聖戦士伝説 ~カ・オスの聖戦士~   作:早起き三文

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33話 和の為に策動するコモンの王たち(後編)

夏の陽射しが強いラース・ワウのドレイクの私室でドレイク達は会話を続ける。

 

「儂にはもはや昔の力は無い……」

 

「お父様……」

 

リムルがすっかり年老いた父の顔を見やる。

 

「ラウ、ナの連合の署名であります」

 

ニーはドレイクに蜜蝋で閉ざされた封書を差し出した。ドレイクは封を切り、中の手紙に目をやる。

 

「馴れ合いの大戦争をやれと……」

 

ドレイクは唸った。

 

「もう、この戦争は長すぎました……」

 

ニーがドレイクに告げる。黙ってニーの話を聞き続けるドレイク王。

 

「痛み分けの大戦争をあえて交わし、お互い消耗した所で和平を交わす」

 

ドレイクの目はニーの顔から離さない。

 

「それが、シーラ女王とフォイゾン王の提案であります」

 

しばらく黙ったいたドレイクはニーに話しかける。

 

「クのビショットは……」

 

「すでに話を通してあります」

 

「ビショットめ……」

 

「かの王はもともと平和志向であります」

 

ドレイクの苦笑にニーは笑って頷く。

 

「王同士の大いなる腹芸かよ……」

 

「お父様……」

 

リムルが必死の目で訴える。ドレイクはその目と真剣に向き合う。

 

「よかろう」

 

あっさりとドレイクは承諾した。

 

「ドレイク王……」

 

ニーの言葉にドレイクは真剣な表情をする。

 

「儂は年老いた……」

 

ドレイクは遠い目をして呟く。

 

「それに、すでにビショットに手を廻したとあれば、儂に勝ち目はない」

 

「お父様……」

 

リムルがドレイクの真意を探るような目を向ける。

 

「シーラ女王のごとき、苛烈な女を相手にして、儂は勝てる自信がない」

 

ドレイクは自嘲する。

 

「それに、あのフォイゾンが加わっては……」

 

「性豪であらせますからねえ……」

 

リムルが少し意地悪な顔をして、父をからかう。

 

「リムル……」

 

ニーは苦笑するしかない。

 

「ふふ……」

 

ドレイクは力なく笑みを浮かべた。

 

 

「くしゅん!!」

 

ナの国の女王である「シーラ・ラパーナ」は可愛い声のクシャミをした。

 

「シーラ様?」

 

侍従のマフメットが声をかける。

 

「かもうな」

 

シーラは傍らのレンに鼻紙を持ってくるように言った。

 

「悪を成す者が我の噂をしておるわ」

 

シーラの羽が微かに震える。

 

「ですから、夜遊びは控えるようにと……」

 

「我も楽しみが欲しいのだ」

 

シーラは少し怒ったような声を上げた。

 

「娘子の肌を撫でるのは気分が休まる」

 

シーラは妖艶な笑みを浮かべた。

 

「何ですと!!」

 

玉座の前に控えていた地上人である「フェイ・チェンカ」が驚きの声を上げる。

 

「女王が私と同じ志を持っておられたとは!!」

 

フェイは感動の声を上げた。

 

「フェイ・チェンカ!!」

 

マフメットが怒りの声をあげる。

 

「無礼であるよ!!」

 

「お前だって、女王の唇に乳房を吸われたんじゃないのかい!?」

 

フェイが笑い声を上げる。

 

「やらいでか!!」

 

シーラが怒りの声を上げ、羽を激しく羽ばたかせる。

強風が玉座の間を駆け回る。

 

「うおっ!?」

 

可哀想なのはアレンである。

強風の直撃をくらい、一人だけ壁に叩きつけられる。

 

「我の昔の女を馬鹿にするでない!!」

 

「本当だったのか!?」

 

「主の男色と一緒にするでないわ!!」

 

「広き心で見れば同じでありましょう!!」

 

「悪しき地上人め!!」

 

シーラが怒気を含んだ声をあげる。

 

「シーラ様!! お止めください!!」

 

マフメットが君主を慌てて止める。

 

「レン……」

 

吹き飛ばされたアレンの元へやってきたレンにアレンは声をかける。

 

「何だ……?」

 

「神は俺に試練を与えているのか……?」

 

「すまん、アレン。俺たちコモンには神と言う概念が理解できないんだ」

 

「そう言うことじゃねえだろ……」

 

アレンは力なくうなだれた。

 

 

 

「疲れたよ……」

 

ボソリとドレイクは言った。

 

「他の者にアの国を託すと……?」

 

ニーはドレイクに訊ねる。

 

「ニーに?」

 

「まさかに……」

 

ドレイクは娘の言葉を遮った。

 

「さすがにそこまで寛容にはなれんよ……」

 

「では、誰に……」

 

「いるではないか」

 

ドレイクは壁に飾られている地図の一点を指した。

 

「リの国……」

 

「似ていると思わないか?」

 

ドレイクはリムルに訊ねる。

 

「アルドラント兄様……」

 

リムルは昔に病でこの世を去った兄の名前を言った。

無論、ドレイクの息子でもある。

 

「しかし、儂にはシュンジに負い目がある」

 

ドレイクの顔が翳った。

 

「リの先王ゴード王の事であるますか?」

 

「知っておったか?」

 

「父ロムンから……」

 

「で、あるか」

 

ドレイクは目を閉じ唸った。

 

「なにゆえ、ゴード王を弑いたのです?」

 

リムルが小さい声で訊ねる。

 

「決まっておろうに……」

 

ドレイクの目は開かれない。

 

「かの王が父上に合力することはないと……」

 

「思ったさ……」

 

ニーの言葉にもドレイクの目は閉じられたままである。

 

「国を譲っても、シュンジとリの国が儂を許してくれるかどうか、不安である」

 

「私とドレイク王が少しでも解り合えたではありませんか」

 

「そうであったな」

 

ニーの言葉にドレイクは僅かに微笑む。

 

「シュンジ王は賢明であると思いますわ、お父様」

 

リムルがドレイクの手を握る。

 

「リムル……」

 

ドレイクの目に泪が浮かぶ。

 

「私もお兄様が甦るの嬉しゅうございます」

 

リムルは花のような笑顔を浮かべる。

 

「リムル……!!」

 

ドレイクはついに嗚咽し始めた。

 

「お母様やニー、シュンジ王と一緒に、皆で仲良くすごしましょう、お父様……!!」

 

ドレイクは娘と義理の息子の前で泣いた。

 

「オォ……!! オオゥ……オゥ……!!」

 

かつての野心溢れていた覇王ドレイクは一人の老人となり、いつまでもラース・ワウで泣き続けた。

 

 

 

オン……

 

「ん?」

 

リの国の機械の館の主任であるボウは何か声を聴いた気がした。

 

「何かいったか?」

 

「いや、別に……」

 

横にいた技師が怪訝そうな顔をする。

 

「気のせいか……」

 

ボウは再び仕事へ戻った。

 

 

オン…

 

 


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