凄まじい雨がもたらす闇の中、リの国のオーラシップ「リィリーン」は小一時間ほど、中に浮かんだまま、停船していた。
連なる山脈の影がうっすらと見える。
「相手は停船しませんか?」
シュンジはザン団長にそう訪ねる。
「しませんな」
ザンは簡潔にそう述べる。
「アの国の船ではない」
客人となっているアの国の騎士バーン・バニングスがいい放つ。
「こんな場所でうろちょろしている船は敵性艦だと?」
「それはそうでしょう」
バーンがハッキリと答える。
「どっちにしろ接近はしなくてはならないか……」
シュンジはリィリーンのハンガーへ足を運ぶ。
艦を叩きつける雨の音がハッキリと聴こえるようになる。
「良い船だ、シュンジ王」
バーンがリィリーンを見渡しながらそう呟く。
「アの国のオーラシップよりも?」
「ああ、よく乗る人の事を考えられている。ブル・ベガーではいつも窮屈な思いをしているな」
ハンガーに降り立ったシュンジとバーンはリの国のオーラバトラーの前で足を止めた。
「シュンジ王」
バーンが苦笑いをしている。
「なんでしょうかねぇ、バーン?」
「あなたは趣味が悪いよ……」
バーンはダンバインを改修した機体である「アルダイン」を見ながら笑う。
「悪いかな?」
「ハッ、ハッハッ……」
バーンは堪えきれずに破顔する。
そのバーンに近づく足音が聞こえる。
「こんなピカピカの機体にしやがって……」
トカマクがバーンの元へ近寄って相槌を打つ。
「元気そうだな、アの国を出ていった地上人?」
バーンはどこか懐かしげにトカマクを見やる。
「そりゃ、俺はここで良い思いをしているさね……」
トカマクはとぼけてそう言った。
「このピカピカのダンバインは聖戦士王殿の?」
バーンはあちこちにエングレービングが施されたアルダインを見ながらシュンジに訊ねる。
「ああ、そう調整してある」
「ほう? ハッハッ…… 」
よほどバーンの笑いの呻吟に触れたらしい。
シュンジはアルダインのコンソールを弄りながら苦笑した。
「ん、では行ってくる、ザン団長」
アルダインの無線でブリッジのザンに呼び掛ける。お任せをと無線機から声がする。
「いざというときは頼みます、バーン殿」
コクピットごしにバーンに声をかける。
「リの国のオーラバトラーでどこまでやれるか解りませんがね……」
バーンはシュンジに挨拶を送りながら、アルダインから離れていった。
ザアアッ!!!
激しい雨がイヌチャンマウンテンを覆う。
「そこのオーラシップ!! 直ちに停船しろ!!」
シュンジは大雨の中、広域無線で怒鳴る。
オーラシップからの返答はない。
「……!!」
シュンジはアルダインを接近させながらオーラシップの細部を観察する。
「……ゼラーナ?」
ゼラーナと比べて艦の塗装こそ違うものの、確かに形はゼラーナのそれであった。
「敵性艦ね……」
シュンジはその黒系統の迷彩が施されているゼラーナの周囲を旋回する。
「シュンジさん……」
フィナが不安そうな声をあげる。
「来ますよ……」
「解るのか?」
「フェラリオの気を感じます……」
「ショウ・ザマのフェラリオか……?」
シュンジがそう呟いていると、ゼラーナからのオーラバトラーが一機、接近してきた。
暗い雨の闇の中、オーラシップから出撃してきたその機体を見たシュンジは声をあげる。
「ショウ・ザマ!?」
その強すぎるオーラの輝きは厚い雲の元でも見間違わない。シュンジはアルダインのオーラエンジンのギアを変え、出力を上げる。
「シュンジ・イザワか!!」
ギィン!!
急接近したダンバインの剣が閃光のごとく走る、アルダインの右腕にヒビが、シュンジは剣を振り回しながらアルダインを上昇させる。
果てしなく続く雨のカーテンを潜り抜けるようにアルダインを上昇させる。
しかし、ダンバインはそれを遥かに上回るスピードでシュンジの頭上にでる。
「シュンジ!!」
ダンバインのコンバーターから発生する燐の翼がアルダインの視界を遮る。
「小細工を!! ショウ君!!」
「なんだよ!? 君づけで呼ばれる筋合いはない!!」
「高校生だろう!? 君は!?」
上昇するダンバインから火線が走る、それを難なく避け、アルダインの剣をショウ機に叩きつける。
シュア……!!
ダンバインのワイヤーが剣に絡み付く。
絡み付いたワイヤーを左腕のバルカンで切り落とそうとするシュンジ。
「ふんっ!!」
ダンバインはワイヤーを即座に巻き戻し、アルダインの頭上を回転するように上昇する。
「オーラ力を見せつけてるのか!?」
「そうとも! 俗物の聖戦士であるあんたには真似できまい!!」
「なめるな!!」
雨の幕が途切れる。天上が迫ってくる。
ボンフゥ……!!
厚い雲を抜け、強烈な日の光が機体に降り注ぐ。
アルダインの装飾が絢爛と輝く。
「王と呼ばれて成金趣味になったか!?」
ショウが笑いながら、ダンバインを突進させる、早い! ギュア……!!
「俺は王だよ、ショウ君!!」
「言うなよ! 俺と同じ日本人!!」
ダンバインからショットが放たれる、オーラの白き耀きに包まれた弾丸がアルダインの装甲を叩く! カンッ!カァンッ!
「そんなショットで!!」
「効いてるじゃないかい!?」
アルダインのコクピットのガラス(本当はガラスではなくマジックミラー)にヒビが入る、プラスチックのような強獣の甲殻の破片が散らばる。
「シュンジさん!!」
「ショウ! やっちゃえ!!」
ダンバインに乗っていると思わしきフェラリオの声が聞こえる。
「シュンジさん!! しっかり!!」
「ショウ!! 今だよ!!ぐずぐずすんな!!」
「解っている! フィナ!!」
「うるさい!! チャム!!」
無線が混線する。
アルダインはコンバーターを噴き上げると、ダンバインに急接近する。キックを放つシュンジ、ダフゥ!!
「ああ~!!」
相手のフェラリオが悲鳴をあげる。ショウは態勢を整え直す。
「遅い!!」
シュンジはその隙を与えず、腰からダガーを投げつける、ダンバインの右肩関節をえぐり抜いたオーラダガーはシュンジのリモコンによって爆発する。
「あれ~!!」
フェラリオの声に混じって、ショウの罵る声が聞こえる。ダンバインの出力が上昇する。
「ショウ君!! 引け!!」
「少し歳が上だからって!!」
ダンバインから光が放たれる。天上の陽光と合わさって思わず目を閉じるシュンジ、ダンバインはアルダインに体当たりをする、ズンッ!!
「きゃあ!!」
グァラ……!!
アルダインのバランサーが狂ったようだ。
オーラエンジンのギアを弄くりながら、シュンジは牽制する。
バッバッ……!!
バルカンがダンバインの頭部に直撃する。しかし致命傷にはならない。
「オーラ力の差か!!」
「そうかもな!!」
「ならこれで!!」
アルダインから第二のダガーが投げられる。
簡単にかわすショウ、ダガーは空中で爆発し、余波がダンバインを襲う。
「小細工!!」
「そうだとも!!」
アルダインの剣がダンバインの剣を落とそうとする、肩が上がらず、剣を支えられないショウ。
シュル……!!
「なんだと!!」
あえて剣を落としたショウはワイヤーをアルダインの頭部にぶつける、頭部が破壊され、アルダインは後退した。
「メインセンサーがなくても!!」
「南無三!!」
頭部を失ったアルダインの剣撃をダンバインはかわす、いや、ダンバインが落ちていく。
追撃しようとするシュンジ。
「ショウ君とはこういう男か!!」
ショウはダンバインのエンジンをあえて一端切り、そして復旧させた。
凄まじい勢いで戦線を離脱するダンバイン。
オーラの燐光が乱反射する。目眩ましだ。
「追撃できるか!?」
「ダメです!! ボロボロです!!」
フィナが損傷ランプを指差して叫ぶ。
ランプは殆どが赤く点滅している。
「負けたか!? 俺は……」
「痛み分けです!!」
フィナがさっさと帰艦するように促す。
確かゼラーナにはまだ聖戦士がいたはずだ。
「シュンジ王!!」
アルダムに乗ったバーンがシュンジに近づいてくる。
「ゼラーナと思わしき船は戦線を離脱した」
「そうか……」
シュンジはそうため息をついた。
「酷くやられたな、シュンジ王」
バーンが労りの言葉をかけてくれる。
シュンジはアルダインのコクピットを強引に開けると、白く輝く空気を大きく吸う。
「しかし、本当に素晴らしい腕前ですな、シュンジ王は……」
「俺は敗けたともとっているぞ」
「ははっ……」
バーンもコクピットを開け、器用にシュンジ機に接近させると飲み物をくれる。一気に飲み干すシュンジ。
「シュンジさん、ずるいです」
フィナが不満げな声をあげる。
バーンは笑いながらもう一本ジュースをシュンジに渡した。
美しい天上の空気が二つのオーラバトラーを包んだ。