未来からの手紙   作:スターゲイザー

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第三十八話 神を超えろ

 

 倒れ込んだ悟空の下に駆け寄る悟飯と悟天。

 

「父さん――っ!」

 

 泣く悟天は胸に穴の開いた悟空の遺体に縋りつき、悟飯が愕然としながら見下ろす。

 

「貴方達の父は確かに強い男でしたよ」

 

 父親を目の前で殺された悟飯達を目の前にして、殺したフリーザがその指先から心臓を貫いた気弾を放ったゆっくりと右腕を下ろす。

 

「お前が!」

「止めろ、悟天」

 

 涙を流し続けながら悟天がフリーザに襲い掛かろうとしたがベジータに止められる。

 

「お前では奴に掠り傷一つことも出来ん」

「でも!」

「無駄死にしかならんぞ。カカロットのことを思うならば堪えろ」

 

 ベジータは誰よりもフリーザとの力の差を理解しているからこそ、言い募る悟天が暴走しないように言葉で押さえつける。

 

「ベジータさん、あなたはかかって来ないのですか?」

 

 自分の部下だった頃の冷酷非情だった姿を知るフリーザは、悟天を止める今のベジータに姿に目を見張りながらも尋ねた。

 

「あの時のカカロットの力は俺達を遥かに超えていた。そのカカロットを足元にも寄せ付けなかった貴様に向かって行ったところで勝ち目は億に一つもない」

 

 あの最後のかめはめ波はベジータの数十倍から数百倍の力だったからこそ、傷一つ付くことも無かったフリーザに挑んでも無駄死にしかならないと諦観から悟ってしまう。

 

「賢明なことです」

 

 と、フリーザは言いながらも嘲笑する。

 

「随分と軟弱になったものです。力の差を理解しながらも向かって来たナメック星の頃とは大違いですよ」

「貴様にそう思われても別に構わん」

 

 挑発をしてくるフリーザにベジータは予想外の返答を返す。

 

「俺は今の自分をそんなに嫌いではないからな」

 

 言って、悟空の遺体に縋りつく悟天と呆然と見下ろす悟飯、悔し気に唇を噛むトランクスを順に見て、覇気も露わにフリーザを睨んだ。

 

「だが、こいつらを、この星を壊すというなら命を賭けて阻止する!」

 

 裂帛の気合と共に叫ぶベジータの威圧を柳に風と受け流しながらフリーザは肩を竦めた。

 

「サイヤ人のあなたがこんな辺境の星にそこまで思い入れをするとは、昔からは想像も出来ませんね」

「今の俺はサイヤの誇りを持った地球人だ。なんとでも言うがいい」

「…………興覚めです。あなた達、サイヤ人には心底から失望しました」

 

 殺す気も失せたとベジータ達に背を向けて地球から去ろうとしたフリーザの動きが止まった。

 何かに気付いたかのようにベジータ達からは少し離れた場所に向けて手を上げて気功波を撃つ体勢になったが、直ぐに下ろした。

 

「は、破壊神ビルス!?」

 

 直後、フリーザが気功波を撃とうとしていた場所に現れた者の姿を見てベジータが驚きの声を上げた。

 ビルスは呼び捨てにしたベジータをジロリと見たが、今はこちらが優先とばかりにフリーザを見る。

 

「これはこれは破壊神ビルス様ではありませんか」

「…………フリーザ」

 

 鷹揚に言ったフリーザを何故か苦い表情で見るビルス。

 ビルスには見ただけで分かってしまったのだ。フリーザが自分を遥かに超え、それこそ全王の力の領域に踏み込まんとしていることが。

 

「暫く会わない間に随分と強く成ったようじゃないか」

「ええ、アナタ以上にね」

「ぐっ」

 

 正確に力の差を理解してしまった為に、フリーザに反論できずに言いづまったビルスは喉の奥で唸る。

 力を開放していないにも関わらず、悟空と同じくビルスでもフリーザの力はその底どころか天井すらも判断がつかない。

 

「分かるか、ウイス」

 

 己の背後に控える従者に望みを託して聞く。

 

「井の中の蛙が大海の広さを体感できぬような状態ですね」

「つまりは?」

「戦いにすらならないでしょうね。そもそも私は戦うことは出来ませんが」

 

 中立の立場である天使が他者への指導や指南以外に行なう戦闘行為は固く禁じられている。

 仮にその制約がなかったとしても、今のフリーザの力はビルスの師であるウイスをしても敵う相手ではない。

 

「最低でも大神官クラス。最悪な場合ですと、全王様の力も及ばないかもしれません」

「それほどか……」

 

 ウイスの評定にビルスは意義を唱えなかった。

 嘘をつくような男ではないし、ビルスもフリーザの力はそれほどまでに高まっていると感じたから。

 

「良いことを思いつきました」

 

 ビルスとウイスの登場に僅かに気怠さを振り払ったフリーザは二人からベジータへと視線を移す。

 

「嘗て私が惑星ベジータを破壊したことを覚えていますか?

「ああ」

 

 と、何故今更そんな話題を蒸し返すのかと訝し気に答えたベジータに、フリーザは哂う。

 

「惑星ベジータを破壊したのは、力を着け始めたサイヤ人の中から伝説だった超サイヤ人が現れるのを危惧したのも理由の一つではありますが」

 

 話が浸透するように一度間を空ける。

 

「もう一つ、そこの破壊神ビルスがサイヤ人を滅ぼせと命令したからでもあるんですよ」

 

 楽し気に告げたフリーザにベジータは目を見開いた。

 

「なにっ!?」

 

 驚きながらも強い口調でビルスを見るが、ビルスに堪えた様子はない。

 

「サイヤ人の残虐さは君も知っているだろう。僕が面倒臭がってフリーザに頼んじゃったけど、遅かれ早かれ誰かにやられていたさ」

 

 嘗ての自分の行いを顧みたベジータに反論の余地はない。

 ナメック星の悟空の言葉ではないが、サイヤ人は罪のない者を殺し過ぎたからこそ滅びたとも言える。

 

「まあ、そうですね。例えビルスの命令がなかったとしても、私はいずれサイヤ人を殺していたでしょうし」

 

 自分で不和の種を撒きながら回収したフリーザは、ベジータが激発しなったことにつまらなげに鼻を鳴らす。

 

「で、今更現れて何の御用で?」

 

 折角、目の前で面白いショーが見られると思ったのに肝心のベジータが納得してしまった所為で意味がなくなったので、この場に現れた理由を聞く。

 

「本当ならマシンミュータントを破壊しに来たんだけど、どうやら君が代わりにやってくれたようだね」

「マシンミュータント? ああ、あの寄生虫のことですか、あんな程度の相手に出張らなければならないとは破壊神の名も安くなったものです」

 

 最初は何のことか分からなかったフリーザも思い出したが特に興味も無く、今度は標的をビルスに変えて挑発し始めた。

 ピクリと反応したビルスだが反論はしなかった。

 

「挑発のつもりかい?」

 

 正しく挑発を受け止めたビルスの目の奥に怒りの光が灯る。

 

「少々、不完全燃焼でしてね。折角、現れてくれたのですから昔の意趣返しに殺して差し上げようと思ったまでです」

「また随分とデカくでたね」

 

 言葉はともかくとして、態度ではハッキリと下と見ているフリーザにビルスは拳を強く握った。

 ビルスがやる気になってくれたことにフリーザは笑みを浮かべながら、その後ろに立つウイスに視線を向ける。

 

「天使も一緒にどうぞ。それぐらいでなければ張り合いがありませんから」

「残念ながら、我ら天使は全王様より戦闘をすることは禁じられておりますので」

「援護ぐらいならば構わないでしょう。直ぐに終わってしまっては私も興ざめですから、少しぐらい持たせてあげて下さいな」

 

 ウイスの反論を聞くことも無く、ビルスを見るフリーザ。

 

「他の宇宙の破壊神は多少は持ってくれましたから、あなたも少しぐらいは戦いになるように頑張ってください」

「言ってくれる!」

 

 ベジータ達を置き去りにして、フリーザと破壊神ビルス・天使ウイスの戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは?」

 

 どことも知れない場所で目覚めた悟空は立ち上がった。

 立ち上がれるということは地面があるということ。確かに足の下には地面がある。だが、見渡す限り白の世界で他には何もない。

 

「まるで精神と時の部屋みたいだけど、オラは死んだんか?」

 

 呟いてみて頭の上に手を上げて見れば、そこには天使の輪っかがあるので死んだことには違いないらしい。

 しかし、死んだらまずは閻魔大王の下に行くはずで、実際今まで二度死んだ時はそうだった。

 

「三度も死んだら閻魔大王のおっちゃんの所には行かずに、こんな世界に行くことになるなんて聞いたことが無いぞ」

 

 悟空のように三度も死んだ人間はいないと思うので本当の所は分からないが。

 精神と時の部屋と違って背後に神殿との入り口もない真っ白な世界。どうしたものかと途方に暮れるしかない。

 

「何度死んでも閻魔の所へ行くのは変わらんよ」

「誰だ?」

 

 死んだ後まで神経を尖らせる必要はない。

 背後からかけられた声にのんびりと悟空が振り返ると、そこには十五代前の界王神が立っていた。

 

「界王神のじっちゃん、なんでここに?」

「そりゃあの世に行くはずだったお前さんを儂が引っ張り込んだからだて」

「へぇ」

 

 驚く気概も死んだ時に体に取り残して来てしまったのか、特に感慨も抱くことも無く悟空は老界王神を見る。

 

「オラを? なんで?」

 

 悟空は本気で分からず、首を捻った。

 

「お主がさっきまで闘っていたフリーザ。あ奴をこのまま放っておくわけにはいかんからじゃ」

 

 理由を言われても悟空にはピンと来るものが無い。

 

「フリーザとオラをここに引き込んだことと、どう関係すんだ?」

「お前さんを強くする」

 

 喋ることすら気だるげであった悟空は老界王神のその言葉に僅かに反応する。

 

「死んだ後に強く成ったって意味がねぇぞ」

 

 フリーザという頂点を見てしまった悟空には、死んでしまったこともあって強く成ろうとする気概を持てない。

 

「意味ならあるとも。見てみるがいい」

 

 そう言った老界王神の掲げた両手の間に水晶が突然現れ、スゥと悟空の前へと浮かんだままやってくる。

 

「意味ったって……」

 

 見ろと言われたので仕方なく水晶に目を向けた悟空の全身が固まった。

 

「なっ!? ち、地球が……っ!!」

 

 水晶にはどう見ても地球としか思えない星が粉微塵になって爆発する瞬間が映し出されていた。

 

「お前さんが死んだ後、地球にやってきたビルス様とフリーザが戦い始め、間もなく地球は壊れおった。あの二人は宇宙空間でも問題なく生きていられる。脆い星に気を配るほど優しい性格ではあるまい」

 

 今まで覇気のなかった悟空は、この老界王神の言葉は事実であると認めながらも地球が破壊されたことに怒ってキッと睨み付ける。

 

「これはこのまま二人が戦えば訪れる未来じゃ」

「どういうことだよ?」

「正確にはビルス様は地球には到着しておらんから、まだ二人は出会っておらん。水晶が映し出したのは少し先の未来じゃ」

 

 過去視の逆で未来視とでもいうのか。

 

「でも、オラじゃフリーザには勝てねぇ」

 

 逆立ちしたって勝てる気がしない。

 

「お前さんの知識を借りて言えば、この世界は精神と時の部屋と同じ効果がある」

「死んでいる間は年を取らねぇから、フリーザよりも強く成るまで修行しろってか?」

「いいや、この世界ではその前に発狂してしまうじゃろう」

 

 この何もない世界ではそうなってしまうだろうと、嘗て精神と時の部屋の始めて使って二ヶ月しか持たなかった悟空は思った。

 修行を続けてフリーザよりも手っ取り早く強く成れるなら誰も苦労はしない。

 

「フリーザの力は破壊神をも大きく超えた領域にある。お主も神を超えるしかあるまい」

 

 つまりは、老界王神は超サイヤ人ブルーを超えろというのか。

 

「超サイヤ人ブルー・界王拳の三十倍がオラの限界だ。多少のパワーアップしてもフリーザは超えられねぇ」

 

 例え五十倍に引き上げられたとしても、あのゴールデンフリーザの足下にも及ばないと確信しているからこそ悟空は断言出来た。

 

「言ったはずじゃ、神を超えろと。神の力を備えた己が化身と向かい合うのだ」

「己が化身?」

 

 悟空には老界王神が何を言っているのか意味が分からない。

 

「サイヤ人には超サイヤ人やゴッドとは別の形態があろう。いや、本来はこちらが正しい姿でもある」

 

 本気で分からない悟空に老界王神は溜息を吐いた。

 

「大猿じゃよ。ここまで言えば分かろう」

「分かるけど……」

 

 ある意味で悟空のトラウマの元でもある大猿のことは忘れていたわけではない。

 悟空は意識して大猿になったことはないし、大猿になっている間のことは全く覚えていない。

 ベジータとの戦いで、ベジータが大猿になるのを見たからこそ祖父・孫悟飯を自分が踏みつぶした事、天下一武道会の会場を壊したことを理解した。

 祖父には二度目に死んだ後に謝って許してもらったが、悟空には大猿に関して良い思い出は殆どないから努めて思い出さないようにしていたのだ。

 

「でもさ、大猿になるには尻尾と月がないと駄目なんじゃ……」

 

 先代の神に不要だろうと尻尾が切られてから悟空は一度も大猿になっていない。

 尻尾を有した状態で、満月またはそれを模したパワーボールを目を通して見ることで、1700万ゼノ超のブルーツ波を吸収しなければ大猿にはなれないらしいことをベジータが昔に言っていた。

 

「尻尾は所詮、アンテナのような物に過ぎん。地球が破壊されるまで外の時間で十五分程度。この世界では九十時間が限度じゃ。再び尻尾を生やす時間もない。儂が強制的に大猿にさせる」

 

 老界王神はこの世界を維持しながらブルーツ波を作り出さなければならない。流石に尻尾を生やすまでの余力はない。

 

「…………本当にフリーザに勝てるんか?」

「分からん」

 

 即答した老界王神に悟空はコけた。

 

「サイヤ人の過去を見たが、ゴッドの力を持って大猿を制御しようとした者は一人もおらんのだから、想像以上に強く成るかもしれんし、想像を遥かに下回るかもしれん」

 

 超サイヤ人ゴッド自体が偶然の産物で生まれたようなもので、たった一回しか行われていないのだから試した者は一人もいない。

 

「しかも、理性を取り戻せなければ永遠に大猿のまま戻れんようになるだろう。その際にはこの世界ごと、お前さんを葬り去るつもりじゃ」

 

 全てを明かした上で老界王神は聞く。

 

「このままあの世へと行くか、ここでリスクを背負って大猿となるか」

「考えるまでもないぞ」

 

 老界王神は嘘は言わない。ならば、地球は破壊されるだろう。

 十五分で破壊されるとしたらベジータ達は界王神達の瞬間移動で逃げれたとしても、チチやブルマ達は死ぬことになるだろう。そんなことは受け入れることは出来ない。

 

「やってくれ。オラは必ずやり遂げて見せる」

 

 頷いた老界王神の手に光が生まれ、上空高くへと打ち上げられた。

 

「心に強く描くのじゃ。お主の在り方、望む物、自身を構成する全てを。忘れるな、お前さんは決して一人ではない」

 

 姿を薄れさせていく老界王神の言葉を強く刻み込んだ悟空は一つだけ疑問があった。

 

「オラ、死んでるんだから現世に関われないんじゃ」

「ふっ」

 

 聞くと老界王神は笑って自身の頭の上を指し示した。

 

「儂の命を与えた。お前さんはもう生き返っておるよ」

 

 見れば老界王神の頭の上には天使の輪っかがあった。

 

「己の化身を見事飼い慣らして見せよ、孫悟空」

「ああ」

 

 この上ない感謝を老界王神を向けていた悟空の視界をブルーツ波の光が染め上げる。

 決意も虚しく、悟空の意識は己の裡から激烈に湧き上がった破壊衝動に瞬く間に飲み込まれた。

 

「――――――――グゥオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!!!」

 

 紅蓮の大猿が咆哮が白い世界に響き渡る。

 

 

 




何故か本作では疫病神みたいなビルス様、悪意はないのよ?

皆様の予想通り、悟空は超サイヤ人ゴッドの力を持った超サイヤ人4となるために紅蓮の大猿と変化しました。

尻尾無しで大猿化したので、理性完全消去。

ゴッド状態の赤い大猿ですので、紅蓮の大猿としています。


それでは次回が本当の本当に最終回となります。

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