ナの天空城「グラン・ガラン」に急報が飛び込む。
「ガロウ・ラン?」
「アポクリプスの街でございます」
またしてもガロウ・ランが街を襲っていると言うのだ。しかも同じ街を。
「前の事があったからでしょう。住民の避難が上手くいきました」
「手柄である」
シーラは片肘をつきながら考え込む。羽が小刻みに揺れる。
「……」
シーラは少し考えた後、玉座を立つ。
「シーラ様?」
マフメットが怪訝に尋ねる。
「直にきゃつらを見る」
「……」
マフメットは何も言葉を発しない。
「近衛と聖戦士達を」
「過剰戦力では?」
「胸騒ぎがする」
シーラはそう言い、羽を拡げる。
「お気を付けて……」
「うむ」
シーラは低空飛行でグラン・ガランの廊下を駆けた。
丘から見える街は煙と炎が上がっていた。
「住民は?」
「ほぼすべての者が避難を完了しております」
近衛隊隊長であるレンにナの兵が報告をする。
「シーラ様」
防護用の革鎧である「ディナ」に身を包んだシーラにレンは声をかける。
「我がかかる」
シーラの羽が勢いよく拡がる。
ゆうに小さな館の大きさほどの羽、いや翼が羽ばたく。
「ナールヘッグの試験運転を頼む」
「ハッ!!」
レンが力強く頷く。
「俺達も合力しなくては」
フェイのセキトゥハが稼働音を響かせながら空に舞う。
「良いところを見せてレンをモノにする気か?」
アレンのスーパースター、地上の戦闘機の改修オーラマシンがホバリングを始める。
「伴侶を無くした相手の弱味につけこむような真似ができるかよ……」
「良い答えだ……」
タバコを燻らせながら、アレンはフェイの答えに満足した。
アポクリプスの街を荒らしてゆくガロウ・ラン。
遠目からも大小様々な強獣に乗っているのが分かる。
ナの討伐隊はそのガロウ・ラン達を次々と屠っていく。
「シャッツ!!」
シーラの発光する翼がガロウ・ランの駆る強獣を次々と切り裂いていく。それに続き、ナの部隊が突入してゆく。
ガッ!! ガッ!!
次々とガロウ・ランを駆逐してゆくナの討伐隊。
新型のオーラバトラーを駆るレンはそれを見ながら呟く。
「全く俺の必要が無い……」
もしかするとナのオーラマシン1機、または女王だけでもガロウ・ランは駆逐できるかもしれない。
そのくらい彼我の戦闘力の差は圧倒的である。
それでもレンは周囲に気を配る。
「ん……!?」
レンはある物に目を止めた。
「オーラバトラーだと……?」
黒いゲドである。旧式極まりない初期のオーラバトラー。
トツッ!! トツッ!!
そのゲドは両手を広げてレンのナールヘッグへ近づいてくる。見ればコンバーターがない。剣もなく、非武装なようだ。
「オーラバトラーを駆るガロウ・ラン!?」
レンは強獣を駆るガロウ・ランの男を切り捨てながら、そのオーラバトラーに接近していく。
「推参な!!」
レンのナールヘッグがそのゲドに斬りかかる。
ギンッ!!
「何!?」
レンの剣が装甲に弾かれる。
「旧式の装甲に!?」
レンは距離をとり、旋回して再び機会を狙う。
「楽しきや!! 楽しきや!!」
その黒いゲドから楽しげな女の声がする。
「ガロウ・ランめ!!」
レンの機体の脇からフェイのセキトゥハが接近し火線を集中させる。ドドゥ!! ドゥ!!
「醜きや!! 醜きや!!」
乾いた音を立てて、やはり装甲に弾かれる。
またしても女の声。
「なんなんだよ!?」
フェイが毒づく。そのフェイに向けてゲドが近づく。
トツッ!! トツッ!!
あまりに遅いその動きにナの戦士達は余計に神経を苛立たせる。
「ちぉ!!」
上空のガロウ・ランを屠っていたアレンのウィングキャリバー「スーパースター」からオーラキャノンの光線が放たれる。
ドウ!!
その光線はゲドの脚に命中し、ガロウ・ランのゲドは転倒する。
「悔しきや!!」
女の毒づく声が聴こえる。
「捕獲するか!?」
レンが叫ぶ。
「やってみるよ、レン君!!」
セキトゥハからワイヤーが飛ぶ。
黒いゲドの脚に絡み付く。
ジィン!!
ゲドの脚に触れたワイヤーが音を立てて切れる。
「だめかね!?」
「仕方がない」
アレンから再びオーラ・レーザーキャノンが奔る。
「ナックル・ビーであるよ!!」
黒いゲドのガロウ・ランが叫ぶ。
「面妖な……」
フェイが呻く。
「ナックル・ビーであるよ!!」
再び女が叫ぶ。その時。
「何だ?!」
突如として、そのゲドの周囲に黒いオーラバトラーの群れが顕れた。
ゲド、ダーナ・オシー、ドラムロ、アルダム……
黒い旧型の群れが一斉に女の声で叫ぶ。
「デビ・フェラリオであるよ!!」
一斉に叫ぶ。
「デビ・フェラリオであるよ!!」
叫び続ける。
「亡者か……!!」
レンは震えながらも機体を接近させようとする。
シャラア……
彼方より飛来してきたシーラがその旧型の群れに接近する。
「シーラ様!!」
レンがナールヘッグをシーラの盾にしようとコンバーターを噴かす。
「羨ましきや!! 羨ましきや!!」
黒いオーラバトラー達がシーラの翼に手を伸ばす。
その瞬間。
ガガガガガッッ!!
翼に触れた旧型の群れが、順に腕から音を立てて砂と変化していく。
「不遜なりや!! 不遜なりや!!」
それきり女達の声は聞こえなくなった。
「どう思うか?」
戦闘服「ディナ」の血飛沫や汚れをそのままに、シーラは皆に訪ねる。
「……」
答えられる者がいる筈がない。
シーラの羽が鈍く光る。
「……であるな」
沈黙が何よりの答えだと理解した女王シーラは討伐隊に次々と指示を出す。
「……」
シーラも、聖戦士も、そしてレン・ブラスも無言のまま、街の復興作業を続けていた。