シーラは一人、アポクリプスの地へ飛行する巨大浮遊城「グラン・ガラン」の最頂点部分で風を感じていた。
「……」
シーラの羽か発光する。
「この羽は……」
自分の身体に生えている羽を手に取る。
「ますます大きく、そして輝きが増している」
羽の光を見ながら呟く。
「しかし……」
シーラは悲しげに顔を伏せる。
「伝説のリーンの翼ではないのだ」
「リーンの翼って?」
ゼラーナ隊の新造艦「シルキー・マウ」のブリッジでショウはニーに聞いた。
「コモンの地が悪に襲われる時、何処ともなく現れ、世を平定する救世主の事だ」
ニーがコーヒーを飲みながら解説する。
「聖戦士とはちがうの?」
マーベルが訊ねる。
「聖戦士伝説の原型だな」
ニーはそう言いながら、作戦書を読み始めた。
「リーンの翼とはその救世主が顕現するもの」
リムルが言葉を繋ぐ。
「悪に対峙したときに、その者からの身体のいずこからか、光の翼がほとばしるそうです」
「フーン」
ショウは菓子を摘まみながら、相槌をうつ。
「シーラ女王の羽は違うのか?」
ショウが再び訊ねる。
「シーラ様は否定してらっしゃいますが……」
キーンが少し小声で言う。
「では、あの羽は……?」
「さあ……」
マーベルの言葉にキーンはかぶりを振る。
「あのさ、ショウ」
「ん?」
チャムがショウの顔の前に行く。
「あのシーラの羽、どこかで見たような気がするんだよ」
「へえ?」
ショウが少し驚いたような顔をする。
「どこで?」
「うーん、思い出せない……」
「おい……」
頭を抱えるチャムにショウが苦笑する。
「ん、あれは……」
ニーがブリッジから見える巨大戦艦を指差す。
「ゴラオンだな……」
「フォイゾン王か」
シルキー・ マウのクルーはそのオーラ・ドレットノートの偉容に息を飲む。
「挨拶にいかないと」
キーンがハンガーにある連絡艇に乗り込もうとする。
「全く……」
「よほどフォイゾン王が好きみたいだな」
「ああ……」
ショウとニーは顔を見合わせて笑う。
「フォイゾン王はジェリルの奴が一番のお気に入りだろうに……」
「娘と女の違いがあるぞ」
「ジェリルが娘?」
「フォイゾンはそう思っているようだな」
二人な男は面白そうに話す。
「男二人でコソコソ話すなんてイヤらしいわねぇ」
マーベルが二人に割って入る。
「いいだろうがよ……」
「下品な顔だったなあ…… 二人とも」
ニーが言い返したら、リムルがクスクスと笑う。
「娘と言えば……」
リムルがクッキーに手を伸ばしながらマーベルに訊ねる。
「マーベル達の子の名前は決まりましたの?」
「一応ね」
「何て名前?」
「チャウム」
「チャウムねえ……」
リムルが近くを飛んでいるチャム・ファウに目を向ける。
「あたしの妹分だよ」
チャムが自慢気に言う。
「ふふ……」
リムルがチャムの頭を撫でる。
「聖戦士の子は?」
「ん?」
「聖戦士の子は聖戦士になるのかな?」
「さあね……」
リムルの言葉にニーが肩をすくめる。
その時、シルキー・マウの伝令菅からナの騎士であるレンの声がした。
「ゼラーナ隊あらため、シルキー・マウの人達」
「何だ? レン殿」
ショウが伝令菅に口を開く。
「シーラ様が作戦会議の為に、誰か代表をよこしてほしいとの事です」
「ニーでいいか?」
「大丈夫です」
そう言って、レンは通信を切った。
「じゃあ、行ってくる」
ニーは皆にそう告げて、ブリッジから出ていった。
「レン殿も大変だな」
「つらい立場でもあるわ、彼は」
「ん……」
ショウはマーベルの声を聞きながら少し暗い顔をした。
「リの騎士団長は彼の父親だと言う事だったわよ、確か」
「自分の父を討つ事になるかもしれないか……」
マーベルの言葉にショウは低く呻いた。
「ショウ……」
リムルがコーヒーを二人に手渡しながら、訴えるように呟く。
「どうか、レンさんを助けてやってください」
「助けろと言われてもな……」
「リの国を私達が討つだけでも、彼の心を助ける事になります」
「かもな……」
ショウがコーヒーを飲みながら、頷く。
「肉親が争う必要など、どこにも……」
「ないわ……ね」
マーベルもリムルに同意する。
「俺もチャウムと戦うことになるなど……」
ショウはタバコを取り出そうとして、タバコが無いことに気がついた。
「止めたんだったな……」
「フフ……」
二人の夫婦は微笑みあう。
「人助けは聖戦士の努めか……」
「お願いします、ショウ」
「わかった、やってみよう」
ショウはそう言って、自機の様子を見るためにハンガーへと足を運んだ。
「フェイ」
「あ?」
グラン・ガランのハンガーでオーラマシンの整備をしているナの国の地上人であるアレンは同じくナの地上人であるフェイに声をかける。
「戦いが終わったら」
アレンが自前の首からさげている十字架を触りながら、話を続ける。
「お前はどうする?」
「どうするって言われてもなあ……」
フェイは自分の重オーラバトラーであるセキトゥハを点検しながら、アレンに答える。
「お前自身はどうするんだよ、アレン」
「俺はどちらにしろ、弟をつれて帰らない限り、どうにもならない」
「クの国のトッドか……」
「出来の悪い弟だよ」
アレンは苦笑しながら、自機であるウィングキャリバー「スーパースター」の整備を始めた。
「何で、仲良く出来なかったんだ?」
フェイがハンガーの入り口にシーラ女王の侍従であるマフメットの姿があることを目の端にとらえながらアレンに聞く。
「たんなるすれ違いだよ」
「そうなのか?」
「俺が少しでも早くまともに給料を得るために軍隊に入ったのをな」
アレンは寂しげな顔をして、少し言葉を切った。
「あいつはお袋や自分たちを捨てたと思っているみたいだからさ……」
「フゥン……」
フェイは不思議そうな顔をした。
「そういう兄弟とかに縁がなかった俺には理解できないな……」
「親は?」
「これまた、縁が遠い」
「そうか……」
「俺にはそういった信頼関係というものを築ける人間が少なかったんだよ……」
「あのジェリルとか言う女も?」
「まあな……」
フェイは小走りにこちらへやってくるマフメットを見ながら呟く。
「何しに来たんだ、あいつ?」
「その信頼関係を築きに来たんじゃないのか?」
「はあ?」
フェイは何だかよくわからないといった顔をしながら、セキトゥハの近くまで来たマフメットに声をかける。
「あんたがここへ来るとは、何があったんだ?」
「御守りである……」
マフメットは懐から小さい袋を取り出した。
「私の思いが入っている……」
マフメットは少し顔を赤らめながら、フェイから顔を背ける。
「思い?」
「……な、何でもない」
マフメットは顔を赤らめたまま、そそくさと立ち去っていった。
「なんだ、あいつ……」
「よかったな、色男……」
アレンがタバコに火をつけながら、フェイの肩を叩く。
「何だよ……」
「その御守り、多分アレだぜ……」
アレンはニヤニヤしながら、スーパースターの整備を再開する。
「アレってなんだよ?」
「フフン……」
アレンは袋を指差しながら、微笑む。
「軍隊の伝統だよ……」
「だから、何だよ?」
「マフメットに聞いてみればどうかな……」
「はっきり言えよ、アレン」
「だから、疑問ならマフメットに聞いてみろよ」
スーパースターのコンソールを叩きながら、アレンはフェイの顔を見ずに答える。
「頬をはたかれると思うがな……」
「……」
フェイは首を傾げながら、マフメットの後を急いで追った。
「ありゃ?」
アレンはフェイの姿が見えないのを知って驚く。
「あのバカ、本当に聞きに行ったのか?」
アレンは苦笑しながら、スーパースターのコンソールを再び叩き始めた。
「ジェリル」
ラウの国のオーラ・ドレットノート「ゴラオン」のハンガーへ降りてきた老王フォイゾンは聖戦士であるジェリル・クチビに声をかける。
「ジャンヌ・ダルクの様子は?」
「良好だ」
ジェリルはフォイゾンに顔を向けずに機体の整備を続ける。
「ビルバインの後継機だけはある」
「性能面での見積もりは?」
「ショウのヴェルバインに匹敵する」
「ほう……」
ラウの最新鋭機であるジャンヌ・ダルクの整備を続けるジェリルはフォイゾンに声をかける。
「王」
「ん……?」
「娘や孫娘には手紙を書いたか?」
「何をいまさら……」
フォイゾンは苦笑する。
「もはや、縁の遠い存在ぞ……」
「書いた方が良い」
整備に没頭し、顔を見せないジェリルは簡潔に言葉を放つ。
「で、ないと双方が後悔する」
「そうか……」
フォイゾンは目を閉じながら、ため息をついた。
「書いてみよう」
「それが良い」
ジェリルは顔を出し、微笑む。
「ついでに、娘を寝取ったビネガン王とやらも許してやると良い」
「全く……!!」
フォイゾンは笑いながら、ジェリルの肩を叩く。
「ズケズケと言う娘よ……」
「王にはこのくらいが丁度いい」
「かもしれんな……」
フォイゾンはハンガーの入り口までやって来たキーンの姿を見ながら、苦笑いをする。
「あやつもズケズケと言う娘よ」
「だから、言ったであろう」
ジェリルは再び、ジャンヌ・ダルクの整備を始めながら言葉を続ける。
「王にはそれが一番良い」
フォイゾンは苦笑しながらジェリルを労い、キーンの元へと歩いて行った。