「では、これで大まかな作戦は納得してもらえたということで……」
アの国のオーラ・ドレットノート「ウィル・ウィプス」の会議室に集ったアの国派勢力の重鎮たちの顔を見渡しながら、アの国国王であるドレイク・ルフトは戦議の終了を告げた。
「結構でだと思われます。ドレイク殿」
リの国の聖戦士王であるシュンジ・イザワはそう頷きながら、席を立った。
「では、我らの勝利の為に、リの国は準備をしてくるとしましょう」
シュンジはそう一方的にドレイクへ告げると、会議室から立ち去っていった。
「ドレイク……」
辺境の小国ハワの女王であるルーザは小声で元夫であるドレイクに声をかける。
「いつからあの王はあれほど尊大な男に?」
「知るものかよ……」
ドレイクは疲れた顔をしてルーザに答える。
「シュンジ王の言葉ではありませんが、我々も……」
クの若き国王であるビショットとケムの実質的な指導者であるマリアはドレイクに告げる。
「ああ、ご足労であった」
二人が退出したあと、ルーザはドレイクに囁く。
「シュンジ王に刺客を送る気は?」
「まだ、ナとラウと一戦もせぬうちに身内同士でそのような真似ができるか……」
「はい……」
ルーザはそう言ったきり、この事について話すのを止め、自国の艦へ戻っていった。
「ふう……」
「ドレイク王……」
傍らに控えていたバーンとガラリアが主君を気遣う声をかける。
「ああ……、そなたらも下がって良い」
「はっ……」
二人のアの国の騎士は顔を見合わせた後、会議室を出ていった。
「アルドラント……」
会議室に一人で佇むドレイクは昔に亡くした息子の名を呟いた。
「バーン」
「ん……」
ガラリアは傍らで携帯テレビゲームをしているバーンに声をかける。
「これがあたしたちの最期の戦いになるか?」
「だろうな……」
バーンはいったんゲームから目を放して、ガラリアに顔を向ける。
「バーン」
ガラリアは立ち上がり、自機であるイシュタールに手を触れる。
「あたし達が予備兵力であるということは、もうすでにあたし達の時代は終ったと言うことかな?」
ガラリアは少し自嘲ぎみに言葉を話す。
「必ずしもそうではない」
バーンも自機のズワァースのコクピットに乗り込みながら、ガラリアに答える。
「一つはガラリアの言う通り、俺達が衰えてきてきると言うこと」
「……」
「二つ目はアの国の若手に手柄を譲った方が良いと言うこと」
「三つ目は……?」
「リの国への備えだよ」
ズワァースのコクピットの微調整をして降りてくるからバーンから吐き捨てるような言葉が聞こえた。
「シュンジ王か……」
その言葉にバーンは答えない。
「歳はとりたくないものだな……」
「……ん?」
「悲しい事ばかり起きる」
「そうかな」
「違うか? バーン」
バーンはガラリアの肩に手をおき、微笑む。
「悲しい事ばかりでもない」
「ふん……」
「なんだかんだ言って、伴侶が出来たではないか」
バーンはガラリアに懐から指輪を手渡した。
「粋な真似を……」
「いやか?」
「小娘のすることだよ……」
ガラリアは笑いながら指輪を自分の手にはめる。
「ん……」
バーンは再び、ズワァースのコクピットに登る。
「悲しい事ばかりではないか……」
ガラリアは自分の下腹部にそっと手を置く。
「この子も生涯ではこんな悲しい事を体験するのか……」
「何か言ったか? ガラリア」
コクピットからバーンが声をかけてくる。
「いや、何でもない」
ガラリアも自分のオーラバトラーのコクピットに登り始めた。
「トッド」
「ん?」
「ガラバはどうだ?」
トッドは重オーラファイター「ガラバ」のコクピットから顔を出しながら、機体の下までやって来たトモヨ・アッシュの顔を見ながら返事をする。
「大丈夫だ」
コクピットから飛び降りたトッドはトモヨからジュースを受けとりながら、言葉を続ける。
「これなら、アレンの奴にも勝てる」
「……」
トモヨは黙ってジュースを飲んでいる。
「トッド」
「おう」
「兄は嫌いか?」
「嫌いと言うよりも……」
ジュースを一気に飲んだトッドは落ち着いた声で話す。
「うまくコミュニケーションができないんだ」
「兄貴なのに」
「フィーリングが合わないんだよ」
トッドは少し寂しそうな顔をしながら、トモヨの機体である軽オーラファイター「マハカーラ」の姿を見る。
「シュンジの国からの贈り物だったなあ……」
「リのシュンジ王か」
「フィーリングが合う奴だった」
トッドは悔しそうに呻く。
「なのに何で……」
「トッド」
「……ん」
「どうせなら信じてみてはどうだ?」
「何にだよ……」
トッドは不満げにトモヨの顔を見る。
「俺の兄貴みたいに神様にか?」
「シュンジ王とお前の兄貴をだ」
「フン……」
トッドは鼻をならしながら、トモヨの顔を見る。
「神様が助けてくれるってか?」
「お前も聖戦士だろうが」
ジュースを飲み終えたトモヨはトッドの胸に指を突き立てる。
「何だよ……」
「少しは解り合う努力をしろってことだよ」
「……」
黙りこんだトッドを無視して、トモヨはマハカーラへと顔を向けた。
「何でもかんでも、人や運のせいにするんじゃないよ……」
マハカーラのコクピットに潜り込んだトモヨを見ながら、トッドは呟く。
「フン……」
トッドは不満げにガラバのエンジンテストを行う。
「お袋みたいな事を言いやがって……」
「エレ」
寒い風が吹く夜空に浮かぶケムの国のオーラシップ「アヴェマリア」それのの甲板の船首部分にいるエレ・ハンムの姿を見たショットは彼女のいる場所に足を向けた。
「絵を?」
艦のあちこちに小さく輝く照明灯に目を向けながらショットは彼女に声をかける。
エレは頷きながら、スケッチブックでショットの顔を扇ぐ。
「寒いだろ、こら……」
ショットは苦笑しながら、イタズラっぽく微笑むエレの隣に座る。
「戦場の絵を?」
「地獄絵図など、描きたくはないのですが……」
「性分か?」
「はい」
しばしの無言の時間が二人の間に流れる。
「ショット」
艦内からマリア将軍と地上人であるトカマク、そしてトカマクの妻であるエフアの姿が見える。
「風邪を引くぞ」
トカマクが船首の二人に毛布をかけてやる。
「地上人どの……」
エレがトカマクの顔を見ながら呟く。
「人は道を誤るものですね」
「言うな、エレ様」
トカマクはその浅黒い顔を険しくしながら、妻である元リの騎士エフアをちらりと見る。
「まだ、リの国と戦うと決まったわけではない」
トカマクは夜空の遠くに見えるリの国の旗艦「ヨルムーンガント」の姿を見ながら、力強く言い放つ。
「トカマク……」
エフアがトカマクの手を握る。
「リの国がもしも我々を裏切っても」
マリア将軍がはっきりとした言葉で言う。
「アとク、そしてケムとハワで包囲し、降伏させると言う選択肢もある」
ショットがマリアの言葉に頷く。
「楽天的にいきましょう、エレさん」
エフアがそう言い、エレにポットのコーヒーを差し出した。
「そうですね……」
エレが熱いコーヒーに息を吹きかけながら、力なく微笑んだ。
「信じましょう、シュンジ王を……」
エレのその言葉にその場にいた皆は力強く、しかしどこか哀しげに頷いた。