ニル、ゼル、エア)もミニサイズでどこかビィを思い出す。

 いや待て。ビィを思い出してちょっとほっこりしたがなんで君縮んだの? あとなんで家にいるの?

 

「星晶ノ力ヲ、正面カラ打チ破ル人ノ子、オ前ニ興味ガワイタ」

 

 いや知らんがな。

 

「アトアノ老婆ガ、オ前ヲ鍛エテヤレト」

 

 またばあさんか。あのばあさん、ティアマトを修行サボり阻止のために派遣しやがった。なんというばあさんだ。監視役に星晶獣使う奴があるか。第一、いきなり竜を三匹引き連れた女連れ込んで他の人にどう説明すればいいのだ。俺は村で一人暮らしで人の目も在ると言うのに。

 

「なんだ、ジータちゃんが旅立ったと思ったらまた変なのが来たなぁ」

 

 全く心配なかった。

 村人全員ティアマトとニル達を見ても「わ、知らん奴」「ほ、何時の間に?」程度で、俺の家に引き取る事ということを言うと「がんばっ!」で終わった。

 ジータとビィと言う前例を忘れていた俺は、同時にこの村の住人がばあさんほどでないにしろちょっとおかしい事を忘れていた。

 不本意ながら無事にティアマトが我が家の住人になった事で、俺の修行バックれ計画はほぼ消えてなくなった。というかティアマトが一々「コノ食ベ物ハナンダ?」「食エルノカ」「風呂ッテナンダ」「服ガ無イゾ」とか世話がかかる。星晶獣って神様じゃねーのか? なんも知らないじゃないか、と憤慨してると「人ノ生活マデ知ラヌ」と言われた。とにかく赤子より手のかかるティアマトに振り回されサボりどころではない。それどころか朝昼晩ティアマトだけでなくニル達の世話までするのだ。俺が。もう一度言う、俺が。

 朝起きると、現在のサイズで寝たことが無いティアマト達はベッドの上でこんがらがっていた。最初そう言うプレイかと疑ったが、ティアマトもニル達も息苦しそうだったので寝相が悪いだけのようだ。俺の朝は彼女達を解く事で始まる。

 飯を食わせるとティアマトが外でザンクティンゼルに風を吹かせる。風を司る彼女は、風を吹かせるのが日課と言う。風を吹かさないと調子が悪くなるとか。ウンコみてーだなと言ったらトルネードディザスターで吹き飛ばされた。

 ばあさんの修行に行く前に洗濯をする。洗い物を外で干すとティアマトが風で乾燥させてくれるのでこれは助かる。星晶獣でもトップクラスの存在を洗濯乾燥に使うなど全空でも俺ぐらいだろう。

 昼前、修行開始。またばあさんにしごかれる。今まででも大概辛かったのにまた修行の激しさと使用武器の種類が増えた。俺の使いたい武器の要望を言うとばあさん経由で何かしらの武器が手に入る。だが最終的な武器チョイスは俺の実力に見合ったばあさんチョイスなので、完全に要望通りの武器が来るかはわからない。しかしばあさんの武器入手経路が謎なのは気になるが、聞いたらなにか怖い気がするので聞けない。

 

「その内あんたもいろんな島に行って、いろんな武器を自分で手に入れるといいよ」

 

 ばあさん曰く、武器には人との縁があるものが多いと言う。縁が強い武器を手に入れれば、武器と縁のある何者かと出会い仲間となるかもしれない。おそらくジータもそうしているはずだと。

 じゃあ俺の武器は、縁もゆかりもないちょっと良い(レア)武器と言う事かと聞けば、「あんたにはそれで十分さ」とにべも無い。仕方なく俺は、ばあさん経由(ガチャ)で手に入ったちょっと良い(レア)武器でセコセコ修行するのである。

 

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 七   もっと熱くなれよっ!!

 

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 家が揺れた。急に嫌な気配がすると思ったら、圧迫されるような感覚と共に嫌に村全体が熱くなった。そしてこの感覚は、ティアマト出現の時と同じ感覚であった。

 

「どうやら次が出たみたいだね」

 

 ばあさんがまるで焦った様子も無く笑って祠の方角を見ている。

 

「この熱気……どうやら相手はとっても熱いようだよ。水属性武器を持っていきな」

 

 それはいいが、姿が見えない段階でこの熱さだと死んでしまいそうだ。無言の抗議を続けるがばあさんはそれを無視。そしてピクニックに行くようなバックの中身を見せる。中には、赤い瓶が何本もあった。

 

「死に掛けたらエリクシールぶっ掛けてやるから安心おし」

 

 なにも安心できない。

 エリクシールと言ったら秘薬である。一応は市場に出回るようだが、基本的に高価で模造品も多く、手に入っても精々ちょっとした体力回復効果のあるハーフサイズ程度のはず。それをばあさんが何十本ももっている。

 この際どうやって手に入れたかは追求しないとして、この瓶一本あれば確かに即死でもなければ死ぬ事はない。ないのだが、それはつまり、俺は死に掛けても戦わされるという事を意味した。

 ふと、近くでビーチ用の折り畳みベッドでサングラスを付けてキンキンに冷やした飲み物を飲んでくつろいでいるティアマトを見る。

 

「ティアマトは、手伝ってくれたりとか」

「アレハ熱イカライヤダ」

 

 にべもにない。あとお前、そのベッドどうした? 買った? 金は? 俺の金で? 買ったの……あ、そう……勝手に、おま、お前、お前……。

 いや、しかし冗談ではない。確かにティアマトには勝てたが、次もそうとは限らない。俺は逃げ出した。今度はばあさんの動きを予測し逃げ切ってやる。

 

「予想して逃げ切る。そう考えてそうだけど甘いよ坊主」

 

 が、またも回り込まれた俺は手刀で意識を刈り取られた。次の展開、予想できます。

 

「―――ッ!! ――――――!!!」

「何言ってるかわからねえ」

 

 熱さで目を覚ますと、ティアマトほどではないにしろ巨大な鉄の鎧が俺を見下ろし言葉にならぬ鉄が擦れる様な音を上げていた。手には巨大な剣。当然ばあさんとティアマトはいねえ。

 やるっきゃない(諦め)。

 

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 八   また勝ってしまった。

 

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 ファッキンホット(クソ熱い)ッ!!

 戦い終えた俺は脱水症状で死に掛けた。ばあさんに運ばれ家でティアマトの出す風で冷やされているとティアマトにエリクシールぶっ掛けられた。ティアマト、違う。それは口で飲む物です。けどそれで症状が改善されるのだからさすが秘薬である。

 今回の相手は、巨大な鉄巨人コロッサス。いやぁ、今回も強敵でしたね。などと他人事のように言いたくもなる程疲れた。ティアマトの時も大概疲れたが、今回はとにかく熱かった。熱は熱いし、気温は暑いし、コロッサスの装甲も厚い。熱い、暑い、厚いと熱盛状態だ。正直やってられない。次元断とか言う一文字の斬撃なんか食らえばミンチより酷い事になるのは間違いなかったろう。

 結果的に鎧もボコボコにしてやったコロッサスは、すっかり熱が冷めサイズダウンして俺の家にいた。

 お前もか、コロッサス。

 

「――――……―――……ッ!」

「何言ってるかわかんねえ」

 

 ティアマトの通訳を交え一応流れで話を聞けば、ティアマトと似た展開であった。

 コロッサスは、もともとドラフ族と言うでかい角付きの種族が主に居るバルツ公国で作られた星晶獣。ざっくり言うと昔々労働力としての奴隷だったドラフ族の怨念が宿ったとかなんとか。怨念がおんねん、などと下らない事を言いたいほど暗い話で言う事無い。まあ暗い話はどうでもいいや。結局未完成だったけど最近帝国がなんかいらん事して結果的に完成してバルツヤベェとなった時に、ジータが現れ物理で止めた。ジータ、また君か。

 結果的にティアマト同様呼ばれたら力を貸してるとか。

 それはいいんだけど君なんで家に居るの?

 

「オ前ガ倒レテル時ニバアサンガ、家ニ来イト連レテ来タ。修行ト監視用ニダソウダ」

 

 あの婆っ!!

 

「ヨカッタナ、家族ガ増エタゾ」

「よくねえよ、ティアちゃんっ!!」

 

 平穏が、ガラッと壊れる、音がする。俺、心の俳句。

 

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 九   (`・ω・´)

 

 ■

 

 拝啓、ジータさん。お元気ですか? 落ち込んだりばかりで、俺はもうだめかもしれません。もし話が出来るならお聞きしたいのですが、そちらのコロッサスとは、どうやってコミュニケーションをとっていますか? 我が家のコロッサスなんですが、ちょっとおかしいかもしれません。

 

「(>▽<☆)オハヨウ」

 

 これ、これね? コロッサス。ちょっと意味わからないけれどね、コロッサスなのね。今朝起きたらこの……これ、なに? なんて言えばいいのか、とにかくこうなってた。

 

「(`・ω・´)/シャキッ」

 

 わぁ、凄い感情豊かなのね君。それでそれ、どうなってるの?

 

「(´・ω・`)?」

 

 なんかできた? 気合で? 自分でもわからない、と。このなんと言うのか、表情が現れてるのか、浮かんでるのか、俺の脳に直接見せてるのかわからないが、とにかく表情がわかるようになった。気合で何とかなるなら発声能力を取得してもよかったんじゃないかと思う。

 

「((-ω-。)(。-ω-))ンーン」

 

 あ、これでよかったのね。

 

「(`・ω・´)ウン」

 

 

 まああんたがそれでいいならいいけどさ。サイズダウンしてもごっつい黒い鎧なもんだからギャップが激しい。本気でジータに会う機会あったらあっちのコロッサスはどんな感じか聞いておこう。

 

「(*´∀`*)ノオハヨウ」

「ウワ、ナンダオ前」

 

 ティアマトもびっくりだった。

 ところでコロッサスだが、案の定ティアマトとニル達で我が家のキャパシティーは当然の様にオーバー、入りきらない。すまんなコロッサス、お前は基本外で置物になってくれ。雨降ったらちゃんと屋根は作るから。

 

「(*´・∀・*)ヨロシクオネガイシマス」

 

 すまんな、恨むなら無責任に俺の家によこした婆さんを恨め。

 なお、村人達は「でけー案山子だな」「なんだ動くんか、ちょっと荷物運ぶの手伝って」とちょっと反応が鈍すぎる。

 

「ヽ(`∀´)ゝイイヨッ!!」

 

 そして嫌な顔一つ……そもそも表情筋がないが、喜んで村の手伝いをするコロッサス。

 オイオイオイ、良い奴だわアイツ。

 

「ヨクヤルナ、アイツ」

 

 一方ティア様、家のソファーでくつろぎながら菓子食ってる。薄い服をだらしなくはだけさせて、色っぽさよりおばさん臭い。君数日でイメージ崩壊してない? ニル達もだらしない主(?)に困惑している。

「アノ老婆ニ頼マレタノハ、オ前ノ監視ト修行デアッテ、家ノ事ナド知ラン」

 

 ちくしょう。

 だがそれは構わないが、そんな生活すると太ると思う。

 

「星晶獣ハ太ラナイ」

「本当かよ……」

「太ッタ星晶獣ナンテイナイ、ツマリ星晶獣ハ太ラナイ」

 

 星晶獣の事にそんな詳しくないのでそう言われると否定も出来ない。だとしても家の食料を勝手に食わないでほしい。

 なお、数か月後の事。見事腹の弛んだデブマトが出来上がり、世にも珍しいダイエットに勤しむ星晶獣(笑)の姿があった事をここに記す。

 きっともう星晶獣の住人は増えない。ありえないしね。ただでさえ家にトップレベル(SSR)星晶獣がゆるキャラ化して住んでる状態が異常なのに、これ以上そんなことある? きっと無いさ、ないないない。アハハ。

 

 

 




主人公は、強くなりますがこの世界でジータとばあさんは、ちょっと強すぎる。なんで一度とはいえ死んだんだろうってぐらい強い。きっとルリアを護るために油断したんだ。と言う感想は、アニメを見て思いました。

追記
あんまネタ解説は、寒いかもしれませんが、村人の「ほ、何時の間に?」は、東映版スパイダーマンの空耳が元ネタで、思いつきで入れました。すみません、誤字じゃないです。

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