聖戦士伝説 ~カ・オスの聖戦士~   作:早起き三文

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42話 悲しみの月

「リの国のオーラシップ?」

 

ナの国の女王であるシーラは楽しい一時を邪魔されて少し不機嫌な顔をした。羽が微かに震える。

 

「はい」

 

「シュンジ王の艦か?」

 

「おそらくは……」

 

シーラの近衛隊長であるレン・ブラスがそう言い、顔を曇らせた。

 

「お主達、また今度である」

 

シーラは傍らの二人の女性に口づけをし、謁見の間から下がらせた。

 

「おい、アレン」

 

フェイが傍らのアレンに小声で語りかける。

 

「何だよ……」

 

「女王にはアブノーマルな愛は許されないと言わないのか?」

 

「お前は俺に首を跳ねられろというのかよ……」

 

女王に聴こえないようにボソボソと二人は話す。

その声が近くのショウとマーベルの元へと聴こえる。

その二人は顔を見合わせてクスクスと笑う。

 

「何を笑っておるか?」

 

シーラがショウ達に問いかける。

 

「いえ、何でもありません、シーラ女王」

 

ショウは笑いを噛み締めながら答える。

 

「ふん……」

 

シーラはショウに向き直って訊ねる。

 

「リの国の艦、どう思うか?」

 

ショウはしばし考えながら、口を開く。

 

「たんなる示威行為であるとは思いますが……」

 

「ふむ……」

 

シーラの羽か微かに輝く。

 

「我が直接会いに行くか?」

 

「それは危険です、シーラ女王」

 

ショウがはっきりと言う。

 

「最近、シュンジ王の良からぬ噂を聞きます」

 

「ん……?」

 

シーラは傍らの侍従であるマフメットの顔を見る。

 

「ショウ王太子の言う通りであります」

 

マフメットは続ける。

 

「どうも、不審な動きをしております」

 

「そちも反対か?」

 

「はい」

 

シーラは片肘をつきながら、黙っている。

 

「レン・ブラス」

 

「はっ」

 

近衛隊長であり、ナの国最強のコモンのパイロットと謳われているレンにシーラは声をかける。

 

「行ってくれないか?」

 

「はっ!!」

 

レンは威勢よく答える。

 

「元リの騎士であるそちが行けば、リの国との交渉がスムーズに行くかもしれん」

 

シーラはレンの顔を見ながらそう言った。

 

「シーラ女王」

 

ショウがシーラの顔を見る。

 

「何であるか?」

 

「我らもリの国の部隊へ向かおうと思います」

 

「苦労をかけていいのか?」

 

「ラウとしても、直接この目で見たいと思います」

 

「頼む、王太子ショウ殿」

 

シーラはそう言い、頭を下げる。

 

「我々もいった方がよろしいかな?」

 

アレンがシーラに訊ねる。

 

「陽動の可能性もありますが……」

 

シーラが口を開く前にフェイが呟いた。

 

「そうかもしれぬな……」

 

シーラはフェイの意見に同意する。

 

「では、準備をいたします」

 

レンが謁見の間から退出する。

それに続いて、ショウとマーベルも間から出ていく。

 

「レン君は大丈夫かな?」

 

フェイが囁く。

 

「戦力的な意味では大丈夫だろう」

 

アレンがフェイの顔を見ながら呟いた。

 

「彼は既にマシンの腕前もオーラ力も俺達を越えている」

 

「……」

 

「コモンで彼に勝てるのは、アの騎士であるバーン・バニングス位だ」

 

「でもあの男は」

 

「最近、精彩をかけているらしいな……」

 

「地上人達、あまりコソコソ話すでない」

 

マフメットが二人を嗜める。

 

「へいへい、悪うございました……」

 

フェイが肩をすくめる。

 

「……」

 

シーラは目を瞑りながら、黙って何かを考えているようであった。

 

 

「ショウ殿」

 

「ん?」

 

陽光の差す天空城グラン・ガランの長廊下を歩きながら、レンはショウに訊ねる。

 

「ヴェルバインの様子は?」

 

「悪くない」

 

「乗りこなせると……?」

 

「操縦系統がダンバインのそれとよく似ている」

 

ショウは腕組みしながら答える。

 

「そもそも、性能がダンバインの比ではない」

 

「それはよかった……」

 

「レン殿はナールヘッグで?」

 

レンは廊下の日の光に目を細めながら頷く

 

「ビルバインとボチューンの後継機ですって?」

 

マーベルがパイロットスーツを窮屈そうにしながら訊ねる。

 

「私、太ったかしら?」

 

「最近、食べ過ぎだぞ?」

 

「悪くて?」

 

二人のやり取りにレンが軽く笑みを浮かべる。

 

「ナールヘッグは可変機でありますよ」

 

「ビルバインよりも強くって?」

 

「性能だけであれば」

 

「フーン……」

 

マーベルは少し不満そうに呟く。

 

「ビルバインがすでに旧式とはねぇ……」

 

「マーベル……」

 

ショウはマーベルの機嫌の悪さを気にしながら語りかける。

 

「ジャンヌ・ダルクをジェリルに取られたからって……」

 

「別に……」

 

ショウは妻の機嫌の悪さに苦笑しながら、レンに顔を向ける。

 

「リの国な……」

 

ショウの言葉にレンは黙っている。

 

「戦えるか?」

 

「無論であります」

 

「無理は……」

 

「自分はナの騎士であります」

 

レンは毅然と言った。

 

「そうですか……」

 

マーベルが少し感心したように言う。

 

「地上人マーベル殿」

 

「何?」

 

「御子の様子は?」

 

「もう立てるようになったわよ……」

 

マーベルがショウの顔を指差しながらクスクスと笑う。

 

「こいつ、その時に凄いはしゃいでたの……」

 

「いいじゃねえかよ……」

 

ショウが苦笑いをする。その二人の姿を見ながら、レンは微笑む。

 

「お二人とも、御子の為にお身体を大切に……」

 

そう言って、レンは自分のオーラバトラーが配置されている格納庫へ向かった。

 

「ねえ、ショウ……」

 

「ん……」

 

「レンさん、やっぱり亡くなった奥さんの事を……」

 

「まだ、忘れられないのだろうな……」

 

ショウは哀しげに呟く。

 

「死んでくれるなよ、マーベル」

 

「まだ死ねるわけないじゃない……」

 

マーベルはショウにキスをしながら、微笑む。

 

「あなたでは子育て出来ないのではなくって?」

 

「そうだな……」

 

二人はレンとは別の格納庫へ足を向けた。

 

 

「なあ、アイリン」

 

高性能オーラバトラーであるズワァースに乗っているリの国の騎士ザナドは、隣のリの国純国産の機体のアルダムを駆るパイロットに声をかけた。

 

「なんだ?」

 

「シュンジ王な……」

 

ザナドは前方に飛ぶ自機の外見を二回り大きくしたような漆黒のオーラバトラーの姿を見ながら呟く。

 

「何があったんだ?」

 

「あたしが知るかよ……」

 

アルダムに乗ったパイロットであるアイリンはそう気の無い返事をした。

 

「やたらと威張り散らすようになってよ……」

 

「それが王様ってもんだろう?」

 

「そうなんだがよ……」

 

ザナドはブツブツと呟く。

 

「ザン団長にもナラシ隊長にも、あんな態度をとるような人だとは思わななかったぜ」

 

「疲れてるんだろうよ……」

 

「ほんとにそうおもってるんかよ、あ?」

 

「……」

 

アイリンは無言でザナド機に接近する。

 

「んだよ……?」

 

「あんまり考えすぎない方がいい」

 

「……ん」

 

ザナドは軽く頷いたようだ。

 

「アイリン」

 

「ん?」

 

「すまねぇな……」

 

「うん……」

 

アイリン機はザナドから離れていった。

 

「……」

 

ザナドは無言で前方に飛ぶ異形の機体に目を向ける。

 

「気味が悪いよ、あれは……」

 

ザナドはそうコクピットの中で呟いた。

 

 

「そこのリの国籍艦!!」

 

レンのナールヘッグが無線でリの艦である「リィリーン」に声をかける。

 

「ただちにこの宙域から退避せよ!!」

 

リィリーンからは返答がない。

 

「……」

 

レンは繰り返し無線で伝えようといた、その時。

 

「レン!! 避けろ!!」

 

ショウのヴェルバインから叫び声が聞こえた。

 

「……!!」

 

レンは機体を転がるように前に落とした。

先程までレン機があった場所に赤い火線が走った。

 

「リの者か!!」

 

振り返るレン機に漆黒のオーラバトラーが襲いかかる。歪な形の剣がレン機を襲う。

 

ガッンッ!!

 

レンは剣でその攻撃を防いだ。

 

「名乗れ!! リの者!!」

 

「まさかレンか!?」

 

「何!?」

 

黒い巨大な機体からくぐもった声が聞こえる。

 

「久しいな!! レン!!」

 

「もしや、シュンジ王か!?」

 

黒い機体からオーラショットの火線が飛ぶ。

 

「ハァ!!」

 

レンはナールヘッグの可変機能を活かしながら、その火線を避けようとする。

 

「退いて下さい!! シュンジ王!!」

 

シュンジ機はその言葉に答えない。黒い機体からオーラキャノンが奔る。ジュオォ!!

 

「シュンジ王!!」

 

レンはキャノンを間一髪でかわし、シュンジ機に接近する。

 

「なにゆえ、このような真似を!?」

 

「戦争だろう!? レン・ブラス!!」

 

レンの剣を受けながら、シュンジは笑う。

 

「乱心したか!? シュンジ王!!」

 

「ナの騎士になったお前に言われる筋合いはない!!」

 

カッ!!

 

シュンジ機のカ・オスの剣から赤い光がレン機を取り巻く。シュウウッ……!!

 

「弾かれたか!?」

 

「小細工を!!」

 

レン機のオーラを吸い取る事に失敗したシュンジのオーラバトラー「ズワウ・ス」は再びレン機に肉薄する。

 

カァン!! ガッ!! ガッ!!……

 

「愚王と化したか!? シュンジ王!?」

 

「昔から変わらんよ!!」

 

剣を合わせながら、二人は叫び続ける。

 

「シュンジ王!!」

 

後方からザナドとアイリン機が接近してくる。

アイリンのアルダムからミサイルがレンのナールヘッグへ飛ぶ。

 

「くぅ!!」

 

レンは冷や汗をかきながら、変形機能を駆使しどうにかリのオーラバトラーからの攻撃をかわす。

 

「レン!!」

 

ショウのヴェルバインが支援に駆けつける。

 

「新型か!?」

 

シュンジはフレイボムを拡散モードにしてその機体へ叩きつける。

 

ジャフォ!!……

 

フレイボムはヴェルバインの目前で消散され、ショウ機はズワウ・スに剣を抜き打つ。

 

キィーン……!!

 

カ・オスの剣とヴェルバインの片刃の剣が交差する。

 

「ショウ君か!!」

 

「シュンジ王!!」

 

ショウ機はいったんズワウ・スから離れ、オーラショットを放つ。

 

「なんの!!」

 

カ・オスの剣でオーラショットのオーラを消散させようとする。

 

「ほほう!! やる!!」

 

完全にはショットを無効化できず、弾丸がズワウ・スの黒い装甲を叩く。僅かに装甲にヒビが入る。

 

「そのオーラは!!」

 

ヴェルバインの剣がシュンジ機に再び迫る。

 

「いつからお前はそのような禍々しいオーラを!!」

 

「君が知る必要はないだろう!?」

 

シュンジの笑い声がショウの耳に届く。

 

「フィナ!!」

 

ショウ機からシュンジ機へショウに長年付き添っているフェラリオであるチャムの声が響く。

 

「なんで、シュンジをこんなになるまで放おっておいた!?」

 

「……」

 

その声にシュンジの隣で能面のごとき顔をしたフィナ・エスティナは答えない。

 

「フィナは俺を肯定してくれている!!」

 

「嘘だ!!」

 

「黙れよ!! ショウのペット!!」

 

シュンジはキャノンを斉射しようとした。

 

ギィーーン!!

 

「何!?」

 

彼方から飛んできたオーラキャノンの火線がズワウ・スの肩へと当たる。ボフゥ!!

 

「あなた!!」

 

ザナドとアイリンの追撃を振り切りながら、マーベルのビルバインから閃光が再び奔る。

 

「聖戦士が二人か!!」

 

シュンジは閃光をかわしながら、苛立ちの声を上げた。

 

「くそ!!」

 

ザナド機からの声が響く。マーベルにキャノンを放とうとした所にレンのナールヘッグからまともに攻撃を受けたのだ。

 

「リの若き騎士!!」

 

レンはアイリン機をあしらいながら、ズワァースへライフルを連射する。

 

「君もリの騎士であるならば!!」

 

レンが人の形へ変形し、ズワァースへ剣を叩きつける。

 

「王に諫言の一つでもせよ!!」

 

「ナに寝返った先輩の言うことなど!!」

 

ザナドは冷や汗をかきながら、必死で応戦する。

アイリン機からミサイルが支援で飛ぶ。

 

ギィーーン!!

 

マーベルがミサイルを撃ち落とし、アイリン機へ接近した。

 

「ああ!?」

 

アイリンの直前で可変したマーベル機の剣をまともに機体に受け、アルダムの剣を持つ腕が切り落とされる。

 

「アイリン!!」

 

ザナドがビルバインへオーラのショットを放つ。ドゥ!!

 

「甘いわよ!!」

 

出産のブランクを全く感じさせない手練の技でマーベルはその攻撃を簡単にかわす。

その隙を狙い、ズワァースにレン機が迫る。またもやズワァースが被弾する。

 

「まずい!!」

 

シュンジは押されている自軍の状態を把握し、歯噛みする。

 

「ハアアアッ!!」

 

シュンジ機の背中の三期のコンバーターが赤いオーラの粒子を放ちながら、出力が上がっていく。

 

「オーン!!」

 

シュンジのズワウ・スから最大出力のオーラキャノンが拡散して放たれる。

 

「ふん!!」

 

ショウのヴェルバインは寸前でかわしたが、背後のマーベル機に被弾する。

 

「マーベル!!」

 

ビルバインはバランスを崩しながらも、ザナドのズワァースにキャノンを命中させる。

 

「地上人め!!」

 

ザナド機の二基ある内の片方のコンバータが吹き飛ぶ。

 

「ザナド!! アイリン!!」

 

シュンジは二人に撤退するように命令した。

 

「くそっ!!」

 

リの若き騎士の二人はリィリーンに撤退を始めた。リィリーン自体も艦首を旋回させようとする。

 

「逃げるか!!」

 

ショウ機がズワウ・スに急接近する。

 

「これまでであるよ!! ショウ・ザマ君!!」

 

シュンジの剣から赤い光がヴェルバインに絡み付く。

ショウ機は対応が遅れたらしい。

その光をまともに受ける。

 

ジュウウゥ……!!

 

「またしても例の剣の力か!!」

 

コンバーター出力が落ちたヴェルバインを尻目に、シュンジ機は撤退するリィリーンの上空を旋回して艦の護衛をする。

 

「リを退ける事はできた……」

 

レンがショウの近くへと舞い降りる。

 

「女王へ報告をする」

 

レンはそう告げると、ナールヘッグをナの国の方向へと向けた。

 

「レン……」

 

ショウは離れていくレン機に向けて、なんとも言えない目を向けた。

 

 

 

「ショウ王太子、支援感謝する」

 

「いえ……」

 

シーラはショウに労いの言葉をかけた。

 

「シーラ様」

 

マーベルがシーラに顔を上げる。

 

「何であるか?」

 

「レンさんの様子は……」

 

「少し、休息が必要である」

 

シーラの羽が少し翳った。

 

「シュンジ王がな……」

 

壁を背にして立っているアレンが呟く。

 

「悪しき者に成り果てたか……」

 

シーラは僅かにアレンに目を向けながら、天を見上げて呟いた。

 

「フォイゾン王にも報告いたします」

 

「頼む」

 

シーラはショウにそう言ったきり、押し黙った。

 

 

 

「……」

 

ナの国の王城の一室で、レンはベッドに腰をかけながら月を見上ながら呟いた。

 

「父上……」

 

レンの目に光る物があった。

 

 

 

 

「すみません、シュンジ王……」

 

ザナドはリィリーンのブリッジでシュンジに頭を下げた。

 

「気にするな、ザナド」

 

シュンジは微笑みながら、ザナドの肩に手をかけて労った。

 

「アイリンの様子は?」

 

「問題ありません」

 

ザナドは何故かその肩の手を払いのけたくなった欲求を抑えながら、王にそう答えた。

 

「うむ……」

 

王者シュンジはそう言ったきり、リィリーンの窓の外に広がる夜の海に目を向けた。

 

「……」

 

ザナドは主君のその姿をどこか冷たい目で見続けた。

 

 

 

 

リィリーンの上甲板、そのもっとも高い位置にある照明灯のカバーの上にフィナが膝を抱えて月を見つめていた。

 

「……」

 

フィナは無表情のまま月をいつまでも見ていた。


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