朝日がバイストン・ウェルの機械化国家群のオーラマシン達を照らす。
おびただしい数のオーラマシンがナの国の南方の地域であるアポクリスプスの地へ展開していた。
「とんでもねぇ数だな……」
オーラファイター「ガラバ」のコクピットの遥か眼下、雲の隙間から覗くオーラマシンの群れの姿を見て、クの国の聖戦士であるトッドは呻くように呟く。
「最後の戦争になるかもしれないからなあ……」
トッド機の後方に展開する軽量型オーラファイター「マハカーラ」隊のリーダーであるトモヨは戦友の言葉に相づちを打つ。
「アレンの奴も出てくるだろうな……」
雲に隠れて見えないナの国のオーラマシンが展開すると思われる方向へトッドは視線を向ける。
「高高度オーラファイター隊、敵陣への突入開始まであと一時間である」
クの国のオーラシップから通信が入る。
「了解……」
トッドは伝令管に答えながらも、前方に注意をはらう。煌々たる朝日がコクピット内を照らす。
「空軍パイロット時代を思い出すぜ……」
「地上での戦争は上空を制した者が戦いを制するんだって?」
トモヨがトッドに訪ねる。
「ああ……」
トッドは警戒こそ怠らないまでも、しばしの間、上空からの景色を見ることを楽しむ。
「……」
遥か彼方の眼下にリの国のオーラシップ群の姿が見えた。
「シュンジ王ね……」
「危険なんだってねぇ?」
「らしいな……」
トッドは苦々しげに呟いた。
「ったく、あんの女……」
フェイは痛む頬を押さえながら、セキトゥハのコクピットに座っている。
「全く……」
セキトゥハの前方を飛行するアレンのスーパースターから呆れたような声がする。
「本当にマフメットの奴に訊いたのかよ」
アレンは苦笑いしながら、後方にそびえる飛行城「グラン・ガラン」の威容を見る。
「親切丁寧に説明しやがって……」
「親切丁寧に!? ハッハハッ……!!」
「その後にビンタ数発だぜ……」
忌々しげにフェイは呟く。
「どうせなら、レン君のナニのやつの方が……」
もはやアレンは笑うしかない。
「何があった、アレン」
近くを飛んでいたジェリルのジャンヌ・ダルクから通信があった。
「何でもねぇよ……」
アレンは笑いながら答える。
「フェイの奴が野暮天なものでね……」
「あいつめ……」
ジェリルは苦笑したようだ。
「だから、あたしはあいつをこっぴどく振ったのさ」
「ああ、ああ、なんか理由がわかったような気がする」
「ふふ……」
ジェリルは含み笑いをしながら、通信を切った。
「ふふん……」
胸の十字架に触れながら、アレンは弟と戦わなくてはならない重い気分が少し軽くなったのを、神と戦友達に感謝した。
「高高度戦闘か……」
上昇し始めたアレンのスーパースターに続き、飛行形態に可変したナの新型オーラバトラー「ナールヘッグ」の部隊がそれに続いた。
「主よ……」
上昇するスーパースターのコクピットでアレンは再び胸の十字架に手をやる。
「カインとアベルの警の告に反する我を赦したまえ……」
ラウの航空部隊と合流しながら、ナのオーラファイター隊はバイストン・ウェルの遥か上空へと飛翔していった。
「アイリン」
ザナドのズワァースが前方を悠々と飛行している。
「あの王……」
リの国の国王シュンジの機体である漆黒のオーラバトラー「ズワウ・ス」を指差しながら、同僚に訊ねる。
「後ろから落としてもリの国は許してくれると思うか?」
「落とせるもんなら落としてみなよ……」
アイリンのアルダムから投げやりな声が聞こえた。
「だろうな……」
ザナドはうんざりしたようにアイリンに答える。
「もう俺たちには王は止められない……」
「ああ……」
二人のリの騎士は戦う前から、理由のわからない疲れを感じていた。
戦線の先陣を切ったシュンジのズワウ・スはナの陣営から突出してくる機体を確認していた。
「ナの可変機!!」
シュンジは一直線にズワウ・スを狙っていると思われるその機体を迎え撃とうとする。
「シュンジ王!!」
「レンか!!」
ズワウ・スからカ・オスの剣の波動が放たれる。
パァン!!
そのナの可変機ナールヘッグの前で弾かれ拡散する赤い光。
「聖戦士並みと言うわけか!! 弾くとは!!」
レン機がシュンジに特攻する。
「聖戦士の名を語る者!!」
ガァン!!
レン機とズワウ・スの剣が交差する。
「ゴード王の名を汚す者!!」
「死んだ王の名を持ち出して何とする!!」
ギィン!!
ナールヘッグからの斬撃を防ぎながら笑うシュンジ。
カァン!! ガッ!! ガッ……!!
「落ちろ!! 王!!」
「お前にいつまでも構っている暇はないんだよ!!」
レン機と何合も剣を交わしたあと、おもむろにコンバーターの出力を上げるシュンジ。
ウォーン……!!
地鳴りのような呪詛の音が響き、レンのナールヘッグが押されはじめる。
「くっ!!」
合わされた剣が自機の方へ押し返されるのを、歯噛みするレン。
シュァァ……!!
涼やかな音をたてて斉射されるオーラショットがシュンジ機の装甲を叩く。ガァン!!
「下がれ!! レン」
ショウのヴェルバインがレン機の支援へ向かう。
「高空のオーラファイター部隊が苦戦している!!」
「しかし!!」
「お前にはシュンジは討てない!!」
ショウのヴェルバインが二機の間に割ってはいる。
「ショウ君かい!!」
シュンジのカ・オスの剣から赤い光が迸る。
パィ……ン!!
「そう何度もその手が使えると思うよ、シュンジ!!」
「流石は最強の聖戦士とやら!!」
カ・オスの剣によるオーラ吸収が失敗しても、全く動揺せずにショウ機を迎え撃つズワウ・ス。
ガァン!!
「今日で終わりだよ!! ショウ君!!」
「その人の悪意を体現した機体もろとも!!」
ショウ機のコンバーターから青い光が噴出し、ヴェルバインが発光し始める。
「レン!! 下がれ!!」
「すまない…… 聖戦士ショウ……!!」
剣を切り結びながら、レン機に声をかけるショウ。
レンは後続のナールヘッグやビルバインの後継機「ジャンヌ・ダルク」と共に飛行形態へ可変し、上空へと飛び立っていく。
「レンのごとき若造を気遣うとは、余裕があるじゃないか、ショウ君!!」
「人の心を失った悪王などに!!」
「では君は悪王を討つ聖戦士とやらをやるのかい!?」
「それが人の世の聖戦士の努めである!!」
フォオオオォ……!!
ヴェルバインの出力がますます増大していく。
ヴェルバインより二回りは大きいズワウ・スの巨体が押され始める。
「おのれ!!」
シュンジのズワウ・スから赤い光が迸る。
「フィナ!!」
ショウ機のフェラリオであるチャムが叫ぶ。
「シュンジを止めちゃえよ!!」
「……シュンジさん」
フィナが能面のような表情から小さな声を絞り出す。
「オーン!!」
シュンジにフィナの声は届かない。
ズワウ・スは剣を大振りに振って、ヴェルバインを弾き飛ばす。
「ちぃ!!」
その二機の周辺に両軍のオーラバトラーが接近してくる。支援のつもりであろうか。
「ショウを仕留め損ねたか!!」
ラウのボゾーンを切り捨てながら、ヴェルバインの姿を見失った事に歯噛みするシュンジ。
「まあ、よいわ!!」
ズワウ・スの巨体が修羅のごとく、ナ、ラウの機体を次々と屠っていった。
辺境の小国であるハワの国の部隊は旧式のオーラシップ「ブル・ベガー」数隻と同じく旧式のドラムロなどのオーラバトラー、それのみである。
まともに列強の戦力に立ち向かう事など出来ない戦力である。
「戦いなぞ、あの禿のドレイクに任せておけばよい……」
ハワの旗艦であるブル・ベガーのブリッジで元ドレイクの妻であった女王ルーザは不機嫌な顔で呟く。
ギュアアアァ……!!
数機のオーラバトラーがハワの国の艦隊へと接近する。
「見逃してはもらえぬか……」
ルーザは舌打ちをすると、オーラバトラー隊に迎撃を命じた。
「各機、数をもてあたれ!!」
ルーザの号令に敵機から驚くような声が上がる。
「お母様!?」
「リムルであるか!?」
しばし、敵機であるボチューンの部隊が攻撃を躊躇したかと思うと、リーダーと思わしき女の声が響いた。
「あのような小規模な艦隊、討つ価値もない!! 各機、主戦場へ戻るぞ!!」
踵を返して、ナの部隊はハワの艦隊を通りすがしていった。
「ガキが……!!」
ルーザは娘の凛々しい声を聞いて苦笑する。
「許せよ、リムル……」
ハワの女王ルーザ・ホルンは娘を構ってやれなかった過去を思い出していた。
アポクリスプスの地の高高度では両軍のオーラファイターが激しいドッグファイトを繰り広げていた。
「くそぉ!!」
マハカーラの機動性を生かしながら、しつこく迫るナールヘッグを振り払おうとするトモヨ機。
どうにか目の前をすれ違ったラウの可変機ジャンヌ・ダルクへキャノンを命中させる。
「やるようになったな!! トッド!!」
アレンのスーパースターからのオーラビームキャノンによる斉射を必死で避けるトッド。
「どうした!? チキンのままかよ!?」
「くそっ!!」
トッドは悪態をつきながら、ガラバを上昇させる。
「ん?」
トッドはバイストン・ウェルの超上空、天であるワーラー・カーレンの水の天井が見える位まで高度を上げていた。
「空の膿……!?」
ワーラー・カーレンの青い水の壁に一ヶ所、赤黒く腫れあがっている場所がある。
赤い水が盛り上がっているとでも言おうか……
「ビショットの言っていたことはこれの事か……?」
ギィーーン!!
「よそ見するとはな、余裕があるじゃあないかい!?」
「ちぃ!!」
キャノンをかわしながら、トッドは追撃してきたアレン機の後方へどうにかして付こうと足掻いた。
「まずい……!!」
アの国のオーラ・ドレットノート「ウィル・ウィプス」の艦橋でドレイクは呻いた。
ウィル・ウィプスの前方で煙を上げている自軍の戦艦「ローマンス」越しにリの国の部隊が突出し過ぎているのがわかる。
「リの国旗艦ヨルムーンガントの艦長!!」
ドレイクは越権行為と知りながらも、リの国の旗艦へ直接通信をいれる。
「貴国の艦隊が突出しすぎている!!」
「わかっております!!」
ヨルムーンガントから苛立った男の声が上がる。
「シュンジ王に後退するように言って貰えぬか!?」
「我らも再三に渡り王に申し上げていますが、王は聞き入れてくれません!!」
「シュンジめ!!」
ドレイクは通信を切ると、クの国の巨大戦艦にいるビショット王に通信を入れる。
「ビショット王!!」
「ドレイク!! リの国が!!」
「分かっておるわ!!」
ドレイクは怒鳴ると、かねてよりリの国が暴走したときの為の計画の実行を可否をビショットに訪ねた。
「やむを得ませんな……!!」
ビショットから苦しげな声が聞こえる。
「ハワへの連絡は主から頼むよ……」
ドレイクは沈痛な面持ちでビショットとの通信を切ると、ケムの旗艦「アヴェマリア」へと連絡を入れた。