未来からの手紙   作:スターゲイザー

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お気に入り件数が伸びなくなってきたので登校時間を12時に変えてみました。




第十三話 悪夢を超えた先

 

 異様に感じた魔人ブウらしき気の下にベジータがやって来た時、場は混沌としていた。

 

「なんだ、これは?」

 

 ぶつかり合う二者が起こす衝撃によって、空に上にいるベジータの下にまで振動が響いて来る。

 

「ははははははははは!!」

「うぉおおおおおおおお!!」

 

 前者は笑いながら、後者は雄叫びを上げて戦っている。

 笑っているのはベジータも見覚えのあるブロリーである。雄叫びを上げている筋肉質な趣味の悪いピンク色の男はブウなのかと一人で結論付ける。

 

「ブロリーの野郎もフリーザと同じように生き返ったのか」

 

 まさかバビディによって救われていたとは知らないベジータはフリーザの前例を鑑みて生き返ったと思い込み、戦っている二人から離れた場所にいた悟空を見つけてそちらへと向かう。

 

「カカロット」

「ベジータ……」

 

 近くに下りて呼びかけると悟空が冴えない顔をして名を呼んでくる。

 

「あれが魔人ブウか。しかし、何故ブロリーと。一体どうなってやがる」

 

 しけた顔をしていると突っ込みはせず、今は状況を理解することに努める。

 

「分かんねぇ。魔人ブウも最初はあんなんじゃなくて太っちょのデブだったんだ」

 

 悟空もまた真に状況を理解しているとは言い難いが、見ていたことの説明ならば出来る。

 

「悟飯が何も出来ずにやられちまった。界王神様に仙豆を渡して助けに行ってもらったが……」

 

 悟飯を気にする悟空だったが、今は目の前の敵を優先することにして意識を闘っている二人に戻す。

 

「バビディの魔術を呑み込んだブロリーと戦って力の差を感じ取ったブウがセルを吸収してあの姿になりやがった」

「セルの野郎も生き返ってやがったのか」

 

 フリーザといい、嘗て戦った敵のバーゲンセルとでも言うのか。

 

「ブウもあの様じゃセルを吸収したって大した意味はなかったようだな」

 

 ブウの行動は嘗てベジータに追い詰められて完全体になることに固執したセルの焼き増しである。

 折角生き返ったにも関わらず、因果応報な結末を迎えたセルに同情してやるほど甘い性格ではないベジータは皮肉に唇の端を上げるに留める。

 

「オラも生き返ったセルを見たがパワーアップしてても悟飯よりも少し上ってぐらいだった。ブロリー相手じゃ焼け石に水しかなんねぇだろ」

「それが実際に戦った貴様の意見か」

 

 ベジータとて馬鹿ではない。超サイヤ人3となってベジータとは隔絶した領域にいる悟空が立っていることすら出来ないほど消耗する相手など、今もブウを嬲っているブロリー以外に考えられなかった。

 

「単刀直入に聞くぞ、カカロット。貴様ならあの二人に勝てるか?」

 

 脅威にしかならない二者を倒すには、圧倒的にベジータに力が足りなかった。

 七年前よりも遥かに強くなっても、あの二人と比べれば雑魚としか呼べない自らにベジータは震えた。

 勝てるとすれば、超サイヤ人2を更に超えた超サイヤ人3に到達した悟空しかいない。

 

「…………無理だ。前のブウならともかく、セルを吸収した今のブウには多分届かねぇ。ブロリーには超サイヤ人3でも手も足も出ねぇ。仙豆を使ってどうにか生き延びたようなもんだ」

「どっちが勝っても俺達には最悪なだけってことか」

 

 ブウもブロリーも、悟空とベジータでは届き得ない領域で戦っている。

 

「気が高まる! 更に溢れて来るぞ! もっと俺を楽しませろ!!」

「ぐっ、ぬぅおぉっ!?」

 

 しかも、ブロリーの力は戦っている間にも高まっており、順調に行けばブロリーが勝利して更に手に負えない存在となるだろう。

 

「このままだと仮にブロリーがブウを倒したとしても疲れてくれるようには見えんな。どうする、カカロット」

 

 どうすると聞かれても悟空には全てが丸く収まる名案はない。

 ここで二人とも倒さなければ本当に手に負えなくなると分かっていても、倒せるだけの力が今の悟空にはない。なければ、搾り尽くすしかないとしか思いつかない。

 

「パパ!」

「お父さん!」

 

 そこへ空から孫悟天とトランクスが降りて来て駆け寄って来る。

 

「お前達、どうして」

「へっへっへっ、こんな夜中にあんなに気を高めたら気づくに決まってるじゃん」

「僕達を除け者にして、みんなだけ楽しそうなことしようしてるんでしょ。家を抜け出して探したんだよ」

 

 子供達は父親を見つけた自分達の行動を全く疑っていない。

 二人は知らないのだ。世の中には生死を賭けた戦いがあることを。

 この七年の間にあった大きな戦いといえばブロリーとの戦いぐらいだが、二人が命がかかった戦いだと認識出来ていたかは怪しいものがある。

 当然である。何しろ、二人はまだ年齢が二桁にもなっていないのだから。

 

「悟天、これは遊びなんかじゃねぇ」

「お父さん?」

 

 何を言えば良いのだろうか。

 何と言えば良いのだろうか。

 

「ここは危険だ。お前達だけでも逃げろ」

 

 悟天の頭を撫でながらも安心させることが出来ない悟空は自分が親失格であると痛感する。

 

「家に帰って母さんを連れて天界に行くんだ。ブルマなら地球から逃げる宇宙船の一つぐらいあるだろう」

「ど、どういうこと、お父さん?」

「アイツらは強い。オラ達じゃ勝てねぇかもしんねぇってことだ」

 

 立ち上がると体がミシミシと軋む音がした。

 

「い、嫌だ。僕も、僕も戦うよ!」

 

 遅まきながらも悟空の体に走る傷跡の数々を目にした悟天は自分がやってきた場所が死地であると理解しながらも、湧き出して来た思いがそう叫ばせていた。

 

「僕とトランクス君、おじさんとお父さんならどんな相手だって負けやしないよ!」

「勝てねぇんだ。悟飯もやられちまった」

 

 サイヤ人という種がどれだけ常識外れに強いかを情操教育と一緒に叩き込まれて来た悟天は、だからこそ兄である悟飯が倒されたという言葉に根拠のない自信を吹き飛ばされて顔を真っ青にする。

 

「界王神様さえ間に合えば生きてはいるだろうが、父さんも勝てなかった。お前達がいても足手纏いだ」

 

 そう遠くない内に趨勢が決するブウとブロリーの戦いを見ながら悟空は捨て身ばちの作戦を考えていた。

 その時、ガッと近くで何かを叩く音が響いた。

 

「うぐっ!?」

「ベジータ、何を!?」

 

 次いでズッという音と共に腹にベジータの拳を食らった悟天が呻き声を漏らして崩れ落ちる。

 意識を失って崩れ落ちる身体を抱き留めてベジータを見る。

 

「カカロット、貴様は甘い」

 

 同じように意識を失っているトランクスを片手に抱えたベジータと悟空の視線が合う。

 その眼の奥に灯った覚悟は悟空と同質の物だった。

 

「ガキ共を連れて行け」

 

 トランクスを悟空に向かって放り投げて受け止められるのを見届けることすらせず、ベジータはボウッと超サイヤ人2のオーラを強める。

 

「ベジータ!」

「貴様のそんな有様では奴らを殺しきれん。どちらがガキ共を連れて行くとなれば選ぶ必要もないだろう」

 

 それは悟空がやろうとしていたことだった。

 ブウとブロリーをこの場で倒さなければ、もっと脅威になる。しかし、今の悟空では力が足りない。ならば、この身にある全てを破壊に注ぎ込んで自爆する。それならば倒せる可能性はある。

 だが、それを為す為には悟空の体は傷つき過ぎていた。全力以上の力を放てるだけの状態ではない。

 フリーザとの戦いで疲労していても、今のベジータの方が悟空よりも大きな力を発揮できるだろう。

 

「俺ともあろう者が貴様達の影響を受けて穏やかになっていって、家族を持って悪くない気分になるなど想像すら出来なかった」

 

 穏やかに語り掛ける口調は、嘗てのベジータからは決して想像できない。

 

「居心地の良い地球も好きになってきてしまっていた」

 

 過去は決して消えない。仮にベジータが過去を悔いたとしても、為してしまった罪業は変わることはないのだから。

 何度も地球を救った悟空。超サイヤ人3に至った悟空。

 幾つもの星を滅ぼして来たベジータ。超サイヤ人3に至れていないベジータ。

 生きるべきなのがどちらかは一目瞭然。

 

「カカロット、サイヤ人の王としての最初にして最後の命令だ」

 

 最早、そんな区分に意味はないと分かっていても、嘗て抱いた矜持を思い出すように告げた。

 

「地球を、ブルマとトランクスを頼んだぞ」

「…………ああ、分かったベジータ!」

 

 最も近い感性を持った相手だからこそ、理解してしまった悟空はトランクスと悟天を抱えて瞬間移動で消える。

 

「あばよ、カカロット」

 

 悟空がいなくなった場所を見ながらベジータは寂し気に呟き、超サイヤ人2のオーラを強めて自分には及びもつかない領域で戦っている二人向かって力を高めながら歩き出す。

 

「もう二度と会うこともあるまい」

 

 この七年の間のふとした時に悟空に死後の世界のことを聞いて、ベジータは確信したことがあった。

 

「俺は貴様のように肉体が与えられることは決してない。嘗て仲間を殺したことがある俺を生き返らせてくれるとも思えん」

 

 ベジータは罪もない人々を殺し過ぎた。死ねば肉体は無となり、悟空とは違う世界に送られる。そこで魂は洗われ、記憶も失くして新しい世界に変えられる。

 始めて地球に来た時に、ナッパがやったとはいえ悟空の仲間を殺したこともあるベジータを、何度でも生き返らせることが出来るナメック星のドラゴンボールを使ってまで蘇らせてくれるとは考えらなかった。

 

「さらばだ、ブルマ、トランクス」

 

 ベジータが一歩ずつブウとブロリーが戦っている場所へと歩いていく。

 思い返せば、戦いばかりの人生だった。

 サイヤ人の王子として力を求め、惑星ベジータが破壊されてもフリーザの下で働いた日々。

 ドラゴンボールを求めて地球にやってきた悟空と闘い、ナメック星での悟飯やクリリンとの共闘、惑星ベジータ崩壊の真実とフリーザに手も足も出ずに殺されたことは昨日のように思い出せる。

 帰って来た悟空と未来のトランクスの超サイヤ人に奮起し、ブルマと体を重ねてトランクスが生まれた時の気持ち。超サイヤ人に目覚めた時のことは決して忘れることはないだろう。

 人造人間達、そして精神と時の部屋でのこと、セルを完全体にしてしまい、結果的に悟空を死なせる遠因になったこと、心の奥に残り続ける。

 天下一大武道大会での悟空との戦い、そしてブロリーとの戦いで見せつけられた悟空の超サイヤ人3.。

 何時まで経っても悟空に追いつけず、現れた自分よりも強い者達。

 地球を、未来を、家族を守る為にベジータはその命を散らす。

 

「後は任せたぞ」

 

 死出の道を歩みながら、ブルマの甘い香りと、始めて抱いてやったトランクスの温かさをもう一度感じたかった。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――――――っっっっ!!!!」

 

 戦っていたブウとブロリーが高まるベジータの力に手を止めるが既に遅い。

 ベジータを中心に閃光が爆発し、全てを呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 閃光が全てを支配した瞬間、遠く離れた西の都の地にていなくなったベジータと飛び出して行ったトランクスの帰りを待っていたブルマを胸騒ぎが襲った。

 

「ベジータ……?」

 

 持っていたカップを落として割ったことにも気づかないブルマの頬を一筋の涙が流れていき、登り始めた朝日に照らされてキラリと輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベジータによって全てが吹き飛ばされた中で、戦いに巻き込まれないように距離を取っていたバビディですらバリアーを破られていた。

 

「ぐっくぅ、ベジータめ。やってくれたね」

 

 バビディが生き残れたのは戦いに巻き込まれないように距離を取っていたからに過ぎない。それが分かっていたからこそ、バビディもそれ以上の文句は言わずに自分の体を魔術で治す。

 

「しかし、これは……」

 

 朝日がベジータがいた自爆をした場所を中心として直径一㎞近い範囲に出来た広大なクレーターを映し出す。

 バビディがいたのはこの直径一㎞の端っこであったのに、バリアーを破られるほどの破壊力があった。当然、中心部の方が威力が強かったはずなのだから一体どれだけの力を込めたのかと呆れる。

 

「あ、そうだ。ブウ!」

 

 ブロリーの存在がバビディの中でブウを無敵の存在から格下げさせていた。

 セルを勝手に吸収したことを非難する間もなく、ブロリーは更に強い力を以て圧しにかかっていた。そんな最中で中心部にいたブウは爆発に巻き込まれたはずである。その安否を確認せずにはいられない。

 

「いた!」

 

 爆心地から少し離れた場所にかなりを焼き尽くされたブウを発見した。

 急いで向かうと、その惨状に絶句する。

 

「うぐっ、ぁ」

 

 ブロリーとの戦闘のダメージもあったのだろうが、右半身が消滅して残る左半身にしても焼き尽くされている。頭の触手は半ばから存在しないにも関わらず、不死身ともいうべき再生力を誇るブウの体が遅々とした速度でしか回復していない。

 

「今、治すよ」

「治す?」

 

 魔術で治癒を早めようとしたバビディを巨大な影が覆う。

 

「はっ、あの程度の破壊にすら耐え切れんか」

 

 恐怖に固まったバビディは振り返ることすら出来ない。それでも何かに促されたかのように、人形のようにギクシャクとした動きで振り仰ぎ、絶句した。

 

「あ、悪魔……」

 

 ブロリーもまた傷だらけの有り様だが、二本足でしっかりと立っている。

 血化粧に染められたその狂笑は悪魔としか言いようがなく、一時は魔界の王であるダーブラを従えたバビディですら怖気が走るのを抑えられなかった。

 

「死ね」

 

 笑みを浮かべたブロリーから放たれる、簡潔にして単純な言葉。

 トドメを放つべくブウに向けてブロリーが手の平を向ける。気功波の輝きが視界を覆い、恐怖に心身まで侵されたバビディは動けない。

 

「――――馬鹿め」

 

 彼我の力の差を認識していたブウがベジータの自爆に巻き込まれてどうなるかを予測出来ないはずがない。隙を晒したのはブロリーの方であった。

 頭の触手は焼き尽くされたのではない。自分で切り離して、ゆっくりと背後に忍び寄らせていた。

 

「ぬぅっ!?」

 

 揺るぎようのない勝利を確信して完全に油断していたブロリーは気功波を放つ一瞬前に、広がった頭の触手が覆い被さって来るのに気づいても反応が致命的に遅れた、

 

「この俺を舐めるな!」

 

 それでも気合を込めて纏わりつく触手を上半身だけとはいえ、弾き飛ばした伝説の超サイヤ人の面目躍如か。

 

「貴様こそ、俺を舐めるな」

 

 弾き飛ばされる可能性をブウが考えていなかったはずがない。彼我の力の差を十分に理解していたブウは奥の手――――文字通りの体を割いて顔以外の全てをブロリーに差し向ける。

 

「ぐむっ……っ、ぁ……?!」

 

 ブウの決死の行動に、またしてもブロリーの対処が遅れる。或いは全身を覆われてもブロリーの高まり続ける力ならば弾き飛ばすことも出来たかもしれない。しかし、奇しくもベジータの自爆によってダメージを受けたことによってその動きを鈍くしていた。

 ブウが獲得したセル譲りの計算高さと狡猾さの前に、ブロリーの反抗が徐々に減って行く。

 

「はぁ――っ!!」

 

 このチャンスを逃しはしないと、未だ抵抗を続ける触手内にいるブロリーごとを呼び寄せて吸収する。

 ベチャッと触手が体に張り付いた後、ブウの体積が急速に増加する。

 

「ご……! グゴゴゴゴゴ――!!」

 

 最初は人型にすら成らず、拳や足のようなものがあちこちから飛び出したが、やがてそれも収まる。

 最初の太っちょのデブ姿からセルを吸収して筋肉質なマッチョに、そしてブロリーを取り込んだことで大きく筋肉が肥大した姿に変貌していく。

 

「ぶ、ブウ……?」

 

 この急展開にバビディもついていけず、恐る恐る名前を呼ぶ。

 

「――――俺に名はない」

 

 人型を為したブウはそう言ってゆっくりと立ち上がり、体の調子を確かめるように手を握ったり開いたりを繰り返す。

 

「ただ破壊する者、俺は全てを壊す」

 

 魔人でもなく、ブウでもなく、セルでもなく、ブロリーでもない。その全てを内包する破壊の化身が誕生した瞬間だった。

 悪夢を超えた先には更に大きな悪夢が待っていた。

 

 

 




 ベジータ自爆して死亡。トランクスとの下りは原作と同じなのでカット。
 悟空が生きていたこの七年間の間に原作以上に家族思いになったベジータさんでした。

 ブウはセルを吸収したことで戦闘力よりももっと大きな物を得ました。それは計算高さと狡猾さです。
 ブロリーに勝つのは無理と分かると罠を張る隙を伺っていたブウ:セル吸収体。ベジータの自爆を上手く利用しようと考え、結果的にブロリーの吸収に成功。
 その戦闘力はアルティメット悟飯を吸収したブウを上回る。ベジットがその実力を発揮できなければ厳しいかも?

 作中での悟空達の行動が悉く裏目に出てしまう……。但し、悟空が前話で界王神に仙豆を渡さず、自分で食べて自爆していたらブウもブロリー、バビディも殺せた模様。ただ、悟飯と悟空と界王神の死亡は確定する。

 次回、『第十四話 探せ、希望』

 そして今話で魔導師バビディ編は終了し、次話より魔人ブウ編が始まります。

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