聖戦士伝説 ~カ・オスの聖戦士~   作:早起き三文

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9話 若い王

大国アの国の大王城「エルフ城」にはゲドとドロの姿、旧式オーラマシンの姿がある。

 

それだけであるとエルフ城を包囲している大軍勢は思っていた。

 

 

「どう見ます?」

 

シュンジ王は隣で望遠鏡を持つバーンに訊ねる。

 

「勝てませんな、簡単には」

 

バーンは苦々しげにエルフ城のオーラマシンの姿へ目を向ける。

 

「ナの国か?」

 

「でしょうな……」

 

バーンから望遠鏡を借り、いかにも素早そうなオーラバトラーの姿をエルフ城の外部砦の中にあるのを見たシュンジは溜め息をついた。

 

「ナの国は沈黙を破ったか」

 

バーンは苛立ちながらそう言い放つ。

 

「ゼラーナ隊は?」

 

「出るに決まっているだろう、シュンジ王」

 

バーンはそう言い、ドレイク軍の作戦命令書に目をおくる。バーンの邪魔をしないようにシュンジはそっとその場を離れた。

 

 

 

「シュンジ王はラウとはなかなか良い関係だとか?」

 

ドレイクがシュンジをちらりと見ながら訊ねる。

 

「それを言ったらドレイク殿との関係も非公式ですよ」

 

「ホゥ? ハァーハッハッ……!!」

 

ドレイクは破顔する。

シュンジも笑いながらドレイクに訊ねる。

 

「ミの国の件は?」

 

「片付いたとはいえないな。ビネガンは隠居させたが、その妻と娘をラース・ワウに住まわせておる」

 

「人質?」

 

「まさかに…… ただ、ラウのフォイゾンが引き取りたいとは言っておる。ミの所有権にも口を出してきおる」

 

ドレイクは難しい顔をして腰からチッタと呼ばれる団子を食べる。シュンジにも勧めるドレイク。

 

「このエルフ城の戦い、ラウも関わっていたら、天下分け目の戦争になるかもしれませんな」

 

シュンジはチッタを口に入れたままモゴモゴと喋る。

 

「行儀が悪いな、聖戦士王殿……」

 

ドレイクは苦笑しながらシュンジの言葉に同意する。

 

「ナの国にも地上人がいるらしい」

 

「地上人…… ゼラーナではなく?」

 

「うむ……」

 

ドレイクはエルフ城の見取り図を片手に持ちながら、敵の想定される抵抗の強さを考える。

 

「フラオン・エルフにはナのバックアップか、そうか」

 

「しかし、こちらにはクの者たちもいますよ」

 

「儂ら、リ、ク、ケム……」

 

ドレイクは指を折りながら数える。

 

「ハワは?」

 

「そうであった」

 

シュンジに辺境の小国の名前を言われたドレイクは剃髪した頭を撫でながら呟く。

 

「ラウは関わっていると?」

 

ドレイクはシュンジに率直に訊ねる。

 

「わかりません、が」

 

シュンジは一息いれてハッキリと告げる。

 

「公式に発表しない限り、リの国はドレイク殿にお味方しますよ」

 

「感謝するよ、シュンジ王」

 

ドレイクはシュンジに微笑んだあとに、険しい顔でエルフ城を睨んだ。

 

「ゼラーナ…… 彼らのバックアップも気になるな…… ラウかナか、ギブンの親類縁者か……」

 

ドレイクはそれには答えず、ただじっとエルフ城を見つめている。

 

 

 

ドレイクへの挨拶を終えた地上人のマリア将軍はシュンジの姿を見ると近寄ってきた。

 

「マリア殿はその揮下の戦力だけで?」

 

「ケムは基本的に二股膏薬だよ、これだけの戦力がドレイクに貸せる限界だ」

 

マリア将軍はそう言って白い歯をみせる。

 

「アフリカン?」

 

トッドが近くに来てそう訊ねる。

 

「イエス、そうだよ」

 

マリアは二回頷く。

 

「だと思ったぜ」

 

「何故?」

 

マリアが眉をひそめて言葉を促す。

 

「ハンバーガーとオレンジの匂いがしない……」

 

「あとはコーラかい?」

 

トッドはその言葉に微かに笑う。

マリアも笑いながらケムの国のオーラシップ

「ゼェスキリスト」に乗り込む。

 

「気に入らないアフリカンだ」

 

トッドはマリアの姿が見えなくなると、そう吐き捨てる。

 

「何がだ?」

 

「船の名前だよ、厚かましい女だ」

 

「ゼェスキリスト?」

 

「敵に回ったときに落とせないじゃないかい!!」

 

「俺はまあ特には……」

 

「だからジャパニーズ!!」

 

トッドは機嫌の悪さを隠さずにそのままドレイクの陣地へ戻っていく。

 

「トッドさんは何を怒っているんですか?」

 

フィナがシュンジに訊ねる。バイストン・ウェルには宗教という概念は希薄である。

 

「ああ…… 俺には理屈では解るが、その、フィーリングの面で理解しきれない」

 

「シュンジさん、その言葉の方が変ですよ」

 

フィナが呆れてシュンジの肩から離れる。

 

 

 

 

「ビショット王?」

 

「いかにも」

 

シュンジは穏やかそうな若王に挨拶をする。

 

「お若いな……」

 

「シュンジ王が申されますか?」

 

その少年のような風貌をしたクの国の王は植木鉢の花を手入れしながらシュンジに微笑む。

 

「優雅な趣味ですねぇ……」

 

「文弱なものでな」

 

「私は忙がしくて、花など嗜む暇もありませんよ」

 

シュンジがビショットに微笑む。

 

「それは違うな」

 

「違う?」

 

ビショットは花に手をやりながら答える。

 

「花などそこらへんの雑草もどきを見るだけでも嗜める。あなたは花を見る暇がないのではなく、花を見る気がないのだ」

 

シュンジは目をパチクリさせながら考える。

 

「花を見る気がない……」

 

シュンジはしばし考える。

 

「そうかもしれませんな」

 

「だろう?」

 

二人の若い王は笑い合う。

 

「ドレイク殿とはいつからの仲で?」

 

「昔からだ、俺からコンタクトをとった」

 

ビショットは少し唇を歪めながらシュンジに言う。

 

「その理由はあなたと同じ理由であると思うが?」

 

「言うね、ビショット殿……」

 

再び笑い合う二人。

 

「ビショット殿とは始めて会った気がしない」

 

「俺もだ。昔の学校時代の友人を想い出される」

 

ビショットはタバコに火を付けながらシュンジに向き合う。

 

「いまは、へつらう家臣ばかりだよ」

 

シュンジにビショットはタバコを勧める。

 

「いや、私は吸わない」

 

ビショットはニッと笑うと、自分のタバコの火を揉み消した。

 

「貴方は地上には友人が?」

 

「それなりにいた」

 

「帰りたいか?」

 

「いや、ビショット殿と会ったのが嬉しい。今は帰りたくない」

 

「ハッハッ……!!」

 

ビショットは大笑し、シュンジに握手を求める。

 

「よろしく、シュンジ王……」

 

ビショットは少し照れながら強く手を握りしめた。

シュンジがエルフ城包囲軍への挨拶回りをしている内に、すでに日は暮れようとしていた。

 

 

「そのウィングキャリバーの調子は良くて?」

 

ゼラーナ隊の聖戦士「マーベル・フローズン」はオーラバトラー「ボチューン」からそのマシンを見下ろした。

 

「ああ、安心しろ、マーベル」

 

「聖戦士ですものね?」

 

マーベルは含み笑いをしながら、エルフ城を包囲しているドレイク派の軍勢を見渡す。

 

「一矢報えるかしら?」

 

「駄目なわけないだろう?」

 

ウィングキャリバーの聖戦士はそうマーベルに言葉を返した。

 

星の光がない暗い夜に、エルフ城とその包囲軍の陣だけが灯火で明るく輝いていた。


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