月明かりの無い真夜中のリの王城「トルール」の謁見の間。その玉座にシュンジ王は一人座っていた。
「……」
豪奢な赤いマントを羽織ったシュンジの手にはオーラの弾丸を発射する銃が握られている。
「……」
シュンジは目をつぶったまま、ある事を思い出していた。
―我が意思を継げい、カ・オスの聖戦士よ―
はるか昔、シュンジがバイストン・ウェル、リの国に召喚された時に戦ったガロウ・ランの頭領であるギィ・グッガの最後の言葉である。
「……」
シュンジの目が薄く開かれる。
「……」
シュンジは手に持ったオーラ銃のシリンダーを開いた。
カタッ…
シリンダーが音を立てて横へ飛び出る。
シュンジは六個の孔があるシリンダーの内、一つの穴に指を入れる。
指を入れた孔が淡く発光する。
シュンジはそのオーラ銃を両手で持ち、銃口を自らの額へ押し当てた。
引き金を引く。
ガンッ!!
撃鉄が鳴る。オーラの弾丸は出ない。
ガンッ!!
二回目
ガンッ!!
三回目
ガンッ!!
四回目
「……」
シュンジは無言のまま、一旦銃を額から離す。
そして片手で頭の横へと押し当てる。
シュンジは大きく息を吸う。
ガンッ……
撃鉄がなる。
「……」
シュンジはそのオーラ銃を床へ投げ捨てる。
カラン……
音を立てて、オーラ銃が床に落ちる。
シュンジは玉座から立ち上がった。
赤い豪奢なマントが床へ引きずられる。
シュンジは天を見上げる。
「ふふ……」
天に顔を上げたまま、シュンジは嗤った。
「……」
そのシュンジの様子をフィナ・エスティナは遠くの柱の影から能面のごとき表情で見ていた。
ラウの王城、その中庭にラウの聖戦士、地上人である「ショウ・ザマ」がヴェルバインと言う新機体の調整をしていた。
「ショウ……」
そのショウにいつも付き添っているフェラリオである「チャム・ファウ」が声をかける。
「どうした、チャム?」
ショウは日本刀型のオーラソードの様子を確かめている。
「今ね……」
チャムの顔は青ざめている。
「チャム……?」
「ガロウ・ランが嗤った気がしたよ……」
「はあ?」
ショウはチャムの身体を手のひらに乗せた。
「……大丈夫か?」
チャムはショウの手のひらの上で震えていた。
「……」
ナの浮遊城であるグラン・ガランの王族用の食堂で女王シーラは食事の手を止めた。
「シーラ様?」
近衛隊長である「レン・ブラス」がシーラの顔色の変化に気がついた。
「レン……」
シーラは羽を小刻みに動かす。
「今……」
「シーラ様?」
レンが怪訝そうに訊ねる。
「悪を成すものが嗤った……」
シーラの顔は蒼白であった。
「ドレイクでありますか?」
侍従のマフメットが訊ねる。シーラはその言葉に首を振る。
「遥かに恐ろしいものである……」
シーラはそう言ったきり、押し黙った。
「……?」
レンとマフメットは互いに顔を見合わせた。
「……」
クの国の国王「ビショット・ハッタ」は花をいじる手を止めた。
「なんだ……?」
ビショットは呟く。
「今の悪寒は……?」
ビショットの顔から汗が吹き出る。
「……」
ビショットは黙ってタバコに火をつけた。
「……!!」
ケムの国の新造艦「アヴェマリア」の上方甲板で絵を描いていた「エレ・ハンム」は手を止めた。
「どうした、エレ殿」
同じ上方甲板で眼下の景色を見ていたケムの老将軍である「マリア・レーサンダ」がエレの顔を見た。
「マリア将軍……」
エレは震える声で語りかける。
「エレ殿……?」
「今この瞬間……」
蒼白な顔をしてエレはマリアに告げる。
「リの国にガロウ・ランのごとき王が現れました」
「何……?」
マリアは険しい顔をしてエレを見つめる。
「シュンジ王……」
エレは隣国のリの国の方向を強く、強く見つめていた。