聖戦士伝説 ~カ・オスの聖戦士~   作:早起き三文

41 / 56
41話 嗤うシュンジ

月明かりの無い真夜中のリの王城「トルール」の謁見の間。その玉座にシュンジ王は一人座っていた。

 

「……」

 

豪奢な赤いマントを羽織ったシュンジの手にはオーラの弾丸を発射する銃が握られている。

 

「……」

 

シュンジは目をつぶったまま、ある事を思い出していた。

 

―我が意思を継げい、カ・オスの聖戦士よ―

 

はるか昔、シュンジがバイストン・ウェル、リの国に召喚された時に戦ったガロウ・ランの頭領であるギィ・グッガの最後の言葉である。

 

「……」

 

シュンジの目が薄く開かれる。

 

「……」

 

シュンジは手に持ったオーラ銃のシリンダーを開いた。

 

カタッ…

 

シリンダーが音を立てて横へ飛び出る。

シュンジは六個の孔があるシリンダーの内、一つの穴に指を入れる。

指を入れた孔が淡く発光する。

 

シュンジはそのオーラ銃を両手で持ち、銃口を自らの額へ押し当てた。

 

引き金を引く。

 

ガンッ!!

 

撃鉄が鳴る。オーラの弾丸は出ない。

 

ガンッ!!

 

二回目

 

ガンッ!!

 

三回目

 

ガンッ!!

 

四回目

 

「……」

 

シュンジは無言のまま、一旦銃を額から離す。

そして片手で頭の横へと押し当てる。

 

シュンジは大きく息を吸う。

 

ガンッ……

 

撃鉄がなる。

 

「……」

 

シュンジはそのオーラ銃を床へ投げ捨てる。

 

カラン……

 

音を立てて、オーラ銃が床に落ちる。

 

シュンジは玉座から立ち上がった。

赤い豪奢なマントが床へ引きずられる。

 

シュンジは天を見上げる。

 

「ふふ……」

 

天に顔を上げたまま、シュンジは嗤った。

 

「……」

 

そのシュンジの様子をフィナ・エスティナは遠くの柱の影から能面のごとき表情で見ていた。

 

 

 

 

 

ラウの王城、その中庭にラウの聖戦士、地上人である「ショウ・ザマ」がヴェルバインと言う新機体の調整をしていた。

 

「ショウ……」

 

そのショウにいつも付き添っているフェラリオである「チャム・ファウ」が声をかける。

 

「どうした、チャム?」

 

ショウは日本刀型のオーラソードの様子を確かめている。

 

「今ね……」

 

チャムの顔は青ざめている。

 

「チャム……?」

 

「ガロウ・ランが嗤った気がしたよ……」

 

「はあ?」

 

ショウはチャムの身体を手のひらに乗せた。

 

「……大丈夫か?」

 

チャムはショウの手のひらの上で震えていた。

 

 

 

 

「……」

 

ナの浮遊城であるグラン・ガランの王族用の食堂で女王シーラは食事の手を止めた。

 

「シーラ様?」

 

近衛隊長である「レン・ブラス」がシーラの顔色の変化に気がついた。

 

「レン……」

 

シーラは羽を小刻みに動かす。

 

「今……」

 

「シーラ様?」

 

レンが怪訝そうに訊ねる。

 

「悪を成すものが嗤った……」

 

シーラの顔は蒼白であった。

 

「ドレイクでありますか?」

 

侍従のマフメットが訊ねる。シーラはその言葉に首を振る。

 

「遥かに恐ろしいものである……」

 

シーラはそう言ったきり、押し黙った。

 

「……?」

 

レンとマフメットは互いに顔を見合わせた。

 

 

 

 

「……」

 

クの国の国王「ビショット・ハッタ」は花をいじる手を止めた。

 

「なんだ……?」

 

ビショットは呟く。

 

「今の悪寒は……?」

 

ビショットの顔から汗が吹き出る。

 

「……」

 

ビショットは黙ってタバコに火をつけた。

 

 

 

 

「……!!」

 

ケムの国の新造艦「アヴェマリア」の上方甲板で絵を描いていた「エレ・ハンム」は手を止めた。

 

「どうした、エレ殿」

 

同じ上方甲板で眼下の景色を見ていたケムの老将軍である「マリア・レーサンダ」がエレの顔を見た。

 

「マリア将軍……」

 

エレは震える声で語りかける。

 

「エレ殿……?」

 

「今この瞬間……」

 

蒼白な顔をしてエレはマリアに告げる。

 

「リの国にガロウ・ランのごとき王が現れました」

 

「何……?」

 

マリアは険しい顔をしてエレを見つめる。

 

「シュンジ王……」

 

エレは隣国のリの国の方向を強く、強く見つめていた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。