未来からの手紙   作:スターゲイザー

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宇宙に響き渡った超3ゴジ―タの力の波動を感じ取った勇者タピオンが地球に行くべきか迷っています。





外道はどこまで行っても外道なのである。









第十六話 嗚呼、合体戦士達

 

 

 

 天界から離れた空の上で二人の桁外れの怪物が戦っていた。

 

「「はぁああああああああああああ!!」」

「うぉおおおおおおおおおおおお!!」

 

 激突する拳と拳。

 ギリギリと拳を押し付け合うゴジ―タとブウが額を擦り合わせるほどの超至近距離で鬩ぎ合う。

 

「おおおァあああッ!!」

「「はああああああァ!!」」

 

 両雄の拳。正しくは拳に纏われた力が激突した瞬間、超新星の出現かと見紛う眩しい紫電が周囲数十㎞に至るまでに走り、もしも見る者がいれば区別なく網膜を焼いたことだろう。

 ゴジ―タは背中まで伸びる髪を逆巻かせ、気合の声を絞る。応えるようにブウが笑みを浮かべる。

 拳と拳の狭間で燻る力の波動を押し合う二人だったが、やがて空間が耐えきれなくなったように破滅的な音を残して飛び退いた。

 

「「ブウ!」」

「ハハハハハハハ、存分に挑んで来るがいい!!」

 

 極大の力同士のぶつかり合いは弾かれ、衝突を繰り返しながら雲を突破して螺旋を描きながら上昇していく。

 

「「でやっ!」」

 

 刹那、目にも止まらない超スピードで移動したゴジ―タがブウの懐に潜り込んで拳を放つ。

 

「その程度で」

 

 やられるほどブウは愚かではない。最善の動きで拳を迎え撃つ。

 互いに拳をぶつけて生じた火花を散らしながら行われる頂点を極めし者同士の戦いは熾烈を極めた。

 五分と五分の息詰まる攻防戦は身体に幾つものの傷をつけていく。まさに、魂を削るかのような乱舞だった。

 打ち込む攻撃の一つ一つが、両者を死へと近づける。

 拳撃に次ぐ拳撃。繰り出された拳撃の速度は高速を超え音速へ、音速を超えて神速へと変わっていく。

 刹那で十撃を超え、瞬きで百撃を超え、一秒で千撃を超え、一息で万撃を超え、一拍で億撃を超えていく。

 やがて火花は閃光に、閃光は爆発に、爆発は崩壊に、崩壊は無へと変わっていた。ヒトの限界を遥かに超えた攻防は世界をも砕きかねない。

 

「「うぉぉあああああああっつ………………!」」

「ぬぅうううあああああぁぁ…………………!」

 

 ゴジ―タの連撃速度が更に上がれば、合わせるようにブウの攻撃速度も上がる。

 両者の攻撃速度の増加によって連続した音が崩れる。

 崩れたというのは少し語弊があった。あまりにも素早すぎて音は数をなくした塊となり、数千数万の爆音が短い間隔で次々に炸裂したため、総体として一つの音のように聞こえて空間そのものを踏み潰すような轟音へと変わったのだ。

 

「「ふんっ!」」

 

 アッパーカットのような真下から潜り込んで来る拳を回転するようにして紙一重で避けたゴジ―タの膝がブウの後頭部を連続で蹴りつける。

 流れを途絶えさせずに踵落としを決め、ブウの体が急速に落ちていく。

 

「「ビックバン――」」

 

 その更に下へと超スピードで先回りしたゴジ―タは両手を前に掲げて気を溜めていた。

 

「「――――かめはめ波!!」」

 

 ゴジ―タの最強の技であるビックバンかめはめ波が避けようもないタイミングで放たれた。

 背中から迫るビックバンかめはめ波に辛うじて振り向いたブウは、しかし焦ることなく笑みを浮かべていた。

 

「「手応え有り、だが……」」

 

 成層圏を抜けて宇宙の彼方へと消えていくビックバンかめはめ波を見送ったゴジ―タはそう独り言ちて、背後を振り返る。

 

「……ぐ、ぐぬ……」

 

 左半身を焼き尽くされたブウがそこに浮いており、苦悶の表情を浮かべて残った右手で失った部分を抑えている。

 

「こ、こんなことが…………ま、まさかこの俺が……ち、ちくしょう!?」

「「下手な演技は止めろ」」

 

 痛がって悔しがるポーズを見せているが、嘗てのセルと全く同じ台詞に最初から演技だと気づいていたゴジ―タは吐き捨てた。

 

「バレたか」

 

 悪戯を見咎められたかのようにピタリと苦悶の表情を止めたブウは失った部分を抑えていた右手を下ろす。すると、焼け爛れた内側から新たな左半身が生えて来た。

 

「「ふざけやがって」」

「ふざけてなどいないさ。貴様は強い。今の俺よりはな」

 

 生やした腕の感触を確かめるように拳を握ったり開いたりを繰り返すブウ。

 

「「未来のお前の方が俺よりも強いと言いたげだな」」

 

 僅かに上がった息を整える為の小休止にと腕を組んで話に乗ることにしたゴジ―タは気に入らなげに言った。

 

「何分、完全に回復する前に目覚めた所為で本調子とは言えんのでな」

「「ならば、もう一度寝とけ」」

 

 ブウの言うことは間違いなく真実であるとゴジ―タは感じながら瞬間移動で背後を取る。

 

「「今度は二度と目覚めないようにな!」」

 

 ブウの背後から手の平に虹色の光を帯びた小さな気の塊を発生させて背中に叩きつける。

 

「ぐはっ!?」

 

 体の内側から爆散したブウだったが、飛散した手足が独立した動きでゴジ―タを攻撃する。

 

「「手品師を気取るつもりか」」

「まさか」

 

 確実に塵も残さずに消し去っていると、少し離れた場所に首だけになったブウが浮かんでいる。

 

「完全な状態ならばともかく、今の状態では消滅されかねない。かといって、回復を待つのも貴様の時間切れを待つのも面白くない」

「「時間切れ? なんの話だ」」

「しらばっくれても無駄だぞ。大抵、そういう合体技には制限時間があるものだ」

 

 ブウの自前の知識なのか、ブロリーやセルが持っていた知識かは分からないが完全にフュージョンの弱点を見切られている。

 

「「なら、どうする? このままノラリクラリと逃げ続けるか?」」

 

 残り時間はまだ半分以上、残っている。それでも弱点を知られた以上は多少のリスクを負ってでも仕留めるべきだろう。

 会話をしながらも気を高めるゴジ―タにブウは笑みで以て答える。

 

「時間切れを待っても面白くないと言っただろう。仕方ないから手っ取り早く回復するとしよう」

 

 徐々に回復しつつあるブウの気を感じながら、完全に消す為に気を高めていたゴジ―タは嫌な予感を覚えた。

 

「俺が何の為にあのガキを殺さなかったと思う? このことを予想していたからだ」

「「まさか!?」」

 

 ブウが言ったことを呑み込み考えれば何を目的としているのか、直ぐに読めた。

 今、この地球で死んでいないのはゴテンクスだけ。

 超サイヤ人3に至ったゴテンクスの力は超サイヤ人3の悟空を超えている。だからこそ、ブウの一撃にも殺されずに済んだと、目の前の戦いに夢中になっていた所為で思い込んでいた。

 チチがブルマがクリリンがビーデルが、みんなを目の前で殺されたことで冷静さを欠き、合体が解ける十分以内にブウを倒さなければならないことがゴジ―タの余裕を幾分か失わせていた。

 

「「させんっ!」」

 

 天界の方向から丁度、ゴテンクスの体の大きさぐらいのピンク色のゴムのような物が向かって来るのを見てゴジ―タは迎撃を試みる。

 ゴテンクスも吸収されてしまったらブウは本当に手に負えなくなってしまう。その前に止めるべく、手を向けた。

 

「ばあっ!」

 

 しかし、そこへ顔だけのブウが口から気弾を放って来るがゴジ―タの予想通り。

 

「「その程度で――」」

「ああ、だから、そっちは囮だ」

 

 もう片方の手でより強力な気弾を放ってブウの首を消し去るが、それは分離した一部分から造り上げた偽物である。

 つまり、今、ゴジ―タが消し飛ばした喋って気弾まで撃った首は偽物。

 セルを吸収した時に気を消したりする能力を得ていたことで、言われなければ気づかなかった。

 

「「だとしても、こっちさえ止めれば」」

 

 包まれているブウの触手さえ剥がしてしまえばゴテンクスを助けることが出来る。

 

「もう一つ言い忘れていたが、そっちも囮だ」

 

 触手を掴んで広げるが中には何も誰もいない。

 ハッと上空に大きな気が出現したのを感じて顔を上げれば、正に触手を吸収しているブウの姿があった。

 

「「て、テメェ……っ!?」」

「すまんな、言葉が随分と足りなかったようだ。おっと、卑怯と言ってくれるなよ。合体はそっちも使っていることだろう」

 

 手元の触手を消滅させながら、自分の方こそ何人も吸収しておきながら言っていい台詞ではないブウがゴテンクスを吸収していくのをただ見ていることしか出来ない。

 

「ゴクリ、ふぅ……こういう時はこう言えば良いかな」

 

 まるで食べたかのようなリアクションをわざと取るブウにゴジ―タは何も出来ない。

 

「お前達の息子は美味かったぞ…………クッハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 見た目の変化はほぼないが、力の総量が先程までとは段違いに増したブウが高笑いをする。

 

「「く、くそったれめ……っ!!」」

 

 自身ですら及ぶか分からない領域に踏み込んだブウを見上げ、残り時間が半分を切ったゴジ―タにはもう打つ手はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間を少し巻き戻して、ゴジ―タが超サイヤ人3に成った直後。

 解放されつつある内なる力と向き合う為に精神を集中させていた悟飯は突如として間近で気の波濤を浴びたような錯覚を覚えた。

 

「こ、この気はまさかお父さん? いや、ベジータさんの気のようにも感じる……」

 

 悟空のようでもありベジータでもある不思議な気に悟飯は生唾を呑み込んでブルリと身を震わせる。

 

「お二人がフュージョンをしました。この聖域まで届くなんて物凄いエナジーです」

 

 同じ気を感じ取った界王神は水晶から立ち上がる程で、地球のある方向を見て呆然としていた。

 

「…………急がねばならんの」

 

 儀式を続けなければ同様にゴジ―タの気を感じ取っていた老界王神は予想が当たってしまったことに歯噛みする。

 

「どうしてです? これほどの気を発せるならブウぐらい簡単に」

「お前さんは若すぎる。表向きの気に振り回されている内は界王神失格じゃぞ」

 

 そう言われても界王神が納得できるはずがない。

 納得していない様子の界王神の雰囲気を感じ取った老界王神は重く息を吐く。

 

「忘れたか? フュージョンには時間制限がある」

「あっ!?」

「どれだけ強力であろうとも合体は必ず解けて元の二人に戻ってしまう」

 

 フュージョンの欠点を告げられて界王神の顔から血の気が抜け落ちる。

 

「で、でも、これだけの気ならブウにだって」

 

 明らかに封印から出てきたばかりのブウを圧倒して余りあるほどの力の波動である。例え何人も吸収したブウが相手でも、時間制限があったとしても倒すことは出来るはずだと界王神は主張した。

 

「戦いの天秤は常に予想外に傾くもの。楽観論に頼っていてはいざという時に何も出来んよ。この宇宙の頂点に立つならば既に最悪を想定せんか」

 

 水晶は二人の戦いを遠くから映し出している。

 ゴジ―タのエネルギーは界王神界にまで届いているのに、対するブウのエネルギーはちっとも感じられないことをおかしいと思うべきなのだ。

 二人のやり取りを黙って聞いていた悟飯は大きく息を吸った。

 

「では、老界王神様には最悪の状況に対して何か対策があるんですか?」

 

 落ち着いて気を探った悟飯はゴジ―タと戦っているブウが未だ本気を出していないと思い始めた。ゴジ―タは全力を出しているにも関わらずだ。

 ゴジ―タの強さはどう考えても現在潜在能力を解放してもらっている悟飯よりも遥か上を行くだろう。そのゴジ―タを上回りかねないブウを前にすれば、ゴジ―タ以下の悟飯が何の助けになるのか。

 焦らずに思考を巡らせた悟飯は、確信を持っての問いに老界王神は重苦しく頷いた。

 

「ある。一つだけじゃがな」

 

 そう言って老界王神は両耳に付けられている耳飾りを揺らす。

 

「この耳飾りは単なる飾りではない。ポタラと言って、昔からの界王神のとっておきの宝なんじゃよ」

 

 儀式中なので自分のは外せないので、界王神に外して悟飯に渡すように言う老界王神。

 言われた界王神は訝し気な顔をしつつも、大人しく自分の両耳に付けられているポタラを外して悟飯に手渡す。

 

「片方を左耳につけるんじゃ」

 

 界王神に手渡された片方を言われたように左耳に付ける。

 

「これを付けると強くなれるんですか?」

 

 言われた通りにポタラを左耳に着けても強くなった実感はない。

 

「ならんよ。これは強化アイテムではないからの」

「では、何故?」

「話は最後まで聞け…………しかし、その様子だとお前さんは知らんようじゃな」

 

 分かっていない様子の界王神に正直不安になった老界王神に若いだけではなく無知なのかと少し呆れる。

 

「は、はぁ、すみません」

「後で要勉強じゃな。とはいえ、教えるべき先代や他の界王神がブウに殺されていては仕方あるまいか」

 

 恐縮する界王神の環境故の無知に理解を示しつつ、ポタラの説明をする。

 

「ポタラを簡潔に言うならばフュージョンをあのポーズなしに行うことが出来る合体アイテムじゃな」

「えっ、本当ですか!?」

「その効果はフュージョン以上、気を合わせる必要も体格を気にする必要もない。そして何よりも合体の制限時間がない」

 

 それが本当ならばブウに勝てるかもしれないと考えた悟飯だったが、直ぐに制限時間がないことの意味に気付いた。

 

「制限時間がないってことは」

「合体してしまえば、二度と元に戻ることは出来ん。これがポタラの長所でもあり短所でもある点じゃな」

 

 飄々として語る老界王神は自身が老女の魔法使いと合体した所為でこんな見た目になったこと、潜在能力を限界以上に引き出すなどの不思議な術も使えるようになったと合わせて告げる。

 

「これを使ってお父さんとベジータさんのどちらかと」

 

 ブウに勝てるのならば迷うことなくポタラを使用すべきだが、まだ多感な年頃の少年である悟飯は心の端っこで躊躇を覚えた。

 

「いや、それでも勝てんじゃろう」

 

 しかし、悟飯の迷いの元をあっさりと老界王神が切り捨てた。

 

「少なくともどちらかとお前さんが合体したところで、ライバル同士である二人以上に強くなることはないじゃろう。よしんば強くなったとしても二人が合体した戦士を大きく上回ることもない」

 

 それは悟飯も薄らと感じていたことだった。

 似て非なるライバルである悟空とベジータだからこそ界王神界にまで気の波動を轟かせたのであって、悟飯が合体しても同じことになるとはどうしても思えない。

 

「じゃあ、どうしてこれを僕に…………まさか!?」

 

 単純に悟空とベジータに渡す為にというのであれば、急いでまで悟飯の潜在能力を解放する理由もポタラを先に付けておく必要はない。

 もしも、両者にきちんとした理由があるとするならば辿り着く答えはただ一つ。

 

「もう直ぐ儀式も終わる。その時にまで覚悟を決めておくことじゃ」

 

 左耳に揺れるポタラと、もう片方を手に持ちながら悟飯は覚悟を決めなければならなかった。

 

 

 




さてさて、実は万全ではなかったブウ。その状態では超3ゴジ―タの方が上のようです。

このままでは10分以内に負けると思ったブウは予備策として殺さずにいたゴテンクスを吸収しました。更にパワーアップ。
眼の前でチチ達を殺されて少し冷静さを欠いていたこと、制限時間があったことで余裕が無かったゴジ―タを上回るブウの作戦でした。この作戦はゴテンクスを目撃した時から考えていたようです。

ゴテンクスを吸収したブウには、遂に超3ゴジ―タでもベジットでも勝てなくなってしまいました。

そんな中、老界王神の意図を読み取った悟飯は覚悟を決めないといけないようです。

さあ、どうやったらこのブウに勝てるのか。

次回、『第十七話 最強の戦士』


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