聖戦士伝説 ~カ・オスの聖戦士~   作:早起き三文

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8話 トッド・ギネス

リの国の機械の館も拡張を続け、もはや元の規模がどのくらいだったのかを知るすべはない。

騒音がうるさい館の中にシュンジ王とメカニック達が大声で相談をしている。

 

「アルダインな、使えるか?」

 

「無理ですよ、こりゃあ……」

 

メカニックが困った声をあげる。

 

「もともと、アルダムのパーツをダンバインですか? それに無理に取り付けたもんですから……」

 

シュンジは頭部が破損したアルダインを見上ながら無理もないと呟いた。

 

「わかった、出来る限りドレイク殿に補給物資をくれるように頼んでみる」

 

「アの国製のマシーンパーツは一級品ですからね」

 

メカニックのボウは頼みましたよとシュンジに返事をし、再び作業に戻っていった。

 

機械の館の中は蒸し暑いが、それでも秋の空気は感じられる。

機械の音に混じって、虫のなく声が聞こえる。

 

 

「いいかい? ジャパニーズ王」

 

アの国の聖戦士、トッド・ギネスがシュンジに声をかける。

 

「こいつな、ドレイク様からの送り物っていうのは」

 

トッドは新型のオーラバトラーを指差しながら口笛を吹いた。

 

「良い機体だ、あんたにはやりたくねえ」

 

トッドはそう言うと、機体の説明を始めた。

 

「バストール、ふぅん」

 

シュンジはその細身のオーラバトラーを見上ながら呟く。

 

「ウィングキャリバーいらずの機体だってよ、こいつは」

 

トッドは自分用に用意されたビアレスという機体とバストールを見比べながら、話を続ける。

 

「俺のこいつはクの国からの贈り物、いいぜ、こいつは」

 

トッドはそういうと、懐から親書を取り出した。

それを受け取り、蜜蝋を切ってから目を通すシュンジ。

 

「いよいよ、ドレイク殿が王になる日がきたのかな?」

 

「まぁね、上手くいけばね」

 

「で、俺にもその手助けをしろと」

 

トッドは無言でうなずく。

 

「充分な代償は払っていると思うがね、このバストールといい、その他のモンといい」

 

「矢面に立たないとだめかな?」

 

「いや、そんなことはないと思う。ドレイクは自分の手でのしあがりたいはずだからね」

 

トッドはそこまで言ってから、シュンジの目を覗きこむように顔を近づける。

 

「ジャパニーズは義理堅いんじゃないのぉ?」

 

「そうかい……」

 

シュンジはトッドに返事を書くのでしばらく待ってくれと告げた。

 

トッドは「じゃあ、厄介になるぜ」と良いながら城の門から出ていった。

トルールの街で遊ぶつもりなんだろう。

 

「レンの奴が嫌いそうな人間だな」

 

シュンジはナの国にいる元リの国騎士のレンを思い出して苦笑した。

 

 

騎士隊長のナラシがバストールについて提案を持ちかけた。

 

「やっぱり、分解しますか。この機体は」

 

そのナラシの言葉に力強くうなずくシュンジ。

 

「ああ、機械の館の者たちもそうしてくれと言っている」

 

「少しもったいないですがねぇ……」

 

「仕方ないさ」

 

シュンジは機械の館へナラシと一緒に足を運んだ。

機械の館では技師や使用人達が一生懸命働いている。

 

「アルダムⅡ? 出来てますよ」

 

ボウは無愛想に答える。

 

「オーラ増幅器は?」

 

「試作品ならば」

 

ボーワは立ち入り禁止の文字が書かれているドアを指差しながら答える。

 

「アの国のオーラバトラーが手に入ったぞ」

 

「へえ…… それはそれは……!!」

 

シュンジはバストールの事を話しながら、リの国の機械化部隊の今後の事について技師たちと夜まで話し合った。

 

「全く、忙しい……」

 

シュンジは少し地上の生活が懐かしくなってきた。

 

 

 

夜風にも秋の空気が漂う。シュンジは街の様子を見ながら、トッドがいるであろう盛り場へと足を運ぶ。

 

リの国もトルールからアの国のラース・ワウ、クの国やラウの国への海路を使うことが出来る南の港町、そしてケムの国への交易路が大きく整備され、行商人達が数多く行き交う。

リの国の経済は大きく発達していた。

 

「そのぶん、治安が悪化することでもある、な」

 

シュンジはその為に遊撃隊隊長のバラフをリの国の警備強化隊へと配置を変えた。

彼にはこういう手の仕事が向いているようであった。

彼が喜んでこの命令を受け入れた事を思い出す。

 

「秘密警察みたいになるんじゃねぇの?」

 

ロシアから来た地上人のトカマクがそう皮肉を言ってたのを思い出した。

彼にはソ連時代の苦労を思い出させてしまったのかもしれない。

 

「人種。そう、人種ねぇ……」

 

シュンジは秋の鈴虫の音を聞きながら少し考え込んだ。

 

 

 

 

「よお、ジャパニーズ!」

 

酒を飲んでいたトッドがシュンジに声をかける。

どうやら、つい先程まで女を口説いていたようだ。

 

「王と呼ぶのはやめろよ?」

 

「だから、ジャパニーズだろ?」

 

シュンジは苦笑してトッドの隣の席についた。

 

「シュンジ、あんたはこの世界が楽しいか?」

 

トッドがちびちびと酒で唇を濡らしながら訊ねる。

 

「どうかな……」

 

「俺は楽しいぜ」

 

そう言い、嬉しそうに笑う。

 

「ほう?」

 

「そうさね?」

 

シュンジは微笑みながらトッドの話の聞き手になる。

 

「こんな所で手柄を立てれば、俺のお袋にも家どころか城をくれてやれるってもんさ」

 

「母さんか?」

 

「そ、ママだね…… 親父は死んじまったけどな」

 

トッドはそう言い、少し寂しそうな顔を見せる。

 

「お袋は心配してるかねぇ……」

 

「してるさ……」

 

シュンジも運ばれてきた酒に手を伸ばしながら、相槌を打つ。

 

「顔がみてえなあ……」

 

「帰りたいか……?」

 

「さあてね……」

 

トッドは紅い顔で天井を見る。

酒場のガス灯の明かりに虫が舞う。

 

「まあ、生きてる内に一回は戻りたいね」

 

「だな……」

 

「ショットでも何かそう言うマシーンを作ってくれないもんかね?」

 

「ショット殿がねぇ……」

 

「ショットはこの世界に馴染み過ぎているから、元の世界に興味はないかもなぁ。

ドレイクも貴重な手駒が無くなるのは嫌だろうね」

 

トッドは焼鳥を頬張りながら、呟き続ける。

 

「なあ、シュンジ」

 

「ん……?」

 

「リの国でそう言う機械を作ってくれねえかな……?」

 

シュンジは酒を飲みほしながら、腕組みをする。

 

「さあ…… 出きるかどうか……」

 

「あんたは未練がないのかい?」

 

トッドは酒を注文しながら、シュンジの顔を見る。

 

「ない……かな?」

 

「なぜさ……?」

 

「待っている人がいない……」

 

「フン……」

 

トッドは無言になる。

 

「シュンジ」

 

トッドが口調を変えて訊ねる。

 

「なんだよ……」

 

「ナの国をどう思う?」

 

トッドはいきなり話題を変えてきた。

 

「どうって……」

 

「嫌な感じの国だぜ、多分な……」

 

「ん……?」

 

トッドはサラダを掻き込みながら続ける。

 

「何を考えているか、わからねえ……」

 

「トカマクのような事を……」

 

シュンジは苦笑した。

トッドは皮肉げに唇を歪めながら喋る。

 

「ロシアンか? ああ、そうだな」

 

トッドは何か納得したかのように何度も頷く。

 

「いつ攻めてくるかわからない……」

 

シュンジはトカマクの言葉を思い出しながら話す。

 

「ヘェー! ああ、そうさ! ロシアン・エイリアンの話だよ」

 

「トッド……」

 

トッドが突然訳のわからない言葉を話し始める。

 

「ソビエトも北からダッダーっと!! ナの国も北からダッーっと!!」

 

「少し飲み過ぎかい?」

 

「なんの、シラフだぜぇ? まだまだ!」

 

トッドは大笑いしながら手振りを続ける。

 

「アメリカ人はみんなこうかい?」

 

「あのマーベルっと言う女もな!!」

 

トッドはまた酒を注文する。よく飲む。

 

「ジャパンだって、ハカダケがあったじゃないか」

 

「ハカダケ?」

 

シュンジは変な表情をする。

真っ赤な顔をしてトッドは話し続ける。

 

「ああ、ハカダケにソ連の戦闘機がやってきてさ、そうね、エイリアンの円盤がやってきてね、ほら!」

 

「ああ……! 函館空港……!!」

 

「ああそう、ハコダテ。

ソビエトエイリアンの円盤!! ユーホー分析ってね!!」

 

トッドは本格的に酔いが回ってきたらしい。

腕をぐるぐる回している。

 

「今にここらにもナの国のユーホーがやってくるぜ……」

 

トッドは頭をテーブルに伏せながら、シュンジに顔を向ける。

 

「エイリアン、かあ……」

 

「ジャパニーズは気楽だねえ……」

 

トッドはそのまま寝てしまいそうな感じであった。

シュンジは後で城にいるアの国の使者達にトッドを迎えに来てもらうようにしようと思った。

 

「俺は呑気なのかな……」

 

シュンジは酔い醒ましの水を飲みながら、酒場を出た。


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