「虎穴に入ってくるとはな……」
「一応、義父上であらせますば……」
「申したな……」
夏のラース・ワウの一室、ドレイクの私室にドレイクの娘「リムル・ルフト」とその夫である「ニー・ギブン」の姿があった。
「ロムンの奴は元気か?」
「父は悠々自適の生活でありますよ……」
ニーは苦笑して答える。
「ふふ……」
ドレイクは穏やかな顔で笑う。
「老いましたな……」
リムルが父の顔を覗き込む。
「わかるか?」
「以前の覇気がありません」
きっぱりとリムルは告げる。
「ふん……」
その言葉にドレイクは悲しげに顔をしかめる。
「フラオン王は?」
「軟禁した離宮でロムンと同じくのんびりと暮らしておる」
「生かしておくおつもりで?」
「殺しても何の益もない」
ニーにはっきりと言うドレイク。
「ただ、王の器ではなかっただけで、善良な男であったよ」
「ナの聖戦士はフラオンの事をアトと評しておりました」
「アト?」
「チャイナと言う国から来たその地上人によれば、暗愚であるが善良な男の事をそう言うようです」
「それよ……」
ドレイクはつまらなそうに呟いた。
「ドレイク王」
ニーはドレイクの顔を正面から見やる。
「何だ?」
ドレイクは義理の息子に聞き返す。
「戦乱を巻き起こした真の理由は何ですか」
ニーのその問いにドレイクは真剣な顔で答える。
「ナの国よ……」
ドレイクは遠い目をして答えた。
「かの国の内情を知りたかったのだ」
「ナの沈黙を破りたかったと?」
ドレイクは頷く。
「はたして、コモンの国なのか、はたまた地上人、ガロウ・ランの国なのか」
「解りましたか?」
リムルは訊ねる。それにドレイクは頷く。
「普通の国であったよ」
ドレイクはなげやりに言い放つ。
「私もドレイク王と敵対するまでは、かの国が不気味でありました」
ニーはドレイクに同意する。
「しかし、その内実は」
ニーは言葉を切り、一気に言う。
「ただ単に、機械の文明が他国よりも進んでいたため、無用な混乱を怖れ、鎖国していただけでありましたよ」
ニーはドレイクの顔を見る。ドレイクは何も答えない。
「ナの国には地上人が昔から?」
「降りていたようですな……」
ラース・ワウの間に暫しの沈黙が訪れる。
「シーラ女王な」
ドレイクはナの国の女王の名を言った。
「苛烈な女王だと聞いているが」
ドレイクは少し茶目っ気を込めて言った。
「そのようであります」
リムルは可笑しそうに笑う。
「ルーザと同じか」
ドレイクは元妻の顔を思い出して呟いた。
「どうしていることやら」
リムルは肩を竦めながらそう言った。
「ぶえっくしょん!!」
辺境の小国であるハワの国の女王「ルーザ・ホルン」は大きなクシャミをした。
「ルーザ様?」
家臣がルーザを見やる。
「かもうな」
ルーザは鼻をかみながら、しかめ面をした。
「全く」
ルーザは書類に目を通しながら呟く。
「あの禿が噂でもしておるのか?」
ルーザは大国アの君主である元夫、ドレイクの顔を思い浮かべた。
「それとも、リムルか?」
ドレイクの政敵の息子の元へ駆け落ちした自分の娘の顔を思い浮かべながらルーザは呟く。
「わらわに似て、勝手な娘よ」
ルーザは苦笑しながら、家臣に顔を向ける。
「不作であった村のリストアップは出来たか?」
「はっ!!」
ルーザはその書類に目をやる。
「今月のわらわの宝石漁りは控えるか……」
ルーザは再び部下へ目をやる。
「わらわの私品の売却リストである」
部下へ羊皮紙を渡す。
「こんなに……!!」
「女王の勤めであるよ」
「かなりの村々が救われます」
部下はルーザに敬礼をする。
「わらわの座右の銘を言うがよい」
「民は肥やしてから搾り取れ」
「で、ある」
ルーザは微笑みながら書類仕事を再開した。