聖戦士伝説 ~カ・オスの聖戦士~   作:早起き三文

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31話 空の膿

クの国の山脈地帯である。

山々を切り裂いたその谷間にクの国の超弩級輸送艦「ゲア・ガリング」の姿が見える。

 

 

 

「強獣討伐、終了しました」

 

クの国の女性パイロット「トモヨ・アッシュ」が主君であるビショットに報告する。

 

「ご苦労……」

 

ビショットは小さな花を咲かせている小鉢をいじりながら、トモヨを労う。

 

「ゲア・ガリングは?」

 

「被害はありませんよ」

 

トモヨとビショットは遠目にゲア・ガリングの威容を目にとめながら、溜め息をつく。

 

「トッドは?」

 

「強獣退治で新鋭のオーラバトラーであるライネックの良いテストが出来たと喜んでいました」

 

「マハカーラな?」

 

「トッドは相当気に入っているようですなぁ」

 

トモヨはニヤニヤと笑みを浮かべながらビショットに報告する。

 

「シュンジ王よう……」

 

ビショットはお気に入りのリの国の国王の名前を呼んだ。

 

「俺達クの国が作ったタンギーを踏み台にするんじゃねえよ……!!」

 

ビショットは笑いながらタバコに火を付けた。

 

「どう思う? リのマハカーラは?」

 

「スピードが化け物でありますな……」

 

トモヨは率直な感想を言った。ビショットはその言葉に同意する。

 

「だが、俺は更に上をいったよ……」

 

「ガラバですな?」

 

「さすがに量産は出来んがな」

 

ビショットはタバコの煙をくゆらせながら微笑んだ。

 

「トッドにくれてやる」

 

「奴は喜びますなぁ、ハッハッ……」

 

トモヨは愉快そうに声を上げた。

 

 

「兄貴?」

 

トモヨが強獣の肉をがっつきながら聞き返す。

 

「そうだよ、嫌な奴だ」

 

トッドも骨付き肉を食べながら答える。

 

「会いたいか?」

 

ビショットは食後の一服をしながら笑みを浮かべて訊ねる。

 

「もう、会っているよ」

 

「んん……?」

 

トモヨが太い眉を潜める。

 

「俺の名前はトッド・ギネス」

 

トッドも食後の一服をしながら苦々しげに呟く。

 

「親父の姓ならば、トッド・ブレディになる」

 

「ブッ!!」

 

トモヨが口に入っていた食べ物を吹き出す。

 

「無礼であるよ!!」

 

その食べ物をもろに顔に浴びたビショットがトモヨを怒鳴る。

 

「申し訳ありません! 王!!」

 

さすがにトモヨは地面に跳び移って自分の君主に土下座をする。

 

「ふん……」

 

トモヨを睨みながら、ビショットは顔を洗いに小川へ脚をはこんだ。

 

「ナの聖戦士であるアレン・ブレティがおめえの兄貴か?」

 

「そうだよ……」

 

「ふん……」

 

「俺とお袋を捨てた、薄情な兄貴さ」

 

「……」

 

「クリスチャンのくせにな……」

 

黙って聞いていたトモヨもタバコを取り出した。

そのタバコに火を付けてやるトッド。

 

「全く……」

 

「んだよ……」

 

タバコをくわえながら、トモヨがトッドの顔をジロジロと見ながら呟く。

 

「おめえがもうちょっと顔と背が高ければ良い男なんだがなあ……」

 

「言ってろよ……」

 

「あと、マザコンがなあ……」

 

「悪いかよ……」

 

「いんや……」

 

トモヨは微笑みながら口を開く。

 

「気に入ってるよ、トッド」

 

「ん……」

 

トッドは手にしたタバコをもみ消す。

 

「トッド」

 

トモヨもタバコの火を消す。

 

「何だ?」

 

「親兄弟とは仲良くするもんだよ……」

 

「だといいけどなあ……」

 

トッドは寂しい笑いを浮かべる。

 

「お袋…… アレン……」

 

トモヨにはトッドは少し悲しい目をしたように。

 

 

 

「全く、あの生意気な女め」

 

ブツブツとビショットが呟く。

 

「俺を誰だと思っているのだ」

 

ビショットが小川で顔を洗っていると、彼の懐から二枚の封書がこぼれ落ちた。

 

「おっとっと……!!」

 

ビショットは慌ててその封書を拾い上げた。

 

「あぶね……」

 

ビショットはその封書の一枚を取りだし、中身を確かめた。

 

「フン……」

 

ナの国の女王である「シーラ・ラパーナ」そして、ラウの国の老王である「フォイゾン・ゴウ」からの連名の手紙である。

 

「……」

 

もう一枚の封書はアの国の君主「ドレイク・ルフト」からの手紙であった。ビショットはその二枚の封書を見比べた。

 

「まったくよお……」

 

ビショットは苦笑する。

 

「だったら、最初から戦争なんかするんじゃねえよ…… バカどもがよぉ……」

 

クの国の若き国王「ビショット・ハッタ」は優しく、穏やかに笑った。

 

 

「空の膿?」

 

トッドがその言葉に反応する。

 

「うむ」

 

ビショットがクの王城のバルコニーから夜の空を見上げて呟く。

 

「最近、よく夢に見る」

 

「予知でありますか?」

 

「さあ……」

 

ビショットは空を見上げながらトッドに返す。

 

「それとも千里眼?」

 

「いずれとも……」

 

「王は勘は?」

 

「相当敏感な方だとは思っている」

 

ビショットは溜め息をついたようだ。

 

「俺たちが地上へ出たときも、出撃前に王は悪い予感がするとドレイクに言ってたもんな……」

 

トッドは何年か前の出来事を思い出した。

 

「おセンチでありますなあ」

 

傍らのトモヨがそうビショットをからかう。

 

「言うなよ……」

 

ビショットはタバコをくわえながら、再び天を見上げる。

 

「それがこっから見えるのか?」

 

「うむ……」

 

ビショットの目は天から離れない。

 

「天の膿ねえ……」

 

トッドはその言葉を理解しきれずにクの王城「ダンデライオン」のバルコニーから立ち去っていった。


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