聖戦士伝説 ~カ・オスの聖戦士~   作:早起き三文

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6話 青色の玉

ズゥゥ……!! ズゥゥ……!!

 

どこまでも続く青空にオーラマシンの群れが浮かぶ。

 

赤い人形、黄色い人形、クラゲのオブジェのような物。その軍団の中心には空を浮かぶ船が飛び、その回りを羽虫のような機械が舞う。

 

アの国、ドレイク・ルフトの私兵達である。

 

その異形の群れの後方、そう、少し離れた位置に空色の機体色で統一されたオーラマシンの部隊がある。

 

「……してやられましたな」

 

空色をしたリの国の旗艦であるリィリーンのブリッジでリの国の騎団長ザン・ブラスが呻く。

 

「……」

 

リの国の国王、シュンジは先程から終始無言である。

無言で窓の外の大空を睨み付ける。

その心境はザン団長と同じだろう。

 

 

 

 

ドレイク・ルフトに出し抜かれた。

 

それがこの大規模機械化部隊を見たときにバイストン・ウェルの王侯貴族の誰もが抱く感想であろう。

 

ドレイクはこの数年間、アの国での対立勢力である「ロムン・ギブン」つまりギブン家の一派に一方的に押されていた。

 

オーラマシンの技術を盗まれ、秘術を使い召喚した即戦力パイロットである「地上人」を幾人も引き抜かれた。

 

虎の子のオーラマシン技術も遅々として進まず、どうにかドラムロという機体を生産したのみ、そして各国は独自にオーラマシンを開発しつつある。

 

「野心家、ドレイクはその実が伴っていない」

 

その噂がコモンの間ではもっぱらであった。

 

ドレイクの野心は潰える、またはドレイク自身が諦める。

それが各国の首脳の判断であった。

 

ギブン家の当主であるロムン・ギブンに罪を着せて失脚させ、ミの国にアの国ヘの侵攻の意思ありとアの国の大君主「フラオン・エルフ」に讒言したときもドレイクの焦りととらえられた。

 

もはやオーラマシンはドレイクの専売特許ではなく、各国は十分な数のオーラマシンを所有している。

一領主であるドレイクがかなう相手ではない、と。

 

ミの国の空を埋め尽くさん限りのマシンの群れ。

群れの中には旧式のゲドやドロの姿も数多い。

 

だか、シュンジはもうとっくに見抜いている。

あれはゲドの皮を被った全くの新型であると。

 

ドレイクの領地では「ラース・ワウ」や「お館様」の通称で呼ばれ続けられた「あのゲド」はその外見を変えずにそのまま運用され続けた。

それを見ていた外交官はドレイクの力を見誤った。

ドレイクは未だ旧式に頼らざるをえないと。

 

おそらく、オーラバトラーのパイロットが一度でも乗ることが出来ればすぐに違いに気付くだろう。

 

「ダンバインの量産型か……」

 

シュンジはそう呻く。

 

ドロにしてもそうだ。

おそらくガロウ・ラン討伐の頃に使用されたドロとは大きな違いがあるだろう。

オーラ吸気の呼吸音やその機敏な上下移動を見ただけでシュンジは

 

「リのスジャータでは相手にならない」

 

と解る。

 

ドレイクはまさしく「力を蓄えていた」のだ。

文字どおりに。

 

このミの国の侵略はおそらくドレイクの勝利で終わる。そして各国はドレイクの力をみくびっていたことを後悔するだろう。

 

「俺だってそうだ」

 

シュンジは胸のうちで呟く。

 

ここ数年の内に、ドレイクの野心が自然消滅することを願っていた。

そうであってほしいと思っていた。

だか、その願いは甘すぎたみたいであった。

 

 

 

 

「……では、リの国の部隊はこのまま後方に控えております」

 

シュンジはドレイクの使者にそう答える。

 

「うむ、ではシュンジ王、我らの奮戦をとくとご覧あれ」

 

使者としてリィリーンに乗船した女性騎士「ガラリア・ニャムヒー」は尊大に頷きながら、連絡用のミュー(小型のグライダー)に飛び乗った。

 

「ああ、そうそう」

 

ミューのエンジンを動かしながら、ガラリアはシュンジに話しかける。

 

「もしここでシュンジ王が抜け駆けをすれば」

 

ガラリアはゴーグルを掛けた顔をシュンジに向ける。

白い歯が彼女の端正な顔からこぼれる。

 

「もしかするとお館様はあなたの事を見直すかも知れませんぞな!!」

 

ガラリアは傲慢にそういい放つと、青い空へ向けてミューで飛びさって行った。

ミューの軌跡が白い帯となって青空へ消える。

 

「ふん、ガラリアめ」

 

シュンジはその軌跡を見ながら悪態をつくと、その足でハンガーに降りていった。

 

 

「シュンジ王」

 

老騎士ボアンが近づいてくる。

 

「ダンバイン、本来ならあまり出したくありませんな」

 

ボアンはハンガーに置いてあるダンバインを見ながら語りかける。

 

「調子が悪いのか?」

 

シュンジは空色に塗装されたダンバインの脚に触れながら訪ねる。

 

「補充物資がありません、アルダムのオーラ・マスルとオーラ回線では出力に負けてしまいます」

 

「ん、コンバーターの異常も直ってないな」

 

シュンジはダンバインのコンソールを触れながらため息をつく。

 

「そいつは俺ら地上人がもらったダンバインの中では

一番程度の悪い奴だったと思うぜ!! なあ!?」

 

ダンバインの元パイロット、地上人のトマカクが遠くから話に加わる。

 

「そうなのか?」

 

「だから、俺が落とされたんじゃない!?」

 

トマカクは怒鳴りながら自分のアルダムのエンジンを動かしている。

 

「機械のせいにするんじゃないよ!」

 

女性騎士エフアがトマカクにそう毒づく。何か苛立っているようだ。

 

「しちゃ悪いかよ!!」

 

トマカクもエンジンの調子が悪いのか、機嫌が良くない。

 

シュンジはその様子を見ながらフィナに語りかける。

 

「ゼラーナが攻めてこない事を祈るか?」

 

「誰にですか? もう!!」

 

フィナが呆れたような顔をする。

 

「俺たちはドレイク殿の示威を観るためだけにここに来たようなもんだ、ゼラーナがそれを知っていてくれればなぁ」

 

「聖戦士王、何呆けた事を言っているか」

 

ボアンも呆れた顔をする。

 

「ドレイク殿にでも手助けを頼むか、な」

 

シュンジは連絡用のシュットに手をかけ、エンジンをかける。あわててフィナが肩に飛び乗る。

 

「だれだ!? シュットを持ち出しているのは!?」

 

ザン団長からの怒鳴り声が聞こえる。

シュンジはその声を無視してシュットの方向をドレイク軍旗艦「センテリオン」に向ける。

 

「ドレイクの趣味かショットの趣味か……」

 

その旗艦の名前を変なものだと思いながら、ショットは青い大空へ飛び立った。

 

 

 

ショットを駆るシュンジは強い風を頬に受けながら飛び続ける。フィナは飛ばされないようにシュンジの服のポケットに潜り込んでいる。

 

空は雲ひとつない、どこまでも広がる青空である。

空の森と呼ばれている場所だ。

上も下もどこまでも青空が広がる奇妙な所である。

もっとも、地面の方は単なる目の錯覚なのだろうが。

 

「……よし」

 

シュンジは空に浮かぶような不思議な感覚を覚えながらスピードを上げた。

 

ショットはどうも起動させると薄いバリアのようなものを張るようだ。

かなりのスピードが出るが、身体は安定している。春の気候を感じながらショットを操る。

どこまでも青い空。空が球状に広がる。

 

シュンジはショットを一回転させた。

服の中のフィナが歓声をあげる。

ショットから搭乗者が落下したという話は聞いたことがない。

やはり何らかのバリアかなにかが働いているのだろうか。

 

「……ん?」

 

青空の中、数隻のドレイク軍の戦闘艦「ブル・ベガー」に警護されているドレイクの旗艦「センテリオン」から煙が出ている。何やら争っている様子だ。

 

「ダンバイン……」

 

周囲のブル・ベガーよりも二回りは大きいセンテリオン。その戦艦を襲っている青色のオーラバトラーを見やりながら、シュンジは呟く。

 

「ショウ・ザマか……?」

 

反ドレイク勢力での象徴的な存在だ。

彼が駆る青いダンバインとともに。

 

未だシュンジは彼と戦ったことはないが、おそらく単純なオーラ力ではシュンジに勝ち目はないだろう。

ショウ・ザマのオーラ力は地上人のなかでもずば抜けている。

 

「ゼラーナの姿はない……」

 

ギブン家の残党、若き新当主「ニー・ギブン」の事を思いうかべながらシュンジは呟く。

そのギブン家残党の旗艦がゼラーナである。

 

「ま、戦うとしたら俺の長年の経験で立ち向かうしかないな」

 

少し自慢気にシュンジは呟いた。

シュンジはバイストン・ウェルの地上人の中ではすでに古参なのだ。

それ以上に古くからコモン界にいる地上人はケムの国のマリア将軍しかいない。

だが、彼女はオーラマシンの黎明期からマシンに乗っているわけではない。

 

シュンジはもっともオーラバトラーの経験豊富な地上人なのである。

 

「お、やったか?」

 

シュンジはダンバインが撤退していくのを確認した。

どこまでも続く青い大空のなか、ショウのダンバインの姿が溶け込んでいく。

 

「やっぱりバーン殿かな」

 

シュンジはダンバインを撃退したらしき機体に目をやる。

深い青色の機体、背中には魚類を思わせるせびれがあり、一般的なオーラバトラーよりも一回り大きい。

 

「ザーベント……? ああ、そうかあれが……!!」

 

シュンジは数年前、ケムの国と戦った時に遭遇したオーラバトラーを思い出した。

リの国の量産型であるアルダムでは敵わなかった機体である。

今、ダンバインを撃退したのはその原型機なのだろう。

 

「ほんとによくやるよ…… ショウもバーンも……!」

 

バーンの機体も片腕を失うなどの損害があることを見ながら、乗っているシュットをその空域に近づける。

 

バーンの奮闘にかけてやる言葉を考えながら、シュンジはシュットを丸い玉のごとくに広がる青空に浮かぶシップに向けて疾走らせた。


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