リの国の機械の館に二人の男がいる。
「この機体だ」
「ケムの国から?」
「持ってきた」
技術者風の男がそう語る。40代なかばの歳であろう。旅なれた様子ではある。
「ズワァースに似ている」
豪奢なマントを纏った30代前半とおぼしき壮年の男は目の前に立ちそびえる悪魔に似た機体を指差して聞く。
「本当は背中に悪魔の羽があった」
「なぜない?」
「もぎ取った」
「なぜ?」
「あまりにも不吉だ」
シュンジにショットは少し睨み付ける。
「ふん……」
シュンジは鼻をならす。
「ズワァースの発展型?」
「いや」
ショットは言葉を返す。
「思想的なプロトタイプだ」
「……」
シュンジ王は黙っている。
「この機体」
ショットは機体の装甲をカンカンと叩きながら言う。
「完全にある生き物の身体をベースにしている」
「身体その物にコクピットを埋め込む?」
「強獣で試したことがある」
ショットは寝不足の目をして呟く。
「何回か上手くいった」
「それの応用……」
「である」
ショットは少し欠伸をしたようだ。
「これは……」
シュンジはコクピットの表面に刻まれている文字に目をやる。
―THE・O・Z―
「英語だな」
「ジオ」
ショットが呟く。
「複数形でジオ・ス」
「どういう意味だ?」
「神人たち」
「デミ・ゴッド?」
「ああ」
ショットは真剣な顔をする。
「この機体の」
シュンジはショットに訊ねる。
「名前は?」
「ジオ・ス」
「言いずらいな……」
「シュンジ……」
ショットは苦笑した。
「さ、し、す、せ、そ……」
シュンジは名前を考える。
「ズワ・ス」
「ズワァースへの当て付けか?」
ショットは自分が作ったコモン界でトップクラスの機体の名前を言う。
「いやか?」
「もう一捻り欲しいな」
「ズワウ・ス」
「良いな」
ショットは嬉しそうに手を叩く。
「なぜ、これを俺に」
王者シュンジは訊ねる。
「俺がバイストン・ウェルに呼ばれた真実を知るために」
シュンジは無言である。
リの機械の館の窓から冬の風が吹き付けてくる。
「ジャバの事は残念であったよ……」
「すまない、ショット」
突然話題を変えたショットにシュンジは謝る。
「俺とジャバはな」
ショットは普段は吸わないタバコに火を付けた。
よほど疲れているのだろう。
「ニホンで強制労働をさせられていた」
「ニホンにも……」
「あるんだよ」
ショットは遠い目をする。
「辛い日々だった」
ショットはタバコを口にくわえる。
「俺は毎日、神に祈った」
「キリスト教?」
「いや、ニホンの」
「八百万の神に?」
「だから、ジオ・ス」
「ああ……! 神人たち……!!」
「ニホンの神は絶対神ではない」
「……」
「デミ・ゴッドだ」
日が落ちてきたようだ。
夕日の光が機械の館に差し込む。
「その場所が警察に摘発されてな。それから俺たちは施設で育てられた」
ショットの口からフーっと煙が吐き出される。
「まあ、それからは普通の孤児の生活だ、可もなく不可もなく……」
シュンジは黙って聞いている。
「ジャバの名前はな」
「うん……」
「娑婆と書く」
「強制労働の日々から、手にいれた自由の名前か?」
ショットはタバコを黙ってくわえながら頷く。
「俺の名前」
「ん……」
「ショット・ウェポン」
「なにか由来が?」
「この世に生きた証を弾丸のごとく撃ち放つ者」
「なるほど……」
「とにかく一生懸命勉強した」
「工学者になるために?」
「金持ちになりたかったんだよ」
「ん……」
ショットはタバコを揉み消した。
「こんな異世界で成功するとはな……」
「ふふ……」
「バイストン・ウェルな」
「うん」
「二回目なんだよ」
「何が?」
「召喚されたのは」
「……」
シュンジは以前フィナが言っていた事を思い出した。
「腹が減った」
ショットが訴えた
「まる一日食っていない」
「食べるかい?」
「頼む」
ショットはシュンジに微笑む。
「話もしたい」
二人は城へと脚を運んだ。