聖戦士伝説 ~カ・オスの聖戦士~   作:早起き三文

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7話 聖戦士二人

凄まじい雨がもたらす闇の中、リの国のオーラシップ「リィリーン」は小一時間ほど、中に浮かんだまま、停船していた。

連なる山脈の影がうっすらと見える。

 

 

 

「相手は停船しませんか?」

 

シュンジはザン団長にそう訪ねる。

 

「しませんな」

 

ザンは簡潔にそう述べる。

 

「アの国の船ではない」

 

客人となっているアの国の騎士バーン・バニングスがいい放つ。

 

「こんな場所でうろちょろしている船は敵性艦だと?」

 

「それはそうでしょう」

 

バーンがハッキリと答える。

 

「どっちにしろ接近はしなくてはならないか……」

 

シュンジはリィリーンのハンガーへ足を運ぶ。

艦を叩きつける雨の音がハッキリと聴こえるようになる。

 

「良い船だ、シュンジ王」

 

バーンがリィリーンを見渡しながらそう呟く。

 

「アの国のオーラシップよりも?」

 

「ああ、よく乗る人の事を考えられている。ブル・ベガーではいつも窮屈な思いをしているな」

 

ハンガーに降り立ったシュンジとバーンはリの国のオーラバトラーの前で足を止めた。

 

「シュンジ王」

 

バーンが苦笑いをしている。

 

「なんでしょうかねぇ、バーン?」

 

「あなたは趣味が悪いよ……」

 

バーンはダンバインを改修した機体である「アルダイン」を見ながら笑う。

 

「悪いかな?」

 

「ハッ、ハッハッ……」

 

バーンは堪えきれずに破顔する。

そのバーンに近づく足音が聞こえる。

 

「こんなピカピカの機体にしやがって……」

 

トカマクがバーンの元へ近寄って相槌を打つ。

 

「元気そうだな、アの国を出ていった地上人?」

 

バーンはどこか懐かしげにトカマクを見やる。

 

「そりゃ、俺はここで良い思いをしているさね……」

 

トカマクはとぼけてそう言った。

 

「このピカピカのダンバインは聖戦士王殿の?」

 

バーンはあちこちにエングレービングが施されたアルダインを見ながらシュンジに訊ねる。

 

「ああ、そう調整してある」

 

「ほう? ハッハッ…… 」

 

よほどバーンの笑いの呻吟に触れたらしい。

シュンジはアルダインのコンソールを弄りながら苦笑した。

 

「ん、では行ってくる、ザン団長」

 

アルダインの無線でブリッジのザンに呼び掛ける。お任せをと無線機から声がする。

 

「いざというときは頼みます、バーン殿」

 

コクピットごしにバーンに声をかける。

 

「リの国のオーラバトラーでどこまでやれるか解りませんがね……」

 

バーンはシュンジに挨拶を送りながら、アルダインから離れていった。

 

 

 

 

ザアアッ!!!

 

激しい雨がイヌチャンマウンテンを覆う。

 

「そこのオーラシップ!! 直ちに停船しろ!!」

 

シュンジは大雨の中、広域無線で怒鳴る。

オーラシップからの返答はない。

 

「……!!」

 

シュンジはアルダインを接近させながらオーラシップの細部を観察する。

 

「……ゼラーナ?」

 

ゼラーナと比べて艦の塗装こそ違うものの、確かに形はゼラーナのそれであった。

 

「敵性艦ね……」

 

シュンジはその黒系統の迷彩が施されているゼラーナの周囲を旋回する。

 

「シュンジさん……」

 

フィナが不安そうな声をあげる。

 

「来ますよ……」

 

「解るのか?」

 

「フェラリオの気を感じます……」

 

「ショウ・ザマのフェラリオか……?」

 

シュンジがそう呟いていると、ゼラーナからのオーラバトラーが一機、接近してきた。

 

暗い雨の闇の中、オーラシップから出撃してきたその機体を見たシュンジは声をあげる。

 

「ショウ・ザマ!?」

 

その強すぎるオーラの輝きは厚い雲の元でも見間違わない。シュンジはアルダインのオーラエンジンのギアを変え、出力を上げる。

 

「シュンジ・イザワか!!」

 

ギィン!!

 

急接近したダンバインの剣が閃光のごとく走る、アルダインの右腕にヒビが、シュンジは剣を振り回しながらアルダインを上昇させる。

 

果てしなく続く雨のカーテンを潜り抜けるようにアルダインを上昇させる。

しかし、ダンバインはそれを遥かに上回るスピードでシュンジの頭上にでる。

 

「シュンジ!!」

 

ダンバインのコンバーターから発生する燐の翼がアルダインの視界を遮る。

 

「小細工を!! ショウ君!!」

 

「なんだよ!? 君づけで呼ばれる筋合いはない!!」

 

「高校生だろう!? 君は!?」

 

上昇するダンバインから火線が走る、それを難なく避け、アルダインの剣をショウ機に叩きつける。

 

シュア……!!

 

ダンバインのワイヤーが剣に絡み付く。

絡み付いたワイヤーを左腕のバルカンで切り落とそうとするシュンジ。

 

「ふんっ!!」

 

ダンバインはワイヤーを即座に巻き戻し、アルダインの頭上を回転するように上昇する。

 

「オーラ力を見せつけてるのか!?」

 

「そうとも! 俗物の聖戦士であるあんたには真似できまい!!」

 

「なめるな!!」

 

雨の幕が途切れる。天上が迫ってくる。

 

ボンフゥ……!!

 

厚い雲を抜け、強烈な日の光が機体に降り注ぐ。

アルダインの装飾が絢爛と輝く。

 

「王と呼ばれて成金趣味になったか!?」

 

ショウが笑いながら、ダンバインを突進させる、早い! ギュア……!!

 

「俺は王だよ、ショウ君!!」

 

「言うなよ! 俺と同じ日本人!!」

 

ダンバインからショットが放たれる、オーラの白き耀きに包まれた弾丸がアルダインの装甲を叩く! カンッ!カァンッ!

 

「そんなショットで!!」

 

「効いてるじゃないかい!?」

 

アルダインのコクピットのガラス(本当はガラスではなくマジックミラー)にヒビが入る、プラスチックのような強獣の甲殻の破片が散らばる。

 

「シュンジさん!!」

 

「ショウ! やっちゃえ!!」

 

ダンバインに乗っていると思わしきフェラリオの声が聞こえる。

 

「シュンジさん!! しっかり!!」

 

「ショウ!! 今だよ!!ぐずぐずすんな!!」

 

「解っている! フィナ!!」

 

「うるさい!! チャム!!」

 

無線が混線する。

アルダインはコンバーターを噴き上げると、ダンバインに急接近する。キックを放つシュンジ、ダフゥ!!

 

「ああ~!!」

 

相手のフェラリオが悲鳴をあげる。ショウは態勢を整え直す。

 

「遅い!!」

 

シュンジはその隙を与えず、腰からダガーを投げつける、ダンバインの右肩関節をえぐり抜いたオーラダガーはシュンジのリモコンによって爆発する。

 

「あれ~!!」

 

フェラリオの声に混じって、ショウの罵る声が聞こえる。ダンバインの出力が上昇する。

 

「ショウ君!! 引け!!」

 

「少し歳が上だからって!!」

 

ダンバインから光が放たれる。天上の陽光と合わさって思わず目を閉じるシュンジ、ダンバインはアルダインに体当たりをする、ズンッ!!

 

「きゃあ!!」

 

グァラ……!!

 

アルダインのバランサーが狂ったようだ。

オーラエンジンのギアを弄くりながら、シュンジは牽制する。

 

バッバッ……!!

 

バルカンがダンバインの頭部に直撃する。しかし致命傷にはならない。

 

「オーラ力の差か!!」

 

「そうかもな!!」

 

「ならこれで!!」

 

アルダインから第二のダガーが投げられる。

簡単にかわすショウ、ダガーは空中で爆発し、余波がダンバインを襲う。

 

「小細工!!」

 

「そうだとも!!」

 

アルダインの剣がダンバインの剣を落とそうとする、肩が上がらず、剣を支えられないショウ。

 

シュル……!!

 

「なんだと!!」

 

あえて剣を落としたショウはワイヤーをアルダインの頭部にぶつける、頭部が破壊され、アルダインは後退した。

 

「メインセンサーがなくても!!」

 

「南無三!!」

 

頭部を失ったアルダインの剣撃をダンバインはかわす、いや、ダンバインが落ちていく。

追撃しようとするシュンジ。

 

「ショウ君とはこういう男か!!」

 

ショウはダンバインのエンジンをあえて一端切り、そして復旧させた。

凄まじい勢いで戦線を離脱するダンバイン。

オーラの燐光が乱反射する。目眩ましだ。

 

「追撃できるか!?」

 

「ダメです!! ボロボロです!!」

 

フィナが損傷ランプを指差して叫ぶ。

ランプは殆どが赤く点滅している。

 

「負けたか!? 俺は……」

 

「痛み分けです!!」

 

フィナがさっさと帰艦するように促す。

確かゼラーナにはまだ聖戦士がいたはずだ。

 

「シュンジ王!!」

 

アルダムに乗ったバーンがシュンジに近づいてくる。

 

「ゼラーナと思わしき船は戦線を離脱した」

 

「そうか……」

 

シュンジはそうため息をついた。

 

「酷くやられたな、シュンジ王」

 

バーンが労りの言葉をかけてくれる。

シュンジはアルダインのコクピットを強引に開けると、白く輝く空気を大きく吸う。

 

「しかし、本当に素晴らしい腕前ですな、シュンジ王は……」

 

「俺は敗けたともとっているぞ」

 

「ははっ……」

 

バーンもコクピットを開け、器用にシュンジ機に接近させると飲み物をくれる。一気に飲み干すシュンジ。

 

「シュンジさん、ずるいです」

 

フィナが不満げな声をあげる。

バーンは笑いながらもう一本ジュースをシュンジに渡した。

 

美しい天上の空気が二つのオーラバトラーを包んだ。


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