「シュンジ王!!」
ドレイクはウィル・ウィプスの艦橋からシュンジのズワウ・スに通信機を握り潰さんばかりに怒鳴る。
「突出しすぎである!!」
「何を弱腰な!!」
シュンジはナの国のオーラバトラーを切り捨てながら叫び返す。
「一旦引け、シュンジ王!!」
「何ゆえ!?」
「アの国連合軍の最高責任者としての命令である!!」
「このまま押せば勝てるではありませんか!!」
シュンジはドレイクの事を笑いながら通信を切る。
「シュンジ!!」
通信が切れた無線機を片手にドレイクは怒鳴る。
「くっ……!!」
ドレイクは万が一の時の命令を実行しなくてはならないのかと唸った。
「バーン」
ドレイクは艦内の伝令管でハンガーに待機しているバーンに声をかける。
「はい……」
「リの国を攻撃しなくてはならない時が来たようだ」
「はっ……!!」
命令を受けたバーンは傍らのガラリアへ声をかける。
「ガラリア」
「ん……?」
「シュンジ王を討たねばならん事になった」
「……」
ガラリアは無言で自機であるイシュタールのコクピットへのタラップへ足を掛けた。
「シュンジ王め……」
バーンは哀しげに呟きながら、ズワァースへと乗り込んだ。
「リの化け物め!!」
マーベル機とジェリル機が連携してシュンジのズワウ・スに襲いかかる。
「ラウの女達!!」
さすがにビルバインとその後継機であるジャンヌ・ダルクの猛攻に防戦一方となるシュンジ。
「カ・オスの力よ!!」
数多のマシンの血を吸った魔剣から赤いオーラの波が迸る。
ガガッッ!!
「ちぃ!!」
波動の余波を浴びたジェリル機の出力が低下する。
「ジェリル!!」
近くにいたフェイのセキトゥハから猛烈なす火線が飛ぶ。
ガァーン!! ドゥ!!
ズワウ・スの装甲に亀裂が入る。
「くっ!!」
一旦後退したシュンジ機の穴を埋めるように、リの国のオーラバトラー隊が前線に出る。
「おのれ!!」
リのタンギーがビルバインに落とされるのを見て、リのオーラバトラー隊隊長ナラシがミサイルを斉射する。
ドドゥ!!
ミサイルをかわしたマーベル機はその隙を狙われ、ザナドからの一撃を受けてしまう。
「救援を!!」
マーベルが叫びきらない内に、ラウのボゾーン隊からの支援射撃が入る。
「だめだ!! 皆、引けい!!」
シュンジはリの部隊へ号令をかける。
「させるか!!」
フェイとジェリルの追撃がリの艦隊を襲う。
それを見たシュンジのズワウ・スのコンバーターの出力が上がる。
「オーン!!」
剣を一閃し、赤い光を放つ。かなりの広範囲である。
「またしても!!」
機体出力が下がったフェイの口から悪態が出る。
後退を始めたリの艦隊を見ているシュンジはこちらに接近してくるアの国の部隊を確認した。
「バーン達か……!?」
先頭を行くズワァースの姿を見ながら、シュンジは何か妙な予感がした。
「王……」
傍らのフィナが蒼白な顔をしている。
「これは……?」
ナの部隊を蹴散らせていくバーン達を見ながら、シュンジは首筋が寒くなるのを感じた。
「シュンジ王!!」
ガラリアがシュンジ機に接近してくる。
「……!!」
シュンジのその勘は歴戦のパイロットのそれである。
シュ……!!
ガラリアのイシュタールの剣を寸前でかわすシュンジ。
「ガラリア!!」
「シュンジ王!! ただちにリの国全軍を地に着艦させい!!」
「ドレイクめぇ!!」
吼えるシュンジにバーン機が迫る。
「どうか我らの指示に従ってもらいたい!!」
「だまれ!!」
ズワウ・スは自機よりも二回りほど小さいバーンのズワァースを蹴飛ばすように攻め立てる。
「降伏した所を狙い撃つ気であろう!?」
「シュンジ王……!!」
激昂したシュンジ機の攻撃を紙一重でかわし続けるバーン。
「ローマンス!!」
ガラリアが部隊の艦へと指示をだす。
アの国の戦闘艦から支援射撃が開始され、オーラバトラー部隊が展開された。
「何だ!?」
ショウのヴェルバインが遠目からその様子を伺っていた。
「仲間割れか……!?」
「……」
ショウの傍らでチャムが震えている。
「チャム……?」
「怖い……よ」
チャムがショウに縋りつく。
「どうした……!?」
「シュンジが……!!」
「何……!?」
ショウは同士討ちを始めたアの国とリの国の艦隊を見ながら、固唾をのみこんだ。
「何ぞ……!?」
グラン・ガランのブリッジでシーラはラウのフォイゾン王と休戦のタイミングについて通信による会話をしていた時に、強い寒気を感じた。
「女王、どうなされた?」
「いや……」
シーラはかぶりを振って、フォイゾンとの通信を再開する。
「どうやら、ドレイクの側で仲間割れが起きているようでありますな」
「そうみたいです……」
フォイゾンはシーラの気のない返事を不審に思いながらも、話を続ける。
「和平交渉の機会では……?」
「そうかもしれぬが……」
「シーラ女王?」
シーラはフォイゾンの通信には答えずに、グラン・ガランのバルコニーへと出ようとした。
「あれは……!?」
ケムの旗艦「アヴェマリア」の艦橋で戦場の絵図を描いていたエレはリの国、特にシュンジ王のズワウ・スの異変に目を向けた。
「ショット!!」
エレは艦内へショット・ウェポンを呼びに行った。
「何だ!?」
バーンは巨大化していくズワウ・スの姿を見ながら、驚愕していた。
チィー!! チェ!!
戦闘艦「ローマンス」やアの国の重オーラバトラーであるレプラカーンから猛烈な火線がズワウ・スに集中するが、全てズワウ・スの装甲に弾かれてる。
「敵が小さく見えるとは……!!」
「王!!」
フィナがシュンジの顔を見ながら悲鳴を上げる。
「なんなんだよ!?」
ザナドが震えながらシュンジ機を凝視する。
ズワウ・スは既にオーラシップ並みの大きさとなっている。
「俺が!! 勝つということかぁ!!」
「シュンジさん!!」
コクピット内でフィナが絶叫した。
「各員!! シュンジ王から離れろ!!」
ヨルムーンガントのザン団長から指示が飛ぶよりも前に周囲にいたオーラマシンはシュンジ機から離れていく。
「あれは!?」
クの国王ビショットがゲア・ガリングのブリッジから叫ぶ。
「デーモ……!? いや、化け物……!?」
徐々に巨大化していき、巨大戦艦と同じ大きさとなったズワウ・スの姿を見ながら、茫然とするビショット。
「いや…… まだ巨大化している……!?」
ビショットはその場で凍りついたようにシュンジのズワウ・スを見つめていた。
「リの国の者よ!! 我に続けい!!」
巨大戦艦をも片手で握り潰せる程の巨人となったズワウ・スは地響きを鳴らしながら、アの国の巨大戦艦ウィル・ウィプスへと近づいていく。
「王……」
ヨルムーンガントのクルーもリの国のオーラマシン部隊も呆けたようにその場から動けない。
「我こそが!! バイストン・ウェルの王者なり!!」
シュンジの咆哮が戦場へ響き渡る。
「手始めに!! アのウィル・ウィプスをぉ!!」
ズゥン……!!
「オーラ・ノヴァ砲を……!!」
ドレイクはその言葉を言うだけで精一杯である。
両軍がその巨人の歩みをを固唾を飲んで見ているなか、巨人に異変が起きた。
「グゥ!! オッ……!!」
「シュンジさん!?」
シュンジ王が苦しげに身を縮こませる。
「オォ……!!」
シュンジの口から赤い物がこぼれ出る。
「逃げろ…… フィナ……!!」
「シュンジさん!!」
「逃げろ!!」
ゴォン……!!
地響きを立てて、ズワウ・スは両膝を大地に立てた。
ズゥオオオオァ……!!
巨人の背中から翼が生えた。
「あれは!?」
甲板に上がったショットから驚愕の声が響いた。
「白い焔の翼……!?」
ショウの口から呻き声が漏れた。
フォオオオオオォ……!!
巨人から翼の羽が舞った。
ズゥ!! バウ!!
羽はまるで意思を持つように、周囲のオーラマシンに食い込んでくる。
焔の羽をその身体に受けたオーラマシンは次々へと爆散していく。
「シュンジ……!!」
ドレイクは食い入るようにその光景を見つめていた。
巨人が吼えた。
「剣が!?」
同じく巨大化したカ・オスの剣を巨人は両の手で掲げる。
ブォオオオオオ……!!
巨人のオーラコンバーターが凄まじい轟音を放つ。
ブォン……!!
巨人はそのまま、カ・オスの剣を空高くほおり投げた。翼がまたしても羽ばたく。
「くそ!!」
ショウはヴェルバインを駆り、剣とオーラショットで羽を叩き落としていく。付近では羽をかわしそこなった機体が煙を上げる。
「デーモ……」
ショットは艦の上で呻いた。
「出番である」
バイストン・ウェルの天、ワーラー・カーレンの長「ジャコバ・アオン」は配下の者へ号令を与えた。
「嬉しきや」
彼女の背後にたたずむ黒騎士が剣を地面へ突き立てて喜びの声を上げる。
「ポップ・レッスから拾い上げたデモ・フェラリオ達よ」
見ると、黒騎士の背後には無数のフェラリオ達がいる。皆、異形とも言える、人とも獣とも似つかぬ容姿をした女達。
「拾い上げた我に対する恩を返せ」
「左様にも」
黒騎士を始めとするフェラリオ達は一斉に声を上げる。
「そなたらには地上のマシンを与える」
「喜ばしや」
フェラリオが唱和する。
「飛び乗れ!! フェラリオ共ぉ!!」
「面白きや!!」
女たちは我先にとマシンへ飛び乗る。
その様子を見ながら、ジャコバ・アオンは呟く。
「デーモめをバイストン・ウェルから追い返すのに予想以上の戦力をつかうてしまうたわ」
ジャコバ・アオンは傍らのドラゴンの頭へ手をやりながら呟く。
「ゆえにフェラリオの掟までも破り、堕ちたフェラリオどもまでを使役せねばならぬ」
ジャコバ・アオンは黒騎士の方へ目を向ける。
「ナックル・ビー」
「如何とよ」
黒騎士は剣を地面に叩きつける。
カァン……
「ドレイクは憎いか?」
「憎しきや」
カァン……
「そなたを利用したものよな?」
「如何にも」
カァン……
「恨みを返せるぞよ?」
「嬉しきや……!!」
カァン……
「では行け」
黒騎士は無言でマシンへと乗る。
その姿を見ながら、ジャコバ・アオンは戦装束を身に付け始める。
「では、ウォッグ」
ジャコバ・アオンは乗騎である銅の鱗をした竜に声をかける。
「人の創りだしたデーモ達を滅ぼすとしよう」
竜は天高く咆哮した。