聖戦士伝説 ~カ・オスの聖戦士~   作:早起き三文

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46話 フィナの涙

「反対です」

 

リの国の旗艦「ヨルムーンガント」の艦長である老騎士ザン・ブラスはハッキリとシュンジ王に反対した。

 

「では、お主はドレイクにリの国が乗っ取られてもよいと?」

 

シュンジ王は険しい声でザンに話しかける。

 

「ただの推測だけでドレイクが裏切るとは軽率でしょう」

 

艦のブリッジのクルーは無言で二人を見つめている。

 

「主はいつからそのように甘くなった」

 

「王……!!」

 

「もうよいわ」

 

シュンジは豪華な装飾がほどこされた自分のパイロットスーツの上に傍らの赤いマントを羽織りながら、ブリッジから降りようとする。

 

「主もドレイクが牙を剥いてきたら、その身で理解するであろうよ」

 

立ち去るシュンジの姿を見ながら、ザンは長い時間その場で立ちすくんでいた。

 

「ザン団長……」

 

外交官として乗船している内務大臣オウエンや密偵長であるサーラが声をかける。

 

「……任務に戻れ」

 

ザンはその二人や無言でいるクルーたちに声を放った。その言葉に任務へ戻るリのクルー達。

 

「レン…… ゴード王……」

 

ザンは誰にも聞こえない声でそう呟いた。

 

 

 

「様子はどうだ?」

 

「王……」

 

ハンガーのパイロット達がシュンジに敬礼する。

 

「リの騎団、準備は万全であります」

 

オーラバトラー隊隊長であるナラシがそうシュンジに告げる。

 

「ん……」

 

シュンジはそう言い、自身の専用機「ズワウ・ス」に乗り込む。

 

「少し、その辺りを廻ってオーラマシン部隊の様子を見る」

 

「はっ……」

 

シュンジは近くにいたパイロットであるザナドにそう声をかけると、ズワウ・スをハンガーのカタパルトへと歩かせた。

 

「……」

 

カタパルトから飛翔するズワウ・スの姿をハンガーの者達は無言で見つめていた。

 

「……各員、作業へ戻れ」

 

ナラシはハンガーの者達にそう告げる。

 

「はっ……」

 

葬列のごとき無音のハンガーの中で、リの者達は何も語らずに作業を再開した。

 

 

 

夜のヨルムーンガントの周辺には新設した航空機隊の隊長であるバラフが率いるウィングキャリバー「ジームルグ」やオーラファイター「マハカーラ」の姿が見える。そして、やや下方にはオーラボンバー隊隊長ラージャが率いるオーラボンバー「タンギー」の姿がある。

 

シュンジはズワウ・スでリの国の他のオーラシップ群の周囲を廻りながら、自軍の戦力を確かめる。

 

「鬼とでるか蛇とでるか……」

 

シュンジは微笑みながら、傍らにいるフェラリオでるフィナ・エスティナの姿をみる。

 

「フィナ」

 

「はい、王」

 

フィナは感情を感じさせない声でシュンジに答える。

 

「我が事を成し遂げたあかつきには」

 

シュンジは夜の空を見渡しながらフィナに語りかける。

 

「主には望みの褒美を与えようと思う」

 

ズワウ・スのコンソールを調整しながら、シュンジは話を続ける。

 

「何を望む?」

 

「願わくば」

 

フィナが抑揚のない声で王に答える。

 

「時を昔へと戻す事の出来る機械を」

 

「考えておこう」

 

シュンジはその言葉を冗談だと受け取ったようだ。

フィナには顔を向けず、調整に専念する。

 

トゥン……

 

フィナの能面のごとき顔から一滴の涙がコクピットに落ちた。

 

魔王シュンジはその涙に気づかなかった。

 

 

 

「フィナ」

 

「ん?」

 

ヴェルバインのコクピットの座っているラウの王太子にして聖戦士ショウ・ザマは隣に座っているフェラリオであるチャムの呟きを聞いた。

 

「今、シュンジがフィナを泣かした」

 

「フィナ? シュンジのフェラリオか?」

 

チャムは頷く。

 

「シュンジは悪い奴だ……」

 

「そうか……」

 

ショウはおしだまったまま、はるか前方のアの国のオーラ・ドレットノート「ウィル・ウィプス」に視線を戻した。

 

「シュンジは悪い奴だ……」

 

チャムは再び呟いた。

 

 

 

移動浮遊城「グラン・ガラン」の謁見の間にある玉座に座ったまま微睡んでいた女王シーラ・ラパーナは薄く目を開けた。

 

「誰ぞ……?」

 

シーラは誰もいない謁見の間を見渡した。

 

「今、涙したのは……」

 

シーラの声に答える者はいない。

 

「……」

 

シーラは再び目を閉じた。

 

 

 

 

クの国の巨大輸送艦「ゲア・ガリング」の国王の私室でクの国の若き王ビショットは目を覚ました。

 

「シュンジが女に手をあげたか……?」

 

暗い私室を見渡すビショット。

 

「シュンジめ、匹夫に成り下がったか……?」

 

ビショットは呟いたあと、再び眠ろうとした。

 

「……」

 

ビショットはなかなか寝付けない。

 

「くそっ!!」

 

サイドテーブルから酒瓶を取り出し、一気に口へ流し込むと、ビショットは頭の上まで布団をかぶった。

 

 

 

「……」

 

ケムの国のオーラ・シップ「アヴェマリア」の甲板の舳先でエレは絵を描く手を止めた。

 

「どうしました、エレ様」

 

元リの国の騎士であったエフアがエレに声をかける。

 

「今、シュンジがフィナに手をあげた」

 

「……」

 

エフアには返す言葉が見つからない。

 

「シュンジ……」

 

遠くに見えるリの国の艦隊を見るエレの目から光る物がこぼれ落ちた。

 

 

 

 

バイストン・ウェルの天の空間「ワーラー・カーレン」この天上の世界で水晶球に手をかざしながら術を唱えている女の姿が見える。

 

「……」

 

水晶球にはコモンの王達の姿が次々と見える。

 

「……フフ」

 

女は術を唱えるのを中断し、傍らに寝そべっている竜の頭をなでる。

 

「ウォッグ……」

 

かなり巨大な竜である、が、女の掌はそのドラゴンの頭の大きさにも劣らぬほど広い。女のその体躯も相当に巨大であることが見てとれる。

 

「ウォッグ……」

 

その銅色をしたドラゴンは女の手に舌を伸ばす。

 

「可愛い奴よ……」

 

女はドラゴンをしばらくの間撫でてやり、再び水晶球に目をやる。

 

「フフ……」

 

水晶球にはリの国の国王シュンジ・イザワの姿が浮かぶ。

 

「可愛い奴よ……」

 

その巨大な女はシュンジの姿を見て嗤った。

 

その女の後ろには漆黒の甲冑に身を包んだ一人の騎士の姿があった。地面に突き立てられた大剣を両の手のひらで柄頭から支えている。

 

「嬉しきや」

 

騎士は女の声でそう呟くと、剣を地面に突き立てた。

 

カァン……

 

石床に突き付けられた剣から音が響いた。


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