聖戦士伝説 ~カ・オスの聖戦士~   作:早起き三文

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28話 フェラリオ(後編)

「ナックル・ビー?」

 

「俺とマーベル、ジャバを呼んだフェラリオだよ」

 

パシャマに身を包んだショットはコーヒーを飲みながら語る。

 

「寝れなくなるぞ?」

 

「まだ、仕事がある」

 

「出張か?」

 

フィナが笑う

 

「そうだよ?」

 

ショットは頷く。

 

「俺を召喚したフェラリオな」

 

「ん……」

 

シュンジは身体に合わないパシャマを気にしながら首をまげる。

 

「フェラリオを水の牢獄へ閉じ込める、逃げたくなったフェラリオは地上人に助けを求める」

 

「酷いな……」

 

可愛いパシャマのエレが呻く

 

「ああ……」

 

ショットは書類に目を透しながら答える。

 

「ドレイクも後味は悪かったようだ、これ一回でフェラリオを使った地上人の召喚は終わりだ」

 

ショットは書類から目を放さない。

 

「マーベルも裏切った事だし、コストパフォーマンスが悪いとも思ったんだろう」

 

「じゃあ、ショウとかはどうやって?」

 

「知らん」

 

ショットはいつもの常套句を使い、言葉を遮った。

 

「フェラリオの使用回数は三回が限度らしい。力を使い果たしたフェラリオは泡となって消える」

 

ショットはあえて道具のような言い方をしたらしい。

 

「消えたあとはどこへ行く?」

 

「地の世界、ポップ・レッス」

 

フィナの羽が震える。

 

 

「ではトカマク、元気で」

 

「世話になったな、シュンジ王」

 

リの国の地上人であるトカマクがシュンジと固く握手をする。

 

「良い趣味になったな」

 

トカマクはシュンジの足首まで届く豪奢な赤いマントを指差しながら笑う。

 

「昔のプロイセンかい?」

 

「ロシアには詳しくない」

 

貫禄がついたシュンジ王はそう笑う。

 

「気を付けろよ、エフア」

 

「何かあったら、すぐにお知らせします」

 

リの国の女性騎士であったエフアが頭を下げる。

 

「スパイを使うとはね」

 

ショットが感心したように言う。

 

「向こうが協力してほしいと言って来たんだぞ」

 

トカマクが微笑む。

 

「式は?」

 

「挙げた」

 

30近くなったトカマクは妻の顔を見ながら頷く。

シュンジはエフアを見ながら訊く。

 

「まだ騎士をやるか?」

 

「しばらくは」

 

シュンジはトカマクの妻であるエフアの答えを聞きながら話す。

 

「不安はあるか?」

 

「愛する地上人の夫があります」

 

栗色の髪をした古くからのリの騎士であったエフアは頬を赤らめる。

 

「良いですね」

 

エレが羨ましそうに二人の夫婦を見る。

 

「元気で」

 

シュンジは二人と固く握手をする。

 

「永遠の繁栄を!! 偉大なるリの聖戦士王、シュンジ・イザワ!!」

 

トカマクの敬礼と共にショットの一行は馬車に乗り、ケムの国へと向かった。

 

「シュンジさん」

 

「何だよ?」

 

赤き王者シュンジは肩のフィナに聞き返す。

 

「もう何年経ちますか?」

 

「10年くらいかな……」

 

「長いですね」

 

「長いな……」

 

もうすぐ30の歳にもなろうとする王者シュンジはそう呟いた。

 

 

 

「あんな森ばかりの国に何があるんだ?」

 

「探したい物がある」

 

出立の前日の夜。

訊ねるシュンジにショットが言い放つ。

 

「何を探すんだ」

 

テーブルの上には何本もの空になった酒瓶が転がっている。

どんちゃん騒ぎをして眠っているフィナとエレを優しい目で見ながら、シュンジはショットと酒を飲みかわしている。

 

暫し黙っていたショットは深く昏い目をしながらボソリと言った。

 

「デーモ」

 

リの国の王城「トルール」の一室の窓が風に鳴った。


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