オギャア……!!
「捨て子かよ……」
「酷いわねぇ……」
二人の夫婦が林の中に捨てられている赤子を拾い上げる。
「ん……?」
赤子の寝間着から一枚の紙が舞い落ちる。
「―THE・O・Z―(神人)」
「名前かしら?」
「さあなあ……」
男は紙を手に取り、その言葉を呟く。
「言いづらい名前だな……」
男はぶつぶつ言いながら、捨て子の名前を呟く。
「シンジン、シンジ、シュンジ……」
「では、ショット様」
車椅子を押していた男が退室する。
「良い人のようですね……」
なお若々しい姿を保つフィナがクスクスと笑う。
「気のきく、良い兵だよ」
ショットは久しぶりに会ったエレと握手をする。
「久しいな、ショット」
女王としての貫禄がついたエレはショットの手を強く握る。
「シュンジィが今日は特に強い」
「吉日ですね……」
ショットの言葉にフィナが少し寂しそうに頷く。
「フィナはシュンジィが嫌いか?」
「嫌い」
フィナがハッキリと言う。
「私もだ」
「ショットさんもシュンジさんを思い出すから?」
「それもあるが」
ショットは部屋にまで舞う蒼い光を見ながら目をつぶる。
「この光を見ると、昔に捨てた俺の子供の事を思い出す」
フィナがショットの肩に乗りながら、話に耳を傾ける。
「昔、俺は子供を捨ててな」
「……」
エレがコーヒーを飲む手を止めて無言で話を聞く。
「12、13の時に出来た子供だ」
「そんなに若くに……」
「気の迷いだよ……」
ショットは遥か昔の事を思い出しながら呟く。
「その子がどうも」
蒼い光を見ながら、ショットは話を続ける。
「シュンジに似ていたんだ」
「そうであるか……」
エレがポツリと呟いた。
「もしも、ズワウ・スをシュンジに与えたのが彼を殺す原因となったのなら」
ショットは深い溜め息をつく。
「俺は二度、息子を殺した事になるのかもしれない」
頭をうなだれるショット。
「ショットさん……」
フィナがショットの顔の正面に来る。
「あんまり、自分を責めないで下さい」
「そうであるよ、ショット」
エレがやや強い口調でショットに語りかける。
「死んだ人間は帰って来ないのです」
エレの言葉にショットは力なく頷く。
「そうだな……」
ショットは暗い顔をしながらも景気をつけるようにコーヒーに手を伸ばす。
「時間です」
ショットに仕える兵が部屋へ声をかける。
「全く、あわただしい……」
ショットは舌打ちしながら、エレ達と国連会議場へ向かった。
車椅子を押されながら、ショットはまだ暗い表情でいる。
「ショット、しっかりせい」
エレがショットをきつい口調で叱る。
「シュンジは俺を許してくれてるのだろうかな……」
「ショットさん……」
フィナがショットを気遣う。
「ショット」
「何だ?」
車椅子を押す兵が自分を呼び捨てにしたのを訝しげに思いながら、兵に答える。
「俺はショットを恨みに思った事はないよ……」
兵が自分の兜を取りながら答える。
しばしの沈黙がその場を流れる。
「フフ……」
ショットが笑う。
「いつからお前は俺の家に雇われたんだっけな……」
「五年前位から……」
「俺の目は本当に節穴なのかもな……」
ショットは少し悔しげに笑う。
フィナが笑いながら車椅子を押していた男の肩へとまる。
「我も小娘の時であればな……」
女王エレがフィナを羨ましそうに見る。
「羨ましいでしょう?」
フィナがイタズラっぽく笑う。
「それよりも……」
男が涙を流しているショットの顔を見ながら車椅子を押す。
「人の目があるからな……」
エレがそそくさとショットを自分の体で隠し始めた。
「なにやっとんだ、あいつらは」
廊下を歩いている老ドレイクが遠くで泣き崩れているショットの姿を見て、呆れたように呟く。
「昔の知り合いにでもあったのだろうよ」
老いてなお凛々しいシーラ女王が書類に目を通したまま、無関心そうにドレイクに答える。
「全く……!!」
ドレイクは膨大な書類を見ながら廊下を歩く。
「なかなか隠居できん」
「コモンを乱した王への罰であるよ」
「主も大して変わらんだろうに……」
二人の老いた男女はぶつぶつ言いながら、会議場へ急いだ。
国連会議場には各国の王、または王の代理が集っていた。
広く豪奢な部屋の後ろに一枚の大きな絵が飾られている。
蒼い光を放つ鳥を描いた物である。
額縁には「シュンジの鳥」サインには「エレ・ハンム」と書かれている。
絵画の天才と名高いエレ・ハンム女王の描いた名画である。
「ではこれより……」
クの国の国王であるビショット・ハッタが開会の挨拶をする。
「第21回、バイストン・ウェル、ユーロ地方国連会議を開会する」
宣言したビショット王は傍らに立つフィナ・エスティナへと視線を向ける。
フィナは頷きながら、議会の専用台に立つ。
「リの聖戦士王の物語を憶えている者は幸せである……」
語り部フィナの朗々とした声が会議場へ響き渡る。
「なぜなら、我々は自らの過ちを省みることが出来ない性を持たされているから……」
その言葉に各国の首脳が唱和する。
「ゆえに、語り部のフェラリオ、フィナ・エスティナの伝える次の物語を伝えよう……」
シュンジィの風が舞うなか、一人の兵士がのんびりとよく晴れた空を見上げている。
「シュンジィの風ねぇ……」
初老の男は頬杖をつきながら苦笑する。
「俺はそんなに優しくないよ……」
彼は大きく伸びをしながら、再び空を見上げる。
「だいたい、俺は生きているだろうに……」
呟く男の元に彼の同僚が声をかける。
「交代だぞ」
「おう」
男は同僚の顔を見る。
「奧さんとはどうなった?」
「どうもこうも……」
同僚の男は不満そうに呟く。
「旅行に連れてってくれるなら許してくれるってよ……」
「よかったじゃないか」
「旅行の金がなあ……」
「貸してやるよ」
「良いのか……?」
「ああ」
同僚の男は礼を言いながら、一面に輝くシュンジィの風を見上げる。
「これが伝説の聖戦士様の起こしている事だって言うなら……」
蒼い光を見ながら同僚は呟く。
「俺も助けてほしいっての……」
「はは……」
「聖戦士様だぜ?」
「聖戦士といっても大した事なんだろうなあ……」
「おいおい……」
同僚の男の呆れた声を尻目に、初老の男は城内へと入って行った。
「お袋の墓参りも今度から一人で行くことはなくなるかな……」
呟きながら歩く男の肩に一人のフェラリオが止まり、二人は親しげに話を始めた。
その二人に年老いたナの国の将軍が近寄ってきた。
~終わり~