聖戦士伝説 ~カ・オスの聖戦士~   作:早起き三文

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3話 密約

パラカッ…… パラカッ……

 

強く照りつける太陽の下、騎馬の足音が街道に響く。騎馬隊の先頭を行くのはシュンジ・イザワ。

 

「シュンジ王、まもなくアの国の領内です」

 

一つ後ろで馬を駆るザン・ブラス騎士団長が声をかける。シュンジは外套を払いのけ、額の汗を拭く。

 

「王もなかなか風格がでてきましたな」

 

ザン団長からかうように言う。

 

「そりゃあ、変わるだろう…… 王になってもう三年になる……」

 

シュンジはガロウ・ランとの戦いの記憶を振り返りながら言葉を返す。

 

先代のリの国国王「ゴード・トルール」が死去してから三年、新たにリの国の国王になったシュンジは日々の政務に専念していた。

 

「このように無防備な形で旅をできるとは、以前には考えられない事であります」

 

リの国機械化部隊長のナラシがそう笑顔で呟く。

 

「確かにな、もうガロウ・ランの影も形も見えない」

 

シュンジは嬉しそうに微笑む。それにつられてフィナも笑顔を浮かべる。

 

「ドレイクさんは今回はどんな用事なんでしょうね」

 

フィナが小型の飛行生物、トンボのような生き物に乗りながらそう訪ねる。フィナも特別製の旅装束姿だ。

 

「さあなあ、何でも王である俺直々に来てほしいとの事だったな」

 

シュンジは水筒からジュースを飲みながら話す。

 

(王といわれても違和感感じなくなるとはな)

 

シュンジは我ながらおかしな事だと思った。バイストン・ウェルに召喚されなかったら、今頃は大学生をやっているか就職をしていたはずだ。

 

「単なる、パーティーへの招待かもしれませんよ」

 

リの国の騎士見習いであるエフアがそう軽口を叩く。

 

「エフア、口が過ぎるぞ」

 

リの国兵士隊隊長のラージャがたしなめる。

 

「はっ! 申し訳ありません!」

 

エフアがそう大声で言う。

 

もっとも、彼女のその言葉は単なる形式だろう。彼女の礼儀知らずは誰もが知っていることだ。

 

「でも、本当にそうなら」

 

シュンジは乾パンを噛みながら言う。

 

「リの国では食べれない物をたらふく食べていこう。アの国は大国、料理も旨いだろう。もう保存食は食べ飽きた!」

 

シュンジのその言葉にリの国の兵達からドッっと笑い声が聞こえた―――

 

 

 

 

ラース・ワウの宴は華やかに行われた。楽団の奏でる音楽と共に男女が踊り回る。

 

リの国一の美男と有名なナラシと共にアの国の女性騎士「ガラリア・ニャムヒー」が優雅に踊る。

 

「あのように着飾っていればあの女も可愛いもんなんです、がね?」

 

その二人を見ていたシュンジをからかうように正装に身を包んだバーン・バニングスが笑う。昔、ガロウ・ランと戦っていたときの、戦場では兵たちを怒鳴り付け、平気で蹴り飛ばしていたガラリアの姿を見ているシュンジはその言葉に苦笑するしかなかった。

 

「バーン殿とて、まるで一国の王太子のような風格すらありますぞ」

 

バーンの整髪料で整った総髪や気品漂う面影を見ながらシュンジは笑う。バーンは少し照れたようであった。苦笑いをしている。

 

「シュンジ王、楽しんでいただけてるかね?」

 

領主ドレイクがにこやかにシュンジに声をかける。バーンがドレイクに一礼して席をはずす。

 

「ええ、本当に今日はありがとうございます、ドレイク殿」

 

シュンジは上等の鹿肉を口に頬張りながら、ドレイクに話す。

 

「さすが、大国アの国。料理も実に素晴らしい。我ながらリの国の王として国を富ませられない自分は恥ずかしい限りです」

 

その言葉にドレイクは大笑いしながら

 

「はっはっ…… 我々とて毎日このような食事はできませぬ。普段は黒パンと野菜スープのワンパターンでありますよ」

 

ドレイクは笑顔でそう言い放ち、言葉を続けた。

 

「……しかし、アの国の王、フラオン・エルフは毎日このような料理を食べているのですよ、シュンジ王……」

 

シュンジはそう話したときのドレイクの鋭い目を見ながら、じっとドレイクの顔を見た。

 

「……シュンジ王、少し話しませんかな」

 

 

 

 

「……では、我らにアの国の国王を討つための手助けをせよ、と?」

 

「左様」

 

ドレイクは実に率直に自身の考えを話した。

 

「フラオン・エルフはまさに無能。ガロウ・ランの侵略時にも座して動かず怠惰を貪り、贅を極める。コモン全土を脅かしたガロウ・ランを討伐することができたのはひとえにシュンジ殿や我ら地方領主の尽力のなすわざであった」

 

ドレイクは薄く水で唇を濡らしながら語る。

 

「すでにクの国、ビショット殿とは協力を確約しておる。かの国もガロウ・ランの侵略に苦しめられた国であった」

 

ドレイクはシュンジを見る目を離さない。

 

(俺達は、いやリの国はドレイク殿に恩義がある)

 

シュンジは心のなかでそう呟く。

 

シュンジはこういう危機的状況で協力しあったという「絆」に弱い。

 

それはシュンジが幼い頃から両親を知らず、他人の家で過ごしてきた影響だろうか。必ずしも不幸ではない幼年期の境遇ではあったが一般的な家庭というわけではない。寄る辺の無い彼にとって「辛い時に助けられた恩」というものは神聖な物であった。

 

(厄介になれる人間かもしれないな、ドレイク殿は)

 

そして、その子供の頃からの環境は彼に「冷徹な現実感覚」を備え付けられるのに充分であった。その現実感覚から判断するに、ドレイクと事を構えるのは極めて危険だとも判断した。

 

(ドレイクは力あるもの……)

 

シュンジは決断した。

 

「よろしく、ドレイク殿」

 

「ウゥム……!!」

 

その二つの要素からシュンジ・イザワ王はこのドレイクの下克上の申し出に承諾した。握手しあう二人の男達。

 

 

 

 

リの国の王城「トルール」にシュンジ達が帰還したのはそれから二週間後であった。

 

「まあ…… 仕方ありませんな」

 

リの国遊撃部隊長であるバラフがそう呟く。

 

リの国の内政全般を司るオウエンはじっと沈黙している。彼に言わせれば、アの国のフラオン・エルフが徴収している「ガロウ・ラン掃討税」をリの国も取られている事は大いに不満であったが、どうもドレイクを信用出来ないとの事である。

 

「シュンジ王はゴード王の意思を不意にするおつもりか!?」

 

最初から激昂していたのはザン・ブラス騎士団長の息子であるレン・ブラスであった。

 

正式に騎士叙勲したあとの彼のオーラバトラーを駆る腕前は素晴らしいものがあり、場合によってはシュンジすら上回るものがあった。

そのため、彼はオーラマシン実技開拓部隊といういわば精鋭部隊に配属されていた。

 

彼にとっては一国の王に反逆するのは受け入れられない事なのであろう。

ドレイクとの密約をリの国の重鎮たちに説明したときに真っ向から反対し、最後には会議場から足音を高く響かせながら出ていってしまった。

 

「あいつは潔癖症のきらいがあるからなあ……」

 

父親のザンがそう呟いたのにシュンジは苦い顔をした。

 

 

 

 

「シュンジ王、ケムの国からの使者が来ております」

 

会議が終わった後、内務大臣オウエンがシュンジにそうなら声をかけた。

 

「くれぐれもドレイク殿との密約の事は内密に……」

 

シュンジは黙って頷き、ケムの国の使者と会うために会議場を出た。

 

(こういう事が王としての努め…… まあ、腹芸というやつなのかもしれないな)

 

シュンジは正装に身を整えながら、一人そう思った―――


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