聖戦士伝説 ~カ・オスの聖戦士~   作:早起き三文

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53話 聖戦士の鳥

竜を切り払いながら、ショウはズワウ・スの最後の一基のコンバーターへたどり着いた。

 

「チャム」

 

「ん?」

 

「シュンジの気配は?」

 

「ああ……!! なるほど!!」

 

チャムはズワウ・スのコクピット内へと意識を集中させる。

 

「フィナがね……」

 

「うん?」

 

「助けてほしいって」

 

「そうか……」

 

「コンバーターのあの部分」

 

チャムがコンバーターの付け根の一点を指差した。

 

「シュンジがあそこが弱点だって言っている」

 

「この剣で切れるかな?」

 

「シュンジが力を貸してくれるみたい」

 

「フーン……」

 

ヴェルバインはその日本刀のような姿をしたオーラソードを正眼に構える。

 

「はあぁぁ……!!」

 

ヴェルバインのコンバーターからリーンの光が迸り、その光が剣に纏わりつく。

 

スウッ……

 

ショウのオーラソードが蒼い光を帯びた。

 

「せいっ!!」

 

剣が一閃する。

 

スッ……!!

 

バターを切り裂くようにズワウ・スのコンバーターが切断された。

その瞬間。

 

ギュルルルッ……!!

 

まるでビデオテープの巻き戻しのように天へと竜を駆るフェラリオたちが吸い込まれていく。

全てのフェラリオを吸い込んだ天の裂け目は静かに閉じていった。

 

「地上人……」

 

ガラリアのイシュタールに寄りかかるようにしているバーン機から声がかかる。

 

「そんな手があったのなら、もっと早くやってもらいたかったよ……」

 

バーンが少し怒ったように話す。

 

「シュンジを信じる必要があったからな……」

 

「そうか……」

 

ショウの言葉にバーンは少し笑みを浮かべる。

 

「なら、我らには出来ない事であったな、地上人よ」

 

「俺も同じ日本人のよしみを信じるしかなかったよ……」

 

ショウが自分でもあまり納得していない答えを言う。

 

「さて……」

 

ショウはズワウ・スのコクピットの前へと機体を移動させた。

 

「では、やるか……」

 

ショウは再び聖戦士の剣を構える。

 

「や……!!」

 

コクピットの扉を両断する。

 

「シュンジ……」

 

巨大なコクピットの中には顔を土気色にしたまま目を閉じ、操縦席にもたれかかっているシュンジ・イザワ王。そして、その傍らで泣きじゃくっているフィナ・エスティナの姿があった。

 

「シュンジ……」

 

ショウの声にシュンジは軽く目を開ける。

 

「ショウ君か……」

 

「こい、シュンジ」

 

ショウはコクピットから身を乗り出す。

 

「お前には頭を下げなくてはならない連中が山ほどいる」

 

ショウがシュンジの手をとった。

 

ザアァァ……

 

シュンジの腕が砂となって崩れた。

 

「シュンジ……!!」

 

ショウが息を飲む。

 

「ショウ…… フィナを頼む……」

 

「シュンジさん!!」

 

「つらい思いをさせてすまなかった、フィナ……」

 

シュンジの言葉に激しく首を振るフィナ。

ヴェルバインから飛んできたチャムがフィナの身体を掴む。

 

「嫌です!!」

 

フィナは激しく身をよじって抵抗する。

 

「私はシュンジさんと一緒に……!!」

 

「チャム!!」

 

ショウがチャムに鋭く声をかける。

 

「離して!!」

 

チャムが無理矢理フィナをヴェルバインに押し込む。

 

「リの聖戦士シュンジ……」

 

ショウがシュンジの顔を正面から見据える。

 

「さらばである」

 

ショウの言葉にシュンジは軽く笑みを浮かべる。

ヴェルバインがズワウ・スのコクピットから離れていった。

ズワウ・スのコクピットが音を立てながら振動していく。

 

「フィナ、ザン、レン、ナラシ、トッド……」

 

崩れゆくコクピット内でシュンジは頭の中にに次々と浮かんでくる者達の名前を呟く。

 

「エレ、マリア、ビショット……」

 

シュンジの目が閉じられた。

 

「……ショウ」

 

シュンジは最後の一人の名前を言った。

そのシュンジの脳裏に二人の男女の顔が浮かぶ。

 

「親父、お袋……」

 

その二人の顔は見えない。

 

「最後ぐらい、顔を見せても良いだろうに……」

 

シュンジの身体が徐々に崩れ始める。

 

「俺には本当に親がいたのだろうか……」

 

コクピットの上方からマシンの破片が落ち始める。

 

「俺とエレが親だったのか……?」

 

シュンジの意識が混濁し始める。

 

「男の子ならレン、女の子ならフィナ……」

 

シュンジの脳裏の最後に浮かんだ二人の顔が像を結び始めた。

 

「ああ、そうか……」

 

シュンジは二人の顔を見ながら呟く。

 

「俺はこのバイストン・ウェルで両親にあっていたのだな……」

 

シュンジは穏やかな顔で微笑む。

ズワウ・スのコクピットが崩壊を始めた。

 

 

 

数多の脱出挺が舞うアポクリプスの地の中心にそびえ立っていたズワウ・スの巨体が砂となって崩れ落ちていく。

 

「シュンジ王……」

 

レンがその様子を瞬きもせずに見守る。

 

「レン……」

 

「父上!?」

 

「死に損ねたわ……」

 

ザンのシュットがレンの機体へ近寄っていく。

その間にもズワウ・スは轟音をたてながら崩れ落ちる。

 

 

 

 

「あいたたた……」

 

不時着したゴラオンからフォイゾン王が引っ張り出される。

 

「全く……!!」

 

ジェリルはぎっくり腰を起こしたフォイゾンを呆れたように支える。

 

「お前の姿に驚いて再発したのだぞ……」

 

フォイゾンが顔をしかめて言う。

 

「あたしが簡単に死ぬ女だとでも思ったか」

 

「フフ……」

 

近くにいたキーンも笑いながらフォイゾン王を支えようとする。

 

 

 

「こっちにも生存者がいるぞ!!」

 

唯一、核による攻撃を免れたケムとハワの艦隊が戦場に取り残された生存者を救出して回っている。

 

「俺はフェイ・チェンカだぜ……」

 

「ぐだぐだ言ってないで、早く担架に乗れ」

 

ハワの兵の疲れたような声が響く。

 

 

 

「ルーザもよくやっているな……」

 

ドレイクは大破したウェル・ウィプスから離れた場所で傷の手当てを受けていた。

 

「お母様でありますもの……」

 

リムルがドレイクに包帯を巻きながら微笑む。

 

「しかしな……」

 

ドレイクはニーの顔をじろじろと見た。

 

「何か? 義父上?」

 

「主が天のジャコバ・アオンを仕留めた戦術はどこで習った?」

 

「はて…… 自然に頭に浮かびまして……」

 

「ふん……」

 

ドレイクは少し不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

「お気に要りませんでしたか……?」

 

「いや……」

 

ドレイクは頭を振る。

 

「儂が長年の末に生み出した戦法と同じでな……」

 

「私は義父上を越えましたかな……?」

 

「若造が……」

 

ドレイクは傷の痛みも忘れて笑いだした。

 

 

 

「おい、酒は……」

 

「固いこと言うなよ?」

 

「お腹の子が……」

 

「そんなヤワな子じゃない」

 

口ではそう言いつつも、酒袋を置いて水を飲みだしたガラリアにバーンは苦笑する。

 

「男の子なのか?」

 

「解るわけないだろう?」

 

「あれはデタラメかよ……」

 

「あたしの願望だよ、バーン」

 

「そうか……」

 

バーンは苦笑しながら自分の怪我の手当てをする。

その目は崩れゆくズワウ・スの姿を見ていた。

 

「もう、シュンジ王の姿も見れないな……」

 

「ああ……」

 

辺りはすでに日が暮れようとしていた。

 

 

 

夕日が辺りを赤く染め上げる中、ズワウ・スは完全に崩壊し、その残骸の上を多数の脱出挺が飛んでいる。

 

「終わったな……」

 

ザナドがアイリンにしがみつくようにシュットに乗っている。

 

「助かったぜ、アイリン……」

 

「脱出挺のチェック位、ちゃんとしておけ」

 

アイリンは無表情にいい放つ。

 

「おい……」

 

「何だよ?」

 

「あたしの背中に何か当たっているぞ……」

 

「し、仕方ねえだろ……」

 

ザナドは顔を赤らめて言う。

 

「お前が良い匂いがするから……」

 

「ふん……」

 

アイリンは鼻を鳴らしてズワウ・スの残骸に目を向けた。その時……

 

「あれは……!!」

 

「何だ……!?」

 

ズワウ・スの残骸から蒼い光が溢れ出てきた。

 

「蒼い鳥……!?」

 

レンが近づいてその鳥のような物の姿を見ようとする。

 

クゥェェェエ……!!

 

残骸から蒼い巨大な鳥が羽ばたき、大きな声で鳴いた。

 

「シィムルグ……」

 

ザンがそう呟く。

 

「シィムルグ……?」

 

レンが聞き返したその時。

 

クウェェェェェェエ……!!

 

一際大きく鳥が鳴いたと同時に、ズワウ・スの残骸、そして地に落ちたオーラマシンや飛竜、戦死者の骸が一斉に蒼く輝きだした。

 

「何だ!?」

 

誰かがそう呟いた瞬間、鳥は大きく羽を動かし、宙へと舞う。

 

ブォォ……!!

 

それとともに、アポクリプスの地に満ちた蒼とも緑ともつかない光の粒子がその宙へ一面に舞い乱れる。

 

「シィムルグである……」

 

「父上、それは?」

 

光に満ちた空を飛びながら、レンは父に訊ねる。

 

「リの国の伝承だ」

 

ザンは蒼い鳥を見ながら、呟き始めた。

 

「リの王が死すとき、その魂を故郷へと運ぶとされる霊鳥のことである」

 

「シュンジ王の魂……」

 

レンは夕日に照らされるその鳥をじっと見つめている。

 

「我らの国にも同じ伝承がある」

 

マフメットに支えられながら脱出挺に乗っているシーラがザン達の近くに寄る。

 

「ナの国ではフェーニクスと言う」

 

そう説明しながら、慣れない脱出挺に身体をよろめかせているシーラは愚痴をこぼした。

 

「こんなに不自由な物とは思わんだ……」

 

「早くお慣れ下さい」

 

マフメットが羽を失ったシーラに微笑む。

シーラは不機嫌そうに話を続ける。

 

「もっとも、ナの国の伝説のその鳥は赤い羽を持つ物であるが」

 

「シュンジ王は俺たちの王だぜ……」

 

シーラの言葉にザナドが叫ぶ。

 

「あんたの国のとは違うに決まっているだろう……」

 

ザナドとアイリンもそう言いながら、蒼い鳥を見つめていた。

 

 

 

「ビショット王」

 

「ん?」

 

「寿命を縮めるぜ……」

 

「リーンが守ってくれる」

 

「そんなわけがあるか……」

 

ゲア・ガリングの残骸の傍でかなりの怪我をしながらもタバコを吸うビショットにトッドは呆れた声を上げる。

 

「フフ……」

 

アレンが微笑みながらタバコをふかしている。

 

「トッド、火を貸してくれ」

 

トモヨがタバコの火を催促する。

 

「どいつもこいつも……」

 

トッドは顔をしかめながらも、トモヨのタバコに火をつけてやる。

 

「蒼い鳥ねぇ……」

 

ビショットは顔をしかめながら、夕日に赤く染まった空を舞う鳥を見つめている。

 

「どこへ行くのかな……」

 

「さあな……」

 

タバコを燻らせている男女は蒼い鳥を見上げながら無言でいる。

 

「ジャパニーズのやることだからなあ……」

 

トッドもタバコに火をつけ、光が舞う空の中を飛び立っていく鳥の姿をいつまでも見つめていた。

 

 

「上手くなられましたなあ……」

 

マリアとショットがエレの絵を覗き見る。

 

「シュンジ王から頂いたマンガのお陰ですよ……」

 

二人に顔を向けることなく、必死に蒼い鳥を描いているエレ。

 

「故郷に戻る鳥かあ……」

 

「ええ……」

 

トカマクとエフアの夫婦が手を握りながら夕日に向かっていく蒼い鳥を甲板の上で見守っていた。

 

 

 

「シュンジはニホンに帰るのかな……」

 

「さあ……」

 

赤い夕焼けの中、ショウ機とマーベル機が飛び去っていく蒼い鳥を見つめている。

 

「俺も親父とお袋に結婚の報告をしなくちゃな……」

 

後に不世出の戦士、リーンの聖戦士、人の世の聖戦士などと謳われる地上人ショウ・ザマは飽きもせずにマーベルと共にその蒼い鳥を見つめている。

 

そのコクピットではチャムに介抱されながら、フィナがいつまでも泣きながらシュンジの名を呼んでいた。


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