聖戦士伝説 ~カ・オスの聖戦士~   作:早起き三文

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35話 ジャバ・ウォッグ(前編)

昼の光が煌々と輝く青い大空を一機のオーラマシンが飛行している。

かなりの高度なのだろう。

地面が雲に隠れてほとんど見えない。

 

キィーン……!!

 

地上の戦闘機を思わせる騒音を響かせながら、天高いどこまでも続く青い大空を飛行しているのはリの国の軽量型オーラファイター「マハカーラ」である。

 

「すごいですねぇ……!!」

 

コクピットから広がる青空を見ながら、フェラリオであるフィナ・エスティナは感嘆の声を上げていた。

 

「頭の上にも透き通るような大空……!!」

 

フィナは嬉しそうな顔をしながら、パイロットであるリの国国王「シュンジ・イザワ」の肩にとまる。

 

「ショットが協力してくれたからな」

 

ラフな格好に身を包みながら、シュンジはフィナに微笑みかける。

 

「ショットさん、ケムの国で目的を果たしたんですって?」

 

「ああ」

 

「ショットさんにとって、そのオーラバトラーが生涯最後の機体になるかもしれないって?」

 

「そう言ってたな……」

 

シュンジは大空を高速で飛行するマハカーラの操縦を楽しみながら、上機嫌で言った。

 

「彼にはリの機械の館を貸している」

 

「ふぅーん……」

 

地上で言うブーメラン型のUFOを思わせるそのオーラファイターは軽快に空を飛び続ける。

 

「シュンジさん」

 

「んー?」

 

シュンジはハンバーガーを食べながらフィナに答える。

 

「嬉しいです」

 

「何が?」

 

「久しぶりにシュンジさんとこうやって楽しく話せるのが」

 

フィナはコクピット上部の空を見ながら話を続ける。

 

「最近シュンジさん、何か悩んでいるようでしたから」

 

「……」

 

シュンジは無言でマハカーラを操縦する。

 

「シュンジさん」

 

フィナがシュンジの肩に止まりながら、シュンジの顔を見る。

 

「いつまでも、一緒にいましょうね」

 

「何を……」

 

シュンジは苦笑する。

 

「リの国の人と、その他の国のお知り合いの人達と」

 

「……」

 

シュンジは無言でいる。

 

「みんなで、いつまでも幸せに暮らしましょう」

 

「……ああ」

 

マハカーラの機内にはエンジンの音だけが響く。

沈黙がコクピット内に漂う。

 

「このマハカーラ」

 

「はい?」

 

「売れ行きがいいんだ、フィナ」

 

「まあ……」

 

フィナにシュンジは明るい声で言った。

 

「戦争が終わったら、みんなでバカンスにでも行こう」

 

「やだぁ……!!」

 

フィナは嬉しそうに笑う。

 

「飛ばすぞ!! フィナ!!」

 

マハカーラの速度が上がる。

 

「きゃあ!!」

 

フィナの歓声がコクピット内を覆った。

 

 

アの国の視察にやってきたシュンジ・イザワは昼のエルフ城の中庭でガラリアとフィナの二人と一緒に昼食を取っていた。

 

 

「ガラリア」

 

「……ん?」

 

シュンジは同席するガラリアに訊ねる。

 

「何かあったのか?」

 

「何故?」

 

「元気がない」

 

「ないように見せている」

 

ガラリアは微笑む。シュンジは変な顔をした。

そのシュンジに構わず、ガラリアは続ける。

 

「私も歳をとった」

 

30半ばを過ぎ、僅かにシワが見える顔をシュンジは見ながら彼女に話を促す。

 

「腰を落ちつけてもいいのではないか?」

 

「結婚でもするのか?」

 

「ああ」

 

ガラリアは事も無げに言った。

 

「誰とです?」

 

フィナが笑いながら訊ねる。

 

「お前たちがよく知っている男だ」

 

「まさかバーン!?」

 

「そのまさかだよ、王」

 

ガラリアは少し不機嫌そうに言った。

 

「好きだったのか」

 

「好きではない」

 

「では……?」

 

「しかし、嫌いな男ではない」

 

ガラリアはスープを飲みながら答える。

 

「私の父はな」

 

「うん?」

 

「敵前逃亡をしてな」

 

シュンジは黙って聞く。

 

「その汚名をはらすために肩肘をはって今まで騎士をやっていたが」

 

スープを飲み終えたガラリアはパンに手をつける。

 

「私も歳をとった」

 

再びガラリアは言った。

 

「バーンはな」

 

フィナも興味深々で聞く。

 

「最初から名のある騎士の家に生まれた」

 

シュンジの手にはパンが握られている。

 

「14、5歳の時に両親を無くし、それから家、そして家来たちの生活を守る為にずっとドレイクに仕えてきた」

 

フィナもスープを飲み始める。

 

「レールの上をずっと息継ぎもせず、全力疾走した生き方である」

 

「公務員か……」

 

「簡単そうに見えて、その実簡単でない」

 

フィナはスープを飲む手を止める。

 

「真面目なんだよ」

 

ガラリアは微笑む。

 

「だから伴侶でもよいと……?」

 

「そういう事だ」

 

ガラリアは酒に手を延ばし始めた。

 

「ガラリア」

 

城からバーンが席に近づく。

 

「シュンジ王にゴチャゴチャ言うんじゃない」

 

「良いだろう?」

 

バーンはガラリアの隣に座る。

 

「自分の事も話すとはな……」

 

バーンは苦笑しながら、パンを取る。

 

「聞いていたのか?」

 

「お前の声はよく聞こえる」

 

バーンはパンを口に運びながら、ガラリアに顔を向ける。

 

「敵前逃亡とは言っても、保身の為ではなかろう」

 

「ほう?」

 

シュンジは菓子を取る。

 

「産まれたばかりのお前を見たいが余りであるな?」

 

「関係ない、どちらにしろ騎士の名誉に関わる事だ」

 

「俺がもし同じ事をしたら?」

 

「剣で切り捨てる」

 

ガラリアの言葉にフィナが声を上げて笑う。

 

「怖いお嫁さん!!」

 

「そうだとも?」

 

ガラリアはニカッと笑うと、酒を飲み続ける。

 

「バーン殿!!」

 

配下の兵がバーンに声をかける。

 

「ドレッドノートに問題が」

 

「エルフ城の外か?」

 

バーンはあわてて席を立つ。

 

「失礼する」

 

バーンは足早に立ち去る。

 

「忙しいな?」

 

「ああ……」

 

ガラリアはどこか元気がない声で頷いた。

 

「ガラリア?」

 

「バーンも年老いた」

 

フィナは黙っている。

 

「……病気である」

 

「バーンが?」

 

シュンジは食事の手を止める。ガラリアは頷く。

 

「すぐには死ぬ死なないではないとは思うが」

 

「早く結婚した方が?」

 

「そうしたい。私も女であるよ」

 

ガラリアは苦笑して酒瓶の栓を締める。

 

「ガラリア」

 

食事を終えたシュンジはここに来た理由の一つを話す。

 

「ジャバに会いたい」

 

「地上人か」

 

「どこに居る?」

 

「少し離れた別荘……」

 

「案内頼めるか?」

 

「良いだろう」

 

ガラリアは頷いた。


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