聖戦士伝説 ~カ・オスの聖戦士~   作:早起き三文

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34話 シュンジの目

「では、さらばであります、ドレイク王」

 

ニーは夜のラース・ワウの城門の前でドレイク王に頭を下げた。

 

「ここでの事は余人には内密ぞ」

 

ドレイクはニーの肩に手を置きながら囁いた。

 

「無論でありますよ、王」

 

「主がここへ来た事もであるぞ」

 

「はい」

 

ニーはリムルに振り返る。

 

「お元気で、お父様」

 

「うむ」

 

ドレイクは娘の手を握りしめた。

 

「再び会うときは戦場でしょうか?」

 

「で、あるな」

 

ドレイクは少し顔をしかめる。

 

「戦場で会ったときは容赦はせんぞ。ニー」

 

「俺はドレイク王が戦場に出ても決して打ち倒したりはしませんよ」

 

「うん?」

 

ドレイクは困惑して、リムルに顔を向ける。

 

「リムル」

 

「はい?」

 

「儂はついにニーの奴に器を越えられたか?」

 

「かと思われます」

 

リムルがクスクスと笑う。

 

「リムル」

 

それをニーが嗜める。苦笑するドレイク。

 

「シーラ女王とフォイゾン王にも宜しく頼む」

 

「はい」

 

ニーの一行は馬車に乗り込んだ。ドレイクはその馬車を見送ろうとする。

 

「ああ…… ドレイク王」

 

ニーが近くまでやって来たドレイクに小声で囁く。

 

「リ、ケム、ハワの国の王には伝えないのですか?」

 

「秘密と言うものは口外するとすぐに広がる」

 

ドレイクは真剣な顔でニーを見やる。

 

「民草を大いに騙し、死地へ追いやるのだぞ」

 

「悪王でありますな」

 

「王とは皆、悪であるよ」

 

「シーラ女王もフォイゾン王も……」

 

「儂もビショットもな」

 

「フフ……」

 

ドレイクとニーは顔を見合わせて小さく笑う。

 

「しかし」

 

ニーは言葉を続ける。

 

「せめて、シュンジにだけでも……」

 

「ならん」

 

ドレイクは断固として言った。

毅然たる王の態度である。

ニーはその迫力に何も言えない。

 

「そうでありますか……」

 

「仕方あるまい」

 

ニー達の馬車は月夜に照されながら、ラース・ワウの城門から一路、ラウへと向かった。

ドレイクはそれを笑みを浮かべながら見送った。

 

 

 

ドレイクは後年、この判断を心から後悔するのだか、それははるか先の事である。

 

 

 

「終わり……」

 

リの国の王者シュンジは玉座に座ったまま、呟いた。

赤いマントが玉座の元へ広がる。

 

「まもなく、この戦争は終わる……」

 

シュンジは真剣な顔をしている。

 

「もし俺たちが勝ったその時、ドレイクはどう動くのか?」

 

シュンジは低く呟く。今日は傍らにフィナもいない。

 

「戦後か……」

 

シュンジはまたしても呟く。

 

夕日が玉座を照らす。

 

「……」

 

何かが自分のなかで蠢くのをシュンジは感じた。

 

 

 

「見回りだってえね……」

 

リの国最強のパイロットである「ザナド・ボジョン」は隣の女性パイロットである「アイリン・ツー」にグチグチ言う。

 

「黙って仕事をしろ」

 

アイリンの声は冷たい。

 

「戦争に行きてぇなあ……」

 

「ふん……」

 

「出世だよ、出世!!」

 

「……」

 

性別こそ違えど、かつてのアの国の高名な騎士であるバーンとガラリア。

その二人の若き日によく似ていると言われている二人は、並んで真夜中のトルール城を見回っている。

 

「暇だなあ……」

 

「うるさい」

 

「せっかくの俺のズワァースが錆びついちまうぜ」

 

もうアイリンはザナドの愚痴に答えない。

二人は無言で夜のトルール城を見回っている。

 

「ザナド……!」

 

「あん?」

 

アイリンがザナドに鋭く声をかける。

 

「なんだっていう……!」

 

言いかけたザナドもその気配に気付いた。

 

「賊か……!?」

 

「謁見の間だ……」

 

二人は足音を忍ばせて、謁見の間に近づく。

 

アイリンがザナドにハンドサインを送る。

 

(一人か)

 

アイリンの目のよさを信じるザナドは腰の剣に手を触れる。

 

(3、2、1……)

 

アイリンはごくりと唾を飲む。

 

バッ!!

 

アイリンがランタンを謁見の間に照らす。

ザナドは剣を抜き、広間に飛び込む!!

 

「誰だ!?」

 

玉座から男が立ち上がりながら叫ぶ。

 

「王……」

 

ザナドは呆気にとられながら、剣を腰に戻す。

 

「何やってんですかい……」

 

ザナドは灯りも付けずに玉座にいたシュンジに気の抜けた声をかける。

 

「申し訳ありません、王」

 

アイリンが非礼をわびる。

 

「いや、すまない……」

 

シュンジは二人に頭を下げる。

 

「灯りぐらい付けてくださいや……」

 

「任務、苦労である。二人とも」

 

二人は出ていった。

 

「……老いたかな、俺も」

 

シュンジは呟きながら再び椅子に座った。

 

「……」

 

シュンジは無言で思索を続けた。

 

 

 

月明かりのない、真夜中のリの国の機械の館。

無人の館の中に豪奢な装飾が施されたシュンジ王の愛機「アルダイン」の姿がある。

 

アの国のダンバインにリの国の量産機「アルダム」のパーツを加えて改良された機体である。

すでに旧式ではあるが、まだまだ現役で使用出来る機体である。

 

オン…

 

無人の機械の館に謎の呻き声が低く響く。

 

オン…

 

どこからであろうか。

 

オン…

 

それはシュンジ王の専用機「アルダイン」から聴こえてくるようであった。

 

オン…

 

いや、違う。

 

オン…

 

アルダインの足下、そこに曲がりくねった奇怪な形をしたオーラバトラー用の剣が置かれている。

バイストン・ウェルの天である「ワーラー・カーレン」の統治者「ジャコバ・アオン」から授かった「カ・オス」と呼ばれる剣である。

 

オン…

 

カ・オスの剣は漆黒の闇に包まれた無人の機械の館の中で、静かに低く呻き続けた。


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