「うわっ!?」
決戦の地であるアポクリプスの高々度でドックファイトを行っていたトッドのガラバ。
その機体のすぐ脇を巨大な剣が上昇していった。
不幸にも一機のマハカーラが巻き込まれて粉砕される。
「トッド!?」
アレンもその剣を見上げる。
「なんだよ!?」
トッドは驚きながらも、その剣をじっくりと観察した。
「シュンジの奴の剣に似ている……!?」
トッドは近くに敵機がいるにも関わらず、剣の行く先を見ようとする。
カ・オスの巨大な剣は唸りをあげて、バイストン・ウェルの天であるワーラー・カーレンへと突き刺さる。
「空の膿が!?」
剣はビショットが「空の膿」と呼んだワーラー・カーレンの箇所を突き破り、そのまま光となって消散した。
バッ!! バァアアアアァァァ……!!
「ド、ドラゴン!?」
高々度のオーラファイターの内、誰かが声を上げた。
破けた空から無数の白銀の鱗を持つ竜の大群がバイストン・ウェルの空へ飛び出してきた。
「人が乗っている!?」
トモヨが驚愕の声を上げる。
無数のドラゴンの背中には確かに人らしき者が乗っているように見える。
「あれがリーダーか……?」
震える声でアレンが先頭の竜を見やる。
一際大きなその銅色をしたドラゴンの背中には豪華絢爛たる板金鎧を身に纏った女丈夫の姿が見える。
「久々の戦ぞ!!」
その威風堂々とした体躯を誇る女の片手にはオーラバトラーが用いる剣と言っても過言ではないほど巨大な剣が握られている。
到底人間が持てるものではないその剣を軽々と担ぎ、女は雄叫びをあげる。
「ジャコバ・アオンの出陣ぞ!!」
それに唱和するかのように白銀の竜に乗ったフェラリオ達も一斉に叫ぶ。
「天のフェラリオの出陣ぞ!!」
ジャコバ・アオンは剣を一振りした。
振るわれた剣が炎を帯びる。
「なんだっていうんだよ!?」
トッドを含め、両軍のオーラファイター部隊は対応がわからずにそのドラゴンの群れの周りを旋回するだけであった。
「シャラァアッ!!」
ジャコバ・アオンの怒声と共にドラゴンの群れが地上目掛けて下降していく。
「あいつら!!」
トッドはクの部隊に追撃するように指示を出そうとした。
「まて、トッド!!」
アレンがトッド達クの国の部隊を止める。
「なんだよ!?」
トッドはガラバをアレン機に接近させようとする。
「この状態でまだやるって言うのか!?」
「違う!!」
「じゃあなんで!?」
「まだ何か来る!!」
「何!?」
トッドとアレンは再び上空へと視線を向ける。
ブルルルルッ……!!
「プロペラ音……!?」
トッドはもっとよく見えるようにガラバを上昇させようとしたその時。
バグァッ!! ギィーーン!!
「何だと!?」
天から地上の戦闘機群が舞い降りてきた。
複葉機、レシプロ機、ジェット……
古今東西、過と去、そして現。
あらゆる世代の戦闘機群がけたたましい音を立ててバイストン・ウェルの空へ迫ってくる。
「地上の戦闘機……!!」
アレンがそう呻く。
違うのは全ての戦闘機が様々な光に包まれている事であろうか。
「嬉しきや!! 嬉しきや!!」
女の笑い声と共に、その前進翼ジェット機からトッド機へと電撃が飛ぶ。
「くそぉ!!」
間一髪でその攻撃をかわしたトッドはオーラキャノンで反撃を試みる。
キィーーン……!!
トッドからのキャノンを軽々とかわす戦闘機。
「面白きや!! 面白きや!!」
そのジェット前進翼機のパイロットであるナックル・ビーはめちゃくちゃに計器類を弄り、操縦桿を動かす。
バッ!! バッ!!
天の戦闘機群から電撃が放たれ、バイストン・ウェルのオーラファイターが次々へと撃墜される。
「おい!!」
アレンがトッド機へ通信を入れる。
「一時休戦だ!! わかったか!?」
「くそっ!!」
悪態をつきながらも、トッドはアレンに同意する。
「全軍!! 敵国の部隊と協調して謎の部隊を迎撃せよ!!」
トッドが通信を入れる前にトモヨとナの国の増援部隊の隊長機から共同戦線の指示が入った。
「狙うは隊長機か!?」
アレンのスーパースターがプロペラ機を落としながら、トッド機へと言い放つ。
「そううまくいくもんかよ!!」
二機に追尾され電撃をかわしながら、トッドは答えた。その内一機をナの機体が落としてくれる。
「雑魚は俺たちが引き受ける!!」
ナールヘッグのパイロットであるレン・ブラスがトッドとアレンへ通信をいれた。
「お前達の機体が一番強い!!」
レンの言葉にアレンは苦笑する。
「まさか、こんな世界でホットウォーをやるなんてな!!」
敵機のリーダーらしい前進翼のジェット戦闘機を見ながらアレンは苦笑いをする。
「ごちゃごちゃ言ってないで、とっとと手伝え!!」
後ろに付かれた三機の戦闘機から電撃を放たれ、必死にかわすトッドから罵声が飛ぶ。
「手のかかる弟だぜ、全く……!!」
バイストン・ウェル上空での激しい空中戦が始まった。
「なんだ!?」
ショウは上空から飛来してきたドラゴンの群れに驚愕の声を上げる。
「ジャコバ・アオン!!」
チャムが畏れるような声を出した。
「ワーラー・カーレンの長か!?」
「間違いない!!」
ショウはヴェルバインをリーダーと思しき銅色の竜へと向かわせた。
「久々の地上であるよ!!」
ジャコバ・アオンがそう宣言するように言うと、彼女の巨大な体躯から光輝く翼が生えた。
「理を司る者の裁きである!!」
ブォン!!
ジャコバ・アオンの燃える剣が振るわれ近くにいたオーラバトラーを粉砕する。
彼女の竜は地上でうずくまっているズワウ・スの頭の周りを嘲るように旋回する。
「ご苦労であったよ、シュンジ・イザワ」
そう言いつつ、ジャコバ・アオンはズワウ・スを嗤う。
「デーモとの戦いで消耗した我らでは、世界を分かつ壁を破ることはできなんだ」
ジャコバ・アオンはそうひとしきり言った後、凄まじい大声で宣言するようにいい放つ。
「これより、我ら天のフェラリオが人の創りしデーモ、オーラマシンを浄化する!!」
その声に答えるかのように彼女の乗騎の竜が咆哮を上げ、数多の白銀の竜の背に乗ったフェラリオ達が唱和した。
「あの翼……!!」
グラン・ガランのバルコニーから身を乗り出していたシーラはジャコバ・アオンの背中から生えている翼を見て驚く。
「……」
シーラは無言で自分の背中の羽を見た。
ジャコバ・アオンのそれによく似た羽は鈍く光る。
「我の羽は天の物であったか……」
シーラの羽が弱く震えた。
「しかし」
シーラは力強く呟く。
「あれは悪を成す者である!!」
女王シーラはジャコバ・アオンを睨み付けながら叫んだ。
「ショット!!」
「いまやっています!!」
ケムの将軍マリアの声にショットは苛立った声を上げる。
資料をあさり、他国のオーラマシン技師へ通信機から怒鳴り、必死で計算をする。
「あのドラゴン達は!?」
「そっちは計算していない!!」
ショットはズワウ・スから発生されるオーラの数値を計測器から汗をかきながら割り出す。
「俺は巨大化したズワウ・スの分析で手一杯だ!!」
「そうだろうな……!!」
マリアは艦の窓から空を舞う焔の羽と竜達の姿を忌々しげに見ながら、アヴェマリアのオーラマシンハンガーから出ていく。
「エレはこんな状態でも艦橋で絵を描いているのか……」
マリアはエレの豪胆さに苦笑しながら、ケムのオーラマシン部隊へと通信を入れる。
「状況は?」
「わかるもんかよ………!!」
ケムのオーラバトラーであるヴィーヴィルに乗ったトカマクから返事が入る。
「ズワウ・スの羽は冷静に対応すれば、避けるのは難しくはない」
「それはあなたが聖戦士だからだろう!!」
トカマクの妻であるエフアから悪態が飛ぶ。
「どっちにしろ、白いドラゴン達の方が強敵だ」
トカマクはエフアの言葉を無視して報告する。
「すでに敵味方の各艦共に一時休戦の連絡は取り合っている」
「当たり前だ……」
トカマクは苦々しく呻きながら、通信を切った。
どうやら再びドラゴンに襲われたようだ。
「この歳になってこんな難事に対面するとはな……」
マリアは呟きながら、ブリッジへとかけ上がっていった。
「ノヴァ砲はどうか?」
ドレイクは傍らの士官に訪ねる。
「アイドリング状態を維持しております」
「うむ……」
ドレイクはラウのフォイゾン王へと通信を入れる。
「フォイゾン王、そちらのノヴァ砲は?」
「砲を温めてはいる」
フォイゾン王からやや不明瞭な無線の声が届く。
「相手が何であれ、切り札とはなる」
「うむ……」
フォイゾンの頷きに同意するドレイク。
「今、我が方ではオーラマシンの技師達が事態打開の為の策を練っている」
「こちらもだ」
「だか、さしあたっては……」
「天からきた竜どもであろうな」
「で、あるな……」
ウィル・ウィプスから覗く戦場の様子を見ながら、ドレイクは唸った。
「天に棲まう者達であるか……」
ドレイクは前線にいるバーンから状況を聞くために通信機を手にした。
「忌々しい化け物め!!」
リの国の騎士ザナドは白銀の鱗を持つドラゴンを切り捨てながら、悪態をつく。
ガァ!!
接近してきた新手の竜が火炎をザナドのズワァースに吐きかける。
「チェオ!!」
炎をかわすズワァースに竜の乗り手のフェラリオが大剣を振るう。
ガッ!!
剣を切り結び、ズワァースでその竜を蹴飛ばす。
「しかしな……」
竜に襲われるリの国の騎団を見渡しながら、ザナドは呟く。
「ズワウ・スの焔の羽が襲ってこない……」
リの国の部隊には焔の羽が襲ってこない。
いや、襲ってきても、他の焔の羽がそれを迎撃し同士討ちをしているのだ。
「シュンジ王が守ってくれているのか……?」
ザナドは竜の攻撃を捌きながら、一人呟く。
「アアっ!!」
アイリンのアルダムがドラゴンの火炎の直撃を受けた。
「アイリン!!」
ザナドは対峙していた竜をズワァースのフレイボムで片付けながら、アイリン機の支援に向かった。
焔の羽は不思議とリの国の者達を襲わなかった。
「ウッ!! ワァーッ!!」
ラウのオーラバトラーであるゼルバインが白銀の竜に食い付かれた。
バキィ……!! グチュ……!!
「ウォーン……!!」
咆哮をあげながら旨そうにオーラバトラーを喰らうドラゴン。
その乗り手であるフェラリオが手を叩いてその光景に歓喜する。
「ヒャヒャヒャ……!!」
「化け物めぇ!!」
近くにいたアの国のオーラバトラーが食い荒らされているゼルバインを助けようと竜に斬りかかった。
「ジャコバ・アオン!!」
ショウのヴェルバインが天のフェラリオの長であるジャコバ・アオンの巨大な竜へと接近した。
「聖戦士か!?」
ジャコバ・アオンは薄ら笑いを浮かべながら、乗竜をけしかけ、炎を吹きかけさせる。
ブオォォ!!
竜の炎をヴェルバインの装甲を僅かに焼いたが、ショウ機は気にせずにジャコバ・アオンに接近する。
「聖戦士の力とやらかい!?」
ジャコバ・アオンは燃え盛る大剣を振るう。
ガァン!!
ショウの剣がその強烈な一撃を防ぐ。
「何ゆえ、天の者がガロウ・ランのごとき真似を!?」
「オーラマシンの浄化であるわ!!」
ザァン!! ガッ!! ガッ!!
その巨躯のフェラリオの長からの猛攻を防ぎながら、ショウは叫ぶ。
「オーラマシンは悪であると!?」
「悪しきデーモのごとき、人に過ぎた物である!!」
「天の暴君めが!!」
「言うなよ!! 聖戦士の出来損ない!!」
カッ!!
再びジャコバ・アオンの乗竜から火炎が吐き出される。
ジュバァ……!!
ヴェルバインの周囲にバリアーのような物が張られる。
「しゃらくしゃあ!!」
銅色の乗竜から炎を撒き散らしながら、ジャコバ・アオンの口から術が放たれる。
シュウウ……!!
「おのれ!!」
術により出力が落ちたヴェルバイン。
ショウはそれでもその機体を駆りながら、ジャコバ・アオンにオーラキャノンを斉射する。
キィン!! チィーッ!! チィ!!
「地上人がよぉ!!」
身に纏う光輝く板金鎧でキャノンを弾きながら、再びフェラリオの長は剣を振るう。
「地上人などぉは!!」
炎の剣を振るう。
ガィンン!!
「所詮は我らがフェラリオが召喚した地上の兵器の余録である!!」
「俺たちが召喚されたのは!?」
「我らが地上の補充戦力を呼び寄せた時の薄汚い垢であるよ!!」
「聖戦士はただの付随物であると!?」
「おうよぉ!!」
剣を切り結ぶ二人の戦士。
「なれど!!」
シュウの機体からオーラの光が強く迸る。
「人の世のために!!」
「ほざけぇい!!」
ガィンン……!!
「俺は人の世の聖戦士である!!」
「リーンの者にでもなったつもりかよ!!」
「なってみせる!!」
バァアアア……!!
シュウのヴェルバインから白い光が迸った。
「何ぃ!?」
ジャコバ・アオンはその光の翼に驚愕の声を上げる。
「リーン!?」
フォラリオの長の大剣がヴェルバインを両断せんとする。
バァン……!!
「真にリーンであるか!?」
ショウ機の光の翼に剣を弾かれたジャコバ・アオンは呻く。
その竜の背に乗る彼女にヴェルバインのショットが飛ぶ。
バァー!! バッ!!
「おのれ!!」
額から血を流しながらも、ジャコバ・アオンの口から絶叫のような術が迸った。
バウンッ!! バァッ!!
周囲の宙域に新手の竜が召還され、ジャコバ・アオンの乗竜も強い輝きに包まれる。
「くおっ!?」
ショウは竜たちから放たれる炎を神業のような動きでかわしながら、光の翼を羽ばたかせる。
「地上人が……!!」
ジャコバ・アオンの竜が吐き出した炎によってヴェルバインの光の翼の光輝が失われる。
「この力だけでは勝てない……!!」
ショウは勝機を見つけんとして、ジャコバ・アオンの周囲を旋回した。