聖戦士伝説 ~カ・オスの聖戦士~   作:早起き三文

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36話 ジャバ・ウォッグ(後編)

「ジャバ・ヤカワ?」

 

「日本人の王?」

 

ジャバと呼ばれた日本人の女性はシュンジに顔を向けた。

 

「日本人の女性なのに、外人の名前か」

 

「悪かったね?」

 

ジャバは快活に笑う。

 

「テストバイロットオンリー?」

 

「戦いは嫌いだ」

 

ジャバは外に止めてあるオーラバトラーを見ながら話す。

 

「度胸もない」

 

ジャバは館の窓から外にあるオーラバトラーを指差した。

 

「イシュタール」

 

「ダンバインに似ている」

 

「そうだろう?」

 

ジャバは笑う。いい笑顔である。

 

「バストールの後継機でもある」

 

隣に座るガラリアはイシュタールを頼もしそうに見る。

 

「ゼット・ライトが?」

 

「ショットの仕事を引き継いだ」

 

「ゲド、ダンバイン、ビランビー、バストール」

 

ガラリアは歴代のオーラバトラーの名を上げる。

 

「それの最終型」

 

ジャバに笑う。笑顔が素敵な女である。

40過ぎ位であろうか、ショットと同い年であろう。

 

「ショットとは?」

 

「3歳辺りからの仲だ」

 

ジャバは席を立つ。

 

「テストに?」

 

「ついてきますか?」

 

「俺にはオーラバトラーがない」

 

「背中に載ってくれ」

 

聞いていたガラリアは腰に剣をおびる。

 

「ガラリア?」

 

「この辺りは最近物騒だ」

 

「ガロウ・ラン?」

 

「アの国、クの国じゅうに出ている」

 

ガラリアは革鎧を着ながら、電話に手を取る。

 

「バーンも?」

 

「イシュタールの責任者でもあるよ、あいつは」

 

シュンジは腰の銃の様子を見ながら、フィナに声をかける。

 

「私も武装を使えます?」

 

フィナの腰には針のような剣が帯びてある。小さな身体にはおもちゃのような革鎧。

 

「ブンブン飛び回って撹乱してくれよ……」

 

シュンジは苦笑する。

 

「行こうか」

 

ジャバは外に出た。

 

 

 

「イシュタールな」

 

一機のオーラバトラーが風を切り飛翔する。

 

背中にくくりつけられた籠に入りながらシュンジは訊ねる。

 

「コンバーターがない?」

 

「だから最終型だよ、シュンジ王」

 

背中からバーンが声をかけてくる。

 

「重武装だな?」

 

バーンの物々しい出で立ちを見ながら、ガラリアは笑う。

 

「昔を思い出すよ……」

 

甲冑に身を包んだバーンは兜の中からくぐもった声を上げる。

 

「いてっ!!」

 

シュンジは甲冑にぶつかる。

 

「すまんな」

 

バーンは笑う。

 

「危険なのか?」

 

「こうでもないと強獣と戦えない」

 

「ガロウ・ランの?」

 

「だとは思うがな……」

 

バーンは口ごもった。

 

「最近、多いんだ」

 

バーンは腰の剣と背中の盾を示しながら呟く。

 

「……」

 

シュンジとフィナは押し黙っていた。

 

 

 

高原でオーラバトラー「イシュタール」がテスト飛行している。

それを食事を取りながら見守るシュンジ達。

 

「ピクニック!!」

 

フィナが嬉しそうに卵焼きをつまむ。

 

「どうだ?」

 

「悪くない」

 

バーンはガラリアが作った卵焼きを誉めた。

 

「フフン……」

 

食事を終えたバーンなにやらニヤニヤ笑いながらは懐からなにやら板のような物を取り出した。

 

「何だ、それは?」

 

「テレビゲームである」

 

バーンは自慢気に言い、そのインベーダーゲームに似たような物を始めた。

 

「いいだろう?」

 

「別に……」

 

シュンジは気のない返事をした。

 

「困ったもんだ……」

 

ガラリアは呆れた顔でシュンジに同意を求める。

 

「ゼットが作ってくれた」

 

「フーン」

 

フィナが興味深そうにそのゲームを覗き込む。

 

「イシュタールね……」

 

シュンジは高原に寝っころがりながら、コンバーターがないオーラバトラーを観察する。

 

「やっぱりコンバーターがないと、不恰好だな……」

 

ガラリアが食事の片付けをしながら、シュンジに呟く。

 

「そうだな……」

 

シュンジは上の空でガラリアに生返事をする。

 

「ゼットに作らせるか?」

 

「うん……」

 

シュンジの返事には気がない。

ガラリアは不信そうな目でシュンジを見る。

 

「ガラリア」

 

シュンジはガラリアに首だけ向けて訪ねる。

 

「あのジャバって人」

 

「ん?」

 

「何者だ?」

 

シュンジの問いにゲームをしているバーンが答えた。

 

「地上人だろう?」

 

「そうなのか?」

 

「何が気になる、シュンジ王?」

 

バーンはゲームを止め、シュンジの近くによる。

 

「別に……」

 

「会ったことがあるのか? シュンジ王」

 

「いや、ない」

 

シュンジはバーンに答える。

 

「ないはずなんだか……」

 

「シュンジさん?」

 

フィナがシュンジの顔を覗き込む。

 

「……」

 

シュンジは無言で押し黙っている。

 

ババッッ!!

 

「!?」

 

飛行しているイシュタールを謎の陰が襲う。

 

「強獣か!?」

 

シュンジ達は武装してイシュタールへと走る。

 

フシュルルル……!!

 

ドラゴンのような強獣である。

オーラバトラーと同じくらいの大きさで、銅色の鱗を持っている。

 

「!?」

 

その強獣は目にも止まらぬ勢いで飛行しているイシュタールにかじりつく。

 

ガギィ!!

 

イシュタールの頭部をあっさりとかじりとると、胴体へその牙を伸ばした。

 

ガッ……!!

 

かなりの硬度を誇るオーラバトラーの装甲をあっさりと牙で突き破り、コクピットへ首を伸ばす。

 

グシャ……

 

何か果物が潰れるような音がした。

 

「おのれ!!」

 

バーンはピストルのような物を懐から取りだし、そのドラゴンの翼へと撃つ。

 

ガガッ!!

 

粘液が強獣の翼を覆い、強獣はイシュタールに食いついたまま、地面へと落下する。

 

「捕獲弾だ」

 

走りながら、ガラリアは説明する。

シュンジは腰の銃に弾を込めようとする。

 

シュルルル……

 

そのリボルバー銃に似た大型の銃からシリンダーが外れる。そのシリンダーにシュンジは指を突っ込む。

 

シュン……!!

 

オーラ銃と呼ばれる銃である。

ショット・ウェポンがケムの国にあった遺跡から発掘したものだ。

誰がいつ、どう造ったのかは定かではない。

 

ガキン!!

 

撃鉄が起こり、オーラの弾丸が発射される。ドウッ!!

 

ガシュ!!

 

金属を砕くような音とともに、強獣の鱗を突き破る。

 

フシュル……!!

 

「何!?」

 

強獣は弾丸の傷を気にせずにイシュタールへ牙を突き立てる。

 

ムシュ……!! ガッ…!! ガッ…!!

 

「……っ!!」

 

フィナが目を覆う。

 

その強獣はオーラバトラーを食べているのだ。

機体が噛み砕かれる音が辺りに響く。

 

「化け物め!!」

 

バーンがそのドラゴンの顔へ剣を突き立てる。

 

ギンッ!!

 

「固い!!」

 

バーンはその強獣の鱗の固さに悪態をつく。

 

シュル……!!

 

ドラゴンが口からイシュタールを離し、バーンに顔を向け、大きく口を開く。

強獣の口からオーラリキッドや冷却液に混じって流れている赤いものはジャバの……

 

カッ!!

 

ドラゴンの口から火炎が吐き出される。

 

「フンッ!!」

 

バーンは背中の盾を構えた。

 

ボボゥゥウ!!

 

盾から赤い光が大きく展開して、バーンの身体を炎から守る。

 

エイジスと呼ばれるコモンによく使用される盾である。強獣の炎を防ぐ効果がある。

 

ボボゥゥ……!!

 

エイジスで炎が反射され、強獣の顔を焼く。

 

ギィアアアァ……!!

 

強獣が悲鳴をあげる。

その強獣の顔に再度、剣を叩きつけるバーン。

 

「ヤアッ!!」

 

革鎧を身に纏ったガラリアが強獣の背中に身軽に飛び乗る。

 

ガッ…!!

 

強獣の背中に剣を突き立てるガラリア。

 

「ちくしょう!!」

 

どうやら、その強獣の鱗は金属で出来てるらしい。

剣が通らない。

 

ガンッ!!

 

シュンジは再び、オーラ銃を放つ。シュン!!

 

ギアァ……!!

 

オーラ銃は強獣の金属製の鱗を貫通して、中の肉をえぐりとる。怒り狂った強獣はバーンに向けて首を伸ばす。

 

ガッン!!

 

バーンはその伸ばされた首を剣と盾で巧みに防ぐ。

 

「ガラリア!!」

 

ガラリアは鱗の隙間に剣を突き立てた。

 

ジュブ!!

 

剣が肉を貫く音がする。ガラリアは何度も剣を突き立てる。それを見ながらシュンジは銃の狙いをつける。

 

ガンッ!!

 

シュンジは強獣の目を狙い、銃を放つ。

 

ジャ……!!

 

オーラの弾は見事に強獣の片目を撃ち抜く。

 

シャルル……!!

 

ドラゴンが翼を羽ばたかせ、無理矢理捕獲弾の粘液を振り払おうとする。

 

ババッ!!

 

強獣は粘液を振り払い、その翼を羽ばたかせた。

慌てて飛び降りるガラリア。

 

フシュルルル……!!

 

強獣は翼を広げ、空高く飛び立っていった。

 

「ジャバ!!」

 

シュンジは噛み砕かれたイシュタールのコクピットを覗き込む。

 

「うっ!?」

 

そこには肉塊と化したジャバの姿があった。

シュンジは胸から込み上げるものを押さえて、ジャバの変わり果てた姿を凝視した。

 

「ジャバ……!!」

 

シュンジの眼から涙が溢れだした。

 

「オォ…… ウォ……!!」

 

シュンジは嗚咽し始めた。

 

 

 

 

「ゴホッ!! ゴホッ!!」

 

バーンは兜を外して激しく咳き込む。

 

「バーン!!」

 

ガラリアはバーンの鎧を無理矢理解体して、バーンを横たわらせた。

バーンの口から赤い物が流れ落ちる。

ガラリアはバーンの口に薬のような物を飲ませ、その腕に無針注射を打ち立てる。

 

「……ふぅ」

 

バーンの容態が安定する。

そのバーンの頭を膝に乗せ、様子を見るガラリア。

 

「バーン……」

 

夫を介抱する妻のそれである。

 

「ガラリアさん!!」

 

フィナが館から人を連れてきたようだ。

馬車の駆ける音が聞こえる。

ガラリアは急いでバーンを馬車の中の毛布へと横たわらせる。

 

「ガラリアさん……」

 

「バーンは大丈夫だ。感謝する、フェラリオ」

 

ガラリアはそう言い。思い出したかのようにシュンジの姿を見る。

 

「ウォ…… クッァ……」

 

シュンジは身体を赤子のように丸めて嗚咽している。

 

「オォゥ…… オォ……」

 

リの国王である聖戦士はただひたすら、子供のように泣きじゃくった。

 

「シュンジさん……?」

 

その姿をフィナは怪訝そうに見る。

 

「本当に始めて会ったのか……!?」

 

ガラリアはフィナの顔を見る。

 

「そのはずですが……!?」

 

フィナとガラリアが顔を見合わせる。

 

シュンジはいつまでも身を丸めて泣いていた。

 

 

 

 

片目を無くした強獣が天高く舞う。

 

「ウォッグ……」

 

そのドラゴンは低く鳴く。

 

「ウォッグ……」

 

ドラゴンの形をした強獣は鳴きながら天へと羽ばたいた。


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