いくら追っても逃げて行く
こちらが逃げれば追ってきて
こちらが追えば逃げて行く
―ウィリアム・シェイクスピア―
「終わったあ……終わりましたよ先輩……」
色んな意味で……、と一色は付け足す。
「いや面白かったからいいだろ」
「良くないですよ!」
一色はぷんすか抗議しながら、俺の肩を叩く。すると、少し遅れて晩翠が会議室から出てきた。
彼女は俺たちに気がつくと、駆け寄って来る。
「いやあ……難しいねえ」
殊更その笑顔を強調して、晩翠は呟いた。
え……あれ演技なの……? なんて動揺している俺をよそに一色が微笑む。
「晩翠先輩? 何であんなことしたんですか?」
「ん? なんのこと……?」
どうやら一色も俺と同じことを考えたらしい。だが、晩翠は演技とも思えぬくらいごく自然に分からないと主張する。
「まあ、過ぎちまったことは仕方ないしな」
今更いうことでもないだろ、と言外にこめて一色を宥めようと試みる。
「そうだよ!」
晩翠が言うと、「お前が言うな」みたいな目で一色は晩翠を軽く睨めつける。
「てかあの会議の問題点は責任の所在だし」
このままだと責められそうな晩翠を庇うように俺は唐突に本質を切り出した。
「……どういう意味ですか?」
「責任を取るべき、いや取らされる人間がその責任を分担している事だ」
「は?」
「いやだからさあ……、まあ簡単に言うと……難しいな。なんて言えば」
うまく言い表す言葉を探そうと、思索にふけていると晩翠が横から口を挟む。
「誰に責任があるかを明らかにしないから?」
「……例えば?」
一色は不機嫌そうに聞き返す。
「んー、いろはちゃんとか」
「私ですか?」
「うん、私もよくわかんないけど……」
一色に鋭く聞き返されて、晩翠はそう前置きをしてから口を開く。目の前ではぞろぞろ小学生たちが帰り始めていた。お疲れ様です先生……。
「決める時は決める。一番いけないのは優柔不断な態度! そういうスタンスで行けばいいんじゃないかな?」
晩翠のアドバイスは思いのほか、的確だった。言い方さえ由比ヶ浜みたいだが、本質をついている。俺はそう感じた。
「うう……なったばっかりなのに……」
「まあそれは、確かに」
項垂れる一色に同情する。同時に俺の責任の重さを痛感した。飲み物でも買ってやるか、と自販機の前に立てば、横からひょいと顔が覗く。
「よっ、比企谷」
「なにか用か」
「いや、別にー。いたからさ」
「あっそう……」
折本の対応に困っていると、折本は視線を俺から一色、そして晩翠に移す。当然一色はあからさまに嫌そうな顔をするはずもなく営業スマイル。しかし晩翠は小さく小首を傾げる。
「どうかした?」
「あ、うん……さっき凄かったなあって」
「折本さん、だっけ? 折本さん基本、それあるしか言わないよねー」
「え、あ、それあるかも……」
……折本が圧されてる? あの折本が? デリカシーの欠けらも無いし、ボキャブラリーにそれあるしか載ってない折本が……?
俺が驚き、慄いていると晩翠は折本との距離を一歩詰める。そも折本が距離感無視なこともあり二人の間はゼロ距離になった。二人はしばらく見つめ合い、たっぷり時間をとってから二人同時に言葉を被せて、俺の顔を見る。
「君の周り美人ばかりだね」
「比企谷の周り可愛い子多くない?」
「どちらかと言えばおかしな知り合いの方が多いかな」
以前一色に言われたことも交えて即答する。
すると一色がむっと噛み付いてくる。
「まあ、私を除いて変な人ばかりですよね」
「いやいや君、トップ争うレベルだからね?」
とにかく話を逸らそうと、ぱっと晩翠たちを見ると、折本と目が合ってしまった。折本は目をぱちくり開いてから、俺に問う。
「雪ノ下さん……だっけ? あの人たちは?」
「あの二人もなかなかですよね、先輩」
ああ、そうだな、と言いかけたが言葉にはならなかった。ただ空回りして開いてしまった口を誤魔化すために、自虐を加える。
「まあ、俺を抜くやつなんて居ないが」
「だよねー! マジウケるー」
そう言えば折本のマジウケるーなんてアホな言葉も久しぶりに聞いた気がする。どうやらそれあるーに上塗りされていたらしい。それほどまでに中身のない会議を繰り返していることの証左だ。
「まあ、あれだな」
自分が考えていた言葉を口から出して、俺は唐突に話を原点に回帰させる。
「必要なのは意識改革だ。俺は絶対に潰す」
そんな中学二年生の言いそうなことを吐き捨ててから、握った拳の熱が冷めあらぬうちに俺は外套を纏う。
「当然私たちも手伝うよ!」
「まあ……進むなら……」
やけに積極的な晩翠と、消極的ながらも追従する一色。まるでアニメのワンシーンみたいな小芝居を繰り広げていたためか、折本はきょとんとしていた。というか理解したところで海浜への脅迫とも取れるんですけどね……。
とにかくまずば一色に対しての責任を取り、段階的に残りを解決していこう。
誰にいうでもなくそう誓ってから、しかし俺はなにをすればいいのか、まるで迷子の幼子のように、微塵も分からない。
とにかくまずは、一色。
最近揺らぎやすくなってしまった何かが揺るがぬように再度自分に言い聞かせる。
さしあたっては、飽きもせずに同じことを繰り返すだけなんて笑えないお話だが。
3話連日投稿なんて勉強もせずに何やってるんだろーね……。こっちの方が笑えないお話なんだよ。まあさしあたっては、勉強するしか無いわけだけれども……。気づけば高校生も終わりに近づき、DKブランドが……なんて呟いている毎日でございます(嘘)
比企谷くんたちと同じ身分で無くなるのが寂しい気もするけれどおじさん達の反感を買わぬようここら辺で終わっておきます。
感想・評価等お待ちしております(笑)